結論
サークルは、米ドルと等価に交換できるデジタル通貨USDCを発行し、その裏付け資産から利息を得る会社である。筆者の結論は割高だ。世界でデジタルドルの利用が広がる可能性は大きいが、発行残高が増えても利益をすべて自分のものにできない。現在の時価総額には、発行残高の急成長と利益率の改善が長く続く期待が相当入っている。
2025年の売上は27.5億ドルだったが、営業損益は赤字だった。上場に伴う一時的な株式報酬が重く、継続的な収益力を見誤りやすい。2026年4〜6月期には売上7.01億ドル、GAAP純利益0.48億ドルとなった。しかしUSDC残高は前年同期比19%増でも、準備金利回りの低下により売上成長は7%にとどまった。2026年10月下旬のUSDC残高も約720億ドルで、2025年末の753億ドルを下回っている。
強みは、規制対応と銀行接続、USDCが数多くの金融サービスに組み込まれていることだ。2026年7月には米国の信託銀行設立の最終承認を得て、9月には独自ブロックチェーンArcを正式稼働させた。AIによる自動決済や国際送金が増えれば、利用の裾野は大きく広がる。ただし競合のテザーは残高で大幅に先行し、コインベースなど流通を担う企業は高い分配金を受け取る。
10年後の中立では、USDCの平均残高が2025年の購買力で約4倍となり、GAAP純利益は27億ドル程度に育つ。それでも新しい発行体との競争、販売手数料、株式報酬を考慮すると、現在の値段を正当化するには足りない。5つの筋書きの現在価値は約129億ドルで、台帳時価総額208億ドルより約38%低い。デジタルドルの将来性と、サークル株主が受け取れる利益は分けて考えるべきである。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、USDCが10年後も必要かという問いには、おそらく必要だと答える。世界の商取引でドルが使われ続ける限り、インターネット上で即座に移せるドルには用途がある。銀行営業日に縛られない資金移動は明らかに便利であり、規制対応済みの通貨には信用の価値もある。
しかし、必要な商品を発行している会社が、その市場の利益を独占するとは限らない。現状のサークルは、準備金運用で得た収益の大きな部分を流通先に渡している。コインベースへの依存は、顧客を獲得する力の一部が会社の外にあることを示す。技術が優れていても販売経路に強い交渉力を握られれば、増分の投下資本利益率は期待ほど高くならない。
オーナー利益を見るうえでは、調整後利益よりGAAP純利益を重視する。株式報酬は現金支出が伴わない時期もあるが、既存株主の持ち分を薄める。さらに準備資産はUSDC保有者のための資金であり、株主に還元できる現金ではない。株主に属する現金、維持に必要な開発投資、規制対応資本を分けて考えなければならない。
長期で見れば、発行残高の拡大に必要な追加設備は少ない。企業や銀行との接続が深まり、販売手数料を抑えられれば、増分ROEは資本コストを超える可能性がある。ただし実際にそうなるまでの不確実性は大きい。
筆者が重視するのは安全域である。サークルには魅力的な将来があるが、今の値段では、競争に勝ったうえで流通先から十分な利益を取り戻す必要がある。事業の可能性だけを理由に高い価格を払う対象ではない。
何で稼ぐ会社か
収益の中心はUSDCとEURCの準備金である。顧客がドルを預けると、サークルは同額のUSDCを発行する。預かった資金は現金や短期米国債などで保全され、その運用益が会社の売上になる。2025年の準備金収益は約26.37億ドルで、全社売上の約96%を占めた。平均USDC残高は648.7億ドル、準備金利回りは約4.1%だった。
ただし、準備金収益のすべてがサークルの利益ではない。コインベースやバイナンスなどはUSDCを顧客に届ける代わりに、運用益の大きな部分を受け取る。2025年の販売・取引関連費用は約16.64億ドルだった。2026年4〜6月期には売上7.01億ドルに対して関連費用が4.12億ドルあり、そのうちコインベース向けだけで約3.25億ドルに達した。利用者が増えても、販売経路の持ち主の取り分が大きければ株主利益は薄い。
第二の事業は、企業向けの導入・保守、API接続、利用ライセンス、トークン化基金USYCの管理などである。2025年のサブスクリプション・サービス収益は約0.85億ドルだった。第三はUSDCの償還やブロックチェーン間移転、決済処理などの取引収益で、その他を含め約0.25億ドルだった。いずれもまだ準備金運用に比べれば小さい。
将来の成長源として、Circle Payments Network、独自チェーンArc、StableFX、AIエージェント向けの決済機能がある。2026年6月末時点でCPNには175の金融機関が参加し、直近の処理額を年率換算すると147億ドルだった。Arcも9月に100を超える参加組織とともに公開稼働した。しかし取扱高がそのまま売上になるわけではなく、どれだけの手数料を継続的に徴収できるかはまだ実証途中である。
この会社はビザやマスターカードのようなカードブランドでも、銀行のような貸出主体でもない。現状は、規制されたデジタルドルの発行と、その流通に必要な金融インフラを組み合わせた事業である。成長の主な決定要因はUSDC平均残高、準備金利回り、流通先への分配率の3つである。
優良さと弱いところ
サークルの堀、つまり競合が簡単にはまねできない強みは、規制対応と信用にある。金融機関が大きな資金を移すには、償還の確実性、準備資産の透明性、資金洗浄対策、監査、銀行との接続が必要になる。USDCはこうした機能を長年整えてきた。2026年の連邦信託銀行設立承認は、機関投資家に選ばれるうえで実際の優位性になる。
ネットワーク効果もある。USDCを使える取引所、ウォレット、銀行、決済会社、ブロックチェーンが増えるほど利用価値は高まる。2026年6月末のUSDC保有ウォレットは、10ドル超という会社の定義で約700万件だった。ただしウォレット数は利用者数と同じではない。発行体を乗り換える際に銀行接続や業務システムの変更は必要でも、USDTや別のドル建て通貨への交換自体は容易である。
価格を決める力は弱い。準備金利回りは市場金利に左右され、流通の対価もコインベースなどとの契約で決まる。2026年4〜6月期の準備金収益は前年同期比5%増にとどまり、残高拡大の多くが利回り低下で相殺された。コインベースへの分配金は高く、サークルが独占的に金融インフラの通行料を取る姿にはまだなっていない。
資本効率は将来改善しうる。追加のUSDC発行に大規模な工場は要らず、発行残高が数倍になっても技術基盤や法令対応費用が同じ割合で増えるとは限らない。ただし準備金そのものは顧客への返還債務と対応し、自由に再投資できる株主資本ではない。利益を積み上げて規制対応資本を確保し、株式報酬による希薄化も抑えた場合に初めて、高い増分ROEが株主の利益になる。
総合すると、規制と接続網に一定の堀はあるが、ビザのような強い堀と認定するには早い。銀行、決済会社、取引所が自ら発行する通貨にも顧客が流れるため、10年先の独占的地位は保証されない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
ステーブルコイン市場は、暗号資産取引の資金移動から、国際送金、法人決済、証券のトークン化へ用途を広げている。2026年10月下旬の市場全体の残高は約2990億ドルで、USDTが約1820億ドル、USDCが約710億ドルを占めた。会社が定義する公開証明付きのドル建て法定通貨担保型市場では、2026年6月末のUSDCシェアは27%だった。市場全体を分母にすると10月下旬のシェアは24%前後となる。分母の違いには注意が必要だが、USDCが首位ではないことは明確である。
最大の競合はテザーのUSDTである。取引所や新興国の送金で流動性が厚く、残高はUSDCの2倍以上ある。さらにペイパルのPYUSD、ストライプ傘下ブリッジが支える発行体、パクソス、銀行系のデジタル通貨、利回りの付くトークン化短期金融商品が競う。ビザやマスターカードは既存の決済網として競合する一方、Arcの検証者にも参加しており、提携と競争が重なっている。
米国のGENIUS法は2025年7月に成立した。2026年10月21日には通貨監督庁が実施規則の最終版を公表し、2027年1月18日に施行される。準備資産、償還、監査、資本などの規律が明確になることは先行発行体に有利だ。しかし許認可の道筋が定まれば、資本力のある銀行や決済会社にも参入しやすくなる。制度の整備がサークルだけの独占権になるわけではない。
中立では、2025年の平均残高から逆算したドル建て法定通貨担保型市場約2300億ドルが、2035年には2025年の購買力で約1兆ドルまで拡大すると考える。実質では約4倍の市場だが、サークルのシェアは26%程度にとどまる。これは市場全体の実質成長を年約16%と見る筋書きであり、会社が掲げるUSDC流通残高の複数年40%成長目標より慎重である。
長期の競争は単価にも及ぶ。利息の大部分をユーザー獲得費に回す発行体が増えれば、準備金残高が増えても発行体の取り分は縮む。AIエージェントの自動決済も取引量を増やす可能性がある一方、特定の通貨に固定されず最も安い経路を選ぶようになる。勝者を決めるのは発行量だけではなく、償還の信頼、決済先への接続、販売手数料、規制対応の総合力である。
資本政策と M&A
資本配分の歴史は短く、上場企業として長期の判断力を証明したとはいえない。2025年6月に上場し、同年8月にも株式を追加発行した。2025年の株式報酬費用は約5.7億ドルで、特に上場時の権利確定に伴う一時費用が大きかった。会社はこれまで現金配当を支払っておらず、近い将来の配当も予定していない。継続的な大規模自社株買いについても数字の約束はない。
2025年にはトークン化基金の運営会社ハッシュノートを買収した。2026年9月にはシンガポールの国際決済基盤タザペイを買収する契約を発表したが、完了予定は2027年であり、現時点では未成立である。この評価の利益と資産にはタザペイを足していない。Arcの開発や新しい国・地域での許認可にも資金を使っている。
2026年8月時点の会社見通しは、USDC流通残高が複数年を通して年平均40%成長、2026年のその他収益が3.1〜3.3億ドル、分配費用控除後の収益率が41.7〜43.7%、調整後営業費用が5.7〜5.85億ドルだった。ただしその他収益見通しにはARCトークンの事前販売による収益認識が含まれ、毎年繰り返す利益とみなしてはいけない。GAAP純利益の10年目標や株主還元率の数字の約束はない。
統治面では創業者らのクラスB株に1株5議決権が付く。クラスB全体の議決権には30%の上限があるものの、一般株主より強い影響力を持つ。Arcのトークン経済圏や大型買収に資金を投入する際、少数株主が経営を規律しにくい点も考慮する必要がある。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
デジタルドルは、金融インフラの次の標準になりうる。銀行間送金、証券の受け渡し、国際貿易、AIエージェント間の支払いが常時稼働のネットワークへ移れば、必要なドル建て流動性は大幅に増える。2026年4〜6月期のUSDCオンチェーン取引高は前年同期比151%増だった。残高の増加率より利用頻度の増加率が速いことは、単なる暗号資産取引の担保から実用的な決済手段へ進む可能性を示している。
サークルは、規制対応と技術基盤をすでに整えている。連邦信託銀行の承認によって機関投資家の不安が減り、Arcでは銀行、カード会社、資産運用会社が同じ環境で資金移動を試みている。USDCが複数のチェーンと金融機関を結ぶ共通通貨になれば、後発の発行体が単純に金利を分配するだけでは追い付けない。テザーが先行する市場でも、規制を重視する法人用途でシェアを保ち、拡大する余地はある。
2035年には、ドル建てステーブルコインの実質市場規模が現在の数倍になり、USDC平均残高も大きく増える。販売提携先との契約を改善できれば、準備金収益の44%程度が直接の事業貢献として残る。ArcとCPNから継続的な利用料が生まれれば、固定費を十分吸収し、GAAP純利益は60億ドルを超える。
さらに、成長が落ち着いた段階で自社株買いに移れば、現金を抱え続けるより株主の取り分が高まる。成功の条件は厳しいが、金融インフラへの転換が進んだ場合の利益拡大余地は大きい。
慎重な見方
ステーブルコイン市場の成長と、サークルの利益成長を同じものと見てはいけない。2026年6月末のUSDC残高は733億ドルで、2025年末を下回った。10月下旬にはさらに約720億ドルとなっている。市場が拡大しても、USDTや新興発行体が需要を取ればサークルの残高は伸びない。デジタル通貨の交換は容易で、顧客が通貨そのものに高い価格を払う理由も少ない。
最大の問題は、利益の配分である。2026年4〜6月期の準備金収益は約6.68億ドルだったが、コインベースへの費用だけで約3.25億ドルかかった。販売経路の所有者が大部分の顧客を握っている状況では、発行体が自由に利幅を広げられない。銀行や大手決済会社が自社の通貨を発行すれば、むしろ分配率を引き上げて流通を守る競争になりかねない。
規制も二面性を持つ。GENIUS法は合法的な発行の条件を明確にするが、資本力のある銀行や決済事業者にも新規参入の道を開く。現金や短期国債を安全に保管する仕事だけでは、高い参入障壁を永久に維持できない。過去にはシリコンバレー銀行の破綻をきっかけにUSDCの価格が一時大きく下がった。信頼を失う局面では、資産の流動性や銀行との接続の弱さが一度に表面化する。
Arcについても、トークンの事前販売収入を恒常的な利益と取り違えてはいけない。新しいチェーンは利用が始まっても、手数料収入が開発費を上回るまでに長い時間がかかる。株式報酬や買収に費用を使い続ければ、USDC残高が増えても少数株主の利益はほとんど増えない。
どちらに重みを置いたか
市場そのものの成長余地は大きく、サークルが10年後も存続する可能性は高い。しかし株主に帰属する利益については慎重な見方が優勢である。特に、準備金収益の分配率とUSDCシェアは会社だけでは決められない。
確率は楽観側30%、中立30%、悲観側40%とし、左右対称にはしなかった。AIによる決済需要の増加は認めるが、席課金・導入支援部分の代替と、発行体間の価格競争も考慮した。10年後の中立では利益が大きく増えても、株主還元を含む現在価値は今の時価総額に届かない。総合判断は割高である。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 116.33 ドル282 億ドル(+ 還元の換算額還元の合計 6.49 ドル16 億ドル)。 今の値に割り戻すと 53.36 ドル129 億ドル、今との差 −26.4%、 期待の年率 +5.6%(資本コスト 9.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 316.82 ドル768 億ドル | 29.72 ドル72 億ドル | +377.7% | +18.2% | 31.19 ドル76 億ドル |
| やや楽観 | 21% | 209.03 ドル506 億ドル | 14.45 ドル35 億ドル | +208.1% | +12.5% | 46.93 ドル114 億ドル |
| 中立 | 30% | 123.96 ドル300 億ドル | 6.19 ドル15 億ドル | +79.4% | +6.2% | 39.04 ドル95 億ドル |
| やや悲観 | 25% | 24.68 ドル60 億ドル | −3.30 ドル−8 億ドル | −70.5% | −10.9% | 5.35 ドル13 億ドル |
| 悲観 | 15% | 3.72 ドル9 億ドル | −1.65 ドル−4 億ドル | −97.2% | −26.5% | 0.31 ドル1 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 116.33 ドル282 億ドル | 6.49 ドル16 億ドル | +69.3% | +5.6% | 122.82 ドル298 億ドル |
今の株価時価総額 72.54 ドル176 億ドル(2026-10-30)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 9% 楽観:規制されたデジタルドルの共通基盤へ成長 利益 62 億ドル · PER 12.3 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 316.82 ドル768 億ドル
デジタルドルは暗号資産市場を超えて、法人間送金や証券決済の主要手段になる。2025年購買力で見たドル建て法定通貨担保型市場は約1兆6000億ドルに広がり、USDCは約29%のシェアを維持する。平均USDC残高は4600億ドルとなる。名目の平均残高は物価上昇を含めて約6500億ドルに相当する。テザーは引き続き大きな競合だが、規制を重視する銀行や資産運用会社ではサークルが優位に立つ。
Arcは金融機関やAI決済の共通基盤として利用され、CPNの取扱高も大きく伸びる。販売提携先への支払いを抑えられ、準備金収益の直接営業貢献率は44%に改善する。継続的な決済手数料収入も育ち、GAAP純利益は62.4億ドルになる。タザペイの買収が成立した場合には送金経路の拡大に役立つが、未成立案件の利益を直接加算してはいない。
経営は成長投資と規制対応資本の確保を優先しつつ、後半には株主還元を始める。期間のGAAP純利益累計は252.4億ドル、正味還元は72億ドル、期末自己資本は213.7億ドルになる。強い利益成長を実現しても、将来の技術標準を永続的に独占できるとは見ない。
- USDC・EURCの準備金運用収益:数量 4,600(2025年購買力で換算した平均USDC等残高(億ドル)=ドル建て法定通貨担保型市場の実質残高×USDCシェア)× 価格 0.05(実質残高1億ドル当たり年間準備金収益(億ドル。運用利回りと名目物価補正を含む))→ 売上 230 億ドル・営業利益 101 億ドル。実質市場16000億ドル×USDCシェア約29%。名目平均残高約6500億ドル、実際の準備金利回り約3.55%。流通経路を改善して直接貢献率44%。
- 企業向け導入・保守・利用ライセンス:数量 1.0(実質契約・導入業務量の指数(2025年=1。契約数が非開示のため代理指数))× 価格 0.98(契約・導入業務量指数1単位当たりの平均収益(億ドル))→ 売上 1 億ドル・営業利益 0 億ドル。AIエージェント代替のため既存導入・席課金業務の実質数量は2025年を上回らない。単価は2025年比約1.15倍。
- 発行・償還、決済処理、CPN・Arc関連サービス:数量 50,000(2025年購買力の年間USDC新規鋳造額(億ドル。決済・接続利用の代理数量))× 価格 0.00(新規鋳造額1億ドル当たりの取引・接続関連実効収益(億ドル))→ 売上 9 億ドル・営業利益 4 億ドル。実質鋳造額は約19倍。CPNとArcの継続的な処理収入が拡大するが、トークン販売益は含まない。
倍率:k=9.0%、10年目以降のg=2.0%。ROEは62.4÷213.7=29.2%。堀はnormalなので超過ROEの残存割合1/2を用い、RONICは約19.1%。正当化PER=(1−g/RONIC)÷(k−g)×(1+g)で約13.05倍となる。実際の株式報酬と将来の技術標準の不確実性を考慮し、その約94%の12.3倍を採用。市場の倍率は参照せず、GAAP純利益を基準とする。
確率:銀行・証券・国際決済でUSDCが共通通貨となり、Arcの利用も伸び、販売分配率が改善する展開。ただし競合が多く、規制と技術の双方で勝ち続ける必要があるため9%に抑えた。
やや楽観 21% やや楽観:USDCの成長と流通契約の改善が両立 利益 42 億ドル · PER 12.0 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 209.03 ドル506 億ドル
世界のドル建て法定通貨担保型ステーブルコイン市場は、2025年購買力で約1兆2500億ドルに拡大する。USDCのシェアは約28%を維持し、平均残高は3500億ドルになる。テザーは取引所と新興国市場で優位を保つが、サークルは金融機関と企業向けの利用を深める。GENIUS法に沿った規制対応は、特に大口資金の受け入れで役立つ。
ArcとCPNは実際の取引を増やし、決済処理と接続サービスの収益が伸びる。ただし基盤の利用者獲得には費用がかかり、ネットワークを独占するわけではない。準備金収益の直接営業貢献率は42%程度となり、GAAP純利益は42.2億ドルになる。企業向けの導入作業はAIによる効率化と競争を受けるため、実質数量は2025年を下回る。
成長投資を続けながら、後半には小規模な株主還元が始まる。期間のGAAP純利益累計は164.2億ドル、株式報酬や増資の効果を差し引いた正味還元は35億ドルとなる。期末自己資本は162.5億ドルで、ROEは約26%に達する。優良な金融基盤にはなるが、コインベースへの依存は完全には解消しない。
- USDC・EURCの準備金運用収益:数量 3,500(2025年購買力で換算した平均USDC等残高(億ドル)=ドル建て法定通貨担保型市場の実質残高×USDCシェア)× 価格 0.05(実質残高1億ドル当たり年間準備金収益(億ドル。運用利回りと名目物価補正を含む))→ 売上 175 億ドル・営業利益 74 億ドル。実質市場12500億ドル×シェア28%。分配費用率の小幅改善で直接貢献42%。
- 企業向け導入・保守・利用ライセンス:数量 0.9(実質契約・導入業務量の指数(2025年=1。契約数が非開示のため代理指数))× 価格 0.97(契約・導入業務量指数1単位当たりの平均収益(億ドル))→ 売上 1 億ドル・営業利益 0 億ドル。AIエージェント代替を受けて実質業務量は15%減。単価は約14%上昇。
- 発行・償還、決済処理、CPN・Arc関連サービス:数量 32,000(2025年購買力の年間USDC新規鋳造額(億ドル。決済・接続利用の代理数量))× 価格 0.00(新規鋳造額1億ドル当たりの取引・接続関連実効収益(億ドル))→ 売上 5 億ドル・営業利益 2 億ドル。CPNやArcの利用が普及し、年間鋳造額の実質数量が拡大。継続手数料が中心。
倍率:k=9.0%、g=2.0%。ROEは42.2÷162.5=26.0%。normalの残存割合1/2からRONICは約17.5%、10年目利益基準の正当化PERは約12.90倍。利益率の改善と規制対応の優位性は認めるが、発行体の競争が続くため上限の約93%である12.0倍を採用する。GAAP純利益に株式報酬費用を含め、調整後利益は使わない。
確率:企業向けのデジタルドル需要が着実に伸び、販売契約が少し改善する展開である。既存の規制対応や機関投資家との関係から十分ありうるが、テザーと銀行系通貨の競争が残るため21%とした。
中立 30% 中立:デジタルドルは普及するが、利益の分配構造は残る 利益 27 億ドル · PER 11.0 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 123.96 ドル300 億ドル
世界のドル建て法定通貨担保型市場は、2035年に2025年購買力で約1兆ドルまで拡大する。これは暗号資産取引だけでなく、企業送金や証券決済への採用が進むことを前提とする。USDCシェアは26%程度となり、平均残高は実質2600億ドル、名目では約3670億ドルになる。市場は大きくなるが、テザーや銀行系の通貨も成長するため、サークルが市場を独占することはない。
準備金の利回りは金融市場の金利に従い、販売先に支払う分配金の割合も大きくは下がらない。直接営業貢献率は40%となる。ArcとCPNからは継続収益が生まれるが、手数料は競争で抑えられる。導入・ライセンス事業ではAIエージェント代替が進み、2025年比で実質業務量が30%減る。GAAP純利益は27.3億ドル、営業利益は約35.9億ドルになる。
成長資金と規制対応資本のために利益の大部分を留保する。2026年から2035年までのGAAP純利益累計は112.1億ドル、株式報酬・増資払い込みを差し引いた正味還元は15億ドルで、期末自己資本は130.4億ドルになる。事業は十分存続できるが、株主への現金還元は依然として小さい。
- USDC・EURCの準備金運用収益:数量 2,600(2025年購買力で換算した平均USDC等残高(億ドル)=ドル建て法定通貨担保型市場の実質残高×USDCシェア)× 価格 0.05(実質残高1億ドル当たり年間準備金収益(億ドル。運用利回りと名目物価補正を含む))→ 売上 130 億ドル・営業利益 52 億ドル。実質市場10000億ドル×USDCシェア26%。名目平均残高約3670億ドル。分配費用の負担は残る。
- 企業向け導入・保守・利用ライセンス:数量 0.7(実質契約・導入業務量の指数(2025年=1。契約数が非開示のため代理指数))× 価格 0.94(契約・導入業務量指数1単位当たりの平均収益(億ドル))→ 売上 1 億ドル・営業利益 0 億ドル。AIエージェント代替。実質業務量0.70倍、単価は2025年比1.11倍。人月・席課金の両方で慎重な範囲内。
- 発行・償還、決済処理、CPN・Arc関連サービス:数量 19,000(2025年購買力の年間USDC新規鋳造額(億ドル。決済・接続利用の代理数量))× 価格 0.00(新規鋳造額1億ドル当たりの取引・接続関連実効収益(億ドル))→ 売上 3 億ドル・営業利益 1 億ドル。平均残高2600億ドルに対して年間約7.3回転。Arc・CPNの処理手数料は低く、利益寄与は限定的。
倍率:k=9.0%、g=2.0%。ROEは27.3÷130.4=20.94%。normalの残存割合1/2によりRONICは約15.0%、10年目利益基準の正当化PERは約12.62倍となる。規制対応と一定のネットワーク効果を評価する一方、準備金運用の市況依存とコインベースなどへの分配費用を考慮し、上限の約87%の11.0倍を採用する。ROEの高さを成長率の理由にはせず、長期gは市場・シェア・価格の見通しから独立して決めた。
確率:世界のステーブルコイン需要が実質で大きく成長する一方、USDCシェアと販売費用率が大きくは改善しない展開。2026年の決算と競争構造から最も自然な中心ケースとして30%を与えた。
やや悲観 25% やや悲観:銀行系通貨が普及し、発行体の取り分が薄くなる 利益 7 億ドル · PER 9.2 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 24.68 ドル60 億ドル
デジタルドル市場は拡大するが、発行体の競争が激しくなる。2025年購買力で見た市場残高は約8000億ドルまで育つものの、USDCシェアは20%に低下し、平均残高は1600億ドルにとどまる。テザーは海外の取引所や送金で強く、銀行系通貨とストライプなどが法人決済の市場を奪う。サークルが規制に先行した利点は残るが、価格で優位に立てなくなる。
コインベースなどの流通先が強い交渉力を保ち、準備金収益からサークルに直接残る割合は32%へ下がる。ArcとCPNの利用者は増えるが、利用手数料が低く、開発費を十分には回収できない。導入・保守業務にはAIエージェント代替が進む。全社営業利益は約8.6億ドル、GAAP純利益は6.5億ドルまで圧迫される。
成長の初期には費用が先行し、回復まで時間がかかる。期間純利益累計は28.5億ドルにとどまり、配当や大規模な自社株買いは実施されない。株式報酬と増資の払い込みを差し引いた正味還元はマイナス8億ドルとなり、期末自己資本は69.8億ドルになる。存続はするが、高収益の金融ネットワークとしての魅力を失う。
- USDC・EURCの準備金運用収益:数量 1,600(2025年購買力で換算した平均USDC等残高(億ドル)=ドル建て法定通貨担保型市場の実質残高×USDCシェア)× 価格 0.05(実質残高1億ドル当たり年間準備金収益(億ドル。運用利回りと名目物価補正を含む))→ 売上 80 億ドル・営業利益 26 億ドル。実質市場8000億ドル×USDCシェア20%。流通先への分配率が上がり直接貢献32%。
- 企業向け導入・保守・利用ライセンス:数量 0.7(実質契約・導入業務量の指数(2025年=1。契約数が非開示のため代理指数))× 価格 0.88(契約・導入業務量指数1単位当たりの平均収益(億ドル))→ 売上 1 億ドル・営業利益 0 億ドル。AIエージェント代替と顧客内製化で実質業務量が32%減少。保守費用が残り小幅赤字。
- 発行・償還、決済処理、CPN・Arc関連サービス:数量 9,000(2025年購買力の年間USDC新規鋳造額(億ドル。決済・接続利用の代理数量))× 価格 0.00(新規鋳造額1億ドル当たりの取引・接続関連実効収益(億ドル))→ 売上 1 億ドル・営業利益 0 億ドル。決済取扱量は伸びても料率が下がり、Arc・CPNへの投資回収が遅れる。
倍率:k=9.0%、g=2.0%、ROEは6.5÷69.8=9.31%。normalのRONICは約9.16%、正当化PERの参考上限は約11.39倍。値決め力が失われ、超過利益がほとんどないため9.2倍に抑える。中立の11.0倍より低く、稼ぐ力6.5÷9%=約72.2億ドルに対しても時価総額59.8億ドルは過大でない。床資産による上乗せはしていない。
確率:GENIUS法の整備によって銀行・決済会社の参入が進み、USDCのシェアと利益配分が悪化する展開。市場成長そのものは残るため、事業の完全な崩壊ではない。確率は25%。
悲観 15% 悲観:USDCのシェアが崩れ、発行事業が低収益化 利益 1 億ドル · PER 9.0 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 3.72 ドル9 億ドル
ステーブルコイン市場は成長しても、サークルはその主役でなくなる。ドル建て法定通貨担保型市場が2025年購買力で約8000億ドルになっても、USDCシェアは10%へ低下する。平均残高は実質800億ドルにとどまる。テザーは海外流動性を保ち、米国では銀行や決済会社が自社のドル建て通貨を配布する。USDCを利用する利点は薄れ、顧客は容易に別の通貨へ移る。
生き残るためにサークルは流通先への分配を増やし、準備金収益の直接貢献率は22%まで落ちる。Arcの手数料は開発費を回収できず、一部サービスから撤退する。導入・保守事業もAIエージェントに代替され、数量と単価が同時に下がる。中途の数年間はGAAP赤字となり、10年間の純損益累計はマイナス2.1億ドルに沈む。2035年には縮小後の本業でようやく1億ドルの純利益を確保する。
株式報酬と資金調達で正味還元はマイナス4億ドルとなる。期末自己資本は35.2億ドルだが、その全部を売れる資産とはみなさない。USDCの分別準備資産は保有者への負債と相殺され、株主の取り分ではない。事業の稼ぐ力と処分可能な現金から見た価値は約9億ドルまで縮む。
- USDC・EURCの準備金運用収益:数量 800(2025年購買力で換算した平均USDC等残高(億ドル)=ドル建て法定通貨担保型市場の実質残高×USDCシェア)× 価格 0.05(実質残高1億ドル当たり年間準備金収益(億ドル。運用利回りと名目物価補正を含む))→ 売上 40 億ドル・営業利益 9 億ドル。実質市場8000億ドル×USDCシェア10%。流通先の要求により直接貢献22%。
- 企業向け導入・保守・利用ライセンス:数量 0.6(実質契約・導入業務量の指数(2025年=1。契約数が非開示のため代理指数))× 価格 0.80(契約・導入業務量指数1単位当たりの平均収益(億ドル))→ 売上 0 億ドル・営業利益 0 億ドル。AIエージェント代替と契約解約が重なり、従来型導入業務の半分近くが消える。
- 発行・償還、決済処理、CPN・Arc関連サービス:数量 3,000(2025年購買力の年間USDC新規鋳造額(億ドル。決済・接続利用の代理数量))× 価格 0.00(新規鋳造額1億ドル当たりの取引・接続関連実効収益(億ドル))→ 売上 0 億ドル・営業利益 0 億ドル。決済取扱量と実効料金が低迷し、残るインフラ維持費で赤字。
倍率:k=9.0%。2035年のROEは1.0÷35.2=2.84%で資本コストを下回るため、PERは1÷k=11.11倍を上限とする。競争によって超過利益を失った事業として9.0倍を採用し、時価総額は9.0億ドルとなる。その筋書きの稼ぐ力1.0÷9%=11.11億ドル以下であり、処分可能な税後資産9.0億ドルと同額である。過去のPBRの底は使わない。
確率:銀行系通貨・USDT・他社決済網への移行と、過大な開発費・株式報酬が重なる構造的な敗北を想定する。2023年の信用不安の前例と新技術の不確実性を踏まえ、15%とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
USDC・EURCの準備金運用収益
発行済みステーブルコインの裏付けとなる現金・短期国債などから受け取る運用益。収益は平均残高と利回りで決まり、流通先への分配費用が大きい。
| 数量2025年購買力で換算した平均USDC等残高(億ドル)=ドル建て法定通貨担保型市場の実質残高×USDCシェア | 価格実質残高1億ドル当たり年間準備金収益(億ドル。運用利回りと名目物価補正を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 649 | 0.04 | 26 | 10 |
| 10 年後 中立 | 2,600 | 0.05 | 130 | 52 |
取り方:2025年Form 10-Kの平均USDC流通残高648.7億ドル、準備金収益26.37億ドルから実効利回り4.065%を算出した。EURCは小さくUSDCに含めて概算した。2025年末のUSDCシェア28%と平均残高から、比較の起点となる市場平均残高を約2300億ドルと推定する。2026年4〜6月期は平均残高765億ドル、利回り3.5%、準備金収益6.68億ドルだった。2025年の販売・取引関連費用16.64億ドルを主に本区分から引き、営業貢献9.73億ドルとした。全社営業費用は別途必要で、これは独立セグメントのGAAP営業利益ではない。10年先は数量を2025年購買力の残高で表し、価格には物価1.41倍を反映する。中立の価格0.050は実際の準備金運用利回り約3.55%に相当するため、物価を数量と価格で二重に数えない。
企業向け導入・保守・利用ライセンス
企業のUSDC導入支援、APIやウォレット接続、保守、利用者単位のライセンス、トークン化基金の管理など。人の導入工数や利用IDに連動する部分があり、AIエージェント代替の対象となる。
| 数量実質契約・導入業務量の指数(2025年=1。契約数が非開示のため代理指数) | 価格契約・導入業務量指数1単位当たりの平均収益(億ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1.0 | 0.85 | 1 | 1 |
| 10 年後 中立 | 0.7 | 0.94 | 1 | 0 |
取り方:2025年Form 10-KにおけるSubscription and Services Revenue約0.848億ドルを使う。実際の有料契約件数、座席数、導入人月、平均契約価格は開示されていないため、数量を2025年=1の指数として明示した。これは推定単価であり実際の顧客請求単価ではない。導入・保守、人月作業、利用者課金が混在し、その内訳も非開示であるため、AIエージェント代替の慎重な型をセグメント全体に適用する。中立の実質業務量は0.70倍、単価は2025年比約1.11倍にとどめる。今のop_okuは共通費配賦前の貢献額の代理であり、独立の営業利益ではない。
発行・償還、決済処理、CPN・Arc関連サービス
USDCの償還、チェーン間転送、取引処理、決済接続、ブロックチェーン関連サービスなど。将来のCPNやArcによる継続的な利用料を含むが、トークンの事前販売による一時収益は継続収益として計上しない。
| 数量2025年購買力の年間USDC新規鋳造額(億ドル。決済・接続利用の代理数量) | 価格新規鋳造額1億ドル当たりの取引・接続関連実効収益(億ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 2,575 | 0.00 | 0 | 0 |
| 10 年後 中立 | 19,000 | 0.00 | 3 | 1 |
取り方:2025年のUSDC新規鋳造額は約2575億ドルだった。Form 10-Kの取引収益約0.243億ドルとその他約0.007億ドルを合わせ、鋳造額に対する代理実効収益率を約0.97bpとした。実際には償還手数料、CCTP、ブロックチェーン報酬などの収入を含むため、鋳造そのものに一律に徴収する手数料ではない。2026年4〜6月期の鋳造額は830億ドル、CPNの年率換算取扱高は147億ドル。2035年の数量は市場の実質残高とUSDCシェアに年間の発行回転率を掛けて推定する。中立では平均残高2600億ドルに対して鋳造額19000億ドル、約7.3回転を想定する。AIによる決済件数増加は数量に反映するが、未実証の高額手数料やARCトークンの継続的な販売益は入れない。今のop_okuは共通費配賦前の代理値である。
リスクと懸念
準備金利回りと収益構造
準備金収益は平均USDC残高と運用利回りで決まる。2026年4〜6月期は平均残高が25%増えても、利回りが66bp下がり、準備金収益は5%増にとどまった。評価では短期金利3.5〜4%を共通前提とするが、実際の金利が大幅に低下すれば収益はさらに減る。逆に金利上昇は利益を増やすものの、規制された運用対象は限られるため、高利回り資産を自由に買うことはできない。
コインベースなどへの利益分配
コインベースとの契約は、同社のプラットフォーム上にあるUSDCと、その外側のUSDCの成長に連動する分配を含む。2026年4〜6月期の同社向け費用は約3.25億ドルで、サークルの売上7.01億ドルに対して大きい。銀行・取引所・決済事業者が流通先としての交渉力を強めれば、USDCの残高が増えても発行体の利益率が下がる。契約構造の改善がなければ高成長の価値は薄い。
USDCのシェア喪失と競合通貨
2026年6月末のUSDCシェアは会社定義で27%だった。10月下旬の広い市場統計では24%前後となるが、両者は分母が異なる。テザーのUSDTは残高で2倍以上あり、銀行系通貨、PYUSD、ストライプ系の発行体も競争を強める。USD建てで償還できるという機能自体は模倣できるため、信用や接続網の優位性が価格競争を十分に抑える保証はない。
償還集中と準備資産の信用
2023年3月、シリコンバレー銀行の破綻をきっかけにUSDCは一時ドルとの連動を失った。現在は短期米国債やBlackRock運用の準備基金を中心とするが、取引の停止、銀行の営業停止、準備資産の流動性不足、信用不安が重なれば再び償還が集中しうる。準備資産が安全であっても、利用者が即時にドルへ戻せることを疑った瞬間に流通量とブランド価値が傷む。
GENIUS法と新規参入
2027年1月18日施行の米国GENIUS法関連規則は、準備資産や監査などを制度化する。規制対応で先行するサークルには追い風だが、同じ条件を満たす銀行や資本力の大きい決済会社が参入すれば、差別化は難しくなる。発行体に求められる資本や内部管理の費用が増える可能性もある。信託銀行の認可は重要な強みだが、預金受入れや貸出しの自由を与えるものではなく、それ自体が大きな利幅を保証しない。
AIエージェント代替と決済経路の変更
企業向けの導入支援や利用ID課金は、AIエージェントが設定、保守、決済操作を直接行うようになると、数量と価格の両面で下押しを受ける。2025年の全社売上に占める割合は小さいため、準備金事業へ同じ縮小率を一律に掛けてはいない。一方でAIエージェントが最安の通貨と決済経路を自動選択するようになれば、USDC自体の価格決定力も弱まる。Agent Stackの利用拡大が実際の継続収益につながるかを見極めたい。
Arc、ARCトークン、株式報酬と資本配分
Arcは2026年9月に公開稼働したが、開発費に見合う利用手数料収入はまだ証明されていない。ARCトークンの事前販売収入は恒常的な事業利益ではなく、トークンの法的性質や流通、検証者への報酬設計にも不確実性がある。上場に伴う2025年の株式報酬費用は大きく、今後も増発が続けば株主の持ち分が薄まる。クラスB株による議決権集中もあり、買収や新事業への投資が少数株主の利益に沿うか継続的な検証が必要である。
今後の分かれ目
- USDCの平均流通残高が2027年末までに1000億ドルを安定して超え、会社定義の市場シェアも30%以上に戻ったら
- 金融機関や決済分野での採用が競合より速い証拠となる。中立の数量を引き上げ、やや楽観以上の確率を増やす。ただし販売費用率が改善しない場合は利益を同じ割合では増やさない。
- USDCの市場シェアが20%を下回り、その状態が連続4四半期続いたら
- テザー、銀行系通貨、決済会社への構造的な流出と判断する。10年の実質残高をやや悲観側へ近づけ、利益率の低下を伴う悲観確率を引き上げる。
- 分配費用控除後の収益率が45%を超え、その水準を4四半期以上維持したら
- 流通先との交渉力が改善した証拠となる。直接貢献率とGAAP利益の見通しを上げ、増分ROEの改善を評価する。逆に35%を下回る状態が続けば、やや悲観側へ寄せる。
- CPNの年率換算取扱高が1000億ドルを超え、継続的な手数料収益の内訳も開示されるようになったら
- 準備金の利息以外にも独立した収益の柱が育ち始めたと判断する。取扱量だけでなく、実効手数料率とGAAP利益への寄与を確認してから取引サービス区分を引き上げる。
- Arcの利用が増えても、ネットワーク収益が開発費を3年以上賄えなかったら
- Arcを独立した利益源と評価する根拠が弱まり、資本配分の失敗として悲観側の確率を増やす。ARCトークンの事前販売収入を利益の穴埋めとはみなさない。
- USDCが再びドルとの等価交換を大きく失い、償還停止や銀行資産へのアクセス制約が発生したら
- 金融インフラとして最も大切な信頼が損なわれるため、単なる一時的な利益減少ではなく構造的なシェア喪失を想定する。悲観の確率を大幅に上げ、処分可能資産も改めて評価する。
- GAAP株式報酬が高止まりする一方、株数が継続的に増え、利益の伸びが追い付かなかったら
- オーナー利益の増加が既存株主に帰属していないと判断する。正味還元を減らし、長期の自己資本と持続可能なROEを見直す。
見ておくもの
- 四半期平均USDC流通残高、期末残高、市場シェア。会社定義の市場分母と広義市場の分母を区別する。
- 準備金運用利回りと、準備金収益に対する販売・取引関連費用の割合。
- コインベース向け分配費用と、コインベース上のUSDC残高比率。
- 分配費用控除後の収益率、GAAP営業利益率、株式報酬費用、純利益の推移。
- CPNの参加金融機関数、年率換算取扱高、実際の手数料収益と粗利益。
- Arcの取引量、実効手数料、運営費、検証者の参加、ARCトークンの経済的帰属。
- GENIUS法施行後の認可状況、銀行系ステーブルコインの参入、USDC償還の安定性。
- タザペイ買収の成立可否、買収対価、統合後の収益貢献。
- クラスA・Bの合計株数、株式報酬、増資、配当・自社株買いの開始有無。
倍率と資本コストの決め方
時価総額208.1億ドルを見てから逆算した利益ではない。先に2025年の平均USDC残高648.7億ドルと実効利回り、分配費用を起点として、2035年の市場規模・シェア・実質残高・利回り・費用率を組み立てた。中立のGAAP純利益27.3億ドルに対し、k9.0%、g2.0%、normalのRONIC約15.0%から正当化PER約12.62倍を計算し、その約87%の11.0倍で時価総額300.3億ドルとした。確率9/21/30/25/15を掛け、10年後の時価総額を10年間、正味還元を5年間割り引くと現在価値は約129.3億ドルとなり、台帳時価総額との差は約マイナス37.9%で割高となる。準備金を株主現金に足さず、会社の調整後利益も採用していない。2026年の株数は台帳と最新開示に差があるが、倍率や筋書きを現行株価へ寄せていない。ASC842によるリース負債はすでに米国財務諸表に反映されており、借金と家賃を二重に計上していない。
資本コスト 9.0% = 無リスク金利 5% + β — × 5%。米国株の基本8.0%にquality+1.0%を加え、資本コストは9.0%。βや現在の市場倍率は使用しない。純現金で財務上の存続危機が切迫していないため、distressの上乗せは0%。ビザとマスターカードの7.5%より高く、ディーローカルやファイサーブの9.0%と同程度である。サークル固有の規制・流通先依存・シェア喪失は主に筋書きと確率で表す。