結論
チャブ(Chubb)は、スイス法人で米国ニューヨーク証券取引所に上場する世界最大級の上場損害保険会社である。2025 年の保険料は連結で約 548 億ドル、うち損保 476 億ドル(北米の企業向け 213、北米個人 70、農業 29、海外 150、再保険 13)、生保 73 億ドル。損保の複合損害率は 85.7%(大災害 6.3 ポイントを含む)、中核営業利益は約 100 億ドル、純利益 103 億ドル、自己資本 738 億ドル(ROE 14%)だった。2026 年 4〜6 月期は複合損害率 83.8% でさらに良く、運用収益は 3 か月で 18.8 億ドルと過去最高を更新した。
強みは、価格が合わなければ書かない引受の規律、北米から 50 か国超へ広がる網、そして 1,750 億ドル規模の運用資産が毎年積み上がる点にある。弱みは、財物の大口・E&S(超過・余剰ラインの特約市場)の料率が 8 四半期続けて下がり、軟調が賠償責任の一部にも広がり始めたこと、そして ROE が同業のトラベラーズ(Travelers)の中核 ROE 約 25% を下回ることである。
バリュー投資の観点では、10 年後もこの事業は存在し、保険料は物価並みに伸び、堀(引受データ・ブランド・企業向けの信用力・海外の販売網)は今より広いと見る。一方、物価 3.5% の世界でも保険の利益は料率サイクルで大きく振れる。資本コストは 8%(基本 8.0% + quality +0%)。中立の筋書きは 10 年で純利益が年 5.6% 伸び、倍率は正当化 PER 15.3 倍の 7.6 割、11.6 倍に置いた。今の株価には寄せていない。確率でも悲観を 12% 置いている。確率で加重した 10 年後の価値は 1431 億ドルで、今の時価総額 1394 億ドルに対し +3%(総合で「適正」)。資本コストと利益の山の高さに敏感だ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、損保は「フロート(預かった保険料)を安く長く使えるか」で価値が決まる。チャブは引受で利益を出しながら、運用資産を 1,750 億ドルまで積み上げた。引受益が出る限り、フロートは費用のかからない資本であり、これが堀の中心である。10 年後の事業は存在し、保険料は物価を超えて伸び、運用資産はさらに積み上がる。
オーナー利益は、純利益から成長に要る資本の増加分を引いたものである。損保は保険料が増えるほど支払余力(自己資本)も要るため、利益の全部が株主のものにはならない。2025 年は純利益 103 億ドルのうち約 49 億ドルを返し、残りで自己資本を伸ばした。成長が物価並み(3〜4%)まで鈍る成熟期には、利益の約 7 割を返せる計算になる。
資本配分の評価は高い。大型買収は少数に絞り、成長が難しい時は株の買い戻しに回す。ただし自社株買いは割高局面では価値を損なうため、買い付けの値段(PBR)を見ておく必要がある。
安全域は、事業の質より値段との関係で決まる。悲観でも還元を合わせて今の時価総額の 55% に留まるが、式の倍率は少しの前提変化で価値が大きく動くので、確率は慎重に置き、悲観の筋書きを深くした。わかりやすい事業なので確信度は高いが、大災害の頻度と賠償責任の準備金という 2 つの不確かさが残る。
何で稼ぐ会社か
チャブは 6 つの塊で稼ぐ。第一に北米の企業向け損保(保険料 213 億ドル)。大企業向けの財物・賠償責任・労災に加え、中堅・小口向けの商品を持ち、近年は中堅・小口の伸びが +8.9%(2026 年 4〜6 月期)と強い一方、大口・E&S の財物は意図的に絞り、北米の企業向け全体は −2.3% に減った。第二に北米個人(70 億ドル)。富裕層向けの住宅・自動車・美術品の保険で、一般向けではなく高額資産に特化する。第三に農業(29 億ドル)で、作物保険と農場の保険。
第四が海外(150 億ドル)で、企業向け・個人向けの損保に加え、アジア・欧州・中南米で傷害・医療を銀行・ネット販売網で売る消費者向けが厚い。2022 年にシグナのアジア事業、2024 年にリバティ・ミューチュアルのアジア事業を買い、2026 年 2 月にはベトナムのリバティ保険を取り込んだ。第五が再保険(13 億ドル)で、他社の保険を受ける事業。規模は小さく、世界の大手(スイス再保険、ミュンヘン再保険)とは正面からは競わない。第六が生保(73 億ドル)で、アジア(特に東南アジア・中国・韓国)の個人向けと職場の福利厚生に強い。
利益は 2 つの源から出る。引受益(保険料から保険金・費用を引いた分。2025 年は 65 億ドル)と、保険料を預かってから保険金を払うまでの間に運用して得る運用益(調整後で 70 億ドル)。2025 年の調整後運用収益は前年比 +9% で、短期金利 3.5〜4% と長期金利 5% の世界では、運用資産が増え利回りが入れ替わるだけで運用益が勝手に増える。
保険は景気より料率サイクルと大災害に左右される。2025 年はロサンゼルスの山火事を含め大災害が 29 億ドル(保険料の 6.3 ポイント)あっても複合損害率が 85.7% に収まった。
優良さと弱いところ
堀は 3 つある。第一に引受の規律と情報量。世界 50 か国超で長年蓄えた損害データと、企業の財物・賠償責任を丁寧に値付けする文化がある。2025 年の複合損害率 85.7% は、業界平均(94% 前後)より約 8 ポイント良い水準で、軟調な局面でも崩れにくい。第二に信用力。高額の企業向け保険や再保険は、いざ支払えるかが問われるため、自己資本 740 億ドルと格付けの高さが選ばれる理由になる。第三に販売網。アジアの銀行窓口・ネット販売、北米の独立代理店網を、買収で厚くしてきた。
価格を決める力は中くらいで、料率サイクルの外に出られない。財物の大口・E&S は 2026 年に料率が大きく下がり、グリーンバーグ氏自身が「過度に軟調」と述べた。賠償責任も軟化が出始めている。
資本効率は高いが突出はしない。ROE は 14% で、同じ領域のトラベラーズ(中核 ROE 24.9%)より低いが、これは自己資本 738 億ドルのうち買収で生じたのれん・無形資産が約 258 億ドルを占めるためで、事業そのものの収益力は有形ベースではずっと高い。経営はグリーンバーグ会長兼 CEO が 2004 年から率い、ACE の時代から買収を重ねて規模を築いた。強みは一貫した引受方針だが、弱みは特定の人物への依存で、後継の公表は確認できていない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
損保業界は今、料率サイクルの山を越えて下りに入る局面にいる。2023〜25 年の大幅な値上げと大災害の少なさで、業界の複合損害率は 10 年超で最良に近づいた。しかし 2026 年は、財物の料率が 8 四半期連続で下がり、再保険の財物大災害料率も 1 月の更新で約 15%、7 月は最大 25% 下がった。賠償責任は約 +7% と強いが、軟化が出始め、金融賠償は軟調に転じている。
会社ごとの位置は、利益率でも差がある。トラベラーズ(Travelers)は 2026 年 4〜6 月期に複合損害率 83.6%、中核 ROE 24.9%、更新料率は事業保険全体で +4.8%(小口 +9.4%)。ハートフォード(Hartford)は複合損害率 91.4% と悪化した。AIG は引受を磨き直し、W.R. バークレー(W.R. Berkley)などの専門保険会社が成長を狙う。個人向けではプログレッシブ(Progressive)、ステート・ファーム、オールステート(Allstate)が自動車保険を握り、チャブは高額資産に絞った富裕層向けで棲み分けている。
構造の変化は 3 つ。気候変動で大災害損失の傾向線が年 5〜8% 上がり、住宅・財物の引受が難しくなっている。賠償責任の社会的インフレ(訴訟費用・賠償額の上昇)で、準備金の積み増しが業界全体の火種。第三に、損害保険のデータを AI で読む競争が始まり、引受の精度に差がつく。
価格(料率)と数量(契約)の関係は単純でない。軟調な時はまず料率が下がり、損害率が悪化するのは 1〜2 年遅れて出る。逆に硬調な時は料率が上がっても件数が減るとは限らない。金利が 5% の世界では、保険会社は運用益が支えになる一方、運用益が高いほど他社も保険料を値引きして契約を取りにいくため、引受益が削られやすい。チャブはこの局面で大口・E&S を絞り、中堅・小口・個人・海外に回して数量と利益率を両立させようとしている。
資本政策と M&A
資本政策は「成長が不可能な時は返す」である。2025 年は自社株買い 34 億ドルと配当 15 億ドル、計約 49 億ドル(純利益の約 48%)を返した。2026 年は上半期だけで自社株買い 21 億ドル、配当 7.8 億ドルと買い増しており、4〜6 月期の買い付けは平均で今より約 9% 低い値だった。配当は 30 年超増配を続けている。
M&A は買う側が中心で、2016 年の ACE によるチャブ・コープの買収(総額約 283 億ドル)で今の姿になった。近年は 2022 年シグナのアジア事業、2024 年リバティ・ミューチュアルのアジア事業、2026 年 2 月のベトナムのリバティ保険など、アジアの消費者向け・生保で拡大している。大型の買収は、価格規律のもとで年 1 件程度のペースが目安。買われる側になる可能性はほぼなく(時価総額が約 1,390 億ドルで保険業界最大級)、TOB の対象にもなり得ない。
株式報酬は小さく、株数は買い戻しで年約 1.6% 減っている。自己資本のうち AOCI(未実現の評価損益)は約 −59 億ドルと、債券が低利の頃に買った分の含み損が残る。満期まで持てば元に戻るため、金利が高止まりしても利益は損なわれないが、自己資本の計算には効く。有形簿価(のれんを除く)の 2 桁成長を目標に掲げている。 なお、決算期末後に実行済みの自社株買い 22.4 億ドル(10-Q・2026 年 1〜6 月)は、今の株数(時価総額)に反映済みなので、10 年の還元(payout_oku)からは除いてある。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
チャブの利益は 3 つの歯車で伸びる。第一は運用益。調整後の運用収益は 2026 年 4〜6 月期に 18.8 億ドルと過去最高で、運用資産 1,754 億ドルの帳簿利回りは、2020〜21 年に買った低利の債券が満期を迎えて 5% 前後に入れ替わるたびに上がる。10 年国債が 5% で動かない世界では、運用資産が増えるだけで利益が毎年増える。第二は引受の質。2025 年の複合損害率 85.7% は、大災害が 6.3 ポイントあっても出た数字で、2026 年 4〜6 月期は 83.8% と更に良い。大口・E&S を絞って中堅・小口の +8.9% に回す戦略は、軟調な市場でも利益を守る。第三は海外とアジア。海外は +10.2% で伸び、シグナ・リバティ・ベトナムと買収を重ねた消費者向けの傷害・医療・生保が、物価と所得の伸びで長く育つ。
こうして純利益は年 8% 台で伸び、自社株買い 5 年で株数も 1 割減る。ROE は 14〜15% で、軟調期を乗り越えて資本が積み上がる。成熟後の g 3.5%・ROE 14% なら、利益ベースの上限は PER 17 倍前後になる。保険業の堀の広がりを評価するなら高い倍率は正当化される。引受の質で同業に差がつく局面ほど、チャブの規模と信用力は価値を持つ。
慎重な見方
今の株価は、保険料率のサイクルの天井近くで作られた利益に、すでに 1.9 倍の PBR を払っている。財物の大口・E&S は 8 四半期連続で料率が下がり、グリーンバーグ氏自身が「過度に軟調」と認め、軟化は賠償責任の一部と金融賠償にも広がった。大災害の傾向線は年 5〜8% 上がり、気候変動で住宅・財物の引受が難しくなる。賠償責任の社会的インフレ(訴訟費用・賠償額の上昇)が準備金の積み増しを迫る可能性も高い。2025 年の好成績の背景には、準備金の取り崩しによる好転(2026 年 4〜6 月期で 2.8 億ドル)が混じっており、好成績の一部は一過性である。
運用益も 5% の金利が続くことが前提で、景気が悪化すれば運用資産(株式・信用商品)の評価損が自己資本を削り、AOCI の約 −59 億ドルの含み損は戻らないままになるかもしれない。海外の消費者向けと生保は成長を買収に頼り、のれん・無形資産が自己資本の約 35% を占める。買収の価格規律が緩めば、ROE が薄まる。 k が 0.5% 上がると式の倍率は 1〜2 割下がり、前提の小さなずれに敏感である。引受の質は高くても、利益の伸びは物価並み(年 5% 程度)に収まり、成長ではなく安定を買う株として評価すべきだ。
どちらに重みを置いたか
強気の見方は、運用益の自動的な上昇と引受の質、アジアの伸びを根拠にし、慎重な見方は料率サイクルの天井と ROE の水準を突く。事業の質の評価は強気が優勢で、利益の伸びの置き方(年 5.6%)は慎重寄りに取り、悲観の確率を 12% と厚めに置いた。確率は中立 34% に最も寄せ、強気 10% に対して悲観 12% でほぼ対称、慎重な見方を少し重くした。倍率は利益ベースの正当化 PER の 7.6 割で、軟調な市場の影響は利益率と ROE の側に載せた。結果は 10 年で +3%、総合は「適正」。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 513.86 ドル1,991 億ドル(+ 配当配当と自社株買いの合計 187.13 ドル725 億ドル)。 今の値に割り戻すと 365.37 ドル1,415 億ドル、今との差 +0.4%、 期待の年率 +6.8%(資本コスト 8.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 841.40 ドル3,260 億ドル | 251.05 ドル973 億ドル | +200.2% | +11.6% | 109.25 ドル423 億ドル |
| やや楽観 | 24% | 709.27 ドル2,748 億ドル | 237.63 ドル921 億ドル | +160.2% | +10.0% | 227.25 ドル880 億ドル |
| 中立 | 34% | 532.51 ドル2,063 億ドル | 194.26 ドル753 億ドル | +99.7% | +7.2% | 247.10 ドル957 億ドル |
| やや悲観 | 20% | 317.90 ドル1,232 億ドル | 152.96 ドル593 億ドル | +29.4% | +2.6% | 94.17 ドル365 億ドル |
| 悲観 | 12% | 123.82 ドル480 億ドル | 69.59 ドル270 億ドル | −46.9% | −6.1% | 23.21 ドル90 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 513.86 ドル1,991 億ドル | 187.13 ドル725 億ドル | +92.6% | +6.8% | 700.98 ドル2,716 億ドル |
今の株価時価総額 363.95 ドル1,410 億ドル(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 強気:引受の質が広がり、海外と運用益で年 8% 台の成長 利益 233 億ドル · PER 14.0 倍 · 株価時価総額 841.40 ドル3,260 億ドル
引受の質が広がり、10 年で運用益と海外が利益を押し上げる。北米の企業向けは数量 +18%・価格 1.42 倍で保険料 357 億ドル(複合損害率 83.5%、利益 59 億ドル)、中堅・小口の自力成長がシェアを奪う。海外は数量 +40% で 299 億ドル、アジアの消費者向けと生保(185 億ドル)が物価と所得の伸びで育つ。運用資産は約 3,040 億ドル、利回り 5.0% で運用益 152 億ドル。純利益は 233 億ドル(年 8.5%)、自己資本 1,451 億ドル。競合の AIG やトラベラーズが大災害と準備金で足踏みする中、チャブが優良顧客を集める形。
- 北米の企業向け損保:数量 118(保険契約の件数相当(万件))× 価格 30,218(1 件あたり年間保険料(ドル))→ 売上 357 億ドル・営業利益 59 億ドル。複合損害率 83.5%
- 北米個人(富裕層向け):数量 114(保険契約の件数相当(万件))× 価格 11,414(1 件あたり年間保険料(ドル))→ 売上 131 億ドル・営業利益 13 億ドル。複合損害率 90%
- 北米の農業:数量 13.8(保険契約の件数相当(万件))× 価格 37,506(1 件あたり年間保険料(ドル))→ 売上 52 億ドル・営業利益 8 億ドル。複合損害率 84.5%
- 海外の損保・消費者向け:数量 420(保険契約の件数相当(万件))× 価格 7,111(1 件あたり年間保険料(ドル))→ 売上 299 億ドル・営業利益 43 億ドル。複合損害率 85.5%
- 再保険:数量 1,800(受再契約の件数(件))× 価格 1,204,740(1 契約あたり保険料(ドル))→ 売上 22 億ドル・営業利益 4 億ドル。複合損害率 81%。料率は財物大災害で 2026 年に −15〜25% 下がり、物価に届かない
- 生保(アジア・職場の福利厚生):数量 324(保険契約の件数相当(万件))× 価格 5,702(1 件あたり年間保険料(ドル))→ 売上 185 億ドル・営業利益 34 億ドル。利益率 18.5%
- 損保の運用(保険料の預かり資産):数量 3,040(運用資産(億ドル。損保・本社の分))× 価格 0.05(利回り(調整後の運用収益を運用資産で割る))→ 売上 152 億ドル・営業利益 152 億ドル。運用資産 × 利回り
倍率:利益ベースの正当化 PER:k 8.00%(基本 8.0% + quality +0.00%)・g 4.0%(上限の内側。市場の実質 +1% + 価格は物価から軟調の分を引いた約 3.0%(中立)で、4% を超えない)・事業の ROE 16%(帳簿の自己資本 ROE:純利益 233.0 ÷ 自己資本 1451.0 億ドル)・moat=普通(残る割合 0.50)。RONIC = k + 残る割合 ×(ROE − k)= 12.0%、正当化 PER = (1 − g/RONIC)/(k − g) = 16.7 倍(上限 = 純利益 233.0 億ドル × これ = 3888 億ドル)。これの 0.8 割(14.0 倍)に置いた。楽観:利益の質が最も良く出る筋書きなので上限に最も近く置いた。
確率:引受の質と運用益の入れ替わりが 10 年続く筋書きは 1 割。
やや楽観 24% やや強気:年 7% 台の成長で、質の高い複利が続く 利益 214 億ドル · PER 12.8 倍 · 株価時価総額 709.27 ドル2,748 億ドル
年 7% 台の成長で質の高い複利が続く。北米の企業向けは数量 +16%・価格 1.41 倍で 348 億ドル(複合損害率 84%)、海外 286 億ドル、生保 174 億ドル、運用資産は 1.8 倍の約 2,880 億ドルで運用益 141 億ドル。買収はアジアで年 1 件程度。純利益は 214 億ドル、自己資本 1,417 億ドル(ROE 15%)。倍率は PER 12.8 倍(正当化 PER の上限 16.3 倍の 7.9 割。内訳は multiple.why)。同業のトラベラーズに対して引受でほぼ並び、海外の分だけ優位に立つ。
- 北米の企業向け損保:数量 116(保険契約の件数相当(万件))× 価格 30,005(1 件あたり年間保険料(ドル))→ 売上 348 億ドル・営業利益 56 億ドル。複合損害率 84%
- 北米個人(富裕層向け):数量 113(保険契約の件数相当(万件))× 価格 11,334(1 件あたり年間保険料(ドル))→ 売上 128 億ドル・営業利益 12 億ドル。複合損害率 90.5%
- 北米の農業:数量 13.4(保険契約の件数相当(万件))× 価格 37,506(1 件あたり年間保険料(ドル))→ 売上 50 億ドル・営業利益 8 億ドル。複合損害率 85%
- 海外の損保・消費者向け:数量 405(保険契約の件数相当(万件))× 価格 7,061(1 件あたり年間保険料(ドル))→ 売上 286 億ドル・営業利益 40 億ドル。複合損害率 86%
- 再保険:数量 1,725(受再契約の件数(件))× 価格 1,178,550(1 契約あたり保険料(ドル))→ 売上 20 億ドル・営業利益 4 億ドル。複合損害率 81.5%。料率は財物大災害で 2026 年に −15〜25% 下がり、物価に届かない
- 生保(アジア・職場の福利厚生):数量 306(保険契約の件数相当(万件))× 価格 5,702(1 件あたり年間保険料(ドル))→ 売上 174 億ドル・営業利益 31 億ドル。利益率 18.0%
- 損保の運用(保険料の預かり資産):数量 2,880(運用資産(億ドル。損保・本社の分))× 価格 0.05(利回り(調整後の運用収益を運用資産で割る))→ 売上 141 億ドル・営業利益 141 億ドル。運用資産 × 利回り
倍率:利益ベースの正当化 PER:k 8.00%(基本 8.0% + quality +0.00%)・g 4.0%(上限の内側。市場の実質 +1% + 価格は物価から軟調の分を引いた約 3.0%(中立)で、4% を超えない)・事業の ROE 15%(帳簿の自己資本 ROE:純利益 214.0 ÷ 自己資本 1417.0 億ドル)・moat=普通(残る割合 0.50)。RONIC = k + 残る割合 ×(ROE − k)= 11.6%、正当化 PER = (1 − g/RONIC)/(k − g) = 16.3 倍(上限 = 純利益 214.0 億ドル × これ = 3497 億ドル)。これの 0.8 割(12.8 倍)に置いた。やや楽観:楽観より伸びと利益率が控えめなので一段下。
確率:強気の見方が成り立つ余地が大きいため、確率は 24%。
中立 34% 中立:優良な損保として年 5.6% で成長し、倍率は式に収れん 利益 178 億ドル · PER 11.6 倍 · 株価時価総額 532.51 ドル2,063 億ドル
北米の企業向けは数量 +10%・価格 1.40 倍で 328 億ドル(複合損害率 86%、利益 46 億ドル)。個人 119 億ドル、農業 47 億ドル、海外は数量 +25% で 265 億ドル(複合損害率 88%)、再保険 19 億ドル、生保 154 億ドル。運用資産は 1.65 倍の約 2,640 億ドル、利回り 4.8% で運用益 127 億ドル。純利益は 178 億ドル(年 5.6%)、自己資本 1,422 億ドル(ROE 12.5%)。トラベラーズとは引受で並び、ハートフォードとは差が開く。倍率は PER 11.6 倍(正当化 PER の上限 15.3 倍の 7.6 割。内訳は multiple.why)。
- 北米の企業向け損保:数量 110(保険契約の件数相当(万件))× 価格 29,792(1 件あたり年間保険料(ドル))→ 売上 328 億ドル・営業利益 46 億ドル。複合損害率 86%
- 北米個人(富裕層向け):数量 106(保険契約の件数相当(万件))× 価格 11,255(1 件あたり年間保険料(ドル))→ 売上 119 億ドル・営業利益 10 億ドル。複合損害率 91.5%
- 北米の農業:数量 12.7(保険契約の件数相当(万件))× 価格 37,506(1 件あたり年間保険料(ドル))→ 売上 47 億ドル・営業利益 6 億ドル。複合損害率 87%
- 海外の損保・消費者向け:数量 375(保険契約の件数相当(万件))× 価格 7,061(1 件あたり年間保険料(ドル))→ 売上 265 億ドル・営業利益 32 億ドル。複合損害率 88%
- 再保険:数量 1,575(受再契約の件数(件))× 価格 1,178,550(1 契約あたり保険料(ドル))→ 売上 19 億ドル・営業利益 3 億ドル。複合損害率 85%。料率は財物大災害で 2026 年に −15〜25% 下がり、物価に届かない
- 生保(アジア・職場の福利厚生):数量 270(保険契約の件数相当(万件))× 価格 5,702(1 件あたり年間保険料(ドル))→ 売上 154 億ドル・営業利益 26 億ドル。利益率 17.0%
- 損保の運用(保険料の預かり資産):数量 2,640(運用資産(億ドル。損保・本社の分))× 価格 0.05(利回り(調整後の運用収益を運用資産で割る))→ 売上 127 億ドル・営業利益 127 億ドル。運用資産 × 利回り
倍率:利益ベースの正当化 PER:k 8.00%(基本 8.0% + quality +0.00%)・g 4.0%(上限の内側。市場の実質 +1% + 価格は物価から軟調の分を引いた約 3.0%(中立)で、4% を超えない)・事業の ROE 13%(帳簿の自己資本 ROE:純利益 178.0 ÷ 自己資本 1422.0 億ドル)・moat=普通(残る割合 0.50)。RONIC = k + 残る割合 ×(ROE − k)= 10.3%、正当化 PER = (1 − g/RONIC)/(k − g) = 15.3 倍(上限 = 純利益 178.0 億ドル × これ = 2715 億ドル)。これの 0.8 割(11.6 倍)に置いた。中立:引受の質は同業で高いが、利益は料率サイクルの山に近く、ROE も同業の中核より低いため、上限の 7.6 割にとどめた
確率:利益は年 5.6%(物価 3.5% + 実質 2%)で伸びる。成長は軟調期で鈍るが運用益が支える。
やや悲観 20% やや弱気:軟調と大災害の増加で利益率が 3 ポイント下がる 利益 119 億ドル · PER 10.4 倍 · 株価時価総額 317.90 ドル1,232 億ドル
軟調と大災害の増加が構造に変わり、利益率が 3 ポイント下がる。北米の企業向けは数量 0%・価格 1.36 倍で 289 億ドル、複合損害率 90%(利益 29 億ドル)。個人は 105 億ドルで複合損害率 95%、海外は 229 億ドルで複合損害率 92%。気候による大災害の傾向線(年 +5〜8%)が料率を上回る。運用益は 108 億ドル。純利益 119 億ドル、自己資本 1,291 億ドル(ROE 9.3%)。競合の AI を使った引受にデータで後れを取り、シェアを守るために値引きする。倍率は PER 10.3 倍(正当化 PER の上限 13.4 倍の 7.7 割。内訳は multiple.why)。
- 北米の企業向け損保:数量 100(保険契約の件数相当(万件))× 価格 28,941(1 件あたり年間保険料(ドル))→ 売上 289 億ドル・営業利益 29 億ドル。複合損害率 90%
- 北米個人(富裕層向け):数量 95.0(保険契約の件数相当(万件))× 価格 11,015(1 件あたり年間保険料(ドル))→ 売上 105 億ドル・営業利益 5 億ドル。複合損害率 95%
- 北米の農業:数量 11.6(保険契約の件数相当(万件))× 価格 36,708(1 件あたり年間保険料(ドル))→ 売上 42 億ドル・営業利益 4 億ドル。複合損害率 91%
- 海外の損保・消費者向け:数量 336(保険契約の件数相当(万件))× 価格 6,811(1 件あたり年間保険料(ドル))→ 売上 229 億ドル・営業利益 18 億ドル。複合損害率 92%
- 再保険:数量 1,425(受再契約の件数(件))× 価格 1,117,440(1 契約あたり保険料(ドル))→ 売上 16 億ドル・営業利益 2 億ドル。複合損害率 90%。料率は財物大災害で 2026 年に −15〜25% 下がり、物価に届かない
- 生保(アジア・職場の福利厚生):数量 225(保険契約の件数相当(万件))× 価格 5,581(1 件あたり年間保険料(ドル))→ 売上 126 億ドル・営業利益 18 億ドル。利益率 14.0%
- 損保の運用(保険料の預かり資産):数量 2,400(運用資産(億ドル。損保・本社の分))× 価格 0.05(利回り(調整後の運用収益を運用資産で割る))→ 売上 108 億ドル・営業利益 108 億ドル。運用資産 × 利回り
倍率:利益ベースの正当化 PER:k 8.00%(基本 8.0% + quality +0.00%)・g 4.0%(上限の内側。市場の実質 +1% + 価格は物価から軟調の分を引いた約 3.0%(中立)で、4% を超えない)・事業の ROE 9%(帳簿の自己資本 ROE:純利益 119.0 ÷ 自己資本 1291.0 億ドル)・moat=普通(残る割合 0.50)。RONIC = k + 残る割合 ×(ROE − k)= 8.6%、正当化 PER = (1 − g/RONIC)/(k − g) = 13.4 倍(上限 = 純利益 119.0 億ドル × これ = 1593 億ドル)。これの 0.8 割(10.3 倍)に置いた。やや悲観:伸びが落ち堀が削れた会社として中立より下。
確率:軟調と大災害の増加が構造に変わる筋書きで 2 割。
悲観 12% 悲観:構造的に負け、優良な損保ではなくなる 利益 33 億ドル · PBR 0.7 倍 · 株価時価総額 123.82 ドル480 億ドル
大災害の恒常化で住宅・財物が引受不能に近づき(カリフォルニア・フロリダの撤退に類する)、賠償責任の準備金不足が数年続き、AI による価格競争で引受益が消える。北米の企業向けは複合損害率 97%(利益 7 億ドル)、個人は 103% の赤字、海外は買収の価格規律が崩れて減損が出る。運用益は 77 億ドルで、純利益は 33 億ドル(ROE 3%)、自己資本 1,030 億ドル。優良な損保ではなくなるが、保険料を預かる資産は残る。 ならした利益では見ず、売れる資産の床(有形自己資本 約 480 億ドル)で測る。優良な損保ではなくなるが、保険料を預かる資産は残る。
- 北米の企業向け損保:数量 85.0(保険契約の件数相当(万件))× 価格 26,600(1 件あたり年間保険料(ドル))→ 売上 226 億ドル・営業利益 7 億ドル。複合損害率 97%
- 北米個人(富裕層向け):数量 83.6(保険契約の件数相当(万件))× 価格 10,377(1 件あたり年間保険料(ドル))→ 売上 87 億ドル・営業利益 −3 億ドル。複合損害率 103%
- 北米の農業:数量 9.9(保険契約の件数相当(万件))× 価格 34,580(1 件あたり年間保険料(ドル))→ 売上 34 億ドル・営業利益 1 億ドル。複合損害率 96%
- 海外の損保・消費者向け:数量 300(保険契約の件数相当(万件))× 価格 6,260(1 件あたり年間保険料(ドル))→ 売上 188 億ドル・営業利益 6 億ドル。複合損害率 97%
- 再保険:数量 1,200(受再契約の件数(件))× 価格 1,003,950(1 契約あたり保険料(ドル))→ 売上 12 億ドル・営業利益 1 億ドル。複合損害率 95%。料率は財物大災害で 2026 年に −15〜25% 下がり、物価に届かない
- 生保(アジア・職場の福利厚生):数量 180(保険契約の件数相当(万件))× 価格 5,257(1 件あたり年間保険料(ドル))→ 売上 95 億ドル・営業利益 8 億ドル。利益率 8.0%
- 損保の運用(保険料の預かり資産):数量 1,920(運用資産(億ドル。損保・本社の分))× 価格 0.04(利回り(調整後の運用収益を運用資産で割る))→ 売上 77 億ドル・営業利益 77 億ドル。運用資産 × 利回り
倍率:構造的に負けた筋書き。10 年目の純利益 33 億ドルは自己資本 1,030 億ドルに対し ROE 3% で k 8.0% を下回るので、価値は稼ぐ力(純利益 ÷ k = 約 410 億ドル)より、売れる資産で測る。床は今の自己資本からのれん・無形資産を除いた有形自己資本の約 480 億ドルで、PBR は今の自己資本に 0.65 倍。ならした利益では見ない。市場の値付けや過去の底からは置いていない。
確率:準備金の不足、大災害の恒常化、AI 競争の 3 つが重なる確率を 12% と置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
北米の企業向け損保
大企業の財物・賠償責任・労災と、中堅・小口の企業向け損保。大口・E&S は意図的に絞り、中堅・小口は伸ばす。
| 数量保険契約の件数相当(万件) | 価格1 件あたり年間保険料(ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 100 | 21,280 | 213 | 40 |
| 10 年後 中立 | 110 | 29,792 | 328 | 46 |
取り方:2025 年の保険料 212.8 億ドル(複合損害率 81.4%)を、契約 100 万件相当 × 平均 21,280 ドルに置いた推定(件数は非開示)。市場は米国の企業向け損保(元受保険料で年 5,000 億ドル超と推定)で、チャブのシェアは約 4%。主な競合はトラベラーズ(Travelers)、AIG、ハートフォード(Hartford)、W.R. バークレー(W.R. Berkley)。物価 3.5% のもとでも財物の料率は 2026 年に下がっており、価格は 3 年で 1.08 倍(財物 −10〜15%、賠償責任 +7%)、10 年で 1.40 倍(サイクルが戻る)とした。
北米個人(富裕層向け)
高額の住宅・自動車・美術品の保険。一般向けの自動車は主戦場にしない。
| 数量保険契約の件数相当(万件) | 価格1 件あたり年間保険料(ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 88.0 | 7,982 | 70 | 6 |
| 10 年後 中立 | 106 | 11,255 | 119 | 10 |
取り方:2025 年の保険料 70.2 億ドル(複合損害率 91.5%)を 88 万件相当 × 平均 7,982 ドルに置いた推定。高額住宅の再調達費(建築費)が物価で上がるため価格は物価並み(3 年 1.11 倍・10 年 1.41 倍)。個人自動車の寡占(プログレッシブ、ステート・ファーム、ガイコ)とは別市場で、競合は主にステート・ファーム、オールステート(Allstate)の富裕層向け、AIG のプライベート・クライアント。
北米の農業
作物保険(農家向けの収穫・収入の保険)と農場の財物・賠償。
| 数量保険契約の件数相当(万件) | 価格1 件あたり年間保険料(ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 11.0 | 26,600 | 29 | 5 |
| 10 年後 中立 | 12.7 | 37,506 | 47 | 6 |
取り方:2025 年の保険料 29.3 億ドル(複合損害率 82.3%)を 11 万件相当 × 平均 26,600 ドルに置いた推定。作物の価格・収量で保険料が決まり、価格は物価並みに載せた。競合はネイションワイド(Nationwide)、グレート・アメリカンなどの農業保険会社。連邦の保険料補助の制度に左右される。
海外の損保・消費者向け
アジア・欧州・中南米の企業向け・個人向け損保と、銀行窓口・ネット販売の傷害・医療。
| 数量保険契約の件数相当(万件) | 価格1 件あたり年間保険料(ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 300 | 5,008 | 150 | 23 |
| 10 年後 中立 | 375 | 7,061 | 265 | 32 |
取り方:2025 年の保険料 150.2 億ドル(複合損害率 85.0%)を 300 万件相当 × 平均 5,008 ドルに置いた推定。2026 年 4〜6 月期は +10.2%(現地通貨 +4.8%)。ドル円・為替は動かさないので現地通貨ベースで置く。競合は AXA、アリアンツ(Allianz)、ゼネラリなどの欧州勢と各国の損保。アジアの消費者向けは買収(シグナ・リバティ・ベトナム)が数量を押し上げた。
再保険
他社の保険を受ける事業。規模は小さく、利益の振れも小さい。
| 数量受再契約の件数(件) | 価格1 契約あたり保険料(ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1,500 | 873,000 | 13 | 3 |
| 10 年後 中立 | 1,575 | 1,178,550 | 19 | 3 |
取り方:2025 年の保険料 13.1 億ドル(複合損害率 79.3%)を 1,500 件 × 平均 87.3 万ドルに置いた推定。財物大災害の再保険料率は 2026 年 1 月に約 15% 下がり、7 月に最大 25% 下がったので、価格は 3 年 1.03 倍・10 年 1.35 倍と物価より遅らせる。競合はスイス再保険、ミュンヘン再保険、エベレスト(Everest)。
生保(アジア・職場の福利厚生)
アジアの個人向け生保と、北米・海外の職場の福利厚生(傷害・医療・生保)。
| 数量保険契約の件数相当(万件) | 価格1 件あたり年間保険料(ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 180 | 4,044 | 73 | 12 |
| 10 年後 中立 | 270 | 5,702 | 154 | 26 |
取り方:2025 年の保険料 72.8 億ドル(セグメント利益 12.4 億ドル、利益率 17%)を 180 万件相当 × 平均 4,044 ドルに置いた推定。2026 年 4〜6 月期は +7.5%、預かり保険料込みで +14.4%。職場の福利厚生は 2 桁の自力成長が目標。競合はアジアの AIA、プルデンシャル、マニュライフ。
損保の運用(保険料の預かり資産)
損保の保険料を預かってから払うまでの運用益。生保の運用は生保に含める。
| 数量運用資産(億ドル。損保・本社の分) | 価格利回り(調整後の運用収益を運用資産で割る) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1,600 | 0.04 | 62 | 62 |
| 10 年後 中立 | 2,640 | 0.05 | 127 | 127 |
取り方:2025 年の調整後運用収益 69.5 億ドルのうち生保分を除いた約 62 億ドルを、損保・本社の運用資産約 1,600 億ドル × 帳簿利回り 3.9% に置いた。運用資産は全体で 1,754 億ドル(2026 年 6 月)。短期金利 3.5〜4%・10 年国債 5% が 10 年続く前提で、低利の債券が満期に入れ替わるため利回りは 3 年で 4.4%、10 年で 4.8% に上がる。
リスクと懸念
料率サイクルの下り(財物と賠償責任の軟調)
財物の大口・E&S の料率は 8 四半期続けて下がり、軟化は賠償責任の一部と金融賠償に及び始めた。損害率が悪化するのは 1〜2 年遅れるため、今の 83.8% の複合損害率は山に近い。北米の企業向けは 2026 年 4〜6 月期に −2.3% へ減った。
大災害の傾向線と気候
大災害損失は年 5〜8% の傾向で増え、2025 年のロサンゼルス山火事は 29 億ドル規模の損失の一部になった。住宅・財物の引受が難しくなる地域が増え、料率を上げても件数が減る。富裕層向けの住宅保険は再調達費が物価で上がる分も重い。
賠償責任の準備金(社会的インフレ)
訴訟費用と賠償額の上昇で、過去の年の準備金が足りなくなる懸念が業界にある。2026 年 4〜6 月期の準備金の好転 2.8 億ドルは利益の一部を押し上げており、逆回転すれば複合損害率が数ポイント動く。
運用の評価損と金利
運用資産 1,754 億ドルは債券が中心で、AOCI は約 −59 億ドルの評価損が残る。景気後退で信用商品が傷むと自己資本を削る。5% の金利が続く前提を外れて金利が急落すれば、運用益の押し上げも止まる。
海外・アジアの買収の価格規律
シグナ・リバティ・ベトナムなどアジアの消費者向けと生保は成長を買収に頼る。自己資本の約 35% がのれん・無形資産で、買収価格が高いと ROE を薄め、減損のリスクもある。生保はアジアの規制と為替の影響も受ける。
経営の継続(会長兼 CEO への依存)
グリーンバーグ会長兼 CEO が 2004 年から率いており、引受方針の一貫性は同氏に依存する。後継の公表は確認できていない。移行期に引受の規律が緩めば、料率サイクルの下りで傷が大きくなり、同業との差も縮む。
資本コストの前提への敏感さ
k は 8.0% で、quality は 0 とした。k が 0.5% 上がれば倍率は約 1〜2 割下がる。価値の大半は 10 年後の倍率に依存するため、ここを過信しないよう、悲観の筋書きと確率を厚めに置いてある。
今後の分かれ目
- 財物の料率下落が 2027 年までに止まり、賠償責任の軟化も一巡する
- 複合損害率は 85〜86% に落ち着き、利益の伸びは年 6〜7% に上がる。強気とやや強気の確率を上げられる。
- 軟調が賠償責任全体へ広がり、複合損害率が 90% に近づく
- 北米の企業向けの利益が 3 割減り、ROE は 10% 台前半に下がる。やや弱気の確率を上げる。倍率も ROE の低下で 1〜2 倍下がる。
- 2022 年のイアン級の大災害が 2 年続けて起きる
- 北米個人・企業向けの引受益が 1〜2 年消え、再保険料率が上がる。長期では料率が戻るので、一過性なら価値の損失は小さい。
- アジアの大型買収(生保・消費者向け)が高値で行われる
- のれんが増えて ROE が薄まり、買収の価格規律に疑問が出る。海外の数量は増えるが、利益率は下がる。
- グリーンバーグ氏の後継が決まり、引受方針を引き継ぐと示される
- 経営の継続のリスクが和らぎ、確率を強気側へ少し寄せられる。外部からの登用なら移行リスクを見直す。
- 10 年国債が 3% 台に下がる
- 運用益の押し上げが止まり、利回りの上昇(4.4%→4.8%)が崩れる。純利益は 10 年で 15% ほど少なくなる。ただし割引率も下がるので価値の差は小さい。
見ておくもの
- 財物(大口・E&S)と賠償責任の更新時の料率変化(四半期ごと)
- 複合損害率と、大災害を除いた複合損害率、準備金の好転(不利な動き)の額
- 北米の中堅・小口の伸び(+8.9%)と大口・E&S の減少幅
- 調整後の運用収益と運用資産の帳簿利回り
- 自社株買いの金額と買い付け時の PBR
- アジア(海外・生保)の成長率と買収の発表
- 後継の発表
倍率と資本コストの決め方
今の PER・PBR を先に見ず、事業ごとに数量 × 価格で 10 年の利益を積み、その時点の ROE と g から式で倍率を出した。k = 基本 8.0% + quality 0% = 8%、g は 3.0% と上限 4% より下に置き、軟調と大災害の増加を載せた。PER は (1 − g/RONIC)/(k − g) を来年の利益に対して出し、資本コストを超える分は新しく投じるお金では半分に薄れる形で使った。中立の 10 年は正当化 PER 15.3 倍の 7.6 割 = 11.6 倍で、やや悲観も同じ式の上限に対する割合で置き、過去の PER や PBR には寄せていない。悲観は稼ぐ力ではなく、売れる資産の床(有形自己資本 約 480 億ドル)と還元の合計が今の時価総額を下回る筋書きにした。総合は +3% で「適正」。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 5% + β — × 5%。k = 基本 8.0% + quality +0% = 8%(β は使わない。決まり v2。内訳は quality_parts と quality_why)。料率サイクルの振れと引受の規律による値決めの強さが打ち消し合うので quality は 0 とした。金融なので負債の補正は quality の debt で見る。大災害・準備金・経営の継続のような個別のリスクは k に足さず、悲観の確率と深さで表した。長期の g は 4.0% まで、k − g ≥ 3.5% を守る。