結論
アメリカン・エキスプレスは、自社でカードを発行し、自社の決済網で加盟店と会員を直接つなぐ「閉じた網」を持つ決済・カード会社である。2025 年の取扱高は 1 兆 6,698 億ドル、収益は 722 億ドル、純利益は 108 億ドル(ROE 32%)。収益の約半分が米国の個人会員(年会費の高いプラチナ・ゴールド)、残りが法人・中小企業、米国外のカード、加盟店向けの網とサービスである。2026 年 4〜6 月期も取扱高が 9% 増で、収益は 10% 増、通期の収益成長の見通しを 10% に引き上げた。
事業の質は高い。収益の柱は取扱高に比例する加盟店手数料(割引収益)と、会員が先に払う年会費で、貸出の利息は約 2 割 にとどまる。貸倒が増えても利益が崩れにくく、償却率は 2.0% とカード業界の平均(3.5〜4.5%)の半分である。一方、競合のチェース(JPモルガン・チェース)やキャピタル・ワンが高額年会費のカードで同じ富裕層を狙い、会員を呼ぶ特典の費用が膨らんでいる点は重い。2026 年は収益の超過分を投資に回し、1 株利益の見通しを据え置いた。
バリュー投資の観点では、帳簿の ROE 30% 台・成長 4%・資本コスト 7.75%(基本 8.0% に quality −0.25%)から利益ベースの式(資本コストを超える稼ぎは新しく投じるお金では 2/3 だけ残る強い堀)で出す上限 PER は 10 年目の利益に対して約 22 倍。中立はその 8 割の約 17.8 倍に置くと、今の 20.3 倍をやや下回る。中立の筋書きでは 10 年後の時価総額は今の約 1.6 倍、還元を足して割り引くと今の値段とほぼ同じか少し上に来る。強い堀に見合う値段が付いており、安全域は厚くない。結論は「優良で、適正」である。
バリュー投資の観点から
バリュー投資家なら、まず 10 年後もあるかを問う。答えは、ある。閉じた決済網と富裕層の会員、ブランドの 3 つが重なる事業は、リーマン級の危機でも存続した(2009 年に純利益が約半分になったが赤字にはならず、信用も維持した)。堀は、ビザ・マスターカードの規模には及ばないが、高い年会費を払う客を持つ点で他に例がない。
次にオーナー利益を見る。年会費は先に入り、特典を使う前に収益に立つので、貸倒の影響を受けにくい。成長に必要な再投資は貸出の増える分の自己資本だけで、純利益の約 2 割 5 分で足りる(残りの約 7 割 5 分が株主に出せる)。ROE が 30% を超える稀な金融で、資本が軽い点は魅力である。
安全域では、ROE 30%・成長 4.0%・資本コスト 7.75% で利益ベースの式の上限 PER は 10 年目の利益に対して約 22 倍、置いたのはその 8 割の約 17.8 倍、今は 20.3 倍(昨年の利益に対して)で、余裕はほとんどない。上の筋書きはあるが、安全域が厚いわけではない。さらに、特典競争で費用が膨らみ ROE が 25% に落ちれば、式の PER は 16 倍前後になる。事業は予測しやすく確信度は高いが、値段には余裕が薄い。優良な事業を適正な値段で持ち続ければ報われるが、安く買える局面(景気後退で PER が 12〜14 倍に下がった時)を待つのが望ましい。
何で稼ぐ会社か
アメリカン・エキスプレスは 1850 年に生まれた老舗で、今は 4 つの事業からなる。①米国個人(USCS):年会費の高いプラチナ・ゴールド・デルタ航空提携カードなど。2025 年の収益は 348 億ドルで全体の約 48%、税引前利益は約 68 億ドル。会員の支出が大きく、年会費・加盟店手数料・利息の 3 つで稼ぐ。②法人・中小(CS):ビジネスカードと出張・経費の管理。収益は約 145 億ドル(推定)。③国際カード(ICS):米国外の個人・法人カード。④加盟店・ネットワーク(GMNS):加盟店の受け入れ手数料の管理と、提携銀行にカードを発行させる網の運営。この 2 つを合わせて収益約 229 億ドル(推定)として 1 つに束ねた。
稼ぎ方は「取扱高 × 収益率」である。会員が使った額(取扱高)の約 2.5% が加盟店手数料として入り、そこに年会費(プラチナの刷新で上がった)と、会員が残高を持った時の利息が加わる。ビザ(Visa)・マスターカード(Mastercard)は銀行がカードを出す開いた網で、手数料の大半は発行銀行に流れるが、アメリカン・エキスプレスは発行・網・加盟店契約を 1 社で持つため、手数料を丸ごと取り、会員の消費データも握る。
費用の大きな項目は、会員の特典・ポイント・マーケティングで、収益が増えるほど顧客への還元(変動費)も増える。2026 年 4〜6 月期は費用が 12% 増え、収益の伸び(10%)を上回った。会員に高い年会費の価値を感じさせ続けるための費用が、同社の競争の中心である。TheFork(欧州のレストラン予約)の買収を発表しており、飲食の予約を会員の特典に組み込む意図がある。
優良さと弱いところ
堀は 3 つある。①閉じた網:発行・網・加盟店契約を 1 社が持つのでデータと手数料を取り、新規参入は難しい。②富裕層の会員:1 人あたりの支出が競合のカードより大きく、加盟店は手数料が高くても受け入れる(会員が来るから)。③ブランド:年会費の高いカードを買う客の信用と特典の網(空港ラウンジ・提携・予約)は、積み上げた資産で、短期間では真似できない。
価格を決める力は強い。2025 年のプラチナ刷新で年会費を大幅に上げても、会員と取扱高は伸び続け、新規はミレニアル・Z 世代が多いという(会社の説明)。資本効率も高く、ROE は 2021 年以降 30% 前後を保つ(自己資本比率は 11%)。償却率は 2.0% で、貸倒への強さも銀行より上である。
弱い所も明確である。①特典の費用が収益より速く増える(2026 年 4〜6 月期の費用 +12% は収益 +10% を上回る)。競合の富裕層向けカード(チェース・サファイア・リザーブ、キャピタル・ワンのベンチャー X)が同じ会員を狙い、特典競争で利益率が下がる恐れがある。②ビザ・マスターカードより網が小さく、受け入れ店の少なさを埋めるために手数料を下げる圧力が続く。③経営はスクエリ氏のもとで安定しているが、事業は「消費の強い層」への依存が大きく、富裕層の消費が崩れる景気の局面に弱い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
米国のカード市場は、取扱高でビザ・マスターカードの 2 社がほぼ 8 割を握り、アメリカン・エキスプレスは約 2 割(推定)、残りがディスカバー(Discover)である。名目の消費は物価 3.5% に実質 2% が加わって年 5〜6% で伸び、現金とデビットからカードへの移行が実質の上乗せになる。アメリカン・エキスプレスの取扱高は直近 3 年とも物価を超える 8〜10% で伸び、市場より 2〜3 ポイント速くシェアを取ってきた。
競争の形が変わっている。キャピタル・ワンは 2025 年にディスカバーを買い、自前の網を持つ銀行になった。JPモルガン・チェースは年会費の高いサファイア・リザーブで富裕層を狙い、シティグループも上位の層にカードを出している。ステーブルコインや、ペイパル(PayPal)・アップル(Apple)の決済も周辺から手数料を削る力になる。
規制の火種は 2 つある。①クレジット・カード競争法:大手発行体に複数の網を使わせる法案で、2026 年 1 月に再提出されたが、過去は成立していない。アメリカン・エキスプレスは自社の網の中で完結するので直接の影響は小さいが、ビザ・マスターカードの手数料が下がれば、受け入れ店の手数料差の説明が難しくなる。②カード金利の上限:2026 年 1 月に大統領が 10% 上限を打ち上げたが、法制の裏づけはなく、実現しにくいと受け止められている。同社は利息が収益の約 2 割 で、年会費・手数料が主体なので、銀行・SYF(シンクロニー)ほどは打撃を受けない。
循環でいえば、償却率 2.0% は 2010 年代の平均より低く、景気の山に近い。物価と金利が高止まりすると、低所得層より富裕層は耐えるが、支出の減速は取扱高と手数料に響く。
資本政策と M&A
還元は配当と自社株買いで、2025 年は配当約 23 億ドル・自社株買い約 58 億ドルの合計 81 億ドル(純利益の約 75%)。2026 年は配当を約 16% 増やし、株数は毎年 2〜3% 減っている(2026 年 4〜6 月期は前年比 −3%)。この分析の還元額は株式報酬による増加分を引いた正味の還元で置いた。
資本配分は 3 つの優先順位で動く。①成長への投資(特典・マーケティング・技術)、②配当、③余りを自社株買い。2026 年は収益の超過を投資に回し 1 株利益の見通しを据え置いたが、これは自社株買いより成長への再投資を選んだ判断である。割高な局面での自社株買いは価値を減らすので、PER 20 倍台後半の買いは注意する。
M&A は小さい。2025 年は TheFork の買収を発表したが、規模は小さく、バリュエーションに響かない。銀行を買うこともなく、買われる側になる可能性もない。買収で事業を広げるより、自前の網と会員基盤で有機的に伸ばす会社で、資本配分の規律は高い。 なお、決算期末後に実行済みの自社株買い 42.1 億ドル(10-Q・2026 年 1〜6 月)は、今の株数(時価総額)に反映済みなので、10 年の還元(payout_oku)からは除いてある。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
閉じた網を持つ決済会社は他になく、取扱高は直近 3 年とも市場より 2〜3 ポイント速く伸びている(2026 年 4〜6 月期は 9% 増で、3 年で最高の伸び)。プラチナ刷新でミレニアル・Z 世代の新規が増え、生涯の価値が高い層を取り込んでいる。会員が増えれば加盟店の受け入れが広がり、データと特典の網が厚くなる好循環に入っている。
年会費は先に入るので、貸倒が増えても利益が崩れない。償却率は 2.0% と銀行の半分で、法人カードの管理・出張の領域では競争力が高い。国際カードも米国外で伸び、加盟店の受け入れ拡大とネットワーク事業の提携が収益を増やす。ROE は 30% を超え、配当と自社株買いで純利益の約 75% を返しても、株数は毎年 2〜3% 減っている。
費用の増加も、投資が収益の成長を買っている形である。収益成長が 10% 以上を保てば、費用率が少し上がっても利益は年 8〜9% 増え、ROE 30% を保ちながら、10 年で純利益は 1.8 倍に届く。クレジット・カード競争法や金利上限はこれまで成立せず、成立しても閉じた網には直接の影響が小さい。富裕層の消費は、景気の後退でも崩れにくい。10 年で収益が 2 倍に届き、PER 20 倍前後が付く可能性は十分ある。
慎重な見方
2025〜26 年の利益は、償却率 2.0% という景気の山の値に乗っている。2026 年 4〜6 月期の貸倒引当は 11 億ドルと、引当の取り崩しで押し下げられ、費用は収益の伸びを上回って 12% 増えた。収益の超過を投資に回して利益見通しを据え置いたのは、成長のために費用が増え続けていることの現れで、「成長の費用が高すぎる」というアナリストの懸念はもっともである。
競争は激しくなっている。JPモルガン・チェースのサファイア・リザーブ、キャピタル・ワンのベンチャー X・ディスカバー統合、シティグループの上位層カードが同じ富裕層を狙い、特典競争で年会費の価値の説明がむずかしくなる。ビザ・マスターカードの網が広く、アメリカン・エキスプレスの受け入れ店の少なさを補うために手数料を下げる圧力が続く。クレジット・カード競争法は過去に成立していないが、成立すれば網の優位が揺らぐ。2026 年 1 月に大統領が打ち出した金利上限も、一度出た提案は再び浮かぶ。
倍率にも安全域が薄い。ROE 30%・g 4.0%・k 7.75% の利益ベースの式の上限 PER は約 22 倍で、置いた中立の約 17.8 倍より今の 20.3 倍の方が高い。景気後退の局面では PER が 12 倍前後まで下がった(リーマンでは株価が 80% 下がった)。ROE が 25% に落ちると、10 年後の時価総額は今を下回る。
どちらに重みを置いたか
事業の質は強気の見方が強いが、値段の安全域は慎重な見方が突いている。確率は 10 年で楽観・やや楽観の合計 37%、悲観・やや悲観の合計 32% と、わずかに楽観側へ寄せた(JPM と同じ形)。10 年は構造的な負け(網の優位の喪失・規制・特典競争)を 12% に置き、倍率は全筋書きで式どおりにした。結論は「優良で、適正」である。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 484.35 ドル3,371 億ドル(+ 配当配当と自社株買いの合計 156.14 ドル1,087 億ドル)。 今の値に割り戻すと 337.11 ドル2,346 億ドル、今との差 +3.7%、 期待の年率 +7.0%(資本コスト 7.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 766.52 ドル5,335 億ドル | 193.66 ドル1,348 億ドル | +195.3% | +11.4% | 115.22 ドル802 億ドル |
| やや楽観 | 25% | 662.07 ドル4,608 億ドル | 182.17 ドル1,268 億ドル | +159.6% | +10.0% | 211.06 ドル1,469 億ドル |
| 中立 | 31% | 501.87 ドル3,493 億ドル | 164.93 ドル1,148 億ドル | +105.1% | +7.4% | 206.71 ドル1,439 億ドル |
| やや悲観 | 20% | 296.55 ドル2,064 億ドル | 134.76 ドル938 億ドル | +32.6% | +2.9% | 86.26 ドル600 億ドル |
| 悲観 | 12% | 99.71 ドル694 億ドル | 77.28 ドル538 億ドル | −45.6% | −5.9% | 21.24 ドル148 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 484.35 ドル3,371 億ドル | 156.14 ドル1,087 億ドル | +97.0% | +7.0% | 640.49 ドル4,458 億ドル |
今の株価時価総額 325.17 ドル2,263 億ドル(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 12% 楽観:シェアを取り続け、収益は 10 年で 2.3 倍 利益 267 億ドル · PER 20.0 倍 · 株価時価総額 766.52 ドル5,335 億ドル
10 年後(2035 年末)、取扱高は年 9.5% で伸び、米国個人の収益は 791 億ドル、法人は 325 億ドル、国際と提携網は 563 億ドル、合計 1,677 億ドル。若い会員の生涯価値が積み上がり、年会費・手数料が増える。AI で顧客対応と与信の費用が下がり、営業利益率は 20.6%。純利益は約 268 億ドル(2025 年の 2.5 倍)、ROE は約 33%。10 年の還元は 1,348 億ドル。国際と提携網は米国外の中間層の拡大と加盟店の受け入れ拡大で厚みを増す。倍率は利益ベースの式の上限(g 4.0%・帳簿の ROE 34.1%・k 7.75%)の約 8.9 割で PER 20.0 倍。
- 米国個人(USCS):数量 17,000(取扱高(億ドル、名目))× 価格 0.05(取扱高あたりの収益率(加盟店手数料+年会費+利息))→ 売上 790 億ドル・営業利益 170 億ドル。取扱高の伸び
- 法人・中小(CS):数量 10,000(取扱高(億ドル、名目))× 価格 0.03(取扱高あたりの収益率)→ 売上 325 億ドル・営業利益 78 億ドル。法人の取扱高
- 国際カード+加盟店・ネットワーク(ICS+GMNS):数量 12,500(米国外と提携網の取扱高(億ドル、名目))× 価格 0.05(取扱高あたりの収益率)→ 売上 562 億ドル・営業利益 112 億ドル。米国外と提携網
倍率:純利益と自己資本は優先配当(年約 1 億ドル)・優先株(約 16 億ドル)を引いた普通株の値(いずれも推定)。のれんと無形資産(約 45 億ドル・推定)を除くと事業の ROE は帳簿より 2〜3 ポイント高いが、ここでは検査と同じ帳簿の ROE で置く。利益ベースの正当化 PER で置く(SCHEMA §1-1):k 7.75%(基本 8.0%+quality -0.25%)、事業の ROE 34.1%(純利益÷自己資本)、g 4.0%、残る割合 2/3(堀:strong)で RONIC 25.3% → (1−g÷RONIC)÷(k−g)=22.4 倍が上限。利益の質(自前の決済網と年会費・加盟店手数料の堀が強く、決済額と貸倒の景気感応度は中程度)から、上限の 8.9 割の PER 20.0 倍に置いた(検査の上限は時価総額 5994 億ドル)。
確率:取扱高 年 9.5%・網の優位・規制の不成立がそろう展開。10 年を通じた実現は 1 割強。
やや楽観 25% やや楽観:取扱高 年 8%、特典は織り込み済み 利益 231 億ドル · PER 20.0 倍 · 株価時価総額 662.07 ドル4,608 億ドル
10 年後(2035 年末)、取扱高は年 8% で伸び続け、プラチナ・ゴールドの若い会員が生涯にわたって定着し、法人の管理サービスや提携網も広がる。米国個人 718 億ドル、法人 294 億ドル、国際と提携網 498 億ドル、合計 1,510 億ドル。特典競争で営業利益率は 19.9% とほぼ今の水準を保ち、貸倒は 2.5% 前後に落ち着く。クレジット・カード競争法などの規制は大きな変更なく過ぎる。純利益は約 232 億ドル(2025 年の 2.1 倍)、ROE は約 33%。10 年の還元は 1,268 億ドル。特典の費用は収益と同じ速さで増えるに留まり、規制の大きな逆風もない。倍率は利益ベースの式の上限(g 4.0%・帳簿の ROE 33.8%・k 7.75%)の約 8.9 割で PER 20.0 倍。
- 米国個人(USCS):数量 15,600(取扱高(億ドル、名目))× 価格 0.05(取扱高あたりの収益率(加盟店手数料+年会費+利息))→ 売上 718 億ドル・営業利益 151 億ドル。取扱高の伸び
- 法人・中小(CS):数量 9,200(取扱高(億ドル、名目))× 価格 0.03(取扱高あたりの収益率)→ 売上 294 億ドル・営業利益 69 億ドル。法人の取扱高
- 国際カード+加盟店・ネットワーク(ICS+GMNS):数量 11,200(米国外と提携網の取扱高(億ドル、名目))× 価格 0.04(取扱高あたりの収益率)→ 売上 498 億ドル・営業利益 95 億ドル。米国外と提携網
倍率:純利益と自己資本は優先配当(年約 1 億ドル)・優先株(約 16 億ドル)を引いた普通株の値(いずれも推定)。のれんと無形資産(約 45 億ドル・推定)を除くと事業の ROE は帳簿より 2〜3 ポイント高いが、ここでは検査と同じ帳簿の ROE で置く。利益ベースの正当化 PER で置く(SCHEMA §1-1):k 7.75%(基本 8.0%+quality -0.25%)、事業の ROE 33.8%(純利益÷自己資本)、g 4.0%、残る割合 2/3(堀:strong)で RONIC 25.1% → (1−g÷RONIC)÷(k−g)=22.4 倍が上限。利益の質(自前の決済網と年会費・加盟店手数料の堀が強く、決済額と貸倒の景気感応度は中程度)から、上限の 8.9 割の PER 19.9 倍に置いた(検査の上限は時価総額 5178 億ドル)。
確率:最近の勢いが 10 年続く、強気の見方に近い。
中立 31% 中立:優良な成熟決済会社として名目並みを上回る成長 利益 196 億ドル · PER 17.8 倍 · 株価時価総額 501.87 ドル3,493 億ドル
10 年後、取扱高は年 7% で、米国個人 646 億ドル、法人 265 億ドル、国際と提携網 440 億ドル、合計 1,351 億ドル。10 年に 2 回の景気後退を挟み、純利益が一時的に 3 割下がるが、ならせば年 6% 増。営業利益率は特典の費用上昇で 18.9% へやや下がる。純利益は約 197 億ドル(2025 年の 1.8 倍)、ROE は約 30%。10 年の還元は 1,148 億ドル(純利益の約 76%)。g 4.0%・k 7.75% の式の上限 PER 22.0 倍の 8 割で PER 17.8 倍。今の 20.3 倍に寄せていない。競合のチェース・キャピタル・ワンが会員を取る年もあるが、アメリカン・エキスプレスが失う分は新規の若い会員で埋まる。
- 米国個人(USCS):数量 14,200(取扱高(億ドル、名目))× 価格 0.05(取扱高あたりの収益率(加盟店手数料+年会費+利息))→ 売上 646 億ドル・営業利益 129 億ドル。取扱高の伸び
- 法人・中小(CS):数量 8,400(取扱高(億ドル、名目))× 価格 0.03(取扱高あたりの収益率)→ 売上 265 億ドル・営業利益 60 億ドル。法人の取扱高
- 国際カード+加盟店・ネットワーク(ICS+GMNS):数量 10,000(米国外と提携網の取扱高(億ドル、名目))× 価格 0.04(取扱高あたりの収益率)→ 売上 440 億ドル・営業利益 81 億ドル。米国外と提携網
倍率:純利益と自己資本は優先配当(年約 1 億ドル)・優先株(約 16 億ドル)を引いた普通株の値(いずれも推定)。のれんと無形資産(約 45 億ドル・推定)を除くと事業の ROE は帳簿より 2〜3 ポイント高いが、ここでは検査と同じ帳簿の ROE で置く。利益ベースの正当化 PER で置く(SCHEMA §1-1):k 7.75%(基本 8.0%+quality -0.25%)、事業の ROE 30.4%(純利益÷自己資本)、g 4.0%、残る割合 2/3(堀:strong)で RONIC 22.9% → (1−g÷RONIC)÷(k−g)=22.0 倍が上限。利益の質(富裕層の会員と閉じた決済網で手数料が厚い一方、償却率 2.0% は山の値で中立では 2.5% へ平常化し、特典競争で費用が先行する)から、上限の 8.1 割の PER 17.8 倍に置いた(検査の上限は時価総額 4313 億ドル)。
確率:業界ノートの中立(カード ROE 15〜20%)を上回る閉じた網の地位を認めつつ、確率の中心を 3 割に置く。
やや悲観 20% やや悲観:特典競争とシェア喪失で、ROE が 25% 前後へ 利益 129 億ドル · PER 16.0 倍 · 株価時価総額 296.55 ドル2,064 億ドル
10 年後、チェース・キャピタル・ワンの特典競争と、ディスカバー統合後のキャピタル・ワンの網、ビザ・マスターカードの手数料の優位で、アメリカン・エキスプレスの取扱高は年 4.5% に鈍る。米国個人 506 億ドル、法人 216 億ドル、国際と提携網 328 億ドル、合計 1,050 億ドル。貸倒は 3% へ上がり、営業利益率は 16.1% に下がる。純利益は約 130 億ドル、ROE は約 24%。10 年の還元は 938 億ドル。取扱高が伸びても費用が先に増え、会員の質を保つために年会費の値上げは難しい。g 4.0%・k 7.75% の式の上限 PER 21.1 倍の 7.6 割で PER 16.0 倍。
- 米国個人(USCS):数量 11,500(取扱高(億ドル、名目))× 価格 0.04(取扱高あたりの収益率(加盟店手数料+年会費+利息))→ 売上 506 億ドル・営業利益 86 億ドル。取扱高の伸び
- 法人・中小(CS):数量 7,200(取扱高(億ドル、名目))× 価格 0.03(取扱高あたりの収益率)→ 売上 216 億ドル・営業利益 43 億ドル。法人の取扱高
- 国際カード+加盟店・ネットワーク(ICS+GMNS):数量 8,000(米国外と提携網の取扱高(億ドル、名目))× 価格 0.04(取扱高あたりの収益率)→ 売上 328 億ドル・営業利益 52 億ドル。米国外と提携網
倍率:純利益と自己資本は優先配当(年約 1 億ドル)・優先株(約 16 億ドル)を引いた普通株の値(いずれも推定)。のれんと無形資産(約 45 億ドル・推定)を除くと事業の ROE は帳簿より 2〜3 ポイント高いが、ここでは検査と同じ帳簿の ROE で置く。利益ベースの正当化 PER で置く(SCHEMA §1-1):k 7.75%(基本 8.0%+quality -0.25%)、事業の ROE 24.6%(純利益÷自己資本)、g 4.0%、残る割合 2/3(堀:strong)で RONIC 19.0% → (1−g÷RONIC)÷(k−g)=21.1 倍が上限。利益の質(特典競争とシェア喪失で ROE が下がり、償却率も平常化する)から、上限の 7.6 割の PER 16.0 倍に置いた(検査の上限は時価総額 2716 億ドル)。
確率:競合の特典競争・網の優位の低下・貸倒の平常化が重なる展開。
悲観 12% 悲観:網の優位を失い、普通のカード会社になる 利益 53 億ドル · PER 13.1 倍 · 株価時価総額 99.71 ドル694 億ドル
10 年後、クレジット・カード競争法の成立か同等の規制で加盟店手数料の差が縮み、ステーブルコインなど代替決済も手数料を削る。年会費の価値は特典競争で下がり、収益率は 3.4〜3.8% に低下。取扱高は年 3% に鈍り、米国個人 312 億ドル、法人 140 億ドル、国際と提携網 204 億ドル、合計 656 億ドル。営業利益率は 11% 台、純利益は約 54 億ドル、ROE は約 11%。10 年の還元は 538 億ドル。同時に、不況の 1〜2 回で貸倒が重なる。もう優良な決済会社ではなく、普通のカード会社として PER 13.1 倍で定着する(ROE 11%〔のれんを除くと 12%〕・g 3.5%・k 7.75% の式。PBR は約 1.4 倍)。
- 米国個人(USCS):数量 8,200(取扱高(億ドル、名目))× 価格 0.04(取扱高あたりの収益率(加盟店手数料+年会費+利息))→ 売上 312 億ドル・営業利益 37 億ドル。取扱高の伸び
- 法人・中小(CS):数量 5,400(取扱高(億ドル、名目))× 価格 0.03(取扱高あたりの収益率)→ 売上 140 億ドル・営業利益 21 億ドル。法人の取扱高
- 国際カード+加盟店・ネットワーク(ICS+GMNS):数量 6,000(米国外と提携網の取扱高(億ドル、名目))× 価格 0.03(取扱高あたりの収益率)→ 売上 204 億ドル・営業利益 24 億ドル。米国外と提携網
倍率:谷ではなく構造的な低 ROE。純利益と自己資本は優先配当(年約 1 億ドル)・優先株(約 16 億ドル)を引いた普通株の値(いずれも推定)。ROE はのれんと無形資産(約 45 億ドル・推定)も除いた事業の ROE で 12.1%。利益ベースの正当化 PER で置く(2026-10-18 の決まり):ROE 12.1%(上の有形自己資本などの取り方) のうち資本コスト k 8.30% を超える分は、新しく投じるお金では 2/3 だけ残るとして RONIC = k + 2/3 ×(ROE − k)= 10.8%、g 3.5% で (1 − g ÷ RONIC) ÷ (k − g) ≒ 14.1 倍、10 年目の利益に掛けるので ×(1+g) で正当化 PER 14.6 倍。利益の質(富裕層の会員と閉じた決済網で手数料が厚く、貸倒れは景気で振れる)から、その 9.0 割の PER 13.1 倍に置いた(検査の上限 14.6 倍(帳簿 ROE 11.0%・g 4.5%)の 90%)。
確率:クレジット・カード競争法や手数料規制・金利上限・特典競争が重なる構造的な負けを 1 割強と置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
米国個人(USCS)
米国の個人会員向けプラチナ・ゴールド・提携カード。年会費・加盟店手数料・利息で稼ぐ。
| 数量取扱高(億ドル、名目) | 価格取扱高あたりの収益率(加盟店手数料+年会費+利息) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 7,300 | 0.05 | 348 | 68 |
| 10 年後 中立 | 14,200 | 0.05 | 646 | 129 |
取り方:2025 年の取扱高 1 兆 6,698 億ドルのうち米国個人は約 7,300 億ドル(推定)、収益 348 億ドル(全体の 48.2%、二次記事の値)を割った率 4.77%。営業利益は税引前利益 68 億ドル(+7%)。市場でみると米国のカード取扱高の約 2 割をアメリカン・エキスプレスが占め、米国個人は上位の富裕層に偏る(競合はチェース・サファイア・リザーブ・キャピタル・ワン)。取扱高は名目なので物価 3.5%(3 年 1.11 倍・10 年 1.41 倍)が数量に入り、収益率は物価で上げず、特典費用の上昇で少しずつ下げる。
法人・中小(CS)
ビジネスカードと出張・経費の管理。中小企業とグローバル大企業の法人向け。
| 数量取扱高(億ドル、名目) | 価格取扱高あたりの収益率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 4,400 | 0.03 | 145 | 34 |
| 10 年後 中立 | 8,400 | 0.03 | 265 | 60 |
取り方:法人の取扱高は約 4,400 億ドル(推定)、収益は約 145 億ドル(推定)で率 3.3%。営業利益は 2025 年 1〜3 月の税引前 8.4 億ドルの年率から約 34 億ドルとした(推定)。競合はチェース・シティ・U.S. バンコープなどの法人カード、出張・経費管理ではコンカー(Concur)。法人は年会費の割合が低く、取扱高に比例して加盟店手数料が増える。取扱高は名目で物価を含み、収益率は物価で上げない。
国際カード+加盟店・ネットワーク(ICS+GMNS)
米国外の個人・法人カードと、加盟店の受け入れ・提携銀行の網を運営する事業。
| 数量米国外と提携網の取扱高(億ドル、名目) | 価格取扱高あたりの収益率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 5,000 | 0.05 | 229 | 44 |
| 10 年後 中立 | 10,000 | 0.04 | 440 | 81 |
取り方:全体の取扱高 16,698 億ドルから米国個人 7,300 と法人 4,400 を引いた約 5,000 億ドル(米国外のカードと提携網の取扱高、推定)。収益は全体 722 から上の 2 つを引いた約 229 億ドル(推定)で率 4.58%。営業利益は ICS と GMNS の税引前の推定合計 44 億ドル。競合はビザ・マスターカード・ユニオンペイ。名目の取扱高に物価と米国外の実質の成長が入る。収益率は物価で上げない。
リスクと懸念
特典競争と費用の膨張
チェース・サファイア・リザーブ、キャピタル・ワンのベンチャー X が同じ富裕層を狙い、特典・ポイント・マーケティングの費用が収益より速く増えている(2026 年 4〜6 月期は費用 +12% で収益 +10% を上回った)。年会費の価値の説明が難しくなると、利益率が下がる。
信用循環(償却率 2.0% は山の値)
カードの償却率は 2.0% と 2010 年代の平均より低く、景気の山に近い。物価と金利が高止まりして失業が増えれば、リーマン時(8% 台)に近い貸倒が起きうる。年会費で一部は吸収されるが、利益の約半分が消える恐れがある。
クレジット・カード競争法と手数料規制
大手発行体に複数の網を使わせる法案は 2026 年 1 月に再提出された。過去は成立していないが、成立するかビザ・マスターカードの手数料が義務的に下がれば、アメリカン・エキスプレスの網の優位(高い手数料の説明)が揺らぐ。
カード金利の上限
2026 年 1 月に大統領が 1 年間の 10% 上限を打ち出し、アメリカン・エキスプレス株は一時 4% 超下げた。法制の裏づけはなく、議会の賛成も得にくいため実現しにくいが、利息は収益の約 2 割あり、仮に成立すれば貸出の利ざやが削られ、会員への特典の原資も減る。一度出た提案は選挙や景気の局面で再び浮かぶ。
富裕層の消費への依存
収益の大半が支出の大きな富裕層の会員に偏る。株価が大きく下がる局面(株高が支える消費の逆回転)や、高所得層の失業が起きれば、取扱高と年会費の更新が同時に落ち、貸倒も増えて、利益が一度に傷む。中小企業の法人会員も景気に左右される。
決済の置き換え(ステーブルコイン・ウォレット・即時決済)
ステーブルコインや、アップル(Apple)・ペイパル(PayPal)などの決済が、カード網を迂回して加盟店の手数料を削る。閉じた網の優位が 10 年続くかが最も長い問いで、置き換わる速さは不確実である。即時決済が広がれば、加盟店は高い手数料の説明を求める。
スクエリ氏の後継と、新しい買収(TheFork)の実行
経営はスクエリ氏のもとで安定しているが、長期の後継は公表されておらず、強い個人の指導力に頼る面がある。欧州のレストラン予約の TheFork 買収は規模こそ小さいが、特典の網を広げる投資として費用がかさみ、本業と離れる恐れもある。
今後の分かれ目
- 失業率が 5% を超え、カードの 30 日延滞が 2 四半期連続で上がったら
- 償却率は 3% を超えて引当が積み上がり、やや悲観・悲観の確率を上げる。利益が落ちても事業は続く前提で考える。
- クレジット・カード競争法が採決の見込みに入ったら
- 網の優位の低下を見て、悲観(10 年)の確率を上げ、ROE と g を下げて式で倍率を引き直す。成立しなければ元に戻す。
- 収益成長が 10% を超えても 1 株利益の見通しが据え置かれる状態が続いたら
- 費用の増加が構造化していると見て、営業利益率を 1 ポイント下げた筋書きの確率を上げる。
- プラチナの更新率と新規の会員(若い層)の定着が示されたら
- 年会費の価値が証明されたと見て、楽観・やや楽観の確率を上げる。
- ビザ・マスターカードの手数料が義務的に下がる判決か和解が出たら
- アメリカン・エキスプレスの手数料差の説明が難しくなり、収益率を下げた筋書きを厚くする。
- カード金利の上限が、議会で法案として前に進んだら
- 利息は収益の約 2 割で影響は限定的だが、銀行・シンクロニーより小さいことを確認し、収益率を 0.2 ポイント下げて見る。
見ておくもの
- 取扱高の伸び(為替調整後)と収益成長、費用の伸びとの差
- カードの償却率・30 日延滞・貸倒引当の積み増しか取り崩しか
- プラチナ・ゴールドの年会費の更新率と、新規会員(若い層)の数
- クレジット・カード競争法・手数料の判決・カード金利上限の動き
- 加盟店の受け入れ拡大と、キャピタル・ワン(ディスカバー統合後)の網の動き
- 四半期の自社株買いと配当(株数の減少率 2〜3% が続くか)
倍率と資本コストの決め方
今の PER 20.3 倍・PBR 6.5 倍を見る前に、3 つのセグメントを取扱高 × 収益率で積み上げ、営業利益率・ROE・g・k から利益ベースの上限 PER を出し、その 8〜9 割に倍率を置いた。10 年の中立は帳簿の ROE 30.4%(のれんを除くと 32%)・g 4%・k 7.75%(基本 8.0% に quality −0.25%)・強い堀(資本コストを超える稼ぎの 2/3 が残る)で上限 PER 22.0 倍、その 8 割の 17.8 倍とした。償却率 2.0% は山の値と見て、中立では 2.5% へ平常化し、特典競争で費用が先行する分を、上限から 2 割離す理由にした。今の 20.3 倍に寄せていない。表の純利益・自己資本は優先株を除く普通株の値で、文章の純利益・ROE は優先配当前の値。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 5% + β 1.06 × 5%。k = 基本 8.0% + quality −0.25% = 7.75%。自前の決済網・年会費・加盟店手数料という強い堀(strong)で値決め力は大手銀行より上だが、景気で決済額と貸倒が振れるため、下げは小さくした。規制(カード競争法・手数料上限)は k に足さず、悲観の確率と利益率で表した。