結論
PNC は全米の大手銀行で、期末の貸出が 3,788 億ドル、2026 年 7〜9 月期の平均貸出は 3,722 億ドル、平均預金は 4,612 億ドル。2026 年 1 月に FirstBank(コロラド・アリゾナ、資産 268 億ドル、95 店)の買収を終え、7〜9 月期の純利益は 21.0 億ドル(前年同期比 +15%)、効率比率 57%、有形普通株の利益率(ROTCE)18.3%、純金利マージン(NIM)2.94% まで上がった。収益の約 6 割が純金利収益で、残りが手数料(資産運用・資金管理・資本市場・カード)。
事業の質は、BBVA USA の買収(2021 年)で全米の南西部・南東部に広がった預金基盤と、中堅・大企業向けの資金管理にある。USバンコープのような決済ネットワークは持たないため手数料の厚みは劣るが、2024 年から進める新店の全米展開(累計 300 店計画、2026 年は 55 店超)と、法人の貸出・預金の取引網が成長の柱になる。弱みは、CET1 が 9.8% と同業の中で薄く、AOCI の含み損が約 65 億ドル残ること、商業用不動産が貸出の約 1 割あること、新店投資の回収に時間がかかることである。
資本コスト 8.25%(基本 8.0% に quality +0.25%)の利益ベースの式では、10 年後の有形自己資本の利益率 15.6%(帳簿の ROE は 13.3%、新しく投じるお金の稼ぎは 10.8% に薄れる)・成長 4.0% から上限 PER 14.8 倍、その 9 割の 13.3 倍に置いた。中立の筋書きは 10 年後の時価総額が今の約 1.9 倍。ただし 10 年のうちの不況(やや悲観、確率 21%)と、預金流出と信用の損失で構造的に負ける確率(12%)を置いた。結論は割安だが、倍率は資本コストと成長の差が小さい前提に敏感である。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、銀行は預金を集めて貸す事業で、見るのは預金の質(安く長く残るか)、貸出の質(景気が悪い時に損をしないか)、費用の規律、資本の配分である。PNC は預金が貸出より 1,000 億ドル近く多く、非利息付き預金が 1,000 億ドルを超え、純償却率は 0.28% と低い。FirstBank を割安に買って統合を終えつつあり、効率比率は 57% まで下がった。10 年後もこの事業は存在し、規模の利益で今より強いと考える。
オーナー利益(株主のものになる利益)は、純利益から貸出が 4〜5% 伸びる分の自己資本を引いた額で、純利益の約 7 割が還元できている。懸念は、CET1 が 9.8% と薄く不況で余裕が小さいこと、商業用不動産が貸出の約 1 割あること、新店 300 店への投資が回収されること、決済ネットワークのような高い手数料の堀を持たないこと。安全域は、悲観(構造的に負け、ROTCE 8%)でも PBR 0.85 倍前後で定着する前提にある。わかりにくいのは新店投資の採算と預金の流出で、確信度は中程度とした。
何で稼ぐ会社か
個人向け銀行(Retail Banking)は、支店とデジタルで預金・住宅ローン・自動車・クレジットカード・小規模事業向け貸出を提供する。2026 年 7〜9 月期の平均貸出は 1,079 億ドル、平均預金は 2,671 億ドルで、預金が貸出の 2.5 倍と、預金の厚い部門である。純利益は 14.3 億ドルで全社の約 7 割にあたる(資金の内部振替を含む部門の値)。FirstBank の統合(約 78 万人の顧客を 2026 年 6 月に移行)で預金と店舗が増え、新店は 2026 年だけで 55 店超を開く計画。
法人・機関向け銀行(Corporate & Institutional Banking)は、中堅・大企業向けの貸出(平均 2,477 億ドル)・資金管理・商業用不動産・市場業務・資本市場で、預金は 1,640 億ドル。7〜9 月期の純利益は 15.5 億ドルで、収益の約 36% が手数料(資金管理・資本市場・デリバティブ)。FirstBank の法人顧客がコロラド・アリゾナの中堅企業の基盤を足した。
資産運用(Asset Management Group)は富裕層向けの運用・信託・個人向け資産管理で、平均貸出 148 億ドル・預金 269 億ドル、7〜9 月期の純利益 1.3 億ドルと小さいが、手数料は運用残高に連動する。会社全体の収益は純金利収益が約 64%、非金利収益(手数料など)が約 36%。2026 年 4〜6 月期にはビザ(Visa)のクラス B-2 株の交換益 4.5 億ドルがあったが一時的な項目である。
優良さと弱いところ
堀は 3 層。第 1 は預金で、BBVA USA と FirstBank の買収を経て、個人向け預金 2,671 億ドル・法人預金 1,640 億ドル(平均、合計 4,612 億ドル)と、貸出の原資を安く確保する。非利息付き預金は 2026 年 4〜6 月期で 1,035 億ドルあり、預金コストを抑える。第 2 は法人の資金管理と、中堅企業との長い取引関係で、切り替えに手間がかかる。第 3 は規模で、2026 年の効率比率は 57% まで下がり、費用の規律と新店の費用を同時に吸収している。
資本効率は、普通株 ROE が 13.9%、ROTCE が 18.3%(2026 年 7〜9 月期)と、USバンコープ(ROTCE 18.5%)とほぼ並び、ウェルズ・ファーゴより高い。ただし ROTCE の分母の有形自己資本には AOCI の含み損(約 65 億ドル)が入っており、含み損が戻れば同じ利益でも ROTCE は 17% 近くへ下がる。NIM は 2.94% で、JPモルガンやバンク・オブ・アメリカより低い。
弱みは 4 つ。第 1 は資本で、CET1 が 9.8%(AOCI を除く Category III の基準)と同業大手より薄く、自社株買い(四半期 6 億ドル)を増やしにくい。第 2 は決済ネットワークを持たず、手数料の厚みが USB より薄い点。第 3 は商業用不動産(期末 370 億ドル、貸出の約 10%)。第 4 は新店 300 店の投資の回収。経営は 2013 年から CEO を務めるウィリアム・デムチャック(William Demchak)で、買収は割安な時に行い(BBVA USA・FirstBank)、規律を重んじる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
米国の銀行は、FDIC の 2026 年 4〜6 月期の速報で純利益 901 億ドル(年換算 3,600 億ドル)、ROA 1.37%、NIM 3.32% と利益の水準が高い。短期金利が 3.5〜4%、10 年国債が 5% 前後に止まる世界では、低利の債券・住宅ローンが満期で高利に入れ替わって NIM は少しずつ改善し、預金コストは 2010 年代のゼロには戻らない。PNC は FRB が利上げする想定(2026 年 12 月・2027 年 3 月)を置く。
PNC の NIM は 2.94% で業界平均(3.3%)より低く、含み損の残る低利の債券と、預金の高コスト化の影響が大きい。競合は、預金の約 4 割を握る上位 4 行(JPモルガン・バンク・オブ・アメリカ・ウェルズ・ファーゴ・シティグループ)と、同格のUSバンコープ・トゥルーイスト(Truist)、地銀のシチズンズ(Citizens)・フィフス・サード(Fifth Third)・M&T・リージョンズ。PNC は新店の全米展開で、フロリダ・テキサス・南東部(ダラス・ヒューストン・マイアミ・アトランタ)の大手との預金競争に加わる。
規制は緩和の方向で、資本規制(SLR の見直し・バーゼル III の再提案)が進めば自社株買いの余力が増え、銀行の M&A の承認も早まる(PNC の SCB は 2027 年末まで 2.5% の最低水準)。見ておく点は、商業用不動産の損失、預金コストと NIM、ステーブルコイン・MMF への預金流出、AI による費用の圧縮、カードの金利上限案である。
資本政策と M&A
還元は 2026 年 7〜9 月期で配当 8 億ドル+自社株買い 6 億ドル、純利益の約 7 割。4〜6 月期に四半期配当を 18% 引き上げた。CET1 が 9.8% と薄く、買収後の統合中でもあるので、自社株買いは 4 四半期ほど同じ水準(6 億ドル)の見通し。期末株数は 3.97 億株で、年に 0.5〜1% ずつ減っている。
買収は、2021 年の BBVA USA(約 110 億ドル)で全米の南部・西部へ広げ、2026 年 1 月に FirstBank(資産 268 億ドルのコロラド・アリゾナの地銀、95 店)でその 2 州を足した。デムチャックは大手の買収より新店の自前展開を優先する姿勢で、今後は規制緩和で承認が早まる地銀の買収の可能性は残るが、成立していない買収はここでは置かない。
ビザのクラス B-2 株の一部を 2026 年に現金化(利益 4.5 億ドル)したが、これは一時的で、利益には入れない。株式報酬による増加は小さく、配当と自社株買いの正味の還元で測る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ROTCE は 2026 年 1〜3 月期の 15.7% から 4〜6 月期 17.9%、7〜9 月期 18.3% へ 3 四半期で 2.6 ポイント上がり、効率比率は 61% から 57% へ下がった。NII は前年比 +15% で、低利の債券・住宅ローンの入れ替わりと FirstBank の統合が続く。NIM は 2.94% と同業の上位より低い分、改善の余地が大きい。
新店は 2026 年に 55 店超を開き、フロリダ・テキサスなど成長市場で預金の取り込みが進む。FirstBank の統合費用は 4〜6 月期の 1.27 億ドルがピークで、以降は消える。CET1 9.8% でも規制の最低(SCB 2.5%)は大きく上回り、規制緩和で自社株買いを増やせる。バリュー投資の観点では、ROTCE 18% の銀行が PBR 1.4 倍・PER 12.5 倍で買えるのは低すぎる。預金 4,600 億ドルの基盤と、法人の取引が 10 年かけて収益に変わる。
慎重な見方
ROTCE 18.3% は、AOCI の含み損 65 億ドルが分母を小さくしているのが 1 つ。7〜9 月期の純償却率 0.28% は景気の山の値で、10 年の平均は 0.45% 前後に戻る。非金利収益は 4〜6 月期の 27.7 億ドルから 23.6 億ドルへ下がった(前期にビザ株の交換益 4.5 億ドル)。CET1 は 10.1% から 9.9%、9.8% と下がり続け、AOCI を戻すと実質はさらに薄い。
新店 300 店の投資は、開業から採算まで 5〜7 年かかり、費用が先に出る。大手 4 行の預金競争が強く、FirstBank 後は預金が前期並みにとどまる。商業用不動産(370 億ドル)は借換えが重く、ステーブルコイン・MMF による預金流出が起きれば NIM の改善は止まる。USバンコープのような決済の堀は無く、手数料の価格決定力は小さい。10 年後は、預金と信用の損失で ROTCE が 10% を割る構造的な負けが 1 割強ある。
どちらに重みを置いたか
NII の伸び、効率比率の改善、規模の利益は強気の見方が強く、CET1 の薄さ・新店投資の回収・商業用不動産は慎重な見方が強い。そこで 10 年は中立に厚め(35%)、悲観 12%・やや悲観 21% と、USバンコープ(12%・20%)よりやや悲観寄りに置いた(決済の堀が無く、CET1 が薄いため)。倍率は利益ベースの式で、中立は帳簿の ROE 13.3%(ROTCE 15.6%。RONIC 10.8%)・g 4.0% から上限 PER 14.8 倍、その 9 割の 13.3 倍。ROTCE を今の 18.3% より低く置いたのは、AOCI の戻り・信用コストの正常化・資本の積み増しのため。結論は「優良で、割安」だが、倍率が前提に敏感な点は同業と同じである。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 393.68 ドル1,559 億ドル(+ 配当配当と自社株買いの合計 168.40 ドル667 億ドル)。 今の値に割り戻すと 291.48 ドル1,154 億ドル、今との差 +29.2%、 期待の年率 +9.6%(資本コスト 8.3%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 559.34 ドル2,215 億ドル | 215.66 ドル854 億ドル | +243.6% | +13.1% | 69.75 ドル276 億ドル |
| やや楽観 | 23% | 495.71 ドル1,963 億ドル | 197.98 ドル784 億ドル | +207.6% | +11.9% | 159.55 ドル632 億ドル |
| 中立 | 35% | 420.20 ドル1,664 億ドル | 180.05 ドル713 億ドル | +166.2% | +10.3% | 210.09 ドル832 億ドル |
| やや悲観 | 21% | 318.69 ドル1,262 億ドル | 152.02 ドル602 億ドル | +108.7% | +7.6% | 98.85 ドル391 億ドル |
| 悲観 | 12% | 127.78 ドル506 億ドル | 70.96 ドル281 億ドル | −11.9% | −1.3% | 23.85 ドル94 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 393.68 ドル1,559 億ドル | 168.40 ドル667 億ドル | +149.2% | +9.6% | 562.08 ドル2,226 億ドル |
今の株価時価総額 225.53 ドル893 億ドル(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.3% を下回るほど割高。
楽観 9% 楽観:全米展開が実り、費用の梃子と規制緩和で ROTCE は 19% 前後へ 利益 152 億ドル · PER 14.6 倍 · 株価時価総額 559.34 ドル2,215 億ドル
2035 年末、新店網(累計 300 店)がダラス・ヒューストン・マイアミ・アトランタなどで預金シェアを取り、個人向けの預金が低コストで厚くなる。FirstBank で得たコロラド・アリゾナの商業顧客も広がり、法人向けの貸出・預金が伸びる。効率比率は 50% 台前半まで下がり、純償却率は平均 0.45% 程度に収まる。資本規制の緩和で還元の余地が広がる。 個人向け銀行の貸出+預金は 6,562 億ドル、法人・機関向け 6,999 億ドル、資産運用 688 億ドル。収益は約 456 億ドル、営業利益 195 億ドル、普通株の純利益は約 152 億ドル(今の年換算の約 1.9 倍)。純利益の約 72% を還元する。倍率は式どおり PER 18.3 倍(PBR 約 5.2 倍、有形ベース)。時価総額は今の約 3.2 倍になる。
- 個人向け銀行(Retail Banking):数量 6,562(貸出と預金の平均残高の合計(億ドル))× 価格 0.04(残高あたりの純収益の率(利ざや+手数料))→ 売上 244 億ドル・営業利益 94 億ドル。個人向け銀行(Retail Banking)
- 法人・機関向け銀行(CIB):数量 6,999(貸出と預金の平均残高の合計(億ドル))× 価格 0.03(残高あたりの純収益の率(利ざや+手数料))→ 売上 186 億ドル・営業利益 93 億ドル。法人・機関向け銀行(CIB)
- 資産運用(AMG):数量 688(貸出と預金の平均残高の合計(億ドル))× 価格 0.04(残高あたりの純収益の率(利ざや+手数料))→ 売上 26 億ドル・営業利益 8 億ドル。資産運用(AMG)
倍率:純利益と自己資本は優先配当・優先株を引いた普通株の値。有形自己資本(AOCI の含み損を含む)で測った ROTCE は帳簿の ROE より高いが、ここでは検査と同じ帳簿の ROE で置く。利益ベースの正当化 PER で置く(SCHEMA §1-1):k 8.25%(基本 8.0%+quality +0.25%)、事業の ROE 16.2%(純利益÷自己資本)、g 4.0%、残る割合 1/2(堀:普通)で RONIC 12.2% → (1−g÷RONIC)÷(k−g)=15.8 倍が上限。利益の質(預金と法人の資金管理は厚いが、決済の堀がなく、CET1 が薄く、地銀型の貸出構成)から、上限の 9.2 割の PER 14.6 倍に置いた(検査の上限は時価総額 2407 億ドル)。
確率:新店 300 店の全米展開が当たり、フロリダ・テキサス・南東部で預金の取り込みが加速し、AI による費用の圧縮と資本規制の緩和が重なる姿。10 年で 9%(USB の楽観は 10%)。
やや楽観 23% やや楽観:新店が計画どおり育ち、ROTCE は 17% 台 利益 139 億ドル · PER 14.1 倍 · 株価時価総額 495.71 ドル1,963 億ドル
2035 年末、新店は開業 5〜7 年で採算に入り、新市場の預金シェアは目標の 7% 近くへ届く。法人向けは FirstBank を足場に中堅企業の取引が増え、市場業務・資本市場の手数料も広がる。効率比率は 55% 前後、10 年のうちに 1 回の不況(純償却率 2% 台)を挟んでも利益は戻る。 個人向け銀行の貸出+預金は 6,262 億ドル、法人・機関向け 6,670 億ドル、資産運用 655 億ドル。収益は約 431 億ドル、営業利益 178 億ドル、普通株の純利益は約 139 億ドル(今の年換算の約 1.7 倍)。純利益の約 70% を還元する。倍率は式どおり PER 17.5 倍(PBR 約 4.2 倍、有形ベース)。時価総額は今の約 2.8 倍になる。
- 個人向け銀行(Retail Banking):数量 6,262(貸出と預金の平均残高の合計(億ドル))× 価格 0.04(残高あたりの純収益の率(利ざや+手数料))→ 売上 231 億ドル・営業利益 86 億ドル。個人向け銀行(Retail Banking)
- 法人・機関向け銀行(CIB):数量 6,670(貸出と預金の平均残高の合計(億ドル))× 価格 0.03(残高あたりの純収益の率(利ざや+手数料))→ 売上 176 億ドル・営業利益 85 億ドル。法人・機関向け銀行(CIB)
- 資産運用(AMG):数量 655(貸出と預金の平均残高の合計(億ドル))× 価格 0.04(残高あたりの純収益の率(利ざや+手数料))→ 売上 24 億ドル・営業利益 7 億ドル。資産運用(AMG)
倍率:純利益と自己資本は優先配当・優先株を引いた普通株の値。有形自己資本(AOCI の含み損を含む)で測った ROTCE は帳簿の ROE より高いが、ここでは検査と同じ帳簿の ROE で置く。利益ベースの正当化 PER で置く(SCHEMA §1-1):k 8.25%(基本 8.0%+quality +0.25%)、事業の ROE 14.8%(純利益÷自己資本)、g 4.0%、残る割合 1/2(堀:普通)で RONIC 11.5% → (1−g÷RONIC)÷(k−g)=15.4 倍が上限。利益の質(預金と法人の資金管理は厚いが、決済の堀がなく、CET1 が薄く、地銀型の貸出構成)から、上限の 9.2 割の PER 14.1 倍に置いた(検査の上限は時価総額 2134 億ドル)。
確率:新店網が計画どおりに採算へ入り、費用の規律が続く姿。強気の見方が中程度に強いので 23%。
中立 35% 中立:名目の経済成長並みに伸び、ROTCE は 16% 前後に落ち着く 利益 125 億ドル · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 420.20 ドル1,664 億ドル
2035 年末、3 部門とも貸出と預金が名目の経済成長に新店の上乗せを足した年 4.5〜5% で伸び、利ざやと手数料の率は今の水準をやや下回る。10 年のうちに不況を 1 回挟み、純償却率は平均 0.45% 前後に正常化する。FirstBank の統合費用は終わり、新店の費用は計画どおり吸収される。 個人向け銀行の貸出+預金は 6,000 億ドル、法人・機関向け 6,381 億ドル、資産運用 626 億ドル。収益は約 408 億ドル、営業利益 161 億ドル、普通株の純利益は約 125 億ドル(今の年換算の約 1.5 倍)。純利益の約 68% を還元する。倍率は式どおり PER 16.4 倍(PBR 約 3.5 倍、有形ベース)。時価総額は今の約 3.2 倍になる。
- 個人向け銀行(Retail Banking):数量 6,000(貸出と預金の平均残高の合計(億ドル))× 価格 0.04(残高あたりの純収益の率(利ざや+手数料))→ 売上 219 億ドル・営業利益 79 億ドル。個人向け銀行(Retail Banking)
- 法人・機関向け銀行(CIB):数量 6,381(貸出と預金の平均残高の合計(億ドル))× 価格 0.03(残高あたりの純収益の率(利ざや+手数料))→ 売上 166 億ドル・営業利益 78 億ドル。法人・機関向け銀行(CIB)
- 資産運用(AMG):数量 626(貸出と預金の平均残高の合計(億ドル))× 価格 0.04(残高あたりの純収益の率(利ざや+手数料))→ 売上 23 億ドル・営業利益 6 億ドル。資産運用(AMG)
倍率:純利益と自己資本は優先配当・優先株を引いた普通株の値。有形自己資本(AOCI の含み損を含む)で測った ROTCE は帳簿の ROE より高いが、ここでは検査と同じ帳簿の ROE で置く。利益ベースの正当化 PER で置く(SCHEMA §1-1):k 8.25%(基本 8.0%+quality +0.25%)、事業の ROE 13.3%(純利益÷自己資本)、g 4.0%、残る割合 1/2(堀:普通)で RONIC 10.8% → (1−g÷RONIC)÷(k−g)=14.8 倍が上限。利益の質(預金と法人の資金管理は厚いが、決済の堀がなく、CET1 が薄く、地銀型の貸出構成)から、上限の 9.0 割の PER 13.3 倍に置いた(検査の上限は時価総額 1849 億ドル)。
確率:成長は続くが、信用コストの正常化と預金の高コスト化で ROTCE は 16% 前後に収まる姿を中心に置く。35%。
やや悲観 21% やや悲観:新店の採算が遅れ、預金コストが上がって ROTCE は 13% 前後 利益 102 億ドル · PER 12.4 倍 · 株価時価総額 318.69 ドル1,262 億ドル
2035 年末、新市場の預金が思うように集まらず、新店の費用だけが残る。預金コストが高止まりして利ざやが伸びず、不況を 2 回挟んで信用コストも重なる。法人向けは JPモルガンやバンク・オブ・アメリカ(Bank of America)の価格攻勢でシェアが少し下がる。 個人向け銀行の貸出+預金は 5,625 億ドル、法人・機関向け 5,970 億ドル、資産運用 584 億ドル。収益は約 371 億ドル、営業利益 132 億ドル、普通株の純利益は約 102 億ドル(今の年換算の約 1.3 倍)。純利益の約 65% を還元する。倍率は式どおり PER 14.7 倍(PBR 約 2.5 倍、有形ベース)。時価総額は今の約 1.7 倍になる。
- 個人向け銀行(Retail Banking):数量 5,625(貸出と預金の平均残高の合計(億ドル))× 価格 0.04(残高あたりの純収益の率(利ざや+手数料))→ 売上 200 億ドル・営業利益 66 億ドル。個人向け銀行(Retail Banking)
- 法人・機関向け銀行(CIB):数量 5,970(貸出と預金の平均残高の合計(億ドル))× 価格 0.03(残高あたりの純収益の率(利ざや+手数料))→ 売上 150 億ドル・営業利益 66 億ドル。法人・機関向け銀行(CIB)
- 資産運用(AMG):数量 584(貸出と預金の平均残高の合計(億ドル))× 価格 0.04(残高あたりの純収益の率(利ざや+手数料))→ 売上 21 億ドル・営業利益 5 億ドル。資産運用(AMG)
倍率:純利益と自己資本は優先配当・優先株を引いた普通株の値。有形自己資本(AOCI の含み損を含む)で測った ROTCE は帳簿の ROE より高いが、ここでは検査と同じ帳簿の ROE で置く。利益ベースの正当化 PER で置く(SCHEMA §1-1):k 8.25%(基本 8.0%+quality +0.25%)、事業の ROE 11.0%(純利益÷自己資本)、g 4.0%、残る割合 1/2(堀:普通)で RONIC 9.6% → (1−g÷RONIC)÷(k−g)=13.7 倍が上限。利益の質(預金と法人の資金管理は厚いが、決済の堀がなく、CET1 が薄く、地銀型の貸出構成)から、上限の 9.0 割の PER 12.4 倍に置いた(検査の上限は時価総額 1402 億ドル)。
確率:新店の採算化が遅れ、預金が MMF・ステーブルコインへ流れて預金コストが上がる姿。慎重な見方がやや強いので 21%。
悲観 12% 悲観:預金流出と信用の大きな損失で、もう優良ではなくなる 利益 44 億ドル · PER 11.5 倍 · 株価時価総額 127.78 ドル506 億ドル
2035 年末、預金が国債の MMF・ステーブルコインへ流れて預金コストが 4% 台に固定され、新店網の採算も出ない。2 回の不況で商業用不動産(CRE)と法人貸出に大きな損失が出る。大手 4 行との競争で価格決定力を失い、ROTCE は 6% 前後に落ちる。成熟した優良銀行ではなくなり、自社株買いも絞る。 個人向け銀行の貸出+預金は 5,175 億ドル、法人・機関向け 5,352 億ドル、資産運用 521 億ドル。収益は約 314 億ドル、預金コストと新店の費用で利益率が更に削られ、営業利益 59 億ドル、普通株の純利益は約 44 億ドル(今の年換算の約 0.55 倍)。純利益の約 55% を還元する。倍率は稼ぎの 9.5 割の PER 11.5 倍(PBR 約 0.6 倍は結果)。時価総額は今の約 0.6 倍になる。
- 個人向け銀行(Retail Banking):数量 5,175(貸出と預金の平均残高の合計(億ドル))× 価格 0.03(残高あたりの純収益の率(利ざや+手数料))→ 売上 172 億ドル・営業利益 32 億ドル。個人向け銀行(Retail Banking)
- 法人・機関向け銀行(CIB):数量 5,352(貸出と預金の平均残高の合計(億ドル))× 価格 0.02(残高あたりの純収益の率(利ざや+手数料))→ 売上 125 億ドル・営業利益 32 億ドル。法人・機関向け銀行(CIB)
- 資産運用(AMG):数量 521(貸出と預金の平均残高の合計(億ドル))× 価格 0.03(残高あたりの純収益の率(利ざや+手数料))→ 売上 17 億ドル・営業利益 2 億ドル。資産運用(AMG)
倍率:稼ぐ力で測る(SCHEMA §1-3)。構造的に負けた筋書きで、ROE が k を下回るため PER は 1÷k が上限になる。ROE 4.9% が k 8.25%(基本 8.0%+quality +0.25%)以下なので、ためた利益は額面を下回る価値で、PER は 1÷k=12.1 倍が上限。上限の 9.5 割の PER 11.5 倍(時価総額 532 億ドルが上限)に置いた。PBR は結果であって根拠ではない。
確率:商業用不動産と法人貸出の大きな損失、預金の構造的な流出、新店投資の失敗が重なる姿。地銀型の貸出構成で景気への感度が高いので 12%。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
個人向け銀行(Retail Banking)
個人向けの預金・住宅ローン・カード・小規模事業。
| 数量貸出と預金の平均残高の合計(億ドル) | 価格残高あたりの純収益の率(利ざや+手数料) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 3,750 | 0.04 | 138 | 48 |
| 10 年後 中立 | 6,000 | 0.04 | 219 | 79 |
取り方:2026 年 7〜9 月期の平均貸出 1,079 億ドル+平均預金 2,671 億ドル(FirstBank 込み)。収益は開示の 40.9 億ドル(資金の内部振替を含む)に、全社の収益 65.6 億ドルへ合わせる係数 0.846 を掛けた約 34.6 億ドルを年換算(約 138 億ドル。率 3.69%)。税引前 47.7 億ドルは全社の税引前(純利益 21.0 億ドル÷0.8 の年換算で約 104 億ドル)を、部門の純利益(14.25/15.52/1.28 億ドル)の比で配分。価格は利ざやと手数料の率で物価では上がらず、物価の分は名目の残高の伸びに入れた。競合は JPモルガン・バンク・オブ・アメリカ・ウェルズ・ファーゴ・USバンコープ。
法人・機関向け銀行(CIB)
法人・中堅企業・機関向けの貸出・預金・資金管理、商業用不動産、市場業務。
| 数量貸出と預金の平均残高の合計(億ドル) | 価格残高あたりの純収益の率(利ざや+手数料) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 4,117 | 0.03 | 109 | 52 |
| 10 年後 中立 | 6,381 | 0.03 | 166 | 78 |
取り方:平均貸出 2,477 億ドル+平均預金 1,640 億ドル。収益は開示の 32.1 億ドル×0.846 の約 27.2 億ドルを年換算(約 109 億ドル。率 2.64%)。税引前は上と同じ配分で 52.0 億ドル(利益率 48%)。商業用不動産は期末 370 億ドル(貸出の約 10%)。競合は JPモルガン・バンク・オブ・アメリカ・USバンコープ・トゥルーイスト・シチズンズ。
資産運用(AMG)
富裕層向けの資産運用・信託・個人向け資産管理。
| 数量貸出と預金の平均残高の合計(億ドル) | 価格残高あたりの純収益の率(利ざや+手数料) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 417 | 0.04 | 16 | 4 |
| 10 年後 中立 | 626 | 0.04 | 23 | 6 |
取り方:平均貸出 148 億ドル+平均預金 269 億ドル。収益は 4.59 億ドル×0.846 の約 3.9 億ドルを年換算(約 15.5 億ドル)。手数料(運用残高に連動)が約 6 割。税引前 4.3 億ドル。
リスクと懸念
資本の薄さ(CET1 9.8%)と AOCI の含み損
CET1 は 2026 年 1〜3 月期の 10.1% から 9.8% まで下がり、AOCI の含み損は約 65 億ドル。SCB は最低の 2.5% だが、不況で貸出が傷むと余裕が小さい。自社株買いと買収の余力を縛る。金利が下がらない限り含み損は解消しない。
新店 300 店の投資回収
新店は開業から採算まで 5〜7 年かかり、費用が先に出る。大手 4 行の預金競争が強い市場(テキサス・フロリダ)で目標のシェア 7% に届かなければ、費用だけが残り ROTCE を押し下げる。 開業の初期は預金の集まりが遅く、人件費と賃料が先に出る。成長市場は大手の看板が強く、費用を吸収できる速さで預金が積み上がるかが分かれ目になる。
商業用不動産と法人貸出
商業用不動産は期末 370 億ドル(貸出の約 10%)。金利 5% の世界で借換えが重い。法人貸出は 2,477 億ドルと大きく、不況時の損失は貸出の伸びが速い分だけ重い。2008〜09 年・2023 年の地銀危機が下敷き。
預金コストと預金流出
短期金利 3.5〜4% では無利息預金が MMF・国債・ステーブルコインへ流れる。預金コストが上がれば NIM(2.94%)の改善は止まり、貸出が伸びても純金利収益が伸びない。 預金のうち非利息付きは約 1,000 億ドルあるが、金利が高い間は利息付きへ移る力が働く。預金ベータが高止まりすれば、貸出利回りの上昇分を預金コストが食う。
信用コストの正常化
純償却率 0.28% は景気の山の値で、10 年の平均は 0.45% 前後と置いた。物価と金利が高止まりして雇用が悪化すれば、損失が先に出る。 特に商業用不動産・法人貸出・カードの順に損失が出やすく、引当が先に積み上がる。2010 年の純償却率は大手全体で約 2.6% まで上がった。
手数料の薄さ(決済ネットワークが無い)
収益の約 36% が手数料で、USB の約 4 割より小さい。決済の堀(エラボンなど)を持たないため、金利に左右される度合いが高い。非金利収益は四半期で振れる(2〜3 割)。 手数料は資金管理・資本市場・資産運用が中心で、金利が下がる局面での支えは限られる。規制緩和で大手が価格を下げれば、手数料の伸びも鈍る。
買収の消化と統合
BBVA USA(2021 年)に続く FirstBank の統合は 2026 年 6 月に移行を終えたが、のれん・無形資産は 141 億ドル。割高な買収で価値を壊すリスクがあり、経営の規律(割安な時だけ買う)を見る。
今後の分かれ目
- 失業率が 5% を超え、商業用不動産と法人貸出の延滞が 2 四半期続けて上がったら
- 引当が積み上がり、やや悲観・悲観の確率を上げる。谷の PBR は 0.75 倍前後を見て、CET1 が最低を下回らない前提で考える。
- 資本規制の緩和(SLR・バーゼル III の再提案)が確定し、CET1 の必要水準が下がったら
- 自社株買いの余力が広がり、ROTCE が 1〜2 ポイント上がる。楽観・やや楽観の確率を上げ、ROTCE を上げて利益ベースの式で倍率を引き直す。
- 預金コストが上がり続け、NIM が 2.8% を割り込んだら
- 純金利収益の見通しを下げ、やや悲観の確率を上げる。ROTCE は 13% 台へ下げて見る。
- 新店の預金が計画の 7 割に届かず、効率比率が 58% を上回ったら
- 新店投資の採算を下げて見る。やや悲観の確率を上げ、シェアの上乗せ(g)を 0 に戻して式で引き直す。
- ROTCE が 2 四半期続けて 18% を超え、CET1 が 10% を超えたら
- 目標の上振れが見えたとして、やや楽観・楽観の確率を上げる。自社株買いの増額も見る。
- 地銀の買収が承認され、PNC が大型の買い手に回ったら
- のれんと資本の消費を見て、成立後の得失を確率に反映する(成立前は置かない)。割高な価格なら資本配分の確信度を下げる。
見ておくもの
- NIM(2.94%)と預金コスト、純金利収益の伸び(前年比 +15%)
- 純償却率(0.28%)・延滞、商業用不動産(370 億ドル)の償却
- CET1(9.8%)、AOCI(約 -65 億ドル)、自社株買い(四半期 6 億ドル)の増減と規制緩和
- 効率比率(57%)と新店の開業数(2026 年 55 店超)・新市場の預金の伸び
- ROTCE(18.3%)の持続と、AOCI を除いた実力値
- 預金の MMF・ステーブルコインへの流出、法人貸出の伸び(平均 +2%/四半期)
倍率と資本コストの決め方
今の PER 12.5 倍・PBR 1.42 倍を見る前に、3 つの部門ごとの残高(貸出+預金)× 残高あたりの収益率を積み上げ、有形自己資本の ROE・成長・資本コストから利益ベースの正当化 PER を出し、その 9 割に倍率を置いた。資本コストは基本 8.0% に quality +0.25%(地銀型の貸出構成で信用コストと預金競争に左右される)を足した 8.25%(金融は負債の補正なし)。中立の 10 年後は ROTCE 15.6%(今の 18.3% より低く置き、AOCI の戻り・信用コストの正常化・資本の積み増しを織り込む)・g 4.0%(業界ノートの銀行の物差し。新店のシェアは 10 年目までの利益にだけ入れる)・k 8.25% の式で上限 PER 14.8 倍を出し、その 9 割の 13.3 倍に置いた。今の 1.42 倍にも過去の PER 幅 8.5〜19.3 倍にも寄せていない。USB と近い倍率になるのは、k(8.25%)も g(4.0%)も同じためである。倍率が前提に敏感なので、届かない道は確率で表した。表の純利益・自己資本は優先株を除く普通株の値。部門の収益は全社の収益に合わせて配分した推定値。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 5% + β 0.95 × 5%。k = 基本 8.0% + quality +0.25% = 8.25%。決済の堀がなく、CET1 が薄い分は USバンコープと同じ水準に置いた。CET1 の薄さ・新店投資・商業用不動産は k に足さず、悲観の確率と利益率で表した。