結論
イタウ・ウニバンコは、ブラジルを中心に預金、融資、カード、決済、投資銀行、資産運用を営む総合銀行である。筆者の結論は、2026年10月23日の株価を基準にすると「やや割安」である。国内最大の民間銀行として利益を再投資する力は強く、10年後も金融の中心に残る可能性が高い。ただし、優良銀行だから無条件に高い値段を払えるわけではない。
最大の強みは、預金を集める力と顧客との関係の深さだ。ブラジルの銀行システム総資産に占める割合は2025年末で約15%に達する。個人の決済口座から企業の資金管理まで関係が広がり、簡単には他行へ乗り換えられない。一方、カード残高の市場シェアは前年から低下しており、ヌーバンクやメルカド・パゴによる侵食は現実のものだ。
業績は堅調である。2025年の純利益は約80億ドル、自己資本利益率は21.5%だった。2026年4〜6月期も現地通貨建ての経常利益が前年同期比7.8%増え、貸出残高は9.6%増加した。ただし、管理会計による四半期の利益率と2025年の会計利益を混同しない。信用費用、税負担、資本規制を織り込み、10年後の中立の純利益は132億ドルと考える。
気になるのはブラジル固有の危険である。2026年10月25日の大統領選決選投票では現職が再選され、その直後に銀行株とレアルが大きく売られた。今回の価値計算は指定された10月23日の株価を基準とし、この後の株価急落を分母には反映していない。政治、信用循環、金融技術の競争を悲観側へ厚く配分しても、配当と自社株買いを含む10年の割引価値は約1,237億ドルとなる。基準時価総額の約1,082億ドルに対して安全域は約14%であり、魅力はあるが十分に厚いとは言えない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、最初に問うのは10年後も顧客がこの銀行を必要とするかである。答えはおそらく肯定だ。企業は給与を払い、個人は住宅を買い、商店は売上金を受け取り、家計は資産を運用する。そのための預金、融資、決済、信用管理の機能は残る。画面や支店の形が変わっても、信用を引き受ける銀行の役割は消えにくい。
次に、利益のうち本当に株主へ渡せる部分を見る。銀行は設備投資が少ないからといって利益をすべて配れるわけではない。貸出残高が増えれば、貸倒を吸収するための規制資本も必要になる。それでも過去10年のROEが高く、資本コストを超える利益を積み重ねてきた点は大きい。再投資した資本が十分に稼がなくなれば、成長を追うより還元を増やすほうが合理的になる。
最大の不確実性は、将来の金利よりも競争の質と政治である。預金口座は残っても、新しい決済会社に使われる時間が増えれば銀行の顧客接点は弱くなる。信用コストの高止まりや税制変更が重なれば、過去の高ROEも保証されない。支配株主が強いため、少数株主は資本配分の変更を強制しにくい。
筆者が評価したいのは、規模に守られた現在の利益だけではない。景気後退の後でも預金が残り、適切な信用判断によって自己資本を再び増やせる能力である。中立の10年後はROEが18.9%前後に落ち着き、それでも資本コストを大きく超えると考える。優良さを認めたうえで、ブラジル固有の危険に十分な値引きがあるかを最後まで確認する銘柄だ。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は、家計・中小企業向けの銀行業務である。個人には給与口座、カード、住宅ローン、自動車ローン、保険、年金、投資商品を提供する。中小企業には運転資金だけでなく、決済端末や売掛金の早期資金化も売る。貸出利息から預金などの調達費用と貸倒費用を引き、さらに決済・保険・運用の手数料を積み重ねる商売だ。
個人向け貸出のブラジル市場シェアは2025年末で10.7%だった。カード残高では21.4%、加盟店向け決済処理では22.7%を占める。国内には巨大な顧客接点があり、口座を持つ人がカードを使い、加盟店で決済し、貯蓄を投資に回すほど顧客当たりの収益が増える。ただし、決済処理の競合にはシエロ、ゲットネット、ストーン、パグセグーロがあり、手数料を自由には上げられない。
大企業・投資銀行部門では、法人融資、貿易金融、資金管理、債券引受、企業買収助言、外国為替を提供する。2025年は国内の債券引受や企業買収助言で首位級の実績を持つ。法人が銀行を替える際には融資枠だけでなく、給与振込、外貨決済、担保、資金管理の仕組みまで移す必要がある。これが個人の普通預金以上に強い乗り換え費用を生んでいる。
市場業務は債券、為替、流動性管理などから収益を得る。ただし、運用益は毎年同じようには生まれず、資金調達やヘッジの費用も伴う。さらに傘下のズップは、外部企業向けのソフト開発受託と開発基盤を扱う。銀行全体から見れば小さいが、人の工数で売る部分はAIエージェントに代替されるため、銀行本体とは分けて考える。
2025年の下調べにある全社売上高773億ドルは、銀行の利息総額を含む広い収益概念である。一方、20-Fの事業別営業収益は資金調達費用や内部取引の消去を含む別の表示だ。したがって事業別の収益と利益は、会社開示の構成比を手掛かりに全社実績へつないだ推計であり、会社がその金額を直接開示したものではない。
優良さと弱いところ
この銀行には、規模だけでは説明できない堀がある。預金を集めるブランド、全国に広がる決済接点、企業の資金管理に組み込まれた仕組み、融資先の信用データが互いを強くしている。中小企業向けには160万を超える顧客との関係があり、借り手の取引履歴を継続的に把握できる。貸出を伸ばすだけでなく、貸倒を抑えながら顧客当たりの収益を増やせることに価値がある。
実績も一定の裏付けになる。過去10年のROE中央値は18.2%で、資本コストを十分に上回ってきた。2020年には純利益が大きく減ったが、翌年以降は回復している。規制資本を必要とする銀行で、これほど長く高い利益率を維持していることは評価できる。2026年6月末の普通株式等Tier1比率は12.3%で、直ちに資本不足を疑う状態ではない。
ただし、堀がすべての分野で広がっているわけではない。カード残高シェアは2025年に1.9ポイント低下し、若年層の日常決済ではヌーバンク、メルカド・パゴ、バンコ・インテルが存在感を増している。中央銀行の即時送金網Pixは銀行間の送金障壁を下げ、従来の決済手数料にも圧力をかける。ブランドだけで金利や手数料を上げ続けることはできない。
経営上の強みは、信用リスクと費用を一緒に管理できる点にある。2026年4〜6月期の延滞率は比較的安定し、デジタル化による事務費用の抑制も続いている。一方、支配株主が普通株の議決権を握り、米国ADRは原則として議決権のない優先株を裏付けとする。少数株主には経営を交代させる力が乏しい。この弱さは資本コストに重ねず、資本配分が悪化する筋書きと確率で評価する。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
ブラジルの銀行市場は大きいが、上位行への集中が進んだ成熟市場でもある。2025年末の銀行システム総資産は約3.3兆ドル相当で、イタウのシェアは15.0%だった。続くブラジル銀行は13.4%、カイシャ・エコノミカは12.0%、ブラデスコは10.6%、サンタンデール・ブラジルは7.0%である。公的銀行が住宅金融や政策融資に強いため、民間最大手だからといって市場全体の価格を決められるわけではない。
信用市場の数量は、家計所得、企業の運転資金、住宅供給、金融サービスの普及で増える。ブラジルの銀行貸出は2026年前半にも名目で伸びており、イタウ自身の総貸出残高は前年同期比9.6%増だった。しかし、貸出残高の増加には物価上昇が含まれる。10年後の実質的な市場拡大は、人口の増加よりも所得上昇と中小企業の金融利用率の上昇に頼ると考える。
競争の中心は、支店数から使いやすさと調達費用へ移っている。ヌーバンクは店舗を持たない軽い費用構造で顧客を集め、メルカド・パゴは電子商取引の決済情報を融資へ転用する。ブラデスコとサンタンデールもデジタル投資を進めている。投資銀行と富裕層運用ではBTGパクチュアルやXPが競合であり、預金の獲得競争が証券口座や投資商品の競争と結び付く。
2026年の会社計画では総貸出の伸びは5.5〜9.5%、顧客向け金融マージンと手数料・保険関連収益の伸びはそれぞれ5〜9%とされた。これは直近の事業が崩れていない証拠だが、10年続く成長率の約束ではない。筆者は中立で、実質貸出数量の伸びと既存顧客への販売拡大を認めつつ、デジタル銀行へのシェア流出も織り込む。
さらに2026年10月25日、現職大統領が決選投票で51.79%を得て再選された。翌営業日にはブラジル株と通貨が大きく下落し、財政運営と通貨価値に対する市場の懸念が表面化した。景気循環に政治・通貨の危険が重なることこそ、米国銀行と同じ物差しだけでは測れない弱点である。ただし選挙の結果だけで融資や預金の長期需要が消えるわけでもない。
資本政策と M&A
銀行の資本配分では、貸出拡大に必要な自己資本を確保した後、残った利益を株主へ戻せるかが重要になる。2025年の下調べでは配当87.3億ドル、自社株買い5.5億ドルと、年間純利益を上回る還元が記録されている。これは配当の認識時期や特別な分配を含む実績であり、毎年続けられる通常の還元率とは見ない。10年の中立では利益累計の約7割を正味で還元し、残りを自己資本の成長に使う。
2026年2月には優先株を最大2億株買い戻せる枠を設定し、期限を2027年8月とした。ただし枠の設定は実際の買い付けを約束するものではない。2025年には大きな株式無償交付も行われたが、それ自体は会社の経済価値を増やさない。還元を評価する際は、株式報酬や増資の影響を差し引いた正味の額を用いる。
買収では技術会社ズップの段階的取得を2024年に完了し、金融商品への入口を増やすため米国証券サービスのアベニューにも投資した。いずれも銀行の顧客基盤を補強する狙いがある。ただし、大型買収によって利益を機械的に上乗せすることはしない。未完了の取得案件は現在の収益や株数に加えていない。
支配構造は長期株主にとって無視できない。イウパルとイタウサを通じた支配が強く、ADRの裏付けとなる優先株には通常の議決権がない。2026年からは非居住者への一定の配当に原則10%の源泉税が導入され、資本利子に対する課税も変更された。価値計算の還元は会社が支払う税引き前の総額であり、ADR保有者の実際の手取り額は別に考える必要がある。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ブラジル最大の民間銀行という地位は、これからも大きな価値を持つ。既に国内銀行資産の15%を握り、個人向け融資、カード、加盟店決済、法人金融、資産運用を一つの顧客関係に結び付けている。新興金融会社は使いやすいアプリを作れても、全国の企業融資、資金管理、信用リスクの引受、規制対応を一度に再現するのは難しい。大手銀行としての信用力は景気後退の際にむしろ預金流入を促し、小規模な競合との調達費用の差を広げうる。
2026年4〜6月期の貸出残高は前年同期比9.6%増え、経常利益も7.8%増だった。2026年の会社見通しは貸出と手数料の増加を見込み、効率改善にも取り組んでいる。長期では中小企業の銀行利用が深まり、住宅ローンや投資商品の普及が増収につながる。デジタル化で事務費用を抑えながら、企業の資金管理や運用の手数料を厚くできれば、利益は単なる貸出残高の伸びを上回る。
同業と比べると、ブラデスコは業績回復の途中にあり、ヌーバンクは若年層に強いが金融商品の幅ではなお違いがある。イタウが高い信用判断能力を維持できれば、既存顧客への販売で競争に勝つ余地は大きい。資本規制を守ったうえで利益の多くを還元できれば、株主が受け取る現金も積み上がる。大規模な買収に頼らず、既存事業の強化で10年後の利益が現在の2倍を超える展開は十分に考えられる。
慎重な見方
高いROEは永続的な独占の証拠ではない。ブラジルでは銀行間の貸出金利が高く、金利が高いからこそ延滞と貸倒の負担も大きい。景気が良いときには収益が膨らむが、景気後退が長引けば家計と中小企業の信用費用が一気に増える。2020年に純利益が大きく落ち込んだ事実は、この銀行も循環から逃れられないことを示している。
市場シェアにも警告がある。2025年にはカード残高のシェアが前年から1.9ポイント下がった。ヌーバンクは店舗の少ない構造で顧客を集め、メルカド・パゴは商取引のデータを融資へつなぎ、Pixは送金の手数料と顧客の囲い込みを弱める。個人金融では、銀行を信頼していても日々の決済は別のサービスで済ませられる。従来のブランドと支店が費用の重荷になれば、規模の利益は小さくなる。
2026年10月の選挙後には財政運営と通貨に対する不安が再び強まった。政府の税制変更、貸出規制、金利政策、信用刺激策は収益と自己資本に影響する。非居住者の配当課税も長期保有者の受取額を減らす。さらに支配株主は普通株の議決権を握り、ADR保有者は不利な資本配分を簡単には止められない。信用費用が高止まりするなかで市場シェアを失えば、10年後には規模の大きいだけの低収益銀行になっている可能性がある。
どちらに重みを置いたか
事業が10年後も必要であり、高いROEを維持するという主張には十分な根拠がある。一方で、カードのシェア低下と2026年10月の政治的な変化を軽く扱うことはできない。楽観とやや楽観の合計を30%、やや悲観と悲観の合計を37%とし、慎重な側へ少し重みを移した。
中立では10年後の純利益132億ドル、自己資本700億ドルを見込む。還元を含む期待価値は約1,237億ドルで、指定された基準時価総額に対する差は約14%のプラスとなる。質の高い銀行であることには比較的自信を持てるが、政治・通貨と金融技術の競争によって安全域が削られる危険は残る。結論は、十分に安いと断言できる水準ではなく「やや割安」である。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 15.69 ドル1,756 億ドル(+ 還元の換算額還元の合計 5.87 ドル657 億ドル)。 今の値に割り戻すと 11.05 ドル1,237 億ドル、今との差 +55.0%、 期待の年率 +14.3%(資本コスト 8.3%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 31.88 ドル3,567 億ドル | 8.76 ドル980 億ドル | +469.9% | +23.0% | 4.06 ドル455 億ドル |
| やや楽観 | 20% | 23.02 ドル2,575 億ドル | 7.19 ドル805 億ドル | +323.7% | +18.8% | 6.04 ドル676 億ドル |
| 中立 | 33% | 17.58 ドル1,967 億ドル | 6.57 ドル735 億ドル | +238.6% | +16.0% | 7.97 ドル891 億ドル |
| やや悲観 | 24% | 6.93 ドル775 億ドル | 4.23 ドル473 億ドル | +56.5% | +5.8% | 2.68 ドル300 億ドル |
| 悲観 | 13% | 3.37 ドル377 億ドル | 2.89 ドル323 億ドル | −12.2% | −1.7% | 0.81 ドル91 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 15.69 ドル1,756 億ドル | 5.87 ドル657 億ドル | +202.4% | +14.3% | 21.56 ドル2,413 億ドル |
今の株価時価総額 7.13 ドル798 億ドル(2026-10-30)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 10% 楽観:規模の利益と法人金融が伸び、高ROEが続く 利益 205 億ドル · PER 17.4 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 31.88 ドル3,567 億ドル
ブラジルの家計と企業の実質的な資金需要が伸び、イタウは既存顧客との関係を広げる。個人・中小企業向け貸出の実質数量は2050億ドル相当まで増え、カードと保険の販売も拡大する。競合のヌーバンクが個人決済で伸びても、住宅金融と法人関係で補える。法人・中南米の実質貸出は1900億ドルとなり、BTGパクチュアルやサンタンデールとの競争のなかでも資金管理と引受で地位を保つ。
顧客当たりの収益が増え、デジタル化による業務効率化も費用に表れる。信用損失が管理可能な範囲に収まり、純利益は205億ドルまで伸びる。自己資本を820億ドルまで厚くしながら、10年間の正味還元は約980億ドルとなる。大型買収を前提にせず、貸出と手数料の拡大によって利益を積み増す。
ズップの受託工数は、AIによる置き換えを認めて現状を上限とする。StackSpotの利用拡大が確認されても、外部での有料販売額が開示されていないため、それだけで高成長を追加しない。経営の規律とブランドが保たれ、資本コストを大きく超える再投資利益が続く筋書きである。
- 個人・中小企業向け銀行、カード、決済、保険:数量 2,050(2025年の購買力で測った個人・中小企業向け貸出残高(億ドル))× 価格 0.49(貸出残高1億ドル当たりの年間総収益(億ドル、利息総額・手数料・保険を含む実効単価))→ 売上 994 億ドル・営業利益 189 億ドル。実質貸出数量は2025年の1.43倍、単位総収益は1.48倍。顧客当たりの取引と保険販売が伸びる。
- 大企業融資・投資銀行・中南米事業:数量 1,900(2025年の購買力で測った法人・中南米貸出残高(億ドル))× 価格 0.30(貸出残高1億ドル当たりの年間総収益(億ドル、融資・投資銀行・為替手数料を含む))→ 売上 566 億ドル・営業利益 170 億ドル。企業の実質資金需要が拡大し、投資銀行と資金管理の販売も増える。
- 市場業務・流動性運用・全社資金:数量 2,450(市場運用に対応する金融資産の推計残高(億ドル))× 価格 0.02(市場運用残高1億ドル当たりの年間総収益(億ドル))→ 売上 59 億ドル・営業利益 18 億ドル。取引規模拡大と運用収益の安定を仮定する。
- ズップの社外向け開発受託・技術支援:数量 20,000(社外顧客向け年間請求人月(推計))× 価格 0.00(請求人月当たり売上高(億ドル))→ 売上 3 億ドル・営業利益 1 億ドル。AIエージェント代替を考慮し、工数は現状以上に伸ばさない。
倍率:資本コストk=8.25%、10年後のROE=205÷820=25.0%、強い堀による超過収益の残存割合2/3とすると、RONIC=19.42%となる。長期g=3.5%は信用市場の数量・シェア・価格から決め、正当化PERの来期利益基準を10年目の利益基準に直すと上限約17.86倍。高い資本効率が保たれる筋書きとして、その約97%の17.4倍を採用した。市場の現行・過去倍率は根拠にしていない。
確率:顧客の囲い込み、法人金融の拡大、信用費用の安定、費用効率の改善が10年間そろう場合である。堀の強さから可能性は認めるが、ブラジルの景気・政治循環を考慮して10%に限る。
やや楽観 20% やや楽観:信用コストが安定し、既存顧客からの収益が増える 利益 158 億ドル · PER 16.3 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 23.02 ドル2,575 億ドル
個人金融ではヌーバンクとメルカド・パゴが伸び続けるが、イタウは住宅ローン、給与口座、企業との取引を守る。個人・中小企業向け貸出の実質数量は1900億ドルとなり、保険と運用の販売によって顧客当たりの収益を高める。法人部門では資金管理と引受の強さが続き、貸出数量は1730億ドルに増える。市場シェアの拡大よりも、既存の顧客関係を深くする成長である。
信用費用は景気後退の際に増えるが、10年間では平常に戻る。技術投資によって業務費用の伸びが抑えられ、純利益は158億ドルに増加する。自己資本は760億ドル、10年間の正味還元は約805億ドルに達する。買収は小規模な金融サービスや技術への投資にとどまり、株式交換による大きな希薄化は想定しない。
ズップの外部受託工数は現在の85%まで減るが、銀行本体の技術投資による効率改善は続く。高いROEを維持できる一方、カードや決済の値決め力は緩やかに低下する。強い堀の価値は残るが、利益率は最良の局面ほどには高まらない筋書きである。
- 個人・中小企業向け銀行、カード、決済、保険:数量 1,900(2025年の購買力で測った個人・中小企業向け貸出残高(億ドル))× 価格 0.46(貸出残高1億ドル当たりの年間総収益(億ドル、利息総額・手数料・保険を含む実効単価))→ 売上 880 億ドル・営業利益 150 億ドル。住宅金融と中小企業融資が伸び、カードのシェア低下を補う。
- 大企業融資・投資銀行・中南米事業:数量 1,730(2025年の購買力で測った法人・中南米貸出残高(億ドル))× 価格 0.28(貸出残高1億ドル当たりの年間総収益(億ドル、融資・投資銀行・為替手数料を含む))→ 売上 483 億ドル・営業利益 142 億ドル。企業の資金管理と投資銀行の手数料が増える。
- 市場業務・流動性運用・全社資金:数量 2,200(市場運用に対応する金融資産の推計残高(億ドル))× 価格 0.02(市場運用残高1億ドル当たりの年間総収益(億ドル))→ 売上 51 億ドル・営業利益 14 億ドル。運用規模は拡大するが過大な売買益を想定しない。
- ズップの社外向け開発受託・技術支援:数量 17,000(社外顧客向け年間請求人月(推計))× 価格 0.00(請求人月当たり売上高(億ドル))→ 売上 2 億ドル・営業利益 0 億ドル。受託人月は0.85倍。単価の伸びも物価未満にとどまる。
倍率:ROE=158÷760=20.79%、k=8.25%、強い堀の残存割合2/3でRONICは16.61%。長期g=3.5%の正当化PER上限は10年目利益基準で約17.20倍となる。利益の持続性を評価しながら、信用循環と手数料競争を考えて上限の約95%となる16.3倍を採用した。
確率:預金基盤を保ち、法人金融と資産運用が穏やかに伸びる展開である。会社の競争力から十分ありうるが、個人決済のシェア低下が続くため20%とした。
中立 33% 中立:高ROEを保つが、シェアと手数料の競争は続く 利益 132 億ドル · PER 14.9 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 17.58 ドル1,967 億ドル
ブラジルの信用市場は物価上昇を除いても少しずつ拡大する。しかし、新しい決済口座やカード利用者の獲得ではヌーバンクやメルカド・パゴが伸び、イタウの個人向け市場シェアは緩やかに低下する。それでも既存顧客の住宅ローン、企業融資、保険、投資商品は残る。個人・中小企業向けの実質貸出数量は1780億ドル、法人・中南米は1580億ドルとなる。
価格に当たる単位総収益は、10年間の物価上昇におおむね沿って増える。ただし、カードの決済手数料が自由に上げられるとは見ない。景気後退を経験しながらも信用費用は長期では正常化し、デジタル化が費用の増加を抑える。純利益は132億ドルとなり、自己資本700億ドルに対するROEは18.9%と過去10年の中央値に近い。
10年間の正味還元は約735億ドルで、成長に必要な資本を残す。ズップの社外向け工数は65%に減り、AIによる開発作業の置き換えを受ける。銀行本体も画面や手数料では競争にさらされるが、融資判断と預金の基盤は保たれる。強い堀が完全な独占ではなく、穏やかな成長を支える筋書きである。
- 個人・中小企業向け銀行、カード、決済、保険:数量 1,780(2025年の購買力で測った個人・中小企業向け貸出残高(億ドル))× 価格 0.45(貸出残高1億ドル当たりの年間総収益(億ドル、利息総額・手数料・保険を含む実効単価))→ 売上 801 億ドル・営業利益 128 億ドル。実質貸出数量は1.24倍、単位総収益は1.38倍。デジタル競争によるシェア低下を含む。
- 大企業融資・投資銀行・中南米事業:数量 1,580(2025年の購買力で測った法人・中南米貸出残高(億ドル))× 価格 0.27(貸出残高1億ドル当たりの年間総収益(億ドル、融資・投資銀行・為替手数料を含む))→ 売上 422 億ドル・営業利益 114 億ドル。企業融資は緩やかに拡大し、競争のため利益率改善は限定的。
- 市場業務・流動性運用・全社資金:数量 2,170(市場運用に対応する金融資産の推計残高(億ドル))× 価格 0.02(市場運用残高1億ドル当たりの年間総収益(億ドル))→ 売上 49 億ドル・営業利益 13 億ドル。取引規模の成長は認めるが、相場益の上振れは織り込まない。
- ズップの社外向け開発受託・技術支援:数量 13,000(社外顧客向け年間請求人月(推計))× 価格 0.00(請求人月当たり売上高(億ドル))→ 売上 2 億ドル・営業利益 0 億ドル。AIエージェント代替によって受託工数は10年で0.65倍になる。
倍率:資本コストk=8.25%、ROE=132÷700=18.86%、強い堀による残存割合2/3でRONIC=15.32%となる。市場の実質成長約1%とシェア流出約1%が相殺し、価格の名目成長約3.5%が残るので長期gは3.5%。正当化PERの10年目利益基準の上限は約16.81倍である。政治・信用循環・決済競争により利益の変動が大きいことから、その約89%の14.9倍とした。現在や過去の市場PERを参照して倍率を決めていない。
確率:信用市場は緩やかに拡大し、既存銀行の堀とデジタル金融会社の競争が併存する展開である。2026年までの実績と過去10年の利益率を踏まえ、最も起こりやすい筋書きとして33%を配分した。
やや悲観 24% やや悲観:デジタル金融にシェアを奪われ、信用費用が高止まりする 利益 68 億ドル · PER 11.4 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 6.93 ドル775 億ドル
ブラジルの信用市場は拡大するが、イタウは若い顧客の決済とカードで地位を落とす。ヌーバンクやメルカド・パゴが預金と融資へ事業を広げ、従来型銀行は預金金利や手数料で譲歩を迫られる。個人・中小企業向け貸出の実質数量は1500億ドルにとどまり、単位総収益の伸びも物価より弱い。法人金融では大企業との関係を維持するものの、BTGパクチュアルなどとの競争で採算が下がる。
失業や金利負担の影響で信用費用が繰り返し膨らみ、10年間の中盤には利益の落ち込む年が続く。政府の規制・税制変更も経費を増やし、純利益は10年目に68億ドルまで低下する。途中の不況と引当増加を考慮した10年間の純利益累計は690億ドルである。正味還元を約473億ドルに抑えることで、自己資本590億ドルを維持する。
ズップの受託工数は現在の48%に縮み、値上げも難しくなる。銀行本体の堀は消えないが、かつての利益率をもたらした顧客接点と低コスト預金の優位は弱まる。10年後も大手銀行として存続するものの、株主へ戻る利益は中立より大幅に少ない筋書きである。
- 個人・中小企業向け銀行、カード、決済、保険:数量 1,500(2025年の購買力で測った個人・中小企業向け貸出残高(億ドル))× 価格 0.41(貸出残高1億ドル当たりの年間総収益(億ドル、利息総額・手数料・保険を含む実効単価))→ 売上 612 億ドル・営業利益 80 億ドル。個人金融の市場シェア低下と預金調達費用の増加で採算が縮む。
- 大企業融資・投資銀行・中南米事業:数量 1,430(2025年の購買力で測った法人・中南米貸出残高(億ドル))× 価格 0.23(貸出残高1億ドル当たりの年間総収益(億ドル、融資・投資銀行・為替手数料を含む))→ 売上 335 億ドル・営業利益 75 億ドル。企業の資金需要は残るが、貸倒と投資銀行手数料の競争が響く。
- 市場業務・流動性運用・全社資金:数量 1,950(市場運用に対応する金融資産の推計残高(億ドル))× 価格 0.02(市場運用残高1億ドル当たりの年間総収益(億ドル))→ 売上 36 億ドル・営業利益 6 億ドル。市場業務の運用益が弱く、リスク管理とヘッジの費用が増す。
- ズップの社外向け開発受託・技術支援:数量 9,600(社外顧客向け年間請求人月(推計))× 価格 0.00(請求人月当たり売上高(億ドル))→ 売上 1 億ドル・営業利益 0 億ドル。AI代替で受託工数は半分以下となり、固定費負担で小幅赤字になる。
倍率:ROE=68÷590=11.53%、k=8.25%、長期g=3.5%、堀の残存割合2/3からRONICは約10.44%となる。利益ベースの正当化PER上限は約14.48倍だが、信用費用の高止まりと競争で超過利益の持続性が弱まるため11.4倍とした。中立の14.9倍より低く、過去の市場PBRやPERを床としていない。
確率:カードシェアの実際の低下、フィンテックの顧客獲得、ブラジルの政治・財政の不安を踏まえ、比較的起こりやすい下振れとして24%を配分した。AIの影響はズップの数量に反映し、確率で同じ売上減を二重計上しない。
悲観 13% 悲観:低コスト預金の優位が崩れ、構造的な低収益銀行になる 利益 34 億ドル · PER 11.1 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 3.37 ドル377 億ドル
ブラジル経済が長く停滞し、財政への不安と信用費用の増大が続く。ヌーバンクやメルカド・パゴが決済から預金・消費者融資へ広がり、イタウは既存口座を守るために調達費用を引き上げる。個人・中小企業向け貸出の実質数量は1350億ドルまで落ち、単位総収益も競争で低下する。法人分野ではBTGパクチュアルなどに手数料の高い取引を奪われ、実質貸出数量は1160億ドルに縮む。
信用損失に加えて規制対応とシステム費用が重くなり、10年目の純利益は34億ドルとなる。途中には深い不況と多額の引当を想定し、10年間の純利益累計は470億ドルにとどまる。還元を約323億ドルに絞れば自己資本は520億ドルとなるが、ROEは資本コストを下回る。銀行は残っても、成長のために積み増した資本が十分な価値を生まない。
ズップの外販受託はAIエージェントによって工数が30%まで減り、赤字が続く。銀行本体も決済手数料の縮小を止められない。悲観の価値は利益の稼ぐ力を基本としつつ、破綻に至らない銀行の既存自己資本を下限として確認する。再建と大幅な増資が不可避になる破綻に近い場合は、この床が成り立たないことにも注意が必要である。
- 個人・中小企業向け銀行、カード、決済、保険:数量 1,350(2025年の購買力で測った個人・中小企業向け貸出残高(億ドル))× 価格 0.36(貸出残高1億ドル当たりの年間総収益(億ドル、利息総額・手数料・保険を含む実効単価))→ 売上 489 億ドル・営業利益 42 億ドル。預金流出とカード競争が長期化し、信用費用と固定費が重くなる。
- 大企業融資・投資銀行・中南米事業:数量 1,160(2025年の購買力で測った法人・中南米貸出残高(億ドル))× 価格 0.20(貸出残高1億ドル当たりの年間総収益(億ドル、融資・投資銀行・為替手数料を含む))→ 売上 234 億ドル・営業利益 32 億ドル。優良法人顧客と投資銀行取引の一部を競合へ失う。
- 市場業務・流動性運用・全社資金:数量 1,650(市場運用に対応する金融資産の推計残高(億ドル))× 価格 0.02(市場運用残高1億ドル当たりの年間総収益(億ドル))→ 売上 28 億ドル・営業利益 3 億ドル。運用益が縮み、資金調達とヘッジの費用が残る。
- ズップの社外向け開発受託・技術支援:数量 6,000(社外顧客向け年間請求人月(推計))× 価格 0.00(請求人月当たり売上高(億ドル))→ 売上 1 億ドル・営業利益 0 億ドル。外販工数は0.30倍となり、開発受託事業は構造的な赤字に転じる。
倍率:ROE=34÷520=6.54%で資本コスト8.25%を下回るため、成長投資による超過価値を認めない。利益ベースの上限は1÷k=約12.12倍であり、信用損失と資本配分の不確実性を考慮して11.1倍とした。純利益34億ドルに対応する会社全体の価値は377.4億ドルとなり、現在の自己資本373.2億ドルをわずかに上回る。過去の市場PBRを倍率の根拠にしていない。
確率:信用循環の悪化と金融技術によるシェア喪失に、規制・政治の不利な変化が重なる厳しい場合である。銀行の規模と監督体制があるため倒産に近い確率を大きくは置かず、構造的な衰退として13%を配分した。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
個人・中小企業向け銀行、カード、決済、保険
個人と中小企業の融資・預金を中心に、カード、加盟店決済、保険、年金、投資商品を販売する。顧客数と融資残高が収益の数量を決め、利息総額と手数料を合わせた単位収益が価格になる。
| 数量2025年の購買力で測った個人・中小企業向け貸出残高(億ドル) | 価格貸出残高1億ドル当たりの年間総収益(億ドル、利息総額・手数料・保険を含む実効単価) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1,430 | 0.33 | 468 | 51 |
| 10 年後 中立 | 1,780 | 0.45 | 801 | 128 |
取り方:2025年20-Fで開示された個人・中小企業向け貸出を年度末の為替でドル換算すると約1,400億ドル台となる。対象事業の公式営業収益構成比を使い、factsの全社売上773億ドルのうち468億ドルを暫定配賦した。これは開示された事業別売上高そのものではない。単価32.73%は貸出金利でも純金利マージンでもなく、カード取扱や保険を含む総収益を貸出残高で割った推計指標である。ブラジルの個人向け貸出シェアは10.7%、カード残高は21.4%、加盟店決済は22.7%。競合はブラジル銀行、カイシャ、ブラデスコ、サンタンデール、ヌーバンク、メルカド・パゴである。Zupの推計外販売上2億ドルを別掲するため、当部門からその分を除いた。
大企業融資・投資銀行・中南米事業
大企業の運転資金・貿易金融・外国為替・資金管理、債券引受、企業買収助言を扱う。ブラジル以外の中南米向け貸出も含む。
| 数量2025年の購買力で測った法人・中南米貸出残高(億ドル) | 価格貸出残高1億ドル当たりの年間総収益(億ドル、融資・投資銀行・為替手数料を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1,320 | 0.20 | 263 | 64 |
| 10 年後 中立 | 1,580 | 0.27 | 422 | 114 |
取り方:20-Fの大企業向け貸出と中南米貸出の合計を2025年末のドルに換算し、約1,300億ドル台とした。20-Fで開示されたホールセール部門の営業収益構成比から、factsの全社総収益に対応する263億ドルを推計配賦した。価格は融資利息、為替、証券引受、助言の複合的な単価で、純金利マージンではない。投資銀行では2025年の国内債券引受や企業買収助言で首位級の実績があるが、法人貸出市場全体の厳密なシェアは同資料から特定できない。競合はBTGパクチュアル、ブラデスコ、サンタンデール、XPなどであり、数量の伸びは企業の資金需要と市場シェアの維持に分解した。
市場業務・流動性運用・全社資金
国債、その他の金融商品、外国為替、ヘッジ、流動性管理に関する収益を扱う。市場の相場と金利の構造に左右され、顧客融資と同じ継続率を期待できない。
| 数量市場運用に対応する金融資産の推計残高(億ドル) | 価格市場運用残高1億ドル当たりの年間総収益(億ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1,900 | 0.02 | 40 | 13 |
| 10 年後 中立 | 2,170 | 0.02 | 49 | 13 |
取り方:20-Fの市場業務・全社部門の営業収益と金融資産の開示を用いた近似である。市場業務に帰属する厳密な運用残高は外部開示されていないため、1900億ドルは債券などに対応する規模の分析用仮定である。40億ドルの収益は事業別営業収益構成比とfactsの全社売上から配賦した値であり、実際の投資収益を直接転載したものではない。単価は金利そのものではなく、売買益やヘッジ収支を含む実効収益率である。競合は他の大手銀行と証券会社で、市場取引全体のシェアは開示から一意に算定できない。
ズップの社外向け開発受託・技術支援
外部企業のソフトウエア開発、システム刷新、技術支援を扱う。人月で販売する仕事はAIエージェント代替の対象であり、開発基盤StackSpotの内部利用価値とは区別する。
| 数量社外顧客向け年間請求人月(推計) | 価格請求人月当たり売上高(億ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 20,000 | 0.00 | 2 | 0 |
| 10 年後 中立 | 13,000 | 0.00 | 2 | 0 |
取り方:20-Fによる2025年末のズップ従業員数は2787人であり、年間の総工数上限は約3.34万人月となる。社外販売に使う工数を約2万人月、請求単価を人月当たり1万ドルと仮定した分析上の仮置きである。外販売上、外販工数、製品課金の割合は連結開示から独立に確定できない。2025年の2億ドルは会社発表値ではなく、factsの全社総収益に占める約0.26%の小規模な試算である。2019年の買収発表は受託開発事業を明示し、2025年20-Fは2024年の完全取得を確認している。今後の数量はAIエージェント代替により中立で0.65倍、価格は物価を下回る1.30倍、10年後以降の名目成長率は0%とする。https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1132597/000156459019040640/itub-ex991_6.htm
リスクと懸念
信用費用とブラジル景気の循環
貸出残高が増えても、延滞と貸倒が増えれば銀行の利益は減る。2026年4〜6月期には信用費用が前年同期より増加しており、成長が無条件に利益へ転化する状態ではない。失業、家計の金利負担、中小企業の資金繰りが悪化すれば引当が積み上がる。2020年の純利益の落ち込みは、その振れ幅が大きいことを示す。
政治・財政・レアルの価値
2026年10月25日の大統領選で現職が再選され、直後に市場は大きく変動した。今後の財政支出、税制、中央銀行の政策、信用刺激策が貸出の採算とドル建て利益に影響する。基準株価は選挙前の10月23日なので、その後の市場価格を使った割安度とは異なる。為替の変化は利益見通しに対する重要な不確実性として扱い、値段の急変そのものから本質価値を逆算しない。
預金・カード・決済でのシェア低下
個人向けカード残高の市場シェアは2025年に1.9ポイント低下した。ヌーバンク、メルカド・パゴ、バンコ・インテルは、低い費用と使いやすい画面で顧客の利用時間を奪う。Pixの普及も送金手数料への依存を弱める。預金獲得のために金利を上げ、カードの手数料を下げる必要が出れば、貸出残高が伸びてもROEは下がる。
支配株主と優先株・ADRの権利
議決権のある普通株は支配株主の影響が強く、NYSEのITUB ADRは議決権のない優先株を裏付けとしている。優先株には配当や一定の売却保護があるが、少数株主は経営の資本配分を容易に変えられない。収益性の低い買収、還元の削減、支配株主に有利な再編が起きても反対する手段は限られる。会社全体の価値とADR保有者の権利を混同してはならない。
AIエージェント代替
銀行の預金、信用引受、規制対応そのものがAIエージェントに消えるとは考えない。しかし、ズップが外部顧客へ人月で売る開発受託は別である。AIが設計、実装、テストを自動化すれば、同じ成果に必要な工数が減る。StackSpotはAIを利用する側の製品だが、外販の金額と継続率が開示されていないため、受託収益の減少を相殺すると決めつけない。
資本規制、税制、株主還元の減少
銀行は利益をすべて自由に配れず、貸出増加に応じた規制資本が必要になる。信用費用が増えてCET1比率が低下すれば、自社株買いは抑えられる。2026年には非居住者向け配当への原則10%の源泉課税が導入され、ADR投資家の受取額にも影響する。2025年の大きな配当を今後10年間の通常の還元率として延長すると、株主価値を過大に見積もる。
今後の分かれ目
- カード残高シェアが2025年の21.4%から継続的に下がり、預金の調達費用も上がる場合
- 個人向けの実質数量と単位収益を同時に見直す。貸出残高が伸びても採算が下がるため、やや悲観の可能性を高く評価する。
- 貸出残高が増えながら90日超延滞率が上昇し、信用費用が会社見通しを継続的に上回る場合
- 純利益の一時的な減少ではなく、信用判断と顧客構成の変化を疑う。自己資本の積み上がりと株主還元を減らし、ROEの回復時期を遅らせる。
- CET1比率を十分に保ちながら、配当と自社株買いが複数年にわたり利益の6〜7割で安定する場合
- 利益が現実に株主へ返っている証拠になる。中立の自己資本道筋と正味還元額に対する確信度を高める。
- 法人金融、加盟店決済、富裕層運用の顧客当たり収益が、信用費用控除後でも増え続ける場合
- 既存顧客との関係という堀が収益を生んでいると判断する。楽観側の市場シェアと利益率を再評価する。
- 政治・財政の不安が信用市場へ波及し、企業の資金需要とレアル建て利益のドル換算額が同時に縮む場合
- 単なる株価の変動とは区別し、10年の数量・単価・利益と自己資本に影響を反映する。やや悲観と悲観の確率を引き上げる。
- ズップがStackSpotの外部有料売上、契約継続率、工数依存の低下を金額で開示する場合
- 受託人月と製品売上を分けて評価し直す。独自の記録基盤や高い継続率が複数確認されるまでは、AIエージェント代替の数量減少を解除しない。
見ておくもの
- ブラジルの個人向け貸出、カード残高、加盟店決済の市場シェア。特に2025年の21.4%からのカードシェア変化
- 個人・中小企業と大企業・中南米の貸出残高の実質的な伸び、および顧客向け金融マージン
- 90日超延滞率、信用費用、貸出残高に対する信用費用率
- 普通株式等Tier1比率、規制資本余力、配当と自社株買いの正味額
- 2026年10月の選挙後の財政運営、税制、銀行規制とレアル建て利益のドル換算への影響
- ヌーバンク、メルカド・パゴ、ブラデスコ、BTGパクチュアルとの顧客獲得・価格競争
- ズップの社外向け人月売上、StackSpotの外部課金額、契約継続率とAIによる開発工数の減少
倍率と資本コストの決め方
分析は2025年のfactsを財務・株価・株数の基準とし、2026年4〜6月期の決算と10月25日の選挙結果を将来見通しに追加した。台帳基準の時価総額は約1082億ドルであり、10月23日の外部時価総額約1033億ドルとの差は約4.5%である。20-Fの2025年末発行済み株式は普通株約56.18億株と優先株約54.09億株の合計約110.27億株で、台帳の約111.89億株とは小幅に異なる。ITUBのADRは1口が優先株1株に対応するが、評価する時価総額は普通株と優先株を合わせた会社全体とし、将来の倍率にADRの株数を別途掛けていない。
セグメントの数量、単位収益、利益率を先に見積もり、その結果のROEと資本コスト、強い堀の残存割合から正当化PERの上限を算出した。中立のROE18.86%、k8.25%、g3.5%、RONIC15.32%では10年目利益に対する上限約16.81倍となり、銀行利益の変動を考えて14.9倍を採用した。現在・過去・同業の市場PERやPBRから倍率を決めていない。
現在の自己資本373.2億ドルに、各筋書きの10年間の純利益累計を足し、正味還元を引いた値は、楽観820億ドル、やや楽観760億ドル、中立700億ドル、やや悲観590億ドル、悲観520億ドルに一致する。悲観の10年後価値377.4億ドルは既存自己資本373.2億ドルを上回る。金融業のため現金と負債は預金・貸出業務の中で扱い、余剰現金として別に加算していない。2026年10月26日以降の市場急落による新しい株価を基準の時価総額へ混ぜていない。
資本コスト 8.3% = 無リスク金利 5% + β — × 5%。米国株共通の基本8.0%にquality+0.25%を加え、資本コストは8.25%とする。ブラデスコの8.8%より低いのは、イタウの規模、信用判断、安定した高ROEを評価したためである。一方、米国大手銀行よりはブラジル特有の信用循環と収益の変動が大きく、JPモルガンの7.8%程度には下げない。ベータや市場のPERからは決めていない。