結論
マーシュは、企業向け保険の仲介(マーシュ)、再保険の仲介(ガイ・カーペンター)、人事・年金・投資のコンサルティング(マーサー)、経営コンサルティング(オリバー・ワイマン)を持つ世界最大の保険ブローカーである。2025 年の収益は 270 億ドル(基調 +4%)、調整後営業利益は 73 億ドル、ROE は 28%。2026 年 7〜9 月期は収益 69 億ドル(基調 +5%)、調整後営業利益率 22.7%(横ばい)で、2026 年の基調成長は 2025 年並みの約 5%と会社は見る。2026 年 1 月に社名をマーシュ・マクレナンからマーシュへ改め、部門名も統一した。
収益の柱は保険料に連動する仲介手数料(収益の約 6 割)と、保険料の波に左右されにくいコンサルティング(約 4 割)である。足もとは世界の商業保険料率が 8 四半期続けて下がり(7〜9 月期は財物 −10%、全体 −5%)、再保険部門は 6%減。さらに 2026 年 2 月には、AI が仲介を置き換えるとの不安で同業の株価が 1 日で 9〜12%下がった。
バリュー投資の観点では、顧客の約 9 割が毎年更新し、切り替えに伴う手間と責任が大きいこの事業は 10 年後も存在し、堀は大型案件ほど深いと見る。資本コスト 7.5%(基本 8.0% + quality −0.5%)、倍率は利益ベースの正当化 PER の 9 割に置き、AI による置き換えのリスクは長期の g を物価より低い 3% にして入れた。中立の筋書きは 10 年後に純利益 76 億ドル・PER 19.9 倍。確率で加重した 10 年後の価値は 972 億ドルで、今の時価総額 897 億ドルに対し +8%(総合で「適正」)。k − g が 4〜4.5% 台と小さいので、倍率は g に敏感で、結論の幅は大きい。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず 10 年後を問う。企業が危険を移すために保険を買い、その設計に人の助言を要する構図は、AI が効率を上げても変わりにくい。保険が複雑になる(サイバー・気候・AI 自体の損害)ほど、助言の価値は上がる。堀は切り替え費用と信頼、取引データの厚みで、大型案件ほど深く、中小案件ほど浅い。10 年後も存在し、おそらく今と同じ強さを保つ。
次にオーナー利益。収益の約 4 割はコンサルとフィーで保険料の波を受けにくく、設備投資が軽く、FCF は純利益を上回る。ただし買収で成長を買う会社なので、調整後の利益から買収無形資産の償却を引いた値(今は約 40 億ドル)をオーナー利益の目安にした。
資本配分は、配当と自社株買いを続けながら、小さな買収を数多く行う型で、1 件の失敗が会社を傷つけない点を評価する。ただし買収倍率が上がる中で、買収の価格規律が緩まないかを見続けたい。
安全域は、悲観の筋書き(10 年で構造的に基調成長が 1〜2% に落ちる)でも、還元を合わせて今の時価総額の 64% に留まる点にある。最大の不確かさは AI による直販への置き換えで、これは分からない部分として確率を悲観側へ厚く置いた。事業への確信は高く、利益ベースの値段でも安全域はあるが、k − g が小さいため倍率は g の置き方に敏感である。
何で稼ぐ会社か
マーシュの事業は 4 つに分けて見る。第 1 は最大の稼ぎ頭であるマーシュ(リスク部門)で、企業の保険の設計・調達・保険金請求の支援を行う。2025 年の収益は約 148 億ドル、調整後営業利益率は約 31%。収益は顧客が払う保険料にかかる手数料とフィーからなる。2022 年にマッグリフ(米国の中堅向け)を買収して中堅市場を厚くした。
第 2 は再保険のガイ・カーペンター(現在はリインシュアランスと表記)。保険会社が引き受けた危険を再保険市場へ出すのを仲介する。2025 年の収益は約 25 億ドル。7〜9 月期は財物の巨大災害再保険の軟化と前年の高い比較で 6%減だったが、顧客の継続率は 9 割台後半を保つ。
第 3 は人事・福利・年金・投資のマーサー(現在はピープル・アンド・インベストメンツ)で、収益は約 64 億ドル。健康・福利厚生の仲介と助言(収益の約半分)、年金・投資の助言と運用委託(資産連動)、報酬・人材のデータを売る。2026 年 7〜9 月期は基調 +5%。保険料が下がる局面でも崩れにくい。
第 4 は経営コンサルティングのオリバー・ワイマン(約 33 億ドル)。金融・保険・ヘルスケアに強く、AI 導入の助言(社内の「クォーシェント」)が伸びて 7〜9 月期は 14%増。ただし成功報酬の前倒しを含み、10〜12 月期は横ばいの見通し。
利益の大半は仲介の手数料から出る。引受リスクを負わず、設備投資も軽い。社員 9 万人超の人件費が費用の大半で、利益率は人件費の上昇と効率化(シュライブ計画)の綱引きで決まる。
優良さと弱いところ
優良さは 4 点で見る。第 1 は切り替え費用である。大企業の保険設計は、複数の保険会社との条件交渉、補償の隙間の点検、保険金請求の支援まで含み、顧客が変えるのは大事故の後や役員交代の時に限られる。更新率は約 9 割で、料率が上下しても顧客は残る。第 2 は規模と情報で、世界最大の取扱量から得た料率・損害のデータが、保険会社への交渉力と顧客への助言の質を上げる。第 3 は事業の組み合わせで、再保険と人事コンサルが保険料の波をならす。第 4 は資本の軽さで、ROE は 27〜30%、FCF は純利益を上回る。
弱い点も 4 つある。(1)収益の約 6 割は保険料率に連動し、財物の料率が 10%下がれば、その分だけ手数料が目減りする。(2)人件費が費用の大半で、物価と賃金が上がる局面では利益率を保つのが難しい。7〜9 月期の利益率は前年から動かなかった。(3)買収で成長を買う分だけ、買収の償却と借入が積み上がる。純負債は 188 億ドルで、時価総額の 21%。(4)競合のエーオン(Aon)は利益率が約 30%と高く、ガイ・カーペンター(再保険)はハウデン(Howden)など新興の追い上げを受ける。利益率の差は、マーシュがコンサルを抱え収益の質が混ざることでも説明できるが、優位とは言えない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
世界の保険ブローカーの手数料収益は年 3,700 億ドル前後(推定)で、上位 5 社で約 3 割を占める。マーシュ、エーオン(Aon)、ウィリス・タワーズ・ワトソン(WTW)、アーサー・J・ギャラガー(Gallagher)の 4 社がグローバル大型案件を分け合い、米国の中堅は買収を重ねるブラウン・アンド・ブラウンやギャラガー、プライベート・エクイティ(PE)支援のブローカーが競う。
今は循環の「軟化期」にいる。マーシュ自身の指数で世界の商業保険料率は 2026 年 4〜6 月期に −6%、7〜9 月期に −5%。財物は −10%、米国の超過賠償は逆に +13%と、種類で二極化している。基調成長の業界平均は低〜中単桁へ鈍化し、ブラウン・アンド・ブラウンのように横ばいの会社も出た。
構造の話は 3 つある。第 1 は AI で、2026 年 2 月に仲介の置き換え懸念で株価が急落した。複雑な大型案件は人の助言と交渉が残るが、中小企業向けの販売は直接のオンライン取引や MGA(保険会社の代理店)に移りうる。マーシュは AI で営業の効率を上げ、ブローカー向けの業務基盤(ブローカー・ワークベンチ)で受付の時間を数週間から数時間へ縮めたと言う。第 2 は手数料の透明化と訴訟、第 3 はサイバー・気候・AI 自体の損害という新しい危険で、保険が複雑になるほど助言の価値は上がる。
買収の統合も続く。エーオンの NFP、ギャラガーのアシュアード・パートナーズ、ブラウン・アンド・ブラウンのアクセッションが続き、買収倍率が上がっている。
資本政策と M&A
還元は配当(毎年 1 割前後の増配)と自社株買い。2026 年は配当・買収・自社株買いで合計約 55 億ドルを使う計画で、9 か月で既に約 40 億ドル(配当 14 億、買収 6 億、自社株買い 20 億)を使った。自社株買いの規模は買収の案件次第と財務責任者が語り、過去に比べて自社株買いの額は多い。
買収は 15 年で 130 件超の中堅買収を積み上げた。2022 年のマッグリフ買収(約 77 億ドル)は統合を終え、7〜9 月期の買収費は 2.9 億ドル。買収は 1 件ごとに小さいが、積み上げで基調成長の外に年 +2〜3%を足す。買収倍率が上がる中で、これを割高で買っていないかが資本配分の見どころである。
株数の純減は年 0.2〜1.6%と、自社株買いの額(時価総額の 2%前後)に比べて小さい。株式報酬で増える株が自社株買いの多くを打ち消しているため、還元から株式報酬の分を引いて見る。純負債は営業利益の約 2.6 倍と重めで、借り換えのたびに利払いが増える(10 年で約 3 億ドル)。他社に買われる側になる可能性はほぼなく、大型の追加買収は大企業の統合を伴うので考えにくい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
マーシュは、世界の企業が危険を移すときの第一の相談先である。基調成長は 2023 年以降 4〜7%を保ち、2026 年も約 5%を見込む。財物の料率が 8 四半期連続で下がる中でも、米国の超過賠償は +13%、サイバー・気候・AI 自体の損害など新しい危険が増え、助言の仕事は複雑になる一方である。人事・年金の部門(マーサー)は +5%、経営コンサルは AI の導入助言で +14%と、保険料の波に左右されない収益が約 4 割を占める。
利益率はシュライブ計画で伸びる。節約の目標は 4 億ドルから 6 億ドルへ引き上げられ、2028 年までに多くが実行される。2025 年の調整後営業利益率 27%に対し、AI による営業・受付の効率化が重なれば 30%台前半も見える。同業のエーオンが 30%前後を出している以上、マーシュが追いつけない理由はない。
買収は 15 年で 130 件を超える中堅買収の積み上げで、年 +2〜3%の成長を安く買い足せる。ROE 28%・FCF が純利益を上回る事業が、資本コスト 6.5%で割り引かれて今の時価総額 896 億ドルにとどまるのは、2026 年 2 月の AI 不安の売りが行きすぎた結果である。複雑な大型案件は直販に置き換わらず、むしろ AI は仲介者の生産性を上げる。10 年で純利益が 1.9 倍になれば、PER 23 倍でも時価総額は 2 倍近くになる。
慎重な見方
この収益は保険料の水準に連動し、今はその水準が下がっている。マーシュ自身の指数で世界の商業保険料率は 2026 年 4〜6 月期 −6%、7〜9 月期 −5%(財物 −10%)。財物の料率が戻る材料は乏しく、再保険は 7〜9 月期に 6%減、1 月の更新も軟調と見込まれる。調整後営業利益率は 7〜9 月期に前年と同じ 22.7%で、シュライブ計画の節約が賃金と物価の上昇で食われている。
経営コンサルの +14%は成功報酬の前倒しを含み、10〜12 月期は横ばいの見通し。基調成長の「約 5%」は、軟化の中で M&A と為替の追い風を除いた数字であり、来年以降の保証はない。
AI は構造の問題である。中小企業の保険は、オンラインの直接取引や MGA、保険会社の直販に移りうる。2026 年 2 月の同業株の急落は、市場がその可能性を初めて値段にした出来事で、一度ついた疑いは消えにくい。手数料の透明化や訴訟も火種になる。
買収の価格は上がり、買収で成長を買う型は借入を増やす。純負債は営業利益の 2.6 倍で、借り換えのたびに利払いが増える。さらに 2026 年の自社株買いは 9 か月で 20 億ドルと多いが、株式報酬による株数の増加で純減は 0.2%にとどまる。PER 22 倍は成長が 1 桁台なら高く、10 年の PER は 17 倍以下を考えるべきである。
どちらに重みを置いたか
事業の強さは強気の見方が上回る一方、慎重な見方(AI による直販の置き換え)は倍率の割り引きではなく、10 年の中立の g を物価より低い 3% にして入れた。確率は 10 年で楽観・やや楽観 32%、やや悲観・悲観 35% と、わずかに悲観側へ寄せた。AI による構造変化は誰にも分からず、直販への置き換えが進むかどうかが分かれ目である。結果は 10 年で +8%、総合は「適正」。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 286.55 ドル1,364 億ドル(+ 配当配当と自社株買いの合計 93.70 ドル446 億ドル)。 今の値に割り戻すと 204.30 ドル972 億ドル、今との差 +2.5%、 期待の年率 +6.7%(資本コスト 7.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 461.97 ドル2,199 億ドル | 117.65 ドル560 億ドル | +190.9% | +11.3% | 57.96 ドル276 億ドル |
| やや楽観 | 22% | 383.38 ドル1,825 億ドル | 109.24 ドル520 億ドル | +147.2% | +9.5% | 108.38 ドル516 億ドル |
| 中立 | 33% | 318.21 ドル1,515 億ドル | 98.74 ドル470 億ドル | +109.2% | +7.7% | 137.59 ドル655 億ドル |
| やや悲観 | 22% | 191.26 ドル910 億ドル | 84.03 ドル400 億ドル | +38.2% | +3.3% | 60.56 ドル288 億ドル |
| 悲観 | 13% | 68.66 ドル327 億ドル | 52.52 ドル250 億ドル | −39.2% | −4.9% | 15.75 ドル75 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 286.55 ドル1,364 億ドル | 93.70 ドル446 億ドル | +90.8% | +6.7% | 380.25 ドル1,810 億ドル |
今の株価時価総額 199.27 ドル949 億ドル(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 10% 楽観:AI を味方に、利益率 30%近く・基調成長 6%超 利益 100 億ドル · PER 22.0 倍 · 株価時価総額 461.97 ドル2,199 億ドル
2035 年に収益 554 億ドル(年 +7.4%)。市場が年 5.8%で伸び、シェアは買収で 4.75%へ上がる。マーシュ 308 億ドル、再保険 45 億ドル、マーサー 135 億ドル、経営コンサル 66 億ドル。営業利益率は 29.8%、営業利益 165 億ドルで、エーオンの水準に並ぶ。純利益は 100 億ドル、10 年の還元は 560 億ドル。競合は規模でマーシュに劣り、中小向けの直販は大型案件の保険を置き換えない。ROE は 33%前後。倍率は PER 22.0 倍(正当化 PER の上限 23.1 倍の 9.5 割。内訳は multiple.why)。買収は年 15〜20 億ドルを使うが、買収倍率を抑えて価値を足し、10 年の還元と両立する。景気後退は 1 度で、2008〜09 年級には至らない。
- リスク(マーシュ):企業の保険仲介:数量 6,480(世界の保険仲介手数料の市場規模(億ドル))× 価格 4.8%(マーシュのシェア)→ 売上 308 億ドル・営業利益 108 億ドル
- 再保険(ガイ・カーペンター):数量 250(世界の再保険仲介手数料の市場規模(億ドル))× 価格 18.0%(ガイ・カーペンターのシェア)→ 売上 45 億ドル・営業利益 17 億ドル
- ピープル・アンド・インベストメンツ(マーサー):数量 3,000(世界の人事・福利・年金・投資助言の市場規模(億ドル))× 価格 4.5%(マーサーのシェア)→ 売上 135 億ドル・営業利益 35 億ドル
- 経営コンサルティング(オリバー・ワイマン):数量 6,270(世界の経営コンサルティング市場の規模(億ドル))× 価格 1.1%(オリバー・ワイマンのシェア)→ 売上 66 億ドル・営業利益 15 億ドル
倍率:利益ベースの正当化 PER:k 7.50%(基本 8.0% + quality -0.50%)・g 4.0%(上限の内側。市場の実質 +1.0% + 価格 3.5% から、AI・直販へのシェアの目減りを引いた約 3.0%(中立)で、4% を超えない)・事業の ROE 35%(帳簿の自己資本 ROE:純利益 100.0 ÷ 自己資本 289.0 億ドル)・moat=普通(残る割合 0.50)。RONIC = k + 残る割合 ×(ROE − k)= 21.1%、正当化 PER = (1 − g/RONIC)/(k − g) = 23.1 倍(上限 = 純利益 100.0 億ドル × これ = 2314 億ドル)。これの 1.0 割(22.0 倍)に置いた。楽観:利益の質が最も良く出る筋書きなので上限に最も近く置いた。
確率:保険が複雑化して助言の需要が増え、AI が仲介の効率を上げる。ガイ・カーペンター(再保険)と健康・年金が伸び、買収の積み上げも続く。
やや楽観 22% やや楽観:市場が年 5.4%、買収でシェアも上昇 利益 86 億ドル · PER 21.2 倍 · 株価時価総額 383.38 ドル1,825 億ドル
2035 年に収益 506 億ドル(年 +6.5%)。マーシュ 284 億ドル、再保険 41 億ドル、マーサー 122 億ドル、経営コンサル 59 億ドル。調整後営業利益率 28.8%、営業利益 146 億ドル、純利益 86 億ドル。10 年の還元は 520 億ドル。AI の効率化の一部は顧客に値下げで返すため、利益率の改善は 1.8pt にとどまる。ROE は約 31%。競合との関係は、エーオンの約 30%の利益率には届かず、WTW の約 24%は上回る位置。買収は年 10〜15 億ドルで、基調成長の外に年 +1〜2%を足す。景気後退を 1 度挟む前提を置いた。
- リスク(マーシュ):企業の保険仲介:数量 6,250(世界の保険仲介手数料の市場規模(億ドル))× 価格 4.6%(マーシュのシェア)→ 売上 284 億ドル・営業利益 97 億ドル
- 再保険(ガイ・カーペンター):数量 240(世界の再保険仲介手数料の市場規模(億ドル))× 価格 17.1%(ガイ・カーペンターのシェア)→ 売上 41 億ドル・営業利益 15 億ドル
- ピープル・アンド・インベストメンツ(マーサー):数量 2,865(世界の人事・福利・年金・投資助言の市場規模(億ドル))× 価格 4.3%(マーサーのシェア)→ 売上 122 億ドル・営業利益 30 億ドル
- 経営コンサルティング(オリバー・ワイマン):数量 5,980(世界の経営コンサルティング市場の規模(億ドル))× 価格 1.0%(オリバー・ワイマンのシェア)→ 売上 59 億ドル・営業利益 13 億ドル
倍率:利益ベースの正当化 PER:k 7.50%(基本 8.0% + quality -0.50%)・g 4.0%(上限の内側。市場の実質 +1.0% + 価格 3.5% から、AI・直販へのシェアの目減りを引いた約 3.0%(中立)で、4% を超えない)・事業の ROE 32%(帳簿の自己資本 ROE:純利益 86.0 ÷ 自己資本 267.0 億ドル)・moat=普通(残る割合 0.50)。RONIC = k + 残る割合 ×(ROE − k)= 19.9%、正当化 PER = (1 − g/RONIC)/(k − g) = 22.8 倍(上限 = 純利益 86.0 億ドル × これ = 1962 億ドル)。これの 0.9 割(21.2 倍)に置いた。やや楽観:楽観より伸びと利益率が控えめなので一段下。
確率:基調成長が年 5%台を保ち、買収と AI の効率で利益率が 29%近くまで上がる。
中立 33% 中立:基調成長 5%、買収が年 +1%の上乗せ、利益率 28% 利益 76 億ドル · PER 19.9 倍 · 株価時価総額 318.21 ドル1,515 億ドル
2035 年に収益 473 億ドル(2025 年の 1.75 倍、年 +5.8%)。マーシュ 267 億ドル、再保険 38 億ドル、マーサー 113 億ドル、経営コンサル 55 億ドル。調整後営業利益率は 27.9%で、シュライブ計画の節約(6 億ドル)が賃金・物価の上昇と AI の値下げ圧力で相殺される。営業利益 132 億ドル、純利益 76 億ドル(年 +6.6%)。10 年の還元は 470 億ドルで、純利益の約 8 割。ROE は 29%。価格(市場の名目成長)は物価並みに上がり、数量(保険の対象)が年 1.5%伸びる。景気後退を 2 度挟み、そのたびに利益が 2〜3 割落ちる前提。AI の置き換えで長期の g を 3%に下げる。
- リスク(マーシュ):企業の保険仲介:数量 6,030(世界の保険仲介手数料の市場規模(億ドル))× 価格 4.4%(マーシュのシェア)→ 売上 267 億ドル・営業利益 88 億ドル
- 再保険(ガイ・カーペンター):数量 233(世界の再保険仲介手数料の市場規模(億ドル))× 価格 16.5%(ガイ・カーペンターのシェア)→ 売上 38 億ドル・営業利益 14 億ドル
- ピープル・アンド・インベストメンツ(マーサー):数量 2,733(世界の人事・福利・年金・投資助言の市場規模(億ドル))× 価格 4.2%(マーサーのシェア)→ 売上 113 億ドル・営業利益 27 億ドル
- 経営コンサルティング(オリバー・ワイマン):数量 5,700(世界の経営コンサルティング市場の規模(億ドル))× 価格 1.0%(オリバー・ワイマンのシェア)→ 売上 55 億ドル・営業利益 12 億ドル
倍率:利益ベースの正当化 PER:k 7.50%(基本 8.0% + quality -0.50%)・g 4.0%(上限の内側。市場の実質 +1.0% + 価格 3.5% から、AI・直販へのシェアの目減りを引いた約 3.0%(中立)で、4% を超えない)・事業の ROE 28%(帳簿の自己資本 ROE:純利益 76.0 ÷ 自己資本 271.0 億ドル)・moat=普通(残る割合 0.50)。RONIC = k + 残る割合 ×(ROE − k)= 17.8%、正当化 PER = (1 − g/RONIC)/(k − g) = 22.1 倍(上限 = 純利益 76.0 億ドル × これ = 1683 億ドル)。これの 0.9 割(19.9 倍)に置いた。中立:切り替え費用の高い堀と高い ROE は本物だが、買収の資本と帳簿の ROE の見かけの高さを織り込み、上限の 9 割にとどめた
確率:市場が名目で年 5%(物価 3.5%+実質 1.5%)、買収でシェアが +10%。AI は効率化と一部の置き換えが相殺する。
やや悲観 22% やや悲観:基調成長が 3〜4%に鈍り、PE 勢と AI で利益率 25%へ 利益 54 億ドル · PER 16.9 倍 · 株価時価総額 191.26 ドル910 億ドル
2035 年に収益 407 億ドル(年 +4.2%)。市場は年 4%でしか伸びず、買収はシェアの低下(4.2%)を止められない。マーシュ 230 億ドル、再保険 33 億ドル(ハウデンなどの追い上げでシェア 16%へ)、マーサー 97 億ドル、経営コンサル 47 億ドル。営業利益率は 25.2%、営業利益 103 億ドル。純利益 54 億ドル。10 年の還元は 400 億ドル。成長が 1 桁台前半に落ちる。競合のエーオンやギャラガーは買収と AI の使い方でシェアを伸ばし、マーシュは相対的に中位へ後退する。ただし大型案件の更新率は約 9 割のまま保たれ、収益の質が崩れるわけではない。
- リスク(マーシュ):企業の保険仲介:数量 5,480(世界の保険仲介手数料の市場規模(億ドル))× 価格 4.2%(マーシュのシェア)→ 売上 230 億ドル・営業利益 69 億ドル
- 再保険(ガイ・カーペンター):数量 202(世界の再保険仲介手数料の市場規模(億ドル))× 価格 16.3%(ガイ・カーペンターのシェア)→ 売上 33 億ドル・営業利益 11 億ドル
- ピープル・アンド・インベストメンツ(マーサー):数量 2,485(世界の人事・福利・年金・投資助言の市場規模(億ドル))× 価格 3.9%(マーサーのシェア)→ 売上 97 億ドル・営業利益 21 億ドル
- 経営コンサルティング(オリバー・ワイマン):数量 5,180(世界の経営コンサルティング市場の規模(億ドル))× 価格 0.9%(オリバー・ワイマンのシェア)→ 売上 47 億ドル・営業利益 9 億ドル
倍率:利益ベースの正当化 PER:k 7.50%(基本 8.0% + quality -0.50%)・g 4.0%(上限の内側。市場の実質 +1.0% + 価格 3.5% から、AI・直販へのシェアの目減りを引いた約 3.0%(中立)で、4% を超えない)・事業の ROE 23%(帳簿の自己資本 ROE:純利益 54.0 ÷ 自己資本 235.0 億ドル)・moat=普通(残る割合 0.50)。RONIC = k + 残る割合 ×(ROE − k)= 15.2%、正当化 PER = (1 − g/RONIC)/(k − g) = 21.1 倍(上限 = 純利益 54.0 億ドル × これ = 1138 億ドル)。これの 0.8 割(16.9 倍)に置いた。やや悲観:伸びが落ち堀が削れた会社として中立より下。
確率:PE 支援のブローカーとの競争、MGA・直販の台頭、手数料の透明化で、成長と利益率が同時に下がる。
悲観 13% 悲観:直販・MGA に中小案件を奪われ、手数料も圧縮される構造の敗北 利益 28 億ドル · PER 11.7 倍 · 株価時価総額 68.66 ドル327 億ドル
2035 年に収益 335 億ドル(年 +2.2%)。マーシュのシェアは 3.75%へ下がり、手数料率も圧縮される。マーシュ 186 億ドル、再保険 27 億ドル、マーサー 82 億ドル(AI で福利厚生の助言が自動化)、経営コンサル 40 億ドル。営業利益率は 21.2%、営業利益 71 億ドル。借入を増やした買収の再借り換えで利払いは 22 億ドルへ増え、純利益は 28 億ドル。10 年の還元は 250 億ドルに減らす。倍率は PER 11.7 倍(正当化 PER の上限 16.7 倍の 7 割。内訳は multiple.why)。
- リスク(マーシュ):企業の保険仲介:数量 4,970(世界の保険仲介手数料の市場規模(億ドル))× 価格 3.8%(マーシュのシェア)→ 売上 186 億ドル・営業利益 48 億ドル
- 再保険(ガイ・カーペンター):数量 183(世界の再保険仲介手数料の市場規模(億ドル))× 価格 14.8%(ガイ・カーペンターのシェア)→ 売上 27 億ドル・営業利益 8 億ドル
- ピープル・アンド・インベストメンツ(マーサー):数量 2,257(世界の人事・福利・年金・投資助言の市場規模(億ドル))× 価格 3.7%(マーサーのシェア)→ 売上 82 億ドル・営業利益 15 億ドル
- 経営コンサルティング(オリバー・ワイマン):数量 4,704(世界の経営コンサルティング市場の規模(億ドル))× 価格 0.9%(オリバー・ワイマンのシェア)→ 売上 40 億ドル・営業利益 6 億ドル
倍率:利益ベースの正当化 PER:k 7.50%(基本 8.0% + quality -0.50%)・g 4.0%(上限の内側。市場の実質 +1.0% + 価格 3.5% から、AI・直販へのシェアの目減りを引いた約 3.0%(中立)で、4% を超えない)・事業の ROE 12%(帳簿の自己資本 ROE:純利益 28.0 ÷ 自己資本 239.0 億ドル)・moat=普通(残る割合 0.50)。RONIC = k + 残る割合 ×(ROE − k)= 9.6%、正当化 PER = (1 − g/RONIC)/(k − g) = 16.7 倍(上限 = 純利益 28.0 億ドル × これ = 467 億ドル)。これの 0.7 割(11.7 倍)に置いた。悲観:構造的に負けて優良でなくなった会社として最も下。
確率:AI が中小企業向けの販売を直接取引に置き換え、手数料の透明化で料率も下がる。優良な仲介会社ではなくなる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
リスク(マーシュ):企業の保険仲介
企業向けの保険の設計・調達・保険金支援。保険料に連動する手数料とフィー。
| 数量世界の保険仲介手数料の市場規模(億ドル) | 価格マーシュのシェア | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 3,700 | 4.0% | 148 | 46 |
| 10 年後 中立 | 6,030 | 4.4% | 267 | 88 |
取り方:世界の保険仲介の手数料収益 3,700 億ドル(推定・業界ノート)× シェア 4.0% = 148 億ドル。調整後営業利益率 31%(RIS 全体の調整後営業利益 55 億ドル(報道)から再保険の約 9 億ドルを引いて推定)。市場の名目成長に物価 3.5%が入る。
再保険(ガイ・カーペンター)
保険会社の危険を再保険市場へ出す仲介。巨大災害再保険の料率に連動。
| 数量世界の再保険仲介手数料の市場規模(億ドル) | 価格ガイ・カーペンターのシェア | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 150 | 16.7% | 25 | 9 |
| 10 年後 中立 | 233 | 16.5% | 38 | 14 |
取り方:再保険仲介の手数料市場 約 150 億ドル(推定。エーオン・ハウデン・ギャラガーとの 4 社で約 7 割)× シェア 約 17% = 25 億ドル。営業利益率は約 36%と推定。
ピープル・アンド・インベストメンツ(マーサー)
健康・福利厚生の仲介と助言、年金・投資の助言と運用委託、人事データ。
| 数量世界の人事・福利・年金・投資助言の市場規模(億ドル) | 価格マーサーのシェア | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1,600 | 4.0% | 64 | 15 |
| 10 年後 中立 | 2,733 | 4.2% | 113 | 27 |
取り方:市場 約 1,600 億ドル(推定)× シェア 4.0% = 64 億ドル。2026 年 7〜9 月期は基調 +5%(健康 +5・投資と年金 +8)。営業利益率 23%台と推定(コンサル全体の公表値から按分)。
経営コンサルティング(オリバー・ワイマン)
金融・保険・ヘルスケアに強い戦略・リスクの助言。AI 導入助言が成長。
| 数量世界の経営コンサルティング市場の規模(億ドル) | 価格オリバー・ワイマンのシェア | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 3,500 | 0.9% | 33 | 8 |
| 10 年後 中立 | 5,700 | 1.0% | 55 | 12 |
取り方:市場 約 3,500 億ドル(推定)× シェア 0.94% = 33 億ドル。営業利益率 24%(2025 年のコンサル全体から按分)。成功報酬で振れる。
リスクと懸念
料率軟化の長期化
世界の商業保険料率は 8 四半期続けて下がり、財物は −10%、再保険は 6%減。収益の約 6 割が保険料に連動するため、軟化が 3 年続けば基調成長は 3%台に落ち、利益率の改善も止まる。賠償責任の上昇が相殺できるかが分かれ目である。
AI による仲介の置き換え
中小企業向けの販売は、直接のオンライン取引・MGA・保険会社の直販へ移る可能性がある。2026 年 2 月に同業株が 1 日で 9〜12%下がったのはこの疑いが原因で、疑いは一度ついたら消えにくい。大型案件の堀は深いが、収益に占める中堅・中小の割合を見ておく必要がある。
利益率の頭打ち
2026 年 7〜9 月期の調整後営業利益率は前年と同じ 22.7%。シュライブ計画の節約 6 億ドル(費用 7.5 億ドル、2028 年まで)が賃金・物価の上昇で食われると、同業のエーオンとの差が埋まらない。AI の効率化を顧客へ値下げで返す圧力もある。
買収の価格上昇と借入
買収倍率が上がる中で、小さな買収を数多く行う型は価格規律が緩みやすい。純負債は営業利益の 2.6 倍で、借り換えのたびに利払いが増える。買収の償却と借入が積み上がると、調整後利益と実際の利益の差が開く。
コンサルティングの景気感応
経営コンサル(オリバー・ワイマン)は成功報酬で振れ、2026 年 7〜9 月期の +14%は前倒しを含み、10〜12 月期は横ばいになる見通し。景気後退では案件が止まり、マーサーの人事案件も遅れる。成功報酬の割合を決算で確認したい。
手数料の透明化と訴訟
保険会社からの成功報酬型の手数料(コンティンジェント・コミッション)の開示義務や、利益相反を巡る訴訟は、ブローカー全体の手数料構造に影響しうる。2000 年代にも同様の問題で大きな和解金を払った歴史がある。
今後の分かれ目
- 世界の商業保険料率が 2027 年に底打ちし、プラスに転じる
- 基調成長が 5%台へ戻り、楽観・やや楽観の確率を上げる。10 年の中立の倍率を上限に近づけて見る。
- 調整後営業利益率が 2027 年に前年比 +1pt 以上伸びる
- シュライブの節約が出ている証拠。10 年の利益率を 29%台へ上げ、やや楽観の確率を上げる。
- 中小企業向けの直販・MGA がブローカーの手数料を 2 年続けて下げる
- AI による置き換えが現実となる。悲観とやや悲観の確率を上げ、10 年の PER を 2〜3 倍下げる。
- 買収倍率が高騰し、大型買収に動く
- 資本配分の悪化。買収型の成長を割り引き、10 年の中立の PER を 1〜2 倍下げる。
- エーオンやギャラガーとの基調成長の差が 2 年続けて 1pt 以上開く
- シェアを失っている兆し。やや悲観の確率を上げる。
- 景気後退で顧客の雇用・売上が 1 割落ちる
- 景気の底は一時的で、10 年の悲観にはあたらない。更新率が保たれれば回復後の戻りは早いと見て、10 年の筋書きは変えない。
見ておくもの
- マーシュの料率指数(財物・賠償責任・サイバー)
- 基調成長(リスク・再保険・ピープル・コンサルの部門別)
- 調整後営業利益率(前年比)とシュライブの節約の実績
- 買収の件数・支払額・買収倍率
- 純負債と利払い、自社株買いの額
- エーオン・ギャラガー・WTW の基調成長との差
- AI 関連の置き換えの兆候(直販・MGA の手数料、更新率)
倍率と資本コストの決め方
今の PER(約 22 倍)や 2026 年 2 月の売り後の水準を見る前に、4 部門の市場規模 × シェアから利益を積み上げ、その後で ROE・g・k から利益ベースの倍率を出した。k = 基本 8.0% + quality −0.5% = 7.5%、g は事業で決め 4% を超えない(中立は物価より低い 3%)。AI による置き換えのリスクは、10 年の中立の g を 3% に下げて入れた。PER は (1 − g/RONIC)/(k − g) を来年の利益に対して出し、10 年目の利益には ×(1+g)、資本コストを超える分は新しく投じるお金では半分に薄れる形で使った。中立の 10 年は正当化 PER 22.1 倍の 9 割 = 19.9 倍で、やや悲観・悲観も同じ式の上限に対する割合で置き、過去の PER の中央値には寄せていない。結論は +8% で「適正」。net_oku は調整後純利益から買収無形資産の償却(税引後)を引いた値で、2025 年は約 40 億ドル(GAAP 42 億ドルと整合)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 5% + β — × 5%。k = 基本 8.0% + quality −0.5% = 7.5%(β は使わない。決まり v2。内訳は quality_parts と quality_why)。引受リスクを負わず顧客の更新率も高い事業なので quality は下げ、買収に伴う純負債の重さで少し戻した。個別のリスク(AI による置き換え・買収の価格・料率軟化)は k に足さず、悲観の確率と深さで表した。長期の g は 4.0% まで、k − g ≥ 3.5% を守る。