結論
TFSファイナンシャルは、オハイオ州とフロリダ州を中心に住宅ローンと預金を扱う、相互持株会社傘下の貯蓄銀行である。結論は、会社全体換算の機械判定では割高であり、MHCの配当放棄を公開株へ割り当て直しても中心値はやや割高である。信用損失の少なさは本物だが、ROEは長く4〜5%にとどまり、8.75%の資本コストを下回る。
2026年6月までの9か月は純利益が前年同期比17%増え、純金利マージンも1.85%へ改善した。低利の住宅ローンが入れ替わり、変動金利のホームエクイティが増えた効果である。ただし預金は減り、貸出の伸びをFHLB借入で埋めた。直近四半期の純金利マージン1.90%は米銀全体の3.32%よりなお低く、値決め力の弱さは消えていない。
評価を難しくするのは、MHCが株式の約81%を持ちながら配当を放棄し、約19%の公開株主が実支払配当をほぼ独占する構造である。13年続いた実績は価値がある一方、放棄は毎年の会員承認と当局の非異議に依存し、MHCは買収や完全株式会社化を阻止できる。公開株の現時価約8.8億ドルに対し、この仕組みを筋書き別に補正した現在価値は約6.7億ドルで、安全域はなおない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、まず事業が10年後も必要かを見る。答えは、ある。住宅を買う人に長期資金を供給し、預金を集める役割は残る。TFSは信用損失を抑える技術と地域ブランドを持ち、危機を越えてきた。この部分は理解しやすい。
次に、利益を留保した時の稼ぎを見る。ここが弱い。ROEは長く4〜5%で、資本コスト8.75%を下回る。貸出を増やすには資本と資金調達が要り、預金が追いつかなければ高い借入へ移る。したがって、成長そのものが価値を増やすとは限らず、余剰資本を公開株主へ返すことがオーナー利益の中心になる。
MHCの配当放棄は、公開株主にだけ太い現金を渡す珍しい仕組みである。公開株の現時価は約8.8億ドルで、法的持分19%に対応する自己資本約3.6億ドルを大きく上回る。差額は、将来もMHCが配当を放棄するという期待への支払いである。13年の実績は重いが、毎年の承認と当局判断が要り、支配権も公開株主にはない。長く持つなら高い現金利回りだけでなく、放棄が一時止まる筋書きを含めても元本を守れる値段に安全域を求めるべきである。
何で稼ぐ会社か
収益の中心は、住宅を担保に家計へ貸す利息である。2025年9月末の投資目的貸出は約157億ドルで、第一順位の住宅ローンが約108億ドル、ホームエクイティの与信残高が約48億ドルを占めた。35のフルサービス支店と2つの融資拠点を持ち、預金は主にオハイオ州とフロリダ州の支店網、ネット、コールセンター等で集める。住宅ローンとホームエクイティは最大28州とワシントンD.C.で扱う。
第一住宅ローンは固定金利が約64%、Smart Rateと呼ぶ変動金利型が約36%である。Smart Rateは当初3年または5年を固定し、その後に毎年見直す。返済実績などの条件を満たせば再固定できるため、借り手の利便性を保ちながら資産の金利感応度を上げる仕組みである。2026年6月までの9か月の新規第一住宅ローンは約12億ドルで、約84%が住宅購入向けだった。
ホームエクイティは成長の柱である。2026年6月末には残高が約55億ドルへ増え、うち約45億ドルがプライムレート連動の与信枠だった。現在の平均担保掛目は49%、90日以上延滞は0.14%と低い。第一住宅ローンより利回りが高く、負債コストが高い局面でも利ざやを守りやすい反面、住宅価格と雇用が同時に悪化すれば第二順位担保の損失が増える。
資金は約100億ドルの預金と約58億ドルの借入が主である。2026年6月期の平均運用資産利回りは4.72%、有利子負債コストは3.14%で、差は1.58%にすぎない。手数料、ローン売却益、銀行保有生命保険もあるが規模は小さく、価値の大半は貸出残高、資金調達費、信用損失の三つで決まる。
優良さと弱いところ
強みは信用の質と資本の厚さである。2026年6月末の総延滞は貸出の約0.27%、非稼働債権は約0.25%で、ホームエクイティの平均担保掛目も49%だった。CET1比率は16.88%、レバレッジ比率は10.72%と十分であり、住宅ローン専業に近い銀行として保守的な引受文化は本物である。クリーブランド周辺では購入向け住宅ローンが郡内2位、預金が郡内5位で、地域ブランドも残る。ただしカヤホガ郡の預金シェアは2026年に4.97%へ0.48ポイント下がった。
しかし、堀は弱い。住宅ローンと定期預金は価格比較が容易で、顧客の乗り換え費用も高くない。2026年4〜6月期の純金利マージン1.90%は、米国の保険対象銀行全体3.32%を大きく下回る。預金の値上げを避けると顧客が流出し、貸出を伸ばすほどFHLB借入への依存が増えるため、規模が利益率へつながっていない。
資本効率も弱い。過去10年のROE中央値は4.7%で、直近も同水準である。これは資本コストを下回り、留保利益を増やしても1ドルが1ドル以上の価値を生みにくいことを示す。MHCの配当放棄によって公開株主の受取額は大きくなるが、事業そのものの再投資利回りが上がるわけではない。AIエージェント代替の型には当たらず、AIは審査効率や不正検知の改善要因である一方、オンライン銀行との価格競争を強める要因として効く。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
米国の住宅ローン残高は2026年6月末に約13.1兆ドル、HELOC残高は4,590億ドルである。TFSの第一住宅ローンは全米残高の約0.08%にすぎないが、HELOCは約1%を占める。全国では小さい一方、地元では強い。2024年10月から2025年8月までの購入向け住宅ローンはカヤホガ郡2位だった。預金では2026年6月の同郡シェアが支店帰属ベースで4.97%となり5位である。キーコープ54.91%、PNCファイナンシャル8.78%、ハンティントン・バンクシェアーズ8.14%、シチズンズ・フィナンシャル5.85%を下回るが、キーコープ本店への法人預金集中も含む数字である。
競争相手は、これらの地域銀行とフィフス・サードに加え、ロケット・カンパニーズや全国のオンライン住宅ローン会社である。預金では国債、マネー・マーケット・ファンド、ネット銀行とも競う。大手は決済、資産運用、法人取引の手数料で利ざやの薄さを補えるが、TFSは住宅関連に偏るため、貸出金利と調達金利の差がほぼすべてを決める。
金利が高いままなら、低利の固定住宅ローンが満期や返済で高利回り資産へ入れ替わり、利ざやはゆっくり回復する。実際、2026年6月までの9か月は貸出利回りが17ベーシスポイント上がった。一方で、定期預金の価格競争を避けた結果、預金は約4.5億ドル減り、借入は約9.4億ドル増えた。資産の再価格付けより負債の再価格付けが速ければ、回復は止まる。
10年先も住宅金融は必要であり、事業が消える可能性は低い。数量の中立は、名目住宅残高が物価と世帯形成で年2〜3%増え、地域シェアがおおむね横ばいという姿である。上振れはホームエクイティの全国展開と預金の安定、下振れは住宅取引の長期停滞、預金流出、第二順位担保の損失で生じる。業界の再編が進んでも、MHCが支配権を持つTFSは買収による規模拡大も、買われることによる価値顕在化も起こりにくい。
資本政策と M&A
資本配分は大型買収ではなく、住宅ローンの有機的な成長と公開株主への配当が中心である。2025年9月期は配当約0.60億ドルと自社株買い約0.03億ドルを実行した。2026年6月までの9か月も配当約0.45億ドル、自社株買い約0.05億ドルで、買戻し枠は約459万株残る。2026年8月には次の四半期配当率を前回から約12%引き上げた。筋書きの還元額は、株式報酬と従業員持株制度による株数増加を差し引いた正味である。長期の利益や還元について会社から数字の約束はない。
特殊なのはMHCの配当放棄である。MHCは約81%を保有するが、2026年7月に会員承認と連銀の非異議を得て、2027年7月まで配当を放棄できる。公開株主は約19%しか持たないのに、会社が実際に払う配当のほぼ全部を受け取る。過去13年続いた仕組みであるため継続性は高いが、承認が止まれば配当は大幅に減るか中断される可能性が高い。
この構造は少数株主に現金を厚く渡す一方、議決権では逆である。MHCは取締役選任、買収、合併、第二段階の完全株式会社化を実質的に決められ、預金者会員の利益を公開株主より優先できる。完全株式会社化では公開株主の持分比率を維持し、過去の放棄配当で希薄化させない規則があるが、実施時期を株主は選べない。買収をしない規律は評価できるものの、価値を表に出す出口も支配株主に握られている。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
低利の固定住宅ローンが時間とともに返済され、高利回りの新規ローンへ置き換わるため、利ざやには数年単位の追い風がある。2026年6月までの9か月は貸出利回りが17ベーシスポイント上がり、純金利マージンは1.85%へ改善した。ホームエクイティは残高が約55億ドルへ増え、プライムレート連動の与信枠が中心である。固定住宅ローンの弱点を変動金利資産が埋める形が進んでいる。
信用面の余裕は大きい。ホームエクイティの平均担保掛目は49%、90日以上延滞は0.14%で、総資本比率も17%台後半にある。カヤホガ郡で購入向け住宅ローン2位という地域ブランドを基礎に、通信販売とコレスポンデント経由で全国へ伸ばせる。ホームエクイティ市場における残高シェアは約1%まで来ており、巨大銀行に比べて小さな追加シェアでも利益への効果は大きい。
MHCの配当放棄は2014年以降毎年承認され、投票者の約97%が賛成してきた。公開株主は約19%の持分で実支払配当のほぼ全てを受け取るため、事業利益の低さだけで公開株の収益を測ると見誤る。完全株式会社化が起きれば、公開株主の比率は維持され、過去の放棄配当で希薄化しない。利ざやの回復、低い信用損失、配当放棄の継続がそろえば、利益は10年で大きく増え、現金収入も安定する。
慎重な見方
事業の核心は、低い利回りで長く固定された住宅ローンを、高い預金とFHLB借入で支える構造である。直近の純金利マージン1.90%は改善後の数字でも、米銀全体3.32%から遠い。2026年6月までの9か月に預金が約4.5億ドル減る一方、借入は約9.4億ドル増えた。貸出を伸ばしても調達費が先に増えるなら、資産規模だけが膨らみROEは上がらない。
信用実績の良さも将来を保証しない。急成長しているホームエクイティは第二順位担保が多く、失業と住宅価格下落が重なれば損失率は今の低水準から急に変わる。現在の平均担保掛目は低いが、与信枠は実行残高より大きく、不況時に引き出しが増える可能性もある。住宅取引が細れば第一住宅ローンの新規獲得も減り、低利資産の入れ替えが遅れる。
さらに、公開株主の高配当は権利ではなく、MHCの毎年の放棄に依存する。承認や連銀の非異議が得られなければ、同じ総額を全株へ払う資金はなく、配当は縮小または中断されうる。MHCは買収や第二段階の完全株式会社化を拒めるため、低ROEを改善する外部圧力も働きにくい。公開株だけの現金利回りを魅力に感じても、会社全体の利益から見た値段が高すぎれば、最後の買い手が同じ特殊構造へ高い値を払うことに依存する。
どちらに重みを置いたか
事業の存続と信用の質では上向きの見方が強いが、資本効率、預金流出、MHC支配では慎重な見方が勝る。上側の確率を28%、下側を38%とし、下に寄せる理由は、利ざや改善が借入依存で相殺されやすく、配当放棄が毎年の承認事項だからである。機械的な会社全体換算では割高となる。MHCの経済的取り分を筋書き別に直すと、公開株の中心価値は現時価を約2割下回り、判定はやや割高である。信用の安全性は高いが株主価値の安全域はなく、総合の結論は割高である。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 3.59 ドル10 億ドル(+ 還元の換算額還元の合計 1.66 ドル5 億ドル)。 今の値に割り戻すと 2.64 ドル7 億ドル、今との差 −83.9%、 期待の年率 −12.2%(資本コスト 8.8%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 6.39 ドル18 億ドル | 2.32 ドル7 億ドル | −47.0% | −6.9% | 0.70 ドル2 億ドル |
| やや楽観 | 20% | 4.80 ドル13 億ドル | 2.14 ドル6 億ドル | −57.7% | −9.4% | 1.39 ドル4 億ドル |
| 中立 | 34% | 3.39 ドル9 億ドル | 1.97 ドル6 億ドル | −67.4% | −12.3% | 1.82 ドル5 億ドル |
| やや悲観 | 24% | 2.84 ドル8 億ドル | 1.25 ドル4 億ドル | −75.1% | −14.6% | 0.98 ドル3 億ドル |
| 悲観 | 14% | 2.04 ドル6 億ドル | 0.54 ドル2 億ドル | −84.3% | −18.1% | 0.36 ドル1 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 3.59 ドル10 億ドル | 1.66 ドル5 億ドル | −68.1% | −12.2% | 5.25 ドル15 億ドル |
今の株価時価総額 16.43 ドル46 億ドル(2026-10-30)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 8% 楽観:利ざや回復とホームエクイティ拡大が両立 利益 2 億ドル · PER 10.7 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 6.39 ドル18 億ドル
2035年、第一住宅ローン残高は155億ドル、ホームエクイティは95億ドルへ増える。購入向け住宅ローンの地元上位を守りながら、通信販売と提携先を通じて全国のHELOCシェアを伸ばす。低利の固定ローンが高利回り資産へ入れ替わり、預金の減少も止まるため、純金利マージンは2%台前半へ上がる。
信用損失は住宅価格と雇用の安定で低いまま、基幹システム刷新と自動審査で経費率も下がる。MHCは毎年配当を放棄し、株式報酬を差し引いた公開株主向けの正味還元は10年で6.5億ドルとなる。純利益は1.67億ドル、自己資本は25.2億ドルへ増えるが、ROEはなお資本コストを下回る。地域ブランドは保たれるものの、価格競争型の事業という性格までは変わらない。
- 第一住宅ローン:数量 155(投資目的の第一住宅ローン残高(億ドル))× 価格 0.05(残高当たりの平均利回り)→ 売上 7 億ドル・営業利益 1 億ドル。名目残高は年3.6%増。高利回り資産への入れ替えが進む。
- ホームエクイティ:数量 95.0(ホームエクイティの実行残高(億ドル))× 価格 0.06(残高当たりの加重平均利回り)→ 売上 6 億ドル・営業利益 1 億ドル。全国シェア拡大と変動金利の利ざやが両立する。
- 流動性資産・その他:数量 13.0(現金・投資証券等の残高(億ドル))× 価格 0.05(残高当たりの利息・配当・手数料率)→ 売上 1 億ドル・営業利益 0 億ドル。流動性を厚くし、補助収益も物価並みに増える。
倍率:k 8.75%、事業ROE 6.63%、g 3.5%(住宅金融市場の名目3.5%、シェア横ばい、利回り横ばい)、moat weakで超過収益の残る割合1/3。RONIC 8.04%から10年目利益に対する正当化PER上限は11.13倍で、信用損失の安定を評価し上限の約96%の10.7倍とした。
確率:預金流出が止まり、低利の固定住宅ローンの入れ替え、ホームエクイティの全国展開、低い信用損失、MHCの配当放棄が10年そろう必要があるため8%。
やや楽観 20% やや楽観:資産の再価格付けが調達費を上回る 利益 1 億ドル · PER 10.1 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 4.80 ドル13 億ドル
2035年、第一住宅ローン残高は145億ドル、ホームエクイティは82億ドルとなる。地元の購入向け住宅ローン順位を保ち、全国では現在に近い小さなシェアを維持する。固定住宅ローンの再価格付けと変動金利HELOCが効き、純金利マージンは2%前後まで改善するが、預金獲得のための価格競争は続く。
信用費用は一度の景気後退で増えるものの、担保掛目の低さと資本余力で吸収する。MHCの配当放棄は継続し、株式報酬を差し引いた10年の正味還元は6.0億ドルとなる。純利益は1.33億ドル、自己資本は24.05億ドルへ増える。堀は広がらないが、低損失の住宅金融会社として現在より収益性が少し良くなる筋書きである。預金と借入の構成は改善するものの、大手銀行のような低コスト預金基盤には届かない。
- 第一住宅ローン:数量 145(投資目的の第一住宅ローン残高(億ドル))× 価格 0.05(残高当たりの平均利回り)→ 売上 7 億ドル・営業利益 1 億ドル。名目残高は年3%弱増え、利回りも緩やかに上がる。
- ホームエクイティ:数量 82.0(ホームエクイティの実行残高(億ドル))× 価格 0.06(残高当たりの加重平均利回り)→ 売上 5 億ドル・営業利益 1 億ドル。HELOCは伸びるが競争で利ざや改善は限定的。
- 流動性資産・その他:数量 12.0(現金・投資証券等の残高(億ドル))× 価格 0.05(残高当たりの利息・配当・手数料率)→ 売上 1 億ドル・営業利益 0 億ドル。流動性と手数料は物価並みに増える。
倍率:k 8.75%、事業ROE 5.53%、g 3.5%(住宅残高の名目3%、小幅なシェア増、利回り横ばい)、moat weakで残る割合1/3。RONIC 7.68%から正当化PER上限は10.73倍となる。預金競争と低ROEを考慮し、上限の約94%の10.1倍とした。
確率:低利資産の入れ替えとホームエクイティ成長は既に始まっているが、預金競争と費用増が残るため20%。
中立 34% 中立:低損失は続くが利ざやとROEは低いまま 利益 1 億ドル · PER 9.3 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 3.39 ドル9 億ドル
2035年、第一住宅ローン残高は135億ドル、ホームエクイティは72億ドルとなる。名目残高は物価より遅く増え、カヤホガ郡の地位は保つが、全国シェアはほぼ横ばいである。低利の固定資産は徐々に入れ替わる一方、預金コストとFHLB借入が改善分を削り、純金利マージンは2%弱にとどまる。
10年の間に一度の住宅・雇用悪化を経験するが、保守的な審査により資本は大きく傷まない。純利益は1.02億ドル、累計利益9.6億ドル、株式報酬を差し引いた正味還元5.5億ドル、自己資本23.0億ドルとなる。MHCの配当放棄は続くものの、完全株式会社化や買収による価値顕在化は起きない。事業は残るが、ROEは4.4%程度で資本コストを大きく下回る。
- 第一住宅ローン:数量 135(投資目的の第一住宅ローン残高(億ドル))× 価格 0.04(残高当たりの平均利回り)→ 売上 6 億ドル・営業利益 1 億ドル。名目残高は年2.2%増。地域シェアは横ばい。
- ホームエクイティ:数量 72.0(ホームエクイティの実行残高(億ドル))× 価格 0.06(残高当たりの加重平均利回り)→ 売上 4 億ドル・営業利益 1 億ドル。市場成長に沿うが競合も増え、利ざやは平準化する。
- 流動性資産・その他:数量 11.0(現金・投資証券等の残高(億ドル))× 価格 0.05(残高当たりの利息・配当・手数料率)→ 売上 1 億ドル・営業利益 0 億ドル。補助収益は小さいまま。
倍率:k 8.75%、事業ROE 4.43%、g 3.0%(住宅金融市場の名目3%、シェア横ばい、利回り横ばい)、moat weakで残る割合1/3。RONIC 7.31%から正当化PER上限は10.56倍となる。低い利ざや、資本コスト未満のROE、MHC支配を反映し、上限の約88%の9.3倍とした。
確率:住宅金融の必要性、低い信用損失、緩やかな再価格付けを認めつつ、預金流出とMHC支配が続く最も起こりやすい姿として34%。
やや悲観 24% やや悲観:預金流出と住宅不況で資本効率がさらに低下 利益 1 億ドル · PBR 0.4 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 2.84 ドル8 億ドル
2035年、第一住宅ローン残高は118億ドル、ホームエクイティは60億ドルにとどまる。預金が国債、MMF、ネット銀行へ流れ、FHLB借入の高いコストが定着する。住宅取引の停滞で新しい高利回り資産への入れ替えも遅れ、純金利マージンは1%台半ばへ下がる。
途中の住宅不況で信用費用と再編費用が増え、前半3年の累計は0.5億ドルの赤字となる。その後7年で4.7億ドルを取り戻すため、10年累計の純利益は4.2億ドルにとどまる。MHCの配当放棄が一時中断され、株式報酬を差し引いた正味還元も3.5億ドルへ減るため、自己資本は19.6億ドルとなる。終点の純利益は0.56億ドル、ROEは3%弱である。地域ブランドは残るが、普通の低収益貯蓄銀行となり、売れる資産の税後価値を下値の中心に見る。預金者会員を優先するMHC支配は変わらず、外部からの再編も起きない。
- 第一住宅ローン:数量 118(投資目的の第一住宅ローン残高(億ドル))× 価格 0.04(残高当たりの平均利回り)→ 売上 5 億ドル・営業利益 0 億ドル。住宅取引停滞と調達費高止まりで利益率が低下。
- ホームエクイティ:数量 60.0(ホームエクイティの実行残高(億ドル))× 価格 0.06(残高当たりの加重平均利回り)→ 売上 3 億ドル・営業利益 0 億ドル。成長が止まり、信用費用が平常より高い。
- 流動性資産・その他:数量 10.0(現金・投資証券等の残高(億ドル))× 価格 0.05(残高当たりの利息・配当・手数料率)→ 売上 0 億ドル・営業利益 0 億ドル。流動性を厚く保つため収益性が下がる。
倍率:ROE 2.86%はk 8.75%を大幅に下回り、稼ぐ力0.56÷8.75%=6.4億ドルより、ストレス後の売却可能資産7.94億ドルが大きい。床はFY2025の自己資本18.9億ドルにPBR 0.42倍を掛けた7.94億ドルとし、留保利益で増えた終点自己資本は床の根拠に使っていない。
確率:預金の価格競争、FHLB依存、ホームエクイティの急増が同時に進んでいるため、下側を厚くして24%。
悲観 14% 悲観:配当放棄が止まり、住宅信用と資金調達が同時に悪化 利益 0 億ドル · PBR 0.3 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 2.04 ドル6 億ドル
2035年、第一住宅ローン残高は98億ドル、ホームエクイティは45億ドルへ縮む。住宅価格下落と失業増で第二順位担保の損失が増え、預金も流出する。高コストの借入と厚い流動性を維持するため、利ざやは過去の低迷期に近づく。MHCの配当放棄は承認されず、公開株主向け配当は大幅に縮小する。
信用損失と再編費用で前半4年の累計純損失は4.0億ドルとなる。後半6年は小幅黒字へ戻って1.6億ドルを稼ぐが、10年累計純利益はマイナス2.4億ドルである。株式報酬を差し引いた正味還元1.5億ドルを控除した自己資本は15.0億ドルまで減る。終点には小幅黒字へ戻るが、純利益は0.17億ドル、ROEは1%台にすぎない。MHCは合併や完全株式会社化を選ばず、外部からの再編圧力も働かない。倒産ではなく、資本を低収益で抱えたまま価値が長く眠る筋書きである。
- 第一住宅ローン:数量 98.0(投資目的の第一住宅ローン残高(億ドル))× 価格 0.04(残高当たりの平均利回り)→ 売上 4 億ドル・営業利益 0 億ドル。残高縮小と調達費上昇でほぼ利益が残らない。
- ホームエクイティ:数量 45.0(ホームエクイティの実行残高(億ドル))× 価格 0.05(残高当たりの加重平均利回り)→ 売上 2 億ドル・営業利益 0 億ドル。第二順位担保の損失と競争で収益性が崩れる。
- 流動性資産・その他:数量 8.0(現金・投資証券等の残高(億ドル))× 価格 0.04(残高当たりの利息・配当・手数料率)→ 売上 0 億ドル・営業利益 0 億ドル。流動性維持費用で利益を生まない。
倍率:終点ROE 1.13%はk 8.75%を大幅に下回り、稼ぐ力0.17÷8.75%=1.94億ドルより売却可能資産5.7億ドルが大きい。床はFY2025の自己資本18.9億ドルにPBR約0.302倍を掛けた5.7億ドルとし、将来の留保利益は床の根拠に使っていない。
確率:信用の質と資本は強いので破綻を主筋にしないが、MHC承認停止、住宅価格下落、預金流出が重なる構造的敗北を14%とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
第一住宅ローン
固定金利住宅ローンとSmart Rate型の変動金利住宅ローン。地域の購入向けローンと全国の通信・提携チャネルで残高を作る。
| 数量投資目的の第一住宅ローン残高(億ドル) | 価格残高当たりの平均利回り | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 108 | 0.04 | 4 | 0 |
| 10 年後 中立 | 135 | 0.04 | 6 | 1 |
取り方:2025年9月末の第一住宅ローン残高108.4億ドルと開示利回り3.98%から利息収入4.31億ドルを組み立てた。税前利益は、商品別利回り、預金・借入の資金原価、貸倒費用、経費を残高に配賦した推定であり、会社は商品別利益を開示していない。
ホームエクイティ
住宅の持分価値を担保にした与信枠、分割返済ローン、橋渡しローン。与信枠は主にプライムレート連動である。
| 数量ホームエクイティの実行残高(億ドル) | 価格残高当たりの加重平均利回り | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 48.1 | 0.07 | 3 | 1 |
| 10 年後 中立 | 72.0 | 0.06 | 4 | 1 |
取り方:2025年9月末のHELOC40.6億ドルとホームエクイティローン7.5億ドルに、開示利回り6.43%と6.99%を加重して6.52%とした。税前利益は、変動金利による高い利ざやと、信用・運営費を商品残高へ配賦した推定である。
流動性資産・その他
現金、投資証券、FHLB株式、ローン売却益、手数料など。規模は小さいが流動性と補助収益を担う。
| 数量現金・投資証券等の残高(億ドル) | 価格残高当たりの利息・配当・手数料率 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 9.5 | 0.05 | 0 | 0 |
| 10 年後 中立 | 11.0 | 0.05 | 1 | 0 |
取り方:2025年9月末の現金約4.3億ドルと売却可能証券約5.2億ドルを数量とし、全社の売上7.9億ドルから二つの貸出商品の利息収入を引いた残り0.45億ドルに合う率を置いた。手数料やローン売却益もこの欄に含める。
リスクと懸念
MHCの配当放棄
公開株主の現金収入は、約81%を持つMHCが配当を放棄することで成り立つ。会員投票と連銀の非異議が毎年必要であり、承認が止まれば同じ総額を全株へ払う余力はない。配当の縮小や中断が、そのまま公開株の価値低下につながる。会社の利益が横ばいでも公開株の現金収入は急変しうるため、通常の配当株より制度依存が強い。
預金流出とFHLB借入
2026年6月までの9か月に預金は約4.5億ドル減り、借入は約9.4億ドル増えた。預金価格を上げれば利ざやが縮み、上げなければ顧客が流出する。貸出成長を高コスト借入で賄う状態が続くと、資産が増えてもROEは改善しない。流動性は保てても、株主に帰属する利幅が長く削られる。
固定住宅ローンの金利ミスマッチ
第一住宅ローンの約64%は固定金利で、負債はより早く再価格付けされる。高金利が長引けば低利資産の入れ替えに時間がかかり、金利が下がれば新規貸出利回りも低下する。どちらの方向でも、資産と負債の速度差が利益を振らせる。ヘッジは一部を守るが、長期の再投資利回りまで保証しない。
ホームエクイティの信用損失
ホームエクイティ残高は急増し、第二順位担保が多い。現在の平均担保掛目49%と延滞率0.14%は安心材料だが、失業と住宅価格下落が重なると損失は非線形に増える。未実行枠が不況時に引き出される流動性リスクもある。低損失の過去だけで将来の引当を小さく見積もると、下振れを過小評価する。
少数株主の統治
MHCは取締役選任、合併、買収、第二段階の完全株式会社化を実質的に支配する。公開株主が再編を望んでも実現できず、預金者会員の利益が優先されうる。低ROEが続いても外部から資本配分を変えにくい。買われる側になる期待を本質価値へ入れるべきではない。
AI・デジタル競争
この事業は貸借対照表と許認可が価値の中心で、人月や席課金を売る事業ではないため、AIエージェント代替の型には直接当たらない。ただしオンライン審査と価格比較が進めば支店の優位は薄れ、サイバー不正や自動化投資の負担も増える。効率化の利益が値下げ競争で顧客へ移る可能性も高い。
今後の分かれ目
- 純金利マージンが2.1%を超え、預金残高が4四半期連続で増えたら
- 資産の再価格付けが調達費を上回った証拠である。やや楽観以上の確率を上げ、第一住宅ローンとホームエクイティの利益率を引き上げる。
- 預金減少が続き、借入が有利子負債の4割を超えたら
- 資金調達の堀が弱まったと判断する。中立の利ざやを下げ、やや悲観の確率を上げる。
- ホームエクイティの90日以上延滞が1%を超えるか、年間純貸倒が貸出の0.5%を超えたら
- 現在の低損失を前提にできない。信用費用と資産の床を見直し、悲観の確率を大きく上げる。
- MHCの配当放棄が会員または連銀から承認されなかったら
- 公開株向け配当の優先性が失われる。還元を悲観の水準へ下げ、会社全体の低ROEだけで価値を測り直す。
- 第二段階の完全株式会社化が正式に提案されたら
- 公開株主の持分比率が維持され、放棄配当で希薄化しない条件を確認する。支配権の割引が薄れるため、上側の確率を上げる。
- ホームエクイティ残高が年10%以上伸びても、平均担保掛目と延滞が現状付近を保ったら
- 全国チャネルのシェア拡大が信用を壊さず進んだと判断する。やや楽観の数量と利益率を上げる。
見ておくもの
- 純金利マージン、貸出利回り、預金とFHLB借入の平均コスト
- 預金残高、定期預金・仲介預金の構成、借入残高
- 第一住宅ローンとホームエクイティの残高・新規実行・市場シェア
- ホームエクイティの平均担保掛目、90日以上延滞、純貸倒
- MHCの年次会員投票、連銀の非異議、配当放棄の上限と期間
- CET1・レバレッジ比率、自社株買い、完全株式会社化の動き
倍率と資本コストの決め方
今の株価や市場のPER・PBRを見る前に、第一住宅ローン、ホームエクイティ、流動性資産を残高×利回りで積み上げた。中立は純利益1.02億ドル、自己資本23.0億ドル、ROE4.43%、g 3.0%、k 8.75%、弱い堀から正当化PER上限10.56倍を出し、その88%の9.3倍とした。銀行では貸出残高が物価分を含む名目数量なので、利回りへ物価1.41倍を重ねていない。今の市場倍率や同業倍率は根拠にしていない。
MHC構造は通常計算では表せない。payout_okuは実際の正味還元で、約19%の公開株主がほぼ全額を受け取る。機械計算は現在価値7.4億ドルを全株換算46.4億ドルと比べて約84%のマイナスになるが、MHC株に公開株と同じ値段を掛けるため厳しすぎる。公開株の現時価は約8.8億ドルである。楽観・やや楽観・中立は配当放棄が終点後も続く、やや悲観は経済的取り分50%、悲観は持分相当19%と補正すると、公開株の現在価値は約6.7億ドルで約24%のマイナスとなる。全筋書きで放棄が続けば約16%のマイナス、終点後に止まれば約56%のマイナスであり、特殊配当を認めても安全域はない。
資本コスト 8.8% = 無リスク金利 5% + β — × 5%。kは米国株の基本8.0%にquality +0.75%を足した8.75%。MHCの支配、配当放棄、住宅信用の個別リスクは資本コストへ重ねず、筋書きの利益、還元、確率で表した。