結論
ビザは、世界 200 以上の国と地域で、銀行(発行側)と加盟店(受け側)をつなぐカード決済の網を運営する。自分では貸出をせず、決済額の約 0.2% と処理件数に応じた手数料を受け取る。2025 年 9 月期(kabufu の表記は 2025/12)は純収入 400 億ドル、営業利益 269 億ドル(営業利益率 67%)、純利益 198 億ドル、ROE 52%。2026 年 4〜6 月期も純収入 +14%、決済額 4 兆ドル超(+10%)、越境 +13% と勢いは続き、通期見通しは低めの 10 台前半成長に上げた。
バリュー投資の観点では、事業の質は申し分ない。カードを持つ人と使える店が互いに増える 2 面ネットワークは、新規参入がほぼ不可能で、物価 3.5% の世界では取扱高が物価分だけ自動的に膨らむ。設備投資も少なく、利益のほとんどが株主に戻る(直近は配当と自社株買いで純利益を上回る)。
本質価値は、堀の強さと払う値段の両方で決まる。実効率が下がる流れ(加盟店との和解・ルーティング競争・各国の上限・ステーブルコイン・A2A)と、司法省のデビット訴訟が 10 年かけて効く。それでも資本コスト 7.5%(基本 8.0% から強い堀の分を引いた下限)では、利益の 95% を還元しながら年 7〜10% 伸びる事業に高い倍率が付き、中立の筋書きは 10 年後に PER 約 22 倍となる(倍率は利益ベースの式:資本コストを超える稼ぎは新しく投じるお金では 2/3 だけ残る強い堀として正当化 PER 約 26 倍、その 8.5 割)。10 年後の時価総額は今を上回るが、割り引くと総合ではやや割高。倍率は k と g の差(3.5%)に敏感で、規制で成長が 4% に落ちれば 10 年の価値は今をさらに下回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資家なら、まず「10 年後もあるか」を問う。答えは、ある。決済網は世界の消費と結びついていて、10 年後も存在し、物価と実質消費で取扱高は 2 倍近くになる。堀は 2 面ネットワークと信頼で、広がる方向にある。これは疑いにくい。
次にオーナー利益を見る。営業利益 269 億ドルから税と少額の株式報酬を引いても、約 198 億ドルの純利益のほぼ全額が株主に返る。設備投資が小さく、事業を伸ばすための再投資が要らない、きわめて良い構造である。経営の資本配分も、買収で価値を壊さず、買い戻しを続ける点は評価できる。
次に値段である。時価総額は 7,600 億ドル、PER は 40 倍、利回りは 2.5%。ただし利益の 95% が還元され、それが物価込みで年 7〜10% 伸びるので、事業の利回りと成長を合わせれば資本コスト 7.5% を上回る。ただし今の値段では倍率が縮む分が引いて、期待の年率は約 4% にとどまる。中立の筋書きでは 10 年後の PER は約 22 倍、利益は 2 倍強に伸び、時価総額は 9,300 億ドルと今の約 1.2 倍になる。
わかりやすい事業で、確信度は高い。ただし実効率の下落と新しい決済経路という「わからない部分」は小さくなく、倍率は成長の前提に敏感なので、今の値段に安全域はない。優良な会社をやや高い値段で買う形に近い。
何で稼ぐ会社か
ビザの収益は、サービス収入(決済額に連動)、データ処理収入(処理件数に連動)、国際取引収入(越境と通貨交換に連動)、その他(付加価値サービス)から、銀行への奨励金(キャッシュバックや発行契約の補助)を引いた純収入。FY2025 のおよそ 7 割が決済額と処理件数に連動する「ネットワーク手数料」、3 割弱が「付加価値サービス」で、本分析ではこの 2 つに分けた。
ネットワーク手数料は、カードが使われるたびに入る。ビザの決済額は FY2025 で約 14.2 兆ドル、実効率は約 0.21%。消費者の買い物(クレジット・デビット・プリペイド)が中心で、越境(外国で使う・ネットで外国の店から買う)は件数が少ないが単価が高く、利益への寄与が大きい。2026 年 4〜6 月期の処理件数は約 720 億件、年 +10%。
付加価値サービスは、トークン化(カード番号を暗号に置き換える)、不正検知、発行支援、請求・会計の効率化、データ分析、コンサルティング、法人向け決済(Visa Direct・Visa B2B)など。1 件あたりの単価が高く、ネットワーク手数料より成長が速い(直近は 3 割台とされる)が、人件費が重く営業利益率はやや低い。ビザは 2026 年 7 月に約 7% の人員削減を発表し、費用を整えにかかった。
銀行(発行側)と、受け取る店(受け側)はビザの顧客。カード利用者への課金はない。この構造のため、不況でも貸し倒れは出ず、利益は取扱高に連動して動く。
優良さと弱いところ
堀は 3 つある。第 1 は 2 面ネットワーク。世界に数十億枚のカードと数千万の加盟店が接続していて、片方だけを作っても使われない。マスターカード(Mastercard)との 2 社寡占は 30 年以上崩れていない。第 2 は信頼と技術の規模。毎秒数万件の処理、不正を即座に止める人工知能、トークンの標準が、銀行・加盟店・アップルやグーグルのスマホ決済に埋め込まれている。第 3 は価格を決める力。物価が上がれば取扱高が自動的に増え、料率の細かい調整と付加価値サービスで 1 件あたりの収入も増やせる。
資本効率は異例に高い。営業利益率 67%、ROE 52%(自己資本は自社株買いで小さい)。設備投資は売上の 5% 前後で、利益の約 95% を株主に返せる。経営はライアン・マキナニー氏の下で、買収より自社開発と提携を選び、2020 年のプレイド(Plaid)買収は司法省の反対で取りやめた。資本配分の評価は高い。
弱いのは 4 つ。規制(デビット訴訟・加盟店との和解・クレジットカード競争法・各国の上限)、新しい決済経路(FedNow・ブラジルの Pix・インドの UPI・ステーブルコイン)、銀行との契約更新で奨励金が増える圧力、越境の景気への振れ。事業の質は最上級でも、実効率が 10 年で下がり続ける可能性は、5 年前より具体的になった。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
カード決済は、現金からの移行と物価で、世界の決済額が年 +7〜8% 伸びてきた。ニルソン(Nilson)によれば、2025 年の米国のクレジットカード購入額は 6.5 兆ドル(+6.1%)。ビザの購入額はおよそ 7.0 兆ドル(+6.8%)、マスターカードは 3.0 兆ドル。業界ノートの中立は、取扱高 年 +7%(物価 3.5% + 現金からの移行 3.5%)・実効率 年 −0.5% で、ネットワーク収入は 10 年で約 2.0 倍。ステーブルコインや A2A が大きく取れない限り、この構造は続く。
競争は 4 方向。同じネットワークのマスターカードは、ほぼ同じ成長と利益率で並走する。米国では、アメリカン・エキスプレスとディスカバー(キャピタル・ワンが買収し、自社の網へ切り替え中)が 1 割強を持つ。次に、ペイパル・ストライプ・アディエン(Adyen)・ブロックなど、加盟店側の処理会社が、手数料の安い経路(銀行口座から直接払う)を売り込む。さらに、各国の即時決済(FedNow・Pix・UPI)が国内の小口を取る。最後に、ステーブルコインが越境の送金で使われ始めている。
循環は、消費が堅調な局面にある。2026 年は W 杯とドル安で越境が伸び、ビザは通期見通しを上げた。ただし 7 月は鈍化した。不況では越境が真っ先に落ちる(2020 年は 4 割超)が、ネットワークの収益は赤字にならない。
米国では、司法省のデビット訴訟(2024 年 9 月提訴)、加盟店との手数料訴訟の和解、クレジットカード競争法(ルーティングの競争を義務付ける案)の 3 つが、実効率の下落リスクとして続く。
資本政策と M&A
還元は配当と自社株買いが中心。FY2025 は配当 47 億ドル、自社株買い 183 億ドルで、純利益 198 億ドルを超えた。2026 年 4〜6 月期も自社株買い 49 億ドル、配当 13 億ドルで、買い戻し枠は 284 億ドル残っている。株数は毎年 2〜3% 減る。株式報酬は年 10 億ドル前後と小さく、増発で薄まる分は小さいため、正味の還元は買い戻し額と配当にほぼ等しい。
純有利子負債は 29 億ドル、現金と負債がほぼ均衡し、自己資本は自社株買いで 380 億ドルまで圧縮されている。財務は堅いが、ROE と PBR は買い戻しで高く見えるだけで、事業の質を直接示さない。
M&A は、2020 年に発表した金融データ会社プレイドの買収が司法省の反対で破談になった。それ以降は、小型の買収(不正検知・トークン関連など)が中心。大型 M&A は反トラスト法で事実上できず、買われる側になる可能性も、時価総額 7,600 億ドルでは現実的でない。
今後の資本配分の鍵は、自社株買いを割高な局面で続けないか。現在の PER は 40 倍近く、買い戻しの利回りは高くない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ビザは貸出リスクを持たず、設備投資も少ないまま、物価と消費の伸びを自動的に受け取る。決済額は 2026 年 4〜6 月期に 4 兆ドルを超え、年 +10%、越境は +13%。純収入は +14% で、通期見通しも引き上げた。付加価値サービスは年 3 割台で伸び、売上の 3 割近くを占め、処理件数 1 件あたりの単価を引き上げている。トークン化とエージェント型決済(AI が代わりに買う)の標準を握れば、新しい決済経路もビザの網の上に乗る。
ステーブルコインや A2A は、ビザの網を置き換えるのではなく、ビザが提供するトークン・不正検知・加盟店網の上で運ばれる。規制の面では、加盟店との和解もデビット訴訟も、実効率を数% 動かすだけで、構造は変わらない。人員削減で費用も整い、付加価値サービスの利益率も規模で上がる。クレジットカードの利用が世界で広がる新興国(インド・東南アジア・アフリカ)では、現金からの移行がまだ序盤にあり、取扱高は物価を上回って伸びる余地が大きい。10 年後の純利益は 580 億ドルまで伸び、PER 25 倍でも 1.4 兆ドルの時価総額になりうる。
慎重な見方
今の PER は 40 倍で、利回りは 2.5%。資本コスト 7.5% に届くには、物価込みで年 5% 以上の成長が長く続く必要がある。だが実効率は下がり続ける。加盟店との手数料訴訟の和解、各国の上限(オーストラリア・EU・ブラジル・インド)、クレジットカード競争法で、ネットワークの価格決定力は 10 年かけて削られる。司法省のデビット訴訟は、米デビット取引の 6 割超を握るビザが「忠誠ペナルティ」で他網を妨げたという主張で、敗訴すれば実効率に直接効く。
さらに、FedNow・Pix・UPI は国内の小口決済を、ステーブルコインは越境の送金を、AI エージェントは決済の経路自体を、ビザの網の外に持ち出す可能性がある。越境は不況で 4 割落ちる。2026 年の W 杯とドル安による押し上げは一時的で、7 月はすでに鈍化した。成長が 4% に落ちれば 10 年後の PER は 24 倍まで縮み、10 年の価値は今の時価総額を 3 割強下回る。
どちらに重みを置いたか
事業の質は強気の見方が強い。値段は、資本コスト 7.5% の下でも中立の筋書きで 10 年後の時価総額が今を上回るが、期待の年率は資本コストに届かない。慎重な見方の芯は実効率の下落と成長の鈍化(やや悲観・悲観)に絞られる。確率は楽観・やや楽観の合計を 3 割台後半に寄せた。10 年の悲観は 12% と、規制・新しい決済経路による構造的な負けを置いた。結論は「優良だが、やや割高」。倍率は k と g の差に敏感で、成長が 4% に落ちれば今の値段は高すぎる点に注意。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 469.83 ドル8,833 億ドル(+ 配当配当と自社株買いの合計 149.15 ドル2,804 億ドル)。 今の値に割り戻すと 331.85 ドル6,239 億ドル、今との差 −19.9%、 期待の年率 +4.1%(資本コスト 7.5%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 761.53 ドル1.43 兆ドル | 207.44 ドル3,900 億ドル | +133.9% | +8.9% | 116.28 ドル2,186 億ドル |
| やや楽観 | 24% | 612.17 ドル1.15 兆ドル | 178.19 ドル3,350 億ドル | +90.8% | +6.7% | 189.69 ドル3,566 億ドル |
| 中立 | 32% | 494.01 ドル9,288 億ドル | 151.59 ドル2,850 億ドル | +55.8% | +4.5% | 206.59 ドル3,884 億ドル |
| やや悲観 | 20% | 280.39 ドル5,271 億ドル | 117.02 ドル2,200 億ドル | −4.1% | −0.4% | 79.48 ドル1,494 億ドル |
| 悲観 | 12% | 144.68 ドル2,720 億ドル | 79.79 ドル1,500 億ドル | −45.8% | −5.9% | 26.94 ドル506 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 469.83 ドル8,833 億ドル | 149.15 ドル2,804 億ドル | +49.4% | +4.1% | 618.97 ドル1.16 兆ドル |
今の株価時価総額 414.34 ドル7,790 億ドル(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 12% 楽観:越境・法人決済・付加価値サービスで成長を保ち、決済の中心を握り続ける 利益 578 億ドル · PER 24.8 倍 · 株価時価総額 761.53 ドル1.43 兆ドル
10 年後(FY2035)、取扱高は年 +9% で 33.6 兆ドル相当。新興国のデジタル化、法人間決済、トークン化とエージェント型決済が加わる。実効率は年 −0.2% の微減。ネットワーク手数料は 680 億ドル、付加価値サービスは処理件数 6,200 億件・1 件あたり単価 0.085 ドルで 530 億ドル。全社の売上は 1,200 億ドル超(FY2025 の 3 倍)、営業利益率は 62%。ステーブルコインや A2A は決済の一部を取るが、ビザは既存のカードネットワーク上で受け入れ、通過点になる。純利益は 580 億ドル近く、成長は 8〜9% に落ち着くが、堀の強さで PER は約 24.8 倍に置く。
- ネットワーク手数料:数量 336,000(決済額(億ドル))× 価格 0.00(実効率(純収入 ÷ 決済額))→ 売上 682 億ドル・営業利益 471 億ドル。取扱高 +9%
- 付加価値サービス:数量 6,200(処理件数(億件))× 価格 0.09(1 件あたりの付加価値サービス収入(ドル))→ 売上 527 億ドル・営業利益 279 億ドル。単価 2.1 倍
倍率:式 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g)。k 7.50%(基本 8.0% + quality -0.50%)。事業の ROE 159.7%(この筋書きの純利益 ÷ 自己資本 362 億ドル)、残る割合 2/3(強い堀 2/3)で RONIC 108.9%、g 4.0%(決済額は実質で年 +5〜6%、物価が加わり名目 +9% 前後だが、実効率の低下を差し引き、10 年目以降は決まりの 4% までとして置く)。式の値は 27.5 倍で、これが検査の上限になる。帳簿の ROE は自社株買いで自己資本が縮んで高く出るため、上限の割合を低めに取る。世界最大の決済網で、貸出のリスクを持たない。利益の約 95% を還元しながら伸びる、利益の質が最も高い部類。 上限の 9 割の 24.8 倍に置いた。
確率:席と ID に当たるカード・加盟店の 2 面ネットワークは崩れにくく、AI 時代にも通過点として残る展開。ただし 10 年この伸びが続く確率は 1 割強。
やや楽観 24% やや楽観:堀は保たれるが、価格競争で成長は年 8% 台 利益 485 億ドル · PER 23.7 倍 · 株価時価総額 612.17 ドル1.15 兆ドル
取扱高は年 +8%、実効率は年 −0.4%。付加価値サービスは売上 420 億ドル超に育つが、処理件数あたり単価の伸びは落ち着く。ステーブルコインと A2A は小口・越境の一部を取るが、大型加盟店・高単価の消費は残る。全社の売上は 1,030 億ドル、営業利益率は 61%。純利益は 485 億ドル、PER 約 23.7 倍。ペイパルやストライプは加盟店側の手数料を下げて取扱高の一部を取るが、ビザはトークンと不正検知を束ねた契約で顧客の銀行を保つ。人工知能による決済の自動化は、ビザの網を通る経路が多数を占める。
- ネットワーク手数料:数量 306,600(決済額(億ドル))× 価格 0.00(実効率(純収入 ÷ 決済額))→ 売上 610 億ドル・営業利益 415 億ドル。取扱高 +8%
- 付加価値サービス:数量 5,700(処理件数(億件))× 価格 0.07(1 件あたりの付加価値サービス収入(ドル))→ 売上 422 億ドル・営業利益 215 億ドル。単価 1.8 倍
倍率:式 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g)。k 7.50%(基本 8.0% + quality -0.50%)。事業の ROE 128.3%(この筋書きの純利益 ÷ 自己資本 378 億ドル)、残る割合 2/3(強い堀 2/3)で RONIC 88.0%、g 4.0%(決済額は実質で年 +5〜6%、物価が加わり名目 +9% 前後だが、実効率の低下を差し引き、10 年目以降は決まりの 4% までとして置く)。式の値は 27.3 倍で、これが検査の上限になる。帳簿の ROE は自社株買いで自己資本が縮んで高く出るため、上限の割合を低めに取る。世界最大の決済網で、貸出のリスクを持たない。利益の約 95% を還元しながら伸びる、利益の質が最も高い部類。 上限の 9 割の 23.7 倍に置いた。
確率:堀は広がるが、価格競争と規制が少しずつ効く、最も起きやすい筋書きの 1 つ。
中立 32% 中立:優良な成熟企業として年 8% 成長、倍率は平常化 利益 415 億ドル · PER 22.4 倍 · 株価時価総額 494.01 ドル9,288 億ドル
取扱高は年 +7%、実効率は年 −0.5%(業界ノートの中立に沿う)。ネットワーク手数料は 552 億ドル(FY2025 の 1.9 倍)。付加価値サービスは処理件数 5,200 億件に倍増、単価も 1.6 倍で 340 億ドル。全社の売上は 890 億ドル(年 +8.3%)、営業利益率は付加価値サービスの混合と費用で 60% 台前半に落ち着き、純利益は 415 億ドル。ステーブルコインと A2A はカードの一部の用途で競合するが、全体をひっくり返すことはない。成長が 1 桁後半に落ち着いた優良企業として PER 約 22.4 倍。
- ネットワーク手数料:数量 279,300(決済額(億ドル))× 価格 0.00(実効率(純収入 ÷ 決済額))→ 売上 552 億ドル・営業利益 370 億ドル。取扱高 +7%
- 付加価値サービス:数量 5,200(処理件数(億件))× 価格 0.07(1 件あたりの付加価値サービス収入(ドル))→ 売上 338 億ドル・営業利益 169 億ドル。単価 1.6 倍
倍率:式 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g)。k 7.50%(基本 8.0% + quality -0.50%)。事業の ROE 72.7%(この筋書きの純利益 ÷ 自己資本 571 億ドル)、残る割合 2/3(強い堀 2/3)で RONIC 51.0%、g 4.0%(決済額は実質で年 +5〜6%、物価が加わり名目 +9% 前後だが、実効率の低下を差し引き、10 年目以降は決まりの 4% までとして置く)。式の値は 26.3 倍で、これが検査の上限になる。帳簿の ROE は自社株買いで自己資本が縮んで高く出るため、上限の割合を低めに取る。世界最大の決済網で、貸出のリスクを持たない。利益の約 95% を還元しながら伸びる、利益の質が最も高い部類。 上限の 9 割の 22.4 倍に置いた。
確率:業界ノートの中立(ネットワーク 約 2 倍、処理 1.5 倍)に沿う。ビザの付加価値サービスは業界の平均より伸びるため、売上は 2.2 倍。
やや悲観 20% やや悲観:規制で実効率が下がり、ステーブルコインと A2A に取扱高の一部を奪われる 利益 289 億ドル · PER 18.2 倍 · 株価時価総額 280.39 ドル5,271 億ドル
クレジットカード競争法(ルーティング競争)とデビット訴訟の是正で、米国の実効率が下がり、世界でも各国の上限規制が広がる。実効率は年 −1.4%(0.18% 台)、取扱高は年 +5.5%。ネットワーク手数料は 436 億ドル。付加価値サービスは 240 億ドルにとどまり、営業利益率は 56%。純利益は 289 億ドル。成長が 3〜4% に落ちる規制下のネットワークとして PER 18.2 倍(式の 25.1 倍の 7.3 割)。それでも貸出リスクを持たず、設備投資も小さい構造は変わらず、営業利益は FY2025 の 1.4 倍、純利益は 1.45 倍に伸びる。ただし優良株として払われてきた高い倍率は戻らない。
- ネットワーク手数料:数量 242,500(決済額(億ドル))× 価格 0.00(実効率(純収入 ÷ 決済額))→ 売上 436 億ドル・営業利益 270 億ドル。実効率 −1.4%/年
- 付加価値サービス:数量 4,600(処理件数(億件))× 価格 0.05(1 件あたりの付加価値サービス収入(ドル))→ 売上 239 億ドル・営業利益 105 億ドル。単価 1.3 倍
倍率:式 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g)。k 7.50%(基本 8.0% + quality -0.50%)。事業の ROE 45.8%(この筋書きの純利益 ÷ 自己資本 631 億ドル)、残る割合 2/3(強い堀 2/3)で RONIC 33.0%、g 4.0%(決済額は実質で年 +5〜6%、物価が加わり名目 +9% 前後だが、実効率の低下を差し引き、10 年目以降は決まりの 4% までとして置く)。式の値は 25.1 倍で、これが検査の上限になる。帳簿の ROE は自社株買いで自己資本が縮んで高く出るため、上限の割合を低めに取る。世界最大の決済網で、貸出のリスクを持たない。利益の約 95% を還元しながら伸びる、利益の質が最も高い部類。 上限の 7 割の 18.2 倍に置いた。
確率:規制の十年とステーブルコインの浸透が並行して起こる展開。起きても不思議はない。
悲観 12% 悲観:決済の経路が作り替えられ、優良企業でなくなる 利益 156 億ドル · PER 17.4 倍 · 株価時価総額 144.68 ドル2,720 億ドル
クレジットカード競争法でルーティングが完全に開放され、デビットは司法省訴訟でビザの独占的な割引が禁止される。ステーブルコインと A2A(FedNow・Pix 型)、AI エージェントが作る別の決済経路が、国内の小口決済とデビットを大きく奪う。実効率は 0.14% まで下がり、取扱高の伸びも年 +4%。ネットワーク手数料は 294 億ドル、付加価値サービスは 140 億ドル。営業利益率は 47% まで下がり、営業利益は FY2025 の 4 分の 3 の 202 億ドル、純利益は 156 億ドル。成長が止まり、規制対象の公共インフラのような値付けで PER 約 17.4 倍(式の 22.6 倍の 7.7 割)。
- ネットワーク手数料:数量 210,200(決済額(億ドル))× 価格 0.00(実効率(純収入 ÷ 決済額))→ 売上 294 億ドル・営業利益 153 億ドル。実効率 0.14%
- 付加価値サービス:数量 3,900(処理件数(億件))× 価格 0.04(1 件あたりの付加価値サービス収入(ドル))→ 売上 140 億ドル・営業利益 49 億ドル。単価が下がる
倍率:式 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g)。k 7.50%(基本 8.0% + quality -0.50%)。事業の ROE 25.2%(この筋書きの純利益 ÷ 自己資本 620 億ドル)、残る割合 2/3(強い堀 2/3)で RONIC 19.3%、g 4.0%(決済額は実質で年 +5〜6%、物価が加わり名目 +9% 前後だが、実効率の低下を差し引き、10 年目以降は決まりの 4% までとして置く)。式の値は 22.6 倍で、これが検査の上限になる。世界最大の決済網で、貸出のリスクを持たない。利益の約 95% を還元しながら伸びる、利益の質が最も高い部類。 上限の 8 割の 17.4 倍に置いた。
確率:リーマン級の景気後退に、規制・技術による構造的な負けが重なる展開。10 年でこれが起きる確率は 1 割強とした(5% 以上)。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
ネットワーク手数料
決済額に連動するサービス収入・データ処理・国際取引から奨励金を引いた純収入。
| 数量決済額(億ドル) | 価格実効率(純収入 ÷ 決済額) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 142,000 | 0.00 | 295 | 209 |
| 10 年後 中立 | 279,300 | 0.00 | 552 | 370 |
取り方:ビザの決済額 FY2025 約 14.2 兆ドル(四半期 3〜4 兆ドルの実績から推定)に、ネットワーク手数料 295 億ドル(純収入 400 億ドルの約 74%)を割った実効率 0.208%。営業利益率 71% は非開示の推定。競合はマスターカード(Mastercard)で、米国のカード決済額ではビザ約 6 割・マスターカード約 3 割(残りはアメリカン・エキスプレス(American Express)など)、中国を除く世界でもビザが首位。物価の分は名目の決済額に入る(中立で 3 年 1.28 倍・10 年 1.97 倍と物価の 1.11・1.41 倍を上回る)ので、実効率は物価で上げず、和解・上限規制で少しずつ下がると置いた。
付加価値サービス
トークン化・不正検知・発行支援・分析・Visa Direct などの有料サービス。
| 数量処理件数(億件) | 価格1 件あたりの付加価値サービス収入(ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 2,600 | 0.04 | 105 | 60 |
| 10 年後 中立 | 5,200 | 0.07 | 338 | 169 |
取り方:処理件数 FY2025 約 2,600 億件(2026 年 4〜6 月期 720 億件・年 +10% から逆算)に、付加価値サービス収入 105 億ドル(推定)を割った 1 件あたり。営業利益率 57% は非開示の推定で、合計の営業利益 269 億ドルに合わせた。不正検知・トークン化・データではマスターカードが同じ型で競い、決済処理ではフィサーブ(Fiserv)・アディエン(Adyen)とも重なる。1 件あたりの単価は中立で 3 年 1.27 倍・10 年 1.61 倍と物価(1.11・1.41 倍)を上回り、新しいサービスの上乗せが理由。
リスクと懸念
司法省のデビット訴訟
2024 年 9 月、司法省はビザが米デビット取引の 6 割超を握り、「忠誠ペナルティ」で他網の利用を妨げたとして独占禁止法違反で提訴した(ニューヨーク南部地区)。敗訴や厳しい和解は、デビットの手数料と、ルーティングを通じた価格決定力に直接効く。係争は数年続く。
クレジットカード競争法と各国の上限
米国のクレジットカード競争法は、大手の銀行に 2 つ以上の網でのルーティングを義務付けて、手数料競争を生む案。成立すれば実効率が下がる。オーストラリア・EU・ブラジル・インドのような上限規制が他国へ広がる流れもあり、実効率は年 −0.5〜−1.5% の下落が最もありうる形。
新しい決済経路(A2A・ステーブルコイン・AI エージェント)
FedNow(米)・Pix(ブラジル)・UPI(インド)は国内の小口決済を銀行口座から直接払う。ステーブルコインは越境の送金、AI エージェントは決済の経路自体を作り替えうる。ビザはトークンと Visa Direct で自社の網に取り込もうとしているが、料率を保てるかは未知。
越境と景気の振れ
越境(国際取引収入)は件数が少ないが単価が高く、利益への寄与が大きい。2020 年には 4 割超落ち、不況時に利益が一度に下がる。2026 年は W 杯とドル安で押し上げられたが、7 月の鈍化で一時的な面が見えた。
銀行・加盟店との契約更新の圧力
奨励金(キャッシュバック・契約補助)は、大手の発行銀行との更新ごとに増える圧力がある。奨励金が純収入の伸びを食う形で、売上は伸びても利益率が少しずつ削られる。大手の加盟店はマスターカードや自社網へ迂回する選択肢も持つ。
付加価値サービスの利益率と人員整理
成長を牽引する付加価値サービスは、人件費が重く、ネットワーク手数料より営業利益率が低い。売上構成が付加価値サービスへ寄るほど、全社の営業利益率は 67% から下がる。2026 年 7 月の約 7% 削減は費用を整える動きだが、成長投資との両立が課題。
今後の分かれ目
- 司法省のデビット訴訟で、ビザが敗訴する、または自主的にルーティングの開放を含む大きな和解をしたら
- デビットの実効率が下がり、やや悲観の確率を上げる。倍率も 2〜3 倍下げて見る。
- クレジットカード競争法が成立し、ルーティングの競争が義務付けられたら
- 実効率の下落が年 −1% を超える形になる。やや悲観・悲観の確率を大きく上げる。
- ステーブルコインや A2A の越境・国内決済のシェアが 2 年で 1 割を超えたら
- 決済額の伸びが落ち、料率も下がる。10 年の悲観(経路の置き換え)の確率を上げる。
- エージェント型決済のトークンでビザの網が標準になり、付加価値サービスの伸びが 3 割台を 2027 年も保ったら
- 付加価値サービスの単価が楽観側へ寄る。楽観・やや楽観の確率を上げてよい。
- 世界の景気が後退して越境が 2 割以上落ちたら
- 10 年の悲観が実現に近い。ただし赤字にならず、利益は今の 8 割前後が残る。
- 自社株買いが今の倍率のまま年 200 億ドルを超えて続いたら
- 買い戻しの収益率が低い局面で、還元の質が落ちる。倍率が下がった局面なら、買い戻しの価値は上がる。
見ておくもの
- 決済額・処理件数・越境の成長率(固定為替)と、実効率(純収入 ÷ 決済額)の推移
- 付加価値サービスの成長率と、全社の営業利益率
- 司法省のデビット訴訟の進展と、加盟店との手数料和解
- クレジットカード競争法の成立可否、各国の上限規制
- ステーブルコイン・A2A の決済額と、ビザのエージェント型決済の導入
- 自社株買いの額と、そのときの PER
倍率と資本コストの決め方
今の PER 39.9 倍を見る前に、決済額 × 実効率と、処理件数 × 1 件あたり単価の 2 つで売上を積み上げ、利益率を置き、次に ROE・成長・k から利益ベースの正当化 PER を出し、その 8.5 割に倍率を置いた。k は基本 8.0% + quality −0.5%(強い堀の下げの限度)の 7.5%、長期の g は決まりの 4%(k − g は 3.5%)。10 年後の中立 PER 22.4 倍は、帳簿 ROE 73%・g 4%・強い堀の正当化 PER 26.3 倍の 8.5 割で、過去 18 期の中央値 32 倍や今の 40 倍には寄せていない。式の値を超えず、純現金は 1 ドルで数えた(2026-10-18 の点検の決まり)。結論は適正からやや割高に変わったが、計算に従った。業界ノートの成熟後 PER 20〜26 倍は古い資本コストでの目安なので使っていない。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 5% + β — × 5%。k = 基本 8.0% + quality -0.50% = 7.50%。内訳は cycle +0.00・pricing -0.25・debt +0.00・life -0.25(%)で、理由は quality_why。β は使わない。個別の懸念(手数料規制・デビット訴訟・口座間決済)は k に足さず、筋書きの数量・利益率と確率で表した。