結論
東急建設は、ビル・工場・駅を建てる建築と、トンネル・鉄道・道路を造る土木を柱とする準大手ゼネコンだ。東急グループの建設部門でもある。筆者の結論は「やや割高」。稼ぐ力は戻ったが、株主が求める水準にはまだ届かない。
建築の採算改善は、本物に近い。繰越工事は厚く、資材高の転嫁も進んだ。直近の営業利益は163億円と、前の期の1.8倍だ。ただし土木の上振れが大きい。会社自身が、次の期は土木の工事利益率が16.8%から11%台へ戻ると見ている。
弱みは三つある。国内の工事量は、人口減で実質では増えない。量を決めるのは人手だ。そして利益の山と谷が深く、過去20年に赤字が3回ある。
資本の面では、政策保有株が純資産の1割を切り、戸田建設のような「眠る資産」は小さい。純現金も、工事の前受けを含むため、見かけほど自由には使えない。
中立の筋書きでは、営業利益は10年後に170億円台だ。会社が掲げる2030年度の220億円には届かない。ROE(自己資本利益率)は7%台で、資本コストの手前になる。この水準の会社に払う値段として、今は少し高い。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、まず問うのは「10年後も同じ稼ぎが続くか」だ。東急建設の答えは「続くが、増えにくい」になる。
建設は、人が減り量が伸びない国内で、値段と採算で稼ぐ商売だ。値段は物価並みに上がるが、人件費も同じだけ上がる。差を作るのは、堀と資本の使い方だ。堀は浅い。資本の使い方は、まだ資本コストを超えて見せていない。
株主に残る利益は、純利益から、運転資金と設備を維持する分を引いたものだ。建設は大きな設備を要らないので、この目減りは小さい。そこは良い点だ。ただ、利益が高く見える年ほど、谷の深さを忘れやすい。
安全域は薄い。純現金は工事の前受金を含みうるので、自由には使えない。政策保有株の含み益も、他社ほど厚くない。払う値段が稼ぐ力にほぼ見合う水準では、バリュー投資家は待つ。筆者は、現場の規律の問題が片づき、ROEが資本コストを超える兆しが出るまで、割安とは言いにくいと考える。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は建築だ。オフィス、商業施設、工場、物流施設、マンションなどを、デベロッパーや製造業から請け負って建てる。直近の売上の4分の3がここにある。渋谷スクランブルスクエアや渋谷ヒカリエなど、東急グループの渋谷再開発で実績が厚い。
土木は売上の2割強だが、利益の質が違う。鉄道・道路・トンネル・治水など、鉄道会社と公共の工事が主で、直近のセグメント利益は建築の6割に達した。東京メトロ銀座線の渋谷駅改良のような、駅や線路に近い難しい工事の実績がある。ただし直近の高採算は例外的で、会社は次の期に利益率が下がると見ている。
三つ目は不動産事業等だ。賃貸と、物件を磨いて売る事業で、売上は76億円と小さい。長期経営計画は、不動産を「戦略事業」と位置づけて育てる方針だ。
四つ目は海外だ。フィリピンやバングラデシュの鉄道、ジャカルタの都市高速鉄道など、アジアの鉄道工事を受ける。次の期の売上は135億円の見込みで、大型の政府開発援助(ODA)案件は2年に1件ほどのペースだ。
本社の経費(全社費用)は年に90億円ほどかかる。各セグメントの利益から差し引いて、営業利益になる。
優良さと弱いところ
優良さは、普通の準大手に、東急グループの後ろ盾を足した程度だ。他社がまねできない強み、つまり堀は、スーパーゼネコンほど深くない。
強みは三つある。一つ目は東急グループの仕事で、渋谷の再開発や沿線の工事が、グループの内側から出る。二つ目は、鉄道と駅まわりの土木・建築を一体で扱える技術だ。三つ目は財務の軽さで、純現金のため利払いの負担は小さい。
弱みも三つある。一つ目は、価格を決める力の弱さだ。発注者は入札と相見積りで競わせる。二つ目は、グループの外で受注を取る力が試される点だ。三つ目は現場の管理で、2025年に新東名のトンネル工事で岩盤崩落の事故が起きたあと、発注者に無断で爆薬の量を変えて施工し、半年報告しなかったと報じられた。公共工事の信用に響きうる問題だ。筆者は、利益より先に現場の規律を点検したい会社だと見る。
資本の使い方は、まだ守りだ。配当は自己資本に対する比率(DOE)4%以上を基本とする。ただ、ROEの目標は10%どまりで、資本コストを大きく超えるとは言っていない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
業界の構図は、需要は強いが量は伸びない、というものだ。
追い風は三つある。2024年から続く人手不足で、受注する側が工事を選べるようになった。資材高を値段に転嫁する動きも定着した。国土強靱化の約20兆円も、土木を下支えする。
一方で、量は増えない。国内の建設は人口減で、実質では横ばいから微減が普通だ。地方ほど厳しい。施工量を決めるのは技能者の数で、人が増えなければ、売上は物価の分しか伸びない。
競争は分散している。スーパーゼネコン4社が大型を取り、戸田建設・安藤・間・熊谷組・西松建設・奥村組と東急建設が、準大手・中堅を競う。東急建設は売上3,400億円で、この中では小さい側だ。規模で勝てない分、グループの仕事と得意の土木で差をつける必要がある。
再編は起きやすい。人手と受注の規模を求めて、準大手どうしの統合や地場ゼネコンの買収が進みうる。東急建設は東急が1割台半ばを持つ関連会社で、親会社の判断で再編の対象になる可能性もある。
循環の位置は、山の途中だ。直近の営業利益率は4.8%で、2016〜2020年の6〜7%台にはまだ戻っていない。ただ、その時期は人手不足も価格転嫁もなかった。先を決めるのは、転嫁が続くかどうかだ。
資本政策と M&A
資本政策は、守りから攻めへ移る途中だ。
配当は自己資本に対して4%以上(DOE)を基本とし、増配が続く。政策保有株は純資産の9.4%まで減り、会社が掲げた10%以下の目標を前倒しで達成した。売却の余地はもう大きくなく、これからの還元の原資は本業の利益になる。
投資は、2021〜2030年度の10年で総額1,870億円を配分する計画だ。人材とデジタルに740億円を充て、国際・不動産・新規事業を「戦略事業」として育てる。
買収で規模を積む動きは、開示からは確認できない。むしろ、東急が1割台半ばを持つ関連会社という立場から、グループ内の再編の対象になる可能性のほうが目立つ。TOB(株式公開買付け)が出れば、事業を続ける前提の価値がまず問われる。
筆者が注目するのは、自己資本の積み上がる速度だ。配当性向が3割台のままなら、ROEは自己資本の増加に押されて下がる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
採算の回復は、まだ途中だ。営業利益率は2016〜2019年に6〜7%台だった。今の4.8%は、その高さに戻っていない。受注する側が仕事を選べる時代で、建築の完工総利益率は8.3%から11.2%へ上がる計画だ。目標の12%以上が実現すれば、利益は大きく増える。
受注も厚い。建築の受注は初めて3,000億円を超え、繰越工事は2027年3月期末に5,700億円へ増える見込みだ。渋谷の再開発という、グループ内の安定した仕事もある。都市型データセンターの実証や、アジアの鉄道ODAなど、次の芽もある。
資本にも余裕がある。純現金で、政策保有株の整理は終わりに近い。DOE4%以上の配当を守りながら、利益が伸びれば還元は自然に増える。会社が掲げる2030年度の営業利益220億円は、今の約1.35倍にすぎない。人手不足の中で選別受注が続けば、届いても不思議はない。
もう一つ見落とされているのは、東急グループという顧客の強さだ。渋谷駅周辺の再開発は、規模も期間も長く、グループ外の競争に左右されにくい。工事の量が安定すれば、人を計画的に育てられ、採算の良い現場に配置できる。これは他の準大手にない、静かな強みだ。
慎重な見方
今の利益は、山の上の数字だ。土木の工事利益率16.8%は例外的に高く、会社自身が次の期に11%台へ戻ると見ている。2027年3月期の営業利益は、売上が減る中で165億円とほぼ横ばいの計画で、増収増益の勢いは止まっている。
国内の工事量は、人口減で実質では伸びない。施工を決めるのは人手だ。受注が積み上がっても、現場の人が足りなければ売上にならない。しかも過去20年に、赤字が3回ある。山の次には谷が来る。
資本の質は強くない。政策保有株は純資産の1割を切り、売っても事業の稼ぎは増えない。配当を厚くするのは、成長の投資先が見つからないことの裏返しにも見える。
現場の管理も気がかりだ。トンネル工事での無断の施工変更は、公共工事の受注に響きかねない。会社が掲げるROE10%も、資本コストを大きく超える水準ではない。
グループの顧客は、強みであると同時に、足かせでもある。渋谷の再開発が一巡すれば、同じ量の仕事をグループの外で取り直さなければならない。規模の小さな会社が、価格で大手と競るのは分が悪い。東急が持分を見直す動きが出れば、株主の前提も変わる。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方が少し強い。建築の採算改善は本物に近く、強気の見方に分がある。だが値段を決めるのは、稼ぐ力が資本コストを超えるかどうかだ。中立の営業利益は170億円台で、会社の目標には届かない。確率は中立に4割弱を置き、慎重側を厚くした。悲観を1割強にしたのは、赤字が20年で3回あることと、現場の管理の問題を無視できないからだ。繰越の厚さは数年の利益を守るが、10年先までは守らない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,493 円1,588 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 519 円552 億円)。 今の値に割り戻すと 1,045 円1,111 億円、今との差 −12.3%、 期待の年率 +5.4%(資本コスト 8.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 3,071 円3,265 億円 | 828 円880 億円 | +227.3% | +12.6% | 273 円290 億円 |
| やや楽観 | 17% | 2,301 円2,447 億円 | 658 円700 億円 | +148.5% | +9.5% | 503 円535 億円 |
| 中立 | 38% | 1,698 円1,805 億円 | 545 円580 億円 | +88.3% | +6.5% | 852 円906 億円 |
| やや悲観 | 26% | 718 円763 億円 | 442 円470 億円 | −2.6% | −0.3% | 301 円321 億円 |
| 悲観 | 12% | 461 円490 億円 | 226 円240 億円 | −42.3% | −5.4% | 82 円88 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,493 円1,588 億円 | 519 円552 億円 | +69.0% | +5.4% | 2,012 円2,140 億円 |
今の株価時価総額 1,191 円1,266 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 7% 採算を選び続け、不動産と海外も育つ 利益 214 億円 · PER 14.6 倍 · 株価時価総額 3,071 円3,265 億円
建築は選別受注が定着し、利益率は7%を保つ。会社が目標にする完工総利益率12%が現実になり、渋谷の再開発、データセンター、工場の更新が量を支える。土木は強靱化と鉄道の改良で、利益率は10%の水準を守る。アジアの鉄道ODAは、2年に1件のペースで取れる。不動産は残高が倍以上に育ち、物件を磨いて売る事業が、安定した稼ぎの柱の一つになる。営業利益は280億円台で、会社の2030年度の目標を超える。還元はDOE4%を超えて少し厚くなり、ROEは11%に届く。10年を通じて、現場の管理でも大きな問題は出ない。国内の量は、実質で横ばいに近い形を保つ。最もうまくいった姿だが、いくつもの好条件が連続する必要がある。
- 建築:数量 385(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.85(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 3,793 億円・営業利益 266 億円。385万人日換算 × 1人日あたり 9.85万円、利益率 7.0%
- 土木:数量 105(施工量(万人日、実質))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 1,090 億円・営業利益 109 億円。105万人日換算 × 1人日あたり 10.38万円、利益率 10.0%
- 不動産事業等:数量 900(賃貸・開発に投じた資産の残高(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.28(残高 1 億円あたりの年間売上(億円・名目。賃貸と売却の回転))→ 売上 248 億円・営業利益 30 億円。残高 900億円 × 回転 0.276、利益率 12.0%
倍率:事業の純利益 214 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.2% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.6 倍。全体の PER 14.6 倍、時価総額 3,124 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10年を通じて採算を選び続け、不動産と海外も育つ筋書き。好条件が連続する必要があり、確率は低く置く。
やや楽観 17% 価格転嫁が続き、資本コストを超える 利益 172 億円 · PER 13.4 倍 · 株価時価総額 2,301 円2,447 億円
建築は利益率6%台半ばを保ち、土木も9%近くを維持する。民間工事の量は実質で少し減るが、値上げが物価並みに通る。渋谷の再開発が一巡したあとも、工場更新と物流が仕事をつなぐ。海外は鉄道のODAで小さく伸び、不動産の残高も倍近くになる。営業利益は220億円台で、会社の目標をわずかに超える。還元はDOE4%を守り、ROEは9%まで上がる。ただ、国内の量が増えない制約は最後まで残る。堅実に採算を守る会社として評価され、資本コストをようやく超える。土木の高採算はやや薄れるが、建築が補う。大きな失敗もなく、小さな成功が積み上がる10年になる。
- 建築:数量 372(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.71(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 3,612 億円・営業利益 235 億円。372万人日換算 × 1人日あたり 9.71万円、利益率 6.5%
- 土木:数量 100(施工量(万人日、実質))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 1,023 億円・営業利益 90 億円。100万人日換算 × 1人日あたり 10.23万円、利益率 8.8%
- 不動産事業等:数量 700(賃貸・開発に投じた資産の残高(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.27(残高 1 億円あたりの年間売上(億円・名目。賃貸と売却の回転))→ 売上 190 億円・営業利益 19 億円。残高 700億円 × 回転 0.272、利益率 10.0%
倍率:事業の純利益 172 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.2% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.4 倍。全体の PER 13.36 倍、時価総額 2,298 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:値上げが物価並みに通り、建築の採算が上向く姿。ROEが資本コストに届く、やや良い筋書きとして置く。
中立 38% 量は小幅に減り、価格だけ上がる成熟 利益 132 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 1,698 円1,805 億円
建築の工事量は、実質で5%ほど減る。価格だけが物価並みに上がり、利益率は6%を保つ。土木は強靱化の工事で量をほぼ保つが、直近の高採算は薄れ、利益率は8%に落ち着く。不動産は残高が5割ほど増えるが、利益は小さい。営業利益は170億円台で、会社の目標の220億円には届かない。人件費の上昇が、値上げの効果を食う。還元はDOE4%を守るが、自己資本は積み上がり、ROEは7%台にとどまる。持ち合い株の整理は終わっているので、売却益は期待できない。堅実だが、株主にとって物足りない10年になる。人手不足の中で、採算を守る力が会社の差になる。
- 建築:数量 345(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.57(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 3,301 億円・営業利益 198 億円。345万人日換算 × 1人日あたり 9.57万円、利益率 6.0%
- 土木:数量 94.0(施工量(万人日、実質))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 947 億円・営業利益 76 億円。94万人日換算 × 1人日あたり 10.08万円、利益率 8.0%
- 不動産事業等:数量 550(賃貸・開発に投じた資産の残高(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.27(残高 1 億円あたりの年間売上(億円・名目。賃貸と売却の回転))→ 売上 147 億円・営業利益 12 億円。残高 550億円 × 回転 0.268、利益率 8.0%
倍率:事業の純利益 132 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.4% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 1,650 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:量は実質で小幅に減り、価格は物価並み。会社の計画が、一部しか実現しない最も標準的な姿。
やや悲観 26% 民間投資の一巡と人手不足で採算が細る 利益 72 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 718 円763 億円
民間の大型工事が一巡し、建築の工事量は実質で1割ほど減る。値上げは止まり、人件費の上昇だけが重く残る。建築の利益率は5%を割る。土木は強靱化の予算が付いても、競争が激しく利益率は6%まで落ちる。不動産は金利の上昇で売却益が細り、残高も伸びない。営業利益は90億円台まで下がる。それでも配当は守り、ROEは4〜5%にとどまる。グループ外の受注が弱く、規模の小ささが響く。選別受注を貫けず、採算の悪い工事を抱え込む年が増える。2013年3月期ほどの深い谷ではないが、稼ぐ力が長く資本コストを下回る姿だ。再開発の一巡後に、グループの外で量を補う手が見つからず、人員の配置も崩れる。
- 建築:数量 326(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.28(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 3,026 億円・営業利益 145 億円。326万人日換算 × 1人日あたり 9.28万円、利益率 4.8%
- 土木:数量 85.0(施工量(万人日、実質))× 価格 9.78(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 831 億円・営業利益 50 億円。85万人日換算 × 1人日あたり 9.78万円、利益率 6.0%
- 不動産事業等:数量 420(賃貸・開発に投じた資産の残高(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.26(残高 1 億円あたりの年間売上(億円・名目。賃貸と売却の回転))→ 売上 109 億円・営業利益 5 億円。残高 420億円 × 回転 0.260、利益率 5.0%
倍率:ROE 4.5%(純利益 72 億円 ÷ 自己資本 1,604 億円)。事業の ROE が資本コスト k 8% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER の上限は 1÷k = 11.8 倍。稼ぐ力が資本コストを大きく下回り、先に利益が削られる局面なので、上限の 68% の 8.0 倍に置いた。
確率:民間投資の一巡と人手不足で採算が細る姿。過去に赤字が3回あり、準大手の中でも規模が小さいため、中立に近い厚みで置く。
悲観 12% 構造的に負け、低採算工事に頼る 利益 10 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 461 円490 億円
構造的に負ける。グループの再開発が一巡し、グループ外の受注も取れず、建築の工事量が3割近く減る。低採算の工事に頼り、建築の利益率は3.5%まで落ちる。土木も公共の競争で採算が悪化する。トンネル工事の施工管理をめぐる問題のような不祥事が重なり、指名停止や評価損が出る。不動産は評価損で赤字になる。営業利益は20億円ほどに縮み、純利益はほぼゼロになる。配当は減らしても維持し、純利益ではまかなえない分は手元の現金と資産の売却で払うため、自己資本は減損とあわせて目減りする。優良な会社とは見られなくなり、東急グループ内の再編や、統合の対象にもなりやすい。需要の縮みは10年かけてじわじわ効き、どこかの年に急に表へ出る。
- 建築:数量 290(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 8.57(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 2,485 億円・営業利益 87 億円。290万人日換算 × 1人日あたり 8.57万円、利益率 3.5%
- 土木:数量 70.0(施工量(万人日、実質))× 価格 9.02(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 632 億円・営業利益 22 億円。70万人日換算 × 1人日あたり 9.02万円、利益率 3.5%
- 不動産事業等:数量 250(賃貸・開発に投じた資産の残高(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.24(残高 1 億円あたりの年間売上(億円・名目。賃貸と売却の回転))→ 売上 60 億円・営業利益 −3 億円。残高 250億円 × 回転 0.240、利益率 -5.0%
倍率:構造的に優良でなくなり、不動産の評価損と減損も出た姿。営業利益は 21 億円と小さく、稼ぐ力は 120 億円ほどにしかならないので、床は売れる資産で測る。総資産 約 3,100 億円を強制売却で 8 割しか回収できず、負債 約 1,990 億円は全額払うとして残る約 490 億円(持ち合い株と土地を含む)を、今の自己資本 1,114 億円に対する PBR 0.44 倍に置いた。
確率:地方と民間の需要が構造的に縮み、現場の管理の問題も重なって、優良ではなくなる筋書き。20年で赤字が3回あることを踏まえ、1割強に置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
建築
オフィス・商業施設・工場・物流施設・マンションなどを請け負って建てる。渋谷の再開発など東急グループの仕事が厚い。売上の約 4 分の 3。
| 数量施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質) | 価格1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 363 | 7.14 | 2,592 | 155 |
| 10 年後 中立 | 345 | 9.57 | 3,301 | 198 |
取り方:建築セグメントの売上 2,592 億円・セグメント利益 155 億円(決算短信)を、現場の労務量で割った。労務量は開示が無く、技能者の労務費を売上の約 35%、日当を約 2.5 万円と置いて約 363 万人日と推定した。売上を労務量で割った 1 人日あたり売上が価格に当たり、物価の分は価格に入る。
土木
鉄道・道路・トンネル・治水など、鉄道会社と公共の工事が主体。国内と、アジアの鉄道 ODA の海外工事を含む。
| 数量施工量(万人日、実質) | 価格1人日あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 98.8 | 7.52 | 743 | 97 |
| 10 年後 中立 | 94.0 | 10 | 947 | 76 |
取り方:土木セグメントの売上 743 億円・セグメント利益 97 億円。建築と同じ要領で約 99 万人日と推定した。土木は機械・材料の割合がやや高いので、1 人日あたり売上は建築よりやや高い。直近の利益率は例外的に高い(会社は次の期に工事利益率が下がると見る)。
不動産事業等
賃貸と、物件を磨いて売るバリューアッド型の開発。長期経営計画で育てる戦略事業。
| 数量賃貸・開発に投じた資産の残高(億円、今の値段で測った実質。推定) | 価格残高 1 億円あたりの年間売上(億円・名目。賃貸と売却の回転) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 380 | 0.20 | 76 | 5 |
| 10 年後 中立 | 550 | 0.27 | 147 | 12 |
取り方:不動産事業等の売上 76 億円。利益は開示を確認できず 5 億円前後と推定した(第 3 四半期累計は 3 億円台)。賃貸・開発に投じた資産の残高を約 380 億円と置いたのも筆者の推定で、回転(残高 1 億円あたり売上)は 0.2 になる。
リスクと懸念
景気の谷で受注と採算が崩れる
ゼネコンの利益は景気の山と谷で大きく振れる。東急建設は過去20年に赤字が3回あり、2022年3月期は営業赤字だった。直近の利益率は需給が締まった局面のもので、民間の再開発や工場投資が一巡すれば、先に崩れるのは新規受注と採算だ。繰越工事の厚みは数年の利益を守るが、10年先は守らない。
土木の高採算が例外で終わる
直近の土木の工事利益率16.8%は、会社自身が次の期に11%台へ戻ると見ている。セグメント利益はこの1年で倍になっており、利益の上振れのかなりの部分が土木の一時的な高さに由来する。これが標準に戻れば、営業利益は数十億円単位で減る。
人手不足で施工量が頭打ちになる
2024年問題以降、技能者の確保が最大の制約になった。人が足りなければ、受注があっても売上に変えられず、労務費の上昇は利益率を削る。会社の2027年3月期の計画も、売上は減り、営業利益はほぼ横ばいだ。増収が増益に結びつきにくい構図が、すでに見える。
現場の管理と公共工事の信用
2025年に新東名のトンネル工事で岩盤崩落の事故が起き、東急建設が発注者に無断で爆薬の量などを計画書と変えて施工し、半年報告していなかったと報じられた。同様の問題が重なれば、指名停止や受注の抑制につながりうる。建設会社の価値は、現場の規律に支えられている。
グループへの依存と再編の可能性
渋谷の再開発など、東急グループの仕事は大きな支えだ。反面、グループの投資が一巡すれば、同じ規模の受注を外で取り直す必要がある。東急が1割台半ばを持つ関連会社という立場は、再編や持分の見直しの可能性も意味する。株主にとっては、上にも下にも振れる材料だ。
金利上昇で不動産の採算が悪化する
不動産事業は、物件を磨いて売る事業だ。金利が上がれば、物件の評価が下がり、売却益が細る。規模は小さいが、会社が戦略事業として育てる分野なので、失敗すれば成長の物語が崩れる。純現金は工事の前受金を含みうるため、見かけほど余裕がない点にも注意が要る。
今後の分かれ目
- 建築の完工総利益率が、目標の12%に向けて2期続けて上がったら
- 価格転嫁の定着を確かめたと見て、中立の営業利益を上方に直し、楽観側の確率を増やす。
- 土木の工事利益率が、2期続けて11%を割ったら
- 高採算が例外だったと判断し、中立の土木の利益率を下げて、営業利益を数十億円削る。
- 現場の管理をめぐる問題で、公共工事の指名停止や受注の制限が出たら
- 受注の減少と信用の毀損を見込み、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 配当を厚くするだけでなく、データセンターや鉄道ODAなどの成長投資で、資本コストを超える稼ぎを示したら
- ROEが資本コストを超える姿を織り込み、中立の倍率を上限に近づける。
- 東急による持分の見直しや、準大手どうしの統合の動きが出たら
- 統合後の資本効率次第。事業を続ける前提の価値が問われ、買収価格が稼ぐ力を上回るかが分かれ目になる。
- 2030年度の営業利益220億円という目標が、早い年に実現したら
- 会社計画が保守的だったと確かめられ、中立の利益を上方に直す。
見ておくもの
- 建築・土木の完工総利益率と、受注高・繰越工事高の推移
- 土木の工事利益率が11%台に戻るか
- 現場の管理をめぐる問題と、指名停止などの処分の有無
- 渋谷の再開発など東急グループの発注の見通し
- アジアの鉄道ODA案件の受注
- DOE4%を超える還元の有無と、ROEの推移
倍率と資本コストの決め方
倍率は、ROEが資本コスト k 8%(基本 7.5% + quality 1.0%)に届くかどうかと、式の上限(1÷k = 約 11.8 倍)から置いた。中立は上限の 8 割、やや悲観はそれより低い。今の株価や今の PER(約 9 倍)、同業の倍率を見てから決めていない。悲観は谷の PBR ではなく、総資産の 8 割回収・負債全額払いで残る売れる資産(約 490 億円)で測った。純現金 135 億円は、時価総額の 1 割をわずかに超えるが、工事の前受金などを含みうるため分けていない(excess_cash_none_why)。持ち合い株の評価差額金は配当が純利益に入っているので余り資産に足していない(二重を消した)。純利益は営業利益の 0.76 倍とし、過去の中央値 0.75 に合わせた。数量は人日で推定した値で、数量と価格の分け方には誤差がある。2028 年 3 月期から新リース会計基準で BS の形が変わるが、数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。持ち合い株の評価差額金は配当が純利益に入っているので余り資産に足していない(二重を消した)。今の株価から逆算した値ではない。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 1.0% = 8.5%。理由は quality_why。個別のリスク(現場管理の問題・M&A の実行など)は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.00%。