結論
東亜建設工業は、港・空港・護岸など海の工事に強い海洋土木(マリコン)の二番手だ。2026年3月期は売上3,587億円、営業利益242億円と、どちらも過去最高を更新した。
筆者の結論はこうだ。いまの値段は、この利益の高さをほぼ織り込んでおり、安全域は薄い。割安とも割高とも言い切れない。
利益を押し上げたのは三つある。防衛関連の土木、物価上昇を価格に転嫁できるようになった建築、損失が減った海外だ。会社自身が、今期は営業利益が1割以上減ると見ている。山は過ぎつつある。
ただし、需要の底は固い。老朽化した港湾の更新、国土強靱化の新しい5か年計画、防衛施設の整備が、10年は続く。公共工事は景気に左右されにくい。
足を引っ張るのは人手だ。技能者が増えない以上、施工量は伸ばしにくい。利益率が中期計画の目標である6%に近い水準で定着するかが、価値の分かれ目になる。
株主への還元は厚い。前の3年は総還元性向が65%だった。純現金もある。それでも、10年後の利益を資本コストで割り引くと、本質価値は今の時価総額とほぼ同じ水準に収まる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、東亜建設工業は悪くない会社だが、安く買える会社ではない。
まず、利益の質を疑う。いま営業利益率が高いのは、防衛の大型工事と建築の価格転嫁という追い風が重なったからだ。工事は一件ごとに終わり、同じ利益が自動で続く仕組みはない。10年でならした利益は、足元より低いと考える。
次に、資本の使い方だ。稼いだ利益の多くを配当と自社株買いで返しており、無理な買収もない。経営陣は「返す」ことに真剣だ。一方で、本業が建設である以上、利益を再投資しても高い収益は生みにくい。船は壊れ、人は辞める。
最後に、安全域だ。純現金はあるが、前払いの工事代金が大きく、見かけほどは余っていない。景気の悪い年でも公共工事は止まらないので、倒産のおそれは小さい。反面、値段が安い局面でなければ、買って報われる余白は薄い。
筆者は、10年先の利益を資本コストで割り引いたうえで、いまの値段とほぼ同じ水準になると見ている。待てるなら、利益率が戻る局面を待ちたい会社だ。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は三つある。国内土木が売上の4割強、国内建築が3割強、海外が2割台半ばで、残りは子会社などの小さな事業だ。
国内土木の主力は、港湾・空港・護岸・埋立・浚渫といった海の工事である。ポンプ浚渫船など自前の作業船を持つのが強みだ。発注者は国土交通省の地方整備局と防衛省が中心になる。防衛では、馬毛島の係留施設の工事を五洋建設と共同で受けた。鹿児島の桟橋工事でも追加工事を受注している。
国内建築は、冷蔵倉庫や物流施設に強い。ここ3年で売上が大きく伸び、営業利益は109億円と前期より27%増えた。資材高で採算の悪い工事が減ったのが効いた。防衛関連の駐屯地整備も多い。
海外は、シンガポールが中心だ。大型の港湾工事を重ねている。2026年3月期の売上は約860億円だが、会社は「一部は実力を上回る」と認めている。海外の利益は工事ごとのぶれが大きい。
洋上風力は、土木の延長にある新しい挑戦だ。大林組と共同で建造した自己昇降式作業台船(海に脚を立てて船体を持ち上げる作業船)があり、風車の基礎や据え付けを狙う。ただ、今の中期計画に数値目標はない。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、海の工事の経験と作業船にある。
海洋土木は大手の数社が分け合う準寡占だ。国内土木・海外を含む土木の売上は、五洋建設が約3,300億円、東亜建設工業は約1,450億円と筆者は見る。五洋の2分の1ほどの規模だが、馬毛島のような難しい工事を二社で組んで受けるほど、実績は評価されている。
ただし、堀は広くない。公共工事は入札で価格が決まり、東亜が値段を決める力は小さい。国内建築は同業との競争がそのまま利益率に響く。海外は見積もりの甘さが損失になりやすい。
資本の使い方は、いまのところ合格点だ。前の3年は、目標の2倍近い約280億円を株主に返した。自社株買いも機動的に行っている。政策保有株は純資産の1割台まで減らし、10%未満を目指す。
気になるのは買収だ。前の中期計画で事業拡大の投資に使ったのは17億円にとどまった。慎重とも、手が打てていないとも読める。
筆者がいちばん重く見るのは、利益率の持続性だ。過去10年の営業利益率の中央値は4%台で、今の6.8%は例外的に高い。この水準が続くかは、堀の広さでなく、人手の制約の中で入札環境がどう変わるかに懸かる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
需要は底固い。ただし、伸びは人手が決める。
国土強靱化の新しい計画(2026〜2030年度)は、規模が20兆円強と前の計画の約15兆円から拡大する見通しだ。港湾の岸壁や防波堤は建設から50年を超えるものが増え、更新が続く。防衛省は、離島や基地の施設の強靱化を急いでいる。
一方で、働き手は減る。2024年から残業の上限規制が建設業に適用され、現場の人数を増やせない会社は、施工量を伸ばせない。国内の海洋土木で、数量は10年で横ばいか小幅な増と筆者は見る。物価の上昇分は価格に乗り、売上は名目で伸びる。
競争の形は準寡占だ。国内の海洋土木は五洋建設と東亜建設工業が二強で、東洋建設や若築建設が続く。防衛の大型工事では、鹿島建設などの総合建設会社と組むこともあれば競うこともある。
業界の見通しは、同じ領域の五洋建設と同じ前提に置く。価格は物価並みに上がり、数量は人口と人手に縛られて横ばい圏。楽観は予算の拡大と新領域、悲観は公共予算の先送りだ。
今は防衛の山の途中にある。山が過ぎると、入札の競争が厳しくなり、利益率が下がりやすい。この点が会社の予想する減益の背景だと筆者は読む。
資本政策と M&A
還元は厚く、買収はほとんど使っていない。
前の3年の総還元性向は約65%で、配当に自社株買いを足した。新しい中期計画は、配当性向40%以上を掲げ、自社株買いは機動的に行う方針だ。自己資本利益率(ROE)は10%以上を保つとする。会社は株主資本コストを7〜8%と見ており、その上を目指すのは筋が通っている。
投資は3年で約500億円。うち作業船や本社の新社屋に約170億円、不動産開発に約100億円を充てる。買収は別枠で、案件ごとに決める。
政策保有株は、連結純資産の10%未満へ減らす途中だ。大株主には太平洋セメントが5%台でおり、政策投資の目的で持っている。提携や再編で動く可能性は小さいと筆者は見る。
純現金は241億円ある。ただ、建設業の現金は、発注者から前もって受け取る工事代金と、協力会社への未払いの時間差でふくらむ面が大きい。会社も協力会社への支払条件を短くしており、この現金は完全に株主のものとは言えない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
海の工事は、日本でこれから10年、最も確実な仕事の一つだ。港湾の更新、防波堤の強化、離島の防衛施設。どれも景気に左右されない。
東亜は準寡占の一角にいて、難しい工事ほど東亜に回ってくる。馬毛島でも五洋建設と組んで大型工事を任された。国土強靱化の予算は20兆円強に増え、防衛関連の予算は大きく膨らむ。人手が足りない中では、仕事を選べる会社ほど利益率は高く保てる。
建築では冷蔵倉庫やデータセンターに食い込み、低採算の工事を断れるようになった。海外は損失を出した工事が終わり、シンガポールの港湾で実績を積んでいる。会社は2035年度に営業利益300億円を掲げる。物価が毎年3%上がる世界では、名目の売上5,000億円は無理な数字ではない。
還元も厚い。配当性向は40%以上、自社株買いで株数も減る。利益率が6〜7%で定着するなら、PER13倍は決して高くない。
さらに、レアアース泥など海底資源の研究や、洋上風力の施工という新しい需要も控えている。当たれば、数量の天井は思ったより高い。
慎重な見方
今の利益は山の上にある。過去10年の営業利益率の中央値は4%台なのに、直近は6.8%まで上がった。会社自身が今期の減益を見込んでいる。
防衛の大型工事は一巡する。馬毛島の訓練施設の工事は鹿島建設などが受け、東亜は入っていない。発注者が予算の範囲で値段を決める以上、公共工事で利益率を守り続けるのは難しい。人手が足りないのは、受注を選べる利点であるのと同時に、人件費の上昇で利益を削る要因でもある。
建築は同業との競争が厳しく、利益は景気で振れる。海外は「実力を超えた売上」を会社が認め、受注も前期より4割近く減った。作業船や本社の新社屋に約170億円を投じる一方、買収が増えれば失敗の危険もある。
政策保有株を減らす途中で、純現金は前払いの工事代金の時間差にすぎない。10年後に営業利益率が4%台に戻れば、利益は今の6割ほどだ。割安と言える根拠はどこにもない。
洋上風力も当てにならない。国内では大型案件の立ち上がりが読めず、会社の計画にも数値目標がない。船だけが先に増える。
どちらに重みを置いたか
強気の主張は需要の確かさでは正しい。慎重な見方は、利益率が戻る点で正しい。どちらも半分ずつ当たっていると筆者は見る。
需要は底固いが、数量は人手で頭打ちだ。価格は物価並みに上がる。残る問題は利益率で、6%台が続くのは強気の筋書きだけだ。
中立は、利益率が5%近くに戻ると置いた。確率は中立を中心に置き、慎重な側にやや寄せた。利益率が目標の水準に定着する筋書きと、防衛の一巡で下がる筋書きは、ほぼ互角とみる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,478 円2,689 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,194 円923 億円)。 今の値に割り戻すと 2,519 円1,948 億円、今との差 +24.3%、 期待の年率 +8.7%(資本コスト 7.5%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 6,524 円5,045 億円 | 1,552 円1,200 億円 | +298.6% | +14.8% | 646 円500 億円 |
| やや楽観 | 22% | 5,139 円3,974 億円 | 1,410 円1,090 億円 | +223.2% | +12.4% | 1,441 円1,114 億円 |
| 中立 | 38% | 3,796 円2,935 億円 | 1,267 円980 億円 | +149.9% | +9.6% | 1,924 円1,488 億円 |
| やや悲観 | 24% | 1,400 円1,083 億円 | 1,093 円845 億円 | +23.1% | +2.1% | 598 円463 億円 |
| 悲観 | 8% | 582 円450 億円 | 194 円150 億円 | −61.7% | −9.2% | 62 円48 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,478 円2,689 億円 | 1,194 円923 億円 | +130.6% | +8.7% | 4,671 円3,612 億円 |
今の株価時価総額 2,026 円1,567 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 予算の拡大と新領域が重なり、利益率が7%近くで定着 利益 265 億円 · PER 18.4 倍 · 株価時価総額 6,524 円5,045 億円
国土強靱化の新計画と防衛施設の整備が計画どおり執行され、港湾の更新も進む。技能者の確保が進み、施工量は今より1割あまり増える。
入札では、難工事の実績が効き、値段を守れる案件が増える。国内土木の営業利益率は7%台半ばで定着する。建築は冷蔵倉庫とデータセンターで低採算を断り、6%台を保つ。
洋上風力は、基礎や据え付けの案件を取り、作業台船の稼働が上がる。海外はシンガポールの港湾で損失を出さずに伸びる。
稼いだ利益の6割を株主に返し、10年で自己資本利益率は13%台に乗る。会社が掲げる2035年度の営業利益300億円を、名目の物価上昇も使って上回る。
- 国内土木:数量 180(施工量(万人日換算。技能者の延べ作業日数と作業船の稼働))× 価格 12(1人日あたり売上(万円。材料・機械・外注を含む請負単価))→ 売上 2,172 億円・営業利益 163 億円。施工量1.12倍、価格1.34倍、営業利益率7.5%
- 国内建築:数量 177(施工量(万人日換算。技能者の延べ作業日数))× 価格 9.38(1人日あたり売上(万円。資材・外注を含む請負単価))→ 売上 1,664 億円・営業利益 108 億円。施工量1.08倍、営業利益率6.5%
- 海外:数量 152(施工量(万人日換算。為替150円固定))× 価格 8.71(1人日あたり売上(万円・円換算。現地の賃金が高く単価は高め))→ 売上 1,325 億円・営業利益 60 億円。施工量1.15倍、営業利益率4.5%
- 連結子会社他:数量 708(事業規模(億円。今の値段で測る))× 価格 0.30(規模1億円あたりの年間売上(億円・指数))→ 売上 209 億円・営業利益 17 億円。規模1.2倍、営業利益率8%
倍率:事業の純利益 265 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.0% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.4 倍。全体の PER 18.42 倍、時価総額 4,881 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:防衛・強靱化・洋上風力・海外がそろって当たる必要があり、一つでも外れると崩れる。慎重な見方のほうが強いので、1割を切る8%に置く。
やや楽観 22% 数量は小幅に増え、利益率は6%台の後半を保つ 利益 217 億円 · PER 17.5 倍 · 株価時価総額 5,139 円3,974 億円
国土強靱化と防衛の予算は計画どおり出るが、人手の制約で施工量は今より数%増えるにとどまる。
防衛の山は途中で一巡するものの、強靱化の新計画と港湾の更新が穴を埋める。国内土木の利益率は7%近くを保ち、建築は5%台後半に下がる。
海外は損失を出さず、小さな黒字を積む。洋上風力の船の稼働は、一部の案件にとどまる。
配当と自社株買いで利益の6割あまりを返し、自己資本利益率は11%台になる。中期計画の2035年度の目標には、わずかに届かない。
この筋書きでは、値段を守れる難工事の比重が上がり、買収に頼らなくても利益は名目で伸びる。ただし、人手の壁があるので、強気の筋書きまでは届かない。
- 国内土木:数量 169(施工量(万人日換算。技能者の延べ作業日数と作業船の稼働))× 価格 12(1人日あたり売上(万円。材料・機械・外注を含む請負単価))→ 売上 2,036 億円・営業利益 138 億円。施工量1.05倍、営業利益率6.8%
- 国内建築:数量 169(施工量(万人日換算。技能者の延べ作業日数))× 価格 9.38(1人日あたり売上(万円。資材・外注を含む請負単価))→ 売上 1,587 億円・営業利益 92 億円。施工量1.03倍、営業利益率5.8%
- 海外:数量 139(施工量(万人日換算。為替150円固定))× 価格 8.71(1人日あたり売上(万円・円換算。現地の賃金が高く単価は高め))→ 売上 1,210 億円・営業利益 42 億円。施工量1.05倍、営業利益率3.5%
- 連結子会社他:数量 649(事業規模(億円。今の値段で測る))× 価格 0.30(規模1億円あたりの年間売上(億円・指数))→ 売上 191 億円・営業利益 13 億円。規模1.1倍、営業利益率7%
倍率:事業の純利益 217 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.1% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.5 倍。全体の PER 17.47 倍、時価総額 3,791 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:需要の確かさは強気の根拠として堅い。ただ、人手の制約で数量の伸びは限られるので、中立より薄く、2割台前半に置く。
中立 38% 数量は横ばい、利益率は5%近くに戻る 利益 170 億円 · PER 16.2 倍 · 株価時価総額 3,796 円2,935 億円
需要は底固いが、技能者は増えない。国内土木の施工量は今より3%ほど減るか横ばいで、価格は物価並みに上がる。
防衛の大型工事は一巡し、入札の競争が厳しくなる。国内土木の営業利益率は6%に下がる。建築は、資材高の価格転嫁が一服して5%に戻る。
海外は、損失は出さないが利益も薄く、2%台にとどまる。洋上風力は、船の稼働が十分に上がらず、大きな稼ぎにならない。
全社の営業利益率は5%近くに戻り、会社の2035年度の目標(6%)をやや下回る。還元は利益の6割あまりを保ち、自己資本利益率は10%を切る。
筆者は、これを最もありそうな姿と見る。需要は壊れないが、いまの利益率を支えた追い風は10年は続かない。
- 国内土木:数量 156(施工量(万人日換算。技能者の延べ作業日数と作業船の稼働))× 価格 12(1人日あたり売上(万円。材料・機械・外注を含む請負単価))→ 売上 1,881 億円・営業利益 113 億円。施工量0.97倍、価格1.34倍、営業利益率6%
- 国内建築:数量 164(施工量(万人日換算。技能者の延べ作業日数))× 価格 9.38(1人日あたり売上(万円。資材・外注を含む請負単価))→ 売上 1,541 億円・営業利益 77 億円。施工量1.0倍、営業利益率5%
- 海外:数量 126(施工量(万人日換算。為替150円固定))× 価格 8.71(1人日あたり売上(万円・円換算。現地の賃金が高く単価は高め))→ 売上 1,095 億円・営業利益 27 億円。施工量0.95倍、営業利益率2.5%
- 連結子会社他:数量 590(事業規模(億円。今の値段で測る))× 価格 0.30(規模1億円あたりの年間売上(億円・指数))→ 売上 174 億円・営業利益 10 億円。規模1.0倍、営業利益率6%
倍率:事業の純利益 170 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.9% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.2 倍。全体の PER 16.17 倍、時価総額 2,749 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:需要は底固いが、人手で数量が頭打ちになり、防衛の山が過ぎる。強気と慎重の言い分が拮抗するので、3割台後半の中立を最も厚くする。
やや悲観 24% 防衛が一巡し、入札競争で利益率が4%に下がる 利益 90 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 1,400 円1,083 億円
防衛の大型工事が一巡し、発注の空きを埋める強靱化の工事は価格を絞って入札される。国内土木の施工量は1割ほど減り、利益率は4%台に下がる。
建築は、資材高の価格転嫁が一巡し、同業との競争が再び激しくなる。利益率は3%に戻る。海外は、数量が落ちて損益はほぼ均衡する。
洋上風力の作業船は稼働が低く、償却が重い。全体の営業利益率は3%台に下がり、利益は今の5割を割る。それでも、配当は守り、自己資本利益率は6%を割る。
稼ぐ力が資本コストに届かないので、ためた自己資本は価値を生まない。
発注者の予算が先に決まる事業なので、需要は消えない。ただ、値段を決める力が弱いまま利益率だけが下がる、というのがこの筋書きの核だ。
- 国内土木:数量 142(施工量(万人日換算。技能者の延べ作業日数と作業船の稼働))× 価格 12(1人日あたり売上(万円。材料・機械・外注を含む請負単価))→ 売上 1,656 億円・営業利益 70 億円。施工量0.88倍、価格1.30倍(競争で転嫁が弱まる)、営業利益率4.2%
- 国内建築:数量 148(施工量(万人日換算。技能者の延べ作業日数))× 価格 9.10(1人日あたり売上(万円。資材・外注を含む請負単価))→ 売上 1,346 億円・営業利益 40 億円。施工量0.9倍、価格1.30倍、営業利益率3%
- 海外:数量 113(施工量(万人日換算。為替150円固定))× 価格 8.45(1人日あたり売上(万円・円換算。現地の賃金が高く単価は高め))→ 売上 951 億円・営業利益 5 億円。施工量0.85倍、営業利益率0.5%
- 連結子会社他:数量 561(事業規模(億円。今の値段で測る))× 価格 0.29(規模1億円あたりの年間売上(億円・指数))→ 売上 160 億円・営業利益 6 億円。規模0.95倍、営業利益率4%
倍率:ROE 5.6%(純利益 90 億円 ÷ 自己資本 1,620 億円)。ROE が k 7.5% に届かないので、PER の上限は 1÷k = 12.5 倍。RONIC = k + 1/2 ×(ROE − k)= 6.8%、g 4% から正当化 PER = 10.3 倍。入札競争で利益が景気より先に落ちる局面なので、10.0 倍に置いた(時価総額は約 900 億円)。
確率:利益率が山にあり、会社自身が今期の減益を見込む。防衛の一巡と入札の競争は十分ありうるので、2割台半ばに置く。
悲観 8% 公共予算の先送りと海外の損失が重なり、稼ぐ力が壊れる 利益 15 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 582 円450 億円
防衛が一巡し、強靱化の補修が点検だけで終わって、公共予算の執行が遅れる。国内土木の施工量は4分の1減り、入札で価格も下がる。営業利益率は2%台に落ちる。
建築は同業との競争に負けて、利益率は1%まで下がる。海外は、再び大型工事で損失を出し、赤字になる。洋上風力の船は動かず、償却と金利が重い。
全体の営業利益は30億円に届かず、事業としては優良ではなくなる。配当は削り、還元は絞られる。作業船や政策保有株を売って資金をつなぐ。
10年の還元は、利益だけでは足りず資産の売却も使って150億円にとどまる。作業船の減損で自己資本も減る。もはや「準寡占の一角」とは見られず、価格と受注の両方で押される会社になる。
- 国内土木:数量 121(施工量(万人日換算。技能者の延べ作業日数と作業船の稼働))× 価格 11(1人日あたり売上(万円。材料・機械・外注を含む請負単価))→ 売上 1,357 億円・営業利益 34 億円。施工量0.75倍、価格1.25倍、営業利益率2.5%
- 国内建築:数量 131(施工量(万人日換算。技能者の延べ作業日数))× 価格 8.75(1人日あたり売上(万円。資材・外注を含む請負単価))→ 売上 1,150 億円・営業利益 12 億円。施工量0.8倍、営業利益率1%
- 海外:数量 99.2(施工量(万人日換算。為替150円固定))× 価格 8.12(1人日あたり売上(万円・円換算。現地の賃金が高く単価は高め))→ 売上 806 億円・営業利益 −24 億円。施工量0.75倍、営業利益率−3%(赤字)
- 連結子会社他:数量 502(事業規模(億円。今の値段で測る))× 価格 0.28(規模1億円あたりの年間売上(億円・指数))→ 売上 138 億円・営業利益 3 億円。規模0.85倍、営業利益率2%
倍率:稼ぐ力は純利益 15 億円を k 7.5% で割っても約 190 億円と小さい。床は稼ぐ力でなく売れる資産で測る。純現金は前払いの工事代金で半分は消える前提で約 120 億円、政策保有株は税後約 95 億円、作業船と不動産は取得額の半分ほどしか戻らず税後約 235 億円で、合わせて約 450 億円。今の自己資本 1,165 億円に対する PBR 0.39 倍に置いた。営業利益が小さいので EV ÷ 営業利益の見方は意味がない。
確率:需要の消失は考えにくく、公共工事は景気に強い。ただ、防衛の一巡・予算の先送り・海外の損失・船の遊休が重なる構造的な負けは、1割弱の確率で見る。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内土木
港湾・空港・護岸・埋立・浚渫などの海の工事と、防衛施設・道路などの陸上土木。作業船を自前で持つ。
| 数量施工量(万人日換算。技能者の延べ作業日数と作業船の稼働) | 価格1人日あたり売上(万円。材料・機械・外注を含む請負単価) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 161 | 9.00 | 1,447 | 90 |
| 10 年後 中立 | 156 | 12 | 1,881 | 113 |
取り方:連結売上3,587億円から、海外(会社見込み約860億円)、建築(3期平均954億円から約1,150億円と推定)、子会社他(約130億円)を引いて約1,450億円と置いた。営業利益は国内建築109億円(開示)と国内土木の前期比+5億円から逆算した推定で約90億円。決算短信の表は開いておらず、セグメントの数字は推定。単価9.0万円は1893の五洋建設の手本と同じ置き方(作業船の割合が高い分、建築より高い)で、施工量は売上をこの単価で割って出した。
国内建築
冷蔵倉庫・物流施設・データセンター・防衛施設・PFI(民間資金を使う公共施設)などの建築工事。
| 数量施工量(万人日換算。技能者の延べ作業日数) | 価格1人日あたり売上(万円。資材・外注を含む請負単価) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 164 | 7.00 | 1,150 | 109 |
| 10 年後 中立 | 164 | 9.38 | 1,541 | 77 |
取り方:国内建築の売上は、2024〜2026年3月期の3年平均954億円と、直近の伸びから約1,150億円と推定。営業利益109億円は開示(前期比+27%)。単価7.0万円は五洋建設の建築の置き方に合わせ、施工量は売上÷単価。
海外
シンガポールを中心とする港湾・埋立・トンネルなどの土木と、建築の拡大。
| 数量施工量(万人日換算。為替150円固定) | 価格1人日あたり売上(万円・円換算。現地の賃金が高く単価は高め) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 132 | 6.50 | 860 | 35 |
| 10 年後 中立 | 126 | 8.71 | 1,095 | 27 |
取り方:売上約860億円は会社の説明(一部は実力を上回る)。営業利益は全体の242億円から国内土木・建築・他の推定を引いた約35億円。受注は前期比38.5%減で700億円台。単価6.5万円は五洋建設の海外の置き方に合わせた。
連結子会社他
不動産、建設関連の子会社、技術サービスなど。全体に占める割合は小さい。
| 数量事業規模(億円。今の値段で測る) | 価格規模1億円あたりの年間売上(億円・指数) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 590 | 0.22 | 130 | 8 |
| 10 年後 中立 | 590 | 0.30 | 174 | 10 |
取り方:中期計画の売上内訳(2028年度150億円)から逆算した約130億円。営業利益は全体の残りの約8億円。規模は売上÷指数の単純な置き方。
リスクと懸念
防衛の山が過ぎて利益率が戻る
今の高い利益率は、防衛関連の大型工事が支えている。馬毛島の訓練施設の工事は、鹿島建設などが受け、東亜は入っていない。防衛の工事が一巡すると、入札の競争が厳しくなり、営業利益率は4%台に戻りうる。会社も今期は営業利益が1割以上減ると見ている。
人手が足りず、施工量が伸びない
2024年から残業の上限規制が建設業に適用され、技能者は増えていない。受注を選べば利益率は上がるが、売上の伸びは人手の範囲にとどまる。人件費の上昇を価格に載せきれないと、利益が削られる。
海外で大型工事の損失が出る
海外の売上は約860億円で、会社自身が「一部は実力を上回る」と認める。受注は前期より約4割減った。シンガポールの大型の港湾工事で見積もりが外れると、一件で営業利益の1割以上が飛ぶ。
作業船と新社屋の投資が重くなる
3年で約170億円を作業船や本社の新社屋に投じる。洋上風力は数値目標がなく、案件が立ち上がらなければ、船の稼働は下がる。償却と金利が利益を食い、建設業の自己資本利益率を押し下げる。
公共予算の執行が遅れる
国土強靱化の新計画は20兆円強だが、予算は毎年の国会で決まる。財政の制約が強まると、点検はしても補修は先送りされる。海洋土木は発注者が国と防衛省に偏っており、予算の変化がそのまま受注に響く。
買収で資本を使い、価値を壊す
前の計画で事業拡大の投資は17億円にとどまった。次の計画は買収を別枠にしており、案件が出れば金額は大きくなりうる。建築や海外で割高な買収をすれば、せっかくの還元余力が減る。
今後の分かれ目
- 防衛の大型工事が一巡した後も、国内土木の営業利益率が6%台を保つ
- 入札で値段を守れていると読める。やや楽観と楽観に確率を移してよい。
- 国内土木の営業利益率が2期続けて5%を割る
- 防衛の山が過ぎた合図。やや悲観に確率を寄せ、利益率の持続への見方を厳しくする。
- 海外で新たに大型工事の追加損失が出る
- 見積もりの癖が直っていないということ。海外は赤字を前提に置き直し、悲観の確率を上げる。
- 洋上風力の基礎や据え付けの大型案件を、東亜が単独か共同で受注する
- 作業台船の稼働が見え、投資が回収できる。国内土木の数量と利益率の上振れとして、やや楽観に反映する。
- 買収に数百億円規模の大型案件を決める
- 還元より成長を取る資本政策への転換。利益の上積みと、価値を壊す危険の両方を点検し直す。
- 国土強靱化の予算の執行が遅れ、防衛の発注も減る
- 数量の伸びが止まる。悲観の筋書きに近づくので、やや悲観と悲観の確率を上げる。
見ておくもの
- 国内土木・建築・海外のセグメント別の営業利益率(とくに海外の損益)
- 防衛関連の受注残と、新しい大型工事の落札
- 洋上風力の案件の受注と、自己昇降式作業台船の稼働
- 国土強靱化の新計画の予算の執行と、港湾の発注量
- 総還元性向と自社株買いの実施、政策保有株の残高(連結純資産の10%未満)
- 受注高と技能者の人数(施工量の天井)
倍率と資本コストの決め方
セグメントは施工量(人手と作業船の稼働を表す人日換算)と1人日あたりの売上で積み、価格は物価3%を入れて中立で1.34倍、数量は国内の成熟需要と人手の制約から0.95〜1.0倍に置いた。海外は為替150円固定。k は基本7.5%に quality +0.5%(循環)を足した8.0%で、g 4%・RONIC から正当化 PER を出し、中立と楽観・やや楽観は上限の約9割・ROE が k を上回るので下限の 1÷k に当たる。今・過去・同業の PER や PBR は倍率の根拠にしていない。やや悲観は ROE が k 未満の上限 1÷k 以下で、悲観は稼ぐ力と売れる資産の床で置いた。セグメントの売上・営業利益は決算短信の表を開かず推定で、国内建築の営業利益109億円と海外売上約860億円だけが開示値。営業利益は家賃を費用に入れた今と同じ形でそろえた(新リース会計基準の影響は小さい)。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14→18.42 倍・やや楽観 PER 13→17.47 倍・中立 PER 12.5→16.17 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。同じ領域の五洋建設(k 8.2%)より借金の面で軽く、海外の比重はやや低いので、近い水準に置いた。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 7.50%。