結論
ヤマウラは長野県駒ヶ根市に本社を置く地方ゼネコンだ。工場や倉庫を建てる「企業建築」に強く、県内の工場建築では施工実績が4年連続で一位だった。水管理機器や制御装置の部門と、首都圏の不動産事業も持つ。筆者の結論は「適正」だ。十年後の価値は今の時価総額とほぼ同じで、割安とも割高とも言い切れない。
足元の数字は強い。2026年3月期は営業利益率が10%台に乗り、受注残は5年で最高になった。自己資本比率は7割を超え、現金が時価総額の3割ほどある。ただし、会社の予想は次期の減益だ。資材と労務費の上昇、株式報酬を含む人への投資がのしかかる。
筆者が気にしているのは、利益率が山にあることだ。地方の建設は人口が減る中で量が伸びにくく、利益は価格転嫁の持続に左右される。最大の顧客は日本発条で、完成工事の約15%を占める。工場の設備投資が一巡すれば、受注の波は大きくなる。
一方、悲観でも下値は浅い。借金がなく、現金が厚いからだ。伸びる会社ではないが、傷みにくい会社でもある。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、この会社の第一の魅力は財務の堅さだ。借金がなく、現金が厚い。景気が悪くなっても存続に疑いはない。これは、建設のように利益が波打つ事業では、最も大きな安全域になる。
第二に、事業の堀は広くない。地域の顧客との関係と工場建築の実績は強みだが、入札や相見積りで価格が決まる場面が多い。堀の持続は十年スパンで見て「普通」だ。資本コストを上回る稼ぐ力は、今の利益率がどこまで続くかにかかっている。
第三に、経営の資本配分だ。自己資本は毎年厚くなり、ROEは10%前後で足踏みする。筆者は、現金を事業の投資に回す計画より、確実な還元を重く見たい。ただし会社はDOE目標と自社株買いを組み合わせており、方向は悪くない。
払う値段に安全域があるかどうかは、結論の通りだ。今の利益率が山にあることを考えると、強気に買い進める値段ではない。
オーナーとして持ち続けたいかと言えば、傷みにくい地味な会社として好ましい。大きく伸びる期待は置かず、現金の厚みと還元に値段を払う会社だと筆者は考える。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は建設事業で、連結売上の約9割を占める。建築では工場・倉庫・事務所・商業施設・学校や病院を建て、土木では道路・橋・防災工事を請け負う。官公庁の比率は2割弱で、民間の企業建築が主力だ。工場建築は県内で4年連続の施工実績一位とされ、冷凍冷蔵の倉庫にもこれから力を入れる。
エンジニアリング事業は、電気部門と工機部門に分かれる。電気部門は自動制御や情報通信システムの設計・施工、工機部門は水管理機器や産業機械、小水力発電設備を扱う。売上は30億円ほどと小さく、構造改革の途中だ。
開発事業等は、首都圏での不動産の販売・開発、リノベーション、太陽光や水力の発電を手がける。売上は20億円ほどだが、利益率は高い。会社は不動産収益事業と産業団地の開発に資金を回す計画だ。
顧客は集中している。最大の顧客は日本発条(NHKスプリング)で、完成工事高の15%ほどを占める。同社は大株主でもある。従業員は連結458人と少なく、建設の現場は協力会社に支えられている。2026年3月には、長野市のTOSYSとデータセンター事業で提携した。ヤマウラは建設と設備計画、許認可、敷地確保を受け持つ。
優良さと弱いところ
筆者が評価するのは、地域での顧客との距離の近さだ。工場の建て替えや増設は、設計から施工、設備、保守までを地元で一括して頼みたい需要が強い。電気・制御のエンジニアリングを自社で持つため、工場の生産ラインに近い設備まで請け負える。大手ゼネコンが入りにくい中小規模の工場案件に強みがある。
資本の使い方は堅実だ。借金はなく、自己資本比率は7割を超える。ROEは過去10年の中央値で8.6%だが、直近は12%台まで上がった。2024年3月期以降の営業利益率は10%台で、それ以前の5〜7%台から一段上がった。
弱みは三つある。第一に規模が小さい。営業利益は43億円で、準大手の同業の多くを下回る。第二に、顧客と地域の集中だ。長野県の人口は減り、県内の工場立地は2025年に前年から3割ほど減った。第三に、計画の達成度だ。中計の売上目標は413億円で、2026年3月期は405億円、従業員は目標の480人に対して458人と、採用が追いついていない。
不適正な工事や現場事故は、どのゼネコンにも付きまとうリスクだ。ヤマウラは有価証券報告書でこれらを主要なリスクに挙げている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
建設業の追い風は、価格転嫁の定着だ。2024年4月の残業規制以降、人手不足が構造化し、業界全体が選別受注と値上げに動いた。上場ゼネコンの多くで完成工事の粗利率が改善している。ヤマウラの利益率の上昇もこの流れの中にある。
長野県の需要は二つに分かれる。一つは工場、物流、データセンターなどの民間の設備投資で、半導体や精密機器の関連が底堅い。もう一つは公共工事で、国土強靱化の予算が下支えする。ただし県内の工場立地は2025年に15件へ減り、前年より3割弱少ない。
競争は地場と全国の両方から来る。県内では北野建設や守谷商会などの地場ゼネコンが競合し、大規模案件には鹿島や大成建設などの大手が入る。談合規制の強化で価格競争は抑えられているが、民間案件は相見積りになりやすい。
人手不足は最大の制約になる。技能労働者が足りず、工期が延び、人件費が上がる。受注を絞るか、価格を上げるかの選択を迫られる。ヤマウラは受注残が最高水準にあるが、売上に変える速度が課題だ。
業界団体のノートは、地方の人口減と公共予算の制約で、実質の受注は伸びず、名目でほぼ横ばいと置く。事業承継型の買収や再編は人手不足を背景に進みやすい。ヤマウラも新エリアでの買収を中計の柱に掲げている。
資本政策と M&A
還元は配当と自社株買いの組み合わせだ。会社はDOE(自己資本に対する配当の率)を2〜3%に置き、次期の配当は大きく増える。直近の四半期にも自社株を取得した。取得した分は発行済み株数から外れており、数字の起点(自己資本・還元)から別に除いた。
純現金は時価総額の約3割と厚い。ただし、すべてが余剰ではない。工事の前受けと下請けへの支払いの時期で大きく動き、2026年3月期は営業キャッシュフローが16億円のマイナスで、現金同等物が約45億円減った。建設は工事未払金や契約負債(前受金)を現金が裏づけるため、余った現金として別には数えていない。
投資有価証券は日本発条、綿半ホールディングス、福山通運、八十二長野銀行などを持つ。中計は3年で150億円を生む資金計画の一つに、政策保有株式の縮減を挙げるが、額は示されていない。保有株の配当は純利益に入っているため、価値を別に足すと二重になる。足していない。
投資は不動産収益事業、産業団地、宿泊施設、データセンターに向かう計画だ。開発事業に資金を回し続けると、建設より利益率は高いが、景気に左右される事業の比率が上がる。M&Aは地場ゼネコンの事業承継型を想定する。買収で価値を壊さないかが焦点になる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
工場建築の実績は4年連続で県内一位で、受注残は5年で最高の369億円に達している。民間の設備投資はまだ続き、倉庫やデータセンターといった新しい需要も取り込める。TOSYSとの提携で、地方分散型のデータセンターを建設から設備計画まで一括して手がける道が開けた。
利益率は、価格転嫁の定着で10%台に上がった。会社の予想する9%は、資材と労務費の上昇を織り込んだ慎重な数字で、実際は上振れる余地がある。自己資本比率は7割を超え、現金が厚い。DOE3%と自社株買いで、ROEは目標の14%へ上がる。
地場ゼネコンの事業承継型の買収は、人手不足の中で規模を積み上げる手段になる。県内で培った企業建築のノウハウは、愛知や首都圏にも通用する。エンジニアリングの構造改革が終われば、水管理や小水力は安定した利益の柱になる。開発事業も、産業団地や不動産収益事業の積み上げで、建設より高い利益率の部分が育つ。
十年で量が横ばいでも、価格が物価並みに上がれば、売上は4割近く増える。利益率が10%を保てば、ROEは10%台半ばに乗る。
慎重な見方
今の利益率は山にある。2023年3月期までは5〜7%台だった営業利益率が、直近の3年だけ10%台に上がった。この水準が十年続く根拠は弱い。会社自身が次期を減益と見ており、利益は既に下り坂に入っている。
県内の工場立地は2025年に前年より3割弱減った。長野県の人口は減り続け、民間の設備投資の裾野は細る。最大の顧客である日本発条は、完成工事の15%を占める。同社の設備投資が一巡すれば、受注の波は大きい。
人手不足は構造的で、従業員は目標の480人に届いていない。受注残が最高でも、売上に変える速度が追いつかなければ、利益は積み上がらない。2026年3月期の営業キャッシュフローは大きなマイナスだった。工事の代金回収の遅れは、建設業でよくある落とし穴だ。
現金が厚くても、使い道が不動産や産業団地、データセンターのような景気に敏感な投資に向かえば、資本効率が下がる。少数株主は、その使い道を決められない。地方の中堅ゼネコンは、談合規制の強化後、価格競争が強まりやすい。
どちらに重みを置いたか
財務の堅さと受注残の厚さでは強気の言い分が強い。一方、利益率が山にあること、顧客と地域の集中、売上への変換の遅れでは慎重な言い分が勝つ。そこで中立の営業利益率を会社予想の9%に置き、確率は中立の約4割を中心に、やや悲観をやや楽観より少し厚くした。悲観は借金がなく現金が厚いので、準大手の同業より低い1割強にとどめた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,666 円485 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 846 円154 億円)。 今の値に割り戻すと 1,811 円330 億円、今との差 +23.3%、 期待の年率 +9.1%(資本コスト 8.0%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 4,842 円882 億円 | 1,098 円200 億円 | +304.6% | +15.0% | 475 円87 億円 |
| やや楽観 | 20% | 3,866 円704 億円 | 989 円180 億円 | +230.7% | +12.7% | 971 円177 億円 |
| 中立 | 38% | 3,051 円556 億円 | 879 円160 億円 | +167.7% | +10.3% | 1,493 円272 億円 |
| やや悲観 | 23% | 1,327 円242 億円 | 725 円132 億円 | +39.8% | +3.4% | 472 円86 億円 |
| 悲観 | 11% | 369 円67 億円 | 544 円99 億円 | −37.8% | −4.6% | 100 円18 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,666 円485 億円 | 846 円154 億円 | +139.2% | +9.1% | 3,512 円639 億円 |
今の株価時価総額 1,468 円267 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 8% 企業建築の需要を県外にも広げ、利益率が山の水準で定着する 利益 57 億円 · PER 15.4 倍 · 株価時価総額 4,842 円882 億円
長野県内の工場・倉庫・データセンターの建設が途切れず続き、ヤマウラは県内トップの実績を足がかりに、愛知や首都圏の周辺にも受注を広げる。地場ゼネコンの事業承継型の買収が数件進み、人員と施工量が増える。資材高と労務費の上昇は価格に転嫁でき、建設の営業利益率は 11% 台に定着する。不動産収益事業は北穂高産業団地や宿泊施設などを積み上げ、開発事業が利益の 2 割近くを担う。エンジニアリングの構造改革も実り、水管理機器と小水力が安定した柱になる。名目の ROE は 12% 台に上がり、DOE 3% を超える還元が続く。
- 建設:数量 56.0(施工量(万人日換算、実質。推定))× 価格 9.71(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 544 億円・営業利益 60 億円。建設:56 万人日換算 × 単価 9.7104(今の 1.36 倍)、利益率 11.0%
- エンジニアリング:数量 115(部門の人員(人))× 価格 0.42(1人あたり年間売上(億円・名目))→ 売上 48 億円・営業利益 4 億円。エンジニアリング:115 人 × 単価 0.4174(今の 1.36 倍)、利益率 9.0%
- 開発事業等:数量 220(開発・保有資産の残高(億円、今の値段の実質。推定))× 価格 0.47(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 103 億円・営業利益 13 億円。開発事業等:残高 220 億円 × 単価 0.469(今の 1.40 倍)、利益率 13.0%
倍率:事業の純利益 57 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.9% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.4 倍。全体の PER 15.41 倍、時価総額 872 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:県内の産業立地は先細り気味で、周辺への展開と買収が同時にうまくいく必要がある。連続成功の確度は高くないため 8% に置いた。
やや楽観 20% 工場・倉庫の需要が続き、建設の利益率は 10% を保つ 利益 46 億円 · PER 14.8 倍 · 株価時価総額 3,866 円704 億円
企業建築の優位が続き、倉庫(冷凍冷蔵)や再エネ関連の受注が加わる。人手不足は採用と協力会社の確保で乗り切り、施工量はいまより 5% ほど増える。価格転嫁も進み、建設の営業利益率は 10% を保つ。開発事業等は不動産収益事業の積み上げで売上が 3 倍近くになる。エンジニアリングは黒字を保つが成長は小さい。データセンターは TOSYS との提携で数件を手がけるにとどまる。営業利益は 60 億円を超え、ROE は 10% 台半ばまで上がる。ただし、最大の顧客である日本発条の設備投資が一巡する場面は挟む。
- 建設:数量 52.5(施工量(万人日換算、実質。推定))× 価格 9.64(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 506 億円・営業利益 51 億円。建設:52.5 万人日換算 × 単価 9.639(今の 1.35 倍)、利益率 10.0%
- エンジニアリング:数量 110(部門の人員(人))× 価格 0.41(1人あたり年間売上(億円・名目))→ 売上 46 億円・営業利益 4 億円。エンジニアリング:110 人 × 単価 0.4143(今の 1.35 倍)、利益率 8.0%
- 開発事業等:数量 170(開発・保有資産の残高(億円、今の値段の実質。推定))× 価格 0.46(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 78 億円・営業利益 9 億円。開発事業等:残高 170 億円 × 単価 0.459(今の 1.37 倍)、利益率 12.0%
倍率:事業の純利益 46 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.5% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.8 倍。全体の PER 14.75 倍、時価総額 683 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:足元の受注残が 5 年で最高水準にあり、会社の中計が示す方向に近い見立て。
中立 38% 量は横ばい、価格だけ上がり、利益率は会社予想の 9% 台に落ち着く 利益 37 億円 · PER 14.0 倍 · 株価時価総額 3,051 円556 億円
長野県の人口が減る中、工場と物流施設の建て替え・増設で建設の施工量は実質で横ばいを保つ。価格だけが物価並みに上がり、売上は 570 億円ほどになる。営業利益率は会社予想と同じ 9% で、2024 年の 11.5% には戻らない。資材と労務費の上昇、株式報酬を含む人的資本投資が利益率を押し下げ続ける。エンジニアリングは 7%、開発事業等は 11% の利益率。不動産収益事業に資金を回すが、残高は倍程度にとどまる。自己資本は純利益の積み上げで厚くなり、ROE は 9% 前後と資本コストをわずかに上回る。還元は純利益の半分を守る。
- 建設:数量 49.0(施工量(万人日換算、実質。推定))× 価格 9.57(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 469 億円・営業利益 42 億円。建設:49.0 万人日換算 × 単価 9.5676(今の 1.34 倍)、利益率 9.0%
- エンジニアリング:数量 105(部門の人員(人))× 価格 0.41(1人あたり年間売上(億円・名目))→ 売上 43 億円・営業利益 3 億円。エンジニアリング:105 人 × 単価 0.4112(今の 1.34 倍)、利益率 7.0%
- 開発事業等:数量 120(開発・保有資産の残高(億円、今の値段の実質。推定))× 価格 0.45(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 54 億円・営業利益 6 億円。開発事業等:残高 120 億円 × 単価 0.4489(今の 1.34 倍)、利益率 11.0%
倍率:事業の純利益 37 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.2% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.0 倍。全体の PER 14.02 倍、時価総額 523 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:足元の利益率が山にあることと、会社自身が次期を減益と見ていることから、山の少し下を中立にした。
やや悲観 23% 工場投資が一巡し、人手不足と採算の悪化で利益率が 7% に落ちる 利益 25 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 1,327 円242 億円
県内の工場立地が減り、日本発条など主要顧客の設備投資が一巡する。受注は公共と小口の民間に偏り、入札競争が強まる。資材と労務費の上昇を価格に載せきれず、建設の営業利益率は 7% に下がる。人手不足で完成が遅れ、施工量は実質で 1 割弱減る。開発事業等は買い手が見つからず、残高が積み上がるだけで伸びない。エンジニアリングの利益は薄い。ROE は資本コストを下回り、還元は DOE を保つために利益より厚くなる。それでも借金はなく、事業は続く。営業利益は35億円ほどで今の水準を2割近く下回り、売上は500億円ほどにとどまる。会社は配当を守るが、自己資本が厚くなる分だけ資本効率は下がっていく。株主にとっては、現金の厚みだけが救いの十年になる。
- 建設:数量 46.0(施工量(万人日換算、実質。推定))× 価格 9.28(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 427 億円・営業利益 30 億円。建設:46 万人日換算 × 単価 9.282(今の 1.30 倍)、利益率 7.0%
- エンジニアリング:数量 98.0(部門の人員(人))× 価格 0.40(1人あたり年間売上(億円・名目))→ 売上 39 億円・営業利益 2 億円。エンジニアリング:98 人 × 単価 0.399(今の 1.30 倍)、利益率 5.0%
- 開発事業等:数量 90.0(開発・保有資産の残高(億円、今の値段の実質。推定))× 価格 0.44(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 39 億円・営業利益 3 億円。開発事業等:残高 90 億円 × 単価 0.4355(今の 1.30 倍)、利益率 8.0%
倍率:ROE 6.7% は k 8% を下回る。ためた利益は額面未満の価値なので、PER の上限 1÷k=11.8 倍の約 76%(9.0 倍)を置いた。
確率:業界全体で人手不足と資材高が続くなか、地方の中堅が価格転嫁で負ける展開は現実的。準大手の同業と同じ厚さの 23% に置いた。
悲観 11% 県内の需要が縮み、最大顧客も離れて低採算の工事を取るしかなくなる 利益 8 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 369 円67 億円
長野県の人口減と工場立地の減少が重なり、県内の民間建設が縮む。最大顧客の日本発条は設備投資を絞り、ほかの大手ゼネコンが県内の工場案件に入ってくる。受注を維持するために低い利益率の工事を取り、営業利益率は 3% 台に落ちる。エンジニアリングは構造改革が実らず収益性が上がらない。不動産事業は含み損が出て縮小する。現金は多いが、運転資金と投資に消え、株主に戻る額は少なくなる。優良な地方ゼネコンではなくなり、稼ぐ力だけが価値になる。売上は400億円ほどで今とほぼ同じだが、物価が上がる分だけ中身は実質で縮む。営業利益は13億円に落ち、2000年代の薄利の時代に近い姿に戻る。清算されるわけではなく、現金の使い道は経営に委ねられたまま、少数株主は待つしかない。
- 建設:数量 40.0(施工量(万人日換算、実質。推定))× 価格 8.71(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 348 億円・営業利益 12 億円。建設:40 万人日換算 × 単価 8.7108(今の 1.22 倍)、利益率 3.5%
- エンジニアリング:数量 90.0(部門の人員(人))× 価格 0.37(1人あたり年間売上(億円・名目))→ 売上 33 億円・営業利益 1 億円。エンジニアリング:90 人 × 単価 0.3683(今の 1.20 倍)、利益率 2.0%
- 開発事業等:数量 60.0(開発・保有資産の残高(億円、今の値段の実質。推定))× 価格 0.40(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 24 億円・営業利益 1 億円。開発事業等:残高 60 億円 × 単価 0.402(今の 1.20 倍)、利益率 4.0%
倍率:ROE 2.5% で k を大きく下回る。稼ぐ力(純利益÷k、PER の上限 11.8 倍)の約 68%(8.0 倍)を置いた。自己資本や市場の倍率は根拠にしない。清算はされないので、現金の使い道を決められない少数株主の価値として、純現金を下回る値を認める。
確率:顧客が 1 社に 15% 集中し、地域が縮む構造は実在する。ただし実質無借金で現金が厚いので、悲観の確率は準大手の同業より低い 11% にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
建設
工場・倉庫・事務所などの建築と、道路・橋・防災などの土木。連結売上の約9割。
| 数量施工量(万人日換算、実質。推定) | 価格1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 49.7 | 7.14 | 355 | 38 |
| 10 年後 中立 | 49.0 | 9.57 | 469 | 42 |
取り方:建設事業の売上354.7億円を、現場の労務量で割った。開示は無いため、技能者の労務費を売上の約35%、日当を約2.5万円と置いて、施工量を約49.7万人日と推定した(準大手の同業と同じ要領)。物価の分は1人日あたり売上(価格)に入れる。セグメント利益は開示を確認できず、全社の営業利益42.6億円から他部門の推定を引いて置いた。
エンジニアリング
電気(自動制御・情報通信)と工機(水管理機器・産業機械・小水力発電)の設計・製造・施工。
| 数量部門の人員(人) | 価格1人あたり年間売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 100 | 0.31 | 31 | 2 |
| 10 年後 中立 | 105 | 0.41 | 43 | 3 |
取り方:エンジニアリング事業の売上30.7億円を、従業員約100人で割った(1人あたり約3,070万円)。人数は実質の数量で、物価の分は1人あたり売上に入れる。構造改革中で減収のため、利益は薄いと推定した。
開発事業等
首都圏での不動産の販売・開発・リノベーション、太陽光・水力などの再エネ。
| 数量開発・保有資産の残高(億円、今の値段の実質。推定) | 価格残高1億円あたりの年間売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 60.0 | 0.34 | 20 | 3 |
| 10 年後 中立 | 120 | 0.45 | 54 | 6 |
取り方:開示は売上20.1億円のみ。販売用不動産と再エネ設備の残高を約60億円(推定)とし、売上を回転で割った。数量は残高(会社の投資計画で積み増す分)で、物価は単価に入れる。利益は売却益の振れが大きく、利益率は高めの15%と推定した。
リスクと懸念
利益率が山にある
営業利益率は2024年3月期から10%台に乗ったが、それ以前の12年は多くの期で5〜8%台だった。会社も次期の営業利益を約13%減と見ている。価格転嫁が続かなければ、利益は元の水準に戻る。
最大顧客への集中
日本発条向けは完成工事高の約15%を占める。同社の設備投資が一巡すると、受注が急に細る。大株主でもあるため関係は深いが、価格の力は強くない。
長野県の人口減と工場立地の減少
県内の工場立地は2025年に15件と前年から3割弱減った。人口の減少は、民間の設備投資と公共工事の両方の基盤を細らせる。県外への展開が遅れれば、実質の受注は縮む。
人手不足と売上への変換の遅れ
従業員は458人で、中計の目標480人に届かない。受注残は最高水準でも、現場を回せなければ売上にならない。協力会社の確保が追いつかないと、工期の遅れと採算の悪化を招く。
工事代金の回収と運転資金
2026年3月期は営業キャッシュフローが16億円のマイナスだった。大型の工事で売上債権が増えたためで、建設ではよくあるが、代金の回収が滞れば現金は大きく減る。
開発投資と買収の失敗
不動産収益事業や産業団地、データセンター、事業承継型の買収は、景気や案件ごとの採算に左右される。現金が厚いだけに、使い道を誤ると価値を壊す。少数株主はその判断を左右できない。
今後の分かれ目
- 営業利益率が次期予想の9%を下回り、7%台へ落ち込んだら
- 価格転嫁の限界とみて、やや悲観の確率を上げる。
- 受注残が400億円を超え、売上への変換が早まったら
- 人員の採用が進んだ証拠として、やや楽観の確率を上げてよい。
- 日本発条向けの完成工事高が、完成工事高の1割を下回ったら
- 顧客の集中は緩むが、受注の穴を埋められるかを見る。埋められなければ悲観に寄せる。
- 地場ゼネコンの買収が公表されたら
- 買収額と利益率を確かめる。高い値で買えば資本効率が下がる。
- 政策保有株の縮減額が公表され、還元の増額に回ったら
- 現金の使い方が改善するので、ROEの前提を引き上げて見直す。
- データセンターの大型案件を受注したら
- サービスの新しい柱として楽観の筋書きの確率を少し上げる。
見ておくもの
- 受注高と次期繰越工事高、売上への変換の速さ
- 建設の営業利益率(会社予想の9%を保てるか)
- 従業員数と採用の進み方
- 日本発条向け完成工事高の比率
- 営業キャッシュフローと現金同等物の推移
倍率と資本コストの決め方
事業ごとに、建設は施工量(万人日換算)×1人日あたり売上、エンジニアリングは人員×1人あたり売上、開発事業等は残高×回転で積み上げた。物価は価格に入れ、数量は実質で置いた。中立の営業利益率は会社予想の9%台で、12年の山(2024年3月期の11.5%)より低い。倍率は資本コスト8%(quality +1.0%)とROE 9%から正当化PERを計算し、ROEがkを超えるので1÷kの11.8倍を置いた。今のPERやPBR、過去の倍率は使っていない。減価償却は、設備投資が年9億円と小さく、物価で増やさず、利益率の中に含めた。更新の投資は自己資本から賄い、借入は要らない。純現金は運転資金と投資計画に見合うため分けず、純利益に利息を含めた。政策保有株の配当は純利益に入っており、価値は足していない。悲観は構造的に負けた後の稼ぐ力で置いた。今の株価には寄せていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13→15.41 倍・やや楽観 PER 12.3→14.75 倍・中立 PER 11.8→14.02 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality +1.0%(循環 +0.5、値決め +0.25、寿命 +0.25)。事業は傾いていないので上乗せなし。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.00%。