結論
錢高組は、ビルや工場を建てる建築と、トンネルやダムを造る土木を手がける中堅ゼネコンだ。筆者の結論は「やや割高」。株価は純資産の半分以下だが、安いのは見かけだけだと考える。
稼ぎが細い。営業利益は今期の会社予想で13億円、利益率は1%強まで下がる。前期の受注は36%減り、4〜6月は営業赤字だった。過去最良の利益率でも5%台で、地力は弱い。
一方で、持っている資産は大きい。保有株が約900億円、賃貸不動産の時価が600億円超あり、合計は時価総額の3倍ほどになる。だが筆頭株主の2社が株式の約半分を握り、資産が株主へ戻る道筋は見えない。
中立の筋書きでは、営業利益は10年後に60億円弱へ戻る。それでも自己資本の大半は保有株で、ROEは3%台にとどまる。資産の半分が株主に届くと置いても、価値は今の時価総額に届かない。
筆者が分かれ目とみるのは、保有株の行き先だ。売却と還元が動き出せば、見方は大きく変わる。ただ今のところ、会社の計画にその兆しはない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「安く見えるが、持ち主が株主とは限らない資産」の典型だ。帳簿は厚いが、稼ぎは薄い。
建設の本業は、毎年新しい工事を取り直す事業だ。資本は少なくて済むが、利益は景気で大きく振れる。過去20年に赤字が3回あり、今期の営業利益も13億円まで落ちる計画だ。株主が自由に使える利益は、純利益の7割ほどと筆者は見る。
資産の側には魅力がある。保有株と賃貸不動産の価値は、時価総額の3倍ほどある。ただ、保有株の配当は時価の1%台しかなく、お金を寝かせている状態だ。経営が資本を効率よく使っているとは言いにくい。
安全域は、資産が手放されるかどうかで決まる。手放されれば価値は大きく増える。だが2社で約半分を握る株主構成では、その道筋が見えない。見えない出口に値段を払うのは、安全域とは呼べない。筆者は、資産の半分しか株主に届かないと置いて価値を測った。それでも今の値段が上回る。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は建設事業だ。売上の98%を占め、民間のオフィス・工場・物流施設などを建てる建築と、官公庁発注が中心の土木に分かれる。内訳は開示で確認できず、筆者は建築が約7割、土木が約3割と推定する。
受注は大きく波打つ。前期の受注高は約1,020億円で、その前の年より36%減った。それでも繰越工事は約1,900億円と計算でき、今期の売上は賄える。会社は今期の売上を約1,130億円、営業利益を13億円と見込む。
二つ目の柱が不動産だ。賃貸ビルや土地を持ち、貸して稼ぐ。売上は27億円と小さいが、利益は15億円で、セグメントの利益の約3割にあたる。賃貸等不動産の帳簿価額は216億円、自社算定の時価は617億円で、含み益は約400億円ある。
三つ目は、目に見えにくい資産運用だ。投資有価証券は約900億円で、上場株の保有は67銘柄と、建設業で最多とされる。営業外の収益は前期に17億円あり、経常利益の約4分の1を占めた。主に保有株の配当と筆者は見る。
従業員は885人。ゼネコンとしては小さく、大型の工事を一社で受け切るより、得意の工種を選んで受ける構えだ。
優良さと弱いところ
優良さを一言でいえば「資産は厚いが、稼ぐ力は薄い会社」だ。堀、つまり他社がまねできない強みは、建設の本業には乏しい。
強みは三つある。一つ目は、財務の安全だ。自己資本比率は53%で、純有利子負債は約80億円と軽い。二つ目は、含み益の厚い不動産と保有株だ。三つ目は、支配株主が安定していることで、短期の業績に振り回されず、長い工事に取り組める。
弱みも三つある。一つ目は、規模の小ささだ。入札で競る場面が多く、価格を決める力は弱い。二つ目は、利益の薄さだ。直近10年の営業利益率は、最良でも5.6%、中央値は3%台で、今期は1%強まで下がる計画だ。三つ目は、資本の使い方だ。自己資本の約8割が保有株で、稼ぎに直接つながらない。
経営は、中期経営計画で「選ばれ続ける企業になる」を掲げ、品質と働きやすさに重きを置く。守りの姿勢は堅実だが、資本効率を引き上げる意思は、計画の数字から読み取れない。営業利益の目標は年々下がり、最終年は10億円としている。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の建設市場は、量が増えない成熟市場だ。人口は減り、地方の工事は先細る。それでも足元は、作り手が少ない分だけ、値上げが通る局面にある。2024年4月に残業の上限規制が始まり、技能者が足りなくなった。上場ゼネコン50社の2025年度の受注は約16兆5千億円で、利益率も過去最高だった。
錢高組は、その恩恵を十分に受けていない。直近の営業利益率は3.8%で、過去最良も5.6%にとどまる。受注の落ち込みで今期は1%強まで下がる計画で、好況の波に乗り切れていない。
競合は、準大手の安藤・間、熊谷組、西松建設、奥村組、東急建設に加え、地場の中堅が入り乱れる。市場は分散しており、小さな会社ほど入札で値を下げやすい。公共では、国土強靱化の計画が2026年度から5年で約20兆円ある。トンネルや橋の更新は土木の追い風だが、官公庁の入札は競りも厳しい。
10年先は、民間の投資の一巡と人口減で、実質の量が横ばいから緩やかな縮小に向かうと筆者は見る。人手が足りない業界では、売上より採算を守る力が会社の差になる。再編も進みやすく、規模の小さな会社は、大手に取り込まれるか、得意分野に絞るかの選択を迫られる。
資本政策と M&A
資本政策の最大の特徴は、保有株の厚さと、支配株主の存在だ。筆頭株主の泉と大泉商事の2社で、発行済株式の約48%を持つ。銀行を含む上位10名で約7割になる。外から買われる可能性は低いと、筆者は考える。
還元は安定配当が基本だ。前期の配当は利益の2割ほどで、中期経営計画に還元の数値目標はない。掲げるのは内部留保の充実だ。自社株の取得に積極的な姿勢も見えない。
保有株は上場67銘柄で、自己資本の約8割にのぼる。業界では、2027年3月末までに保有を純資産の2割以内へ下げる動きが広がるが、錢高組の中計には縮減目標の記載が見当たらなかった。この差は大きい。売却が始まれば、資本効率の改善や還元の強化が一気に進む余地がある。
調べた範囲では、近年の大型買収は確認できなかった。問われるのは、数百億円の資産を抱えたまま、株主へ戻す気があるのか、という点だ。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
株価は純資産の半分以下で、資産の価値を見れば、割安なことは明らかだ。保有株は約900億円、賃貸不動産の時価は600億円超ある。税を引いても、合計は時価総額の2倍を超える。
本業も、底を打つ可能性がある。繰越工事は約1,900億円あり、今期の売上は賄える。会社の今期予想は営業利益13億円と保守的だ。前期は経常利益が会社予想を1割あまり上回った。人手不足で作り手が減る中、採算の悪い工事を断れば、利益率は3%台に戻る。
資本の使い方も変わりうる。大手・準大手は、保有株を2027年3月末までに純資産の2割以内へ減らす方針だ。錢高組は自己資本の約8割が保有株で、市場から資本効率を問われやすい位置にある。売却が始まれば、還元と賃貸の積み増しに回り、ROEは大きく動く。
支配株主が安定していることも、強みになる。短期の買収の脅威がなく、長い工事に取り組める。含み益の厚い不動産は、賃料が物価に連動して増え、守りの力になる。
慎重な見方
安く見えるのは、資産が株主に届かないからだ。筆頭株主の2社が約半分を握り、保有株を売る動機は外から働かない。中期経営計画にも、縮減の目標はない。資産がいくらあっても、株主の取り分は配当だけだ。保有株の配当は時価の1%台で、資本コストをはるかに下回る。
本業は弱っている。前期の受注は36%減り、4〜6月は営業赤字だった。中期経営計画の最終年の営業利益は10億円で、売上の1%に満たない。利益率の最良は5.6%で、人手不足で値上げが通る今の局面でも、この水準だ。好況が終われば赤字に戻りかねない。過去20年で赤字は3回ある。
規模も足りない。従業員は885人で、大型案件は受けきれず、入札で値を下げやすい。公共工事は強靱化の予算が増えても、競りが厳しい。人が足りなければ、売上は伸びない。
不動産も万能ではない。金利が上がれば新しい物件の利回りは薄れ、時価も下がる。含み益は約400億円あるが、自社算定の時価であり、売れる値段とは限らない。保有株も相場次第だ。前期は自己資本が約180億円増えたが、相場が下がれば同じだけ消える。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方が強い。資産の厚さでは強気の見方が正しい。ただ、その資産が株主に届くかどうかが値段を決める。支配株主が約半分を握り、縮減の目標もない以上、戻り方は半分と置いた。それでも価値は今の時価総額に届かない。本業の稼ぎが薄いためだ。確率は中立に4割弱を置き、残りは悲観側へやや厚くした。強気の見方が強調する会社予想の保守性は、近い年の回復に織り込んだが、10年の稼ぎを守るものではない。保有株の売却と還元が起きる筋書きは楽観側に置き、合わせて2割強とした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 15,523 円1,112 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,202 円158 億円)。 今の値に割り戻すと 8,689 円622 億円、今との差 +24.8%、 期待の年率 +9.8%(資本コスト 8.0%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 22,240 円1,593 億円 | 7,820 円560 億円 | +331.9% | +15.8% | 1,804 円129 億円 |
| やや楽観 | 16% | 19,622 円1,405 億円 | 4,468 円320 億円 | +246.1% | +13.2% | 3,854 円276 億円 |
| 中立 | 37% | 17,178 円1,230 億円 | 1,466 円105 億円 | +167.9% | +10.4% | 6,898 円494 億円 |
| やや悲観 | 27% | 14,629 円1,048 億円 | 1,327 円95 億円 | +129.2% | +8.7% | 4,308 円309 億円 |
| 悲観 | 14% | 5,310 円380 億円 | 838 円60 億円 | −11.7% | −1.2% | 861 円62 億円 |
| 加重平均 | 100% | 15,523 円1,112 億円 | 2,202 円158 億円 | +154.7% | +9.8% | 17,725 円1,269 億円 |
今の株価時価総額 6,960 円498 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 6% 採算を選び抜き、保有株を株主へ戻す 利益 80 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 22,240 円1,593 億円
10年間、受注の質を落とさず、建築も土木も利益率を4%台後半へ引き上げる。大型の民間工事は減っても、工場更新や再開発、国土強靱化の土木が穴を埋める。不動産は、手持ちの保有株を売った資金で賃貸物件を増やし、残高は今の2倍超になる。保有株のうち約400億円を売って、配当と自社株買いで株主へ返す。支配株主が応じたという意味で、会社の姿は大きく変わる。営業利益は100億円台に乗り、利益率は6%に近づく。国内の量が実質で増えないことは変わらないが、値上げと選別受注、不動産の収益で補う最も良い姿だ。連続して当たる必要があり、確率は低い。
- 建築:数量 120(施工量(万人日換算。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 9.57(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 1,152 億円・営業利益 53 億円。施工量 120.4 × 1単位あたり 9.568、利益率 4.6%
- 土木:数量 48.9(施工量(万人日換算、実質。推定))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 493 億円・営業利益 24 億円。施工量 48.9 × 1単位あたり 10.077、利益率 4.8%
- 不動産:数量 500(賃貸・開発に投じた資産の残高(億円、今の値段で測った実質。簿価ベース))× 価格 0.17(残高 1 億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 84 億円・営業利益 42 億円。残高 500 × 1単位あたり 0.168、利益率 50.0%
倍率:事業の純利益 76 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.4% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)225 億円。全体の PER 12.79 倍、時価総額 1,194 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:受注の質・保有株の還元・賃貸の積み増しが10年そろう筋書き。支配株主の同意が要り、確率は低い。
やや楽観 16% 受注が戻り、保有株の整理が進む 利益 65 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 19,622 円1,405 億円
受注は2026年度を底に持ち直し、建築は利益率4%、土木は4%強に戻る。物価並みの値上げが通り、人手不足の中で採算の悪い工事を断れる。不動産は賃貸と開発が育ち、残高は1.6倍になる。保有株は200億円ほどを売って還元に回すが、売却は小幅にとどまる。営業利益は80億円前後で、中期経営計画の最終年の目標(10億円)の8倍にあたる。ただ、ROEは資本コストにはなお届かない。保有株が自己資本の大半を占める構造は、10年かけてもほとんど薄まらない。量が増えないという制約は、最後まで残る。土木の更新工事が、建築の波の一巡を和らげる。持ち合いの整理が進めば資本の使い方は変わるが、10年では自己資本の厚みは大きく変わらない。
- 建築:数量 117(施工量(万人日換算。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 9.57(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 1,117 億円・営業利益 45 億円。施工量 116.8 × 1単位あたり 9.568、利益率 4.0%
- 土木:数量 47.9(施工量(万人日換算、実質。推定))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 483 億円・営業利益 20 億円。施工量 47.9 × 1単位あたり 10.077、利益率 4.2%
- 不動産:数量 350(賃貸・開発に投じた資産の残高(億円、今の値段で測った実質。簿価ベース))× 価格 0.17(残高 1 億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 59 億円・営業利益 29 億円。残高 350 × 1単位あたり 0.168、利益率 50.0%
倍率:事業の純利益 58 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.1% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)375 億円。全体の PER 12.5 倍、時価総額 1,100 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:受注が底から戻り、物価並みの値上げが通る姿。ただ資本効率の改善は小幅にとどまる前提で、中立の次に置いた。
中立 37% 量はやや縮み、価格だけ上がる 利益 51 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 17,178 円1,230 億円
建築の施工量は実質で1割弱減り、価格だけが物価並みに上がる。建築は利益率3%強、土木は3%台半ばで、過去の中央値に近い稼ぎに戻る。不動産は賃貸の積み増しで利益が伸びる。営業利益は60億円弱で、今期の予想13億円からは回復するが、過去最良の水準には届かない。純利益には、保有株の配当が15億円ほど加わる。配当は利益の2〜3割の安定配当を保ち、保有株は動かない。ROEは3%台にとどまる。大きな失敗も成功もなく、資本が稼ぎに結びつかないまま歳月が過ぎる、平らな10年になる。人手が足りない中で採算を守れるかどうかが、他社との差になる。不動産の賃料は物価に連動して増えるが、本業の弱さを埋めるほどではない。
- 建築:数量 111(施工量(万人日換算。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 9.57(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 1,060 億円・営業利益 34 億円。施工量 110.8 × 1単位あたり 9.568、利益率 3.2%
- 土木:数量 46.5(施工量(万人日換算、実質。推定))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 468 億円・営業利益 17 億円。施工量 46.5 × 1単位あたり 10.077、利益率 3.6%
- 不動産:数量 230(賃貸・開発に投じた資産の残高(億円、今の値段で測った実質。簿価ベース))× 価格 0.17(残高 1 億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 39 億円・営業利益 20 億円。残高 230 × 1単位あたり 0.168、利益率 52.0%
倍率:事業の純利益 41 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.6% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)525 億円。全体の PER 12.5 倍、時価総額 1,040 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中計は利益 10 億円まで下がる計画だが、10 年では量が減って価格だけ上がる標準の姿とみて、最も厚く置いた。
やや悲観 27% 受注減が長引き、採算が細る 利益 37 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 14,629 円1,048 億円
地方と民間の受注が戻らず、施工量は実質で1割半減る。価格転嫁も一巡し、人件費の上昇だけが重くのしかかる。建築の利益率は2%台前半に沈み、営業利益は40億円弱にとどまる。不動産は賃貸の稼ぎで支えるが、金利が上がると新しい物件の利回りは薄くなる。保有株は動かず、配当だけが入る。会社は安定配当を守り、自己資本は積み上がるが、稼ぎは増えない。外から資本効率を迫る動きも起きず、変化の乏しい10年が続く。持っている資産の大きさが、稼ぎの小ささの言い訳になる。民間の投資が一巡し、公共の競りも厳しくなり、受注の質は少しずつ落ちる。人件費の上昇だけが利益を削る。
- 建築:数量 102(施工量(万人日換算。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 9.57(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 979 億円・営業利益 23 億円。施工量 102.3 × 1単位あたり 9.568、利益率 2.4%
- 土木:数量 44.0(施工量(万人日換算、実質。推定))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 443 億円・営業利益 12 億円。施工量 44.0 × 1単位あたり 10.077、利益率 2.6%
- 不動産:数量 220(賃貸・開発に投じた資産の残高(億円、今の値段で測った実質。簿価ベース))× 価格 0.17(残高 1 億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 37 億円・営業利益 17 億円。残高 220 × 1単位あたり 0.168、利益率 45.0%
倍率:ROE 2.7%(純利益 37 億円 ÷ 自己資本 1,357 億円)。事業の ROE が資本コスト k 8% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER は 1÷k = 11.8 倍が上限。受注減が続き稼ぎが薄い局面で、上限の 7 割 2 分 の 8.5 倍に置いた。時価総額は(純利益 − 余った現金 525 億円 × 1.4%)× PER + 余った現金 × 戻り方 0.5 で出した。
確率:受注 -36% と 1Q 赤字が示す足元の弱さと、小さな会社の入札競争力の低さから、同業より悲観寄りに厚く置いた。
悲観 14% 構造的に負け、保有株も目減りする 利益 14 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 5,310 円380 億円
構造的に負ける。受注の量も質も落ち、建築は1%、土木は1%弱の利益率しか取れなくなる。低採算の工事で赤字の年が何度か出て、営業利益は10億円に満たない。賃貸以外の開発では評価損が出て、不動産の稼ぎも細る。株式相場の調整が重なり、保有株の時価は3割ほど下がって、自己資本は900億円に減る。配当は守るが、増配は止まる。支配株主は保有株を手放さず、株主に届く価値は小さいままだ。建設で稼げず、資産も戻らない、最も悪い姿である。会社が小さいため、一度崩れた受注の質を立て直す力も乏しい。再編の対象になっても、買い手は資産の価値を見て動くだろう。
- 建築:数量 84.3(施工量(万人日換算。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 9.57(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 806 億円・営業利益 8 億円。施工量 84.3 × 1単位あたり 9.568、利益率 1.0%
- 土木:数量 36.7(施工量(万人日換算、実質。推定))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 370 億円・営業利益 3 億円。施工量 36.7 × 1単位あたり 10.077、利益率 0.8%
- 不動産:数量 150(賃貸・開発に投じた資産の残高(億円、今の値段で測った実質。簿価ベース))× 価格 0.17(残高 1 億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 25 億円・営業利益 9 億円。残高 150 × 1単位あたり 0.168、利益率 35.0%
倍率:構造的に優良でなくなった姿。稼ぐ力は純利益 14 億円を k 8% で割っても 160 億円ほどで、床は売れる資産で測る。保有株と賃貸不動産の税引後は 950 億円ほどあるが、支配株主が手放さないので株主に届くのは半分以下とみて、今の自己資本 1,152 億円に PBR 0.33 倍(時価総額 380 億円)を置いた。減損で自己資本は 900 億円に減るが、床の倍率は今の自己資本に掛けた。EV ÷ 営業利益は谷の年の数字で参考にならない。
確率:過去 20 年に赤字が 3 回あり、会社計画も利益率 1% 割れまで下がる。構造的な負けの確率は、同領域の 1 割強をやや上回る 14% とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
建築
オフィス・工場・物流施設・病院・マンションなどを請け負って建てる。売上の約7割と推定する主力。
| 数量施工量(万人日換算。技能者の延べ作業日数、実質。推定) | 価格1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 120 | 7.14 | 860 | 27 |
| 10 年後 中立 | 111 | 9.57 | 1,060 | 34 |
取り方:建設事業の売上 1,228 億円(営業利益 42 億円)のうち建築を約 7 割と置いた。内訳は開示を確認できず、筆者の推定。労務費を売上の約 35%、日当を約 2.5 万円として施工量を約 120 万人日、1人日あたり売上を 7.14 万円とした。営業利益 27 億円は、全社費用を引く前の配分。
土木
トンネル・ダム・道路・治水など官公庁発注が中心の工事。強靱化予算の影響を受ける。
| 数量施工量(万人日換算、実質。推定) | 価格1人日あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 48.9 | 7.52 | 368 | 15 |
| 10 年後 中立 | 46.5 | 10 | 468 | 17 |
取り方:建設事業の約 3 割(約 368 億円)と推定した。内訳は開示を確認できず、筆者の推定。建築と同じ要領で約 49 万人日、1人日あたり売上は機械・材料の分だけ建築よりやや高い 7.52 万円。営業利益 15 億円は全社費用を引く前の配分。
不動産
自社と子会社が持つ賃貸ビル・土地を貸し、一部を開発・売却する事業。
| 数量賃貸・開発に投じた資産の残高(億円、今の値段で測った実質。簿価ベース) | 価格残高 1 億円あたりの年間売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 216 | 0.13 | 27 | 15 |
| 10 年後 中立 | 230 | 0.17 | 39 | 20 |
取り方:不動産事業の売上 27 億円・営業利益 15 億円。賃貸等不動産の簿価 216 億円(自社算定の時価は 617 億円)を残高とした。全社費用を約 10 億円とみて、連結の営業利益 47 億円に合わせた。
リスクと懸念
受注の落ち込みが続く
前期の受注高は約1,020億円で、前の年より36%減った。繰越工事は約1,900億円に減ったと計算でき、今期の売上は賄えても、来期以降は新しい受注に頼る。4〜6月は営業赤字で、受注の戻りが遅れれば、会社予想の営業利益13億円も守れなくなる。
景気の谷で赤字に戻る
建設の利益は、景気と資材・人手の費用で大きく振れる。錢高組は過去20年に赤字を3回経験し、最良の営業利益率も5.6%にとどまる。今は人手不足で値上げが通る局面だが、民間投資が一巡すれば、小さな会社ほど先に採算が崩れる。
支配株主が保有株を手放さない
筆頭株主の2社で発行済株式の約48%を持つ。上場市場は資本効率を求めるが、売る動機は外から働きにくい。中期経営計画にも縮減の目標はなく、保有株約900億円が事業の稼ぎに結びつかない状態が、10年続くおそれがある。
保有株の相場が下がる
自己資本1,152億円のうち、投資有価証券は約900億円だ。前期は自己資本が約180億円増えたが、大半は保有株の値上がりとみられる。相場が3割下がれば、自己資本は200億円前後減り、財務の安全度も落ちる。
金利上昇で不動産の価値が下がる
賃貸等不動産の時価は自社算定で617億円、簿価は216億円だ。金利が上がると、賃料を物件価格に直す利回りが上がり、時価は下がりやすい。含み益が減れば、悲観の時に頼る床も薄くなる。純有利子負債は約80億円で借り換えの影響は小さい。
入札競争と人手不足で採算が取れない
従業員は885人と少なく、大型案件は受けにくい。公共工事は入札で競り、民間でも価格を市場に決められる。人手が足りなければ売上は伸びず、人件費の上昇は利益率を削る。中計の利益率目標が0.8〜1.5%と低いのは、この構図の表れだ。
今後の分かれ目
- 受注が2期続けて前年を割り、繰越工事が1,500億円を下回ったら
- 施工量が構造的に縮むとみて、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 保有株の売却と、その代金の還元(配当・自社株買い)を会社が公表したら
- 資産が株主に届く道筋が見えたとして、楽観・やや楽観の確率を上げ、戻り方を引き上げる。
- 建設事業の利益率が2期続けて3%を超えたら
- 好況の採算が定着したとみて、中立の営業利益を数十億円上方に直す。
- 筆頭株主の2社が持株を動かす、または外部資本による買い付けが出たら
- 保有株の戻り方を1.0へ上げて計算し直す。TOB なら価格は資産価値に近づく。
- 株式相場が大きく下がり、投資有価証券が3割減ったら
- 自己資本が減るため、悲観の床を下げ、財務の安全度の評価も下げる。
- 賃貸等不動産の時価が簿価に近づくか、金利上昇で売却益が出なくなったら
- 含み益の見積もりを下げ、床と中立の不動産の利益を引き下げる。
見ておくもの
- 四半期ごとの受注高と繰越工事の推移
- 建設事業の完成工事の利益率
- 投資有価証券の残高と、保有銘柄の売却の有無
- 筆頭株主2社の持株比率の変化
- 賃貸等不動産の時価と簿価の差
- 中期経営計画の次の改定と、還元方針の数値目標
倍率と資本コストの決め方
倍率は、ROE が資本コスト k 8%(基本 7.5% + quality 1.0%)に届かない前提で、正当化 PER の上限(1÷k = 約 11.8 倍)の 7〜9 割に置いた。今の株価や今の PER・PBR を見てから決めたのではない。悲観は谷の PBR でなく、売れる資産の税引後(約 880 億円)に戻り方 0.5 を掛けた床で測り、今の自己資本に PBR を掛けた。保有株は純現金ではないが、事業に使われていない資産として約 700 億円を分け、戻り方 0.5 で価値に足した。取得原価と含み益の額は推定で、ここには誤差がある。純利益には保有株の配当が約 4 割入るので、分けた分の配当(税引後 1.4%)は事業の利益から引いた。建築と土木の内訳は開示を確認できず推定。店舗の賃借は無い。新リース会計基準で BS の形が変わるが、数字は今と同じ形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 10.6→12.79 倍・やや楽観 PER 10→12.5 倍・中立 PER 9.4→12.5 倍)。 2026-10-22:余り資産を R4 の holdings・rental に移したので、時価総額を式で出し直した(楽観〜中立の PER は新しい上限に置き直し、ほかは倍率そのまま:楽観 1194.5 → 1000.0(PER 12.5 倍)・やや楽観 1100.0 → 812.5(PER 12.5 倍)・中立 1040.0 → 637.5(PER 12.5 倍)・やや悲観 645.8 → 314.5(PER 8.5 倍))。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 1% = 8.5%。理由は quality_why。個別のリスク(支配株主・受注の落ち込みなど)は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.00%。