結論
日特建設は、山の斜面やのり面を崩れないように固める法面工事で首位級の専門工事会社だ。主力は法面、基礎・地盤改良、橋やトンネルの補修の三つで、2026年3月期は売上837億円、営業利益58億円と、期初の予想を大きく上回った。
筆者の結論は、適正の範囲に入る、というものだ。事業は堅い。純現金が172億円あり、自己資本比率は60%を超える。だが、直近の利益は能登半島地震の復旧工事がかさ上げしている。会社自身が、2027年3月期は減収減益と見ている。
株主構成が価値の見方を左右する。麻生グループのエーエヌホールディングスが約58%を持つ親子上場で、手元の現金が株主に戻る道は閉ざされてはいないが、細い。これを織り込むと、10年後の利益を資本コストで割り引いた本質価値は、今の時価総額の1割弱下に出る。
成長の余地は、基礎・地盤改良と補修の二つにある。住宅の地盤補強会社を買って顧客を広げる動きは、その表れだ。ただ、技能者が減る中で施工量は伸ばしにくく、増える売上の大半は物価の分になる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、日特建設は堅実で地味な専門工事会社だ。安く買える会社ではないが、持ち続けて困る会社でもない。
利益の質はよい。設備投資は営業キャッシュフローの半分ほどで、現金が積み上がり、借金はほぼない。ただし、その現金が株主に戻るかは、親会社の判断次第だ。持ち主として一番気になるのは、この点である。
堀は中くらいだ。技術と人で首位級の座を保っているが、値段を決めるのは発注者で、利益率の伸びしろは小さい。営業利益率は過去12年で最大7.9%、直近の7.0%はその山の近くにある。10年で山に居続けると考えるのは、無理がある。
安全域はそれほど厚くない。純現金は時価総額の35%あるが、売上の2割ほどの現金は工事の立て替えに要るお金で、すべてが余りではない。10年後の利益を資本コストで割り引くと、本質価値は今の値段を1割弱下回る。払ってよい値段は、今よりやや低い。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は三つある。法面工事が売上の4割強、基礎・地盤改良が3割強、補修・リニューアルが1割台半ばで、残りは建築などその他の工事だ。
法面工事は、道路や宅地の斜面を、鉄筋や鋼線を地中に打ち込む「アンカー」や吹付けで固める仕事だ。発注者は国や自治体など公共が中心で、災害の復旧や老朽化した斜面の補強が需要になる。会社は中期計画で、この分野の首位を保つと掲げている。
基礎・地盤改良は、軟弱な地盤を固める工事とダムや橋の基礎を支える工事だ。民間の建築や工場の仕事もあるぶん、景気の影響を受けやすい。2026年9月には、住宅と低層建築の地盤調査と補強をする地研テクノの買収を決めた。住宅向けの顧客基盤を取り込むねらいだ。
補修は橋やトンネルなど老朽化したインフラの直しで、2025年3月に完全子会社にした麻生フオームクリートの売上が加わり、前期は8割増えた。会社はここを「成長」の柱に置く。工種別の利益率は開示されていない。全社の粗利益率は18.9%で、前期より0.2ポイント上がった。
共通する強みは、地質の読みと施工を一貫して担える点だ。斜面の崩壊や地盤沈下は、災害が起きてからでは遅く、点検、設計、施工、補修を続けて請け負える会社は限られる。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、法面の実績と技術者の層にある。
法面と地盤改良は、地質の見立てから設計、施工までを一貫して請け負う仕事だ。現場ごとに条件が違うので、経験のある技能者と施工管理の人数が競争力になる。連結従業員は1,206人、平均年収は850万円と高めで、人に厚く払う会社だ。
ただし、堀は固くない。公共工事は入札で値段が決まり、会社が価格を決める力は限られる。競合はライト工業や不動テトラなどで、ライト工業は法面と地盤改良を合わせて売上が1,390億円と、日特建設の1.7倍ある。差を出すのは技術と人で、値段ではない。
資本の使い方は保守的で、悪くはない。政策保有株は10銘柄、簿価7億円とごく小さい。借入金はほぼなく、コミットメントラインも未使用だ。その反面、自社株買いはなく、現金は10年にわたって売上の2割ほどにとどまっている。親会社が58%を持つので、少数株主に報いる動機が弱い。資本効率の改善は、親会社の意向に左右される。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の需要は底堅い。道路橋は全国に約73万橋あり、建設後50年を超える橋は2025年の42%から2035年に65%へ上がる見通しだ。政府は2026年度から5年間で約20兆円強の国土強靱化を進める。法面や補修の仕事は、予算が付く限り続く。
ただ、制約は需要より人手だ。2024年の残業規制以降、技能者の不足が業界全体の課題になった。受注を選ぶ動きが広がり、価格転嫁は進んだが、施工できる量には上限がある。需要が増えても、売上の伸びは物価の分が中心になる。
足元の山も見ておく必要がある。法面の売上は前期に20%増えた。能登半島地震の復旧と大規模法面工事が主因だ。繰越受注高は581億円で、前期より4.5%減った。会社の2027年3月期の予想は、売上805億円、営業利益55億円だ。復旧の山が引くことを、すでに織り込んでいる。
競合の動きでは、大成建設が東洋建設を買うなど、土木の再編が進んでいる。専門工事の会社は、買われる側にもなりうる。日特建設の場合は、すでに親会社がいるので、第三者に買われる話は動きにくい。
資本政策と M&A
還元は配当が中心だ。2026年3月期の配当性向は49%で、自社株買いは実質ない。中期計画は累進配当、つまり配当を減らさず増やす方針と、株主資本に対する配当の比率の現状水準の維持を掲げる。
親会社はエーエヌホールディングスで、その親は株式会社麻生だ。2015年に26%、2018年に42%と買い増し、いまは約58%を持つ。2025年には麻生グループの麻生フオームクリートを日特建設が公開買付けで完全子会社にした。
中期計画は、PBR1.5倍以上、ROE10%以上を財務目標に置く。2035年に売上1,500億円、営業利益120億円、時価総額1,000億円という長期の目標もある。目標どおり進めるには、純現金172億円を成長に使う必要がある。地研テクノの買収はその一歩だ。金額は開示されていない。
TOBの可能性は考えておく。親会社が段階的に持ち株を増やしてきた経緯から、完全子会社化で上場をやめる話は出うる。kabufuの推計では、10年以内の買収の確率は18%だ。ただ、買収価格が事業価値を大きく上回る保証はなく、筋書きには別に足さない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
法面は、日本の国土が続く限り減らない仕事だ。斜面は崩れ、橋は古くなる。能登半島地震の復旧が示したように、災害が起きれば首位級の会社に仕事が回る。日特建設は法面で首位を保ち、アンカーの技術と技能者の層で、入札が価格競争になりにくい難しい現場を取れる。
会社は買収で顧客を広げ始めた。地研テクノは住宅の地盤補強で地場の工務店に強く、日特建設が持たない顧客を連れてくる。麻生フオームクリートの買収で補修の売上は8割増え、橋やトンネルの直しという需要の厚い分野に入った。純現金172億円は、こうした買収を何本も買える額で、会社は財務の余裕を成長に使える。
累進配当も効く。配当は減らさず増やす方針で、親会社にとっても配当は大切な収入だ。利益が増えれば配当は増える。長期の目標は2035年に売上1,500億円、営業利益120億円で、時価総額は1,000億円とする。実現すれば、いまの2倍になる。
財務の面でも安心がある。借入金はほぼなく、自己資本比率は60%を超える。不況でも、利払いに追われて仕事を止めることがない。公共工事の多い会社は、赤字が出ても資金繰りが詰まりにくい。
慎重な見方
いまの利益は山だ。能登の復旧という特需が法面を押し上げ、前期の営業利益は期初予想を8億円上回った。会社自身が、今期は営業利益55億円と減るとみている。繰越受注高も前期より4.5%減った。復旧の山が引いたあと、利益がどこまで戻るかが勝負で、利益率7%は過去の最良に並ぶ高さだ。
人手の制約は重い。技能者が減る中で、需要が増えても施工量は伸びない。施工量が伸びなければ、売上が増えるのは物価の分だけだ。入札で決まる公共工事は、発注者が予算の上限で値段を決める。
親会社が58%を持つ点も無視できない。現金172億円は時価総額の3分の1だが、少数株主に戻る道が細い。自社株買いは実質なく、配当性向は50%程度で止まる。買収は、親会社のグループ内の取引が多く、価格が適正かを外から確かめにくい。地研テクノのような小さな買収で、中期計画の成長を支える水準の利益が出るかも不透明だ。
同じ買収の流れでも、住宅の地盤補強は新築着工に左右される。人口が減る国内の住宅市場に、買収の成長を預けるのは心もとない。
どちらに重みを置いたか
どちらの言い分にも事実の裏づけがある。ただ、10年の利益を決めるのは数量、価格、利益率の積だ。数量は人手で頭打ちで、利益率は能登の特需で高く出ている。慎重な見方のほうが強い。
一方、強気の見方が言う需要の底堅さと財務の厚みも本物だ。中立を最も厚く置き、強気側を合わせて3割、慎重側を合わせて3割強とした。悲観は、補修予算の先送りと買収の失敗が重なる構造的な負けに絞り、1割を置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,794 円750 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 590 円247 億円)。 今の値に割り戻すと 1,307 円546 億円、今との差 +11.2%、 期待の年率 +7.3%(資本コスト 7.2%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 2,849 円1,190 億円 | 699 円292 億円 | +201.9% | +11.7% | 284 円119 億円 |
| やや楽観 | 22% | 2,415 円1,009 億円 | 672 円281 億円 | +162.7% | +10.1% | 679 円284 億円 |
| 中立 | 38% | 2,063 円862 億円 | 651 円272 億円 | +130.9% | +8.7% | 1,031 円431 億円 |
| やや悲観 | 22% | 975 円407 億円 | 491 円205 億円 | +24.7% | +2.2% | 322 円135 億円 |
| 悲観 | 10% | 370 円155 億円 | 311 円130 億円 | −42.0% | −5.3% | 68 円28 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,794 円750 億円 | 590 円247 億円 | +102.9% | +7.3% | 2,385 円997 億円 |
今の株価時価総額 1,175 円491 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 8% 中計の長期目標に届き、地盤改良と補修が柱に育つ 利益 71 億円 · PER 16.8 倍 · 株価時価総額 2,849 円1,190 億円
国土強靱化と老朽化対策の予算が執行され、法面は災害復旧の山が引いたあとも底堅い。地研テクノのような地盤補強の会社を買い足して基礎・地盤改良の顧客を広げ、補修・リニューアルは麻生フオームクリートの技術と合わせて伸びる。法面では首位の座を保ち、設計変更や追加工事を単価に載せる力も残る。人手の制約があるので施工量の伸びは1.4倍が上限だが、価格は物価並みに上がる。営業利益は100億円に届き、利益率は過去の最良に近い7%台半ばに乗る。累進配当は続き、還元は配当が中心になる。会社が掲げる2035年の売上1,500億円には届かないが、名目で1,360億円まで来る。
- 法面工事:数量 55.5(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 9.38(1人日あたり売上(万円・名目。材料・機械・外注を含む請負単価))→ 売上 521 億円・営業利益 47 億円。施工量1.05倍、価格1.34倍、営業利益率9.0%
- 基礎・地盤改良工事:数量 40.4(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 12(1人日あたり売上(万円・名目。機械の割合が高く単価は高い))→ 売上 487 億円・営業利益 34 億円。施工量1.35倍、価格1.34倍、営業利益率7.0%
- 補修・リニューアル工事:数量 28.1(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 8.71(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 245 億円・営業利益 16 億円。施工量1.45倍、価格1.34倍、営業利益率6.5%
- その他工事:数量 11.3(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 9.38(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 106 億円・営業利益 4 億円。施工量1.1倍、価格1.34倍、営業利益率3.5%
倍率:事業の純利益 71 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.9% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.8 倍。全体の PER 16.79 倍、時価総額 1,190 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:法面の需要、地盤改良の買収の成功、補修の拡大、価格転嫁の定着が全部そろう必要がある。会社の長期目標に近い姿だが、能登の復旧という一時要因と親会社支配の資本の硬さを考え、1割弱にとどめる。
やや楽観 22% 法面は首位を守り、地盤改良と補修が少しずつ伸びる 利益 61 億円 · PER 16.4 倍 · 株価時価総額 2,415 円1,009 億円
法面は首位を保つが、能登の復旧が剥がれたあとは横ばいに戻る。基礎・地盤改良は買収と営業の強化で2割増え、補修は麻生フオームクリートとの重なりを生かして3割増える。利益率は法面が8%台半ば、基礎・地盤改良が6%台半ばで落ち着く。価格転嫁はおおむね通り、物価並みの値上がりが利益に残る。全社の営業利益は87億円、利益率は7%を割る。ROEは10%で、中期計画の目標にぎりぎり届く水準だ。海外には出ず、国内の公共と民間の需要にとどまるので、会社の姿は今と大きく変わらない。還元は累進配当で、純利益の過半を配当に回し、残りは自己資本と現金として積み上がる。
- 法面工事:数量 52.9(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 9.38(1人日あたり売上(万円・名目。材料・機械・外注を含む請負単価))→ 売上 496 億円・営業利益 42 億円。施工量1.0倍、価格1.34倍、営業利益率8.5%
- 基礎・地盤改良工事:数量 35.9(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 12(1人日あたり売上(万円・名目。機械の割合が高く単価は高い))→ 売上 433 億円・営業利益 28 億円。施工量1.2倍、価格1.34倍、営業利益率6.5%
- 補修・リニューアル工事:数量 25.2(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 8.71(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 219 億円・営業利益 13 億円。施工量1.3倍、価格1.34倍、営業利益率6.0%
- その他工事:数量 10.8(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 9.38(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 101 億円・営業利益 3 億円。施工量1.05倍、価格1.34倍、営業利益率3.2%
倍率:事業の純利益 61 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.3% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.8%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.4 倍。全体の PER 16.36 倍、時価総額 1,000 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の中期計画に近い姿。需要の足場は固く、買収も地盤改良の分野に絞られているので、2割強を置く。
中立 38% 能登の山が引き、人手に縛られて名目だけが伸びる 利益 53 億円 · PER 15.9 倍 · 株価時価総額 2,063 円862 億円
災害復旧の山が引き、法面の施工量は今より5%ほど減る。老朽化した斜面とのり面の補強、アンカーの更新といった仕事は続くが、技能者が減るので増やせない。基礎・地盤改良は住宅の地盤補強の買収もあって1割増え、補修は1割台半ば増える。ただ買収は小さなものが中心で、数量の伸びは全体で横ばいに近い。価格は物価並みの1.34倍まで上がり、利益率は法面8%、基礎6%、補修5.5%で、全社では6.5%と今の山からやや戻る。営業利益は75億円だ。配当は累進で増え、純現金は毎年少しずつ積み上がり、小さな買収に使われる。ROEは9%台で、資本コストを少し上回る程度にとどまる。
- 法面工事:数量 50.3(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 9.38(1人日あたり売上(万円・名目。材料・機械・外注を含む請負単価))→ 売上 472 億円・営業利益 38 億円。施工量0.95倍、価格1.34倍、営業利益率8.0%
- 基礎・地盤改良工事:数量 32.9(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 12(1人日あたり売上(万円・名目。機械の割合が高く単価は高い))→ 売上 397 億円・営業利益 24 億円。施工量1.1倍、価格1.34倍、営業利益率6.0%
- 補修・リニューアル工事:数量 22.3(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 8.71(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 194 億円・営業利益 11 億円。施工量1.15倍、価格1.34倍、営業利益率5.5%
- その他工事:数量 10.3(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 9.38(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 97 億円・営業利益 3 億円。施工量1.0倍、価格1.34倍、営業利益率3.0%
倍率:事業の純利益 53 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.7% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.5%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.9 倍。全体の PER 15.9 倍、時価総額 844 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:需要は底堅いが、人手で施工量は頭打ち、利益率は直近の山から戻る。議論の落としどころとして最も厚い3割台後半を置く。
やや悲観 22% 災害復旧と補修予算が平年に戻り、入札で利益率が削られる 利益 40 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 975 円407 億円
災害復旧の山が引き、国土強靱化の予算も他の政策に押されて平年並みに戻る。法面の施工量は1割あまり減り、入札が厳しくなって、物価の上昇分を完全には値段に載せられない。法面の利益率は7%、基礎・地盤改良は5%、補修は4%台半ばまで下がる。買収した会社は思ったほど伸びず、のれんの償却が重い。営業利益は56億円と、直近より小さい。それでも財務は堅く、赤字にはならない。累進配当を守るので、配当性向は上がる。ROEは7%を割り、資本コストに届かない。構造が壊れたわけではなく、2020年代半ばの高い利益率は一時の追い風だったと市場が受け入れる10年だ。
- 法面工事:数量 46.6(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 9.10(1人日あたり売上(万円・名目。材料・機械・外注を含む請負単価))→ 売上 424 億円・営業利益 30 億円。施工量0.88倍、価格1.3倍、営業利益率7.0%
- 基礎・地盤改良工事:数量 28.4(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 12(1人日あたり売上(万円・名目。機械の割合が高く単価は高い))→ 売上 332 億円・営業利益 17 億円。施工量0.95倍、価格1.3倍、営業利益率5.0%
- 補修・リニューアル工事:数量 19.4(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 8.45(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 164 億円・営業利益 7 億円。施工量1.0倍、価格1.3倍、営業利益率4.5%
- その他工事:数量 9.8(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 9.10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 89 億円・営業利益 2 億円。施工量0.95倍、価格1.3倍、営業利益率2.5%
倍率:ROE 6.8%(純利益 39.4 億円 ÷ 自己資本 577 億円)。ROE が k 7.25% に届かないので、ためた利益は簿価より低い価値で、PER の上限は 1÷k = 12.9 倍。入札の競争が強まる局面で、上限の 7 割の 9.0 倍に置いた。
確率:能登の復旧が終わり、国土強靱化の予算も平年並みに戻って、入札の競争が強まる局面。この業界では珍しくない姿なので2割強を置く。
悲観 10% 公共予算が補修を先送りし、買収の失敗と価格競争が重なる 利益 19 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 370 円155 億円
点検は続くが、補修と更新の予算は他の政策に押されて先送りされる。法面は災害復旧の特需の反動で2割あまり減り、人手が足りず取れる仕事も限られる。入札は競争が厳しく、価格は物価に追いつかない。住宅の地盤補強は新築着工の減少で伸びず、買収した会社の収益は想定を大きく下回る。営業利益率は3%台まで落ち、純利益は20億円に届かない。累進配当は維持できず、減配を迫られる。現金も買収の失敗と仕事の減少で目減りする。親会社の事情で、完全子会社化の話が出ても、価格が事業価値を大きく上回る見込みは薄い。この筋書きでは、もう優良な専門工事会社とは見なされない。
- 法面工事:数量 41.3(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 8.40(1人日あたり売上(万円・名目。材料・機械・外注を含む請負単価))→ 売上 347 億円・営業利益 16 億円。施工量0.78倍、価格1.2倍、営業利益率4.5%
- 基礎・地盤改良工事:数量 25.4(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 11(1人日あたり売上(万円・名目。機械の割合が高く単価は高い))→ 売上 274 億円・営業利益 8 億円。施工量0.85倍、価格1.2倍、営業利益率3.0%
- 補修・リニューアル工事:数量 16.5(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 7.80(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 129 億円・営業利益 3 億円。施工量0.85倍、価格1.2倍、営業利益率2.0%
- その他工事:数量 8.8(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 8.40(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 74 億円・営業利益 1 億円。施工量0.85倍、価格1.2倍、営業利益率1.0%
倍率:純利益は 19.4 億円まで落ち、稼ぐ力は k 7.25% で割って約 250 億円。純現金のうち悲観で残るとみる分と売れる資産の税後は約 134 億円で、稼ぐ力のほうが大きい。倍率は、やや悲観(PER 9.0 倍)より低くしたうえで、その約 8 割の 7.9 倍 × 純利益 19.4 億円 = 約 155 億円を、今の自己資本 377 億円に対する PBR 0.41 倍で表した。
確率:補修予算の先送り、人手不足による受注の取りこぼし、買収の失敗、価格競争の復活が重なる構造的な負けとして、1割を置く。過去に営業利益率2%台まで落ちた期があり、無視できない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
法面工事
斜面やのり面を、アンカーや吹付けで固める法面工事。災害復旧と老朽化した斜面の補強が需要で、会社は首位級。
| 数量施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定) | 価格1人日あたり売上(万円・名目。材料・機械・外注を含む請負単価) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 52.9 | 7.00 | 370 | 32 |
| 10 年後 中立 | 50.3 | 9.38 | 472 | 38 |
取り方:決算講演の工種別売上370億円(前期比20.4%増)。営業利益は工種別の開示がなく、全社58億円を法面8.5%・基礎6.5%・補修6%・その他3%で配分する推定。労務量は開示がなく、1人日あたり売上を7万円とみて約53万人日と置いた。
基礎・地盤改良工事
軟弱な地盤を固める地盤改良と、ダムや橋の基礎を支える工事。民間の建築や工場の仕事も含む。
| 数量施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定) | 価格1人日あたり売上(万円・名目。機械の割合が高く単価は高い) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 29.9 | 9.00 | 269 | 18 |
| 10 年後 中立 | 32.9 | 12 | 397 | 24 |
取り方:基礎・地盤改良の売上269億円(7.7%増)。機械を使う割合が高いので、1人日あたり売上を9万円とみて約30万人日と置いた。営業利益は推定。
補修・リニューアル工事
橋やトンネルなど老朽化したインフラの補修・リニューアル。麻生フオームクリートの売上を含む。
| 数量施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定) | 価格1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 19.4 | 6.50 | 126 | 8 |
| 10 年後 中立 | 22.3 | 8.71 | 194 | 11 |
取り方:補修の売上126億円(麻生フオームクリートの連結で81%増)。1人日あたり売上を6.5万円とみて約19万人日。営業利益は推定。
その他工事
建築などその他の工事と、ごく小さな非建設の事業。
| 数量施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定) | 価格1人日あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 10.3 | 7.00 | 72 | 2 |
| 10 年後 中立 | 10.3 | 9.38 | 97 | 3 |
取り方:全社の売上837億円から3工種の合計765億円を引いた約72億円。建築などその他の工事。1人日あたり売上を7万円とみて約10万人日。営業利益は推定。
リスクと懸念
能登の復旧特需が引く
前期の法面の売上は20%増え、営業利益は期初予想を8億円上回った。主因は能登半島地震の復旧工事で、会社自身が今期は減収減益とみる。繰越受注高も前期より4.5%減った。復旧のあと、利益率がどこで落ち着くかが最大の不確かさだ。
親会社に利益が戻りにくい
エーエヌホールディングスが約58%を持ち、麻生グループの一員として動く。自社株買いは実質なく、純現金172億円が株主に戻る道は細い。グループ内の取引や買収で、価格が少数株主に不利に決まる懸念が残る。
人手不足が施工量の天井になる
2024年の残業規制以降、技能者の確保が業界全体の課題だ。連結従業員は1,206人で、辞める人が増えれば受注を絞らざるを得ない。需要が増えても売上は物価の分しか伸びない。
公共予算の先送りと入札の競争
国土強靱化の予算は2026年度からの5年で約20兆円強とされるが、他の政策に押されれば補修は先送りになる。入札で決まる工事は、予算の上限が値段の上限でもある。
買収が期待どおりに伸びない
地研テクノは住宅の地盤補強で、新築着工に左右される。麻生フオームクリートの統合の効果も、まだ実績で確かめきれない。のれんの償却と人の確保が重くなれば、中期計画の利益率の目標に届かない。
民間の地盤改良は景気に弱い
基礎・地盤改良は建築や工場の仕事を含み、建築コストの上昇や設備投資の先送りで受注が振れる。前期は受注が4.4%減った。景気が悪くなれば、公共の安定がその穴を埋めきれないことがある。
今後の分かれ目
- 2027年3月期の営業利益が、会社予想の55億円を大きく上回る
- 能登の山が想定より長く続いているか、利益率が構造的に上がっている。後者なら、中立の営業利益率6.5%を見直す。
- 繰越受注高が2期続けて減り、法面の受注が前年を割る
- 復旧の山が引いたあとの需要が弱いことを示す。やや悲観以下の筋書きに確率を寄せる。
- 親会社が日特建設の完全子会社化(TOB)を発表する
- 買収価格は事業価値より高くも低くも出る。10年の筋書きに加えず、価格を本質価値と比べて判断する。少数株主に不利な価格なら、親会社に戻らない現金の見方を重くする。
- 自社株買いが始まり、総還元性向が配当性向を超える
- 親会社が少数株主への還元に動いたサイン。純現金の戻り方を0.5から引き上げる余地が出る。
- 地研テクノの売上と利益が開示され、買収額が営業利益の10倍以内に収まる
- 買収が価値を壊さない証拠になる。基礎・地盤改良の数量の伸びを中立より高めに置く。
- 技能者の確保が進み、施工量が計画を上回って増える
- 数量の頭打ちの前提が外れる。中立の施工量を1割引き上げて、利益を見直す。
見ておくもの
- 法面・基礎地盤改良・補修の工種別の受注高と繰越受注高
- 営業利益率(会社予想の6.8%を保てるか)
- 地研テクノ・麻生フオームクリートの統合の成果と、次の買収
- 配当と自社株買いの動き、純現金の水準
- 国土強靱化の予算の執行と、補修予算の先送りの有無
倍率と資本コストの決め方
セグメントは労務量(実質、推定)と1人日あたり売上(名目)で積み、物価3%を価格に入れて10年1.34倍とした。数量は人手の制約から0.95〜1.15倍で、買収の寄与を含む。k は基本 7.5% に循環 +0.25% を足した 7.75%。倍率は式から出し、中立の PER は ROE が k を上回るので下限の 1÷k のすぐ上に落ちた。今の株価や過去の PER・PBR は見ていない。悲観の PBR は今の自己資本に掛け、稼ぐ力(純利益÷k)と純現金の目減りで確かめた。営業利益は家賃を費用に入れた今と同じ形(新リース会計基準の適用前)でそろえた。賃借料は年4億円強で小さい。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14→16.79 倍・やや楽観 PER 13.5→16.36 倍・中立 PER 13→15.9 倍)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。