結論
マサルは、ビルやマンションの外壁の目地をふさぐシーリングと防水の工事を請け負う会社だ。鹿島建設と大成建設の 2 社で売上の 3 割近くを占め、大手ゼネコンの下で働く専門工事の会社といえる。筆者の結論は、今の値段はやや割高だというものだ。
事業は地味だが堅い。建物は新築でも改修でも、雨水の入り口になる目地の防水が欠かせない。職人の数が減るなかで、腕のある施工の会社は値上げを通しやすくなっている。2025/09 期は受注が 4 割以上伸び、営業利益率は過去最高圏の 6% に届いた。
一方で、利益は建設の景気とゼネコンの都合に左右される。2026/09 期は売上が 1 割ほど減る見込みで、良い年が続く保証は無い。ROE は資本コストに少し届かない水準で、手元に純現金が時価総額の 4 割強ある。この現金が下値を支えるが、株主に戻る速さは配当の範囲にとどまる。今の値段は帳簿の自己資本とほぼ同じで、資本コストに届かない稼ぎに対しては高い。
10 年で見れば、職人の不足を値上げに変えられるかどうかが最大の分かれ目になる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、マサルは「わかりやすいが、伸びにくい事業」だ。建物がある限り防水の工事は要り、事業が消える心配は小さい。この点は長く持つ株主にとって安心材料になる。
問題は稼ぐ力の水準だ。ROE は資本コストに届かない年が多く、利益をためても株主の価値が同じだけ増えるわけではない。値段を決めるのはゼネコンで、会社の努力は施工の効率と人の確保に出る。
オーナー利益は純利益に近い。設備投資はほとんど要らず、利益の多くが現金で残る。その現金が積み上がり、今では時価総額の 4 割を超える。安全域で見ると、今の値段は帳簿の自己資本とほぼ同じで、資本コストに届かない稼ぎには少し高い。下値は現金が支えるが、上に外れる材料は乏しい。
筆者は、職人の確保と値上げの定着という二つの証拠が出るまで、高い値段は払わない。それまでは、現金と配当に支えられた手堅い株という位置づけになる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は職人の手だ。建物の外壁やサッシの継ぎ目には、雨や風を止めるためのゴム状の材料を詰める。これがシーリングで、10〜15 年で傷むため、新築のときだけでなく改修でも必ず出番がある。マサルはこの工事と防水工事を中心に、マンションやビルの大規模な改修、施主から直接受ける工事も手がける。
売上の 86% は建設工事業で、2025/09 期は 91.65 億円、利益は 5.69 億円だった。主な客は鹿島建設と大成建設で、大手ゼネコンの新築の現場に入る仕事が多い。子会社のイノベイトも建設工事を担う。
残りの 14% は設備工事業だ。マサルファシリティーズと、2024 年に買った空気設備工業が、空調・給排水の工事や、塗装や乾燥の工場で使う排気・集塵の装置の設置と保守を行う。2025/09 期は大型の案件を取り、受注が大きく伸びた。
受注残は 86.8 億円あり、ほぼ 1 年分の仕事を抱えている。工事は数か月から 1 年で終わるので、景気の変化は 1〜2 年遅れて業績に出る。
設備投資はほとんど要らない。稼ぎを決めるのは、職人の数と、1 人がこなせる工事の量だ。
優良さと弱いところ
強みは施工の品質と大手ゼネコンとの長い付き合いだ。シーリングは失敗すると雨漏りになり、直すには足場を組み直す大きな費用がかかる。ゼネコンは安さより確かな業者を選ぶので、実績のある会社は仕事を失いにくい。
ただし値決め力は限られる。値段はゼネコンとの交渉で決まり、景気が悪くなると下請けの単価が真っ先に削られる。過去 12 年の営業利益率は 3〜6% の間で、良い年でも 6% を大きく超えない。ROE の中央値は 7% で、資本コストに届かない。
財務は堅い。自己資本比率は 6 割で、純現金を持つ。2024 年の空気設備工業の買収のように、本業の隣の領域を小さく買っており、大きな買収で無理をしていない。職人の高齢化が進むなかで、人を確保できるかが 10 年の強さを決める。施工の人員を自前で抱える会社は、その分だけ他社より有利に立てる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
シーリングと防水の工事は、新築と改修の二つの需要で成り立つ。新築では都心の再開発やオフィス、物流施設、データセンターの建設が続く一方、住宅の着工は人口とともに細る。改修では、高度成長期からバブル期に建った大量の建物が、外壁の補修の時期を迎えている。
筆者は、10 年の工事の量は新築の減りと改修の増えがおおむね打ち消し合うと見る。マンションの大規模修繕は 12〜15 年ごとに来るので、ストックが増えるほど改修の量は安定する。新築は景気と金利で振れ、建設費の高騰で計画が先送りされる例も増えている。
値段の面では追い風がある。建設の職人は高齢化で年々減り、2024 年から時間外労働の上限も厳しくなった。人手が足りないので、腕のある施工の会社は物価を上回る値上げを通しやすい。ただし、ゼネコンも建設費の高騰で施主との値段の交渉に苦しんでおり、下請けへのしわ寄せは景気が悪くなると強まる。
競合はシーリングの専門工事の会社が全国に数多くあり、大手でもシェアは小さい。業界の再編は進みつつあるが、地域の中小が多い構図は 10 年では大きく変わらない。
筆者がいちばん気にしているのは、人手の不足が値上げの材料になるのか、施工の力の上限になるのかという点だ。
資本政策と M&A
還元は配当が中心だ。年 1 回の期末配当で、2025/09 期の配当性向は 35% ほどだった。業績に合わせて配当を上下させる方針で、2026/09 期は減益の見込みから配当を下げる予定だ。自社株買いの実績は乏しい。
手元には時価総額の 4 割強にあたる純現金がある。工事の立て替えに要る運転資金を引いても、事業に要らない現金は 10 億円ほどあると筆者は見る。資本の使い道は、2024 年の空気設備工業のような小さな買収に向いている。
小さな会社なので、同業や大手の設備会社からの買収の候補にもなりうる。職人の確保が業界の課題になるなかで、施工の人員を持つ会社の価値は上がる方向にある。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
職人の不足は、腕のある施工の会社にとって値上げの好機だ。シーリングの職人は高齢化で毎年減り、若い人は入ってこない。ゼネコンは確かな業者を手放せず、単価は物価以上に上がっていく。2025/09 期に営業利益率が 6% に届いたのは、その流れの始まりだ。
改修の需要も厚くなる。バブル期までに建った大量のビルとマンションが、外壁の補修の時期を迎えている。大規模修繕は景気に関係なく周期で来るので、新築が減っても仕事は減りにくい。受注残はほぼ 1 年分あり、目先の仕事は見えている。
財務の余裕も大きい。純現金は時価総額の 4 割を超え、借金の心配は無い。2024 年に空気設備工業を買ったように、この現金で隣の領域を少しずつ広げられる。設備工事の大型案件が増えれば、売上の柱は二つになる。今の値段は、この現金と堅い稼ぎをほとんど評価していない。
業界の再編が進めば、職人を抱える会社の値打ちはさらに上がる。
慎重な見方
下請けの専門工事の会社は、景気の谷で真っ先に単価を削られる。2026/09 期は売上が 1 割ほど減り、利益の見込みも下がった。良い年の利益率が続く保証は無く、過去 12 年で 6% を大きく超えた年は無い。
顧客の集中も気になる。鹿島建設と大成建設で売上の 3 割近くを占め、両社の受注の波がそのまま業績に出る。ゼネコン自身も建設費の高騰で利益が細っており、下請けへの値下げの圧力は強まりうる。
職人の不足は値上げの材料である一方、自社の施工の力の上限にもなる。人を確保できなければ、受注があっても工事をこなせない。賃金の上昇が単価の上昇を上回れば、利益率は削られる。ROE は資本コストに届かず、ためた現金は配当以外ではなかなか株主に戻らない。今の値段に安全域があるとは言えない。
しかも 2026/09 期の配当の引き下げは、業績が景気に振られる性格をはっきり示した。手元の現金も、配当のほかに株主へ戻す道筋が示されていない。
どちらに重みを置いたか
強気と慎重の言い分はほぼ互角だ。職人の不足と改修の需要という強気の根拠は本物だが、値段を決めるのはゼネコンで、利益率の上振れが定着した証拠はまだ無い。確率は中立を厚くし、両側をほぼ同じ重みに置いた。現金が下値を支えるので、悲観の深さは限られる。会社の側から見た強みは施工の確かさだけで、それが値段に変わるかは、もう数年の実績を見ないとわからない。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/09 期)
確率で加重した株価時価総額 8,246 円72 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,759 円15 億円)。 今の値に割り戻すと 5,016 円44 億円、今との差 −8.8%、 期待の年率 +6.2%(資本コスト 8.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 14,131 円124 億円 | 2,677 円24 億円 | +205.6% | +11.8% | 1,681 円15 億円 |
| やや楽観 | 22% | 10,915 円96 億円 | 2,199 円19 億円 | +138.4% | +9.1% | 2,885 円25 億円 |
| 中立 | 36% | 9,116 円80 億円 | 1,823 円16 億円 | +98.9% | +7.1% | 3,938 円35 億円 |
| やや悲観 | 20% | 4,449 円39 億円 | 1,344 円12 億円 | +5.3% | +0.5% | 1,159 円10 億円 |
| 悲観 | 12% | 2,165 円19 億円 | 684 円6 億円 | −48.2% | −6.4% | 342 円3 億円 |
| 加重平均 | 100% | 8,246 円72 億円 | 1,759 円15 億円 | +81.9% | +6.2% | 10,004 円88 億円 |
今の株価時価総額 5,500 円48 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 職人の不足を値上げに変える 利益 8 億円 · PER 14.6 倍 · 株価時価総額 14,131 円124 億円
職人の不足が深まり、腕のある施工の会社に仕事が集まる。マサルは大手ゼネコンとの関係を生かして単価を物価以上に引き上げ、1 件あたりの売上は今の 1.42 倍になる。マンションとビルの大規模修繕の波が続き、件数も 1 割増える。設備工事では空気設備工業の排気・集塵の技術を生かし、工場の設備の更新の案件を取り込む。営業利益率は建設で 7% と過去の最高を超える。手元の現金は小さな買収に使い、職人を抱える同業を仲間に加える。配当は利益に合わせて増え、配当性向は 4 割に上がる。大口の顧客との関係も深まり、新しい現場の多くで最初に声がかかる。
- 建設工事業(シーリング・防水・改修):数量 2,100(工事の件数(件・年、推定))× 価格 650(1 件あたりの平均売上(万円・名目))→ 売上 137 億円・営業利益 10 億円。2100 件 × 1 件 650 万円(今の 1.42 倍)、営業利益率 7.0%
- 設備工事業(空調・給排水・産業用排気):数量 400(工事の件数(件・年、推定))× 価格 693(1 件あたりの平均売上(万円・名目))→ 売上 28 億円・営業利益 2 億円。400 件 × 1 件 693 万円(今の 1.40 倍)、営業利益率 6.0%
倍率:事業の純利益 8 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.2% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)8 億円。全体の PER 14.56 倍、時価総額 118 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:単価の上昇と改修の需要の増加が同時に続き、設備工事も伸びる形。利益率 7% は過去の最高を上回るので、確率は低めに置いた。
やや楽観 22% 改修の需要で堅く伸びる 利益 6 億円 · PER 13.6 倍 · 株価時価総額 10,915 円96 億円
新築は人口とともに細るが、改修の需要がそれを補い、件数はほぼ横ばいを保つ。職人の不足で単価は物価を少し上回って上がり、1 件あたりの売上は今の 1.38 倍になる。建設工事の営業利益率は 6.2% と、2025/09 期並みが続く。設備工事は大型の案件を少しずつ積み上げ、件数は 2 割増える。鹿島建設・大成建設との関係は保たれ、受注の波は 1〜2 年でならされる。現金は増え続け、配当は利益の 4 割近くに上がる。ROE は資本コストをわずかに上回る。景気の谷でも改修の仕事が下支えになり、利益率の落ち込みは浅くて済む。
- 建設工事業(シーリング・防水・改修):数量 2,000(工事の件数(件・年、推定))× 価格 632(1 件あたりの平均売上(万円・名目))→ 売上 126 億円・営業利益 8 億円。2000 件 × 1 件 632 万円(今の 1.38 倍)、営業利益率 6.2%
- 設備工事業(空調・給排水・産業用排気):数量 360(工事の件数(件・年、推定))× 価格 678(1 件あたりの平均売上(万円・名目))→ 売上 24 億円・営業利益 1 億円。360 件 × 1 件 678 万円(今の 1.37 倍)、営業利益率 5.0%
倍率:事業の純利益 6 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.5% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)8 億円。全体の PER 13.56 倍、時価総額 88 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:2025/09 期の受注の伸びと職人の不足による値上げが、無理のない範囲で続く形。過去の良い年の利益率に近い。
中立 36% 新築の減りを改修が埋める 利益 5 億円 · PER 12.8 倍 · 株価時価総額 9,116 円80 億円
10 年後の工事の件数は今より 5% ほど少ない。新築の住宅とオフィスの着工が細る一方、大規模修繕の需要が増え、その差は小さい。職人の不足で単価は物価並みかやや上を保ち、1 件あたりの売上は今の 1.36 倍になる。営業利益率は 5.5% と、過去の良い年と普通の年の間に落ち着く。景気の谷ではゼネコンから単価の引き下げを求められ、良い年の利益は続かない。設備工事は少しずつ伸びるが、柱になるほどではない。配当性向は 35% を保ち、現金は積み上がる。ROE は資本コストに少し届かない。会社は堅く稼ぎ続けるが、株主の価値を大きく増やす力は持たない。
- 建設工事業(シーリング・防水・改修):数量 1,900(工事の件数(件・年、推定))× 価格 623(1 件あたりの平均売上(万円・名目))→ 売上 118 億円・営業利益 7 億円。1900 件 × 1 件 623 万円(今の 1.36 倍)、営業利益率 5.5%
- 設備工事業(空調・給排水・産業用排気):数量 330(工事の件数(件・年、推定))× 価格 663(1 件あたりの平均売上(万円・名目))→ 売上 22 億円・営業利益 1 億円。330 件 × 1 件 663 万円(今の 1.34 倍)、営業利益率 4.5%
倍率:事業の純利益 5 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.4% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)8 億円。全体の PER 12.79 倍、時価総額 71 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:新築の減りと改修の増えが打ち消し合い、利益率は過去の良い年と普通の年の間に落ち着く形。最もありそうな姿として厚く置いた。
やや悲観 20% ゼネコンの不振が下請けに及ぶ 利益 3 億円 · PER 9.7 倍 · 株価時価総額 4,449 円39 億円
建設費と金利の上昇で、オフィスやマンションの新築の計画が次々と先送りされる。ゼネコンは仕事を奪い合い、下請けの単価を厳しく削る。マサルの件数は 15% 減り、1 件あたりの売上は物価に負けて今の 1.28 倍にとどまる。職人の賃金は上がり続け、営業利益率は 3.5% に落ちる。改修の需要は残るが、管理組合が工事を先送りする例も増える。配当は利益に合わせて減り、現金の一部は赤字の子会社の立て直しに使われる。会社は人員を絞って利益を守ろうとするが、職人を減らせば次の山で仕事を取れない。資本コストに届かない年が続く。
- 建設工事業(シーリング・防水・改修):数量 1,700(工事の件数(件・年、推定))× 価格 586(1 件あたりの平均売上(万円・名目))→ 売上 100 億円・営業利益 4 億円。1700 件 × 1 件 586 万円(今の 1.28 倍)、営業利益率 3.5%
- 設備工事業(空調・給排水・産業用排気):数量 280(工事の件数(件・年、推定))× 価格 618(1 件あたりの平均売上(万円・名目))→ 売上 17 億円・営業利益 1 億円。280 件 × 1 件 618 万円(今の 1.25 倍)、営業利益率 3.0%
倍率:事業の ROE 3.9% が k 8% を大きく下回るので PER は 1÷k の 12.1 倍まで。稼ぐ力(純利益÷k)を上限に、その 8 割の 9.7 倍。余った現金は谷で一部を食うので 0.75 倍で足した。
確率:建設費の高騰と金利の上昇で新築の計画が先送りされ、下請けの単価が削られる形。2026/09 期の減収の見込みは、この入口に見える。
悲観 12% 職人を失い、仕事をこなせなくなる 利益 1 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 2,165 円19 億円
職人の高齢化が一気に進み、マサルは施工の人員を確保できなくなる。大口の鹿島建設や大成建設の現場を他社に取られ、件数は 3 割減る。単価も物価に大きく負け、営業利益率は 1% まで落ちる。設備工事も大型の案件を取れず、利益を生まない。会社は人員を絞って生き残るが、もう優良な専門工事の会社とは呼べない。株主に残るのは、手元の純現金と工事の売掛金を回収した後の正味の資産で、配当も最初の数年で細る。手元の現金は谷を越えるためにも使われ、株主に戻る分は少しずつ細っていく。職人を抱える同業に買われる道もあるが、そのときの値段は正味の資産をわずかに上回る程度だ。
- 建設工事業(シーリング・防水・改修):数量 1,400(工事の件数(件・年、推定))× 価格 540(1 件あたりの平均売上(万円・名目))→ 売上 76 億円・営業利益 1 億円。1400 件 × 1 件 540 万円(今の 1.18 倍)、営業利益率 1.0%
- 設備工事業(空調・給排水・産業用排気):数量 220(工事の件数(件・年、推定))× 価格 569(1 件あたりの平均売上(万円・名目))→ 売上 13 億円・営業利益 0 億円。220 件 × 1 件 569 万円(今の 1.15 倍)、営業利益率 0.0%
倍率:利益がほぼ消えるので PBR で。事業の稼ぐ力は残らず、純現金と売掛金の回収の残り(約 19 億円)を床とし、今の自己資本に 0.36 倍を掛けた。
確率:人手の不足が値上げでなく施工の力の喪失として効き、大口の顧客を失う筋書き。顧客が 2 社に偏るので、無視できない重みを置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
建設工事業(シーリング・防水・改修)
ゼネコンから請け負う新築の建物のシーリング(目地のすき間を埋める防水)と防水工事、マンションやビルの改修工事、施主から直接受ける工事。
| 数量工事の件数(件・年、推定) | 価格1 件あたりの平均売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 2,000 | 458 | 92 | 6 |
| 10 年後 中立 | 1,900 | 623 | 118 | 7 |
取り方:件数の開示は無いので推定。2025/09 期の建設工事業の売上 91.65 億円を、大型のビルから小さな改修までならした 1 件あたり平均 458 万円とみて年 2,000 件と置いた。件数は実質、物価と職人の不足による値上がりは 1 件あたりの売上に入れる。
設備工事業(空調・給排水・産業用排気)
空調・冷暖房・給排水などの設備工事と、塗装・乾燥・集塵の排気装置の組立・設置・保守。2024 年に買った空気設備工業を含む。
| 数量工事の件数(件・年、推定) | 価格1 件あたりの平均売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 300 | 495 | 15 | 1 |
| 10 年後 中立 | 330 | 663 | 22 | 1 |
取り方:件数の開示は無いので推定。設備工事業の売上 14.84 億円を 1 件あたり平均約 495 万円とみて年 300 件と置いた。件数は実質、物価は 1 件あたりの売上に入れる。
リスクと懸念
顧客の集中
鹿島建設と大成建設の 2 社で売上の 3 割近くを占める。両社の受注の波や、協力会社の選び方の変更が、そのまま業績に出る。どちらかの現場から外れれば、件数は一度に大きく減る。
職人の確保
シーリングの職人は高齢化で年々減っている。人を確保できなければ、受注があっても工事をこなせない。賃金の上昇が単価の上昇を上回れば、利益率は削られる。
新築の先送り
建設費と金利の上昇で、オフィスやマンションの新築の計画が先送りされる例が増えている。新築の現場に入る仕事が多いので、着工の減りは 1〜2 年遅れて売上に出る。
下請けの単価の圧力
景気が悪くなると、ゼネコンは下請けの単価を真っ先に削る。過去の利益率が 6% を大きく超えなかったのは、この構図のためだ。良い年の利益が続く保証は無い。
工事の品質の事故
シーリングの不具合は雨漏りにつながり、直すには足場を組み直す大きな費用がかかる。大きな事故が起きれば、補修の費用だけでなく、ゼネコンからの信頼も失う。
今後の分かれ目
- 営業利益率 6% 超が 3 年続いたら
- 職人の不足による値上げが定着した証拠とみて、中立の利益率を上げ、やや楽観の重みを増やす。
- 鹿島建設・大成建設向けの売上が大きく減ったら
- 顧客を失う筋書きが近いとみて、やや悲観と悲観に重みを移す。
- 受注残が 1 年分を大きく割り込んだら
- 新築の先送りが効いているとみて、中立の件数を下げる。
- 手元の現金を使った買収や自社株買いが出たら
- 買収なら値段と利益の厚さを見て価値を見直し、自社株買いなら余った現金の戻り方を上げる。
- 設備工事業の売上が全体の 2 割を超えたら
- 売上の柱が二つになり、建設の景気への依存が和らぐとみて、中立の件数を見直す。
見ておくもの
- 受注高と受注残の推移
- 建設工事業の営業利益率
- 主要顧客(鹿島建設・大成建設)向けの売上の比率
- 非住宅の建築着工の床面積
- 配当と手元の現金の使い道
倍率と資本コストの決め方
倍率は市場の値付けから置かず、事業の ROE と資本コスト 8% から決めた。中立は ROE が k をわずかに下回るので PER の上限は 1÷k、その 9 割にした。余った現金 10 億円は戻り方 0.75 を掛けて別に足した。悲観は稼ぐ力が消えるとして、純現金と売掛金の回収の残りを床にした。今の PBR 1 倍前後は根拠にしていない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.07→14.56 倍・やや楽観 PER 10.3→13.56 倍・中立 PER 10.91→12.79 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。