結論
安藤・間は、トンネルやダムなどの土木と、工場・物流施設・データセンターなどの建築を手がける準大手ゼネコンだ。筆者の結論は「やや割高」。事業の質は同業の中でも良いが、値段がそれを先取りしている。
強みは採算の高さだ。土木の粗利率は16%台、建築も13%台と、準大手の中では上位にある。繰越工事も積み上がった。人手が足りず、受け手が仕事を選べる局面が続いている。
弱みは、その利益が好況の産物であることだ。直近の営業利益率は7%台と、過去の谷の1%を思えば高い。国内の工事量は人口減で実質では増えない。直近の純利益には、持ち合い株の売却益も含まれる。
中立の筋書きでは、営業利益は10年後に370億円ほどで、今の水準とほぼ変わらない。ROEは9%ほどで、資本コストを少し上回る。価値は今の時価総額をやや下回る。
純現金は厚いが、多くは工事の前受け金に支えられた運転資金だ。余った現金とは見ていない。
今の値段が映すのは、好況が続き、持ち合い株の整理もうまく進む姿だ。そこまで織り込むには、安全域が足りない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「悪くないが、安くもない」。事業は分かりやすく、技術で選ばれる土木と原子力の分野は、他社の参入が難しい。ここは評価できる。
ただ、ゼネコンは毎年、新しい工事を取り直す事業だ。利益は景気と資材と人手で振れ、過去には営業利益率が1%を割った年もある。今の7%台は、その谷から見れば高い水準だ。
株主が自由に使える利益は、純利益の7割ほどと見る。工場も店も要らず、再投資は少なくて済む。この点は良い事業だ。一方で、持ち合い株の売却益を除いた稼ぎで測ると、直近の純利益は見かけより低い。
安全域は薄い。中立の価値は今の時価総額をやや下回り、悲観では大きく割れる。わかりやすい良い会社でも、払う値段が価値を超えるなら、筆者は手を出さない。この会社の値段は、質の良さを織り込んだうえに、好況の長続きまで織り込んでいると筆者は感じる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は土木と建築だ。土木は、トンネル、ダム、道路、橋、水力や原子力の関連施設などを、官公庁や電力会社から請け負う。技術力が問われる難しい工事が多く、粗利率が高い。
建築は、工場、物流施設、データセンター、研究施設などの産業施設が中心だ。直近は大型の受注が相次ぎ、建築の繰越工事が4割超も増えた。これが今後数年の売上を支える。
もう一つの顔が、エネルギーと環境の事業だ。原子力関連、送配電、系統用蓄電池、水力などで、中期経営計画は2028年度に500億円規模の完成工事高を置く。核融合を目ざす新興企業とも組み、建設の側から参画している。
海外はタイ、ベトナムなどで、日系企業の工場やODA(政府の途上国援助)の工事を請け負う。規模は小さく、会社も保守的に見込む。不動産の開発や、社会インフラの診断などの建設以外の事業も育てている。
ただ、稼ぎの大半は今も国内の土木と建築だ。ほかの事業は、まだ全体の利益を動かすほど大きくない。会社の計画でも、2028年度の売上5,500億円のうち、土木と建築が大半を占める。
優良さと弱いところ
優良さを一言で言えば「技術で採算を取れる準大手」だ。ただ堀、つまり他社がまねできない強みは、決定的に深くはない。
強みは三つある。一つ目は、土木の技術力だ。山岳トンネルの自動吹付けなど、機械化の実績がある。二つ目は、原子力・水力・放射線遮蔽といった、参入の難しい分野の経験だ。三つ目は、2013年に旧間組と旧安藤建設が合併してできた、土木と建築の両方に厚みのある体制だ。
弱みも三つある。一つ目は、価格を決める力が限られることだ。官公庁も電力会社も、入札や相見積りで競わせる。二つ目は、施工量を決めるのが人手であることだ。三つ目は、東海第二発電所の防潮堤で品質不良が見つかり、追加費用が出たことだ。技術で選ばれる会社が、技術で傷を負った。
資本の使い方は、改善の途上にある。前の計画は、還元の割合も持ち合い株の縮減も目標に届かなかった。新しい計画は、配当の下限を決める累進配当へ進んだ。口約束ではなく数字で縛った点は評価できる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内建設は、量の増えない成熟市場だ。それでも今は「作れば儲かる」局面にある。2024年4月に残業の上限規制が始まり、技能者が足りなくなった。受け手が仕事を選べるようになり、値上げが通る。上場ゼネコンの2025年度の受注は16兆円台で、繰越も過去最高だ。
準大手は、スーパーゼネコンより価格を決める力が弱い。安藤・間の競合は戸田建設、熊谷組、西松建設、奥村組、東急建設だ。市場は地場の業者も多く、分散している。ただ土木のトンネルと、原子力・水力の分野では、担い手が限られる。ここに同社の居場所がある。
追い風は国土強靱化だ。2026年度から5年で20兆円強の計画があり、上下水道・道路・橋の更新が続く。データセンターや工場の民間投資も、当面は強い。
10年先は、そうした投資が一巡する。その後の国内は、実質で横ばいか緩やかな縮小に向かうと筆者は見る。人手不足の業界では、売上を伸ばす力より、採算を守る力が差になる。再編も進みやすく、準大手どうしの統合や、地場ゼネコンの事業承継が焦点になる。安藤・間も、その当事者になりうる。
資本政策と M&A
資本政策は、新しい中期経営計画で大きく動いた。2026年度からの3年で、還元は400億円以上を見込む。配当は累進配当にして、下限を決めた。自社株買いは機動的に行う。
持ち合い株は、連結純資産に対する比率を10%未満へ下げる。前の計画では、同じ目標が未達だった。今度は実行できるかが問われる。売却益は直近の純利益を押し上げたが、毎年は続かない。筆者は、事業の稼ぎと分けて見る。
投資は、技術開発とエネルギー事業が中心で、3年で500億円以上を置く。M&Aは別枠で、インドへの進出も検討している。大きな買収で価値を壊すタイプではない。
株主は分散している。筆頭は信託銀行で、17%台にとどまり、支配株主はいない。2020年には、物言う株主のオアシスが自社株取得などを求めて株主提案を出した。同社は一時8%まで買い増し、今は5%を割っている。資本効率への外圧は、完全には消えていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
建設の構造が変わった。技能者が足りず、受け手が仕事を選べる時代だ。安藤・間は、土木の粗利率が16%台、建築が13%台と、同業の中でも採算が高い。しかも建築の繰越は4割超増え、数年先まで売上が見える。
中期経営計画は、2028年度に営業利益370億円を掲げる。前の計画は営業利益の目標を大きく上回って終わった。今回も、計画に余裕があると見てよい。
成長の芽も確かだ。原子力、水力、送配電、系統用蓄電池と、電力の分野で施工の需要が続く。核融合でも、早い段階から関わっている。海外は小さいが、ODAを軸に手堅く積める。
資本の面も変わる。累進配当を約束し、還元は3年で400億円以上になる。持ち合い株を減らせば、その資金を配当や投資に回せる。ROE12%以上が実現すれば、資本コストを十分に上回る。
過去の10年を通して見ても、ROEの中央値は12%を超えている。この会社は、本来それだけ稼げる体質だ。今の計画は、その体質を取り戻す途中にすぎない。
慎重な見方
今の利益は、景気と需給が揃った山の姿だ。営業利益率は7%台だが、過去には1%を割った谷がある。資材高を転嫁できるのは需給が締まっているからで、民間投資が一巡すれば崩れうる。
国内の工事量は、人口減で実質では増えない。施工を決めるのは人手で、人が足りなければ売上は伸びず、人件費は利益を削る。会社自身の来期計画も、増収なのに営業利益はほぼ横ばいだ。
直近の純利益は、売却益に支えられている。持ち合い株は売れる残りが減るので、来期の純利益はむしろ大きく減る計画だ。東海第二の防潮堤では、技術の傷で追加の費用が出た。同様の失敗が原子力の分野でまた起これば、強みが弱みに変わる。
資本の面では、前の計画で還元も持ち合い株の縮減も未達だった。言葉より、実績を見たい。
国内建設の将来にも不安が残る。地方の人口が減れば、公共工事の予算は先細る。強靱化の予算も、2030年代には一巡する。土木の高い採算が、そのまま続くとは限らない。
建築の繰越が増えても、受注の採算が良いとは限らない。大型の受注は、人手を食い合う。工期の遅れや追加費用が出れば、繰越の厚みは重荷に変わる。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方が少し強い。事業の質と資本政策の改善では、強気の見方に分がある。ただ値段を決めるのは、景気の山の利益が10年続くかどうかだ。ここは慎重な指摘が勝つ。
確率は、中立に4割弱を置いた。やや楽観を2割弱、やや悲観を3割弱に置き、悲観は1割強とした。繰越の厚さは数年先の利益を守るが、10年先を守るものではない。技術の強みは、悲観の深さを少し浅くする。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,176 円3,413 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 976 円1,531 億円)。 今の値に割り戻すと 1,768 円2,774 億円、今との差 +0.5%、 期待の年率 +6.0%(資本コスト 7.2%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 4,037 円6,333 億円 | 1,339 円2,100 億円 | +205.5% | +11.8% | 376 円590 億円 |
| やや楽観 | 17% | 3,126 円4,905 億円 | 1,147 円1,800 億円 | +142.9% | +9.3% | 727 円1,140 億円 |
| 中立 | 37% | 2,603 円4,084 億円 | 1,020 円1,600 億円 | +105.9% | +7.5% | 1,340 円2,103 億円 |
| やや悲観 | 27% | 1,119 円1,755 億円 | 892 円1,400 億円 | +14.3% | +1.3% | 543 円852 億円 |
| 悲観 | 12% | 803 円1,260 億円 | 574 円900 億円 | −21.7% | −2.4% | 165 円259 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,176 円3,413 億円 | 976 円1,531 億円 | +79.1% | +6.0% | 3,151 円4,944 億円 |
今の株価時価総額 1,760 円2,760 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 7% 採算の高さが定着し、電力と産業施設で伸びる 利益 365 億円 · PER 17.4 倍 · 株価時価総額 4,037 円6,333 億円
10年間、採算を選ぶ受注を貫く。建築は工場とデータセンターの更新が途切れず、利益率は7%を保つ。土木は強靱化と更新の予算が続き、トンネルの技術力が値段に反映されて9%に届く。
エネルギー事業が育つ。原子力の安全対策工事、送配電、系統用蓄電池が積み上がり、海外もODAを軸に伸びる。営業利益は500億円を超え、ROEは12%近くまで上がる。
持ち合い株の整理は計画どおり終わり、配当は累進配当で増え続ける。国内の量が実質で増えない点は変わらない。それを価格と採算、そして電力の分野で補う、最良の姿だ。
この筋書きでは、同社は準大手の中でも「技術で値段が付く会社」と認められる。再編の話が出ても、買われる側ではなく、束ねる側に回る。
- 建築:数量 374(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.66(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 3,616 億円・営業利益 253 億円。374万人日 × 1人日あたり 9.66万円、利益率 7.0%
- 土木:数量 202(施工量(万人日、実質))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 2,087 億円・営業利益 188 億円。202万人日 × 10.35万円、利益率 9.0%
- その他(海外・エネルギー・不動産・子会社):数量 70.1(工事・サービス量(万人日換算、実質。推定))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 726 億円・営業利益 73 億円。70万人日換算 × 10.35万円、利益率 10.0%
倍率:事業の純利益 365 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.8% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.3 倍。全体の PER 17.35 倍、時価総額 6,333 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:土木と建築の高い採算が10年続き、エネルギー事業も当たる筋書き。景気の波を越えて続く必要があり、確率は低い。
やや楽観 17% 価格転嫁が続き、土木と電力で採算を守る 利益 302 億円 · PER 16.2 倍 · 株価時価総額 3,126 円4,905 億円
建築は利益率6%台前半を保ち、土木は8%を維持する。民間工事は実質で少し減るが、価格転嫁が物価並みに通る。
エネルギーと環境の事業は、原子力や送配電の工事で量を増やす。海外は小さいまま、堅く積み上がる。営業利益は420億円台で、ROEは10%ほどになる。
持ち合い株の売却代金は、配当と自社株買いに回る。累進配当は守られ、還元の総額は計画を上回る。国内の需要が一巡しても、更新工事が下支えになる。
東海第二のような傷も、一度で済む。技術の信用は保たれ、官公庁と電力会社からの受注が続く。ROEは資本コストを安定して上回り、株主にとって納得のいく姿になる。
- 建築:数量 363(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.38(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 3,406 億円・営業利益 218 億円。363万人日 × 9.38万円、利益率 6.4%
- 土木:数量 190(施工量(万人日、実質))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 1,914 億円・営業利益 153 億円。190万人日 × 10.05万円、利益率 8.0%
- その他(海外・エネルギー・不動産・子会社):数量 60.1(工事・サービス量(万人日換算、実質。推定))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 604 億円・営業利益 54 億円。60万人日換算 × 10.05万円、利益率 9.0%
倍率:事業の純利益 302 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.1% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.7%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.2 倍。全体の PER 16.24 倍、時価総額 4,904 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:値上げが物価並みに通り、土木と電力の分野で採算を守れば、ROEは10%ほどになる。国内の量が増えないため、これ以上は置かない。
中立 37% 量は横ばい、価格だけ上がる成熟 利益 265 億円 · PER 15.4 倍 · 株価時価総額 2,603 円4,084 億円
建築の工事量は実質で5%ほど減り、価格だけが物価並みに上がる。営業利益率は6%を割り込み、建築の利益は200億円前後になる。土木は強靱化で量を保ち、利益率は7%を維持する。
エネルギーと環境の事業は、量が1割ほど増える。海外と不動産は小さく、全体への効きは限られる。営業利益は370億円ほどで、今の水準とほぼ同じだ。
還元は利益の約65%で、持ち合い株の整理も進む。自己資本は増え、ROEは9%ほどになる。資本コストを少し上回るが、株主にとって大きな驚きはない。大きな失敗も成功もない、平らな10年だ。
- 建築:数量 356(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.38(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 3,336 億円・営業利益 197 億円。356万人日 × 9.38万円、利益率 5.9%
- 土木:数量 187(施工量(万人日、実質))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 1,876 億円・営業利益 131 億円。187万人日 × 10.05万円、利益率 7.0%
- その他(海外・エネルギー・不動産・子会社):数量 55.1(工事・サービス量(万人日換算、実質。推定))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 554 億円・営業利益 44 億円。55万人日換算 × 10.05万円、利益率 8.0%
倍率:事業の純利益 265 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.0% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.4 倍。全体の PER 15.41 倍、時価総額 4,084 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:量は実質で少し減り、価格は物価並み。会社の計画に近い利益が続く、最も標準的な姿。繰越の厚さは数年先まで効くが、10年先は景気しだいなので中立に4割弱とした。
やや悲観 27% 地方の縮小と人手不足で採算が細る 利益 195 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 1,119 円1,755 億円
国内の工事量が実質で1割ほど減る。価格転嫁は止まり、人件費の上昇だけが重い。建築の利益率は5%を割り、土木も5%台へ戻る。営業利益は270億円ほどになる。
エネルギー事業は伸びず、海外も小さいままだ。東海第二のような品質問題がもう一度起こり、追加費用が利益を削る。
会社は累進配当を守るが、持ち合い株の売却は進んでも、代金が稼ぎを増やす投資に回らない。ROEは7%ほどで、資本コストに届かない。市場は、稼ぐ力に見合った倍率しか認めない。
土木の技術の差は残るが、入札で値段を叩かれる場面が増え、強みが利益に結びつかない。建築は競合と同じ水準の採算に落ち着く。
- 建築:数量 337(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.10(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 3,066 億円・営業利益 147 億円。337万人日 × 9.10万円、利益率 4.8%
- 土木:数量 177(施工量(万人日、実質))× 価格 9.75(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 1,730 億円・営業利益 95 億円。177万人日 × 9.75万円、利益率 5.5%
- その他(海外・エネルギー・不動産・子会社):数量 50.1(工事・サービス量(万人日換算、実質。推定))× 価格 9.75(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 488 億円・営業利益 29 億円。50万人日換算 × 9.75万円、利益率 6.0%
倍率:ROE 7.0%(純利益 195 億円 ÷ 自己資本 2,783 億円)。事業の ROE が資本コスト k 7.25% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER は 1÷k = 12.1 倍が上限。人手不足で利益が削られ、ためた自己資本が稼ぎを生まない局面で、上限の 7 割 4 分の 9.0 倍に置いた。
確率:人手不足は、施工量の天井と人件費の上昇で利益を削る。値上げ疲れで利益率が戻る展開を、中立に近い厚みで置いた。
悲観 12% 構造的に負け、低採算工事に頼る 利益 95 億円 · PBR 0.6 倍 · 株価時価総額 803 円1,260 億円
構造的に負ける。民間の産業施設の投資が一巡し、国内の量が実質で2割減る。人手不足の中でも受注を選べなくなり、低採算の工事を取らざるを得ない。建築の利益率は3%まで落ちる。
原子力や水力の分野でも、追加費用を伴う失敗が重なる。エネルギー事業は育たず、海外は撤退に近い縮小になる。営業利益は130億円ほどで、資産の減損も出る。
持ち合い株の売却代金は、赤字の穴埋めと配当に消える。財務の体力は残るが、稼ぐ力の回復は見えず、再編の対象にもなりやすい。
技術の強みと思われていた分野が、逆に重荷になる。原子力の工事で失った信頼は戻らず、電力会社の発注が減る。同社は、規模のある同業に吸収される側に回る可能性が高い。
- 建築:数量 299(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 8.40(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 2,515 億円・営業利益 75 億円。299万人日 × 8.40万円、利益率 3.0%
- 土木:数量 149(施工量(万人日、実質))× 価格 9.00(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 1,345 億円・営業利益 47 億円。149万人日 × 9.00万円、利益率 3.5%
- その他(海外・エネルギー・不動産・子会社):数量 35.1(工事・サービス量(万人日換算、実質。推定))× 価格 9.00(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 316 億円・営業利益 6 億円。35万人日換算 × 9.00万円、利益率 2.0%
倍率:構造的に優良でなくなり、減損も出た姿。純利益 95 億円の稼ぐ力は 1,150 億円ほどで、床は売れる資産で測る。総資産約 4,100 億円を強制売却で 8 割しか回収できず、負債約 2,030 億円は全額払うとして残る約 1,260 億円(持ち合い株と土地を含む)を、今の自己資本 2,083 億円に対する PBR 0.605 倍に置いた。
確率:地方と産業施設の需要が縮み、技術の差も守れなくなる筋書き。東海第二で見せた施工の傷と、過去の谷の深さを踏まえ、1割強に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
建築
工場・物流施設・データセンター・研究施設などの産業施設と、リニューアルを請け負う。繰越工事が大きく増えた。
| 数量施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質) | 価格1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 374 | 7.00 | 2,620 | 170 |
| 10 年後 中立 | 356 | 9.38 | 3,336 | 197 |
取り方:2027年3月期の見通し(建築の完成工事高3,100億円は前期比18%増)から前期を約2,620億円と逆算した。営業利益は、建築の完成工事総利益率13.7%から、販管費率を約7%と置いて引き、約170億円と推定した。開示は無いため、施工量は1人日あたり売上を戸田建設と同じ約7万円と置いて、約374万人日と推定した。
土木
トンネル・ダム・道路・橋・水力・原子力関連施設を、官公庁・電力会社から請け負う。粗利率が高い。
| 数量施工量(万人日、実質) | 価格1人日あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 187 | 7.50 | 1,400 | 126 |
| 10 年後 中立 | 187 | 10 | 1,876 | 131 |
取り方:単体の完成工事高約4,030億円から建築を引き、土木を約1,400億円と置いた(決算説明資料の見通しからの逆算)。完成工事総利益率16.2%から販管費率約7%を引き、営業利益約126億円と推定した。施工量は、戸田建設の土木と同じ要領で、1人日あたり売上を7.5万円として約187万人日と置いた。
その他(海外・エネルギー・不動産・子会社)
海外の工事、エネルギー・環境の事業、不動産開発、インフラ診断、子会社の工事。
| 数量工事・サービス量(万人日換算、実質。推定) | 価格1人日あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 50.1 | 7.50 | 376 | 40 |
| 10 年後 中立 | 55.1 | 10 | 554 | 44 |
取り方:連結売上4,396億円から建築と土木を引いた376億円。営業利益は連結336億円から二つの事業を引いた40億円(調整を含む)。海外の工事とエネルギー・不動産の事業は、同じ要領で約50万人日の工事・サービス量に換算した。内訳は開示が乏しく、筆者の推定だ。
リスクと懸念
景気の谷で受注と採算が崩れる
ゼネコンの利益は景気の山と谷で大きく振れる。同社は営業利益率が1%を割った年がある。今の7%台は需給が締まった局面のもので、民間の工場やデータセンターの投資が一巡すれば、先に崩れるのは新規受注の採算だ。
原子力工事での品質問題
東海第二発電所の防潮堤では、地中連続壁の施工不良が見つかり、規制委はその部分を基礎に使わない方針を示した。追加費用も出た。原子力は同社の強みであり、同種の失敗が再び起これば、利益だけでなく受注の信用も傷む。
人手不足で施工量が頭打ちになる
2024年問題以降、技能者の確保が最大の制約になった。人が足りなければ受注を売上に変えられず、労務費の上昇は利益率を削る。会社の来期計画も、増収なのに営業利益はほぼ横ばいだ。
売却益が消えた後の純利益
直近の純利益は、投資有価証券の売却益を含む。持ち合い株は、比率を10%未満へ下げる過程で残りが減る。売却益は毎年は続かず、来期の純利益が大きく減る計画に、すでに表れている。
資本政策の実行力
前の中期経営計画では、総還元性向も持ち合い株の縮減も目標に届かなかった。新しい計画は累進配当と還元400億円以上を掲げるが、実績の裏づけはこれからだ。成長投資が資本コストを下回る稼ぎに終われば、価値は増えない。
物言う株主の再来
2020年にオアシスが株主提案を出し、一時は8%台まで買い増した。いまは5%を割っているが、資本効率が改善しなければ、同様の圧力が戻りうる。ただ、これは価値を押し上げる方向にも働く。
今後の分かれ目
- 建築の完成工事総利益率が2期続けて12%を割ったら
- 価格転嫁の局面が終わったと見て、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 東海第二の防潮堤で、追加の費用や工期の遅れが再び開示されたら
- 原子力の施工力への信頼を下げ、悲観の確率を少し上げる。
- 持ち合い株の売却代金を、累進配当と稼ぎの確かな投資に使ったら
- 資本の使い方の評価を上げ、楽観側の確率を少し増やす。
- エネルギー事業の完成工事高が目標の500億円に近づいたら
- その他の事業の量を引き上げ、中立の営業利益を数十億円上方に直す。
- 準大手どうしの統合や、外部資本による再編が出たら
- 統合後の資本効率しだい。規模が増えても資本コストを下回る買収なら価値は下がる。
- 2028年3月期の営業利益が目標の370億円を大きく上回ったら
- 計画の保守性が確かめられ、中立の利益を上方に直す。
見ておくもの
- 建築・土木の完成工事総利益率と受注高、繰越工事高の推移
- 持ち合い株の売却額と、その代金の使い道
- 東海第二の防潮堤の工事の進み方と追加費用
- エネルギー事業(原子力・送配電・蓄電池)の完成工事高
- 累進配当の実績と自社株買いの有無
- 国土強靱化予算の執行状況と土木の受注
倍率と資本コストの決め方
倍率は、ROE が資本コスト k 7.25%(基本 7.5% + quality 0.75%)をわずかに上回る前提で、正当化 PER の式と 1÷k の下限だけから置いた。今の株価や今の PER を見てから決めたわけではない。悲観は谷の利益でなく、総資産の8割回収・負債全額払いで残る売れる資産で測り、谷の PBR は使っていない。直近の純利益 298 億円には持ち合い株の売却益 103 億円が入るため使わず、営業利益から過去の比率(約 0.7)で積み、金利の変化の約5億円(税引き後)を足した。純現金 371 億円は、運転資金とみて余った現金に分けていない。2028年3月期から新リース会計基準で BS の形が変わるが、数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。数量は人日で推定したため、数量と価格の分け方には誤差がある。持ち合い株の評価差額金は配当が純利益に入っているので余り資産に足していない(二重を消した)。今の株価から逆算した値ではない。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 0.75% = 8.25%。個別のリスク(東海第二の追加費用・M&A の実行など)は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 7.25%。