結論
太平電業は、発電所の定期点検と補修、新設・増設の工事を請け負う会社だ。原子力と火力に強く、売上の約 7 割を保守が占める。結論から言えば、筆者は今の値段をやや割高と見る。事業の質は高いが、値段はその分を先に払っている。
稼ぐ力は申し分ない。2026 年 3 月期は営業利益が 148 億円と過去最高で、赤字の年は 10 年間一度もない。保守は営業利益率が 16% を超え、請負業としては異例に高い。原発の再稼働と建て替えの議論が、受注を押し上げている。
ただ、この追い風は人の数に縛られる。工事を担うのは現場の技能者で、残業の上限規制もあり、受注が増えても売上は人手の分しか伸びない。数量は 10 年で 1 割も増えれば十分だ。物価の上昇分を価格に乗せられるかが、利益の伸びを決める。
手元の純現金は約 200 億円で、時価総額の 1 割強だ。ただ工事の立替や前受けの資金が混ざるため、余った現金とは扱わなかった。中立の筋書きで 10 年後の時価総額は約 1,900 億円。還元を足して現在の価値に直すと、今の値段より 1 割ほど低い。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、この会社の本質は、原子力と火力の設備が動く限り続く保守の稼ぎだ。需要は電力会社の計画で決まり、景気に左右されない。10 年後も事業は残り、利益が出る。この点は高く評価する。
ただし、オーナー利益(再投資を引いた株主の取り分)は人手に縛られて伸びにくい。売上を増やすには人を増やすしかなく、技能者の確保は高くつく。伸びを物価の上昇分に頼る会社で、数量の成長に期待しすぎるのは危うい。
資本の使い方は平凡だ。純現金と有価証券が厚いのに、還元は配当が中心で、買収も目立たない。利益を事業に再投資しても資本コストを大きく超える稼ぎには結びつかず、ためた利益は額面どおりの価値にならない。
安全域は薄い。楽観でも割安に大きく振れず、悲観でも保守の稼ぎが床になって大きくは崩れない。値段が多少安くなれば買える会社だが、今の値段では余裕が取れない。原子力の追い風を期待で先に払うのは、バリュー投資の流儀に合わない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は補修工事だ。発電所は一定の間隔で止めて分解し、点検・部品交換をする法定の定期検査がある。その作業を受け持つのが補修工事で、2026 年 3 月期の売上は 971 億円、全体の約 7 割を占める。原子力発電所と火力発電所、製鉄所の設備が主な現場だ。同じ設備を何十年も見るので、現場の知識がそのまま強みになる。
もう 1 つが建設工事で、売上は 445 億円、約 3 割だ。発電所や環境保全設備(ごみ焼却や排煙処理など)を、重電メーカーや電力会社の元請けのもとで組み上げる。大型案件が多く、補修より利益率は低い。2026 年 3 月期の営業利益率は 6〜7% 台だった。
顧客は電力会社と、三菱重工をはじめとする重電メーカーだ。全国 9 支店で受注するので、特定の電力会社に偏らない。関西・中部の原子力に強いとされ、再稼働工事が受注を押し上げた。2026 年 3 月期の受注は 1,970 億円と、前の期より 3 割近く増えた。建設が 898 億円、補修が 1,071 億円だ。
海外は香港・フィリピンなどで小さく展開している。会社は海外事業本部を作って広げる考えだが、今の利益への寄与はまだ小さい。2 つの部門の利益の合計から本社費などを引くと、営業利益は 148 億円になる。
優良さと弱いところ
この会社の堀は、現場の経験と電力会社との長い付き合いだ。原発の点検は安全管理の要求が厳しく、実績のない会社には任せにくい。補修の営業利益率が 16% 台と高いのは、その参入しにくさの表れだ。同じ設備を何度も見るため、仕事が繰り返し入る。
ただ、強い堀とまでは言えない。補修は電力会社が発注者で、コストを下げる圧力は常にかかる。値段を自分で決められる立場ではない。建設は入札色が強く、資材高や工期の遅れを請負側が負う一括請負の面もある。
数字の裏付けは財務にある。自己資本比率は 72% で、純現金を持つ。10 年間、赤字の年はなく、ROE も 4〜12% の幅に収まる。景気より電力会社の設備計画に左右される会社だ。
弱い点は 2 つある。1 つは人手だ。補修は人が稼ぐ仕事で、技能者の確保が売上の天井になる。もう 1 つは資本の使い方だ。自己資本が厚い割に ROE は 9% 台にとどまり、手元の資金が眠りやすい。経営は ROE 9% 以上を掲げるが、達成は還元の厚みで決まる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の発電所の工事は、原子力と火力の両方で潮目が変わりつつある。原子力は、再稼働に向けた安全対策工事が続く。政府は 2040 年代までに最大 5 基の建て替えを進める方針を示したと報じられた。実際に新設の工事が出るのは 10 年の後半以降だろう。
火力は需要が減るとは限らない。データセンターで電力需要が増え、老朽設備の維持が重なる。保守の仕事は設備が動く限り続く。ただ石炭火力は脱炭素の流れで徐々に減るため、補修の対象は入れ替わる。
競争の形は、元請けの重電メーカーの系列と、電力会社の系列の工事会社、独立系に分かれる。独立系の同業にはレイズネクストなどがあるが、あちらは製油所の保全が主力で、原子力の比重が違う。太平電業は原子力と火力の両方を持つ点が個性だ。
市場の大きさは、国内の発電設備の補修工事を年 7,000〜8,000 億円と筆者は推定する。稼働する原子力・火力・製鉄設備の数から割り戻した概算で、開示された数字ではない。太平電業の補修売上 971 億円は 1 割強に当たる。
最大の制約は人手だ。2024 年 4 月から残業の上限規制が建設業にも適用され、技能者は高齢化している。受注があっても人が足りず、断る局面もある。そのため業界は、量を増やすより単価を上げる方向に動いている。
資本政策と M&A
還元は安定的だ。方針は配当性向 35% を目安に、DOE(純資産に対する配当の割合)3% を下限とする。2026 年 3 月期の配当性向は 37% だった。一方、自社株買いは直近でほぼ行っていない。
政策保有株は 2030 年度までに 10% 未満へ減らす計画だ。2026 年 3 月期末の投資有価証券は 231 億円ある。売却益が入るぶん一時的に利益が膨らむが、本業の力ではないので価値には入れない。
過去の中計では M&A も重点に掲げてきた。ただ大型の買収は見当たらず、手元の資金は積み上がりやすい。自己資本比率が 72% と高いのに ROE が 9% 台なのは、そのためだ。会社は 3 年で 150 億円の戦略投資を見込んだが、使い道は見えにくい。
買われる側の可能性は小さくない。時価総額は 1,500 億円ほどで、重電メーカーや商社が組みやすい規模だ。ただ原子力の元請けと下請けの関係があり、動けば顧客が反応する。実現しても、価値の前提には入れない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
原子力は、国策として長期の仕事を生む。再稼働の安全対策工事が続き、2040 年代に向けた建て替えも動き出した。太平電業は関西・中部の原発に深く入り、元請けの重電メーカーとも組んでいる。新設が出れば建設工事が大きく増え、補修の対象基数も増える。
保守の利益率は 16% と高く、人手不足は単価に転嫁できる。技能者が足りないのは同業も同じで、実績のある会社に仕事が集まる。電力需要はデータセンターで増え、火力の維持も続く。
海外は小さいが、香港・フィリピンの足がかりを広げれば伸びしろになる。自己資本が厚く、還元を増やす余地もある。ROE を 9% から 10% 台へ上げるのは、還元の強化だけでも届く。売上は 2,400 億円、営業利益率は 11% 近くまで行く姿も成り立つ。
電力の脱炭素と安定供給の両立には、原子力と火力の点検・更新が欠かせない。工事を担える会社は限られ、実績の厚い太平電業は選ばれ続ける。保守の営業利益率が 16% を超える会社は、同業でも多くない。
慎重な見方
原子力の追い風は、すでに値段に入っている。再稼働は審査の遅れで読みにくく、建て替えは 10 年のうちに実際の工事が出るかも怪しい。出ても重電メーカーが元請けで、下請けの取り分は薄い。
保守の利益率 16% は電力会社の発注次第だ。市場の自由化でコスト圧力は強まり、値下げを求められれば真っ先に削られる。人手不足は賃金の上昇を招き、転嫁が遅れると利益を食う。
海外は小さく、実績も浅い。自己資本比率 72% は安全だが、ROE を押し下げる重しでもある。M&A は未経験に近く、買えば失敗しやすい。石炭火力の縮小で、補修の対象が減る恐れもある。数量は 10 年で減る、という姿も十分に成り立つ。
工事の数量は技能者の数で決まり、増員にはいずれも時間と費用がかかる。受注残が積み上がっても、消化できなければ売上にならない。資材と人件費の上昇を発注者に認めさせる交渉も、思うほど簡単ではない。
電力会社の側から見れば、補修費は削りたい費用の筆頭だ。長い付き合いがあっても、見積もりの比較は年々厳しくなる。
どちらに重みを置いたか
保守の稼ぎが堅いことは、強気も慎重も認めている。割れるのは、原子力の新設がどこまで出るかと、人手不足を単価に乗せられるかだ。新設は 10 年の先にずれ込みやすく、人手は数量の天井になる。強いのは慎重な見方だが、赤字の年がない堅さを考え、悲観の確率は 1 割にとどめた。確率は中立に厚く、やや楽観とやや悲観はほぼ並べた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,013 円1,902 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,082 円683 億円)。 今の値に割り戻すと 2,174 円1,372 億円、今との差 −10.8%、 期待の年率 +5.3%(資本コスト 7.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 4,859 円3,066 億円 | 1,347 円850 億円 | +154.6% | +9.8% | 621 円392 億円 |
| やや楽観 | 22% | 3,699 円2,334 億円 | 1,189 円750 億円 | +100.5% | +7.2% | 1,075 円678 億円 |
| 中立 | 40% | 3,133 円1,977 億円 | 1,109 円700 億円 | +74.1% | +5.7% | 1,697 円1,071 億円 |
| やや悲観 | 18% | 1,856 円1,172 億円 | 951 円600 億円 | +15.2% | +1.4% | 505 円319 億円 |
| 悲観 | 10% | 1,262 円796 億円 | 713 円450 億円 | −19.0% | −2.1% | 197 円125 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,013 円1,902 億円 | 1,082 円683 億円 | +68.1% | +5.3% | 4,096 円2,585 億円 |
今の株価時価総額 2,437 円1,538 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 原子力の新設と再稼働が重なり、保守も値上げが通る 利益 210 億円 · PER 14.6 倍 · 株価時価総額 4,859 円3,066 億円
再稼働の安全対策工事に続いて、2030 年代に建て替えの工事が複数動き出す。太平電業は関西・中部の実績を足がかりに、建設工事の受注を大きく伸ばす。
保守は、稼働する原発の増加で対象が広がる。人手の足りない同業が仕事を断る中で、単価の引き上げが通る。補修の営業利益率は 17% に上がる。
海外も香港・フィリピンで保守を取り、利益の底上げになる。還元は強化され、自己資本は積み上がりにくい。売上は 2,400 億円を超え、ROE は 10% 近くになる。
安全の実績と現場の経験が評価され、元請けの重電メーカーからの指名も増える。受注の質が上がることで、売上の伸びが利益の伸びに直結する。
- 補修工事(定期点検・保守):数量 112(延べ作業量(万人日))× 価格 14(1 人日あたりの売上(万円)。材料・外注込みで、物価で上がる)→ 売上 1,590 億円・営業利益 270 億円。保守 作業量 112 万人日・単価 1.42 倍・営業利益率 17%
- 建設工事(発電所・環境設備):数量 30.0(延べ作業量(万人日))× 価格 28(1 人日あたりの売上(万円)。機器・資材の比率が高く、補修より単価が高い)→ 売上 852 億円・営業利益 68 億円。建設 作業量 30 万人日・単価 1.42 倍・営業利益率 8%
倍率:事業の純利益 210 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.9% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.6 倍。全体の PER 14.6 倍、時価総額 3,066 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:原子力の建て替えが 10 年のうちに複数動き、人手不足の単価転嫁も進む姿。条件が重なるので 1 割。
やや楽観 22% 再稼働の工事が続き、保守の利益率は 16% 台を保つ 利益 172 億円 · PER 13.6 倍 · 株価時価総額 3,699 円2,334 億円
再稼働の安全対策工事が続き、補修の件数は緩やかに増える。建て替えは設計の段階にとどまるが、環境設備や火力の更新が建設工事を支える。
人手の不足で数量は思うほど伸びない一方、単価は物価並みか少し上回る。補修の営業利益率は 16% を保ち、売上は 2,200 億円弱になる。
還元は配当中心で、自己資本はゆっくり積み上がる。ROE は 8% 台半ばに戻る。
大型の事故や不祥事は起きず、受注の質も落ちない。会社が掲げる ROE の目標には届き、投資家の見方もゆるやかに改善する。
景気の影響は小さく、利益の振れも小幅にとどまる。
- 補修工事(定期点検・保守):数量 106(延べ作業量(万人日))× 価格 14(1 人日あたりの売上(万円)。材料・外注込みで、物価で上がる)→ 売上 1,463 億円・営業利益 234 億円。保守 作業量 106 万人日・単価 1.38 倍・営業利益率 16%
- 建設工事(発電所・環境設備):数量 26.0(延べ作業量(万人日))× 価格 27(1 人日あたりの売上(万円)。機器・資材の比率が高く、補修より単価が高い)→ 売上 712 億円・営業利益 51 億円。建設 作業量 26 万人日・単価 1.37 倍・営業利益率 7.2%
倍率:事業の純利益 172 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.5% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.6 倍。全体の PER 13.57 倍、時価総額 2,334 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:再稼働が順調に進み、建て替えの検討が続く姿。会社の受注の勢いが続く方向に傾いて 2 割強。
中立 40% 数量は 1 割弱の増加、単価は物価並み。保守の利益率は 15% 台 利益 150 億円 · PER 13.1 倍 · 株価時価総額 3,133 円1,977 億円
原子力の再稼働工事は続くが、新設は 10 年のうちに小さく動く程度だ。保守の作業量は人手の制約から 5% 前後の増加にとどまる。
単価は物価並みに上がる。人件費も物価で上がるので、利益率は補修で 15% 台、建設で 6% 台半ばに落ち着く。売上は 2,000 億円ほどになる。
配当性向は 4 割から 5 割へ上がり、自己資本は 1,900 億円前後に積み上がる。ROE は 8% 弱で、資本コストと並ぶ水準だ。
政策保有株の売却は進み、資金は配当と設備投資に回る。大型の買収はなく、会社の姿は今の延長だ。電力会社との関係も変わらない。
- 補修工事(定期点検・保守):数量 102(延べ作業量(万人日))× 価格 13(1 人日あたりの売上(万円)。材料・外注込みで、物価で上がる)→ 売上 1,367 億円・営業利益 208 億円。保守 作業量 102 万人日・単価 1.34 倍・営業利益率 15.2%
- 建設工事(発電所・環境設備):数量 24.0(延べ作業量(万人日))× 価格 27(1 人日あたりの売上(万円)。機器・資材の比率が高く、補修より単価が高い)→ 売上 643 億円・営業利益 42 億円。建設 作業量 24 万人日・単価 1.34 倍・営業利益率 6.5%
倍率:事業の純利益 150 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.9% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.1 倍。全体の PER 13.07 倍、時価総額 1,960 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:原子力の追い風と人手の制約が打ち消し合い、数量は微増、単価は物価並みに収まる。電力会社の設備計画に沿う堅い会社なので、中立に 4 割。
やや悲観 18% 電力会社のコスト圧力で値上げが通らず、利益率は 13% 台 利益 108 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 1,856 円1,172 億円
電力会社の発注はコスト削減を求め続け、補修の単価は物価に追いつかない。人件費は上がるので、補修の営業利益率は 13% 台に下がる。
石炭火力の廃止が進んで補修の対象が減り、数量は今より減る。建設は大型案件の取り合いで、利益率は 5% に下がる。
それでも赤字にはならない。売上は 1,700 億円ほどにとどまり、ROE は 6% 前後に落ちる。自己資本はためた利益の分だけ膨らむが、稼ぎは増えない。
人手は足りず、外注に頼る割合が増える。外注費は物価以上に上がり、単価を上げても利益は伸びない。株主への還元は続くが、増える余地は小さい。
- 補修工事(定期点検・保守):数量 96.0(延べ作業量(万人日))× 価格 13(1 人日あたりの売上(万円)。材料・外注込みで、物価で上がる)→ 売上 1,248 億円・営業利益 168 億円。保守 作業量 96 万人日・単価 1.30 倍・営業利益率 13.5%
- 建設工事(発電所・環境設備):数量 19.0(延べ作業量(万人日))× 価格 26(1 人日あたりの売上(万円)。機器・資材の比率が高く、補修より単価が高い)→ 売上 484 億円・営業利益 24 億円。建設 作業量 19 万人日・単価 1.28 倍・営業利益率 5%
倍率:余った現金・余り資産 25 億円を分けると、事業の純利益 108 億円(税後利息を除く)・事業の自己資本 1,789 億円・事業の ROE 6.0%。事業の ROE が資本コスト k 7.75% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER は 1÷k = 12.9 倍。資本コスト以下で、伸びても価値は増えず、ためた利益は額面未満の価値なので、上限の 7.7 割の 10 倍に置いた。事業 108 億円 × 10 倍 + 余り 0 億円(帳簿 0 億円 × 戻り方 0.5)で時価総額 1,076 億円。純現金は事業の運転資金として分けない。
確率:自由化と発注者のコスト圧力が続き、人手不足を単価に乗せきれない姿。起きやすいので 2 割弱。
悲観 10% 構造的に負ける:原子力の停滞と火力の縮小で、発注者の言い値に 利益 40 億円 · PBR 0.6 倍 · 株価時価総額 1,262 円796 億円
原子力の再稼働が審査や訴訟で長く止まり、建て替えも進まない。石炭・石油火力の廃止が前倒しされ、補修の対象は大きく減る。
残る仕事は電力会社の言い値になり、補修の営業利益率は 9% まで下がる。建設は受注が細り、固定費を負担できず利益はほぼゼロだ。
人手不足が重なり、受注があっても技能者を確保できない。売上は 1,250 億円まで縮み、純利益は 40 億円ほどになる。
政策保有株の売却資金は穴埋めに回り、還元も減る。再び原子力が止まれば、日常の点検以外の仕事は戻らず、会社は縮む。
配当は減らさざるをえず、時価総額は稼ぐ力と手元の資産を下回りやすくなる。保守の現場を持つことだけが会社の支えになる。
- 補修工事(定期点検・保守):数量 78.0(延べ作業量(万人日))× 価格 12(1 人日あたりの売上(万円)。材料・外注込みで、物価で上がる)→ 売上 967 億円・営業利益 87 億円。保守 作業量 78 万人日・単価 1.24 倍・営業利益率 9%
- 建設工事(発電所・環境設備):数量 12.0(延べ作業量(万人日))× 価格 24(1 人日あたりの売上(万円)。機器・資材の比率が高く、補修より単価が高い)→ 売上 288 億円・営業利益 6 億円。建設 作業量 12 万人日・単価 1.20 倍・営業利益率 2%
倍率:構造的に負けて優良ではなくなった姿。純利益 40 億円では稼ぐ力は 500 億円ほどにしかならず、床は売れる資産で測る。純現金・有価証券の税後と、営業用資産の半分の回収を足した約 800 億円を、今の自己資本 1,264 億円に対する PBR 0.63 倍に置いた。
確率:原子力の審査が長引くか再び止まり、火力も縮み、人手不足も解けない姿。複数が重なるので 1 割。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
補修工事(定期点検・保守)
原子力・火力・製鉄設備の定期検査と補修。売上の約 7 割、利益の大半を稼ぐ主力。
| 数量延べ作業量(万人日) | 価格1 人日あたりの売上(万円)。材料・外注込みで、物価で上がる | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 97.1 | 10 | 971 | 161 |
| 10 年後 中立 | 102 | 13 | 1,367 | 208 |
取り方:補修売上 971 億円を、1 人日あたり売上 10 万円(人件費・外注・部材込みの筆者の推定)で割り、約 97 万人日とした。国内の発電設備の補修市場は年 7,000〜8,000 億円と推定し、シェアは 1 割強。数量は人の数(実質)、物価の 3% は価格に入れた。作業量と単価は開示値でなく推定。営業利益 161 億円は決算のセグメント利益。
建設工事(発電所・環境設備)
発電所と環境保全設備の新設・増設。重電メーカーや電力会社の元請けのもとで施工する。
| 数量延べ作業量(万人日) | 価格1 人日あたりの売上(万円)。機器・資材の比率が高く、補修より単価が高い | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 22.3 | 20 | 445 | 30 |
| 10 年後 中立 | 24.0 | 27 | 643 | 42 |
取り方:建設売上 445 億円を、1 人日あたり売上 20 万円(機器・資材込みの筆者の推定)で割り、約 22 万人日とした。数量は人の数(実質)、物価の 3% は価格に入れた。作業量と単価は開示値でなく推定。営業利益 30 億円は決算のセグメント利益。全社の営業利益 148 億円は、2 部門の合計から本社費など約 43 億円を引いた値。
リスクと懸念
発注者のコスト圧力
補修は電力会社が発注者で、自由化のもとでコスト削減を求められ続ける。値下げ要求が通れば、利益率 16% の補修が真っ先に削られる。人件費の上昇を単価に乗せられなければ、数量が増えても利益は伸びない。
人手不足と残業の上限規制
工事は技能者の人数で売上が決まる。2024 年 4 月から残業の上限規制が適用され、技能者は高齢化している。受注があっても人が足りず、売上の天井になる。外注費の上昇も利益を削る。
原子力の審査・政策の変動
再稼働の審査は遅れやすく、政権や世論で方針が変わりうる。工事の時期がずれると、技能者の稼働が下がり、固定費が重くなる。大事故があれば、原子力の仕事が一斉に止まる。
火力の縮小
石炭火力は脱炭素で廃止が進み、補修の対象が減る。代わりに天然ガスや再生可能エネルギーの仕事が増えるが、利益率が同じとは限らない。製鉄設備も、国内の生産が縮めば仕事が減る。
一括請負のコスト超過
建設工事には固定金額の契約が含まれる。資材高や工期の遅れを請負側が負えば、利益が飛ぶ。海外子会社でも天候による工程の遅れが利益を圧迫した例がある。大型案件が重なる年は注意が要る。
資本の使い方
自己資本比率 72% と純現金を持ちながら、ROE は 9% 台だ。自社株買いはほぼなく、M&A の実績も乏しい。政策保有株の売却資金の使い道が見えなければ、ためた利益の価値は目減りする。
重大災害と法令違反
高所・放射線管理区域などの危険な作業が多い。死亡災害や法令違反があれば、発注者の信頼を失い、工事の停止や許可の取り消しにつながる。安全の費用は上がる一方だ。
今後の分かれ目
- 原子力の建て替えが、事業者の正式な計画として複数決まったら
- 楽観・やや楽観の確率を上げる。建設工事の数量が 10 年後半に大きく伸びる。
- 電力会社が補修の発注で、物価並みの単価改定に応じるようになったら
- 補修の利益率の下振れは小さくなり、やや悲観の確率を下げてよい。
- 技能者の確保が進まず、受注を断る局面が増えたら
- 数量の天井が下がる。中立の数量を弱め、やや悲観に寄せる。
- 政策保有株の売却資金が、自社株買いや大幅な増配に使われたら
- 自己資本の積み上がりが止まり、ROE が上がる。倍率の上限に近づく。
- 原子力の再稼働が審査や司法判断で長く止まったら
- 補修の数量が落ちる。悲観の確率を上げて見直す。
見ておくもの
- 四半期ごとの受注高と受注残(建設・補修別)
- 原子力の再稼働・建て替えの正式決定と審査の進み具合
- 補修工事の営業利益率の推移
- 従業員数・技能者の確保と外注費
- 政策保有株の売却と還元の使い道(自社株買い・増配)
倍率と資本コストの決め方
倍率は、事業の ROE と資本コスト 7.75%、成長 4% から式で出した。中立は ROE が k とほぼ並ぶため、1÷k の 12.9 倍に置いた。今の株価や同業・過去の倍率は参照していない。数量は発電設備の補修市場と人手の天井、価格は物価 1.34 倍を基本にした。今の株価は最後に比べただけで、筋書きは寄せていない。余り資産は立てていない。取引先株の含み益は配当が純利益に入っているので足さず、純現金は運転資金として分けていない。リースは本社・支店の賃借が小さく、新リース会計基準(2028/03 期)でも営業利益の形はほぼ変わらない。10 年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14→14.6 倍・やや楽観 PER 13.2→13.57 倍・中立 PER 12.9→13.07 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 0.25% = 7.75%。日揮の 8.75% より低いのは、赤字がなく補修が安定し、純現金だから。個別のリスクは k に足していない。