結論
日揮ホールディングスは、LNG(液化天然ガス)や石油化学のプラントを、設計から建設まで丸ごと請け負う会社だ。世界でも指折りの実績を持つ。結論から言えば、筆者は今の値段をやや割高と見る。一番の理由は、利益が案件の当たり外れで大きく振れる点にある。
手元には純現金 3,600 億円強があり、時価総額の 7 割に当たる。数字だけ見れば驚くほど割安だ。だが、この現金の多くは発注者から先に受け取る前払い金と、これから払う工事の支払いに備えたものだ。会社自身も、手元資金のうち成長投資に回せるのは 1,000 億円ほどだと説明している。筆者もそこだけを余った現金として扱った。
稼ぐ力は戻りつつある。2026 年 3 月期は営業利益 354 億円で、赤字だった前の 2 年から立ち直った。ただ 2023〜24 年度は海外の大型案件で損失を出しており、10 年のうち 4 回は純損益が赤字だった。資本を食う事業ではないので、利益が安定すれば評価は上がる。それでも物価の分を除けば、売上は 20 年ほぼ横ばいだ。
中立の筋書きの時価総額は、10 年後でも今の 2 割半増(約 6,400 億円)にとどまる。最も強い筋書きで 2 倍ほど、最も弱い筋書きでは半分以下になる。上と下の幅は、下のほうが大きい。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「持ち続けたい事業」と呼ぶには足りない。10 年後も存在し、世界のエネルギー投資が続く限り仕事はある。だが、稼ぎは案件ごとに大きく振れ、稼いだ利益がきちんと株主の手元に残るという保証が弱い。
安全域は、現金の厚さの見方で決まる。帳簿上の純現金は時価総額の 7 割だが、前受金と工事の支払いを引くと、自由に使えるのは 1,000 億円ほどだ。事業の価値は、純利益の 10 倍強、およそ 4,000 億円台と見る。
経営は過去の失敗から学んでいる。2023〜24 年度の損失のあと、BSP2030 は一括請負のリスクを減らす方針を明示した。これが定着すれば質が上がるが、まだ 2 年分の実績しかない。
オーナー利益の目で見ると、今の利益水準 400〜500 億円のうち、成長のための再投資はほとんど要らない。つまり利益の大半が株主のものになる点は評価できる。問題は、その利益が 10 年先も同じ規模で続くかだ。続けば今の値段は妥当、振れれば割高になる。筆者は、確率をやや慎重な側に寄せた。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は、LNG・石油精製・石油化学・肥料などのプラントを請け負う総合エンジニアリングだ。2026 年 3 月期の売上は 6,796 億円で、会社全体の 9 割強を占める。設計・資材の調達・建設を 1 社で束ねる EPC(設計・調達・建設の一括請負)が中心で、実際の工事は子会社の日揮グローバルが担う。顧客は国営石油会社や LNG の事業主で、受注の 8 割以上が海外だ。
案件は 1 件が数千億円と大きく、売上と利益は完成する案件の顔ぶれで年ごとに変わる。受注残の 45% は中東にあり、サウジアラビア・イラク・UAE の複数の案件を抱える。北米ではフルアとの共同事業でカナダ LNG を完成させ、2026 年 6 月には第 2 期拡張の先行業務を受注した。アフリカ沖の洋上 LNG、パプアニューギニアも動いている。
もう 1 つの柱は機能材製造で、売上は 570 億円、営業利益は 77 億円と利益率が 13% を超える。子会社の日揮触媒化成が、半導体の研磨に使うシリカ粒子、HDD 向け材料、石油精製用の触媒を作る。北九州では 2026 年に用地を追加取得し、敷地を倍にした。EPC に比べて波が小さく、BSP2030 でも非 EPC の成長事業と位置づけられている。
本社費などの調整を引くと、会社全体の営業利益は 354 億円になる。EPC の利益率は 5% 前後、機能材は 13〜15% で、利益の大半は EPC が稼ぐが安定性は機能材のほうが高い。
優良さと弱いところ
優良さの核は実績と信用だ。LNG プラントを世界各地で完成させた経験は、発注者が最後に頼る理由になる。だが堀、つまり他社がまねできない強みは、価格を決める力までは届いていない。入札の相手は韓国の現代建設やサムスン E&A、欧米のテクニップ・エナジーやフルア、国内の千代田化工建設だ。価格競争が厳しく、資材高や工期の遅れを自社で背負う契約を結ぶと、一気に赤字に落ちる。
財務は強い。自己資本比率は 51%、純現金は 3,600 億円強で、倒産の心配はまずない。ただし筆者は、この現金を自由に使える貯金とは見ない。工事の前払い金が残高の大きな部分を占めるからだ。会社も、手元流動性は売上の 2 か月分に前受金の残高を足した額を目安にすると言う。
資本効率は平凡だ。自己資本利益率(ROE)は直近 9.7% で、前の 2 年は赤字だった。BSP2030 は 2030 年度の ROE 10% 以上を掲げるが、これは資本コストとほぼ同じで、株主に超過の価値を生む水準ではない。
経営の最大の課題は、一括請負の損失を繰り返さないことだ。BSP2030 は設計品質の確保、先行する設計(FEED)の活用、契約条件の見直しを掲げる。実行できれば質は上がるが、まだ証明されていない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
プラント EPC は、世界のエネルギー投資の波にそのまま乗る産業だ。LNG は、エネルギー安全保障とデータセンター向けの電力需要を背景に、米国・カナダ・アフリカ・中東で新設が続く。短期の追い風は強い。ただし発注は一部の大型案件に集まり、年ごとの受注は大きく振れる。
日本勢は日揮・千代田化工建設・東洋エンジニアリングの 3 社が中心だが、規模と信用で日揮が抜けている。千代田化工は財務の再建の途上、東洋エンジニアリングは赤字の年もある。競合は韓国の現代建設・サムスン E&A、欧州のテクニップ・エナジー、米国のフルア・KBR・ベクテルだ。中国・韓国勢の価格攻勢は、特に石油化学で厳しい。
契約の形が採算を決める。固定金額の一括請負は、資材と工期のリスクを請負側が背負う。分割やコストプラスへの移行は進んでいるが、発注者は力が強く、請負側が選べる場面は少ない。2023〜24 年度の日本勢の損失は、この構造から来た。
10 年の視点では、LNG と石化に加えて、水素・アンモニア・CO2 回収が新しい仕事になる。ただし収益化には時間がかかり、脱炭素が早まれば LNG の新設がむしろ縮むという逆の読みもある。世界の対象市場を実質で年 700 億ドル前後と置くと、日揮のシェアは 6〜7% だ。
資本政策と M&A
資本政策は BSP2030 で大きく変わった。配当は、配当性向の目標から純資産配当率(DOE)へ移る。2027 年 3 月期は DOE 3% から始め、2031 年 3 月期に 4% を目指す。業績が振れても配当が減りにくい仕組みだ。
5 年間の株主還元の総額は 800 億円ほどとされる。自社株買いは、業績・キャッシュ・成長投資の進み具合・資本効率を見て決める、と会社は述べる。2025 年度には自己株式の消却も進めた。
成長投資は 5 年で約 2,800 億円。M&A も含み、資金は営業キャッシュフロー、手元資金約 1,000 億円、借入でまかなう。自己資本比率は 50% 程度を保つ方針だ。買収の中身はまだ見えず、実行力が試される。
大株主の上位は信託銀行の信託口で、特定の親会社や支配株主はいない。TOB(公開買付け)の話は今のところ確認できない。純現金が厚い会社を、割安と見て株を買い増す投資家が現れる可能性はあるが、現金の多くが前受金なので、買い手が期待するほどは余っていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ガスの時代はまだ終わらない。LNG は石炭から天然ガスへの切り替えと、データセンターの電力需要の両方に支えられ、2030 年代まで新設が続く。日揮はカナダ LNG を完成させ、第 2 期拡張の先行業務も取った。北米とアフリカで実績を積み上げた会社は、発注者が最後に選ぶ名前になる。
過去の損失は、自社の判断ミスと一括請負の重さから来た。BSP2030 で契約条件を見直し、設計が固まってから価格を決める方式に寄せたいま、同じ失敗が繰り返される確率は下がっている。2026 年 3 月期に営業利益が 354 億円へ戻ったのは、その表れだ。
財務は強い。純現金は時価総額の 7 割、自己資本比率は 51%。BSP2030 で DOE 配当に変え、還元を約 800 億円に引き上げた。成長投資にも 2,800 億円を回せる。半導体向けの機能材も、北九州の用地を倍にして増産に動いている。
会社の目標(2030 年度の営業利益 600 億円、売上 1 兆円規模)は物価の分を含めれば無理のない水準で、達成すれば PER 10 倍台でも今の値段を上回る。
慎重な見方
EPC は、一括請負で大損を出す産業だ。日揮は 2017 年 3 月期、2022 年 3 月期、2024 年 3 月期、2025 年 3 月期と、10 年で 4 回の赤字を出した。BSP2030 で「対策」を掲げるのは、BSP2025 でも同じだった。
受注残の 45% が中東に偏る。サウジ・イラク・UAE の案件は、地域情勢の悪化で遅れや追加費用が出やすく、会社はすでにリスク対応の予算を積んで利益率が 1% ほど下がった。2027 年 3 月期の予想はすでに減収で、その後の戻りは見えていない。
現金は多いが、前受金と工事の支払いで見かけの半分以下しか自由にならない。案件が終われば前受金は減り、現金も縮む。成長投資 2,800 億円は M&A を含み、買収で価値を壊す可能性もある。
価格を決める力は弱い。千代田化工・東洋エンジニアリング、韓国・欧米の競合と毎回同じ案件を競い、利益率は 5% 台が上限だ。10 年後に実質の売上が伸びる根拠は薄い。
どちらに重みを置いたか
どちらにも根拠はあるが、慎重な見方のほうが強い。実績は 10 年で 4 回の赤字、受注残の中東偏重、価格を決める力の弱さという、数字に出ている事実が根拠だからだ。一方、強気の見方の中心は、契約の見直しがこれから効くという「見込み」にとどまる。そのため確率は、やや悲観と悲観の合計を 10 年で 32% と、やや慎重な側に寄せた。現金の厚さは、悲観の谷を浅くする効果として織り込んだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,929 円7,092 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,178 円2,852 億円)。 今の値に割り戻すと 2,079 円5,033 億円、今との差 +2.0%、 期待の年率 +7.3%(資本コスト 8.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 5,006 円1.21 兆円 | 1,735 円4,200 億円 | +230.7% | +12.7% | 809 円1,958 億円 |
| やや楽観 | 20% | 3,952 円9,568 億円 | 1,446 円3,500 億円 | +164.8% | +10.2% | 1,080 円2,614 億円 |
| 中立 | 36% | 3,142 円7,607 億円 | 1,198 円2,900 億円 | +112.9% | +7.9% | 1,563 円3,782 億円 |
| やや悲観 | 20% | 1,386 円3,355 億円 | 950 円2,300 億円 | +14.6% | +1.4% | 467 円1,131 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,082 円2,620 億円 | 496 円1,200 億円 | −22.6% | −2.5% | 189 円458 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,929 円7,092 億円 | 1,178 円2,852 億円 | +101.5% | +7.3% | 4,108 円9,944 億円 |
今の株価時価総額 2,039 円4,935 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 12% ガスと次世代エネルギーが追い風、実行力も戻る 利益 785 億円 · PER 14.4 倍 · 株価時価総額 5,006 円1.21 兆円
米国・カナダ・アフリカで LNG の新設が続き、日揮のシェアは 8% 台に上がる。データセンター向け電力需要がガス火力の投資を後押しする。
契約の形がコストプラス中心に変わり、利益率は 7% 近くまで上がる。機能材は半導体用の研磨粒子と高速通信向け材料が育ち、非 EPC の利益は 200 億円を超える。
自己資本の使い方は還元と成長投資で半々。配当は DOE 4%、自社株買いを積み増し、売上は 1 兆 2,000 億円に近づく。
買収も成功し、水素・アンモニア・CO2 回収の案件が収益を生み始める。請負業としては例外的な高採算が 10 年続く姿だ。
- 総合エンジニアリング(EPC・メンテナンス):数量 58.0(日揮が消化する工事量(億ドル・今の値段で測った実質)=世界の対象市場 × シェア)× 価格 205(1 ドル分の工事あたりの売上(円)=為替 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09 倍・10 年 1.34 倍))→ 売上 11,890 億円・営業利益 832 億円。市場 740 億ドル × シェア 7.8%、営業利益率 7%
- 機能材製造(日揮触媒化成):数量 9.0(出荷量(万トン換算・推定))× 価格 134(平均単価(万円/トン・名目。今を 100 とし、物価 3% の 10 年 1.34 倍が中立、電子材料は値上がりが鈍い想定))→ 売上 1,206 億円・営業利益 205 億円。対象市場 × シェア 13%、値段 1.34 倍、営業利益率 17%
倍率:事業の純利益 771 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.3% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)1,000 億円。全体の PER 14.42 倍、時価総額 12,118 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:世界の LNG 投資が長く伸び、水素・アンモニア・CO2 回収も本格化する。かつ一括請負を卒業できた世界で、確率は 1 割強。
やや楽観 20% シェアを守りつつ、利益率は 6% 台へ 利益 644 億円 · PER 13.6 倍 · 株価時価総額 3,952 円9,568 億円
世界のガス・化学プラントの発注は底堅く、日揮は今のシェアをほぼ守る。契約形態の改善で、一括請負での大損は 10 年に一度あるかないかに減る。
利益率は 6% 台前半。機能材は半導体向けが伸び、非 EPC の利益は 150 億円台。営業利益は 760 億円前後、売上は 1 兆円を超える。
還元は DOE 4% を目安に、毎年着実に積み上がる。
LNG の新設は途切れず、CO2 回収や水素の案件も少しずつ売上に入る。買収は小粒で、価値を壊しもしなければ大きく増やしもしない。会社は計画どおりの優等生になるが、それが市場の驚きにはならない。
- 総合エンジニアリング(EPC・メンテナンス):数量 53.0(日揮が消化する工事量(億ドル・今の値段で測った実質)=世界の対象市場 × シェア)× 価格 201(1 ドル分の工事あたりの売上(円)=為替 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09 倍・10 年 1.34 倍))→ 売上 10,653 億円・営業利益 671 億円。市場 740 億ドル × シェア 7.2%、営業利益率 6.3%
- 機能材製造(日揮触媒化成):数量 8.3(出荷量(万トン換算・推定))× 価格 133(平均単価(万円/トン・名目。今を 100 とし、物価 3% の 10 年 1.34 倍が中立、電子材料は値上がりが鈍い想定))→ 売上 1,104 億円・営業利益 177 億円。対象市場 × シェア 12%、値段 1.33 倍、営業利益率 16%
倍率:事業の純利益 630 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.1% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)1,000 億円。全体の PER 13.6 倍、時価総額 9,568 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:BSP2030 の目標(営業利益 600 億円)に近い形が長く続く姿。実行力が戻る方向に傾いた流れを 2 割置いた。
中立 36% 売上は 1 兆円弱、利益率は 5% 台半ば 利益 513 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 3,142 円7,607 億円
ガス・化学の大型案件が続くが、10 年で見ると実質の売上は横ばいに近い。日揮のシェアは今の水準を保ち、物価の分だけ売上は大きくなる。
営業利益率は 5% 台半ば。過去に 10% を超えた時代(2011〜14 年)は戻らず、競争の激しい普通の請負業として落ち着く。
機能材は半導体向けが伸びて非 EPC の利益は 150 億円ほど。会社全体の利益は 600 億円前後で、BSP2030 の 600 億円は物価の分を含めて達成するが、それ以上は積めない。
還元は DOE 3.5〜4% で、自己資本は緩やかに増える。大きな失敗も大きな成功もない 10 年で、利益の質は今と大差ない。
- 総合エンジニアリング(EPC・メンテナンス):数量 47.5(日揮が消化する工事量(億ドル・今の値段で測った実質)=世界の対象市場 × シェア)× 価格 201(1 ドル分の工事あたりの売上(円)=為替 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09 倍・10 年 1.34 倍))→ 売上 9,548 億円・営業利益 535 億円。市場 700 億ドル × シェア 6.8%、営業利益率 5.6%
- 機能材製造(日揮触媒化成):数量 7.6(出荷量(万トン換算・推定))× 価格 132(平均単価(万円/トン・名目。今を 100 とし、物価 3% の 10 年 1.34 倍が中立、電子材料は値上がりが鈍い想定))→ 売上 1,003 億円・営業利益 150 億円。対象市場 × シェア 11%、値段 1.32 倍、営業利益率 15%
倍率:事業の純利益 499 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.5% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)1,000 億円。全体の PER 12.87 倍、時価総額 7,422 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:景気と案件の波を均すと、数量は横ばいで価格だけが物価で上がる姿に収まりやすい。日揮の稼ぎは過去 20 年も実質ではほぼ横ばいだった。
やや悲観 20% 競争が厳しく、利益率は 4% 前後で止まる 利益 331 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 1,386 円3,355 億円
LNG の新設が一服し、受注は単価の安い案件が中心になる。現代建設やサムスン E&A、テクニップ・エナジーなどとの競争で、日揮は採算の薄い案件を取らざるを得ない。
実質の数量は 1 割減り、営業利益率も 4% 前後に落ちる。機能材は堅調でも、会社全体の利益は 350 億円ほど。
自社株買いは限定的で、還元は配当が中心になる。
中東や北米で一括請負の案件を取り直し、小さな損失が毎年のように出る。会社は赤字には落ちないが、BSP2030 の目標にも届かない。投資家は、この会社を景気に左右される請負業として低い倍率で評価し続ける。
- 総合エンジニアリング(EPC・メンテナンス):数量 42.0(日揮が消化する工事量(億ドル・今の値段で測った実質)=世界の対象市場 × シェア)× 価格 198(1 ドル分の工事あたりの売上(円)=為替 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09 倍・10 年 1.34 倍))→ 売上 8,316 億円・営業利益 316 億円。市場 660 億ドル × シェア 6.4%、営業利益率 3.8%
- 機能材製造(日揮触媒化成):数量 7.0(出荷量(万トン換算・推定))× 価格 128(平均単価(万円/トン・名目。今を 100 とし、物価 3% の 10 年 1.34 倍が中立、電子材料は値上がりが鈍い想定))→ 売上 896 億円・営業利益 116 億円。対象市場 × シェア 10%、値段 1.28 倍、営業利益率 13%
倍率:余った現金・余り資産 825 億円を分けると、事業の純利益 319 億円(税後利息を除く)・事業の自己資本 4,369 億円・事業の ROE 7.2%。事業の ROE が資本コスト k 8.5% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER は 1÷k = 11.4 倍。事業の ROE が資本コストを下回り、一括請負の損失が続く局面で、上限の 7.0 割の 8 倍に置いた。事業 320 億円 × 8 倍 + 余り 750 億円(帳簿 750 億円 × 戻り方 1)で時価総額 3,306 億円。
確率:LNG の新設が一服し、韓国・欧米の競合との値下げ競争が続く。過去 10 年の利益の振れを考えると、2 割は置くべき筋書き。
悲観 12% 構造的に負ける:一括請負の大損と LNG 需要の縮小 利益 60 億円 · PBR 0.6 倍 · 株価時価総額 1,082 円2,620 億円
ガス・化学プラントの新設が構造的に減り、日揮は大型案件の受注で他社に負け続ける。残った案件も一括請負で採算が崩れ、数年にわたり赤字や薄利が続く。
中東の案件の遅れと損失、地政学リスクの顕在化が追い打ちになる。配当は最低限を守るが、自社株買いは止まる。
機能材の事業は残るものの、会社全体を支えるほどの規模ではない。優良な請負業としての地位を失い、市場は帳簿の半分以下で評価する。
配当は最低限を守るが、足りない分は現金の取り崩しや資産の売却でまかなう。BSP2030 の成長投資は計画に届かず、買収は縮小する。
- 総合エンジニアリング(EPC・メンテナンス):数量 30.0(日揮が消化する工事量(億ドル・今の値段で測った実質)=世界の対象市場 × シェア)× 価格 190(1 ドル分の工事あたりの売上(円)=為替 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09 倍・10 年 1.34 倍))→ 売上 5,700 億円・営業利益 57 億円。市場 560 億ドル × シェア 5.4%、営業利益率 1%
- 機能材製造(日揮触媒化成):数量 5.6(出荷量(万トン換算・推定))× 価格 120(平均単価(万円/トン・名目。今を 100 とし、物価 3% の 10 年 1.34 倍が中立、電子材料は値上がりが鈍い想定))→ 売上 672 億円・営業利益 67 億円。対象市場 × シェア 9%、値段 1.20 倍、営業利益率 10%
倍率:構造的な負けでもう優良ではなくなった姿。純利益は 60 億円で稼ぐ力は 700 億円ほどにしかならず、床は売れる資産で測る。総資産 8,390 億円を強制売却で 8 割しか回収できず、負債 4,090 億円(前受金を含む)は全額払うとして残る約 2,600 億円を、今の自己資本 4294 億円に対する PBR 0.61 倍(時価総額 2620 億円)に置いた。純現金はあるが前受金の取り崩しで薄くなる。
確率:脱炭素で LNG の新設が縮む、韓国勢が価格で押し切る、一括請負の大損が重なる、のうち 2 つ以上が起きる姿。10 年で 1 割強。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
総合エンジニアリング(EPC・メンテナンス)
LNG・石油化学・精製プラントの設計・調達・建設を請け負う主力。実際の工事は日揮グローバル。
| 数量日揮が消化する工事量(億ドル・今の値段で測った実質)=世界の対象市場 × シェア | 価格1 ドル分の工事あたりの売上(円)=為替 150 円 × 物価の倍率(3 年 1.09 倍・10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 45.3 | 150 | 6,796 | 336 |
| 10 年後 中立 | 47.5 | 201 | 9,548 | 535 |
取り方:世界の大型エネルギー・化学プラントの EPC 市場(中国・韓国の国内案件を除く)を実質で年 650〜700 億ドルと推定し、日揮のシェアを 6.5〜7% とみた。売上 6,796 億円を 150 円で割ると約 45 億ドル。数量は実質、物価の 3% は価格に入れた。市場の規模は発注額と主要各社の売上からの推定で、開示された数字ではない。営業利益 336 億円は決算のセグメント利益。
機能材製造(日揮触媒化成)
半導体向け研磨用シリカ粒子・HDD 向け材料・石油精製用触媒など。非 EPC の主力。
| 数量出荷量(万トン換算・推定) | 価格平均単価(万円/トン・名目。今を 100 とし、物価 3% の 10 年 1.34 倍が中立、電子材料は値上がりが鈍い想定) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 5.7 | 100 | 570 | 77 |
| 10 年後 中立 | 7.6 | 132 | 1,003 | 150 |
取り方:出荷量は開示されない。シリカゾル・触媒・ファインケミカルの平均単価を 1 トンあたり 100 万円と仮定し、売上 570 億円から約 5.7 万トンと推定した(品目で単価が大きく違うため目安)。対象市場は実質で 5,500 億円前後、シェアは 10% 強。売上 570 億円・利益 77 億円は決算のセグメント数字。
リスクと懸念
一括請負の追加損失
固定金額の契約では、資材高と工期の遅れを請負側が背負う。2023〜24 年度の損失がその例で、同じ型の案件が残っていれば再発しうる。BSP2030 は設計品質とリスク予算で対策するが、効果はこれから問われる。大型の一括請負が数件残る間は、この危険を完全には消せない。
中東への偏り
受注残の 45% が中東で、サウジ・イラク・UAE の案件が多い。地域の緊張が高まれば、工期の遅れ、追加費用、発注者の支払いの遅れが重なる。2027 年 3 月期の減収予想にもすでに影響が出ている。受注残の半数近い偏りは、他の地域より分散が利きにくい。
受注の波
案件 1 件が数千億円と大きく、取れなかった年は受注残が急に減る。LNG の最終投資決定が遅れれば、数年先の売上も読めなくなる。世界不況ではこの波が一気に悪い側へ振れる。年ごとの利益が読みにくい最大の理由でもある。
価格競争と採算
韓国・欧米の競合は、同じ案件で毎回競る。特に石油化学では、中国・韓国勢の価格に引っ張られやすい。日揮は技術と実績で差を付けるが、価格を決める力は弱く、利益率は 5% 台が上限になりやすい。値下げ競争が起きると、取る案件の数を減らして守るしかなくなる。
脱炭素で需要が縮む
LNG やガス火力の新設が、脱炭素の進みや再エネの普及で想定より早く減る可能性がある。水素・アンモニア・CO2 回収は育てている最中で、LNG の穴を埋める規模にはまだなっていない。時期の読みが外れた場合の影響は、10 年先の筋書きに大きく出る。
M&A の実行
成長投資 5 年で 2,800 億円は M&A を含む。高い値段で買ったり、請負と相性の悪い事業を買ったりすれば、手元の現金を食う。過去に海外での資産評価損を出した経緯もある。買収の中身はまだ開示されておらず、実行力の確認はこれからだ。
今後の分かれ目
- LNG の最終投資決定(FID)が、第 2 期のカナダ LNG を含めて複数決まったら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。2029 年 3 月期までの売上が一段と読みやすくなる。
- 中東の案件で追加のリスク対応予算を積んだら
- やや悲観・悲観の確率を上げる。2023〜24 年度に似た動きが出ていないかを確かめる。
- 新規の契約が、一括請負からコストプラスや分割請負へ明確に移ったら
- 利益率の前提を上方に直す。EPC の利益率 6% 超が定着するなら、中立の確率を楽観側へ移す。
- 自社株買いを、純現金の取り崩しの形で継続的に実施したら
- 余った現金の使い道が株主に向いたと判断してよい。現金を割り引いて見る度合いを下げる。
- 機能材の営業利益が 100 億円を超えて定着したら
- 非 EPC の利益の厚みが増し、会社全体の利益の振れが小さくなる。倍率を上限側に近づけてよい。
- 世界不況でガス・化学の新規投資が急に止まったら
- 悲観の筋書きに近づく。現金の厚みが谷を支えるが、事業の評価は帳簿の半分強まで下がる。
見ておくもの
- 四半期ごとの受注高と受注残、中東向けの比率
- リスク対応予算の積み増し・取り崩しの有無(決算説明資料)
- LNG 案件の最終投資決定(カナダ LNG 第 2 期・アフリカ・米国)と契約形態
- 機能材製造の売上・営業利益と北九州の増設の進み具合
- DOE 配当の水準と自社株買いの実施有無
倍率と資本コストの決め方
数量は世界の対象市場に日揮のシェアを掛けた実質の工事量、価格は為替 150 円と物価の倍率で置いた(市場とシェアは推定)。倍率は利益ベースで、事業の ROE が資本コスト 8.5%(基本 7.5% + quality 1.25%)をわずかに上回る程度なので、正当化 PER は 11〜13 倍に収まり、1÷k の 11.4 倍が下限になる。中立は 11.3〜11.4 倍で、今の PER 12 倍台に寄せたわけではない。純現金 3,650 億円のうち、前受金と工事の支払い、リース等を除いて余ると見たのは 1,000 億円(会社が成長投資に使えると説明した手元資金に合わせた)。それ以外は事業を回すための運転資金として扱い、倍率は余った現金を除いた利益に掛けた。やや悲観は事業の稼ぐ力(PER 上限 1÷k の 7 割 5 分)、悲観は総資産の 8 割回収・負債(前受金含む)全額払いで残る売れる資産(約 2,600 億円)で測り、谷の PBR は使っていない。リースの約束は大きくない。2028 年 3 月期からの新リース会計で数字の形が変わる点は、今と同じ形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 1.25% = 8.75%。理由は quality_why。個別のリスク(不祥事・M&A の実行など)は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.75% → 8.50%。