結論
日本電設工業は、JR東日本の電気設備工事を一手に近く請け負う会社だ。架線、信号、変電所といった鉄道の電気工事が売上の5割を超え、ビルの電気工事と通信工事が続く。
筆者の結論は「やや割高」だ。事業は堅い。しかし2026年3月期の営業利益率10.3%は過去最高で、平らな年より2ポイントほど高い山にある。今の値段は、その山がこの先も続くことを前提にしている。
山を押し上げたのは一般電気工事だ。利益率が前の年の7%から14%へ跳ねた。大型案件の追加工事と原価低減が重なった結果で、毎年続く稼ぎとは見ない。
強みは顧客だ。JR東日本が売上の約5割を占め、持分法の関連会社として19%を持つ。景気の波を受けにくく、新幹線の架線取替えや羽田空港アクセス線など、先の工事も見えている。
弱みも同じ顧客にある。単価を決めるのは発注者で、工事を回せる量は人手で決まる。しかも自己資本が厚く、ROEは6%前後と資本コストを下回る。ためた利益が価値を生みにくい会社だ。
中立の筋書きでは、10年後の売上は単価の上昇で3割強増えても、営業利益は今とほぼ同じにとどまる。確率で重みづけた価値は、今の時価総額を2割半ほど下回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、日本電設工業は「堅い顧客を持つが、資本が余り気味の会社」だ。毎年、きちんと利益を稼ぐ。だが、その利益が自己資本の厚みに見合っていない。
10年後もこの事業はある。鉄道の電気設備は誰かが直し続けるからだ。堀は、鉄道電気に限れば狭いが確かにある。ただ、その堀は顧客の手の中にある。顧客が1社に偏る事業では、安全域を厚く取りたい。
オーナーの手元に残る利益は多くない。工事の立替金がふくらみ、短期の借入が増えた。稼いだ利益の一部が、売上債権に吸われている。純現金は厚く見えても、運転資金として使われる分が大きい。
気になるのは、今の利益が歴代最高の水準にあることだ。一般電気の特需と、政策保有株の売却益が重なっている。平らな年に戻る可能性を、値段が織り込んでいない。
筆者なら、ROEが資本コストを超える姿が見えるまで待つ。それまでは、配当と還元で報われる程度の、堅い会社として見ておく。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、鉄道の電気設備を作り、直し続けることだ。電車に電気を送る架線、列車を安全に動かす信号、駅や変電所の設備が中身になる。
売上は5つの部門に分かれる。2026年3月期は、鉄道電気工事が約1,200億円で5割強を占める。一般電気工事が約650億円、情報通信工事が約310億円、環境エネルギー工事が約60億円、関連事業等が約75億円だ。
最大の顧客はJR東日本で、連結売上の約48%を占める。鉄道電気の売上の8割近くがJR東日本向けだ。残りは他のJR、民鉄、公営鉄道、鉄道・運輸機構の案件になる。
一般電気工事は、ビルや工場、データセンター、官公庁の電気設備を請ける。駅前の再開発も多い。景気と建設需要の影響を受けやすいが、利益率は前の年の7%から14%へ跳ねた。
情報通信工事は、携帯基地局やネットワークの工事、鉄道の通信工事だ。2023年に電気通信事業の免許を取り、共同利用の通信設備を貸すインフラシェア事業も始めた。関連事業等には不動産賃貸やビル管理が入り、利益率が高い。
連結従業員は約4,700人。うち鉄道電気に約2,900人がいる。工事は人手が決め手で、鉄道電気の技術者は育てるのに長い年月がかかる。協力会社の力を借りて回す構造だ。
優良さと弱いところ
この会社の優良さは、JR東日本との関係の深さにある。堀とは、他社がまねできない強みのことだ。鉄道電気工事は施工実績が国内でもっとも多いと自負し、JR東日本のパートナー会社として工事の多くを担う。安全に直結する仕事なので、実績のない会社には任せにくい。
ただ、この堀は顧客の側が握っている。売上の約5割が1社に偏り、単価を決めるのは発注者だ。大株主でもあるJR東日本が、この会社の利益を大きくする理由は小さい。近年の利益率の改善は、単価の引き上げを求めた交渉の成果で、永久に続く保証はない。
一般電気工事に堀はない。競う相手はきんでんや関電工のような大手で、入札で値段が決まる。今の利益率の高さは、堀ではなく案件ごとの運に近い。
資本の使い方は、保守的すぎる。自己資本比率は65%で、純現金もある。そのため、ROEは過去10年の中央値が6.5%にとどまり、資本コストを下回る年が多い。株主への還元は増やしているが、事業で資本を回す力は弱い。
筆者が好むのは、堀が広く、少ない資本で稼げる会社だ。日本電設工業は、顧客は堅いが、稼ぐ力はもうひとつ足りない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
鉄道の電気工事は、更新の需要が長く続く市場だ。高度成長期に敷いた架線や信号の設備が、取り替えの時期を迎えている。JR東日本は新幹線の架線を2021〜2027年度に約4,000本、2028〜2033年度にもう約4,000本取り替える計画を持つ。電化柱の耐震補強や、無線で列車を制御するATACSの導入も重なる。
新しい工事も出てくる。羽田空港アクセス線は2031年度の開業を目指し、東京メトロの延伸や北海道新幹線の札幌延伸も控える。JR東日本は2026年3月に運賃を全面的に改定した。投資の原資は増えている。
ただ、需要の天井は人手にある。鉄道電気に対応できる協力会社は限られ、2024年の残業規制もあって、受注があっても施工できない。会社は協力会社の採用を支援しているが、数量は急には増えない。伸びの大半は単価になる。
競争は、鉄道電気では穏やかだ。同じ工事を手がける会社が少なく、発注者との長い関係で受注が決まる。一方で一般電気は、大手との競争が激しい。データセンターと再開発は需要が強いが、電気工事の元請けはきんでんや関電工にも有利に働く。
通信の分野では、同じ領域にコムシス、エクシオ、ミライト・ワンがいる。基地局の工事は当面厳しく、日本電設工業はネットワーク工事とインフラシェアで補おうとしている。
資本政策と M&A
株主への姿勢は、はっきり前向きに変わった。2025年3月期から、配当性向40%を目安にすると決めた。2026年3月期は1株の配当を前の年から4割近く増やし、性向は40%になった。自社株買いも始めた。
政策保有株の整理も進む。2024年3月期に32銘柄あった保有を、2026年3月期には25銘柄まで減らした。2030年3月期までに10銘柄ほどへ、7割縮める計画だ。売った資金は成長投資と株主還元に回す。売却益は特別利益に出るので、毎年の純利益には一時的な上乗せが入っている。
M&Aは、施工体制の強化と新しい事業につながるものを探す。とくに空調衛生の分野で全国に広げたい考えだ。具体的な買収先は示されていない。
株主構成では、JR東日本が筆頭株主で19%を持ち、持分法の関連会社になっている。日本コンクリート工業や共済会も5%ずつ持つ。JR東日本の意思が、この会社の方向を左右する点は、ほかの会社にはない特徴だ。
次の中期経営計画は、2027年3月期の発表に向けて見直す予定で、ROE10%以上、時価総額2,300億円を長期の目標にしている。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
鉄道の電気工事は、これから10年が稼ぎ時になる。新幹線の架線は約8,000本の取替え計画があり、電化柱の耐震補強や無線式の列車制御も重なる。羽田空港アクセス線のような新線の工事も控える。繰越工事は2,200億円を超え、売上の1年分近い。
単価の流れも変わった。JR東日本に単価の引き上げを求める交渉が通り、鉄道電気の利益率は2022年の3%台から8%台まで上がった。運賃も全面改定され、鉄道会社が設備投資に回せる原資は増えている。国の運賃の算定方法も、設備投資と賃上げを反映しやすく見直された。
一般電気の利益率が14%に跳ねたのは偶然ではない。計画の段階から設計に加わり、追加工事を取る営業の型ができた。データセンターの受注は1年で10倍以上になった。この型が続けば、利益率は1割前後で定着する。
資本の使い方も変わる。政策保有株を25銘柄から10銘柄まで減らし、売却資金を自社株買いと成長投資に回す。ROE10%以上を長期の目標に掲げ、配当性向は40%を目安とした。自己資本のふくらみが止まれば、ROEは8%台に乗る。そのとき、倍率も13倍近くに上がる。
慎重な見方
今の利益は、いくつもの一時的な要因の重なりだ。一般電気の利益率14%は、前の年の7%の2倍で、大型案件の追加工事と原価低減が一度に出た結果にすぎない。会社自身も2027年3月期の営業利益を横ばいと見て、受注を5%減と予想している。
利益率が上がり続ける理由も乏しい。鉄道電気の利益率は8%台に乗ったが、単価の引き上げは発注者の理解で成り立つ。JR東日本は大株主でもあり、自社の工事費を抑える立場でもある。単価を物価以上に上げ続ける話は、長くは通らない。
数量は人手に縛られる。鉄道電気の技術者は育つまでに年月がかかり、協力会社も後継者不足だ。受注が増えても施工が追いつかず、工事は後ろにずれる。伸びを単価に頼れば、人件費も同じ速さで上がる。
それでも資本は余っている。自己資本比率は65%で、ROEは過去10年の中央値で6.5%にとどまる。資本コストを下回る会社の利益は、ためるほど価値が薄まる。工事立替金もふくらみ、現金は運転資金に吸われている。売上の約5割を1社に頼る構造も、10年かけて弱みになりうる。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうが強い。鉄道電気の需要と繰越工事の厚みは確かだが、利益の水準は一般電気の特需と単価交渉の成果を含んでいる。10年先の利益率が今の水準で定着するとは見ない。
さらに、自己資本が厚く、ROEが資本コストを下回る点が評価を押さえる。そのため中立の確率を厚く置き、悲観側の確率を強気側より多くした。強気の筋書きでも、今の時価総額を大きく上回る姿は描きにくい。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,298 円2,457 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,717 円981 億円)。 今の値に割り戻すと 3,219 円1,841 億円、今との差 −18.6%、 期待の年率 +4.3%(資本コスト 7.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 6,574 円3,759 億円 | 2,272 円1,299 億円 | +123.7% | +8.4% | 796 円455 億円 |
| やや楽観 | 21% | 5,491 円3,139 億円 | 1,999 円1,143 億円 | +89.4% | +6.6% | 1,573 円899 億円 |
| 中立 | 35% | 4,679 円2,675 億円 | 1,721 円984 億円 | +61.8% | +4.9% | 2,240 円1,281 億円 |
| やや悲観 | 24% | 3,243 円1,854 億円 | 1,529 円874 億円 | +20.7% | +1.9% | 1,145 円655 億円 |
| 悲観 | 11% | 1,245 円712 億円 | 1,119 円640 億円 | −40.2% | −5.0% | 260 円149 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,298 円2,457 億円 | 1,717 円981 億円 | +52.1% | +4.3% | 6,014 円3,439 億円 |
今の株価時価総額 3,955 円2,261 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 9% JR東日本の投資が続き、収益が一段上がる 利益 252 億円 · PER 13.4 倍 · 株価時価総額 6,574 円3,759 億円
JR東日本の投資が長く続き、電気工事の会社として一段上の収益を得る筋書きだ。
新幹線の架線取替えや電化柱の耐震補強、羽田空港アクセス線などの工事が、10年にわたって途切れない。協力会社の採用支援が実り、施工できる量が1割ほど増える。
発注者との単価の話し合いも通る。物価を上回る単価が定着し、鉄道電気の利益率は8%台半ばに乗る。一般電気ではデータセンターと駅前再開発の大型案件が続き、利益率は1割を超える。
インフラシェアや金属リサイクルも小さいながら育つ。営業利益は350億円ほどになる。
政策保有株の売却資金は自社株買いに回る。自己資本がふくらみすぎず、ROEは8%台に乗る。ただ、人手が数量の伸びを縛るので、ここまでそろう確率は高くない。
- 鉄道電気工事:数量 3,248(施工に当たる人数(人、推定))× 価格 58(1人当たり売上(百万円))→ 売上 1,884 億円・営業利益 160 億円。鉄道電気工事
- 一般電気・環境エネルギー工事:数量 989(施工に当たる人数(人、推定))× 価格 115(1人当たり売上(百万円))→ 売上 1,135 億円・営業利益 119 億円。一般電気・環境エネルギー工事
- 情報通信工事:数量 747(施工に当たる人数(人、推定))× 価格 66(1人当たり売上(百万円))→ 売上 494 億円・営業利益 47 億円。情報通信工事
- 関連事業等:数量 330(担当人数(人、推定))× 価格 45(1人当たり売上(百万円))→ 売上 150 億円・営業利益 27 億円。関連事業等
倍率:事業の純利益 252 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.3% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.0%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.4 倍。全体の PER 13.4 倍、時価総額 3,377 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:人手の制約があるなかで、数量・単価・利益率がそろって上に振れる筋書き。1割に届かない確率に置いた。
やや楽観 21% 更新工事とデータセンターで穏やかに伸びる 利益 213 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 5,491 円3,139 億円
更新工事とデータセンターで、穏やかに伸びる筋書きだ。
鉄道の老朽設備の取替えは、手持ち工事の厚みもあって安定して出る。施工量は5%ほど増え、単価は物価をやや上回って上がる。鉄道電気の利益率は8%で踏みとどまる。
一般電気は、データセンターと再開発で量が1割弱増える。ただ、今の14%台の利益率は元には戻らず、9%台半ばに落ち着く。情報通信はネットワーク工事で小幅に伸びる。
営業利益は300億円ほどで、今より3割近く多い。還元は純利益の6割弱を続ける。自己資本が厚いままなので、ROEは7%台にとどまる。
安定した顧客に支えられた、驚きの少ない強気の筋書きだ。
- 鉄道電気工事:数量 3,045(施工に当たる人数(人、推定))× 価格 57(1人当たり売上(百万円))→ 売上 1,728 億円・営業利益 138 億円。鉄道電気工事
- 一般電気・環境エネルギー工事:数量 929(施工に当たる人数(人、推定))× 価格 112(1人当たり売上(百万円))→ 売上 1,043 億円・営業利益 99 億円。一般電気・環境エネルギー工事
- 情報通信工事:数量 702(施工に当たる人数(人、推定))× 価格 65(1人当たり売上(百万円))→ 売上 458 億円・営業利益 40 億円。情報通信工事
- 関連事業等:数量 275(担当人数(人、推定))× 価格 45(1人当たり売上(百万円))→ 売上 125 億円・営業利益 22 億円。関連事業等
倍率:事業の純利益 213 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.1% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.9 倍、時価総額 2,748 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:繰越工事が厚く、更新投資も続く。利益率が今ほど高くなくても、穏やかに伸びる姿を2割強に置いた。
中立 35% 単価で伸び、利益率は平らな年に戻る 利益 177 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 4,679 円2,675 億円
単価で売上は伸びるが、利益率は平らな年に戻る筋書きだ。
人手が増えないので、施工量は横ばいが続く。売上が増えるのは、物価並みに単価が上がるからだ。鉄道電気の利益率は7%台半ばで、ここ数年の上がり方の半分ほどを維持する。
一般電気の利益率は8%まで下がる。今の14%台は、大型案件の追加工事と原価低減が重なった特別な年の姿だった。情報通信は8%、関連事業は不動産とメンテナンスで2割弱を保つ。
営業利益は250億円ほどで、今の水準から大きくは動かない。還元は純利益の5割台半ばで、ROEは6%前後にとどまる。
何も大きなことが起きない10年だ。事業は堅いまま、稼ぐ力だけが平らな年の水準に戻る。
- 鉄道電気工事:数量 2,900(施工に当たる人数(人、推定))× 価格 56(1人当たり売上(百万円))→ 売上 1,610 億円・営業利益 121 億円。鉄道電気工事
- 一般電気・環境エネルギー工事:数量 860(施工に当たる人数(人、推定))× 価格 110(1人当たり売上(百万円))→ 売上 944 億円・営業利益 76 億円。一般電気・環境エネルギー工事
- 情報通信工事:数量 650(施工に当たる人数(人、推定))× 価格 64(1人当たり売上(百万円))→ 売上 417 億円・営業利益 33 億円。情報通信工事
- 関連事業等:数量 220(担当人数(人、推定))× 価格 45(1人当たり売上(百万円))→ 売上 100 億円・営業利益 18 億円。関連事業等
倍率:事業の純利益 177 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.0% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.9 倍、時価総額 2,283 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:繰越工事は1年分近くあるが、今の利益率は特需を含む山にある。平らな年の水準に戻るのをもっとも起こりやすいとみて3割台半ばに置いた。
やや悲観 24% 一般電気の特需が消え、単価も頭を押さえられる 利益 137 億円 · PER 10.3 倍 · 株価時価総額 3,243 円1,854 億円
一般電気の特需が消え、単価も頭を押さえられる筋書きだ。
JR東日本は設備投資を続けるが、人口減で旅客は伸びず、発注の単価を厳しく見る。鉄道電気の施工量は5%ほど減り、利益率は6%台に戻る。
一般電気では、データセンターや再開発の大型案件を競合に取られる。きんでんや関電工のような大手が価格で攻め、利益率は6%まで下がる。
売上は物価で3割弱ふえても、営業利益は200億円を切る。純利益は今より4分の1ほど少ない。
還元は続くが、自己資本が厚いのでROEは5%を割る。事業は残るが、資本をうまく使えない会社として評価される。
- 鉄道電気工事:数量 2,755(施工に当たる人数(人、推定))× 価格 54(1人当たり売上(百万円))→ 売上 1,484 億円・営業利益 96 億円。鉄道電気工事
- 一般電気・環境エネルギー工事:数量 817(施工に当たる人数(人、推定))× 価格 107(1人当たり売上(百万円))→ 売上 870 億円・営業利益 52 億円。一般電気・環境エネルギー工事
- 情報通信工事:数量 618(施工に当たる人数(人、推定))× 価格 62(1人当たり売上(百万円))→ 売上 385 億円・営業利益 27 億円。情報通信工事
- 関連事業等:数量 220(担当人数(人、推定))× 価格 44(1人当たり売上(百万円))→ 売上 97 億円・営業利益 15 億円。関連事業等
倍率:ROE 4.8%(純利益 137 億円 ÷ 自己資本 2874 億円)は資本コスト 7.75%に届かない。ためた利益は額面より低い価値しか持たないので、PER の上限は 1÷k = 12.9 倍。利益が細り、伸びと堀の持ちを低く見て、上限の 8 割の 10.3 倍に置いた。
確率:一般電気の追加工事と原価低減は繰り返しにくく、JR東日本との単価交渉も天井に当たる。この筋書きを4分の1近くに置き、悲観側へやや寄せた。
悲観 11% 発注者の内製化と競争で優良会社でなくなる 利益 75 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 1,245 円712 億円
発注者の内製化と競争で、優良会社でなくなる筋書きだ。
JR東日本が電気工事の発注先を広げ、グループ会社の位置づけも薄れる。鉄道電気の施工量は4分の1減り、単価も物価に追いつかない。利益率は4%台まで下がる。
一般電気では、人手が足りず大型案件を受けきれない。採算の悪い工事が重なり、利益率は4%にとどまる。通信の基地局工事も縮む。
営業利益は100億円を割り、今の4割に満たない。債務の心配はないが、稼ぐ力は資本コストを大きく下回る。株価は自己資本を大きく割り込む。
顧客が1社に偏る構造が、10年かけて弱みに変わる。
- 鉄道電気工事:数量 2,175(施工に当たる人数(人、推定))× 価格 50(1人当たり売上(百万円))→ 売上 1,081 億円・営業利益 49 億円。鉄道電気工事
- 一般電気・環境エネルギー工事:数量 731(施工に当たる人数(人、推定))× 価格 98(1人当たり売上(百万円))→ 売上 719 億円・営業利益 29 億円。一般電気・環境エネルギー工事
- 情報通信工事:数量 520(施工に当たる人数(人、推定))× 価格 55(1人当たり売上(百万円))→ 売上 287 億円・営業利益 13 億円。情報通信工事
- 関連事業等:数量 198(担当人数(人、推定))× 価格 41(1人当たり売上(百万円))→ 売上 80 億円・営業利益 8 億円。関連事業等
倍率:発注者の内製化と競争で、利益率が4%台に落ちた構造的な負け筋。純利益は 75 億円で、ROE は k 以下なので稼ぐ力は PER 上限 1÷k で約 968 億円。売れる資産は純現金 215 億円と投資有価証券の税引き後を 8 割に見積もった約 345 億円で約 560 億円と、稼ぐ力より小さい。ただし悲観は、やや悲観(時価総額÷純利益 10.7 倍)より倍率を高くしない。その 9 割の約 9.6 倍 × 純利益 75 億円 = 約 712 億円を、今の自己資本 2,158 億円に対する PBR 0.33 倍で表した。売れる資産 560 億円はこれより小さい。
確率:顧客が1社に偏り、人手も増やせない。JR東日本が発注先を広げるか内製化へ動けば、構造的な負けになる。1割強に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
鉄道電気工事
JR東日本を中心に、JR各社・民鉄・公営鉄道向けの鉄道電気工事。架線(電車線)・信号・変電所・通信設備の新設と更新、保守。日本電設電車線工事、日本電設信号工事、東日本電気エンジニアリングなどの子会社が担う。
| 数量施工に当たる人数(人、推定) | 価格1人当たり売上(百万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2,900 | 41 | 1,201 | 99 |
| 10 年後 中立 | 2,900 | 56 | 1,610 | 121 |
取り方:2026年3月期の鉄道電気工事の売上1,201億円・営業利益99億円(利益率8.3%)。人数は2025年3月期の部門別従業員数2,876人を基に、売上の伸びに合わせて約2,900人と置いた推定(協力会社の人数は含まない)。数量は実質、1人当たり売上は名目で物価並みに上がる想定。
一般電気・環境エネルギー工事
ビル・工場・データセンター・官公庁などの電気設備工事(一般電気)と、太陽光・風力・空調衛生などの環境エネルギー工事。駅前再開発も含む。
| 数量施工に当たる人数(人、推定) | 価格1人当たり売上(百万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 860 | 82 | 705 | 94 |
| 10 年後 中立 | 860 | 110 | 944 | 76 |
取り方:一般電気645億円・営業利益91億円、環境エネルギー60億円・営業利益2億円を合わせ、売上705億円・営業利益94億円と置いた。人数は両部門の2025年3月期の従業員数(791人と60人)に近い860人と置いた推定。協力会社に出す比率が高く、1人当たり売上は鉄道電気の約2倍に見える。
情報通信工事
携帯基地局・ネットワーク工事、鉄道の通信工事、インフラシェア(共同利用の通信設備)事業。
| 数量施工に当たる人数(人、推定) | 価格1人当たり売上(百万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 650 | 48 | 312 | 26 |
| 10 年後 中立 | 650 | 64 | 417 | 33 |
取り方:2026年3月期の情報通信工事の売上312億円・営業利益26億円(利益率8.3%)。人数は2025年3月期の641人に近い650人と置いた推定。数量は実質、1人当たり売上は名目。
関連事業等
不動産賃貸・ビル総合管理、電気設備の保守点検、資材販売、ソフト開発や設計、金属リサイクルなど新しい事業。
| 数量担当人数(人、推定) | 価格1人当たり売上(百万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 220 | 34 | 74 | 17 |
| 10 年後 中立 | 220 | 45 | 100 | 18 |
取り方:2026年3月期の関連事業等の売上75億円・営業利益17億円(利益率22.5%)。人数は2025年3月期の220人と置いた。賃貸不動産の利益が多く、人数と売上の結びつきは弱い。
リスクと懸念
JR東日本1社への依存
売上の約48%がJR東日本向けで、鉄道電気に限れば8割近くになる。同社が発注先を広げる、内製化を進める、単価を絞るといった動きに出れば、利益がまとめて動く。大株主であっても、発注者としては取引の相手方だ。分散が効かない構造的なリスクになる。
一般電気の利益率が山にある
一般電気工事の利益率は14%と、前の年の7%の2倍になった。大型案件の追加工事、原価低減、物価転嫁が一度に出た結果だ。会社は来期も13%台を見込むが、大型案件の竣工が一巡すれば、過去の6〜7%台に戻る可能性がある。全社の利益を数割動かす要因だ。
施工できる人手の不足
鉄道電気の技術者は育てるのに長い年月がかかり、対応できる協力会社も限られる。協力会社は後継者不足でもある。受注が増えても施工が追いつかず、売上の計上が後ろにずれる。人件費と外注費が物価より速く上がれば、単価の引き上げを上回って利益率を削る。
資本効率の低さ
自己資本比率は65%と厚く、ROEは過去10年の中央値で6.5%にとどまる。資本コストを下回る期間が長い。政策保有株の売却と自社株買いで資本を圧縮する計画だが、事業の利益が伸びなければ、還元だけでは評価が上がりにくい。工事立替金のふくらみで、現金が運転資金に吸われる点にも注意が要る。
特別利益と含み益への依存
政策保有株の売却益は特別利益に出て、毎年の純利益を押し上げる。2027年3月期の予想にも約30億円の特別利益が入る。保有銘柄が10銘柄まで減れば、この上乗せは細る。自己資本にはその他有価証券の評価差額金が約190億円入っており、株価が下がれば自己資本も目減りする。
新事業と買収の実行
インフラシェア、光芯線の貸出、金属リサイクルは、まだ売上が小さい。成長投資の枠は750億円で、M&Aも検討するが、買収先は示されていない。高い値段で買えば、自己資本の薄い稼ぎがさらに下がる。空調衛生など、経験の浅い分野の買収は失敗のリスクが高い。
今後の分かれ目
- JR東日本が電気工事の発注先を広げる、または内製化を進めると表明した時
- 鉄道電気の数量と単価が下がり、利益は半分近くまで落ちうる。10年の悲観の筋書きに近づく。
- 大型案件が竣工し、一般電気の利益率が1割を切った時
- 今の利益が特需だったと確認される。中立の筋書きより悲観寄りに進み、純利益は今の水準を割り込む。
- JR東日本が設備投資と修繕費を増やし、協力会社の増員で施工量が伸びた時
- 鉄道電気の売上と利益が積み上がり、強気の筋書きに近づく。ただし人手の制約で、伸びは緩やかになる。
- 政策保有株の売却が進み、自社株買いが大きく積み上がった時
- 自己資本の圧縮でROEが7%台後半まで上がる。事業の稼ぐ力が変わらなくても、倍率の上限が少し上がる。
- 空調衛生などで大型のM&Aを高い値段で決めた時
- ROEが下がり、のれんの償却も利益を削る。資本効率の面で評価が落ちる。
- JR東日本がTOB(公開買い付け)で子会社化を進めた時
- 買い付け価格は今の時価総額に上乗せされるのが普通で、上振れ要因になる。確率は低いとみて、筋書きには織り込んでいない。
見ておくもの
- 鉄道電気工事の受注高と、JR東日本向けの売上比率(5割を超えるか、下がるか)
- 一般電気工事の営業利益率(1割台を保つか、7%台に戻るか)
- 工事立替金・売上債権と短期借入の増減(運転資金に現金が吸われていないか)
- 政策保有株の銘柄数と売却額、自社株買いの規模
- 次の中期経営計画の目標(営業利益率とROEをどこに置くか)
- 連結従業員数と協力会社の採用人数(施工できる量が増えているか)
倍率と資本コストの決め方
倍率は、ROEと資本コスト7.75%の関係から決めた。中立のROEは6%前後で資本コストに届かないため、PERの上限は資本コストの逆数の12.9倍とし、その9割の11.6倍に置いた。今のPER12倍台は基準にしていない。資本コストは基本7.5%にquality+0.25%(値決め力)を足した。同じ領域の会社より鉄道電気の安定はあるが、顧客の偏りも大きく、差は小さくした。悲観は、稼ぐ力と売れる資産(純現金と投資有価証券の税引き後の8割)の大きい方を上限に、やや悲観より高くしない倍率で測り、谷のPBRは使っていない。純現金は時価総額の約1割で、工事立替金に吸われているので余った現金は分けていない。新リース会計基準の影響は小さいが、10年後の数字は今と同じ形で置いた。持ち合い株の評価差額金は配当が純利益に入っているので余り資産に足していない(二重を消した)。今の株価から逆算した値ではない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.2→13.4 倍・やや楽観 PER 12.3→12.9 倍・中立 PER 11.6→12.9 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 0.25% = 7.75%。理由は quality_why。個別のリスク(JR東日本への依存・一般電気の利益の振れ・M&Aの実行)は k に足さず、筋書きと確率で表した。