結論
鉄建建設は、鉄道工事に強い準大手ゼネコンだ。線路、駅、高架橋、トンネルを、JR東日本を中心に手がける。筆者の結論は「やや割高」。鉄道の仕事は堅いが、会社全体の利益が薄く、株主が求める稼ぎに届かない。
強みは、筆頭株主でもあるJR東日本との距離の近さだ。繰越工事は3,316億円と過去10年で最大で、数年先までの仕事はほぼ見える。粗利率も土木と建築の両方で上がった。
弱みは、利益の薄さと大口顧客への偏りだ。営業利益率は直近で3%台にとどまる。同業の準大手が5%台を出す中で、見劣りする。建築の不採算工事で、2024年3月期には営業利益率が0.5%まで落ちた。
中立の筋書きでは、営業利益は10年後に100億円弱へ伸びる。だがROEは7%前後で、資本コストの手前だ。今の株価は、会社の計画がほぼ当たる姿を映している。そこまで織り込むには、安全域が足りない。
見るべき点は三つある。建築の採算が定着するか、借入を減らせるか、鉄道の大口顧客に偏る弱さを他で補えるかだ。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「わかりやすいが、儲けにくい」事業だ。鉄道という強い顧客を持つ点は魅力だが、工事は毎年取り直しで、利益が景気と資材・人手の波で大きく振れる。過去20年に赤字の期が3回ある。
株主が受け取れる利益、つまり事業に再投資せず自由に使える利益は、純利益の7割ほどだと筆者は見る。工場も店も要らない事業なので、投資は多くない。ただ、売上が増える時には運転資金が膨らむ。2024年度のように、営業の資金繰りがマイナスになる年がある。
資本の使い方には注文がある。借入が時価総額の8割を超え、金利が上がると利払いが重い。政策保有株を売る方針は評価するが、売って得た現金を借入の返済と稼ぎの確かな工事に回してほしい。
安全域は薄い。楽観の筋書きでも、今の値段を大きくは上回らない。悲観では今の半分を割る。事業の質は悪くないが、払う値段が本質価値を超えるなら、筆者は手を出さない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの土台は土木だ。売上のほぼ半分を占める。中心は鉄道工事で、線路の改良、駅の改築、高架橋、トンネルを造る。羽田アクセス線や新宿駅周辺の東西デッキのような大型工事も受けた。高速道路の工事は、受注の2割ほどを4分の1まで増やす計画だ。
建築は売上の4割台半ばで、駅舎や駅ビル、車両基地のほか、官公庁の庁舎、防衛省の施設、工場やマンションを建てる。ここが長く足を引っ張った。物価高で採算が悪化した工事を抱え、粗利率は一時5%を割った。直近は7%台まで戻っている。
三つ目は不動産だ。売上は小さいが、物件の売却で利益が振れる。2026年3月期は4件を売った。
見逃せないのは技術だ。JR東日本と共同でプレキャスト高架橋を開発した。工場で作った部材を現場で組む工法で、人手を減らせる。深い穴を掘る深礎工法の機械化は、電力会社の鉄塔工事にも使える。子会社のジェイテックは、線路の下の構造物に強い。
こうした技術は、鉄道会社との長い付き合いから生まれた。他社が同じ関係を築くのは簡単でなく、鉄建建設の数少ない差になっている。
優良さと弱いところ
優良さを一言で言えば、「鉄道に強いが、薄利の準大手」だ。堀、つまり他社がまねできない強みは、鉄道工事の領域にだけある。
強みは三つある。一つ目は、JR東日本が株を2割近く持つ関係だ。計画の段階から技術を一緒に検討し、工事を取りやすい。二つ目は、線路を止めずに工事する、夜間・短時間の施工の経験だ。三つ目は、共同開発した工法で、人手不足の時代に値打ちが増す。
弱みも三つある。一つ目は、顧客の偏りだ。鉄道の投資が一巡すると、影響を直接受ける。二つ目は、建築の採算の悪さだ。2023年3月期と2024年3月期は、営業利益が10億円前後まで落ちた。三つ目は、資本の効率だ。ROEは過去10年の中央値で7%台、会社自身が置く株主資本コストにも届かない年が多い。
経営は変わり始めた。ROE10%を必達と掲げ、配当に自己資本の4%以上を下限とするルールを入れた。政策保有株の売却も進める。ただ、実績が伴うのはこれからだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の建設市場は、量が増えない成熟市場だ。人口が減り、地方の工事は細る。それでも今は、作れば儲かる局面にある。2024年4月に残業の上限規制が始まり、技能者が足りなくなった。受け手のゼネコンが仕事を選べるようになり、値上げが通る。
鉄道工事は、その中でも底堅い。新幹線や在来線の老朽化した橋・高架橋・トンネルは、更新の時期に入った。駅を中心とした再開発も続く。顧客はJR東日本をはじめとする鉄道会社で、予算の見通しが立てやすい。競合は、鉄道に強い大手のゼネコンと準大手だ。鹿島建設は鉄建建設の株主でもある。
建築は、データセンターや半導体工場の投資が当面は強い。ただ中堅の建築は入札と相見積りの世界で、価格を決める力が弱い。
10年先は、民間投資が一巡する。国内の工事量は実質で横ばいか、緩やかな縮小に向かうと筆者は見る。人が足りない業界では、売上を伸ばす力より、採算を守る力が差になる。小さな会社ほど、準大手どうしの統合や、大手の傘下に入る動きの対象になりやすい。
土木と建築を両方持つ準大手は多い。その中で鉄建建設は、鉄道という専門を持つ点で違う。ただ専門が深いほど、顧客の都合の影響も大きい。
資本政策と M&A
資本政策の軸は、配当の安定と政策保有株の整理だ。配当は、従来の利益の約5割を目安とする方式から、自己資本の4%以上を下限とする方式(DOE)へ変わる。景気が悪い年でも、配当を急に落とさない仕組みだ。自社株買いは選択肢の一つで、中心は配当にする。
政策保有株は、5年で累計100億円以上を売る計画だ。純資産に対する比率を、2028年度に20%未満へ下げる。当初は2026年度が期限だったが、後ろにずらした。売る銘柄は少しずつ増やしており、実行は着実だが遅い。
財務では、借入と自己資本の比率を0.8倍以下に抑える。直近は営業の資金繰りが悪化して、純有利子負債が500億円台へ膨らんだ。ここが最大の課題だ。
買収は小粒だ。子会社が深礎杭の専門会社を買った程度で、大きな買収で価値を壊すタイプではない。株主では、JR東日本が2割近くを持つ筆頭だ。自社の事業に深く関わるため、第三者が買収する余地は小さいと筆者は考える。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
鉄道工事の需要は、10年先まで見える。新幹線、在来線、駅の再開発は、老朽化と沿線開発で需要が続く。繰越工事は3,316億円と過去10年で最大で、受注も土木と建築の両方で伸びた。JR東日本が筆頭株主で、共同開発の工法もある。他社が簡単に入れない領域だ。
採算も上向いた。土木の粗利率は10.8%、建築は7.3%まで戻った。会社の目標は2028年度に土木13%、建築9.2%で、営業利益は110億円になる。直近の56億円から倍近い。物価高の不採算工事は、2026年度以降はほぼ消える。
資本の使い方も変わった。ROE10%を必達と掲げ、DOE4%以上の配当を決めた。政策保有株の売却は続き、財務の目標も明確だ。
資産面にも余裕がある。持ち合い株の時価は、時価総額のかなりの部分に当たる。事業の稼ぎだけを見ても、鉄道の堀を考えれば今の値段は安い。
中立の筋書きでも、会社の目標の8割ほどが実現すれば、利益は今の倍近くになる。
慎重な見方
利益の薄さは構造だ。営業利益率は過去10年で最良でも4%台で、直近は3%台だ。同業の準大手が5%台を出す中で、水準が一段低い。建築は入札の世界で、価格を決める力が弱い。2023年3月期と2024年3月期は、営業利益が10億円前後まで落ちた。会社の2028年度の目標は、この実績から見て背伸びが大きい。
顧客の偏りも重い。鉄道の投資が一巡すれば、土木の量は直接減る。JR東日本は大株主だが、発注の価格を甘くしてくれるわけではない。
資本の質にも問題がある。借入が重く、純有利子負債は時価総額の8割を超える。金利が上がれば、利払いは増える。営業の資金繰りも、2024年度に大きくマイナスになった。ROEは過去10年の中央値で7%台、資本コストに届かない。
配当の約束も両刃だ。DOEの下限は安心材料だが、利益が落ちる年に資金を食う。自己資本を使って払う形になりかねない。
会社の目標は、建築の利益率をほぼ倍にする計画で、実績の裏づけが足りない。楽観の筋書きは、この目標を当てにしすぎている。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方が強い。強気の見方が言う需要の確かさは本物で、繰越工事も厚い。だが値段を決めるのは、資本コストを上回る稼ぎが出せるかどうかだ。そこで利益の薄さと借入の重さが効く。確率は、中立に4割弱を置き、残りを慎重側にやや厚くした。悲観を1割強に置いたのは、過去に3期の赤字があり、鉄道への偏りが裏目に出れば谷が深いからだ。繰越工事の厚さは近い年の筋書きに織り込んだが、10年先の利益を守るものではない。会社の目標は、中立の利益では織り込まず、楽観の側に置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,512 円979 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,356 円378 億円)。 今の値に割り戻すと 2,455 円684 億円、今との差 +14.1%、 期待の年率 +8.5%(資本コスト 8.5%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 5,924 円1,650 億円 | 2,153 円600 億円 | +275.3% | +14.1% | 565 円158 億円 |
| やや楽観 | 16% | 4,811 円1,340 億円 | 1,723 円480 億円 | +203.6% | +11.7% | 1,045 円291 億円 |
| 中立 | 38% | 4,135 円1,152 億円 | 1,436 円400 億円 | +158.9% | +10.0% | 2,117 円590 億円 |
| やや悲観 | 27% | 2,376 円662 億円 | 1,184 円330 億円 | +65.5% | +5.2% | 961 円268 億円 |
| 悲観 | 12% | 957 円267 億円 | 538 円150 億円 | −30.5% | −3.6% | 179 円50 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,512 円979 億円 | 1,356 円378 億円 | +126.2% | +8.5% | 4,869 円1,356 億円 |
今の株価時価総額 2,152 円600 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 7% 鉄道の更新需要を取り切り、採算が定着 利益 112 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 5,924 円1,650 億円
JR東日本の新幹線・駅まち・高架橋の更新が10年を通じて続き、鉄道工事の量が実質で1割近く増える。共同開発のプレキャスト高架橋と機械化した深礎工法が他社との差になり、土木の利益率は6%に届く。高速道路は受注の4分の1まで高まる。建築は物価高の不採算工事が消え、官公庁と防衛施設、生産施設で利益率を4%台まで戻す。不動産は私募の売却益を積み上げ、利益が育つ。営業利益は140億円台で、会社が掲げる2028年度の110億円を大きく超える。配当はDOEの水準を超えて増え、ROEは10%に乗る。それでも国内の工事量が増えにくい点は変わらない。人手が足りない業界で、採算を守れた会社だけが取れる最良の姿だ。
- 土木:数量 128(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 1,283 億円・営業利益 77 億円。128万人日換算 × 1人日あたり 10.05万円、利益率 6.0%
- 建築:数量 117(施工量(万人日、実質))× 価格 9.65(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 1,127 億円・営業利益 51 億円。117万人日換算 × 1人日あたり 9.65万円、利益率 4.5%
- 不動産・その他:数量 350(不動産の保有・開発残高(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.27(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目。売却と賃貸の回転))→ 売上 94 億円・営業利益 13 億円。残高 350億円 × 回転 0.268、利益率 14%
倍率:事業の純利益 112 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.1% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.49 倍、時価総額 1,399 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:鉄道の更新、高速道路の拡大、建築の採算改善、不動産の育成がすべて当たる筋書き。連続して当たる必要があり、確率は低い。
やや楽観 16% 価格転嫁が続き、資本効率が上向く 利益 92 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 4,811 円1,340 億円
鉄道工事は堅調で、土木の量は実質で横ばいを保つ。高速道路の比率が少しずつ上がり、土木の利益率は5%台半ばになる。建築は不採算の工事を抱え込まなくなり、利益率は4%近くまで戻る。ただ地方の民間工事は伸びず、量は4%ほど減る。不動産は小さな黒字を積む。営業利益は110億円台で、会社の目標に近い姿だ。政策保有株は計画どおり売却され、代金は配当と成長投資に回る。ROEは8%台まで上がるが、資本コストには届かない。堅実にやっても、株主の期待を超える利益には最後まで届かない。借入は少しずつ減り、利払いの負担は和らぐが、金利の上昇がその効果を打ち消す。
- 土木:数量 122(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 1,222 億円・営業利益 66 億円。122万人日換算 × 1人日あたり 10.05万円、利益率 5.4%
- 建築:数量 112(施工量(万人日、実質))× 価格 9.65(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 1,082 億円・営業利益 41 億円。112万人日換算 × 1人日あたり 9.65万円、利益率 3.8%
- 不動産・その他:数量 300(不動産の保有・開発残高(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.27(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目。売却と賃貸の回転))→ 売上 80 億円・営業利益 10 億円。残高 300億円 × 回転 0.268、利益率 12%
倍率:事業の純利益 92 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.3% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 1,082 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:値上げが物価並みに通り、建築の採算が戻れば、ROEは資本コストに近づく。ただし鉄道一本足の弱さと国内の量の制約があり、これ以上は置かない。
中立 38% 量は横ばい、価格だけ上がる成熟 利益 76 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 4,135 円1,152 億円
鉄道の更新工事は続くが、10年で見れば量は実質で3%ほど減る。価格は物価並みに上がる。土木の利益率は5%近くまで戻る。建築は不採算工事が消えて3%台に乗るが、中堅の入札競争で、それ以上は上がらない。不動産は規模を保ち、売却益が年ごとに振れる。営業利益は100億円弱になり、過去の最良期を名目で超える。借り換えで利払いは増え、純利益はその分だけ伸びが鈍る。配当はDOEの目安を守り、自己資本は少しずつ厚くなる。政策保有株の売却代金は、借入の返済に回る。ROEは7%前後と、資本コストの手前にとどまる。大きな失敗も成功もない、平らな10年だ。
鉄道の信頼は崩れず、建築の薄利も大きくは悪化しない。会社の目標には届かないが、赤字にもならない、最も起こりそうな姿だ。
- 土木:数量 118(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 1,186 億円・営業利益 57 億円。118万人日換算 × 1人日あたり 10.05万円、利益率 4.8%
- 建築:数量 108(施工量(万人日、実質))× 価格 9.65(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 1,037 億円・営業利益 33 億円。107万人日換算 × 1人日あたり 9.65万円、利益率 3.2%
- 不動産・その他:数量 270(不動産の保有・開発残高(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.27(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目。売却と賃貸の回転))→ 売上 72 億円・営業利益 7 億円。残高 270億円 × 回転 0.268、利益率 10%
倍率:事業の純利益 76 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.1% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 894 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:量は実質で横ばいか少し減り、価格は物価並み。会社の採算改善が部分的に効く、最も標準的な姿。
やや悲観 27% 鉄道の発注が細り、建築の薄利が戻る 利益 49 億円 · PER 7.4 倍 · 株価時価総額 2,376 円662 億円
JR東日本の投資が一巡し、鉄道工事の量が実質で1割近く減る。他の鉄道会社や高速道路で穴を埋めようとするが、入札で値が崩れる。土木の利益率は4%を割る。建築は物価高の局面が終わり、再び2%台の薄利に戻る。不動産は金利の上昇で売却益が細る。営業利益は70億円弱にとどまり、利払いの増加で純利益は50億円を割る。配当はDOEの下限を守るが、自己資本は厚くならず、ROEは5%ほどだ。会社は政策保有株の売却を続けるが、代金は稼ぐ力を高めない。資本コストを稼げない会社として、評価は低いままだ。人手不足の中でも仕事を選べず、採算の悪い工事を抱え込む。会社の改善策は、途中で止まってしまう。
- 土木:数量 112(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 1,125 億円・営業利益 43 億円。112万人日換算 × 1人日あたり 10.05万円、利益率 3.8%
- 建築:数量 99.3(施工量(万人日、実質))× 価格 9.65(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 958 億円・営業利益 19 億円。99万人日換算 × 1人日あたり 9.65万円、利益率 2.0%
- 不動産・その他:数量 220(不動産の保有・開発残高(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.27(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目。売却と賃貸の回転))→ 売上 59 億円・営業利益 5 億円。残高 220億円 × 回転 0.268、利益率 8%
倍率:ROE 4.9%(純利益 49 億円 ÷ 自己資本 1,004 億円)。事業の ROE が資本コスト k 8.5% 以下で、正当化 PER の上限は 1÷k = 11.1 倍。鉄道の発注が細り建築が薄利に戻る局面で、稼ぐ力は 540 億円ほどにしかならず、上限の約 7 割の 7.4 倍に置いた。
確率:建築の薄利は長く続いた癖で、人手不足の中でも元に戻りやすい。大口の顧客が一つに偏る弱さも重く、中立に近い厚みで置いた。
悲観 12% 鉄道頼みが裏目に出て、建築も赤字に沈む 利益 6 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 957 円267 億円
鉄道の投資が大きく減り、土木の量は実質で2割以上縮む。他社との価格競争で、土木の利益率は2%まで落ちる。建築は人手不足の中で採算の悪い工事に手を出し、損失が出て営業利益はほぼゼロになる。不動産も評価損が出る。営業利益は20億円弱で、利払いを引くと純利益はほとんど残らない。自己資本は減損と赤字で目減りし、配当も下限に近い。借入が重く、再編や外部資本の受け入れが現実の選択肢に上る。稼ぐ力の回復は見えない。鉄道一本足の強みが、そのまま弱みに変わる姿だ。配当は、持ち合い株の売却代金と借入で賄うことになる。
- 土木:数量 94.8(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 953 億円・営業利益 19 億円。95万人日換算 × 1人日あたり 10.05万円、利益率 2.0%
- 建築:数量 75.9(施工量(万人日、実質))× 価格 9.65(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 732 億円・営業利益 0 億円。76万人日換算 × 1人日あたり 9.65万円、利益率 0%
- 不動産・その他:数量 120(不動産の保有・開発残高(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.27(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目。売却と賃貸の回転))→ 売上 32 億円・営業利益 0 億円。残高 120億円 × 回転 0.268、利益率 0%(評価損)
倍率:構造的に優良でなくなり、建築と不動産の損失も出た姿。純利益 6 億円では稼ぐ力は 70 億円ほどで、床は売れる資産で測る。総資産 2,560 億円を強制売却で 8 割しか回収できず、負債 1,780 億円は全額払うとして残る約 270 億円(持ち合い株と土地を含む)を、今の自己資本 784 億円に対する PBR 0.34 倍に置いた。営業利益は 20 億円弱と小さく、EV ÷ 営業利益は谷の年の数字として参考にならない。
確率:大口顧客の投資縮小と建築の不採算の再燃が重なり、構造的に優良でなくなる筋書き。過去に3期の赤字と、直近の薄利の経験があり、1割強に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
土木
鉄道の改良・新設、トンネル、橋・高架橋、高速道路の工事。JR東日本向けの鉄道工事が柱で、売上の約半分を占める。
| 数量施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質) | 価格1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 122 | 7.50 | 912 | 40 |
| 10 年後 中立 | 118 | 10 | 1,186 | 57 |
取り方:土木の売上912億円、粗利率10.8%(決算説明)。粗利は約98億円で、販管費を売上比で配分して営業利益を約40億円と推定した。開示は無いので、技能者の労務費を売上の約35%、日当を約2.5万円と置いて施工量を約122万人日とした。売上を労務量で割った1人日あたり売上が価格に当たり、物価の分は価格に入る。
建築
駅舎・駅ビル、車両基地のほか、官公庁・防衛施設、生産施設、マンションなどの建築工事。
| 数量施工量(万人日、実質) | 価格1人日あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 117 | 7.20 | 841 | 7 |
| 10 年後 中立 | 108 | 9.65 | 1,037 | 33 |
取り方:建築の売上841億円、粗利率7.3%(決算説明)。粗利は約61億円。販管費を売上比で引くと営業利益は小さく、約7億円と推定した。建築と同じ要領で、労務量を約117万人日とした。建築は材料の割合が高いので、1人日あたり売上は土木よりやや低めに置いた。
不動産・その他
不動産の開発・売却・賃貸と、連結の調整。売上は年ごとの売却で大きく振れる。
| 数量不動産の保有・開発残高(億円、今の値段で測った実質。推定) | 価格残高1億円あたりの年間売上(億円・名目。売却と賃貸の回転) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 225 | 0.20 | 45 | 9 |
| 10 年後 中立 | 270 | 0.27 | 72 | 7 |
取り方:不動産の売上52億円(決算説明)から連結の調整約7億円を引いて45億円、営業利益は約9億円と推定した。残高は開示されておらず、回転を0.2倍と置いて約225億円とした。筆者の推定である。
リスクと懸念
鉄道の投資が一巡し、顧客の偏りが裏目に出る
土木の柱は鉄道工事で、顧客はJR東日本が中心だ。大型の更新や再開発が一巡すれば、量が直接減る。大口の顧客が大株主である関係は、受注を支える一方、発注側が価格の交渉で有利になりやすい面もある。他の鉄道会社や高速道路で穴を埋める力が、試される。
建築の薄利と不採算工事が再燃する
建築の営業利益は、2023年3月期と2024年3月期に10億円前後まで落ちた。物価高の工事を抱え込んだためだ。会社は不採算の比率をほぼ解消すると説明するが、中堅の建築は入札で競り、人手不足でも採算の悪い工事を取らざるを得なくなる恐れがある。
借入が重く、金利の上昇が利益を削る
純有利子負債は500億円台で、時価総額の8割を超える。営業の資金繰りは、2024年度に大きくマイナスになった。借り換えで金利が上がると、純利益は10年で10億円ほど削られる。配当の下限を守る分、資金繰りの余裕はさらに薄くなる。
景気の谷で受注と採算が急減する
ゼネコンの利益は、景気の山と谷で大きく振れる。鉄建建設は2007年3月期、2012年3月期、2013年3月期に赤字を出した。今の高めの粗利率は需給が締まった局面のもので、民間投資が一巡すれば、先に崩れるのは新規受注の採算だ。
政策保有株の売却が稼ぎを増やさない
政策保有株は、5年で100億円以上を売る計画だが、期限は後ろにずれた。株価が下がる局面では時価も同時に下がり、売却益も減る。売って得た現金を借入の返済に使うだけでは、事業の利益は増えない。資本の効率を上げるには、稼ぎの確かな工事への再投資が要る。
人手不足で施工量が頭打ちになる
2024年問題のあと、技能者の確保が最大の制約になった。人が足りなければ、受注があっても売上に変えられない。労務費の上昇は利益率を削る。会社の高い目標は、工法の機械化と人員の確保がともに進むことを前提にしている。
今後の分かれ目
- 土木の粗利率が2期続けて12%を超えたら
- 会社の2028年度の目標が現実味を帯びたと見て、やや楽観以上の確率を上げる。
- 建築の粗利率が2期続けて7%を割ったら
- 不採算工事が再燃したと見て、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- JR東日本が鉄道の投資計画を縮小したら
- 土木の量を下方に直し、中立の利益を数十億円削る。
- 政策保有株の売却代金を借入の返済と稼ぎの確かな投資に使ったら
- 資本の使い方の評価を上げ、ROEの改善を織り込んで楽観側の確率を少し増やす。
- 準大手どうしの統合や、JR東日本による追加出資などの再編が出たら
- 統合後の資本効率次第。規模が増え採算が上がるなら価値を押し上げ、割高な買収なら下げる。
- 営業の資金繰りが2期続けてマイナスになったら
- 運転資金の悪化と見て、借入の重さを理由に悲観側の確率を上げる。
見ておくもの
- 四半期ごとの受注高と繰越工事の推移
- 土木・建築の粗利率(会社目標は2028年度に13.0%と9.2%)
- 営業キャッシュフローと純有利子負債(借入と自己資本の比率の目標は0.8倍以下)
- 政策保有株の売却額と、その代金の使い道
- JR東日本の鉄道投資計画と、他の鉄道会社・高速道路の受注比率
- 配当の下限(DOE4%以上)が利益の落ち込みの年に守られるか
倍率と資本コストの決め方
倍率は、ROE が資本コスト k 8.5%(基本 7.5% + quality 1.5%)に届かない前提で、正当化 PER の上限(1÷k = 約 11 倍)の約 8 割に置いた。やや悲観・悲観は、稼ぐ力と売れる資産から置き、悲観の床は総資産の 8 割回収・負債全額払いで残る約 270 億円を今の自己資本に当てた。谷の PBR や今の PER から決めてはいない。今の株価を見てから決めたわけでもない。純有利子負債は 500 億円台で純現金ではないため、余った現金は分けていない。純利益には政策保有株の配当や売却益が含まれるので、直近の 50 億円は使わず、事業の利益から積んだ。数量は人日で推定した値で、数量と価格の分け方には誤差がある。会社の 2028 年度の目標(営業利益 110 億円)は、中立でなく楽観の側に置いた。2028 年 3 月期から新リース会計基準で BS の形が変わるが、数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。持ち合い株の評価差額金は配当が純利益に入っているので余り資産に足していない(二重を消した)。今の株価から逆算した値ではない。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 1.5% = 9.0%。理由は quality_why。個別のリスク(鉄道への偏り・M&A の実行など)は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.00% → 8.50%。