結論
中電工は中国電力グループの電気工事会社だ。中国電力が株式の 41% を持ち、売上の 4 分の 1 を中国電力向けが占める。一方で、稼ぎの中心は民間のビル・工場・再開発などの一般工事に移っている。
筆者の結論は、今の株価はやや割高というものだ。いちばんの理由は資本効率にある。自己資本比率は 77% と極端に厚く、ROE は 7.6% で資本コストの 8% に届かない。稼いだ利益を使い切れない会社に、高い倍率は払えない。
直近の決算は強い。2026 年 3 月期の営業利益は 262 億円で、営業利益率は過去最高の 11.5% だった。人手不足で値上げが通り、一般工事の受注環境が良かった。ただ、この利益率は過去 10 年の中央値の約 2 倍にあたる。筆者はこれを山とみて、10 年後は 10% 前後まで戻ると置いた。
支えは 2 つある。1 つは純現金が 436 億円と厚いことだ。もう 1 つは、止められない配電・送電の保守と更新の仕事だ。この 2 つで悲観の深さは浅くなる。ただし利益率がピークから戻り、ROE が資本コストを下回り続ければ、PBR 1 倍を超える値付けは続かない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で、まず問うべきは、この会社を 10 年持ち続けたいかだ。筆者の答えは、持てば堅実だが、価格次第という留保が付く。事業は止まらない。ただ、買った資本に対する稼ぎが資本コストに届かない。
良い面は 2 つある。1 つは、電力会社向けの止められない仕事と、77% の自己資本比率が生む安全域だ。もう 1 つは、今の利益率が示すように、値上げが通りやすい環境にあることだ。
悪い面は、資本の使い方にある。純現金と投資有価証券を厚く抱え、ROE を押し下げている。10 年で見ても、稼ぐ利益の大半は、使い道がなく積み上がるか、配当に回る。再投資で資本コストを上回る稼ぎを生める場面が少ない。
筆者は、安全域が欲しい。今の PBR は 1 倍を超え、利益率が過去最高の年の稼ぎに高い倍率を掛けている。この組み合わせでは、払う値段に安全域がない。安全域が出るのは、利益率が戻ったあとの株価か、資本効率が上がる動きが見えたときだ。
何で稼ぐ会社か
事業は大きく 2 つに分かれる。1 つは中国電力向けの配電線・送電線・発変電設備の工事と保守だ。もう 1 つは、民間企業や官公庁向けの電気設備・空調・情報通信設備の工事だ。
電力会社向けは、売上の約 4 分の 1 を占める安定した柱だ。停電を直す仕事や老朽設備の更新は止められない。ただ、中国電力はコスト削減を求め続けており、山間部では設備そのものが減っている。単価は上がりにくい。
稼ぎの伸びを担うのは一般工事だ。2026 年 3 月期は、この部門で受注額の増加と受注時の採算改善が同時に起きた。工場、物流施設、再開発の電気工事が中心で、首都圏や関西でも受注を取りにいっている。1 件ごとの入札や相見積りで決まる仕事で、値段は市場が決める。
海外にはマレーシアとシンガポールを中心に拠点があり、持分法適用の関連会社も持つ。2023 年 3 月期には海外事業の投資損失で最終赤字に転落した。会社の事業の本体は国内の電気工事で、海外は小さいが、一度は大きな傷を負った分野だ。
電力会社向けと一般工事は、同じ施工体制の上で動く。配電で培った現場の管理力と協力会社のネットワークが、民間工事の品質と納期の安定にも効いている。人手不足の時代に、現場を動かせる人の数そのものが、中電工の最大の資産だ。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、中国地方での電力会社との長い関係と、5 県に張りめぐらした施工体制だ。配電工事は地域ごとに系列の会社が担う準寡占で、電力会社との関係は他社が簡単に入れない強みだ。
ただ、その堀は広がらない。守っている市場自体が人口減で縮み、発注元の中国電力は値下げを求める立場にある。親会社の持分が 41% で、発注先でもある関係は、安定をもたらす一方、価格交渉で強く出られない弱みにもなる。
一般工事には堀らしい堀がない。入札と相見積りが基本で、値段は市場が決める。いまの利益率の高さは、人手不足で競合も受注を絞っているという需給の追い風によるものだ。筆者はこの追い風を、構造的な強みとは見ない。
資本効率は低い。自己資本比率 77% で、ROE は過去 10 年の中央値が 3.7%、直近でも 7.6% だ。今期の会社予想でも 8.7% にとどまり、資本コストを超えない。経営の資本配分では、2023 年 3 月期の海外投資損失が重い。純現金を厚く積む姿勢は安全だが、株主の目では「使い道がない現金」でもある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の電気工事の受注は、2023 年度で約 3.4 兆円とされる。再生可能エネルギーの系統接続、データセンターや工場の受電設備、EV 充電器など新しい需要が、既存のビル・配電の工事に積み上がっている。2025 年 9 月の単月受注も前年同月比 13.6% 増と好調だ。
電力系の電気工事会社は 7 社ある。きんでん、関電工、中電工、トーエネック、ユアテック、四電工、クラフティア(旧・九電工)だ。それぞれが地域の電力会社を親会社に持つ。売上の規模は、きんでんと関電工が 7 千億円前後、中電工は 2,278 億円と中位の位置にいる。
中電工が抱える弱みは地域だ。きんでんは関西と首都圏、関電工は東京電力圏という巨大市場を持つ。中国地方は人口が減る。会社は以前から、山間部の市場縮小に対し、首都圏など都市部で受注を取ることを掲げてきた。他社と違い、地元の成長に乗れない分を、遠くで取りにいく必要がある。
10 年先は、配電設備の更新と再エネ接続が需要の柱として残る。一方、人手の制約がきつくなる。技能者が足りず、受注を絞らざるをえない局面も増える。この制約は、値上げを通しやすくするが、数量を伸ばしにくくもする。数量は横ばい、価格は物価並みという置き方が、素直な見立てだ。
資本政策と M&A
還元は DOE(連結株主資本配当率)で決める。2026 年 3 月期から目安を 2.7% から 3.0% に引き上げた。配当性向は約 4 割にとどまる。2024 年 12 月には約 14 億円の自己株式を取得したが、規模は小さい。
純現金が 436 億円ある。時価総額の 16% にあたる。この現金が事業に全部必要とは思えない。ただ、大株主の中国電力が 41% を持つ親子上場の構造では、現金を一気に株主へ戻す圧力がかかりにくい。筆者は、戻り方を半分に見積もった。
M&A は小粒だ。2016 年に杉山管工設備と早水電機工業、2017 年にシンガポールの RYB ENGINEERING、2020 年に昭和コーポレーションを傘下に入れた。2020 年以降の買収はない。2023 年 3 月期の海外投資損失が、拡大に慎重な姿勢の背景にある。
中電工自身が買収される可能性は低いと見る。親会社の持分が厚く、系列の関係を壊す動機を持つ買い手も出にくい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
一般工事の受注環境は、今も強い。1Q 末の繰越高は 2,334 億円と前年から 571 億円増え、第 1 四半期末としては過去最高だった。人手不足で業界全体が受注を絞るため、値上げは通りやすい。この構図が数年で崩れる理由は見当たらない。
2026 年 3 月期の営業利益 262 億円は、かつて会社が 2030 年度の目標に掲げた 170 億円を、すでに大きく超えた。今期の予想も営業利益 270 億円とさらに上を見ている。10% 台の営業利益率が定着すれば、今の PER は高くない。
電力会社向けの仕事も安泰だ。配電設備の老朽化更新、再エネの系統接続、送電網の強化は、国の方針に沿った長期の需要だ。止められない仕事が 4 分の 1 あるから、景気が悪くなっても谷は浅い。
資本政策も変わっている。DOE の目安を 3.0% に引き上げ、自己株式の取得にも踏み出した。純現金 436 億円は、追加の還元にも、新しい買収にも使える余力だ。ROE が 8.7% の予想から 9% 台へ上がる余地は十分にある。
慎重な見方
今の利益率は山だ。営業利益率 11.5% は、過去 10 年の中央値の約 2 倍にあたる。人手不足による値上げという追い風が、10 年続く保証はない。競合が人材を確保すれば、入札競争は元に戻る。
電力会社向けは、売上の 4 分の 1 を占めるが、親会社の中国電力はコスト削減を求め続けている。中国地方は人口が減り、山間部の設備は縮む。更新の需要はあっても、数量は増えにくく、単価も上がりにくい。
資本効率が低いことは、構造の問題だ。ROE は直近で 7.6%、会社予想でも 8.7%で、資本コストの 8% を超えない。自己資本比率 77% を保ったまま ROE を上げるには、現金を大きく戻すしかないが、親会社が 41% を握る親子上場では、強い圧力がかからない。
2023 年 3 月期に、海外事業の投資損失で最終赤字になった事実も重い。経営が海外へ再び資本を出すなら、同じ失敗が繰り返される恐れがある。今の PBR は 1 倍を超え、PER は 14 倍台だ。ROE が資本コストに届かない会社に、この値付けは高い。
どちらに重みを置いたか
強気の見方には実績がある。ただ、その実績は利益率が過去最高の年のもので、10 年続けて維持できる前提にはならない。慎重な見方の、資本効率が資本コストに届かないという指摘は、利益率が元に戻らなくても残る問題で、重く見た。確率は、中立に 3 分の 1 を置き、やや悲観を楽観側より 1 割ほど厚くした。10 年後の本質価値は、今の時価総額を 2 割台後半下回る。やや割高の判定だが、純現金と止められない仕事が悲観の深さを浅くしている。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 6,346 円3,360 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,254 円1,194 億円)。 今の値に割り戻すと 4,649 円2,462 億円、今との差 −10.8%、 期待の年率 +5.1%(資本コスト 7.5%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 10,565 円5,595 億円 | 2,927 円1,550 億円 | +159.0% | +10.0% | 1,349 円715 億円 |
| やや楽観 | 22% | 8,195 円4,340 億円 | 2,644 円1,400 億円 | +108.0% | +7.6% | 2,384 円1,263 億円 |
| 中立 | 33% | 7,039 円3,728 億円 | 2,455 円1,300 億円 | +82.2% | +6.2% | 3,133 円1,659 億円 |
| やや悲観 | 23% | 3,903 円2,067 億円 | 1,983 円1,050 億円 | +13.0% | +1.2% | 1,354 円717 億円 |
| 悲観 | 12% | 2,213 円1,172 億円 | 944 円500 億円 | −39.4% | −4.9% | 379 円201 億円 |
| 加重平均 | 100% | 6,346 円3,360 億円 | 2,254 円1,194 億円 | +65.1% | +5.1% | 8,599 円4,554 億円 |
今の株価時価総額 5,210 円2,759 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 10% 楽観:民間の設備投資と電力設備の更新が重なり、利益率が高止まりする 利益 330 億円 · PER 15.6 倍 · 株価時価総額 10,565 円5,595 億円
中国地方でも工場・物流施設・再開発の電気工事が途切れず、首都圏と関西で取った案件も積み上がる。人手不足は続くが、中電工は選別受注と値上げで利益を守り、一般工事の営業利益率は 13% 台で踏みとどまる。電力会社向けは、老朽化した配電設備と送電線の更新、再生可能エネルギーの系統接続が増え、単価も物価を上回って上がる。自動化・省人化の投資で 1 人当たりの完成工事高も伸びる。余った現金は還元に回り、配当は純資産に対する 3% の目安を超えて増える。親会社の中国電力への依存は 2 割台のままで、会社の稼ぐ力は今より強くなっている。筆者がこの筋書きに重みを置けないのは、地方の人口減と親会社の発注抑制を同時に外す必要があるからだ。
- 電力会社向け(配電・送電・発変電):数量 1,350(工事要員数(人、推定))× 価格 60(1 人当たり完成工事高(百万円))→ 売上 803 億円・営業利益 68 億円。更新・再エネ接続で受注増、単価は物価超
- 一般工事(民間・官公庁の電気設備):数量 3,550(工事要員数(人、推定))× 価格 76(1 人当たり完成工事高(百万円))→ 売上 2,709 億円・営業利益 352 億円。一般工事の好況が続き選別受注で採算を守る
倍率:事業の純利益 326 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.1% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)250 億円。全体の PER 15.62 倍、時価総額 5,350 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:一般工事の好況が長く続き、電力会社向けの更新工事も積み上がる組み合わせで、実現すれば資本効率は一段上がるが、地方の人口減と親会社の発注抑制を同時に外す必要があり、重くは置けない。
やや楽観 22% やや楽観:一般工事の採算が大きくは崩れず、電力向けも底堅い 利益 268 億円 · PER 14.5 倍 · 株価時価総額 8,195 円4,340 億円
一般工事の需要は、データセンターや物流施設の波が一巡したあとも緩やかに増える。人手不足で値上げが通りやすい状況は続き、営業利益率は 10% 台後半で落ち着く。電力会社向けは更新工事が下支えとなり、数量は横ばい、単価は物価並みに上がる。海外事業は 2023 年 3 月期に大きな損失を出した反省から、新規の投資は慎重に絞られる。純現金は厚いままで、DOE(連結株主資本配当率)3.0% の目安に沿った増配と、必要に応じた自己株式の取得で資本効率は少しずつ上がる。ただ、ROE は資本コストをわずかに超える程度にとどまる。電力会社向けの数量は山間部の縮小で緩やかに減るが、単価の上昇がそれを補う。首都圏と関西の拠点も、受注の伸びを後押しする。
- 電力会社向け(配電・送電・発変電):数量 1,300(工事要員数(人、推定))× 価格 58(1 人当たり完成工事高(百万円))→ 売上 751 億円・営業利益 56 億円。更新工事が下支え、単価は物価並み
- 一般工事(民間・官公庁の電気設備):数量 3,350(工事要員数(人、推定))× 価格 72(1 人当たり完成工事高(百万円))→ 売上 2,412 億円・営業利益 289 億円。値上げが定着し採算が高めで安定
倍率:事業の純利益 264 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.7% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)250 億円。全体の PER 14.45 倍、時価総額 4,072 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:一般工事の好況は一巡しても、人手不足による値上げの定着と電力設備の更新が残る。実現性は高いが、利益率が今の水準を保つには入札環境が荒れないことが要る。
中立 33% 中立:利益率は今のピークから少し戻り、電力向けは緩やかに細る 利益 229 億円 · PER 13.8 倍 · 株価時価総額 7,039 円3,728 億円
一般工事の好況は落ち着き、営業利益率は今の 11% 台から 10% 前後へ戻る。数量は人手の制約で横ばいにとどまり、売上は主に物価で伸びる。電力会社向けは、配電設備の更新が続く一方で、中国電力のコスト削減要請と山間部の需要縮小で数量はやや減り、単価の伸びも物価をわずかに下回る。一般工事の価格も入札と相見積りの競争で、物価の 10 年 1.34 倍には届かず 1.30 倍にとどまる。新しい成長の柱は育たないが、大きく崩れることもなく、純現金と安定した受注に支えられて、配当は DOE 3.0% の目安を保つ。
- 電力会社向け(配電・送電・発変電):数量 1,250(工事要員数(人、推定))× 価格 56(1 人当たり完成工事高(百万円))→ 売上 700 億円・営業利益 49 億円。更新は続くが山間部の縮小で数量はやや減る
- 一般工事(民間・官公庁の電気設備):数量 3,200(工事要員数(人、推定))× 価格 70(1 人当たり完成工事高(百万円))→ 売上 2,234 億円・営業利益 246 億円。好況が落ち着き利益率は今より低下
倍率:事業の純利益 226 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.9% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)250 億円。全体の PER 13.75 倍、時価総額 3,351 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:業種ノートの中立(名目で緩やかな増加)に沿う。今は利益率が過去最高の年で、中立では 10% 前後まで戻ると見る。親会社の中国電力と地方の人口減が重しになる点で、同じ領域の中でも中立の重みを大きく置いた。
やや悲観 23% やや悲観:親会社の発注が細り、一般工事の採算も元の水準へ戻る 利益 142 億円 · PER 9.3 倍 · 株価時価総額 3,903 円2,067 億円
一般工事の採算は、人手不足による値上げが一巡し、競合との入札競争が戻って過去の水準に近づく。営業利益率は 7% 台まで下がる。電力会社向けは、中国電力の設備投資が抑えられ、山間部を中心に数量が減る。単価も競争で物価に届かない。海外の持分法適用会社は、2023 年 3 月期のような損失の再発リスクを抱え続ける。純現金は厚いが、成長の使い道がなく、配当と自己株式の取得で返す守りの資本政策になる。会社は安定しているが、資本効率の低い会社になる。株主から見ると、配当は出るが成長が止まった会社であり、持ち続ける理由が薄れていく。海外の関連会社の整理や撤退が進んでも、新しい成長の柱は見当たらない。
- 電力会社向け(配電・送電・発変電):数量 1,150(工事要員数(人、推定))× 価格 54(1 人当たり完成工事高(百万円))→ 売上 620 億円・営業利益 37 億円。中国電力の設備投資抑制で数量減
- 一般工事(民間・官公庁の電気設備):数量 2,800(工事要員数(人、推定))× 価格 66(1 人当たり完成工事高(百万円))→ 売上 1,834 億円・営業利益 165 億円。入札競争が戻り採算は過去水準へ
倍率:余った現金・余り資産 289 億円を分けると、事業の純利益 138 億円(税後利息を除く)・事業の自己資本 2,738 億円・事業の ROE 4.9%。事業の ROE が資本コスト k 7.5% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER は 1÷k = 12.5 倍。事業の ROE が 5% に届かず、伸びも堀も低く見て、上限の 7.4 割の 9.3 倍に置いた。事業 139 億円 × 9.3 倍 + 余り 94 億円(帳簿 188 億円 × 戻り方 0.5)で時価総額 1,484 億円。
確率:一般工事の好況が一巡したあと、利益率が過去の水準に近づく流れは現実的。同じ領域の会社より地方色が強く、人口減の影響を受けやすいので、やや悲観の重みを大きめに置いた。
悲観 12% 悲観:親会社と地方市場が同時に細り、一般工事は価格競争に負ける 利益 30 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 2,213 円1,172 億円
中国地方の人口減が加速し、電力会社は設備投資を絞る。系列からの安定した受注という下支えが細り、山間部の保守工事も減る。一般工事は、人手不足で受注を絞らざるを得なくなる一方、残った案件は競合との価格競争で採算が崩れる。営業利益率は 3% 台まで落ちる。海外の関連会社でも再び損失が出て、評価損や引当金の計上が続く。純現金の取り崩しと投資有価証券などの資産の売却で配当を払うが、本業の稼ぐ力だけでは足りず、配当は目安の DOE 3.0% から大きく削られる。会社は、他社に取り残された地方の電気工事会社になっている。時価総額は、稼ぐ力ではなく、売れる資産の価値で測られる水準まで下がる。親会社の中国電力は 4 割の持分を保ったまま、発注の方針を変えない。
- 電力会社向け(配電・送電・発変電):数量 900(工事要員数(人、推定))× 価格 47(1 人当たり完成工事高(百万円))→ 売上 427 億円・営業利益 13 億円。電力会社の発注が細り数量が大きく減る
- 一般工事(民間・官公庁の電気設備):数量 2,300(工事要員数(人、推定))× 価格 60(1 人当たり完成工事高(百万円))→ 売上 1,382 億円・営業利益 48 億円。価格競争と受注の絞り込みで採算が崩れる
倍率:構造的に採算が崩れ、純利益は 30 億円と稼ぐ力は 400 億円にも届かない。そのため床は売れる資産で測る。総資産 3,176 億円を強制売却で 60% の約 1,910 億円で回収し、負債約 730 億円を全額払って残る約 1,170 億円を、今の自己資本 2,442 億円に対する PBR 0.48 倍(時価総額 1,172 億円)に置いた。谷の年は営業利益が 41 億円と小さく、EV÷営業利益は参考にならない。
確率:地方の人口減・親会社の発注抑制・一般工事の価格競争・海外投資の損失が重なる構造的な負け。海外事業で大きな損失を出した実績があるので、5% を超える確率で置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
電力会社向け(配電・送電・発変電)
中国電力向けの配電線・送電線・発変電設備の建設・更新・保守と、再生可能エネルギーの系統接続。売上の約 4 分の 1 を占める。
| 数量工事要員数(人、推定) | 価格1 人当たり完成工事高(百万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,300 | 43 | 560 | 39 |
| 10 年後 中立 | 1,250 | 56 | 700 | 49 |
取り方:中国電力向けの売上が全体の 24.5%(有価証券報告書)なので 2026/03 期の売上 2,278 億円の約 560 億円とした。要員数は開示がなく、連結の工事要員を約 4,500 人と置いた推定の一部。単価は売上÷要員数で逆算。数量は実質、単価は物価で上がる名目。営業利益は一般工事より低い 7% と置いた推定。
一般工事(民間・官公庁の電気設備)
工場・物流施設・ビル・再開発・官公庁向けの電気設備、空調、情報通信設備の工事と、グループ会社の工事。
| 数量工事要員数(人、推定) | 価格1 人当たり完成工事高(百万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3,200 | 54 | 1,718 | 223 |
| 10 年後 中立 | 3,200 | 70 | 2,234 | 246 |
取り方:全社の売上から電力会社向けを除いた残り。要員数は連結の工事要員の推定約 4,500 人から電力向けの 1,300 人を引いた残り。2026/03 期は一般工事の受注環境が良く、全社の営業利益 262 億円の大半(223 億円)がここから出たとみて、営業利益率 13.0% と推定。数量は実質、単価は物価で上がる名目。
リスクと懸念
一般工事の利益率がピークから戻る
2026 年 3 月期の営業利益率 11.5% は過去最高で、過去 10 年の中央値の約 2 倍。人手不足による値上げの追い風が一巡し、入札競争が戻れば、利益率は 8% 台まで下がりうる。今の株価はこの高い利益率を長く続く前提で見ている面がある。
資本効率が資本コストに届かない
自己資本比率は 77%、ROE は直近で 7.6%、会社予想でも 8.7%。10 年の中立でも ROE が資本コストの 8% を下回る。現金を厚く抱えたままでは、利益が増えても価値は伸びにくく、PBR 1 倍を超える値付けを支える根拠が弱い。
親会社の発注と価格の圧力
中国電力が株式の 41% を持ち、売上の 24.5% を占める。親会社は発注元でもあるため、コスト削減の要請を断りにくい。設備投資の抑制や発注の見直しが起きれば、安定した下支えそのものが細る。
海外投資の再損失
2023 年 3 月期には海外事業の投資損失(持分法投資損失 125 億円ほか)で最終赤字になった。海外に持分法適用の関連会社を持つ構造は変わっておらず、同様の損失が再び出る可能性は残る。
地方市場の縮小
中国地方は人口が減り、山間部では設備そのものが縮む。電力会社向けの保守・更新の数量が減るうえ、民間工事の新設も伸びにくい。首都圏や関西で取り込む施策を進めても、遠い市場での競争は厳しい。
人手の制約
技能者の高齢化と採用難が続くと、受注できる量が人手で決まる。値上げで補えても、数量は伸びない。採用・育成費が重くなれば、人件費の物価以上の上昇で利益率を押し下げる。
親子上場による資本配分のゆがみ
親会社が 41% を握るため、少数株主に有利な大型の自己株式取得や現金の大きな還元は出にくい。純現金 436 億円が長く事業に使われないまま積み上がる恐れがある。
今後の分かれ目
- 営業利益率が 11% 台のまま 3 年以上続き、会社が計画の数字を引き上げ続けたら
- 楽観・やや楽観側に重みを移す。利益率の構造的な上昇が実証される。
- 純現金を使った大きな自己株式取得や特別配当が出たら
- 資本効率が上がり、ROE が資本コストを超える可能性が出る。やや楽観側へ寄せる。
- 中国電力が設備投資を絞る、または発注方針を見直すと発表したら
- やや悲観側に重みを移す。系列の下支えが細る証拠になる。
- 海外の関連会社で再び損失や引当金が出たら
- やや悲観側に重みを移す。資本配分への信頼が下がる。
- 一般工事の受注時の採算が低下し、受注が減りはじめたら
- 悲観側に重みを移す。好況の終わりを示す。
- 首都圏や関西での受注が伸び、中国地方の縮小を補うと確認できたら
- 中立の利益水準を引き上げる。地方市場の縮小という弱みが薄れる。
見ておくもの
- 一般工事の受注高・受注時採算と営業利益率の推移
- 繰越高(1Q 末 2,334 億円の水準が保たれるか)
- 中国電力向け売上の比率と中国電力の設備投資計画
- DOE 3.0% の目安と自己株式の取得の動き
- 海外関連会社の損益と引当金
倍率と資本コストの決め方
倍率は式で決めた。ROE が資本コスト 7.5%(基本 7.5% + quality 0.5%)に届かない中立・やや悲観では、PER の上限は 1÷k の 12.5 倍までで(中立は ROE÷k 0.99 と 9 割を掛けた 11.2 倍)、ためた利益は額面より小さい価値として扱った。上回る楽観・やや楽観は、RONIC と g 4% から正当化 PER を出し、その 9 割台後半に置いた。今の PER や過去の PBR は使っていない。余り資産は現金 250 億円だけで、戻り方は 0.5 とした。取引先株の評価差額金 135 億円は配当が純利益に入っているので足していない。悲観は稼ぐ力でなく、総資産の 60% 回収・負債全額払いで残る売れる資産で測った。今の株価は最後に比べただけで、同じ領域の会社と違い、ROE が資本コストを下回ることが割高の主因になった。10 年後の数字は家賃を営業費用に入れた今の形でそろえ、新リース会計基準で BS の形が変わる点は価値に影響しない。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 0.5% = 8.0%。理由は quality_why。2023 年 3 月期の海外投資損失のような個別のリスクは k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 7.50%。