結論
大豊建設は、シールド工事とニューマチックケーソン工事に強い中堅ゼネコンだ。地下に筒を掘り進めるのがシールド、地下に箱を沈めて基礎をつくるのがケーソンである。2026年3月期の売上高は1,398億円、営業利益は69億円だった。
筆者の結論はこうだ。いまの値段は、この会社の稼ぐ力に対してやや高い。10年でならした利益は、いまより4割ほど増える。物価の分である。ただ、それでも自己資本に対する利益率は7%台で、資本コストに届かない。稼ぐ力に見合う値段は、帳簿の自己資本より低い。
支えになるのは、厚い現金と親会社だ。純現金は164億円あり、借金に頼らず運営している。麻生が株の約半分を持ち、経営の安定と引き換えに、流通する株が少ない。村上ファンド系との争いは2022年に終わった。
利益は不安定だ。2024年3月期には営業利益がほぼゼロまで落ち、赤字の期は過去20年に5回ある。直近は建築の改善で持ち直したが、土木はまだ低採算の工事を消化中だ。安全域は、今の値段にはない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、大豊は「悪くない会社だが、払う値段が割に合わない会社」だ。
まず、利益の質を見る。建設は工事が増えるほど立て替えのお金が要る。大豊は借金がなく、そこは強い。ただ、自己資本に対する利益は6%で、稼いだ利益を厚い自己資本の上に積むだけだ。オーナーとして持つなら、このお金を使い切れていない点が気になる。
次に、堀と経営。シールドとケーソンの技術は本物で、10年後も残るだろう。ただ、堀は工事の入札で値段を守れるほど深くない。2023年度の落ち込みは、見積もりと管理の甘さが原因だった。経営は立て直しに動いているが、実績はまだ短い。
最後に、親会社の存在だ。麻生が半分を持つ以上、少数株主が経営を変えることはできない。親会社が自分の都合で完全子会社化するときの値段は、少数株主の評価と一致するとは限らない。
安全域は薄い。10年後の利益は今の4割増しにとどまり、資本コストを下回る。ここでは、払ってよい値段は、今の値段より低い。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は、土木と建築の二つだ。2026年3月期は土木が売上の半分、建築が半分近くを占め、残りは不動産・塗装・資材リースなどの小さな事業である。
土木の中心は、都市の地下工事だ。シールドは下水道・地下鉄・送電線などのトンネルを掘る。ケーソンは橋の基礎や地下の構造物を沈める。どちらも専用の機械と経験が要り、大手ゼネコンも手がけるが、大豊はこの二つに絞って技術を磨いてきた。会社は国内のシェアを5割以上へ上げる目標を掲げる。
もう一つ大事なのは、JVスポンサーと単独工事を取る力だ。複数社の共同事業体のまとめ役になれば、工事の進め方と利益を握れる。中期経営計画も、この種の利益率の高い工事を重点に置いている。
建築は、マンションや事務所、物流施設を請け負う。かつては薄利だったが、2026年3月期に営業利益が2倍以上に増えた。受注を選ぶ姿勢と、施工管理の強化が効いた。
その他は、子会社を通じた不動産賃貸や塗装、建設資材のリースだ。売上は50億円ほどだが、利益率は1割を超え、利益の下支えになっている。
優良さと弱いところ
堀(他社がまねできない強み)は、技術と実績にある。ただ、堀は固くない。
シールドとケーソンは、専用の機械と、地下の判断を誤らない経験が要る。新規参入は難しい。大豊はケーソンで国内の実績が厚く、会社自身が国内シェア5割を目標にしている。ここは確かな強みだ。
一方、土木の発注者は公共と大手で、値段は入札と予算で決まる。大豊が価格を決める力は限られる。建築はもっと厳しい。競合が多く、人手も資材も取り合いになる。2023年度には、資材と人件費の高騰、品質確保の追加費用で営業利益が5億円まで落ちた。経営が見積もりの甘さを認め、物価スライド条項つきの契約を増やしたのは、遅いが正しい手当てだ。
資本の使い方は、いまのところ合格点だ。借金はなく、配当性向は70%以上へ引き上げた。ただ、本当の宿題は資本効率にある。自己資本は755億円と厚く、利益は46億円で、ROEは6%にとどまる。会社は2030年度に8%以上を掲げるが、資本コストには届かない。厚い自己資本を使い切れていない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
都市の地下工事は、これから20年続く。高度成長期に敷いた下水道や地下鉄、送電線が老朽化し、更新の時期に入った。首都圏では再開発も続き、地下の構造物は増えている。シールドとケーソンの需要は、人口が減っても急には細らない。
制約は、人手だ。2024年の残業規制のあと、技能者の確保が業界の最大の課題になった。受注を選び、施工量を絞る動きが広がり、需要が増えても売上は思うように伸びない。大豊の受注も揺れている。2025年3月期は国内でシールドもケーソンも新規受注がなかった。2026年3月期はシールドが約142億円、ケーソンが約61億円と戻したが、受注全体は11%減だった。
地下工事は、どこで何を掘るかが公共と大手の計画で決まる。大豊が自分で需要をつくることはできない。だから受注は、案件の出る時期に左右される。更新需要という大きな流れは確かだが、年ごとの受注は読みにくい。
建築は、物流施設やデータセンターが堅調だが、資材高と人手不足で採算を保ちにくい。価格に転嫁する契約が増えたことで、利益率は改善した。
競合は、大手ゼネコンと準大手だ。得意工法の領域では大豊が優位にあるが、大型の案件では大手が入札で競る。再編も続いており、規模の小さい会社は、親会社の資本の力を借りて生き残る形が増えている。
資本政策と M&A
還元は厚い方向にある。2025年5月に計画を改め、2024〜27年度の配当性向を70%以上に引き上げた。中間配当も導入し、流通株式比率に応じて機動的な還元も検討すると明記した。2026年5月には、自己株式の買付けも開示している。
中期経営計画は、2025〜27年度に営業CFで約165億円を見込む。うち約117億円を投資に回し、そのうち80億円は事業投資とM&Aの枠だ。株主還元は90億円以上を見込む。会社自身が「有利子負債を活用し、レバレッジを高める」と書いており、純現金を使って成長する意思はある。
最大の特徴は、麻生が株の約半分を持つ親会社であることだ。2022年に麻生が約403億円を出資し、同時に自社株TOBで村上ファンド系の株主が退出した。この一連で、会社は買収防衛と引き換えに、親会社の支配を受け入れた。第2位株主も1割強を持ち、流通する株は少ない。上場の維持と、親会社による完全子会社化の両方が、10年のうちに選択肢になりうる(参考として、kabufuの推定では10年以内にTOBや買収が起きる確率は2割弱)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
地下は、日本で最も確実な仕事の宝庫だ。老朽化した下水道・地下鉄・送電網の更新は、20年続く。首都圏の再開発でも地下の構造物は増える。シールドとケーソンは参入の難しい分野で、大豊は専用の技術と実績を持つ。会社が国内シェア5割を目標にするのは、背伸びではない。
足元の改善も本物だ。2026年3月期は建築の営業利益が2倍以上になり、営業利益は69億円と過去の水準へ戻った。物価スライドを盛り込んだ契約が増え、資材高に振り回される構図は変わりつつある。2027年3月期は営業利益73億円の計画で、第1四半期の売上も1割以上伸びた。
資本の面でも、動く余地がある。純現金164億円と自己資本比率48%の厚みは、借金を恐れずに投資や買収に使える。会社は有利子負債を活用すると言い、M&Aに80億円の枠を持つ。配当性向70%は、利益が伸びれば還元も伸びる設計だ。麻生が親会社であることは、資金繰りの安全網にもなる。
10年でみれば、利益が今の倍近くになる筋書きも十分にありうる。
慎重な見方
利益は不安定で、安定して稼ぐ会社とは言えない。2024年3月期に営業利益は5億円まで落ち、赤字の期は過去20年に5回ある。資材高と人件費の高騰を価格に転嫁できなかったのは、ついこの前のことだ。
土木の営業利益は2026年3月期に13%減った。低採算の工事の消化が続いており、シールドとケーソンの受注も、2025年3月期は国内でゼロだった。受注は揺れ、利益の見通しが立ちにくい。
資本効率が低いことは、構造の問題だ。自己資本755億円に対して利益は46億円で、ROEは6%にとどまる。会社の目標でも、2027年度は7%程度、2030年度に8%以上で、資本コストには届かない。厚い自己資本は強みである前に、使い切れていない資産だ。
親会社の存在はもろ刃の剣だ。株の約半分を麻生が持ち、少数株主は経営を動かせない。流通する株は少なく、買いたい人が少ない。完全子会社化の話が出たとしても、値段を決めるのは親会社だ。
建築の改善も、資材高と人手不足の中で保てるか分からない。
どちらに重みを置いたか
どちらの言い分にも事実がある。ただ、資本効率の話では慎重な見方が強い。強気の見方は、地下工事の需要と純現金の安心感で正しい。しかし、10年の価値は利益の大きさと、資本コストとの差で決まる。自己資本が厚い割に利益が小さく、ROEが資本コストに届かないのは、会社自身の計画でも変わらない。そこで確率は中立に最も厚く置き、やや悲観と悲観を合わせて3割台半ばに、強気側は合わせて3割弱にとどめた。悲観の深さは、大型工事の終わりと建築の不採算が重なる構造的な負けまで掘り下げた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 886 円746 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 429 円361 億円)。 今の値に割り戻すと 715 円603 億円、今との差 −10.1%、 期待の年率 +5.2%(資本コスト 7.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 1,865 円1,572 億円 | 663 円559 億円 | +218.0% | +12.3% | 177 円149 億円 |
| やや楽観 | 20% | 1,315 円1,108 億円 | 543 円458 億円 | +133.7% | +8.9% | 372 円313 億円 |
| 中立 | 37% | 1,025 円864 億円 | 467 円394 億円 | +87.8% | +6.5% | 552 円466 億円 |
| やや悲観 | 24% | 357 円301 億円 | 343 円289 億円 | −11.9% | −1.3% | 168 円142 億円 |
| 悲観 | 12% | 224 円189 億円 | 154 円130 億円 | −52.4% | −7.2% | 45 円38 億円 |
| 加重平均 | 100% | 886 円746 億円 | 429 円361 億円 | +65.3% | +5.2% | 1,314 円1,108 億円 |
今の株価時価総額 795 円670 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 7% 首都圏の地下工事が続き、得意工法で利益率が上がる 利益 103 億円 · PER 15.3 倍 · 株価時価総額 1,865 円1,572 億円
首都圏の下水道・道路・鉄道の地下工事が途切れず、シールドとケーソンの受注が毎年積み上がる。会社が掲げる国内シェア5割に近づき、競争の少ない案件で採算が上がる。土木の営業利益率は8%に乗る。物価スライドを盛り込んだ契約が定着し、資材高でやられた2023年度のような失敗は繰り返さない。建築は施工管理の強化が効き、6%まで上がる。技能者の確保が進み、施工量は今より土木で15%、建築で5%増える。事業投資は80億円の枠に収まり、新しい工法の取り込みも当たる。配当性向は70%以上を守り、還元は純利益の75%に上がる。それでも売上は2,000億円を超える程度で、人手の制約が天井になる。
- 土木:数量 89.8(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 12(1人日あたり売上(万円・名目。材料・機械・外注を含む請負単価))→ 売上 1,083 億円・営業利益 87 億円。施工量1.15倍、価格1.34倍、営業利益率8%
- 建築:数量 97.2(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 9.38(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 912 億円・営業利益 55 億円。施工量1.05倍、利益率6%
- その他(不動産など):数量 298(事業の規模(億円。今の値段で測った実質、推定))× 価格 0.27(規模1億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 80 億円・営業利益 10 億円。事業規模1.2倍、利益率12%
倍率:事業の純利益 103 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.9% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.3 倍。全体の PER 15.26 倍、時価総額 1,572 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:シールドとケーソンの受注が続き、建築の利益改善も定着し、麻生との資本政策も前向きに動く必要がある。条件が重なる確率は低く、7%にとどめる。2025年3月期に国内の新規受注がゼロの年があった履歴も考える。
やや楽観 20% 計画どおりに利益率が戻り、安定した専業になる 利益 81 億円 · PER 13.7 倍 · 株価時価総額 1,315 円1,108 億円
低採算だった繰越工事が一巡し、土木の利益率は6.5%まで戻る。シールドとケーソンの受注は首都圏の更新需要で安定し、施工量は今より5%増える。建築は選別受注が効いて5%台前半を保つ。会社が2030年度に掲げる営業利益率5%を、少し上回る。その他の不動産・塗装・資材リースは小さいが安定した黒字だ。配当性向は70%を守り、中間配当も定着する。自己資本は緩やかに増え、ROEは9%近くまで上がる。ただ、公共と民間の景気に左右される構造は変わらず、利益率が一段と上がることはない。麻生の支配は続き、流通する株は増えない。
- 土木:数量 82.0(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 12(1人日あたり売上(万円・名目。材料・機械・外注を含む請負単価))→ 売上 989 億円・営業利益 64 億円。施工量1.05倍、価格1.34倍、営業利益率6.5%
- 建築:数量 92.6(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 9.38(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 869 億円・営業利益 45 億円。施工量1.0倍、利益率5.2%
- その他(不動産など):数量 273(事業の規模(億円。今の値段で測った実質、推定))× 価格 0.27(規模1億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 73 億円・営業利益 9 億円。事業規模1.1倍、利益率12%
倍率:事業の純利益 81 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.7% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.7 倍。全体の PER 13.68 倍、時価総額 1,108 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中期経営計画の2030年度目標(営業利益85億円・利益率5%)を、10年で少し上回る筋書きだ。低採算の繰越工事は消化済みで、建築の改善も続いている。足場は固いので2割を置く。
中立 37% 施工量は横ばい、利益率は計画の線に落ち着く 利益 67 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 1,025 円864 億円
首都圏の地下工事の需要は続くが、技能者が足りず、施工量は今よりやや減る。土木の売上は物価の分だけ伸び、利益率は低採算工事の消化が済んで5.5%に戻る。建築は4.5%で、直近の急な改善の一部が戻る。受注は選ぶが量は増えない。売上は1,800億円台に乗り、営業利益は100億円に近づく。これは会社が2030年度に掲げる85億円を、物価の分だけ膨らませた姿に近い。配当性向は70%を守り、自己資本は少しずつ増える。ROEは7%台と資本コストにわずかに届かない。会社が言う「ROE8%以上」は、10年かけても届きにくい。
- 土木:数量 74.2(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 12(1人日あたり売上(万円・名目。材料・機械・外注を含む請負単価))→ 売上 895 億円・営業利益 49 億円。施工量0.95倍、価格1.34倍、営業利益率5.5%
- 建築:数量 92.6(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 9.38(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 869 億円・営業利益 39 億円。施工量1.0倍、利益率4.5%
- その他(不動産など):数量 248(事業の規模(億円。今の値段で測った実質、推定))× 価格 0.27(規模1億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 66 億円・営業利益 8 億円。事業規模1.0倍、利益率12%
倍率:事業の純利益 67 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.3% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.9 倍、時価総額 864 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:需要は底堅く、利益率は今より少し上がる。ただし人手の制約と入札の競争で、計画の線を超えるほどの余地はない。2人の議論の落としどころなので最も厚く、3割台後半に置く。
やや悲観 24% 入札競争が強まり、利益率が過去の低い側に戻る 利益 43 億円 · PER 7.0 倍 · 株価時価総額 357 円301 億円
首都圏の大型工事が一巡し、受注が細る。シールドとケーソンにも大手が入り込み、競争のある案件が増える。土木の利益率は3.8%に下がり、建築は3.2%に戻る。物価の分も価格に載せきれず、価格は1.30倍にとどまる。施工量は土木で1割強、建築で1割弱減る。会社は黒字を保つが、営業利益は60億円ほどだ。配当は純利益の65%に抑える。ROEは5%に届かず、資本コストを大きく下回る。中期経営計画の「ROE8%以上」は、遠い目標になる。構造が壊れたわけではない。得意工法の技術は残り、事業は続く。ただ、利益の力は今の自己資本に見合わない。
- 土木:数量 68.7(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 12(1人日あたり売上(万円・名目。材料・機械・外注を含む請負単価))→ 売上 804 億円・営業利益 31 億円。施工量0.88倍、価格1.30倍、営業利益率3.8%
- 建築:数量 85.2(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 9.10(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 775 億円・営業利益 25 億円。施工量0.92倍、利益率3.2%
- その他(不動産など):数量 223(事業の規模(億円。今の値段で測った実質、推定))× 価格 0.26(規模1億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 58 億円・営業利益 6 億円。事業規模0.9倍、利益率10%
倍率:ROE 4.7%(純利益 43 億円 ÷ 自己資本 911 億円)。k 7.75% に大きく届かず、RONIC = 6.5%、g 4% から正当化 PER = 9.0 倍。ためた利益は簿価の全額には届かない価値なので、上限へ引き上げず、7.0 倍に置いた。今の自己資本 755 億円に対する PBR は 0.40 倍。
確率:2020年代前半に利益が落ちた時と同じ構図が、もう一度来る筋書きだ。大型工事の終わりと入札競争は建設業ではよく起きる。足元の利益が低いので、下に振れる余地は小さいが、2割強を置く。
悲観 12% 受注の山が終わり、建築の損失も重なって優良さを失う 利益 12 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 224 円189 億円
首都圏の大型工事が終わり、シールドとケーソンの受注が細る。大手が採算を割ってでも取りにきて、得意工法の価格が崩れる。土木の利益率は1.5%まで下がる。建築では資材高と人手不足で不採算工事が続き、2024年3月期のような低い利益率に戻る。施工量は土木で25%、建築で2割減る。営業利益は20億円に届かず、純利益は10億円台になる。固定費の重い技術部門と施工管理の人員を減らせず、利益は戻らない。配当は半分に絞る。工事の損失と減損で、自己資本は積み上がらない。親会社の麻生は支援しないまま保有を続け、流通する株は少ないまま値がつかなくなる。稼ぐ力は、ほぼ純現金と土地の価値だけになる。
- 土木:数量 58.6(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 11(1人日あたり売上(万円・名目。材料・機械・外注を含む請負単価))→ 売上 659 億円・営業利益 10 億円。施工量0.75倍、価格1.25倍、営業利益率1.5%
- 建築:数量 74.1(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 8.75(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 648 億円・営業利益 3 億円。施工量0.8倍、利益率0.5%
- その他(不動産など):数量 198(事業の規模(億円。今の値段で測った実質、推定))× 価格 0.25(規模1億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 50 億円・営業利益 2 億円。事業規模0.8倍、利益率5%
倍率:純利益は 12 億円まで落ち、稼ぐ力(純利益 ÷ k)は約 145 億円にとどまる。床は純現金と売れる資産の税後で測る。純現金 164 億円は運転資金のぶんが戻らず、不動産や有価証券の内訳は未確認なので、今の自己資本 755 億円に対する PBR 0.25 倍(約 189 億円)に置いた。
確率:大型工事の終わり、大手の参入による価格競争、建築の不採算工事が重なる構造的な負けである。2024年3月期に営業利益がほぼゼロまで落ちた実績があり、重なれば無視できない。全部が重なる確率は低く、1割強にとどめる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
土木
シールド工事とニューマチックケーソン工事を柱とする、都市の地下工事。JVスポンサーと単独工事の受注に力を入れる。
| 数量施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定) | 価格1人日あたり売上(万円・名目。材料・機械・外注を含む請負単価) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 78.1 | 9.00 | 703 | 32 |
| 10 年後 中立 | 74.2 | 12 | 895 | 49 |
取り方:連結の土木事業の売上703億円・営業利益32億円(決算報道)。労務量は開示がなく、機械と外注の割合が高い工事なので、1人日あたり売上を9万円とみて約78万人日と置いた。物価の分は価格に入り、数量は人手の制約を受ける実質の量。
建築
マンション・事務所・物流施設などの建築請負。2026年3月期に受注を選び、施工管理を強めて利益率が大きく改善した。
| 数量施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定) | 価格1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 92.6 | 7.00 | 648 | 31 |
| 10 年後 中立 | 92.6 | 9.38 | 869 | 39 |
取り方:連結の建築事業の売上648億円・営業利益31億円(決算報道)。労務量は開示がなく、1人日あたり売上を7万円とみて約93万人日と置いた(同じ領域の五洋建設と同じ置き方)。
その他(不動産など)
子会社を通じた不動産賃貸、塗装工事、建設資材のリースなど。小さいが利益率は高い。
| 数量事業の規模(億円。今の値段で測った実質、推定) | 価格規模1億円あたりの年間売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 248 | 0.20 | 50 | 6 |
| 10 年後 中立 | 248 | 0.27 | 66 | 8 |
取り方:その他の売上50億円・営業利益6億円(決算報道)。事業に投じた資産の規模は開示がなく、売上を0.2で割って約248億円と推定した。
リスクと懸念
利益の振れが大きい
2024年3月期に営業利益は5億円まで落ち、赤字の期は過去20年で5回ある。資材と人件費の高騰を価格に転嫁できないと、一年で利益が消える。物価スライドの契約は増えたが、すべての工事に付くわけではない。
得意工法の受注が不安定
シールドとケーソンは大型で数が少なく、受注が数年単位で揺れる。2025年3月期は国内の新規受注がなかった。2026年3月期は戻したが、受注全体は11%減っている。受注の谷が長引くと、固定費の重い技術部門が利益を圧迫する。
資本効率が低いまま続く
自己資本は755億円、ROEは6%にとどまる。会社は2030年度に8%以上を掲げるが、資本コストには届かない。配当性向70%でも自己資本が増え続けるため、効率の改善は遅い。M&Aが外れれば、さらに下がる。
親会社の支配と少ない流通株
麻生が株の約半分を持ち、少数株主は経営を動かせない。第2位株主も1割強を持つため、市場で売買される株は少ない。完全子会社化の話が出ても、価格を決めるのは親会社の側だ。
建築の改善が続くか
建築の営業利益は2026年3月期に2倍以上に増えた。ただ、資材高と人手不足の中で、選別受注と施工管理だけで利益率を保てるかは分からない。不採算工事が1件出れば、改善分が消える規模だ。
技能者の不足
2024年の残業規制のあと、施工管理と技能者の確保が難しい。受注を選べば利益率は上がるが、売上は伸びない。協力会社の人件費上昇を価格に載せきれない場合、土木と建築の両方で利益率が下がる。
今後の分かれ目
- シールドかケーソンの大型案件を、JVスポンサーとして続けて受注する
- 強気側へ確率を移してよい。利益率の高い工事が積み上がれば、土木の営業利益率が6%を超える根拠になる。
- 国内のシールドとケーソンの新規受注が、2期続けて前年を下回る
- 慎重側へ確率を寄せる。固定費を回収できない構図になり、土木の利益率が3%台に落ちる筋書きを重くする。
- 麻生が完全子会社化や上場の維持方針の見直しを打ち出す
- 少数株主への買取価格は、親会社の側が決める。10年の筋書きに加えて、一時的な上振れとして扱うが、価格が事業価値を下回る可能性も同時に見る。
- 建築の営業利益率が4%を割る
- 直近の改善が一時的だったと見直す。中立の4.5%がすでに楽観に近いかを点検し、やや悲観の筋書きに重みを置く。
- 純現金を使った大型のM&Aを発表する
- 買収の中身で評価が分かれる。得意工法を補う買収なら利益率の上振れ、本業と離れた買収なら資本効率のさらなる低下を見込む。
- 配当性向を70%超へ引き上げ、自社株買いを積み増す
- 厚い自己資本を使い切る動きとして、ROEの改善を見込める。中立の自己資本の積み上がりを小さく見直す。
見ておくもの
- シールド・ケーソンの国内受注高と、JVスポンサー案件の比率
- 土木・建築の部門別営業利益率
- 麻生の持ち株比率と、流通株式比率に関する開示
- 総還元性向と自社株買いの実施
- 純現金の水準と事業投資・M&Aの使い方
倍率と資本コストの決め方
セグメントは労務量(実質)と1人日あたり売上(名目)で積み、物価3%を価格に入れて、数量は人手の制約から0.95〜1.0倍とした。倍率は k 7.75%(基本 7.5% に循環 +0.5%、値決め +0.25%)と g 4% から式で出し、今・過去・同業の市場の倍率は見ていない。中立の ROE は k に届かないので PER は 1÷k に ROE÷k(0.88)と 9 割を掛けた 9.6 倍に置き、今の株価が倍でも半分でも動かない。純現金は厚いが、未成工事受入金や工事未払金を含む運転資金の側面が強いので、余った現金として分けていない。悲観の PBR は今の自己資本に掛けた。営業利益は家賃を費用に入れた今と同じ形(新リース会計基準の適用前の形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.5→15.26 倍・やや楽観 PER 12.2→13.68 倍・中立 PER 9.6→12.9 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。