結論
名工建設は、JR東海の新幹線と在来線の線路を守る、名古屋の中堅ゼネコンだ。売上の5割強をJR東海が占める。筆者の結論は「やや割高(今の値段は本質価値より1割ほど高い)」。会社は堅いが、稼ぎに比べて資本が太りすぎている。
強みは、保線の担当区間が決まっていることだ。夜間に線路を直す仕事は、人と技術の蓄積がものをいう。東海道新幹線の約6割を受け持つとされ、仕事が突然消える会社ではない。直近の営業利益率は7.8%と、過去10年でも高い水準にある。
弱みは三つある。客がほぼ一社であること。新幹線の大規模改修が終わりに近づくこと。そして自己資本の厚みだ。自己資本比率は65%を超え、ためた利益が稼ぎに回らない。ROEは7%にとどまる。
10年の中立では、売上は1,200億円台、営業利益は90億円弱に増える。伸びは物価の分だけで、工事の量は増えない。利益をためるほど資本は1,200億円台に膨らみ、ROEは5%台へ下がる。今の値段は、この構図をまだ織り込み切っていない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、名工建設は「中身は堅いが、値打ちを決めるのは資本の太り方」の会社だ。
稼ぎの質は悪くない。線路の保守は毎年必ず出る仕事で、赤字に落ちる年が少ない。過去12年の営業利益率は、4%台から8%台の間に収まっている。工場も店も要らず、再投資は少なくて済む。株主のものになる利益は、純利益の8割ほどあると筆者は見る。
問題は、そのお金が使われないことだ。自己資本は856億円と、純利益の14年分に近い。ためた分が事業の稼ぎを増やさないなら、ROEは年々下がる。10年の中立で、自己資本は1,200億円台に増え、ROEは5%台に沈む。
客がほぼ一社という点も、持ち続けたい理由と手放したい理由の両方になる。守られているが、価格を決める側ではない。新幹線の大規模改修が終わったあとに、何が売上を支えるのか。リニアはその答えの候補だが、時期が読めない。
安全域は、楽観でも厚くない。悲観では大きく割れる。資本を寝かせる会社に、払う値段は慎重でありたい。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は軌道、つまり鉄道の線路の保守と敷設だ。担当区間は固定され、東海道新幹線の約6割、JR東海在来線の約7割を受け持つと報じられている。保線は、レールの高さや幅、向きを直す作業が中心で、ほとんどが終電後の夜に行われる。新幹線の一晩の作業には、数百人が入ることもある。
二つ目の柱は土木と建築だ。土木は、JR東海の大型工事(新幹線の大規模改修、リニア関連、中部総合車両基地)のほか、官公庁の道路・上下水道などを請け負う。建築は、名古屋圏の事務所、工場、学校、病院、マンションが中心だ。直近の受注では、土木が建築の2倍強を占めた。
三つ目は兼業の不動産だ。日本郵便と共同で建てたJPタワー名古屋(2015年竣工)の賃料に、土地・建物の売買と賃貸が加わる。売上の2〜3%ほどだが、景気に左右されにくい。
事業ごとの利益は開示されない。筆者はJR東海向けを売上の約53%、残りの工事を約44%、不動産を約3%とみて、営業利益を軌道に重く振り分けた。
会社が重んじる経営指標は、営業利益の額だ。第19次経営計画(2024〜26年度)は、最終年度に受注1,000億円、売上1,050億円、営業利益74億円を掲げる。足元の営業利益はすでに計画を上回っており、計画は控えめに作られている。スローガンは「挑戦、未来へ 4つのC」で、安全、競争力、実行力、挑戦を柱にする。DXと人の育成にも力を入れている。
優良さと弱いところ
優良さを一言でいえば「客に守られた、小ぶりな専業」だ。堀、つまり他社がまねできない強みは、JR東海との長い関係にある。
名工建設の前身は、戦時に鉄道輸送を支えるため、名古屋鉄道局管内の工事会社を集めて1941年につくられた鉄道工事の専門会社だ。以来、線路の保守を続けてきた。JR東海は筆頭株主で、8.5%を持つ。担当区間が決まっているので、入札で毎回奪い合う仕事とは違う。
堀を支えるのは、夜間作業の段取りと安全の積み重ねだ。80億円強をかけた研修施設が2026年4月に開かれ、実物大の線路で若手を育てられる。人手不足の時代に、人を育てる力そのものが競争力になる。
一方で、価格を決める力は強くない。保守の単価はJR東海との交渉で決まり、JR東海は不断のコストダウンを掲げている。客が一社に偏るので、値上げを押し通す立場にはない。
資本の使い方は改善の途上だ。自己資本の約2割は、持ち合い株の含み益(税引き後で約175億円と筆者は推定)で、事業の稼ぎを生まない。配当性向は2026年3月期に24%で、2027年3月期に30%を目ざす段階にある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の建設市場は、量が増えない成熟市場だ。ただ名工建設の稼ぎの軸は、その外にある。鉄道の保守は、列車が走る限り毎年必ず発生する仕事で、景気の波が小さい。
JR東海は、東海道新幹線の大規模改修を進めてきた。橋やトンネルを延命する巨額の工事で、名工建設の売上を支えてきた。ただ、JR東海の公表資料では、改修の工事費は今期からの5年間(2024〜28年度)で500億円ほどと、前の期の1,360億円より小さい。会社自身も「新幹線大規模改修工事の終息」を課題に挙げている。
穴を埋める候補はリニア中央新幹線だ。山梨県駅の工事は名工建設を含む3社のJVが請け負い、工期は2031年末までだ。ただ、リニアの開業時期は読み切れない。
同じ形の会社は、JR東日本を客にする東鉄工業、第一建設工業、鉄建建設などだ。いずれも客の発注量に利益が縛られる。東鉄工業は名工建設の株主にも名を連ねる。
10年の先は、建設の人手不足が一段と深まる。夜間作業の担い手は特に減る。人を育てた会社に仕事が集まる一方、JR東海が保守の一部を取り戻す動きも否定できない。地場の官公庁・民間工事は、名古屋圏の底堅さに頼る。
資本政策と M&A
資本政策は、増配は進むが、まだ慎重だ。配当は累進、つまり減らさない方針だ。配当性向は2026年3月期の24%から、2027年3月期に30%程度へ上がる見込みで、配当の総額は3割近く増える。自社株買いは検討していないと報じられている。
手元は厚い。現預金は約149億円、有利子負債は約86億円で、差し引き約63億円の純現金だ。ただ、研修施設の80億円強を借入で賄ったため、前の期より純現金は細った。運転資金や前受金もあるので、すべてが自由に使える金ではない。
持ち合い株は、含み益が自己資本を押し上げている。売却して還元に回せば、資本効率は上がる。ただ売却の数値目標は確認できなかった。
買収は目立たない。株主は、JR東海8.5%、従業員持株会6.9%、銀行、岡谷鋼機、東邦ガスなどで、安定株主が厚い。筆者は、外から買われる可能性を低くみる。JR東海がより深く関与する再編は考えうるが、会社は何も示していない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
名工建設は、JR東海の線路を守る、代わりの利きにくい会社だ。担当区間が決まっており、東海道新幹線の約6割を受け持つ。保守は毎年必ず出る仕事で、景気の谷に強い。
建設全体が人手不足に入り、請負側が仕事を選べる時代になった。名工建設は80億円強の研修施設を開き、夜間作業の担い手を自前で育てる。人を育てる力は、これから最も稀少な資源になる。
新幹線の大規模改修が終わっても、リニアが待っている。山梨県駅の工事を受け、名古屋圏の工事も増える。保守の対象も、橋やトンネルの老朽化で増える一方だ。
資本の面でも変化がある。累進配当を掲げ、配当性向は2026年3月期の24%から2027年3月期に30%へ上がり、配当の総額は3割近く増える。持ち合い株には含み益があり、自己資本の厚みは安全域になる。PBRが0.55倍で、資産の面からは割安に見える。
会社の計画は営業利益74億円だが、足元は76億円で、保守的な設計だ。受注も1,000億円規模で積み上がっており、繰越工事の増加で売上は1,050億円に伸びる見込みである。計画を上回る余地は十分にある。
慎重な見方
利益率7.8%は、過去12年でも最高圏にある。JR東海の大規模改修は、いまが山だ。公表された工事費は、前の期の1,360億円から今期の5年は500億円ほどへ下がる。会社自身も改修の終息を課題に挙げた。受注が縮めば、いちばん高い利益率の仕事から先に減る。
客が一社であることは、強みであると同時に弱みだ。JR東海は保守の単価を値切り、不断のコストダウンを掲げる。グループには自前の工事会社もあり、保守を取り戻すことも考えうる。名工建設は、価格を決める側にいない。
リニアは、開業時期が読めない。山梨県駅の工事は2031年末までで、そのあとに続く仕事の見通しは薄い。
資本の使い方にも疑問が残る。自己資本の約2割は持ち合い株の含み益で、稼ぎを生まない。研修施設は借入で賄い、純現金は細った。配当を増やしても、性向は30%だ。残りの7割がたまり、ROEは5%台に下がる。
PBR0.55倍は割安ではない。資本コストに届かない稼ぎに、1倍を付ける理由がない。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方が少し強い。事業の質は強気の言い分が正しい。ただ値段を決めるのは、資本コストを超えて稼げるかどうかで、そこでは慎重な指摘が勝つ。確率は中立に4割弱を置き、やや悲観に厚みを持たせた。客が一社で、改修の終息が近いことが、その理由だ。悲観は12%にとどめた。担当区間が固定され、赤字に落ちる年が少ないからだ。強気の見方が強調する安定は、中立の利益に織り込んだが、それが10年の資本効率まで守るわけではない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,132 円791 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 896 円226 億円)。 今の値に割り戻すと 2,127 円537 億円、今との差 +12.4%、 期待の年率 +7.9%(資本コスト 7.6%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 4,692 円1,184 億円 | 1,272 円321 億円 | +215.2% | +12.2% | 417 円105 億円 |
| やや楽観 | 18% | 4,118 円1,040 億円 | 1,105 円279 億円 | +176.1% | +10.7% | 940 円237 億円 |
| 中立 | 37% | 3,733 円942 億円 | 931 円235 億円 | +146.5% | +9.4% | 1,726 円436 億円 |
| やや悲観 | 26% | 1,992 円503 億円 | 769 円194 億円 | +45.9% | +3.8% | 718 円181 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,364 円344 億円 | 531 円134 億円 | +0.1% | +0.0% | 227 円57 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,132 円791 億円 | 896 円226 億円 | +112.9% | +7.9% | 4,028 円1,017 億円 |
今の株価時価総額 1,892 円478 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.6% を下回るほど割高。
楽観 7% JR東海の仕事が厚く続き、人を育てる力が値上げを支える 利益 90 億円 · PER 13.2 倍 · 株価時価総額 4,692 円1,184 億円
新幹線の大規模改修が終わっても、JR東海の保守は減らない。橋やトンネルの老朽化で、保守の量はむしろ増える。リニアの山梨県駅に続き、名古屋圏の関連工事も取る。研修施設で育てた若手が現場に出て、施工量は今より3%増える。
人手不足は深まり、夜間作業の担い手を持つ会社に仕事が集まる。保守の単価は物価並みに上がり、利益率は9%台半ばを保つ。官公庁・民間の工事も、選別受注が定着して6%台に乗る。不動産は新規の資産を加え、賃料が増える。
営業利益は110億円台に乗る。会社は配当性向を高め、持ち合い株の売却代金も還元に回す。それでも資本は膨らみ、ROEは7%台止まりだ。資本コストを超えるところまでは届かないが、事業としては最良の10年になる。
- JR東海向け(軌道保守・敷設、大型工事):数量 95.5(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 7.44(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 711 億円・営業利益 68 億円。95.5万人日 × 1人日あたり 7.44万円、利益率 9.5%
- 官公庁・民間の土木・建築:数量 61.4(施工量(万人日、実質))× 価格 9.86(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 605 億円・営業利益 39 億円。61万人日 × 1人日あたり 9.86万円、利益率 6.5%
- 不動産(賃貸・売買):数量 220(運用資産の残高(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.17(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 37 億円・営業利益 10 億円。残高 220億円 × 回転 0.1675、利益率 26%
倍率:事業の純利益 90 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.2% が k 7.60% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.2 倍。全体の PER 13.16 倍、時価総額 1,184 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:新幹線の大規模改修が終わったあとも、リニアと保守の増加で仕事が続き、値上げも通る必要がある。複数の好材料が10年続く姿なので、低く置いた。
やや楽観 18% 保守は底堅く、次の工事が改修の穴を埋める 利益 79 億円 · PER 13.2 倍 · 株価時価総額 4,118 円1,040 億円
新幹線の改修は予定どおり終わるが、リニア関連と名古屋圏の工事が埋める。軌道の施工量は2%ほど減るにとどまり、単価は物価並みに上がる。利益率は9%近くを保つ。
官公庁の土木は国土強靱化の予算に支えられ、民間建築も名古屋圏の再開発が続く。この領域の利益率は6%に届く。不動産は現状を保つ。営業利益は100億円を超える。
研修施設の投資は人の確保という形で実を結び、施工量の落ち込みを抑える。配当性向は40%前後まで上がる。資本はなお厚く、ROEは6%台だ。PBRは0.6倍程度で落ち着く。事業の質は市場に認められるが、資本効率の壁は残る。
- JR東海向け(軌道保守・敷設、大型工事):数量 90.8(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 7.44(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 676 億円・営業利益 59 億円。91万人日 × 1人日あたり 7.44万円、利益率 8.8%
- 官公庁・民間の土木・建築:数量 59.6(施工量(万人日、実質))× 価格 9.71(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 579 億円・営業利益 35 億円。60万人日 × 1人日あたり 9.71万円、利益率 6.0%
- 不動産(賃貸・売買):数量 200(運用資産の残高(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.17(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 34 億円・営業利益 8 億円。残高 200億円 × 回転 0.1675、利益率 25%
倍率:事業の純利益 79 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.4% が k 7.60% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.2 倍。全体の PER 13.16 倍、時価総額 1,040 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:リニア関連と保守の増加が改修の終息を埋め、値上げは物価並みに通る。中立よりも少し良い姿で、確率は2割弱とした。
中立 37% 量は横ばい、価格だけ上がる安定 利益 69 億円 · PER 13.2 倍 · 株価時価総額 3,733 円942 億円
軌道の施工量は実質で7%ほど減る。新幹線の大規模改修が終わり、リニア関連の工事で全部は埋まらない。保守の単価は、JR東海のコストダウン要請で物価並みには上がらず、10年で3割増にとどまる。利益率は8%まで下がるが、赤字の年は出ない。
官公庁・民間の工事は、名古屋圏の底堅さと人手不足の中で、量はほぼ横ばい。単価は物価並みに上がり、利益率は5%台半ばを保つ。不動産は現状どおりだ。営業利益は90億円弱で、売上は1,200億円台になる。
配当は累進で、性向は4割近くまで上がる。それでも自己資本は1,200億円台に膨らみ、ROEは5%台に下がる。堅実な会社が、資本の厚みに稼ぎが追いつかないまま歳を重ねる10年だ。
- JR東海向け(軌道保守・敷設、大型工事):数量 86.2(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 7.22(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 623 億円・営業利益 50 億円。86万人日 × 1人日あたり 7.22万円、利益率 8.0%
- 官公庁・民間の土木・建築:数量 58.4(施工量(万人日、実質))× 価格 9.57(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 559 億円・営業利益 31 億円。58万人日 × 1人日あたり 9.57万円、利益率 5.5%
- 不動産(賃貸・売買):数量 200(運用資産の残高(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.17(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 34 億円・営業利益 8 億円。残高 200億円 × 回転 0.1675、利益率 24%
倍率:事業の純利益 69 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 5.8% が k 7.60% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 13.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.2 倍。全体の PER 13.16 倍、時価総額 908 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:保守は安定するが、改修の終息で軌道の量は少し減り、JR東海の値下げ圧力で単価も物価に届かない。官公庁・民間は横ばい。最も標準的な姿として4割弱に置いた。
やや悲観 26% 改修の終息とJR東海の値引きで、軌道が細る 利益 53 億円 · PER 7.8 倍 · 株価時価総額 1,992 円503 億円
新幹線の大規模改修が終わると、軌道の施工量は実質で15%減る。リニア関連は始まるが、開業の遅れで追加の仕事が出ない。JR東海は保守の単価を厳しく見直し、10年で物価の半分ほどしか上がらない。利益率は7%まで下がる。
官公庁・民間の工事は、人手不足で選別受注を続けるが、量は1割弱減る。価格転嫁は止まり、利益率は5%を割る。不動産は老朽化した資産が出て、賃料が細る。営業利益は70億円まで下がり、ROEは4%台になる。
配当は累進のため減らさないが、性向は35%台にとどまる。自己資本は厚いまま、稼ぎだけが細る。市場からは資本コストを稼げない会社と見られる。研修施設などの固定費は残り、利益率の下げを大きくする。
- JR東海向け(軌道保守・敷設、大型工事):数量 78.8(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 6.94(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 547 億円・営業利益 38 億円。79万人日 × 1人日あたり 6.94万円、利益率 7.0%
- 官公庁・民間の土木・建築:数量 55.4(施工量(万人日、実質))× 価格 9.29(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 514 億円・営業利益 25 億円。55万人日 × 1人日あたり 9.29万円、利益率 4.8%
- 不動産(賃貸・売買):数量 190(運用資産の残高(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.16(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 31 億円・営業利益 7 億円。残高 190億円 × 回転 0.1625、利益率 22%
倍率:ROE 4.4%(純利益 53 億円 ÷ 自己資本 1,202 億円)。事業の ROE が k 7.6% に届かないので、RONIC = 8.1% + 1/2 ×(4.4% − 8.1%)= 6.25%、g 4% から正当化 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g) = 8.8 倍。稼ぎが細る局面で、上限の 9 割弱の 7.8 倍に置いた。
確率:改修の終息は会社自身が認める課題で、客が一社の弱みは出やすい。リニアが遅れた場合の影響も重なる。中立に近い厚みで置いた。
悲観 12% JR東海が保守を取り戻し、構造的に細る 利益 25 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 1,364 円344 億円
構造的に負ける。JR東海がグループの工事会社を使い、保守の一部を取り戻す。新幹線の改修は終わり、リニアの後続も見えない。軌道の施工量は実質で35%減り、単価は物価の半分以下しか上がらない。利益率は5%まで下がる。
官公庁・民間の工事は、人手が足りず、選別受注もできない。低採算の工事を抱え、利益率は3%に落ちる。研修施設の80億円強は稼ぎに結びつかず、減損も出る。持ち合い株の評価も下がり、自己資本は減損と評価損で100億円ほど目減りする。
営業利益は35億円まで下がる。配当は累進で守るが、性向は4割を超える。優良さは失われ、再編の対象にもなりやすい。ただ、財務の体力は残り、倒産に向かう姿ではない。客を失う痛みが、10年かけて表に出る。
- JR東海向け(軌道保守・敷設、大型工事):数量 60.3(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 6.39(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 385 億円・営業利益 19 億円。60万人日 × 1人日あたり 6.39万円、利益率 5.0%
- 官公庁・民間の土木・建築:数量 48.2(施工量(万人日、実質))× 価格 8.57(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 413 億円・営業利益 12 億円。48万人日 × 1人日あたり 8.57万円、利益率 3.0%
- 不動産(賃貸・売買):数量 160(運用資産の残高(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.15(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 24 億円・営業利益 4 億円。残高 160億円 × 回転 0.15、利益率 18%
倍率:構造的に優良でなくなり、純利益は 25 億円。稼ぐ力(25 億円 ÷ k 7.6% = 約 310 億円)を土台に、今の自己資本 856 億円に対する PBR 0.402 倍(時価総額 約 344 億円)に置いた。減損と評価損で自己資本は減るが、床は今の自己資本に掛けた。営業利益は 35 億円と小さく、EV ÷ 営業利益は谷の数字として参考にならない。
確率:JR東海が保守を内製やグループ会社へ寄せ、改修も終わる構造的な負け筋。ただ担当区間が固定され、赤字の年が少ない過去もあるので、1割強にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
JR東海向け(軌道保守・敷設、大型工事)
東海道新幹線とJR東海在来線の保線、軌道の敷設、新幹線改修・リニア関連などJR東海から請け負う工事。
| 数量施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質) | 価格1人日あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 92.7 | 5.56 | 515 | 46 |
| 10 年後 中立 | 86.2 | 7.22 | 623 | 50 |
取り方:JR東海向けは売上の約53%(報道)で、連結売上970億円から約515億円とした。営業利益は開示が無く、全社の利益率より少し高い9%とみて約46億円と推定した。軌道の保守は労務の割合が高いので、労務費を売上の45%、日当を2.5万円と置き、施工量を約93万人日、1人日あたり売上を約5.56万円とした。推定であり、物価の分は価格に入れ、数量は実質。
官公庁・民間の土木・建築
JR以外の道路・上下水道などの官公庁土木と、名古屋圏の事務所・工場・学校・病院・マンションなどの民間建築。
| 数量施工量(万人日、実質) | 価格1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 60.2 | 7.14 | 430 | 24 |
| 10 年後 中立 | 58.4 | 9.57 | 559 | 31 |
取り方:売上970億円からJR東海向けと不動産を引いた約430億円。利益率は、準大手の水準に近い5.5%とみて約24億円と推定した。労務費を売上の35%、日当を2.5万円と置き、施工量を約60万人日、1人日あたり売上を約7.14万円とした。開示は無く推定。
不動産(賃貸・売買)
JPタワー名古屋の賃料と、土地・建物の売買・賃貸。
| 数量運用資産の残高(億円、今の値段で測った実質。推定) | 価格残高1億円あたりの年間売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 200 | 0.13 | 25 | 6 |
| 10 年後 中立 | 200 | 0.17 | 34 | 8 |
取り方:兼業事業は売上の2〜3%とみて約25億円、利益率24%で約6億円と推定した。運用資産の残高は開示が無く、売上と利回りから約200億円と筆者が推定した。数量は実物の資産で、増やす計画は無いため横ばい。物価の分は賃料(価格)に入れる。
リスクと懸念
新幹線の大規模改修が終わり、軌道の受注が細る
JR東海の大規模改修は、いまが山だ。公表資料では、今期から5年の工事費は500億円ほどと、前の期の1,360億円より小さい。会社も改修の終息を課題に挙げている。売上の5割強がJR東海向けなので、穴が埋まらなければ、最も利益率の高い仕事から減る。
客がほぼ一社で、価格を決める力がない
JR東海は売上の5割強を占め、筆頭株主でもある。保守の単価は交渉で決まり、JR東海は不断のコストダウンを掲げている。単価が物価に届かない年が続けば、人件費の上昇を吸収できず、利益率が下がる。客が仕事の量も値段も握る構造は、10年変わらない。
JR東海が保守を内製やグループ会社へ寄せる
JR東海グループには自前の工事会社がある。保守の効率化システムを内製した例も報じられた。保守の一部を取り戻す動きが強まれば、担当区間が固定されている強みは薄れる。株主として8.5%を持つ関係は、この動きを止める保証にならない。
リニア関連の工事が計画どおり進まない
リニア山梨県駅の工事は、名工建設を含む3社のJVが請け負い、工期は2031年末までだ。ただリニアの開業時期は読みにくく、後続の工事が出る時期も定かでない。大規模改修の穴埋めをリニアに頼る形は、時期のずれに弱い。
人手不足で夜間作業の担い手が足りなくなる
保線は夜間作業が中心で、担い手の確保が難しい。残業の上限規制で、労働時間にも制約がある。研修施設に80億円強を投じたが、育てた若手が定着しなければ、売上を伸ばせない。労務費の上昇が単価に転嫁できないと、利益が削られる。
含み益と資本の厚みが、市場の下落で目減りする
純資産859億円のうち、約175億円(推定)は持ち合い株などの評価差額金だ。株価が下がれば、自己資本はすぐ減る。ためた利益も稼ぎを生まず、ROEは年々下がる。売却して還元に回す方針も、数値目標は確認できなかった。
今後の分かれ目
- JR東海の次の大型工事(リニア関連、新幹線の追加改修)が受注に載り、軌道の受注高が3期続けて500億円を超えたら
- 改修の終息は吸収できるとみて、中立の軌道の量の減りを小さくし、楽観側の確率を上げる。
- JR東海が保守の一部をグループ会社へ移すと明らかにしたら
- 担当区間の固定という強みが崩れるとみて、悲観の確率を上げ、軌道の利益率を下げる。
- 持ち合い株の売却と、売却代金を使った自社株買いや増配を数値で示したら
- 資本効率の改善を認め、ROEの見通しを引き上げて、倍率を上方に直す。
- 2027年3月期の営業利益が計画の74億円を10億円以上上回り、次の期も保たれたら
- 計画が保守的であると確かめ、中立の利益率を上に直す。
- JR東海が株式の持分を引き上げる、または再編の提案が出たら
- 買い取り価格が本質価値を上回るかどうかで判断する。条件次第では、価値を押し上げる材料になる。
- 研修施設で育てた若手が定着せず、施工量が計画を下回ったら
- 人手不足の制約が強いとみて、中立の量をさらに下げ、利益率を削る。
見ておくもの
- 四半期ごとの受注高と、軌道・土木・建築の内訳
- JR東海の大規模改修の工事費の計画と、リニア関連の発注
- 営業利益率と、会社が重んじる営業利益の額の推移
- 持ち合い株の売却額と、その使い道
- 配当性向と、自社株買いの有無
- 研修施設の稼働と、技能者の確保数
倍率と資本コストの決め方
倍率は、ROE が資本コスト k 7.6%(基本 7.5% + quality 0.6%)に届かない前提で、正当化 PER の式(g 4%、残る割合 1/2)から出した上限の 9 割弱に置いた。今の株価や過去の PER・PBR を見てから決めたわけではない。10年の営業利益は、セグメントごとに量と価格を積んで出した。セグメントごとの売上・利益は開示が無く、JR東海向け約53%の報道と、利益率の筆者の推定から配分した。数量は人日の推定値なので、量と価格の分け方には誤差がある。悲観の床は、谷の PBR からでなく、稼ぐ力(純利益 ÷ k)を土台に今の自己資本へ掛けた。持ち合い株の評価差額金は、保有株の配当が純利益に入っているため、余り資産に足していない(二重を避けた)。純現金は約63億円で時価総額の1割を超えるが、運転資金等に要るとみて分けていない。2028年3月期からの新リース会計基準で BS の形が変わるが、数字は家賃を営業費用に入れた今の形でそろえた。今の株価から逆算した数字ではない。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 7.6% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 0.6% = 8.1%。理由は quality_why。客が一社であることなどの個別の懸念は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.10% → 7.60%。