結論
日本乾溜工業は、福岡を地盤に、ガードレールや標識などの交通安全施設と、崖の崩れを防ぐ法面の工事を手がける会社だ。防災用品の販売も持つ。筆者の結論は「やや割高」だ。公共工事に支えられた堅い事業と厚い現金はあるが、利幅は薄く、現金は親会社の下で株主に戻りにくい。
2026 年に大きな資本の組み替えがあった。麻生と伊藤忠丸紅住商テクノスチールに新株を出して 60 億円を集め、その資金で、ファンドが持っていた優先株を会社ごと買い取った。普通株にして 6 割に当たる潜在の希薄化が消えた一方、麻生が議決権の 5 割を持つ親会社になった。
事業は国土強靱化の予算と道路の老朽化に支えられ、10 年後も需要は残る。ただ入札で値段が決まり、営業利益率は 4〜7% にとどまる。時価総額の 6 割に当たる純現金を抱えるが、親会社がいる以上、その価値は半分ほどにしか数えられない。今の値段は、その現金を額面に近く数えた水準にあり、少し高い。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「地味だが壊れにくい事業に、使い道の決まらない現金がついている」会社だ。
道路の安全と斜面の防災の仕事は、10 年後も確実に残る。人口が減っても道路は残り、古くなるほど補修は増える。ただ工事の値段は入札で決まり、他社にまねできない強みは地元の実績くらいしかない。稼ぐ力は、物価と人件費の波に合わせて上下する。
値段の大半は現金だ。時価総額の 6 割に当たる純現金があり、事業の部分は利益の数年分にすぎない。しかし、その現金は少数株主のものとは言いにくい。麻生が過半を持ち、現金は工事の運転資金や次の買収に使われうる。筆者は、現金の価値を半分に割り引いて数え、事業の稼ぐ力と合わせると、今の値段はやや高いと見る。安全域は現金の分だけあるが、それを受け取れる保証が薄い。オーナーとして持ちたいかと問われれば、親会社の判断に委ねる部分が大きすぎる。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、道路の安全を守る小口の公共工事だ。国や県、市町村が発注するガードレール、防護柵、標識、区画線の設置と補修を請け負う。大雨で崩れやすい斜面を固める法面の工事や、盛り土の補強材の販売もここに入る。建設事業は売上の 85% を占める。
工事は年度末に集中する。官公庁の予算の執行に合わせて、売上は第 2 四半期に偏り、残りの四半期は薄い。2025 年には同業の大正工業と西部保安ホールディングスを買い、九州の交通安全施設の工事で地盤を広げた。
防災安全事業は、自治体や企業向けに非常食、備蓄の機材、衛生用品を売る。鳥インフルエンザのような特需で売上が跳ねる年もあるが、普段は安定した小さな稼ぎだ。
新しい親会社の麻生は、福岡を本拠に建設、セメント、病院、教育を営む企業グループである。麻生の建設会社と営業や技術で組み、法面や地盤改良の仕事を元請けの側から取り込むことが提携の狙いだ。麻生からは取締役を 1 人受け入れ、経営の目付け役も兼ねる。工事の会社としての日本乾溜は、上場を保ったまま、九州の大きな企業グループの一員として生きていく形になった。
優良さと弱いところ
日本乾溜の優良さは、中くらいより少し下だ。需要は堅いが、値段を決める力は弱い。
強みは地元での実績と施工の体制だ。交通安全施設の工事は、資格を持つ作業員と、道路を止めずに作業する段取りが要る。九州の自治体との長い取引が受注の土台になっている。過去 20 年で赤字は 2000 年代の初めだけで、ここ 20 年は黒字が続く。
弱みは入札だ。工事の値段は発注者の予定価格と競争で決まり、会社が自分で決める余地は小さい。営業利益率は良い年で 7%、悪い年で 4% と、物価と人件費の波をそのまま受ける。
資本効率も高くない。ROE は過去 10 年の中央値で 8% ほどだが、時価総額の 6 割の純現金を寝かせている分、事業の実力より低く出る。配当は 2026 年 9 月期に大きく増やす予定だが、現金の多くは親会社の下に残る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
交通安全施設と法面の工事は、公共の予算でほぼ決まる。国の国土強靱化の中期計画は、2026 年度から 5 年で 20 兆円強の事業規模を掲げ、そのうち半分を道路や橋、上下水道の老朽化の対策に充てる。
道路の老朽化は確実に進む。建設から 50 年を超える橋は、2035 年には 3 分の 2 に達する。ガードレールや標識も同じく古くなり、更新の工事は途切れない。大雨が増えて斜面の崩れも頻繁になり、法面の工事の必要は高まっている。
一方で人手は足りない。技能を持つ作業員は高齢化し、若い人が入らない。2024 年から残業の上限も厳しくなった。業界では、取れる仕事を選び、取った仕事の値段を上げる動きが広がり、上場の建設会社の多くで粗利の率が改善した。
交通安全施設の工事は、地域ごとの中小の専門業者が多い。後継者のいない会社は増え、買収で集約が進む。日本乾溜が 2025 年に 2 社を買ったのもこの流れだ。筆者は、10 年の工事の量はほぼ横ばいで、値段は物価に連れて上がると見る。公共の予算が他の政策に回されると、点検はしても補修を先送りする動きが出る。そこが数量の下振れの筋になる。
資本政策と M&A
2026 年の資本の組み替えで、会社の形が変わった。麻生ほかに 60.6 億円の新株を出し、その資金で、優先株 200 万株を持つファンドの会社 FCP18 を 62.8 億円で買い取った。優先株は自己株式になり、普通株の約 724 万株分に当たる潜在の希薄化は無くなった。自己資本はほぼ変わらず、株数は 1,083 万株に増えた。
還元は配当が中心で、2026 年 9 月期は前の期のほぼ倍の配当を予定する。利益の 6 割強を配る形だ。株主優待は 1,000 株以上に QUO カードを贈るが、額は小さい。
麻生が 50.1% を持つ親会社になり、残りの少数株主の立場は弱くなった。将来、麻生が残りを買い取って完全子会社にする道もある。その時の値段は、厚い現金をどう数えるかで決まる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
道路と斜面の老朽化は待ったなしだ。国土強靱化の中期計画は 5 年で 20 兆円強を投じ、その半分を老朽化の対策に回す。ガードレールや標識の更新と法面の補強は、日本乾溜の本業そのものである。大雨の被害が増えるたびに、防災の工事の予算は厚くなる。
麻生の傘下に入ったことも追い風だ。麻生の建設会社と組めば、元請けの立場から法面や地盤改良の仕事を取り込める。九州で同業を買って規模を広げ、人手の確保でも有利になる。2026 年 9 月期の売上は 200 億円の予想で、2 年で 1 割以上伸びる。
資本の組み替えで、普通株の 6 割に当たる優先株の重しが消えた。配当はほぼ倍になり、利益の 6 割強を配る。時価総額の 6 割は純現金で、いずれ麻生が完全子会社にするなら、その値段は現金を十分に映すはずだ。防災安全事業も、自治体の備蓄の更新という息の長い需要に支えられている。人手不足の時代に作業員を抱える会社は、それだけで発注者に頼られる。
慎重な見方
工事の値段は入札で決まる。人手不足で労務費が上がっても、発注者の予定価格が追いつかなければ利幅は削られる。営業利益率は 2021 年の 7.4% を山に、2025 年には 4.0% まで下がった。買収で売上は増えたが、のれんの償却も重い。
公共の予算は永遠ではない。国の借金の利払いが金利の上昇で膨らめば、他の政策に予算が回され、補修の工事は先送りされる。点検はしても直さないという運用は、自治体ですでに見られる。
厚い現金は少数株主のものではない。麻生が 50.1% を持ち、現金の使い道は親会社の意向で決まる。新株で集めた 60 億円も、優先株の買い取りに消えた。少数株主が受け取れるのは配当だけで、それも親会社の判断次第だ。人手不足で作業員を集められなければ、受注できても施工できない。防災安全事業も特需の反動で利益が落ちており、二本目の柱としては細い。将来の完全子会社化も、少数株主に有利な値段になるとは限らない。
どちらに重みを置いたか
老朽化と防災の需要は本物で、事業が細る筋は薄い。一方で、利幅の薄さと現金の戻りにくさという慎重な見方の指摘も強い。中立は工事の量を少し増やし、利幅を今よりわずかに上に置いた。現金は戻り方を半分に割り引いた。確率は中立を中心に、予算の先送りと労務費の上昇の筋を悲観側に厚めに置いた。親会社の存在は、現金の戻り方で一度だけ割り引いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/09 期)
確率で加重した株価時価総額 1,681 円182 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 340 円37 億円)。 今の値に割り戻すと 1,052 円114 億円、今との差 +15.6%、 期待の年率 +8.3%(資本コスト 7.5%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 3,430 円371 億円 | 534 円58 億円 | +335.6% | +15.9% | 317 円34 億円 |
| やや楽観 | 20% | 2,545 円276 億円 | 433 円47 億円 | +227.3% | +12.6% | 596 円65 億円 |
| 中立 | 38% | 1,820 円197 億円 | 386 円42 億円 | +142.4% | +9.3% | 838 円91 億円 |
| やや悲観 | 22% | 746 円81 億円 | 225 円24 億円 | +6.8% | +0.7% | 214 円23 億円 |
| 悲観 | 12% | 347 円38 億円 | 117 円13 億円 | −49.0% | −6.5% | 56 円6 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,681 円182 億円 | 340 円37 億円 | +122.0% | +8.3% | 2,020 円219 億円 |
今の株価時価総額 910 円99 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 強靱化の予算と麻生の連携で工事が増える 利益 18 億円 · PER 18.9 倍 · 株価時価総額 3,430 円371 億円
国土強靱化の予算が中期計画を上回って執行され、道路の防護柵と法面の補修の発注が増える。麻生の建設会社と組んだ受注も軌道に乗り、九州の同業をさらに買って、工事の件数は今の 1.24 倍になる。人手不足で発注者が予定価格を引き上げ、工事の単価は物価を上回って上がる。セグメントの利益率は 10% 台に乗り、全社の営業利益は 23 億円前後まで伸びる。配当は利益の半分を保ち、麻生はいずれ完全子会社化を視野に入れる。少数株主にとっては、その時の買付けの値段が最後の答えになる。純現金を十分に映した値段なら、この筋書きの価値はさらに上がる。
- 建設(交通安全施設・法面):数量 2.1(完成工事の件数(千件・年、推定))× 価格 1,400(1 件あたりの工事額(万円・名目))→ 売上 294 億円・営業利益 31 億円。2.1 千件 × 単価(今の 1.40 倍)、利益率 10.5%
- 防災安全:数量 7.0(納入の件数(千件・年、推定))× 価格 70(1 件あたりの売上(万円・名目))→ 売上 49 億円・営業利益 5 億円。7 千件 × 単価(今の 1.40 倍)、利益率 10%
倍率:事業の純利益 17 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.2% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)42 億円。全体の PER 18.92 倍、時価総額 368 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:強靱化の予算の上積みと、麻生との連携による元請けからの受注の両方が要る。どちらも起こりうるが、利幅まで上がる確度は低い。
やや楽観 20% 買収で地盤を広げ、利幅を少し上げる 利益 14 億円 · PER 17.8 倍 · 株価時価総額 2,545 円276 億円
道路の老朽化と大雨の被害で、防護柵と法面の工事は増え続ける。買収した 2 社の統合が進み、件数は今の 1.15 倍になる。労務費の上昇は予定価格に反映され、単価は物価をやや上回る。セグメントの利益率は 9.7% に上がる。本社の費用は物価で増えるが、規模の利益で薄まる。営業利益は 17 億円台、純利益は 12 億円台になる。配当は利益の半分を配り、現金は運転資金と次の買収に回る。防災安全事業は自治体の備蓄の更新で底堅く、特需の年も時折ある。会社は九州で交通安全施設の工事の中心的な存在になる。ROE は 9% 台に上がる。
- 建設(交通安全施設・法面):数量 2.0(完成工事の件数(千件・年、推定))× 価格 1,370(1 件あたりの工事額(万円・名目))→ 売上 267 億円・営業利益 26 億円。1.95 千件 × 単価(今の 1.37 倍)、利益率 9.7%
- 防災安全:数量 6.5(納入の件数(千件・年、推定))× 価格 68(1 件あたりの売上(万円・名目))→ 売上 44 億円・営業利益 4 億円。6.5 千件 × 単価(今の 1.36 倍)、利益率 9%
倍率:事業の純利益 13 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.6% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)42 億円。全体の PER 17.75 倍、時価総額 271 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:2025 年の 2 社の買収で九州の地盤は広がり、2026 年 9 月期は売上 200 億円の予想。需要と買収の効果が続けば、利幅の改善はそれなりに見込める。
中立 38% 工事の量は少し増え、利幅は 5% 前後 利益 10 億円 · PER 16.3 倍 · 株価時価総額 1,820 円197 億円
道路と斜面の補修の工事は途切れず、小さな買収も加わって件数は今の 1.06 倍になる。単価は労務費と資材の物価に連れて 1.34 倍に上がる。ただ入札の競争で利幅は大きくは広がらず、セグメントの利益率は 9.0% にとどまる。本社の費用も物価で増え、全社の営業利益率は 5% 前後と、過去の中央値に近い。配当は利益の半分強を配る。現金は運転資金を残して積み上がるが、麻生の傘下で使い道は決まらないままだ。防災安全事業は小さいが安定し、全体の利益を下支えする。会社は 10 年後も九州の道路の安全を守る工事会社として残るが、事業の強さは今と大きく変わらない。
- 建設(交通安全施設・法面):数量 1.8(完成工事の件数(千件・年、推定))× 価格 1,340(1 件あたりの工事額(万円・名目))→ 売上 241 億円・営業利益 22 億円。1.8 千件 × 単価(今の 1.34 倍)、利益率 9.0%
- 防災安全:数量 6.0(納入の件数(千件・年、推定))× 価格 67(1 件あたりの売上(万円・名目))→ 売上 40 億円・営業利益 3 億円。6 千件 × 単価(今の 1.34 倍)、利益率 8.5%
倍率:事業の純利益 9 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.1% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)42 億円。全体の PER 16.3 倍、時価総額 194 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:老朽化の対策は続くが、人手不足で施工できる量に限りがある。工事の量は少しの買収で微増、値段は物価並みとみて、中立に最大の確率を置く。
やや悲観 22% 予算の先送りと労務費で利幅が削られる 利益 4 億円 · PER 10.8 倍 · 株価時価総額 746 円81 億円
国の利払いが膨らみ、強靱化の予算は計画を下回って執行される。自治体は点検はしても補修を先送りし、工事の件数は今の 0.94 倍に減る。労務費は物価を上回って上がるが、予定価格は追いつかない。セグメントの利益率は 7.5% に下がり、全社の営業利益は 5 億円前後に落ちる。買収した会社ののれんの一部は減損になる。配当は利益に合わせて減り、現金の一部は赤字の穴埋めの買収に使われる。人手が集まらず、取れる工事を外注に回す割合も増える。ROE は 4% を下回り、ためた利益は資本コストを稼がない。少数株主は、親会社の下で動かない現金を眺めるだけになる。
- 建設(交通安全施設・法面):数量 1.6(完成工事の件数(千件・年、推定))× 価格 1,280(1 件あたりの工事額(万円・名目))→ 売上 205 億円・営業利益 15 億円。1.6 千件 × 単価(今の 1.28 倍)、利益率 7.5%
- 防災安全:数量 5.2(納入の件数(千件・年、推定))× 価格 64(1 件あたりの売上(万円・名目))→ 売上 33 億円・営業利益 2 億円。5.2 千件 × 単価(今の 1.28 倍)、利益率 6%
倍率:ROE 4.5% が k 7.5% 以下なので、ためた利益は額面未満で、PER の上限は 1÷k=12.5 倍。利益が細る筋書きなので上限の 8 割(上限の 80%=10.00 倍)。余った資産 32 億円は戻り方 0.50 を掛けて足した。(2026-10-22 の式の直しで機械で置き直し、今は PER 10.83 倍・時価総額 74 億円。上の倍率は置き直す前の値)
確率:国の利払いの膨張で公共予算の伸びが止まり、補修の先送りが広がる筋。労務費の上昇は既に利幅を削っており、厚めに置く。
悲観 12% 公共工事が細り、事業がほぼ稼がなくなる 利益 0 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 347 円38 億円
財政の制約が厳しくなり、道路の補修の予算は大きく削られる。工事の件数は今の 0.8 倍に減り、単価も物価を下回る。作業員が集まらず、取れた工事も外注に頼って利幅が消える。セグメントの利益率は 5% に落ち、本社の費用を賄えずに営業赤字になる。会社の価値は稼ぐ力でなく、手元の純現金と土地に近づく。ただその現金も親会社の意向で使われ、少数株主にはその半分ほどしか届かない。配当は細り、上場を続ける意味も薄れる。麻生が安い値段で残りの株を買い取る筋も、この中に含まれる。少数株主に残るのは、細った配当と、現金の一部だけである。
- 建設(交通安全施設・法面):数量 1.4(完成工事の件数(千件・年、推定))× 価格 1,200(1 件あたりの工事額(万円・名目))→ 売上 162 億円・営業利益 8 億円。1.35 千件 × 単価(今の 1.20 倍)、利益率 5%
- 防災安全:数量 4.5(納入の件数(千件・年、推定))× 価格 60(1 件あたりの売上(万円・名目))→ 売上 27 億円・営業利益 1 億円。4.5 千件 × 単価(今の 1.20 倍)、利益率 3%
倍率:赤字の筋書きなので PBR とし、床は純現金と土地の回収(floor_assets)から、今の自己資本 96.5 億円の 0.39 倍にあたる 37.5 億円に置いた。
確率:公共予算の大幅な削減と人手不足が重なり、工事の量と利幅が同時に崩れる筋。需要が消える業種ではないので確率は高くない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
建設(交通安全施設・法面)
ガードレール・防護柵・標識・区画線の設置と補修、法面の補強工事、盛り土の補強材の販売。
| 数量完成工事の件数(千件・年、推定) | 価格1 件あたりの工事額(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 1.7 | 1,000 | 170 | 16 |
| 10 年後 中立 | 1.8 | 1,340 | 241 | 22 |
取り方:2026 年 9 月期の予想売上 200 億円に、第 3 四半期までの建設の割合 85% を当てて約 170 億円。小口の公共工事が多いので 1 件 1 千万円と置き、件数を約 1.7 千件とした推定。利益はセグメント利益(全社費の前)の第 3 四半期までの率 9.3% から 15.6 億円。
防災安全
自治体・企業向けの非常食・備蓄の機材・衛生用品の販売。
| 数量納入の件数(千件・年、推定) | 価格1 件あたりの売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/09 | 6.0 | 50 | 30 | 3 |
| 10 年後 中立 | 6.0 | 67 | 40 | 3 |
取り方:第 3 四半期までの 22.3 億円を年に直して約 30 億円。1 件 50 万円の納入として件数を約 6 千件とした推定。利益は第 3 四半期までの率 7.5% と特需の反動を見て 2.6 億円。
リスクと懸念
公共の予算の先送り
国の利払いが金利の上昇で膨らめば、国土強靱化の予算が削られたり、点検はしても補修を先送りしたりする運用が広がる。売上のほとんどが公共工事の会社には、数量の直撃になる。
労務費の上昇と入札の値段
技能を持つ作業員の不足で労務費は物価より速く上がる。発注者の予定価格が追いつかなければ、利幅の薄い工事はすぐに赤字に近づく。
親会社の下での現金の行方
麻生が議決権の 50.1% を持つ。時価総額の 6 割に当たる純現金の使い道は親会社の意向で決まり、少数株主に戻る保証はない。
完全子会社化の値段
将来、麻生が残りの株を買い取る時、その値段が現金と稼ぐ力を十分に映すとは限らない。少数株主には選ぶ余地が少ない。
買収とのれん
2025 年に大正工業と西部保安ホールディングスを買い、のれんと顧客関連資産を抱えた。九州の同業の買収を続ける中で、目利きを誤れば減損が出る。
年度末への集中と天候
工事は年度末に集中し、天候や資材の遅れで工期がずれると、利益がまとめて翌期に回る。四半期の数字は振れやすい。
今後の分かれ目
- 国土強靱化の予算が中期計画どおりに執行され、補修の発注が増えたら
- 工事の量を上に見直し、やや楽観に確率を寄せる。
- 営業利益率が 6% 台を 2〜3 年保ったら
- 労務費の転嫁が進んだ証拠とみて、中立の利幅を上げる。
- 麻生が完全子会社化(TOB)を発表したら
- 分析の対象から外す。買付けの値段が純現金をどう映すかを見る。
- 配当性向 6 割強の方針を中期で約束したら
- 溜まる現金の戻り方を 0.75 に上げてよい。
- 大きな買収で現金を使ったら
- 余った現金を減らし、買収の利回りが資本コストを超えるかを見る。
- 予算の先送りで受注が 2 年続けて 1 割以上減ったら
- やや悲観の確率を上げる。
見ておくもの
- 国土強靱化の予算の執行と道路の補修の発注
- 営業利益率と労務費
- 受注残と年度末の完成工事
- 麻生との連携の受注と持株比率
- 配当と現金の残高
倍率と資本コストの決め方
数量は工事の件数(推定)で実質に置き、労務費と資材の物価は単価に入れた。今の値は 2026 年 9 月期の予想(売上 200 億円)に近い形で、セグメントの第 3 四半期までの実績から年に直した。中立の利益率は 5% 前後で、過去の山 7.4% を下回る。倍率は k 7.5% と g 4% の式から出し、今の PER や PBR は見ていない。時価総額は増資後の株数 1,083 万株で出した。純現金は運転資金 20 億円を残して余った現金に分け、親会社がいるので戻り方 0.5 を掛けた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14.84→18.92 倍・やや楽観 PER 13.12→17.75 倍・中立 PER 12.5→16.3 倍・やや悲観 PER 10→10.83 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。