結論
矢作建設工業は、名古屋を地盤に建築・土木・不動産を営む中堅ゼネコンだ。筆者の結論は「やや割高」。利益は過去最高だが、それは景気と物価の追い風が重なった山の高さにある。
強みは、設計から施工まで請ける力と、不動産を自前で持つ収益源だ。繰越工事は1,740億円と過去最高で、土木は粗利率が2割を超える。借金も軽く、自己資本比率は5割を超える。
弱みは、国内の工事量が実質で増えないことと、規模が小さく東海に偏ることだ。会社の見通しも、今期は営業利益が3割ほど減る。分譲マンションを手放し、建築も減収になるためだ。
中立の筋書きでは、営業利益は10年後も150億円強にとどまる。累進配当を守りながら不動産に再投資すると、自己資本が厚くなり、ROEは8%前後に落ち着く。資本コストの手前で、今の値段にまだ安全域は見えない。
筆者が気にしているのは、利益の大きさより、稼いだお金の行き先だ。新しい中期経営計画は、不動産に800億円を投じる。その稼ぎが資本コストを超えるなら価値は増え、届かなければ薄まる。そこが、この会社の本質価値を分ける。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、小さな地方ゼネコンの価値は「毎年取り直す仕事の質」で決まる。資本は軽く、財務も堅い。しかし受注は毎年取り直しで、利益は景気の山と谷で振れる。1998〜2002年には営業利益率が1%台まで落ちた。
株主が自由に使える利益は、純利益の7割ほどだと筆者は見る。工場も店も要らないので、事業の再投資は小さい。ただ、新しい計画は不動産に800億円を投じる。ここで投資の稼ぎが資本コストに届くかが、価値を分ける。
経営への注文は二つある。一つは、累進配当を守りながら、稼ぎの確かな不動産だけに絞って投資すること。もう一つは、割高な自社株買いで資本を無駄にしないことだ。分譲マンションを手放したのは、景気に振れる事業を減らす前向きな判断だと筆者は見る。
安全域は薄い。財務は堅く、悲観でも大きくは壊れない。それでも、中立の筋書きの価値は今の値段に届かない。優れた事業でも、払う値段が本質価値を超えるなら、筆者は手を出さない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの土台は建築だ。物流施設、工場、マンション、オフィスなどを、設計から施工まで一貫して請け負う。売上の約3分の2を占めるが、粗利率は1割弱と低い。直近は野村不動産発注の大型物流施設が最盛期を迎え、売上と利益を押し上げた。
土木は売上の2割ほどだが、粗利率は2割を超え、稼ぎの質が高い。官庁工事が半分近くを占め、国土強靱化の予算が追い風になる。繰越工事は600億円を超え、前年から4割近く増えた。
三つ目の柱が不動産だ。産業用地や物流用地を開発し、保有して賃貸し、売却する。売上は小さいが、粗利率は4割近い。2026年4月には分譲マンション事業を、筆頭株主の名古屋鉄道グループの名鉄都市開発へ譲渡した。大きく稼ぐ力は薄いが、景気に左右される商いを手放した。
子会社は、緑化、道路、設備の保守、ビル管理など。2023年には京都の北和建設を約30億円で買い、関西へ足を延ばした。
受注から完成までは、建築で1〜3年、土木で2〜3年かかる。繰越工事の厚さは、そのまま先の売上の見通しになる。会社は繰越を、将来の売上を示す先行指標として重く見ている。
優良さと弱いところ
優良さを一言で言えば「小さくて堅い、地方の設計施工型ゼネコン」だ。堀、つまり他社がまねできない強みは、スーパーゼネコンのような深さはない。
強みは三つある。一つ目は、設計から施工まで請ける力で、採算を選びやすいこと。二つ目は、粗利率が高い土木と不動産を併せ持つこと。三つ目は、自己資本比率が5割を超える財務の堅さだ。過去10年に赤字の年はない。
弱みも三つある。一つ目は、規模の小ささだ。売上は1,700億円ほどで、準大手の戸田建設や熊谷組の半分以下だ。二つ目は、東海に偏る点で、地域の需要が細れば逃げ場がない。三つ目は、値段を決める力が限られることだ。官庁工事は入札で、民間も相見積りが多い。
資本の使い方は変わり始めた。新しい中期経営計画は、ROE12%以上とDOE5%以上の累進配当を掲げた。ただ、稼いだ利益の多くを不動産へ再投資する計画で、その稼ぎが資本コストを超えるかは、まだ見えない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の建設市場は、量が増えない成熟市場だ。人口が減り、地方の工事は細る。それでも今は「作れば儲かる」局面にある。2024年4月の残業規制以降、技能者が足りず、受け手の建設会社が仕事を選べる。資材高の転嫁も通り、上場ゼネコン50社の2025年度は受注が16兆円台、利益率も過去最高だった。
矢作建設工業の主戦場は、愛知を中心とする東海だ。名古屋は物流施設や工場の投資が厚く、直近はその恩恵が大きかった。ただ、地場の建設会社や大手が入り乱れ、入札や相見積りの競争は厳しい。中堅の準大手として、同じ土俵に戸田建設、熊谷組、西松建設、奥村組などがいる。
追い風は国土強靱化だ。2026年度から5年で20兆円強の計画があり、道路・橋・上下水道の更新が続く。土木の繰越工事が増えているのはその表れだ。
10年先は、物流施設やデータセンターの投資が一巡する。その後は、実質で横ばいか緩やかな縮小に向かうと筆者は見る。人手不足の業界では、売上を伸ばす力より採算を守る力が差を生む。小さな会社どうしの再編も進みやすい。
資本政策と M&A
資本政策の中身は、「還元の約束」と「不動産への再投資」の綱引きだ。新しい中期経営計画(2026〜2030年度)は、DOE5%以上の累進配当と、機動的な自社株買いを掲げる。5年で220億円以上を還元する計画で、直近のDOEは6%だった。
一方で、成長投資は総額1,000億円、回収を差し引いて500億円と、前の計画の約2倍だ。うち800億円が不動産に向かう。これが資本コストを超える稼ぎを生まなければ、ためた利益は価値を増やさない。
買収は小粒だ。2023年に京都の北和建設を約30億円で取得した。2026年4月にも、株式会社海昌を子会社に加えた。大きな買収で価値を壊すタイプではない。
株主面では、名古屋鉄道が約19%を持つ筆頭株主で、経営への参加を目的としている。分譲マンションの譲渡先も名鉄グループだ。将来、名古屋鉄道が持分を高める可能性は、無視できないと筆者は考える。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
建設業の構造が変わった。受け手が仕事を選べる時代に、矢作建設工業は設計から施工まで一貫して請け負うので、採算を選びやすい。繰越は1,740億円と過去最高で、土木は粗利率が2割を超える。2026年3月期の営業利益は137億円と、会社の当初予想を2割以上上回った。
新しい中期経営計画は、2030年度に営業利益180億円以上とROE12%以上を掲げる。前の中計は、売上も利益も目標を大幅に超えた実績がある。今回も保守的に作られていると見るのが自然だ。
分譲マンションを手放したことで、景気に振れる事業が減った。残る不動産は賃貸と産業用地が中心で、粗利率は4割近い。800億円の投資が回り始めれば、安定した収益の柱になる。
財務は軽い。自己資本比率は5割を超え、過去10年に赤字の年がない。DOE5%以上の累進配当は、配当の底を上げる約束だ。筆頭株主の名古屋鉄道は、経営に参加する安定株主でもある。
成長の芽も見える。土木の繰越は前年から4割近く増え、官庁工事の比率は半分近い。国土強靱化は5年で20兆円強の計画で、更新工事は10年先まで続く。建築も、物流施設や工場の更新、再開発が途切れない。量が増えなくても、価格と採算で稼ぐ道は十分に残っている。
慎重な見方
今の利益は山の高さだ。売上1,693億円、営業利益137億円は、物流施設の大型案件の最盛期と、物価上昇に伴う追加契約が重なった数字だ。会社自身が、今期は営業利益が3割ほど減ると見ている。繰越は増えたが、建築は前年から5%減った。
国内の工事量は、人口減で実質では増えない。施工を決めるのは人手で、人が足りなければ売上は伸びない。人件費の上昇は利益率を削る。規模の小さい中堅は、大手のような価格を決める力を持たない。
資本の質にも問題がある。累進配当を守りながら不動産に800億円を投じると、自己資本は厚くなり、ROEは薄まる。不動産の投資が資本コストを稼げなければ、ROEは10%を割り込む。会社が目標とする12%は、今の利益の山の高さを前提にしている。
東海に偏った小さな会社で、逃げ場がない。物流施設の投資が一巡すれば、建築の受注は反動で落ちる。名古屋鉄道との距離が近すぎることも、少数株主には気がかりだ。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方が少し強い。事業の質と財務の堅さでは強気の見方に分があるが、値段を決めるのは、再投資が資本コストを超えられるかどうかだ。そこでは慎重な見方の指摘が勝つ。確率は、中立に4割弱を置き、残りは慎重側にやや厚くした。悲観を1割強に置いたのは、1998〜2002年に利益率が1%台まで落ちた経験を無視できないからだ。強気の見方が強調する繰越の厚さは、近い年の利益を守るが、10年先の利益を守るものではない。会社は堅く、大きくは壊れないが、今の値段を払うほどの余裕もない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,131 円1,352 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,066 円460 億円)。 今の値に割り戻すと 2,297 円992 億円、今との差 +9.7%、 期待の年率 +7.2%(資本コスト 7.3%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 5,452 円2,354 億円 | 1,436 円620 億円 | +229.0% | +12.6% | 482 円208 億円 |
| やや楽観 | 18% | 4,753 円2,053 億円 | 1,297 円560 億円 | +188.9% | +11.2% | 1,089 円470 億円 |
| 中立 | 38% | 3,626 円1,566 億円 | 1,135 円490 億円 | +127.4% | +8.6% | 1,809 円781 億円 |
| やや悲観 | 25% | 1,547 円668 億円 | 926 円400 億円 | +18.1% | +1.7% | 618 円267 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,075 円464 億円 | 579 円250 億円 | −21.0% | −2.3% | 198 円86 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,131 円1,352 億円 | 1,066 円460 億円 | +100.4% | +7.2% | 4,197 円1,812 億円 |
今の株価時価総額 2,094 円904 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.3% を下回るほど割高。
楽観 7% 選別受注と不動産の運用が当たり続ける 利益 133 億円 · PER 17.1 倍 · 株価時価総額 5,452 円2,354 億円
10年にわたり、建築は採算の良い工事を選び続ける。物流施設や工場の更新、再開発が途切れず、利益率は4%強まで上がる。土木は強靱化の予算が続き、官庁工事の実績が積み上がる。粗利率は2割を保ち、営業利益も伸びる。不動産は中計の投資が実り、保有する産業用地や物流施設の運用益が厚くなる。分譲マンションを手放した分は、賃貸と開発の利益で埋まる。営業利益は210億円を超え、中計の180億円を上回る。DOE5%の累進配当は守られ、増配と自社株買いで株主へも戻る。ROEは11%近くへ上がる。国内の量が増えない事実は変わらないが、価格と採算でそれを補う最も良い姿だ。大きな買収に頼らず、地方の中堅ゼネコンを小さく買い足す程度で、規模も無理なく伸びる。
- 建築:数量 165(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.71(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 1,602 億円・営業利益 67 億円。165万人日換算 × 1人日あたり 9.71万円、利益率 4.2%
- 土木:数量 55.3(施工量(万人日、実質))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 564 億円・営業利益 65 億円。55万人日換算 × 1人日あたり 10.20万円、利益率 11.5%
- 不動産:数量 1,100(開発・保有する不動産の残高(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.26(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目。売却と賃貸の回転))→ 売上 283 億円・営業利益 82 億円。残高 1100億円 × 回転 0.257、利益率 29.0%
倍率:事業の純利益 133 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.6% が k 7.30% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 3.8% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.1 倍。全体の PER 17.09 倍、時価総額 2,273 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10年を通じて選別受注と不動産の運用が当たり続ける必要があり、中計の目標を上回る姿なので確率は低い。
やや楽観 18% 価格転嫁が続き、中計にほぼ届く 利益 116 億円 · PER 16.7 倍 · 株価時価総額 4,753 円2,053 億円
価格転嫁が物価並みに通り、中計に近い道を進む。建築は4%近い利益率を保ち、繰越の厚さが採算を支える。土木は強靱化で量を保ち、粗利率は2割に近い。不動産は800億円の投資が回り始め、利益が少しずつ積み上がる。営業利益は190億円近くまで増え、ROEは10%近くまで上がる。累進配当は続き、機動的な自社株買いも入る。ただ、稼いだ利益の多くは不動産に再投資され、自己資本も厚くなる。ROEは資本コストにやっと届く程度で、市場から高く評価され続けるには力不足だ。国内の量が増えない制約は最後まで残る。2030年代前半には物流施設の投資が一巡し、建築の波は穏やかに引いていく。
- 建築:数量 157(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.57(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 1,504 億円・営業利益 56 億円。157万人日換算 × 1人日あたり 9.57万円、利益率 3.7%
- 土木:数量 51.8(施工量(万人日、実質))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 522 億円・営業利益 57 億円。52万人日換算 × 1人日あたり 10.08万円、利益率 11.0%
- 不動産:数量 1,000(開発・保有する不動産の残高(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.26(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目。売却と賃貸の回転))→ 売上 257 億円・営業利益 73 億円。残高 1000億円 × 回転 0.257、利益率 28.5%
倍率:事業の純利益 116 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.9% が k 7.30% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.8% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.7 倍。全体の PER 16.65 倍、時価総額 1,931 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:値上げが物価並みに通り、中計がほぼ達成されれば、ROEは資本コストに近づく。ただ国内の量は増えないので、これ以上は置かない。
中立 38% 量は横ばい、価格だけ上がる成熟 利益 94 億円 · PER 15.3 倍 · 株価時価総額 3,626 円1,566 億円
量は実質で横ばいからやや減り、価格だけが物価並みに上がる。建築は物流施設やデータセンターの波が引き、利益率は3%に戻る。土木は強靱化の恩恵が続き、利益率は1割を保つ。不動産は分譲マンションを手放して回転が落ち、残高の増加で利益を支える。営業利益は150億円強で、今の水準から微増にとどまる。中計の180億円には届かない。配当は累進を守り、還元は純利益の約半分に収まる。残りは不動産に回り、自己資本は厚くなる。結果としてROEは8%前後と、資本コストの手前にとどまる。堅実だが、株主の取り分が増えにくい10年だ。人手不足の中で採算を守る力が、この会社の差になる。
- 建築:数量 154(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.57(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 1,473 億円・営業利益 44 億円。154万人日換算 × 1人日あたり 9.57万円、利益率 3.0%
- 土木:数量 49.3(施工量(万人日、実質))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 497 億円・営業利益 50 億円。49万人日換算 × 1人日あたり 10.08万円、利益率 10.0%
- 不動産:数量 900(開発・保有する不動産の残高(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.26(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目。売却と賃貸の回転))→ 売上 232 億円・営業利益 60 億円。残高 900億円 × 回転 0.257、利益率 26.0%
倍率:事業の純利益 94 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.1% が k 7.30% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.8% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.3 倍。全体の PER 15.32 倍、時価総額 1,440 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:量は実質で横ばいか少し減り、価格は物価並み。中計は部分的に達成され、利益は今の水準を保つ。最も標準的な姿。
やや悲観 25% 東海の需要が細り、採算が痩せる 利益 62 億円 · PER 8.8 倍 · 株価時価総額 1,547 円668 億円
東海の民間工事が細り、人手不足の費用だけが重くなる。建築は工事量が実質で1割減り、利益率は2%台に沈む。土木は官庁工事の予算が頭打ちで、競り合いも厳しくなる。不動産は金利が上がり、売却益が細る。営業利益は100億円前後で、今より3割ほど低い。それでも配当は累進を守るため、利益を残す余地は小さい。ROEは6%弱にとどまり、不動産への再投資も資本コストを稼げない。名古屋鉄道との関係は安定要因だが、成長の源にはならない。会社は選別受注を貫けず、人手不足の中で採算の悪い工事を抱え込む。土木も、官庁工事の競り合いで粗利率が2割を割り込む。不動産は、中計で積む投資のうち、資本コストに届かない案件が混じる。利益は減り、増えた自己資本の使い道がないまま、ROEだけが細っていく。
- 建築:数量 142(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.21(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 1,303 億円・営業利益 30 億円。142万人日換算 × 1人日あたり 9.21万円、利益率 2.3%
- 土木:数量 47.8(施工量(万人日、実質))× 価格 9.78(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 467 億円・営業利益 40 億円。48万人日換算 × 1人日あたり 9.78万円、利益率 8.5%
- 不動産:数量 700(開発・保有する不動産の残高(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.23(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目。売却と賃貸の回転))→ 売上 161 億円・営業利益 32 億円。残高 700億円 × 回転 0.230、利益率 20.0%
倍率:ROE 5.85%(純利益 62 億円 ÷ 自己資本 1,060 億円)。事業の ROE が資本コスト k 7.3% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER は 1÷k = 12.0 倍。東海の需要が細り、受注の選別が効かなくなる局面で ROE も 6% 弱にとどまる、上限の 7 割 5 分 の 8.8 倍に置いた。
確率:地方の人口減と人手不足は中堅に重い。値上げ疲れで利益率が戻る展開を、中立に近い厚みで置いた。
悲観 12% 構造的に負け、低採算の工事に頼る 利益 18 億円 · PBR 0.6 倍 · 株価時価総額 1,075 円464 億円
構造的に負ける。東海の需要が縮み、受注を選べなくなる。建築は低採算の工事に頼り、利益率は1%まで落ちる。物流施設や工場の大型案件の反動で繰越も細る。不動産では、中計で積んだ800億円規模の投資の一部に評価損が出る。営業利益は30億円台で、減損で自己資本も目減りする。配当は累進の約束を守れず、減らさざるを得ない。優良な中堅とは見られなくなり、名古屋鉄道を含めた再編の対象にもなりやすい。ただ自己資本比率が高く、財務の体力は残る。稼ぐ力の回復は見えず、ゆっくりと縮んでいく。名古屋鉄道が持分を高めて傘下に収めても、買い取りの価格は低くなりやすい。地方の需要の縮みは10年をかけてじわじわ効き、どこかの年に急に表へ出る。
- 建築:数量 118(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 8.50(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 1,003 億円・営業利益 10 億円。118万人日換算 × 1人日あたり 8.50万円、利益率 1.0%
- 土木:数量 42.8(施工量(万人日、実質))× 価格 9.20(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 394 億円・営業利益 20 億円。43万人日換算 × 1人日あたり 9.20万円、利益率 5.0%
- 不動産:数量 400(開発・保有する不動産の残高(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.21(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目。売却と賃貸の回転))→ 売上 84 億円・営業利益 4 億円。残高 400億円 × 回転 0.210、利益率 5.0%
倍率:構造的に優良でなくなり、不動産の減損も出た姿。谷の年は純利益 18 億円で、稼ぐ力は 220 億円ほどにしかならず、床は売れる資産で測る。総資産 1,476 億円を強制売却で 8 割しか回収できず 1,181 億円、負債 717 億円は全額払うとして残る約 464 億円を、今の自己資本 760 億円に対する PBR 0.61 倍に置いた。営業利益が小さく、EV ÷ 営業利益は谷の年の数字として参考にならない。
確率:構造的に優良でなくなる筋書き。1998〜2002年に利益率が1%台まで落ちた経験があり、東海中心で規模も小さいので、1割強に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
建築
物流施設・工場・マンション・オフィスなどを、設計から施工まで請け負って建てる。売上の約3分の2を占める主力。
| 数量施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質) | 価格1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 157 | 7.14 | 1,123 | 29 |
| 10 年後 中立 | 154 | 9.57 | 1,473 | 44 |
取り方:建築の売上1,123億円(粗利率9.8%)。営業利益は開示が無いため、粗利約110億円から販管費約122億円を売上の比で配って約29億円と推定した。施工量は、労務費を売上の約35%、日当を約2.5万円と置いて約157万人日と推定。売上を労務量で割った1人日あたり売上が価格で、物価の分は価格に入る。
土木
道路・橋・トンネル・河川など。官庁発注が約半分で、粗利率は建築の2倍と高い。
| 数量施工量(万人日、実質) | 価格1人日あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 50.3 | 7.52 | 378 | 51 |
| 10 年後 中立 | 49.3 | 10 | 497 | 50 |
取り方:土木の売上378億円(粗利率20.7%)。粗利約78億円から販管費を配って営業利益約51億円と推定した。労務量は建築と同じ要領で約50万人日。土木は機械・材料の割合が高いので、1人日あたり売上は建築よりやや高い。
不動産
産業用地・物流用地の開発、賃貸、分譲マンション(2026年4月に譲渡)を営む。粗利率は4割近い。
| 数量開発・保有する不動産の残高(億円、今の値段で測った実質。推定) | 価格残高1億円あたりの年間売上(億円・名目。売却と賃貸の回転) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 650 | 0.30 | 192 | 57 |
| 10 年後 中立 | 900 | 0.26 | 232 | 60 |
取り方:不動産の売上192億円(粗利率36.9%)。粗利約71億円から販管費を配って営業利益約57億円と推定した。残高は開示が無く、前の中計の不動産投資325億円と既存の保有を合わせた筆者の推定で約650億円。分譲マンションの売上もここに含まれ、今期から外れる。
リスクと懸念
景気の谷で受注が急減する
建設の利益は景気の山と谷で大きく振れる。矢作建設工業も1998〜2002年には営業利益率が1%台まで落ちた。今の高い利益は、物流施設の大型案件と物価の追い風が重なった山の高さだ。民間投資が一巡すれば、先に崩れるのは新規受注と採算になる。
東海の一地域に偏る
売上の大半が愛知を中心とする東海に集中している。地域の物流・工場投資が細れば、逃げ場が少ない。小さな会社は、大手や地場の建設会社と受注を競り合うほかなく、地域の需要の縮みを、そのまま利益で受けやすい。
不動産への大型投資が稼げない
新しい中計は、5年で不動産に800億円(回収を除く純額で500億円)を投じる。利回りが資本コストを超えなければ、ためた利益は価値を増やさず、ROEが薄まる。金利が上がれば、売却益も細る。会社の経験する規模としては大きな賭けだ。
人手不足で施工量が頭打ちになる
2024年問題以降、技能者の確保が最大の制約になった。受注があっても売上に変えられず、労務費の上昇は利益率を削る。会社の今期の見通しも、売上は減り、営業利益は3割ほど減る。増収が増益に結びつきにくい構図がすでに見える。
筆頭株主の名古屋鉄道との関係
名古屋鉄道は約19%を持つ筆頭株主で、経営参加を目的とする。分譲マンションの譲渡先も名鉄グループだ。支えとなる安定株主だが、少数株主の利益と一致しない取引が出る恐れや、持分を高めて完全に傘下へ収める動きの余地も残る。
公共工事の価格競争が再燃する
土木は粗利率が2割を超え、全社の稼ぎを支えている。ただ官庁工事は入札で、予算の執行が遅れたり人手不足が一服したりすれば、競り合いで採算が落ちる。土木の粗利率が下がれば、全社の利益が大きく削れる。
今後の分かれ目
- 建築の粗利率が2期続けて9%を割ったら
- 価格転嫁の局面が終わったと見て、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 不動産の投資が回り始め、賃貸の利回りが資本コストを上回ると確かめられたら
- 資本の使い方の評価を上げ、ROEの改善を織り込んで楽観側の確率を少し増やす。
- 土木の繰越工事が2期続けて減ったら
- 土木の粗利率を2割から下げ、中立の利益を数十億円削る。
- 名古屋鉄道が持分を高める、または完全子会社化へ動いたら
- 買収価格の水準次第。プレミアムが付けば価値の確認の機会になる一方、価格が低ければ少数株主には不利になる。
- 2028年3月期の営業利益が中計の水準(150億円超)を上回ったら
- 会社計画の保守性が確かめられ、中立の利益を上方に直す。
- 東海の物流・工場の投資が一巡して、建築の受注が2期続けて落ちたら
- 建築の工事量を実質で1割減らし、やや悲観の確率を上げる。
見ておくもの
- 建築・土木の受注高と繰越工事の推移
- 建築と土木の粗利率
- 不動産の保有残高と、賃貸・売却の利益
- DOEと自社株買いなど株主還元の実績
- 名古屋鉄道の持株比率と、グループ間取引
- 東海の物流施設・工場の投資動向と官庁工事の予算執行
倍率と資本コストの決め方
倍率は、ROE が資本コスト k 7.3%(基本 7.5% + quality 0.8%)に届かない前提で、正当化 PER の上限(1÷k = 約12倍)に ROE÷k(0.98)と 9 割を掛けた約 10.7 倍に置いた。悲観は谷の利益でなく、総資産の8割回収・負債全額払いで残る売れる資産(約464億円)で測り、谷のPBRは使っていない。今の株価や今の PER を見てから決めたわけではない。セグメントの営業利益は開示が無いため、粗利から販管費を売上比で配った推定で、数量(人日)や不動産の残高も推定のため、数量と価格の分け方には誤差がある。純利益は過去の 純利益÷営業利益 の0.6強を基本とし、利払いの変化(10年で約 −4 億円)を含めた。純有利子負債は146億円で純現金ではないため、余った現金は分けていない。持ち合い株の評価差額金は配当が純利益に入っているので余り資産に足していない(二重を消した)。持ち合い株の評価差額金は配当が純利益に入っているので余り資産に足していない(二重を消した)。今の株価から逆算した値ではない。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 7.3% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 0.8% = 8.3%。理由は quality_why。個別のリスク(名古屋鉄道との関係・不動産投資の実行など)は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.30% → 7.30%。