結論
松井建設は、1586年に創業した建築ゼネコンだ。寺や神社、文化財の修理で名高いが、売上の97%は一般の建築工事が占める。筆者の結論は「やや割高」。財務は堅いものの、稼ぐ力が株主の求める水準に届かない。
強みは財務と信用だ。借入金はなく、自己資本比率は65%ある。直近は工事の採算が大きく改善し、営業利益は前の期の7割近く増えた。配当も、利益の約半分を出す方針で守られている。
弱みは、その採算が景気の山にある点だ。営業利益率は2024年3月期に0.3%まで落ちている。売上の8割は民間の建築で、値段は入札や相見積りで決まる。国土強靱化の追い風も、土木が1.6%しかない会社にはほとんど届かない。
中立の筋書きでは、営業利益は10年後に60億円近くへ落ち着く。自己資本は積み上がるが、ROEは6%台にとどまる。資産の厚みは悲観の谷を浅くするだけで、価値を押し上げはしない。今の値段が映すのは、直近の好調がほぼ続く姿だ。そこまで織り込むには、安全域が足りない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、松井建設は「守りは厚いが、攻めの稼ぎが薄い」会社だ。
事業は悪くない。無借金で、仕事は前受金で回る。手元の現金は170億円あるが、大半は施主から先に受け取った工事代金と、協力会社への未払金の見合いだ。余った現金とは見ない。
株主が自由に使える利益、つまり再投資せず取り出せる利益は、純利益の8割ほどだと筆者は見る。工場も店も要らない請負業だからだ。ただ、この利益は景気の山の水準にある。営業利益率は直近の5.9%から、長期の姿に近い4%台後半へ戻ると置いた。
資本の置き場所には注文がある。自己資本の35%が持ち合い株で、稼ぎは年2.5%の配当にとどまる。経営が資本コストを意識し、ROEの回復を掲げたのは前進だ。ただ、目標は低すぎる。
安全域は一定ある。資産の厚みが悲観の谷を和らげ、配当性向50%が下値を支える。それでも、10年後の価値は、今の時価総額をやや下回る。割安と言えるほどの差はない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は建築だ。連結売上960億円のうち、建築が930億円を占める。土木は15億円、不動産は16億円にすぎない。
注文主の8割は民間だ。残りの2割弱は官公庁で、庁舎の建て替えや文化財の保存修理が中心になる。民間の用途別の内訳は開示されていない。筆者は事業の中身を、公表された工事の例から見るしかない。
看板は社寺建築だ。創業から440年、寺や神社を建て、直してきた。同業の金剛組の社長は2010年の取材で、この分野の最大手はおそらく松井建設だろうと語っている。社寺は、発注者と施工会社の付き合いが長く続く。新参の業者は入りにくい。値段より技術と信用で選ばれやすい、ゆるやかな参入障壁だ。
不動産事業は小さな副業にとどまる。賃貸住宅や貸事務所の収入と、土地・建物の売買を扱い、利益は6億円ほどだ。2026年3月期は売却型の案件が減り、売上は27%減った。
会社の色は、中期経営計画の言葉によく出ている。掲げたのは「規模の拡大ではなく、身の丈経営で質的成長を遂げる」だ。売上を追わず、採算の良い工事を選ぶ。直近の建築の受注は1,002億円で、手持ち工事は1,120億円と、売上の1年分を超える。
優良さと弱いところ
優良さを一言で言えば「財務の堅い、小ぶりな建築会社」だ。堀、つまり他社がまねできない強みは、社寺の分野にだけある。
強みは三つある。一つ目は信用だ。440年続いた社寺の施工実績が、発注者との長い付き合いを生む。二つ目は財務で、借入金は返し終え、自己資本比率は65%に達した。三つ目は採算を選ぶ姿勢だ。完成工事の粗利益率は、2025年3月期の7.0%から、2026年3月期は10.9%へ上がった。
弱みも三つある。一つ目は、売上の8割が民間の建築で、入札や相見積りで値段が決まる点だ。社寺の堀は、売上のごく一部にしか効かない。二つ目は利益の振れで、営業利益率は2024年3月期に0.3%まで落ち、資材高が採算を崩した。三つ目は規模だ。売上960億円では、人手の確保や設備投資で、大手に見劣りする。
資本の使い方は、保守的で、改善の途上にある。中期経営計画はROE6%の回復を掲げ、将来は8%以上を目ざす。目標は低い。直近の実績は7.6%まで来ているが、筆者が置く資本コストの8.25%には届かない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の建築市場は、量が増えない成熟市場だ。人口が減り、新しい建物の需要は先細る。それでも今は、受け手に追い風が吹く。2024年4月に残業の上限規制が始まり、技能者が足りなくなった。ゼネコンは仕事を選べるようになり、資材高や人件費の上昇を発注者へ転嫁できる。上場ゼネコン50社の2025年度の受注は16兆円台で、利益率も集計以来の最高だった。
松井建設が競う相手は、同規模の中堅ゼネコンだ。淺沼組、錢高組、大本組、ナカノフドー建設、福田組などが近い。ここは分散した市場で、地場の建設会社も多い。民間の建築は入札や相見積りが多く、値段を自分で決める力は弱い。
公共投資の追い風は、この会社にはほとんど届かない。国土強靱化の計画は5年で20兆円強にのぼるが、恩恵を受けるのは主に土木だ。松井建設の土木は売上の1.6%しかない。官公庁の建築も、庁舎や学校の建て替えが中心で、量は限られる。
社寺・文化財は、別の市場だ。規模は小さく、金剛組の年間売上は、かつての取材で約40億円とされた。需要は、老朽化した建物の修理が支える。一方で、寺社の財政は檀家や氏子の減少で厳しくなりやすい。伸びる市場ではなく、技術を持つ会社が少しずつ仕事を取る市場だ。
10年先、民間の建築も人口減と人手不足で、実質の量は横ばいか微減と筆者は見る。そうなると、会社の差は売上の伸びより、採算を守る力に出る。再編も進みやすい。事業承継型の買収や、中堅どうしの統合が増えるだろう。
資本政策と M&A
資本政策の柱は、配当性向50%程度と、機動的な自社株買いだ。2025年3月期から、配当性向50%程度と1株あたり配当の下限を方針に据えた。2026年3月期の配当性向は51.4%で、創業440周年の記念配当も加えた。自社株買いは小粒で、直近2年は2億〜3億円台にとどまる。
余った資金の使い道は、中期経営計画で「株主還元、財務基盤の強化、建設技術やDXなどへの投資、社有不動産の建て替えへの備え」と整理されている。
気になるのは持ち合い株だ。投資有価証券は202億円で、自己資本の35%にあたる。含み益は、税引き後で107億円ある。配当収入は年5億円ほどで、利回りは2.5%と低い。2026年3月期は売却益が3.7億円出たが、縮減の数値目標は確かめられなかった。売って還元に回すのか、事業に使うのか。ここが今後の焦点だ。
大型のM&Aは確かめられなかった。大株主は信託銀行、光通信、取引先持株会、銀行などで、支配株主はいない。光通信グループの保有は、2025年9月に7.5%まで増えた。筆者は、外から買われる可能性は高くないと見る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
建築会社の稼ぎ方が変わった。人手不足で受け手が仕事を選べるようになり、資材高も値上げで通る。松井建設は2026年3月期に、粗利益率を7.0%から10.9%へ引き上げた。営業利益は7割近く増えた。中期経営計画の「身の丈経営」は、売上を追わず採算を選ぶ方針で、この流れに合う。
財務は強い。借入金はなく、自己資本比率は65%、現金は170億円ある。配当性向50%程度と下限の配当、機動的な自社株買いを約束し、直近は記念配当も出した。
資産面にも安全域がある。持ち合い株の含み益は税引き後で107億円、土地や賃貸物件も持つ。中期経営計画はROEの改善とPBR1倍以上を掲げ、持ち合い株を売る余地がある。売却益を還元に回せば、自己資本は膨らまずROEが上がる。
看板の社寺建築は、同業が少なく、技術を持つ会社が選ばれる。440年の信用は、民間の工事でも指名を呼ぶ。大型の工事を狙わず、手持ち1,120億円を丁寧にこなすだけで、利益は当面守れる。会社の目標は足元の実績より4割低く設計され、上振れの余地が大きい。
慎重な見方
好調は景気の山の利益だ。営業利益率5.9%は過去12年でも上位にあり、2024年3月期には0.3%まで落ちた。今回の改善には、前期繰越工事の順調な進捗と、追加変更工事の獲得という、再現しにくい要因が入っている。会社自身も2027年3月期は減益と見て、中期経営計画の目標も足元より低い。
事業の幅は狭い。売上の97%が建築で、8割が民間だ。入札や相見積りで値段が決まり、人手不足の中では売上も伸ばしにくい。社寺という堀は、売上のごく一部にしか効かない。国土強靱化の追い風は土木に集中するが、松井建設の土木は売上の1.6%だ。
資本の質にも問題がある。自己資本の35%は低利回りの持ち合い株で、配当収入は2.5%にとどまる。直近のROEは7.6%と、会社が自ら算定した資本コスト(6〜7%)は上回った。だが筆者が置く資本コスト7.75%には届かない。現金170億円も、大半は施主から先に預かった工事代金の見合いで、自由に使える余剰ではない。
規模の小ささも弱い。新基幹システムや人材確保の負担は、売上960億円の会社には重い。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方がやや強い。強気の見方が言う財務の強さと採算の選別は事実だが、価値を決めるのは、その稼ぎが資本コストを超えるかどうかだ。今の営業利益率は山に近く、中立では4%台後半まで戻ると置いた。確率は、中立に4割弱を置き、慎重側に3割近くを寄せた。悲観を12%としたのは、2024年3月期に利益がほぼ消えた直近の例があるからだ。強気の見方が挙げる資産の厚みは、悲観の谷を浅くするが、中立の利益を押し上げはしない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,882 円537 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 843 円240 億円)。 今の値に割り戻すと 1,473 円420 億円、今との差 +4.3%、 期待の年率 +6.8%(資本コスト 7.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 3,410 円973 億円 | 1,245 円355 億円 | +229.7% | +12.7% | 279 円80 億円 |
| やや楽観 | 16% | 2,637 円752 億円 | 1,069 円305 億円 | +162.5% | +10.1% | 593 円169 億円 |
| 中立 | 38% | 2,130 円608 億円 | 922 円263 億円 | +116.2% | +8.0% | 1,160 円331 億円 |
| やや悲観 | 28% | 1,137 円324 億円 | 799 円228 億円 | +37.1% | +3.2% | 542 円155 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,062 円303 億円 | 193 円55 億円 | −11.1% | −1.2% | 151 円43 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,882 円537 億円 | 843 円240 億円 | +93.0% | +6.8% | 2,725 円777 億円 |
今の株価時価総額 1,412 円403 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 6% 採算を選び続け、社寺と首都圏の仕事が積み上がる 利益 71 億円 · PER 13.7 倍 · 株価時価総額 3,410 円973 億円
10年間、受注を選び続ける。建築の営業利益率は7%台に乗り、全社の利益率も2016年・17年の山に近い6%台後半を保つ。民間の工事量は実質で、横ばいを少し上回る。物流や工場の更新、再開発の中堅案件を、価格を保ったまま取れるからだ。社寺・文化財は、技術者を育てた分だけ受注が増え、利益の厚い仕事が積み上がる。不動産は社有地の建て替えと賃貸で、実質の規模が5割ほど育つ。持ち合い株は計画的に売り、代金は自社株買いと配当に回る。還元は利益の6割を超え、自己資本は厚くなりすぎない。ROEは9%まで上がり、資本コストを上回る。国内の量が伸びないという制約は残る。それを値段と採算で補う、最もよい姿だ。
- 建築:数量 134(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.79(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 1,312 億円・営業利益 95 億円。134.1万人日 × 1人日あたり 9.79万円、利益率 7.2%
- 土木:数量 2.1(施工量(万人日、実質))× 価格 9.57(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 20 億円・営業利益 1 億円。2.1万人日 × 1人日あたり 9.57万円、利益率 6.0%
- 不動産事業等:数量 120(賃貸・売買に充てる不動産の残高(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.26(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 32 億円・営業利益 11 億円。残高 120億円 × 年間売上 0.263、利益率 36%
倍率:事業の純利益 71 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.0% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.4%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.7 倍。全体の PER 13.7 倍、時価総額 973 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:採算の選別、社寺の受注増、持ち合い株の活用が10年続いて、初めて届く姿。連続して当たる必要があり、低めに置いた。
やや楽観 16% 価格転嫁が定着し、ROEが資本コストに近づく 利益 58 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 2,637 円752 億円
値上げが物価並みに通り続け、建築の営業利益率は6%台前半、全社では6%近くを保つ。2026年3月期に出た粗利益率の改善が、半分ほど定着する姿だ。工事量は実質で1%ほどの減少にとどまる。社寺の仕事は安定し、官公庁の庁舎・学校の建て替えも一定数取れる。不動産は実質の規模が2割ほど伸びる。還元は、配当性向50%に自社株買いを足した6割で、持ち合い株の売却も進む。ROEは7.5%まで上がり、資本コストに近づく。ただ、民間建築の量が増えない制約があり、これ以上の改善は見込みにくい。人手不足が続くあいだは、売上を伸ばすより採算を守る経営が合う。
- 建築:数量 129(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.64(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 1,243 億円・営業利益 80 億円。128.9万人日 × 1人日あたり 9.64万円、利益率 6.4%
- 土木:数量 2.0(施工量(万人日、実質))× 価格 9.57(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 19 億円・営業利益 1 億円。2.0万人日 × 1人日あたり 9.57万円、利益率 5.0%
- 不動産事業等:数量 96.0(賃貸・売買に充てる不動産の残高(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.26(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 25 億円・営業利益 9 億円。残高 96億円 × 年間売上 0.263、利益率 35%
倍率:事業の純利益 58 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.5% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.9 倍、時価総額 752 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:値上げが物価並みに通り、粗利の改善が半分ほど定着する姿。人手不足が続く限り採算は守りやすい。ただ民間建築の量は増えないので、これ以上は置かない。
中立 38% 量は微減、値段だけ上がる成熟 利益 47 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 2,130 円608 億円
建築の工事量は10年で5%ほど減り、価格だけが物価並みに上がる。粗利益率は2026年3月期の水準から少し戻り、営業利益率は4%台後半に落ち着く。営業利益は60億円近くで、会社が足元に見込む54億円をやや上回る。名目の売上の伸びは、人件費や本社費の上昇に食われる。社寺と官公庁の工事は堅調だが、全体を押し上げる量ではない。不動産は横ばいで、持ち合い株の売却は少しずつ進む。還元は利益の約6割、配当性向50%に小口の自社株買いを足した水準だ。自己資本は760億円に積み上がり、ROEは6%台にとどまる。堅実だが、資本コストを超えない10年になる。
- 建築:数量 124(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.57(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 1,184 億円・営業利益 66 億円。123.7万人日 × 1人日あたり 9.57万円、利益率 5.6%
- 土木:数量 1.9(施工量(万人日、実質))× 価格 9.57(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 18 億円・営業利益 1 億円。1.9万人日 × 1人日あたり 9.57万円、利益率 4.0%
- 不動産事業等:数量 80.0(賃貸・売買に充てる不動産の残高(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.26(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 21 億円・営業利益 7 億円。残高 80億円 × 年間売上 0.263、利益率 33%
倍率:事業の純利益 47 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.2% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.9 倍、時価総額 608 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:量は実質で微減、価格は物価並み、粗利は戻る。会社の改善策が部分的に効く、最も標準的な姿。
やや悲観 28% 民間建築の縮小で、採算が元の水準へ戻る 利益 35 億円 · PER 8.8 倍 · 株価時価総額 1,137 円324 億円
民間の建築が実質で15%ほど減り、価格転嫁も止まる。資材高と人件費の上昇だけが重く、粗利益率は2024年3月期より前の水準へ戻る。営業利益率は3%台後半まで落ち、営業利益は40億円ほどになる。社寺と官公庁の仕事は残るが、民間の穴を埋めるほどではない。不動産は実質の規模が1割減る。それでも会社は配当性向50%と下限の配当を守り、自己資本は積み上がる。持ち合い株を売って、配当の原資にする場面も出る。ROEは4%前後で、資本コストに遠く届かない。無借金の財務は保たれ、赤字は避けられる。ただ、稼ぐ力が資本に見合わない会社として、10年を過ごす。
- 建築:数量 111(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.43(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 1,044 億円・営業利益 52 億円。110.7万人日 × 1人日あたり 9.43万円、利益率 5.0%
- 土木:数量 1.7(施工量(万人日、実質))× 価格 9.29(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 16 億円・営業利益 0 億円。1.7万人日 × 1人日あたり 9.29万円、利益率 2.0%
- 不動産事業等:数量 72.0(賃貸・売買に充てる不動産の残高(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.26(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 18 億円・営業利益 6 億円。残高 72億円 × 年間売上 0.255、利益率 30%
倍率:ROE 4.8%(純利益 35 億円 ÷ 自己資本 736 億円)。事業の ROE が資本コスト k 7.75% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER は 1÷k = 12.1 倍。民間建築が縮み ROE が 4% 前後にとどまる局面で、上限の 7 割 3 分 の 8.8 倍に置いた。
確率:民間建築の量が減り、値上げ疲れで粗利が元に戻る展開。小規模で民間建築に偏る会社には、中立に近い厚みで起きうる。
悲観 12% 民間建築で負け、低採算の工事に頼る 利益 8 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 1,062 円303 億円
構造的に負ける。民間の建築が実質で3割近く減り、人手不足の中でも受注を選べなくなる。低採算の工事を取らざるを得ず、粗利益率は一桁前半に沈む。営業利益は10億円に届かず、2024年3月期のような薄い年が常態になる。一部の年は、営業赤字に沈む。持ち合い株の相場が下がり、含み益は半分になる。工事代金の貸倒れや、土地・建物の減損も出て、自己資本は目減りする。配当は下限の水準まで下げ、自社株買いは止まる。それでも借入はなく、資産は残る。再編や買収の対象になりやすい姿だ。社寺の技術は残るが、売上の一部にすぎず、全体を支えられない。優良な会社という評価は、この10年の途中で失われる。
- 建築:数量 93.7(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.00(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 843 億円・営業利益 19 億円。93.7万人日 × 1人日あたり 9.00万円、利益率 2.3%
- 土木:数量 1.3(施工量(万人日、実質))× 価格 8.57(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 11 億円・営業利益 0 億円。1.2万人日 × 1人日あたり 8.57万円、利益率 -2.0%
- 不動産事業等:数量 56.0(賃貸・売買に充てる不動産の残高(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.24(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 13 億円・営業利益 3 億円。残高 56億円 × 年間売上 0.235、利益率 20%
倍率:構造的に優良でなくなり、減損も出た姿。10年後の純利益は8億円で、稼ぐ力は100億円にも届かない。床は売れる資産で測る。総資産940億円のうち、現預金は全額、持ち合い株は税を引いて85%、工事未収入金は65%、有形固定資産は40%しか回収できず、負債300億円は全額払うとして、残るのは約303億円。この筋書きは売れる資産の床で値が付くとみて、時価総額を床の303億円に置いた(今の自己資本570億円に対するPBR 0.53倍)。還元は、薄い利益のなかで配当を下限から細らせた55億円とした。営業利益は小さく、EV ÷ 営業利益は谷の年の数字として参考にならない。
確率:民間建築で構造的に負け、利益がほぼ消える姿。2024年3月期に営業利益率が0.3%まで落ちた直近の例があり、1割強に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
建築
民間・官公庁の建築工事。社寺・文化財の新築と修理、リフォーム子会社を含む。売上の97%を占める主力。
| 数量施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質) | 価格1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 130 | 7.14 | 930 | 61 |
| 10 年後 中立 | 124 | 9.57 | 1,184 | 66 |
取り方:連結売上960.4億円から、土木14.9億円と不動産等15.7億円を除いた929.8億円を建築とした(リフォーム子会社を含む)。営業利益は決算短信の建設事業の利益62.0億円から、土木の推定0.8億円を除いた61.2億円。数量の開示が無いため、労務費を売上の約35%、日当を約2.5万円と置いて、施工量を約130万人日と推定した。売上を人日で割った1人日あたり売上が価格で、物価の分は価格に入る。
土木
道路・河川などの公共工事。官公庁が9割超で、売上の1.6%と小さい。
| 数量施工量(万人日、実質) | 価格1人日あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2.1 | 7.14 | 15 | 1 |
| 10 年後 中立 | 1.9 | 9.57 | 18 | 1 |
取り方:提出会社の完成工事高のうち土木14.9億円(官公庁92.5%)。営業利益の開示は無く、建築より低い5%強と推定して0.8億円とした。数量は建築と同じ換算(労務費35%・日当2.5万円)で約2.1万人日。
不動産事業等
賃貸住宅・貸事務所の賃貸と、土地・建物の売買。利益の率が高い小さな事業。
| 数量賃貸・売買に充てる不動産の残高(億円、今の値段で測った実質。推定) | 価格残高1億円あたりの年間売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 80.0 | 0.20 | 16 | 6 |
| 10 年後 中立 | 80.0 | 0.26 | 21 | 7 |
取り方:不動産事業等の売上15.7億円・利益5.9億円(決算短信)。残高は開示が無いので、賃貸物件の簿価を約80億円と推定し、残高1億円あたりの年間売上を約0.2億円とした。数量は物件の実物の残高(実質)で、物価の分は価格に入れた。推定である。
リスクと懸念
粗利益率の改善が一時的だった
2026年3月期の粗利益率10.9%には、前期繰越工事の順調な進捗と、追加変更工事の獲得、原価低減が重なった。会社は2027年3月期に営業利益が減ると見ており、中期経営計画の目標も足元より低い。新規の受注で同じ採算が続く保証はなく、2024年3月期は営業利益率が0.3%まで落ちた。
民間建築への依存が大きい
売上の97%が建築で、8割が民間だ。物流・工場・再開発の投資が一巡し、人口減で需要が細れば、受注は先に減る。官公庁の建築は庁舎や学校の建て替えが中心で、民間の穴を埋める量ではない。土木は売上の1.6%にすぎず、国土強靱化の予算の恩恵も小さい。
人手不足で施工量が頭打ちになる
2024年問題以降、技能者の確保が最大の制約になった。人が足りなければ受注があっても売上に変えられず、労務費の上昇は利益率を削る。中期経営計画は新卒・キャリア採用を年40名以上と掲げるが、規模の小さい会社は、大手との採用競争で不利になりうる。
持ち合い株の相場と配当に左右される
投資有価証券は202億円で、含み益は税引き後107億円と、自己資本の2割弱を占める。相場が下がれば自己資本が減る。配当収入は5億円で、純利益の1割強にあたる。縮減の数値目標が確かめられず、売却の時期や代金の使い道も読みにくい。
社寺・文化財の需要が細る
社寺は会社の看板だが、売上に占める割合は開示されていない。寺社の財政は、檀家や氏子の減少で厳しくなりやすい。文化財の修理は、国や自治体の補助にも左右される。堀が効く範囲は小さく、民間建築の落ち込みを補うほどの量にはならない。
基幹システムの更新と小規模のハンディ
中期経営計画は、新基幹システムを2026年度に本稼働させる計画だ。設計の遅れや費用の膨らみが起きれば、原価管理や採算の把握に影響する。売上960億円の会社には、システム更新や人材育成の負担が重く、利益の山が過ぎた局面では効いてくる。
今後の分かれ目
- 完成工事の粗利益率が2期続けて8%を割ったら
- 粗利の改善が一時的だったと見て、やや悲観・悲観の確率を上げ、中立の営業利益率を下げる。
- 持ち合い株の売却代金を、自社株買いや配当、事業投資に回し、持ち合いを自己資本の2割まで下げたら
- 資本の使い方の評価を上げ、ROEの改善を織り込んで、強気側の確率を少し増やす。
- 次の中期経営計画(2028年度〜)で、営業利益目標が50億円を超え、ROE8%が明記されたら
- 会社の稼ぐ力への自信が上がったと見て、やや楽観以上の確率を増やす。
- 社寺・文化財の売上が開示され、全体の1割を超えると確かめられたら
- 堀が効く範囲が思ったより広いと見て、quality の値決め力の評価を見直す。
- 光通信グループなどの大株主が持株を10%近くまで増やすか、株主提案が出たら
- 資本政策が早く動く可能性が上がる。持ち合い株の売却や還元の増額を織り込み、強気側の確率を増やす。
- 民間建築の受注高が2期続けて前年を1割以上下回ったら
- 手持ち工事を消化したあとに売上が縮むと見て、中立の工事量を下げる。
見ておくもの
- 建築の受注高と手持ち工事の推移
- 完成工事の粗利益率(四半期ごと)
- 投資有価証券の残高と、売却益・売却代金の使い道
- 配当性向と自社株買いの実績(中期経営計画の50%程度との差)
- 次の中期経営計画の営業利益目標とROE目標
- 光通信グループなど大株主の持株比率の変化
倍率と資本コストの決め方
倍率は、ROEが資本コスト(基本7.5%+quality 0.75%=8.25%)に届かない前提で、1÷k(約12倍)を上限に、利益の質から置いた。今の株価や今のPERを見てから決めたわけではない。純現金165億円は、未成工事受入金123億円と工事未払金77億円の見合いと見て、余った現金には分けていない。持ち合い株は配当収入を利益に残したので、価値を二重に足していない。含み益(税引き後107億円)は自己資本に入っており、悲観の床の検討にだけ使った。悲観は谷のPBRでなく、総資産の8割回収・負債全額払いで測った。数量は人日の推定で、分け方に誤差がある。新リース会計基準は2028年3月期から影響が出うるが、数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.4→13.7 倍・やや楽観 PER 10.5→12.9 倍・中立 PER 9.6→12.9 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 0.75% = 8.25%。理由は quality_why。個別のリスク(採算の振れ・持ち合い株・システム更新など)は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 7.75%。