結論
若築建設は、港や岸壁を造る海上土木を祖業とする、土木・建築の中堅ゼネコンだ。筆者の結論は「やや割高」。足元の利益は好調だが、10年で見ると稼ぐ力が株主の求める水準に届かないと見る。
強みは港湾の実績と手持ち工事の厚さだ。1890年に北九州・若松港の築造会社として生まれ、浚渫(海底を掘る工事)や護岸を130年以上手がけてきた。次期繰越は約1,500億円で、単体売上の1.5年分ある。海上土木の繰越は前期から8割近く増えた。
2026年3月、九州発祥の麻生が議決権の過半を握り、親会社になった。麻生は上場維持と経営の自主性を約束している。九州の官公庁との網や人材の面では追い風だが、資本の使い方が変わる保証まではない。
弱みは利益の質だ。直近3期の営業キャッシュフローは合計で約140億円のマイナスだった。同じ期間の純利益は130億円強ある。借入は2年で5倍近くに膨らんだ。工事代金の立て替えが増えると、利益ほど現金は残らない。
中立の筋書きでは、営業利益は10年後に80億円強まで伸びる。だが自己資本も積み上がり、ROEは7%ほどと資本コスト7.75%の手前にとどまる。配当利回りは高いが、価値を決めるのは稼ぐ力だ。好調が10年続くとは、筆者は見ない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「悪くないが、安くもない」。
良い点は、稼ぎ方がわかりやすいことだ。港や河川の工事は、10年先も必要とされる。自己資本比率は44%あり、財務が急に傷む会社でもない。
気になるのは、オーナー利益、つまり株主が自由に使える利益が見えにくい点だ。工事が増えると、代金を受け取る前に材料費と外注費を払う。直近3期の純利益は合計130億円強だが、営業キャッシュフローは約140億円のマイナスだった。配当は払っているが、その原資は借入に近い。利益が現金に変わるまでの時間が、年々延びているように見える。
資本の置き場所にも注文がある。株主資本は500億円近くあるのに、10年の純利益の伸びは物価の分が中心で、ROEは資本コストの手前に落ちていく。稼ぎに比べて、資本が厚くなりすぎるからだ。会社が掲げるROE9%の維持は、還元をさらに増やさなければ難しい。
親会社の存在は、安心材料とも不安材料ともなる。麻生は長く持つ構えで、倒産や乱暴な再編の恐れは下がった。一方、少数株主の利益と麻生グループの利益がずれる場面は、いつか出る。
安全域は薄い。中立でも今の値段に届かず、悪い筋書きでは大きく割れる。筆者は、利益の現金化が確かめられるまで、この会社に高い値段は付けない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は土木だ。直近の土木売上は約640億円で、全体の6割を占める。うち海上土木が約280億円、陸上土木が約360億円だ。
海上土木が会社の顔である。港の岸壁や防波堤を造り、浚渫船で海底を掘り、埋め立てる。発注者は国や自治体の港湾管理者が中心だ。近年は洋上風力の基地港湾も加わった。山形県の酒田港では、大型の資機材に耐える岸壁の築造を受注し、施工中だ。
陸上土木は河川、道路、鉄道、土地改良が中心で、前期は3割伸びた。防衛施設の馬毛島では、設計の段階から発注者と組むECI方式(施工会社が早くから加わる方式)で関わった。
建築は売上約360億円で、物流施設、再生可能エネルギー関連の施設、官庁の建物、ごみ処理場などを請け負う。前期は不採算の工事がなく、粗利率が12.3%と4ポイント上がった。会社が「選別受注」と呼ぶ、採算のよい案件を選ぶ方針が効いた。
不動産は賃貸が中心で売上は十数億円と小さいが、安定した収益源だ。海外はODA(政府開発援助)の港湾工事を狙い、アフリカの沿岸にも市場を広げようとしている。
新エネルギー部は洋上風力、陸上風力、小水力を担う。秋田県の鳥海水力発電には10%を出資する。洋上風力の作業船は、戸田建設など6社で共同保有する。若築の出資は9%と小さく、船は函館港を母港とする計画だが、稼働の時期と受注は読みにくい。筆者は大きな利益を織り込まない。
優良さと弱いところ
優良さを一言で言えば「実績のある小粒の専業」だ。堀、つまり他社がまねしにくい強みは、あるが浅い。
強みは三つある。一つ目は港湾工事の実績と、浚渫船などを動かす施工力だ。国や港湾管理者は、実績のない会社に岸壁を任せない。二つ目は九州の官公庁との関係で、親会社の麻生がこれを補強する。三つ目は利益目標を守る姿勢だ。過去3回の中期経営計画は、いずれも営業利益の目標を上回った。
弱みも三つある。一つ目は値段を決める力の弱さだ。官庁の工事は入札で、技術を競っても価格は発注者が握る。二つ目は規模だ。土木の売上は五洋建設の国内土木の約5分の1、東亜建設工業の半分弱にとどまる。大型の海外案件や作業船への投資で、競り負けやすい。三つ目は現金の残りにくさだ。工事が増えると立替払いが先行し、営業キャッシュフローは3期連続で純利益を大きく下回った。
過去の傷も忘れられない。2007年3月期から2011年3月期の間に、赤字が4期あった。建築の採算が崩れた局面も何度かある。
資本の使い方は、堅実だが保守的だ。手形を全廃し、取引先への支払いを現金にした。受注目標は3回のうち2回届かなかったが、利益目標は守った。取った仕事を選ぶ会社であり、無理に売上を追わない点を、筆者は評価する。ただその分、成長も控えめだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の港湾・海上土木は、量の増えない成熟市場だが、今は追い風が吹いている。
公共工事の柱は、防災、老朽化、防衛の三つだ。2026年度から5年で20兆円強の国土強靱化の計画があり、港湾でも防災・減災の枠で国費が年に1,260億円ほど付く。戦後に造った岸壁や防波堤は更新の時期に入り、壊れる前に直す予防保全の工事が続く。防衛施設の整備も、港湾工事を押し上げる。
洋上風力は期待と不安が半々だ。基地港湾の整備は進むが、2025年8月に三菱商事が秋田と千葉の3海域から撤退した。再公募はあるものの、発電事業者の採算は厳しく、風車を建てる工事が計画どおり増えるかは読めない。
競争の形は、五洋建設を筆頭に、東亜建設工業、東洋建設、不動テトラなどが並ぶ、寡占に近い市場だ。浚渫船や作業台船を持つ会社しか、大型の海上工事には応札しにくい。参入の壁は高いが、発注は入札なので、会社どうしの値引き競争は残る。
市場の大きさは、大手の国内土木売上から見積もる。五洋建設は約3,300億円、東亜建設工業は約1,400億円で、若築の土木は約640億円だ。陸上を含む数字なので、海上の市場は6,000〜8,000億円規模と置く。若築の海上土木約280億円は、その3〜4%にあたる(筆者の推定)。
制約は人と船だ。2024年4月の残業規制で技能者が足りず、作業船を動かす船員も不足する。受け手が仕事を選べるので値上げは通りやすいが、売上は人手の天井を超えない。10年先は投資の山が一巡し、実質の工事量は横ばいか緩やかな減少と見る。
資本政策と M&A
資本政策の最大の出来事は、親会社の交代だ。
麻生は2019年から市場で若築株を買い進め、持分法適用の筆頭株主になった。2026年2月には、三井住友信託銀行、三井住友銀行、千葉銀行の3行を中心に約8.4%をTOB(公開買付け)で取得し、議決権の過半に達した。価格は公表前の終値より約16%安く、3行と相対で決めたもので、一般株主向けの割増はない。若築の取締役会は賛同したが、応募は株主の判断に委ねた。
麻生は完全子会社化を考えていない。上場維持と現経営陣の尊重を約束し、役員とオブザーバーを送り込む。契約では、麻生の保有を50.10%超に増やすとき、若築の事前の承諾が要る。
還元の方針は、DOE(純資産配当率)3.6%を下限に、配当性向40%以上だ。前期の配当性向は40%で、今期は増配を予定する。ただし制約が一つある。市場で自由に売買される株の比率は、TOB後で37%台。上場維持の基準は35%だ。大きな自社株買いはこの比率を下げる。筆者は、還元の主力は配当に限られると見る。
投資は3年で150億円以上の計画で、新造船と研修施設が大型だ。M&Aは小粒で、大きな買収で価値を壊すタイプではない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
構造が変わった。受け手のゼネコンが仕事を選べる時代になり、若築は採算の悪い工事を取らなくなった。建築の粗利率は12.3%と4ポイント上がり、次期繰越は約1,500億円と過去最高圏だ。海上土木の繰越は8割近く増えた。
利益の見通しも保守的だ。今期の営業利益計画は71億円で、利益率6.1%は過去のピークの7.7%に届かない。計画を上回る習慣もあり、過去3回の中期経営計画はすべて利益目標を超えた。
需要は10年続く。国土強靱化が20兆円強、港湾の老朽化、防衛施設、洋上風力の基地港湾が重なる。浚渫船を持つ会社は少なく、新規参入は難しい。
親会社の麻生は、陸上の防災に強みを持つ。海と陸の防災を組み合わせ、九州の官公庁と人材の網を共有すれば、受注は広がる。上場を維持し、経営を尊重する約束も得た。
資本の面でも改善が見える。DOE3.6%を下限に配当を出し、今期は増配だ。過去10年のROEの中央値は約11%と、資本コストを上回ってきた。この収益力が続けば、今の値段は安い。
慎重な見方
好調は景気と需給の山の利益だ。営業利益率は2022年3月期に7.7%まで上がったが、2007年から2011年の間には赤字が4期あった。官庁の工事は入札で、需給が緩めば値引き競争が戻る。今期の利益計画も、売上が1割増えるのに営業利益は7%しか増えない。増収が増益につながりにくい構図は、すでに始まっている。
利益の質に疑問がある。直近3期の営業キャッシュフローは合計で約140億円のマイナスで、借入は2年で5倍近くに増えた。利益が出ているのに現金が増えないのは、代金の回収が遅いか、立替が膨らんでいるからだ。金利が上がれば、利払いが利益を削る。
規模も小さい。売上は千億円で、五洋建設の約5分の1の土木規模だ。作業船や洋上風力への投資で、体力勝負になれば不利になる。洋上風力は三菱商事の撤退で先行きが曇り、共同で持つ作業船が遊ぶ恐れもある。
親子上場の影も無視できない。麻生が半分を握り、少数株主の利益と相反する取引が出うる。自由に売買される株は37%台と上場維持の基準に近く、大きな自社株買いは打ちにくい。還元の手段が配当に限られる。
そして10年後のROEは、自己資本が積み上がるので7%ほどに下がる。資本コストを下回る会社の価値は、帳簿の自己資本より低い。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方が少し強い。事業の質や受注の厚さでは強気の見方に分があるが、値段を決めるのは、稼ぎが資本コストを超えるかどうかで、そこで慎重な見方の指摘が勝つ。確率は中立に4割弱を置き、残りを慎重側にやや厚くした。悲観を1割強に置いたのは、過去の赤字4期と、利益が現金にならない最近の姿を無視できないからだ。強気の見方が言う繰越の厚さは、近い年の利益を支えるが、10年先は守らない。親会社の存在は倒産や乱暴な再編の確率を下げるが、稼ぐ力そのものは変えない。そのため悲観の確率は下げたが、楽観側は増やさなかった。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,627 円590 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,699 円217 億円)。 今の値に割り戻すと 3,363 円429 億円、今との差 −5.1%、 期待の年率 +6.0%(資本コスト 7.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 8,671 円1,105 億円 | 2,236 円285 億円 | +207.7% | +11.9% | 763 円97 億円 |
| やや楽観 | 18% | 6,711 円855 億円 | 1,922 円245 億円 | +143.5% | +9.3% | 1,554 円198 億円 |
| 中立 | 38% | 5,668 円722 億円 | 1,765 円225 億円 | +109.7% | +7.7% | 2,825 円360 億円 |
| やや悲観 | 25% | 1,922 円245 億円 | 1,687 円215 億円 | +1.8% | +0.2% | 902 円115 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,483 円189 億円 | 863 円110 億円 | −33.8% | −4.0% | 282 円36 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,627 円590 億円 | 1,699 円217 億円 | +78.4% | +6.0% | 6,326 円806 億円 |
今の株価時価総額 3,545 円452 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 7% 港湾・防災の需要を取り切り、稼ぐ力が定着 利益 79 億円 · PER 14.0 倍 · 株価時価総額 8,671 円1,105 億円
10年を通じて、海上土木の受注が厚く続く。国土強靱化の予算が膨らみ、老朽化した岸壁の更新、防衛施設、洋上風力の基地港湾が重なる。共同保有の作業船も動き出し、大型案件を取りこぼさない。海上土木の工事量は今より2割ほど増え、利益率は8%台半ばに上がる。陸上土木も、麻生の地盤改良や法面の技術と組んで九州で受注を広げる。建築は選別受注を貫き、利益率は6%近くを保つ。営業利益は110億円を超え、ROEは9%に届く。それでも国内の工事量は、人手と船員の数が天井になって伸びが限られる。全部がうまく重なる最良の姿で、10年連続で当たる必要がある。麻生はこの間に持ち株を50%台前半で保ち、上場は維持される。大きな買収はなく、資本は配当と作業船の更新に回る。
- 海上土木:数量 37.8(施工量(万人日換算。技能者と作業船の稼働を人日に直したもの、実質。推定))× 価格 12(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注・船の費用を含む請負単価))→ 売上 456 億円・営業利益 39 億円。37.8(今の1.22倍)× 単価 12.06、営業利益率 8.5%
- 陸上土木:数量 42.7(施工量(万人日換算、実質。推定))× 価格 12(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 515 億円・営業利益 36 億円。42.7(今の1.06倍)× 単価 12.06、営業利益率 7.0%
- 建築:数量 51.4(施工量(万人日換算、実質。推定))× 価格 9.38(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 482 億円・営業利益 28 億円。51.4(今の1.00倍)× 単価 9.38、営業利益率 5.8%
- 不動産・子会社その他:数量 303(事業の規模(億円。今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.27(規模1億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 81 億円・営業利益 10 億円。302.9(今の1.30倍)× 単価 0.268、営業利益率 12.0%
倍率:事業の純利益 79 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.1% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.0 倍。全体の PER 13.99 倍、時価総額 1,105 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10年を通じて受注を選び続け、洋上風力や防衛施設の上振れも取れる筋書き。連続して当たる必要があり、確率は低く置く。
やや楽観 18% 選別受注が続き、採算が高めで安定 利益 66 億円 · PER 13.0 倍 · 株価時価総額 6,711 円855 億円
価格の転嫁が物価並みに通り続け、採算のよい案件が積み上がる。海上土木の工事量は今より1割増え、利益率は8%近くを保つ。陸上土木は横ばいで、麻生との協業が少しずつ効いて6%台を維持する。建築は粗利率が12%前後に落ち着き、営業利益率は5%台前半になる。洋上風力は2030年代に少し売上が立つが、期待ほど大きくはならない。営業利益は95億円ほどで、ROEは8%近くまで上がる。ただ、これを超えるには工事量が実質で増える必要があり、人手の制約がそれを許さない。親会社の支えで資金繰りは安定し、配当も安定して出る。麻生との共同受注が増える一方、上場は維持され、経営の主導権は若築に残る。競合の五洋建設や東亜建設工業との差は、縮まりも広がりもしない。
- 海上土木:数量 34.1(施工量(万人日換算。技能者と作業船の稼働を人日に直したもの、実質。推定))× 価格 12(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注・船の費用を含む請負単価))→ 売上 411 億円・営業利益 32 億円。34.1(今の1.10倍)× 単価 12.06、営業利益率 7.8%
- 陸上土木:数量 40.3(施工量(万人日換算、実質。推定))× 価格 12(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 486 億円・営業利益 31 億円。40.3(今の1.00倍)× 単価 12.06、営業利益率 6.4%
- 建築:数量 49.9(施工量(万人日換算、実質。推定))× 価格 9.38(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 468 億円・営業利益 25 億円。49.9(今の0.97倍)× 単価 9.38、営業利益率 5.3%
- 不動産・子会社その他:数量 256(事業の規模(億円。今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.27(規模1億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 69 億円・営業利益 8 億円。256.3(今の1.10倍)× 単価 0.268、営業利益率 11.0%
倍率:事業の純利益 66 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.8% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 7.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.0 倍。全体の PER 12.96 倍、時価総額 855 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:価格の転嫁が続き、親会社との協業が一部実を結べば、利益率は高めで安定する。ただし国内の量が伸びない制約があり、これ以上は厚くしない。
中立 38% 量は横ばい、価格だけ上がる成熟 利益 56 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 5,668 円722 億円
量は実質で横ばい、価格だけが物価並みに上がる成熟した姿だ。海上土木は国の港湾予算に支えられ、工事量を保つ。陸上土木と建築は、人手の制約と地方の縮みで、工事量が5%ほど減る。営業利益率は6%ほどと、直近とほぼ同じ水準で落ち着く。営業利益は80億円強で、純利益は55億円ほどになる。会社の配当性向40%以上の方針に沿って配当を出し続けるが、利益の過半は内部にたまり、自己資本は800億円を超える。ROEは7%ほどと資本コストの手前だ。洋上風力は小さな黒字にとどまり、麻生との協業も売上を大きく押し上げるほどではない。堅実だが、株主には物足りない10年になる。麻生は持ち株を増やさず、上場も維持される。競合の五洋建設や東亜建設工業との位置関係も、ほぼ今のままだ。
- 海上土木:数量 31.0(施工量(万人日換算。技能者と作業船の稼働を人日に直したもの、実質。推定))× 価格 12(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注・船の費用を含む請負単価))→ 売上 374 億円・営業利益 26 億円。31.0(今の1.00倍)× 単価 12.06、営業利益率 7.0%
- 陸上土木:数量 38.3(施工量(万人日換算、実質。推定))× 価格 12(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 462 億円・営業利益 27 億円。38.3(今の0.95倍)× 単価 12.06、営業利益率 5.8%
- 建築:数量 48.8(施工量(万人日換算、実質。推定))× 価格 9.38(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 458 億円・営業利益 23 億円。48.8(今の0.95倍)× 単価 9.38、営業利益率 5.0%
- 不動産・子会社その他:数量 233(事業の規模(億円。今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.27(規模1億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 62 億円・営業利益 6 億円。233.0(今の1.00倍)× 単価 0.268、営業利益率 10.0%
倍率:事業の純利益 56 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.9% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.9 倍、時価総額 722 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:量は実質で横ばいか少し減り、価格は物価並み。会社の計画が部分的に効く、いちばん標準的な姿を最も厚く置く。
やや悲観 25% 人手と入札の競争で採算が細る 利益 35 億円 · PER 7.0 倍 · 株価時価総額 1,922 円245 億円
人手不足と入札の競争が、小粒の専業に重くのしかかる。海上土木の工事量は1割強減り、価格の転嫁が止まって、利益率は5%近くまで下がる。陸上土木と建築は低採算の工事が増え、建築の利益率は3%台に落ちる。洋上風力は赤字が続く。営業利益は50億円台にとどまる。それでも会社は配当を守り、自己資本は積み上がる一方で、ROEは5%前後に落ちる。借入の返済は進まず、金利上昇で利払いが利益を削る。親会社の支えがあるので財務は壊れないが、稼ぐ力の回復は見えない。選別受注を貫けず、採算の悪い工事を抱え込む年が増える。麻生との協業は掛け声にとどまり、九州の受注拡大は期待を下回る。競合が作業船に投資する中、若築は規模で後れを取る。
- 海上土木:数量 27.3(施工量(万人日換算。技能者と作業船の稼働を人日に直したもの、実質。推定))× 価格 12(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注・船の費用を含む請負単価))→ 売上 319 億円・営業利益 17 億円。27.3(今の0.88倍)× 単価 11.7、営業利益率 5.2%
- 陸上土木:数量 34.3(施工量(万人日換算、実質。推定))× 価格 12(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 401 億円・営業利益 17 億円。34.3(今の0.85倍)× 単価 11.7、営業利益率 4.2%
- 建築:数量 45.2(施工量(万人日換算、実質。推定))× 価格 9.10(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 411 億円・営業利益 14 億円。45.2(今の0.88倍)× 単価 9.1、営業利益率 3.5%
- 不動産・子会社その他:数量 221(事業の規模(億円。今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.26(規模1億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 58 億円・営業利益 5 億円。221.3(今の0.95倍)× 単価 0.26、営業利益率 8.0%
倍率:ROE 4.9%(純利益 35 億円 ÷ 自己資本 720 億円)と k 7.75% を大きく下回る。伸びても価値は増えず、1÷k = 12.1 倍に ROE÷k(0.59)を掛けた約 7.2 倍を上限とし、7.0 倍に置いた。地方の縮みと入札の競争で、事業の稼ぎが資本を食う姿。
確率:人手不足と入札の競争は小粒の専業に重い。利益が現金にならない最近の姿も考えると、中立に近い厚みで置く。
悲観 12% 構造的に負け、低採算の工事に頼る 利益 7 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 1,483 円189 億円
構造的に負ける。地方の公共事業が縮み、官庁予算は点検にとどまって補修や更新の発注が先送りになる。受注を選べず、建築は赤字すれすれ、土木も1〜2%台の利益率まで落ちる。洋上風力の作業船は遊び、評価損が出る。営業利益は10億円強にとどまり、自己資本も減損で目減りする。配当は大きく削られ、優良な会社とは見られなくなる。借入が重く、運転資金の負担で現金が足りなくなる局面も出る。親会社は支えるが、事業を変えるほどの資本は入らない。技能者と船員の確保も難しくなり、受けられる工事の数がさらに減る。再編の対象にもなりやすい。麻生が追加で株を買い増すか、他社と統合する話が出てもおかしくない。この姿は10年かけてじわじわ進み、どこかの年に急に表に出る。
- 海上土木:数量 21.7(施工量(万人日換算。技能者と作業船の稼働を人日に直したもの、実質。推定))× 価格 11(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注・船の費用を含む請負単価))→ 売上 244 億円・営業利益 6 億円。21.7(今の0.70倍)× 単価 11.25、営業利益率 2.5%
- 陸上土木:数量 29.0(施工量(万人日換算、実質。推定))× 価格 11(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 326 億円・営業利益 4 億円。29.0(今の0.72倍)× 単価 11.25、営業利益率 1.2%
- 建築:数量 38.5(施工量(万人日換算、実質。推定))× 価格 8.75(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 337 億円・営業利益 0 億円。38.5(今の0.75倍)× 単価 8.75、営業利益率 0.0%
- 不動産・子会社その他:数量 186(事業の規模(億円。今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.25(規模1億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 47 億円・営業利益 1 億円。186.4(今の0.80倍)× 単価 0.25、営業利益率 3.0%
倍率:構造的に優良でなくなった姿。純利益は 7 億円で、k 7.75% で割った稼ぐ力は約 80 億円にしかならず、床は売れる資産で測る。総資産 1,224 億円のうち現金 196 億円はそのまま、現金以外の流動資産 786 億円は 7 割、固定資産 242 億円は 5 割しか戻らず、合計約 865 億円。負債 676 億円は全額払うとして、残る約 190 億円を、今の自己資本 540 億円に対する PBR 0.35 倍に置いた。営業利益が小さいので EV ÷ 営業利益は意味がない。
確率:官庁予算の先送りや、洋上風力の失敗、建築の採算崩れが重なる筋書き。過去に赤字が4期あり、規模も小さいので1割強を置く。親会社の支えを考え、これより高くはしない。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
海上土木
港の岸壁・防波堤の築造、浚渫、埋立、洋上風力の基地港湾など。官庁発注が中心で、会社の祖業。
| 数量施工量(万人日換算。技能者と作業船の稼働を人日に直したもの、実質。推定) | 価格1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注・船の費用を含む請負単価) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 31.0 | 9.00 | 279 | 21 |
| 10 年後 中立 | 31.0 | 12 | 374 | 26 |
取り方:2026/03 期の単体の土木売上641億円のうち、陸上土木が362.5億円、残りの約279億円を海上土木とした(決算説明)。数量は開示が無く、土木の1人日あたり売上を同じ領域の東亜建設工業・大豊建設と同じ9.0万円(名目、材料・外注・船を含む)と置いて、約31万人日と推定した。営業利益は、土木の粗利91億円から販管費(単体で約76億円、売上比7.4%)を売上比で配分した約43億円を、海上7.5%・陸上6.2%に分けた筆者の推定。本社費は各セグメントへ売上比で配分し、物価で増える前提で利益率に込めてある。国内の港湾・海上土木市場を6,000〜8,000億円規模と置くと、シェアは3〜4%。
陸上土木
河川・道路・鉄道・土地改良・防衛施設などの陸上の土木工事。官庁発注が中心。
| 数量施工量(万人日換算、実質。推定) | 価格1人日あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 40.3 | 9.00 | 363 | 22 |
| 10 年後 中立 | 38.3 | 12 | 462 | 27 |
取り方:2026/03 期の陸上土木売上362.5億円(前期比+32.7%、決算説明)。海上と同じ9.0万円/人日と置き、約40万人日と推定した。営業利益22億円(利益率6.2%)は、土木の粗利から販管費を売上比で配分した筆者の推定で、開示値ではない。
建築
物流施設・再生可能エネルギー関連施設・官庁の建物・ごみ処理場などを請け負う。選別受注で粗利率が12.3%に上がった。
| 数量施工量(万人日換算、実質。推定) | 価格1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 51.4 | 7.00 | 360 | 17 |
| 10 年後 中立 | 48.8 | 9.38 | 458 | 23 |
取り方:2026/03 期の建築売上359.8億円・粗利44.2億円(粗利率12.3%、決算説明)。建築の1人日あたり売上を同じ領域の他社と同じ7.0万円と置き、約51万人日と推定した。営業利益17億円(利益率4.8%)は、粗利から販管費を売上比7.4%で配分した筆者の推定。
不動産・子会社その他
賃貸中心の不動産事業(売上17億円)と、連結子会社9社の事業。
| 数量事業の規模(億円。今の値段で測った実質。推定) | 価格規模1億円あたりの年間売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 233 | 0.20 | 47 | 6 |
| 10 年後 中立 | 233 | 0.27 | 62 | 6 |
取り方:連結売上1,047.5億円から、単体の四つの事業(海上279・陸上362.5・建築359.8・不動産16.6の合計)を引いた子会社分約30億円と、不動産16.6億円を合わせて約47億円。営業利益は連結66.5億円と、単体の土木・建築の配分後の合計(約60億円)の差を子会社・不動産の利益とみて約6億円(利益率12%)。開示は無く推定。規模233に単価0.2を掛けて47億円とした。
リスクと懸念
官庁の入札で利益が谷に落ちる
利益の大半は官庁の工事で、価格は発注者が握る。需給が緩めば値引き競争が戻る。若築は2007年3月期から2011年3月期の間に赤字が4期あった。今の利益率6%台は、過去のピーク7.7%に近い水準にあり、谷に入ると下の幅が大きい。
利益が現金にならない
直近3期の営業キャッシュフローは合計で約140億円のマイナスだった。同じ期間の純利益は130億円強ある。工事が増えると、代金を受け取る前に材料費と外注費を払う。借入は2年で43億円から215億円に増えた。回収が遅れる、あるいは大型工事で立替が膨らむと、資金繰りと利払いが利益を削る。
親会社との利益相反
麻生は議決権の過半を持ち、役員とオブザーバーを送る。麻生グループにはセメントや生コン、建設土木の会社があり、取引の条件が少数株主に不利になる場面が起きうる。契約では、保有を50.10%超に増やすには若築の事前の承諾が要るが、将来の方針転換までは縛れない。
自社株買いが打ちにくい
市場で自由に売買される株の比率は、TOB後で37%台と、上場維持の基準35%に近い。自社株買いはこの比率を下げる。還元の手段は事実上、配当に限られる。資本が積み上がるのに配当性向を40%台に置くので、ROEは下がっていく。
洋上風力が計画どおり増えない
2025年8月に三菱商事が秋田と千葉の3海域から撤退し、再公募の条件も見直しが続く。6社で共同保有する作業船の稼働は、案件の数に左右される。若築の出資は9%と小さいが、基地港湾の工事や風車の据え付けが期待を下回れば、新エネルギー部門の投資が回収できない。
人手と船員が足りない
2024年4月の残業規制以降、技能者の確保が最大の制約になった。作業船を動かす船員も不足する。受注があっても売上に変えられず、人件費の上昇は利益率を削る。今期の計画も、売上は1割増えるのに営業利益は7%の増加にとどまる。
大型工事の竣工の波で利益が振れる
前期の土木の粗利率は、竣工する大型工事が少なかったことで3.1ポイント下がった。この会社は大型工事の工程次第で、期ごとの利益が大きく動く。単年の増益や減益で業績の方向を決めつけるのは危ない。
今後の分かれ目
- 営業キャッシュフローが2期続けて純利益を上回ったら
- 利益が現金に変わり始めたと見て、中立の倍率を上限の9割から引き上げる方向で見直し、楽観側の確率を少し増やす。
- 海上土木の受注が2期続けて前年を下回り、繰越も減ったら
- 港湾予算の恩恵が一巡したと見て、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 麻生が若築の完全子会社化や追加取得に動いたら
- 上場維持の約束が変わる。条件が本質価値を下回るなら少数株主に不利な再編と見て、価値は条件次第で動く。
- 洋上風力の再公募が成立し、基地港湾と風車据え付けの工事が増えたら
- 共同保有の作業船が回り始め、海上土木の工事量を押し上げる。やや楽観より上の確率を増やす。
- 建築の粗利率が2期続けて8%を割ったら
- 選別受注の効果が薄れたと見て、建築の利益率を下げ、中立の営業利益を10億円ほど削る。
- 自由に売買される株の比率が35%に近づき、上場維持の協議が始まったら
- 親会社による追加の手当てや、売り出しが出る。需給の変化を見極めるが、事業の価値は変わらない。
見ておくもの
- 四半期ごとの土木・建築の受注高と次期繰越高(特に海上土木)
- 営業キャッシュフローと借入残高の推移
- 建築・土木の粗利率
- 麻生グループとの協業の具体策(共同の受注、人材交流、資材調達)
- 自由に売買される株の比率と、自己株式の動き
- 洋上風力の再公募の結果と、共同保有の作業船の稼働状況
倍率と資本コストの決め方
倍率は、ROE が資本コスト k 7.75%(基本 7.5% + quality 0.75%)に届かない前提で、式の上限 1÷k = 約 12.1 倍に ROE÷k と 9 割を掛けて置いた。同じ領域の大豊建設と同じ手順で、今の株価や今の PER を見てから決めたわけではない。麻生の TOB 価格は 3 行との交渉で決まった値で、一般株主向けの値付けではないため、価値の根拠にしていない。悲観は谷の利益でなく、総資産の回収率と負債の全額払いで残る売れる資産(約 190 億円)で測り、谷の PBR は使っていない。純有利子負債は 18 億円のほぼ均衡で、純現金ではないため、余った現金は分けていない。有価証券の含み益は内訳が確かめられず、足していない。数量は人日で推定した値で、数量と価格の分け方には誤差がある。2028 年 3 月期から新リース会計基準で BS の形が変わるが、数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.3→13.99 倍・やや楽観 PER 10.3→12.96 倍・中立 PER 9.1→12.9 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 0.75% = 8.25%。同じ領域の五洋建設(0.75%)・大豊建設(0.75%)に揃えた。理由は quality_why。個別のリスク(親会社との利益相反・洋上風力の失敗など)は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 7.75%。