結論
東京エネシスは、火力・原子力発電所や変電所の工事と保守を請け負う会社だ。東京電力のグループに属する。結論から言えば、筆者は今の値段をやや割高と見る。一番の理由は、利益が戻っても資本の稼ぎが、投資家が求める水準にまだ届かない点にある。
足元の稼ぎは良い。2026 年 3 月期の営業利益は 47 億円、今期の会社予想は 73 億円だ。原発の安全対策工事が増え、採算を重視した受注が効いている。11 期ぶりの最高益になる見込みだ。
問題は、その先だ。大型の火力の新設は一巡し、会社も電力向けの売上を減らして、再エネや一般産業を増やす計画を立てている。ただ、この会社の利益は東京電力と重電メーカーの発注に左右される。自社で値段を決める力は強くない。
今の時価総額は自己資本とほぼ同じだ。中立の筋書きでは、10 年後の純利益は 60 億円ほどで、自己資本利益率は資本コストを下回る。その結果、価値は今の値段の 4 分の 3 ほどにとどまる。上がる幅より、下がる幅のほうが大きい。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「安く買えば悪くない事業」にとどまる。10 年後も電力設備の保守は続き、原発の経験は他社に代えにくい。だが、持ち続けたいと思うほどの高い資本の稼ぎ(ROE が資本コストを大きく上回る)がない。
オーナー利益の目で見ると、事業は大きな再投資を要さず、利益の多くが株主のものになる。それはよい。ただ、利益の水準は、東京電力や重電メーカーの発注と、人件費の転嫁がうまくいくかに決まる。今期の 52 億円は最高益だが、10 年先まで同じ水準が続くかは、読み切れない。
経営の資本の使い方は、変わりつつある。政策保有株を売り、還元を厚くする方針は評価できる。ただ、自社株買いを PBR 1 倍割れの時期に積極的に使っていないことが、まだ引っかかる。実行を数年見たい。
安全域は、今の値段にはほとんどない。時価総額は自己資本に近い。ROE が資本コスト 8.0% に届かない会社が、帳簿並みの値段を付けている。純資産より安く買えるまで、待つのが筋だ。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は設備工事業で、売上の 9 割以上を占める。火力・原子力の発電所と変電所の建設と保守、一般の工場や公共施設の電気設備、再エネの発電所の工事と運転保守だ。2026 年 3 月期の売上は 831 億円。このうち設備工事は約 770 億円で、セグメントの利益率は 14% 近くになる。
顧客は東京電力ホールディングス、三菱重工業、JERA が上位だ。東京電力向けは売上の 13.8%(2025 年 3 月期)と、前の期の 19.5% から下がった。福島第一の処理水の設備工事が一巡したためで、東京電力への依存は薄まっている。
会社は 2010 年に東京電力の関連会社になった。火力は 1960 年から、原子力は 1970 年から手がけ、原発の保修は積み上げた経験が強みになる。その他の事業は売上 61 億円で、情報通信や不動産の賃貸など、利益はごくわずかだ。
中期経営計画(2024〜26 年度)は、電力市場の売上比率を 7 割から 4 割弱へ下げ、一般産業と再エネを 6 割にする。工場設備や公共インフラ、水力・太陽光・バイオマスの運転保守に広げる狙いだ。決算の営業利益は、セグメント利益の合計より約 60 億円小さい。本社費などの調整額で、内訳は開示から確かめきれていない。
優良さと弱いところ
優良さの核は、原発の保修で積み上げた技術と信用だ。原子力の工事は、発注者が経験の浅い会社に任せにくい。資格と実績が参入の壁になり、再稼働後は保修の範囲も広がる。東京電力グループの一員という看板も、受注の安定につながってきた。
だが、堀、つまり他社がまねできない強みは、価格を決める力までは届いていない。同じ発電所の保修では、太平電業、東芝プラントシステム、重電メーカー系の会社が競う。客は東京電力と重電メーカー、電力会社で、値段を決めるのは発注者側だ。利益率が 10 年で 4% 台から 9% 台まで動いたのも、そのためだ。
資本効率は低い。自己資本利益率(ROE)は 2026 年 3 月期で 5.9%、過去 10 年の中央値は 4.3% だ。会社自身も、資本コストを下回っていると認める。2030 年度に 8% 以上を掲げるが、今のままでは届かない。
財務は堅い。自己資本比率は 60.7% で、純有利子負債は 84 億円とわずかだ。経営は、採算を重視した受注と政策保有株の売却に動いている。ただ、売却益が利益を押し上げた年もあり、本業の稼ぎを見るには特別な利益を除いて考える必要がある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
電力設備の工事は、今まさに中身が入れ替わっている産業だ。火力発電所の大型の新設は国内でほぼ一巡した。代わりに、既存の火力の保修と、原子力発電所の安全対策や再稼働後の定期検査、データセンターの新設による変電所の増強が仕事になる。
原子力は、再稼働のペースが読みにくい。会社は安全対策の工事が続くと説明するが、再稼働が遅れれば工事の山が先へずれる。逆に再稼働後は、毎年の定期検査が長く続く。柏崎刈羽をはじめ、東京電力の原発が動くかどうかが分かれ目になる。
競合は太平電業、東芝プラントシステム、三菱重工系や IHI 系の保修会社、同じ業界のレイズネクストなどだ。顧客が絞られているので、受注は価格だけでなく、実績・人員・協力会社の確保で決まる。人手不足のなか、人を確保できる会社が有利になる。
10 年の視点では、脱炭素電源の工事や再エネの運転保守、アジアの電力インフラも新しい仕事になる。ただ、火力の廃止が進む国内で、数量が実質で大きく伸びるとは見ない。成熟した需要で、物価の分だけ金額が上がる産業だ。
資本政策と M&A
資本政策は、会社が変わろうとしている点が見どころだ。中期経営計画は総還元性向 50% 以上、累進配当、機動的な自社株買い、自己資本比率 50% 以上、PBR 1 倍以上を掲げる。2026 年 3 月期の配当性向は 49% で、今期は配当を 2 割ほど増やす計画だ。
政策保有株と賃貸不動産の売却も進める。2026 年 3 月期の純利益には、その売却益が入っている。資金は、成長投資(3 年で約 200 億円)と還元に回る。ただ、自社株買いの実績はまだ見えない。
大株主は東京電力ホールディングスで、2026 年 3 月に最大 310 万株を売り出し、持ち株は 27% から 18% 台に下がった。経営再建のための売却だが、電力の安定供給で協力するため、一定の資本関係は残す。光通信も 1 割弱を持つ。
会社は、大株主の比率が高いと、浮動株ベースの時価総額で TOPIX に入らない可能性があるとし、東京電力と協議していると説明する。東京電力が持ち株をさらに減らす余地は残る。TOB(公開買付け)の材料は今のところ見えない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
電力設備の保守は、景気に左右されにくい。原発は再稼働後に定期検査と保修が毎年続き、経験のない会社には任せられない。東京エネシスは 1970 年から原子力を手がけ、その経験が受注を守る。
採算重視の受注が実を結び、2026 年 3 月期の営業利益は前の期の 1.8 倍、今期の会社予想はさらに 5 割増だ。人手不足で、値段を物価以上に通せる会社が有利になる。データセンターの新設で変電所の仕事が増え、水力の補修や再エネの運転保守も育つ。
財務は堅く、自己資本比率は 6 割を超える。持ち合い株と賃貸不動産の売却で資金を作り、今期は配当を 2 割ほど増やす。東京電力の持ち株が減れば、浮動株が増えて TOPIX の対象になり、買い手が広がる。
中期経営計画の 2030 年度の姿は、売上 1,300 億円以上、ROE 8% 以上だ。物価の上昇を含めれば、手が届く水準で、達成すれば今の値段は安い。
客の質も悪くない。東京電力は原発の再稼働を会社の再建の柱に置き、三菱重工業や JERA も設備を使い続けるために保修を欠かせない。電力の仕事は、一度信頼を得れば、長く続く。取引先が電力に偏るのは、見方を変えれば、需要が景気に左右されにくい強みでもある。
慎重な見方
利益が戻ったのは、原発の安全対策工事という、いつか終わる山が来ているからだ。火力の新設は一巡し、会社自身も電力向けの売上を減らす計画を立てた。減る分を、一般産業と再エネで埋められるかは、まだ証明されていない。
値段を決めるのは東京電力と重電メーカーで、請負の利益率は 10 年間 4% 台から 9% 台を行き来してきた。今期の予想 7.7% は、そのなかでも高い側だ。2026 年 3 月期の純利益には、政策保有株などの売却益も入っている。
東京電力は経営再建のため、持ち株を減らしている。株主としての後ろ盾が薄れ、発注の絞り込みが進めば、数量が減る。人手不足は人件費の上昇を呼び、転嫁が遅れれば利益率が削られる。
自己資本利益率は、10 年の中央値で 4.3%。資本コストを大きく下回ってきた会社に、帳簿並みの値段は高い。自社株買いの実績もなく、還元の方針が口先で終わる危うさもある。
中期計画は 3 年ごとに目標を掲げるが、前の計画の ROE 目標を超えた実績はまだ乏しい。目標を掲げる会社と、資本を効率よく使う会社は別だ。人手不足のなか、固定費の重い工事の人員を抱えて受注が細れば、利益は一気に削られる。
どちらに重みを置いたか
どちらにも根拠はあるが、慎重な見方のほうが少し強い。強気の見方の中心は、2 年先の利益予想と中期計画の目標という「見込み」だ。慎重な見方は、10 年間の利益率の振れと、ROE が資本コストを下回り続けた「実績」に立つ。確率は、やや悲観と悲観の合計を 32% と、慎重な側に寄せた。一方で、原発の保修という技術の壁と、堅い財務が谷を浅くする。そのため悲観は 12% にとどめた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,200 円729 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 977 円324 億円)。 今の値に割り戻すと 1,684 円558 億円、今との差 −14.5%、 期待の年率 +4.9%(資本コスト 8.0%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 3,507 円1,163 億円 | 1,267 円420 億円 | +142.6% | +9.3% | 477 円158 億円 |
| やや楽観 | 20% | 2,893 円959 億円 | 1,146 円380 億円 | +105.3% | +7.5% | 808 円268 億円 |
| 中立 | 38% | 2,403 円797 億円 | 1,056 円350 億円 | +75.7% | +5.8% | 1,314 円436 億円 |
| やや悲観 | 20% | 1,243 円412 億円 | 845 円280 億円 | +6.1% | +0.6% | 417 円138 億円 |
| 悲観 | 12% | 905 円300 億円 | 422 円140 億円 | −32.6% | −3.9% | 159 円53 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,200 円729 億円 | 977 円324 億円 | +61.4% | +4.9% | 3,176 円1,053 億円 |
今の株価時価総額 1,968 円652 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 10% 原子力の再稼働と変電所の需要が重なり、一般産業にも広がる 利益 86 億円 · PER 13.0 倍 · 株価時価総額 3,507 円1,163 億円
柏崎刈羽をはじめとする東京電力の原発で、再稼働後の定期検査と保修が途切れず入る。変電所はデータセンターの新設で仕事が増え、水力の補修や蓄電池つきの太陽光、バイオマス発電所の運転保守も受注の柱に育つ。
人手不足で、工事の値段は物価を少し上回って通る。協力会社の確保が受注の条件になり、採算の悪い案件は選んで断れる会社になる。営業利益率は 8% 台まで上がる。
東京電力の持ち株は 1 割台前半に下がり、浮動株が増えてTOPIXの対象に入る。持ち合い株の売却益と営業の稼ぎを合わせ、株主還元は純利益の 6 割を超える。
電力に偏っていた売上が、一般産業と再エネで 6 割を占めるようになる。請負業としては例外的に、利益が安定して伸びる 10 年だ。
- 設備工事業(発電所・変電所・産業設備):数量 380(施工量(万人日・実質)=国内の対象市場 × シェア)× 価格 3.45(1 人日あたり売上(万円・名目)。人件費・機材・外注を含む。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立)→ 売上 1,311 億円・営業利益 203 億円。数量は 10 年で 23% 増(国内の対象市場の伸びとシェア 9%)、値段は 1.38 倍、営業利益率 15.5%
- その他の事業:数量 28.0(受託・賃貸の作業量(万人日換算・推定))× 価格 3.45(1 人日換算あたり売上(万円・名目)。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立)→ 売上 97 億円・営業利益 2 億円。情報通信・賃貸などの子会社。値段 1.38 倍
倍率:事業の純利益 86 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.7% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.0 倍。全体の PER 12.99 倍、時価総額 1,117 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:再稼働後の保修が長く続き、データセンター向けの変電所と再エネの運転保守も育つ姿。東京電力の経営再建で発注が絞られる懸念もあり、1 割にとどめた。
やや楽観 20% 原発と変電所が支え、利益率は 8% 前後で定着 利益 73 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 2,893 円959 億円
大型の火力の新設は終わるが、原発の保修と変電所の改修、再エネの運転保守がそれを埋める。数量は今より 15% ほど増える。
採算を重視した受注が定着し、営業利益率は 8% 近くに上がる。2027 年 3 月期の会社予想(7.7%)に近い水準が、物価の上昇を織り込んだうえで続く姿だ。
還元は純利益の 6 割で、配当は毎年少しずつ増える。持ち合い株の売却はほぼ終わり、成長投資は小粒の買収が中心になる。
東京電力の持ち株比率の低下はゆっくり進み、特別な事情が起きない限り、取引関係は今のまま続く。会社は計画どおりに進むが、市場を驚かせるほどではない。
- 設備工事業(発電所・変電所・産業設備):数量 355(施工量(万人日・実質)=国内の対象市場 × シェア)× 価格 3.40(1 人日あたり売上(万円・名目)。人件費・機材・外注を含む。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立)→ 売上 1,207 億円・営業利益 181 億円。数量 15% 増、値段 1.36 倍、営業利益率 15%
- その他の事業:数量 26.0(受託・賃貸の作業量(万人日換算・推定))× 価格 3.40(1 人日換算あたり売上(万円・名目)。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立)→ 売上 88 億円・営業利益 2 億円。子会社。値段 1.36 倍
倍率:事業の純利益 73 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.5% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 912 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:会社の計画(2030 年度に ROE 8% 以上)に近い形が定着する姿。実行力が戻りつつあることを 2 割で見た。
中立 38% 売上は 1,200 億円ほど、利益率は 7% 前後 利益 60 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 2,403 円797 億円
電力向けの仕事は、火力の新設が一巡して減る。代わりに原発の安全対策と再稼働後の保修、変電所の改修、再エネの運転保守が伸びる。数量は 10 年で 8% ほど増える。
値段は物価並みに 1.34 倍。人件費も同じ率で上がるので、利益率は守れる。営業利益率は 7% 台に落ち着き、2027 年 3 月期の会社予想(7.7%)よりは少し低い。
還元は純利益の 6 割強。配当は DOE 3% 近辺で、自社株買いは機動的に行う程度にとどまる。
東京電力の持ち株は 1 割台に下がるが、電力の安定供給という役割は変わらない。独立した中堅の設備会社として、静かに稼ぎ続ける姿だ。
- 設備工事業(発電所・変電所・産業設備):数量 334(施工量(万人日・実質)=国内の対象市場 × シェア)× 価格 3.35(1 人日あたり売上(万円・名目)。人件費・機材・外注を含む。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立)→ 売上 1,119 億円・営業利益 160 億円。数量 8% 増、値段 1.34 倍、営業利益率 14.3%(調整後の全社で 7.0%)
- その他の事業:数量 24.4(受託・賃貸の作業量(万人日換算・推定))× 価格 3.35(1 人日換算あたり売上(万円・名目)。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立)→ 売上 82 億円・営業利益 2 億円。子会社。値段 1.34 倍
倍率:事業の純利益 60 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.4% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 750 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:火力の新設が終わる穴を、原発の保修・変電所・再エネが埋める。数量は小幅に伸び、値段は物価並みに上がる姿に収まりやすい。過去 10 年の利益率は 4〜9% で、その真ん中より少し上に置いた。
やや悲観 20% 東京電力の発注が細り、利益率は 5% 前後で止まる 利益 40 億円 · PER 9.0 倍 · 株価時価総額 1,243 円412 億円
東京電力は経営再建の途上にあり、原発・火力の保修の発注を絞る。大型の新設は終わったままで、数量は今より 10% 減る。
太平電業や東芝プラントシステム、重電メーカー系の保修会社との競争で、値段は物価並みに上がらず、1.32 倍にとどまる。営業利益率は 5% 前後に落ちる。
再エネと一般産業は伸びるが、会社の稼ぎを支えるほどにはならない。
還元は配当が中心になり、自社株買いは続かない。純利益は 40 億円ほどで、今の自己資本に対する利益率は 5% 台に低く、評価は帳簿の 5 割前後にとどまる。
会社は赤字には落ちず、財務の堅さも保つ。ただ、資本の稼ぎが資本コストに届かない状態が 10 年続くので、投資家はこの会社を、配当が出る安定した下請けとして、低い倍率で評価し続ける。中期計画の 2030 年度の目標には届かない。
- 設備工事業(発電所・変電所・産業設備):数量 300(施工量(万人日・実質)=国内の対象市場 × シェア)× 価格 3.30(1 人日あたり売上(万円・名目)。人件費・機材・外注を含む。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立)→ 売上 990 億円・営業利益 124 億円。数量 3% 減、値段 1.32 倍、営業利益率 12.5%
- その他の事業:数量 22.0(受託・賃貸の作業量(万人日換算・推定))× 価格 3.30(1 人日換算あたり売上(万円・名目)。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立)→ 売上 73 億円・営業利益 1 億円。子会社。値段 1.32 倍
倍率:余った現金・余り資産 0 億円を分けると、事業の純利益 40 億円(税後利息を除く)・事業の自己資本 904 億円・事業の ROE 4.4%。事業の ROE が資本コスト k 8.00% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER は 1÷k = 12.5 倍。電力会社からの発注の絞り込みが続く局面で、上限の 7.2 割の 9 倍に置いた。事業 40 億円 × 9 倍 + 余り 0 億円(帳簿 0 億円 × 戻り方 0.5)で時価総額 358 億円。
確率:東京電力の経営再建で修繕の発注が絞られ、重電メーカー系との競争も続く姿。電力の客に偏る事業なので 2 割を置いた。
悲観 12% 構造的に負ける:電力の保修が縮み、東京電力との関係も薄れる 利益 −8 億円 · PBR 0.4 倍 · 株価時価総額 905 円300 億円
火力発電所が廃止され、新設もなく、火力の保修が先細る。原発は再稼働が遅れるか、保修を東京電力と別の会社が担うようになる。
人手不足で人件費だけが上がり、値段は物価並みに上がらず、数年にわたって赤字か薄利が続く。固定費の重い工事の人員を抱えたまま、受注が減る。
配当は最低限を守るが、自社株買いは止まる。一般産業・再エネへの展開は小粒で、会社を支える柱にならない。
評価は、稼ぐ力ではなく売れる資産で決まる。持ち合い株と賃貸不動産の売却、人員整理を重ねるが、赤字で自己資本は削られる。
東京電力の持ち株がさらに減り、発注の優先順位でも後回しにされる。再エネの運転保守は競合が多く、利益が出にくい。優良な電力設備の会社だった面影は薄れ、帳簿の半分以下で評価される。
- 設備工事業(発電所・変電所・産業設備):数量 220(施工量(万人日・実質)=国内の対象市場 × シェア)× 価格 3.20(1 人日あたり売上(万円・名目)。人件費・機材・外注を含む。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立)→ 売上 704 億円・営業利益 63 億円。数量 29% 減、値段 1.28 倍、営業利益率 9%
- その他の事業:数量 18.0(受託・賃貸の作業量(万人日換算・推定))× 価格 3.20(1 人日換算あたり売上(万円・名目)。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立)→ 売上 58 億円・営業利益 0 億円。子会社。値段 1.28 倍
倍率:構造的に負けて、もう優良ではない姿。純利益は赤字で稼ぐ力では測れず、売れる資産で床を置く。総資産 1,190 億円(自己資本 724 億円 ÷ 自己資本比率 60.7%)を強制売却で 7 割しか回収できず、負債 470 億円(未成工事受入金・工事未払金を含む)は全額払うとして残る約 370 億円が床。今の自己資本 724 億円に対し、赤字と減損で自己資本は 654 億円まで減る前提で、床の 8 割強の PBR 0.41 倍(時価総額 300 億円)に置いた。
確率:火力の縮小と原発の再稼働の遅れが重なり、東京電力との取引も細る。重い景気の谷と値下げ競争が加わる姿。10 年で 1 割強。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
設備工事業(発電所・変電所・産業設備)
火力・原子力発電所と変電所の建設・保修、一般産業の電気設備、再エネの工事と運転保守。売上の 9 割以上。
| 数量施工量(万人日・実質)=国内の対象市場 × シェア | 価格1 人日あたり売上(万円・名目)。人件費・機材・外注を含む。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 309 | 2.50 | 773 | 107 |
| 10 年後 中立 | 334 | 3.35 | 1,119 | 160 |
取り方:設備工事業の売上 773 億円を、1 人日あたり売上 2.5 万円(人件費・機材・外注込みの筆者の推定)で割り、施工量は約 309 万人日とした。国内の発電・変電・産業設備の工事と保守の対象市場は実質で年 1 兆円前後、シェアは 8% 前後と推定する(開示された数字ではない)。数量は実質、物価の 3% は価格に入れた。売上 773 億円と利益 107 億円は決算のセグメント数字。
その他の事業
情報通信や不動産の賃貸など、設備工事の周辺の事業。
| 数量受託・賃貸の作業量(万人日換算・推定) | 価格1 人日換算あたり売上(万円・名目)。物価 3% で 10 年 1.34 倍が中立 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 24.4 | 2.50 | 61 | 1 |
| 10 年後 中立 | 24.4 | 3.35 | 82 | 2 |
取り方:その他の事業の売上 61 億円を、設備工事と同じ 1 人日換算 2.5 万円で割り、約 24 万人日と推定した(賃貸収入などを含むので目安)。売上 61 億円・セグメント利益 0.7 億円は決算の数字。連結の営業利益 47 億円は、2 つのセグメントの合計から本社費などの調整額(約 -60 億円)を引いた値。
リスクと懸念
東京電力の発注の絞り込み
東京電力は経営再建の途上で、持ち株も減らしている。保修の発注を絞れば、原発・火力の売上が先に減る。売上に占める割合は 13.8% まで下がったが、電力会社と重電メーカーを合わせた依存は今も大きい。取引の継続は資本関係だけに頼れない。
原発の再稼働の遅れ
安全対策工事の山は、再稼働の見通しに左右される。再稼働が延びれば工事が後ろへずれ、中計の電力市場の売上計画が崩れる。再稼働後の定期検査という安定した仕事に移るまで、利益の山と谷が続く。
火力の縮小
国内の大型の火力の新設は一巡し、会社も火力は減少傾向と説明する。既存の火力の保修は残るが、廃止が進めば仕事の総量は細る。再エネや一般産業で穴を埋められるかは、まだ実績が乏しい。
人手不足と人件費
工事は人が仕事をする。人手不足で人件費が上がっても、発注者に値段を転嫁できなければ利益率が削られる。協力会社の確保も受注の条件になり、人員を抱える固定費の重さが、受注が細った時の谷を深くする。
利益の質
2026 年 3 月期の純利益には、政策保有株と賃貸不動産の売却益が入っている。本業の稼ぎは、この分を除いて見る必要がある。売却できる資産が減れば、特別な利益は消え、ROE はもとの低い水準に戻りうる。
株主構成と流動性
東京電力と光通信を合わせると、浮動株が少ない。会社も TOPIX の対象外になりうると認める。東京電力が追加で売却すれば、株価に需給の重しがかかる。逆に、親会社の売却が先に進めば、買収の対象にもなりうる。
今後の分かれ目
- 柏崎刈羽など東京電力の原発が再稼働し、定期検査の保修が定常化したら
- 楽観・やや楽観の確率を上げてよい。原子力の売上が長く安定し、数量の前提を上方に直す。
- 東京電力が、保修の発注を絞る方針を明確にしたら
- やや悲観・悲観の確率を上げる。電力向けの売上が先に縮み、利益率の前提を下げる。
- 一般産業と再エネの売上が、中計の計画(売上の 6 割)に近づいたら
- 電力への依存が薄れ、利益の振れが小さくなる。倍率を上限側に近づけてよい。
- 自社株買いを、PBR 1 倍割れの局面で継続的に実施したら
- 経営の資本の使い方が株主に向いたと判断できる。還元の前提を上げ、ROE の見通しも引き上げる。
- 東京電力が持ち株をさらに売却し、浮動株が増えて TOPIX に入ったら
- 買い手が広がり、需給は改善する。ただし本質価値は動かさない。買収の対象になる可能性も高まる。
- 営業利益率が 7% を超えて 3 年続いたら
- 採算重視の受注が定着した証拠として、中立の利益率を上げる。確率は楽観側へ移す。
見ておくもの
- 四半期ごとの受注高と、原子力・火力・変電所・再エネ・一般産業の内訳
- 東京電力向けの売上比率と、柏崎刈羽など原発の再稼働の進み具合
- 営業利益率(7% 台を保てるか)と、特別利益を除いた純利益
- 自社株買いの実施と、総還元性向 50% 以上の達成
- 東京電力・光通信の持ち株比率の変化と、TOPIX への組み入れ
倍率と資本コストの決め方
数量は国内の対象市場(実質で年 1 兆円前後と推定)に東京エネシスのシェア(8% 前後)を掛けた施工量、価格は 1 人日あたりの売上に物価の倍率(10 年 1.34 倍)をかけて置いた。市場とシェアは推定で、開示された数字ではない。倍率は利益ベースで、中立の事業の ROE(約 6.4%)が資本コスト 8.0%(基本 7.5% + quality 0.5%)に届かないので、PER の上限は 1÷k の 12.5 倍。中立は上限の 8 割の 10.0 倍で、今の PER や PBR に寄せたわけではない。今の時価総額(663 億円)と純利益の予想から逆算せず、先に数量 × 価格で 10 年の利益を積み上げた。悲観は赤字のため、売れる資産で測り、谷の PBR は使っていない。リースは本社・支店の賃借で小さく、新リース会計(2028 年 3 月期から)の形の変化は、今と同じ形(家賃を営業費用に入れる形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11.5→12.99 倍・やや楽観 PER 10.6→12.5 倍・中立 PER 10→12.5 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 0.5% = 8.0%。理由は quality_why。個別のリスク(東京電力の持ち株売却・ガバナンス)は k に足さず、筋書きと確率で表した。