結論
高砂熱学工業は、ビルや工場の空調設備を設計・施工する国内最大手だ。半導体工場やデータセンターの空調に強く、2026 年 3 月期は売上・利益・受注がいずれも過去最高だった。
筆者の結論は、今の値段はやや高いというものだ。会社の実力に疑いはない。ただ営業利益率は 11% 台まで上がり、過去 20 年の中心である 2〜6% を大きく超えている。この高さが 10 年続くとは置きにくい。
稼ぎの源は単純だ。顧客の工場やビルが新しく建つか、古い空調を替えるたびに工事が受注できる。国内の工事量は人手不足で頭打ちだが、大型案件は技術力のある上位数社に集まる。高砂熱学は、その先頭にいる。
財務は強い。実質的に無借金で、自己資本比率は 55% ある。利益率が今より落ちても、会社が傷む心配は小さい。配当は 40% を目途に毎年増やす方針で、自社株買いも使う。
工事会社は店舗や工場を持たず、人と技術で稼ぐ。だから大きな設備投資が要らず、稼いだ利益の多くを株主に返せる。筆者はこの点を評価している。
安全域の面で見ると、強気の見方に分がある部分は今の受注と利益率の高さ、慎重な見方に分がある部分は 10 年先の利益率だ。中立の筋書きは利益率が 12% から 10% へ戻る姿で、そのとき会社は「特別に儲かる会社」から「普通に強い設備工事会社」へ評価が移る。
バリュー投資の観点から
事業の本質は、他人の建物に入る専門工事だ。自社で土地や設備を持たず、受注した仕事を人の腕で仕上げる。だから大きな設備投資が要らず、利益の多くを株主に返せる。この点は、バリュー投資の観点では好ましい。
一方で、10 年先の姿は読みにくい。受注は景気と顧客の投資判断に左右され、工事ごとの採算にもばらつきがある。「ここは 10 年後も変わらず儲かる」と言い切れる事業ではない。
ここ 3 年で利益は 3 倍近くになった。この変化の半分は一時の追い風で、半分は会社の努力だと筆者は見る。受注の選別と施工の標準化は、本物の改善だ。しかし、需要が落ち着けば、同業の値引きが戻る。
経営の質を測る材料は、数字の上では堅実という一点に尽きる。派手な拡大を追わず、利益率の改善に取り組んだ。この地味さを、筆者は好ましいと考える。
資本配分は堅実だ。大型の買収で損をした過去がなく、配当を毎年増やし、持ち合い株も減らしている。経営の規律には安心感がある。
払う値段については、中立の筋書きでも今の時価総額を下回る。本質価値が今より低めに出る以上、安全域は薄い。持ち続けたい会社だが、今の値段では、買う理由が弱いと見る。
何で稼ぐ会社か
収益の柱は空調設備工事だ。オフィス・商業施設向けの一般空調と、半導体工場・データセンター・電池工場・製薬工場向けの産業空調に分かれる。産業空調は温度と湿度を細かく管理するため、設計の難しさが高く、価格も取りやすい。
顧客の多くは建物を建てるゼネコンと、半導体や製薬などの工場を持つメーカーだ。ゼネコンから下請けとして受ける形が多く、受注は景気と設備投資の波を受ける。一方で、高砂熱学は工場の発注者から直接受ける案件も持つ。ラピダスの工場計画への参画も報じられている。
売上の 1 割台は海外だ。シンガポール、タイ、ベトナム、中国、インドなどに拠点を置き、現地の日系工場を主な顧客として伸ばしてきた。海外売上は推定で 700 億円規模で、国内より利益率が低い。
工事の売上は、受注してから完成するまで 1〜2 年かかる。だから受注高は先行指標になる。2026 年 3 月期の受注高は過去最高の 4,600 億円で、受注残の厚みが今後の売上を支える。
産業空調の受注は、顧客の投資計画と同じ時期に動く。半導体のラインが立ち上がる 1 年ほど前に設計が始まり、受注が決まる。顧客の投資の話を早くつかむ営業力が、そのまま受注の差になる。
ほかに、省エネ改修や、水素を作る水電解装置などの環境事業を育てている。まだ小さいが、会社は「長期ビジョン 2040」の中で収益の柱に育てる考えだ。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、大型の産業空調を安全に仕上げる技術と実績だ。半導体のクリーンルームは、空気の汚れ一つが製品の歩留まりを落とす。発注者は安さより、失敗しない相手を選ぶ。このため、実績のある上位数社に案件が集まる。
もう一つの強みは売上の規模だ。同業の売上は、大気社が約 2,900 億円、ダイダンと三機工業が約 2,500 億円台、新日本空調が約 1,500 億円。高砂熱学の約 4,200 億円は、この上位 5 社の売上の約 3 割にあたる。人手不足の時代に、技術者と協力会社を確保しやすい規模は強い。
資本効率も上がった。ROE は 2018 年ごろの約 10% から、直近は約 18% になった。大型案件の採算を受注時に選ぶ方針と、施工の標準化が効いている。
経営の姿勢にも触れておく。会社は 2023 年に掲げた経常利益の目標を、2 年のうちに 2 度引き上げた。実績が計画を先行する構図で、当初の目標が低かったとも読める。
弱い点は 3 つある。ゼネコン下請けでは価格を決める力に限りがあること。工事ごとに採算が違い、一つの大型案件の失敗が利益を傷めること。そして、いまの利益率が過去に比べて異例に高いことだ。筆者がいちばん気にしているのは、この 3 つ目である。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の空調工事は、需要が人口では増えない成熟市場だ。新築のオフィスは東京など一部に偏り、地方は減る。だが需要の質が変わってきた。
一つは産業用だ。半導体工場とデータセンターは、空調の量も難度も大きい。ラピダスや TSMC の熊本工場のような国内投資が、ここ数年の受注を押し上げた。もう一つは更新と省エネだ。1990 年代までに建った多くのビルが、空調の入れ替え時期を迎えている。脱炭素の流れで、電気代を下げる改修の需要も増える。
ただし、産業用の投資は景気と顧客の判断で止まりやすい。データセンターは米国や中東への投資が目立ち、国内に十分な量が来るかは分からない。半導体も、世界の設備投資の波に左右される。
同業は 8 社ほどあり、大気社、ダイダン、三機工業、新日本空調、日比谷総合設備などが並ぶ。大型案件は上位数社に集まるが、小さな案件では価格競争が起きる。いまは各社とも利益率が改善しているが、需要が落ち着けば受注の取り合いが戻る。
脱炭素の面では、ビルの空調は消費電力の大きな部分を占める。省エネ性能の高い機器への入れ替えは、顧客にとって電気代の節約になり、投資を回収しやすい。この需要は、景気の波が相対的に小さい。
人手不足は最大の制約だ。技能者の確保が工事量を決めるので、売上を伸ばす力は、人を集める力と工事の効率で決まる。
資本政策と M&A
還元の方針は「配当性向 40% を目途にした累進配当」で、自社株買いは機動的に行う。2025 年 4〜6 月には 80 億円を買い付けた。2025 年 10 月には 1 株を 2 株にする株式分割を行った。
中期経営計画 2026 の目標は、2025 年 5 月に大きく引き上げられた。経常利益は 400 億円(もとは 300 億円)、ROE は 15% 程度、4 年間の還元は 500 億円以上、成長投資は 900 億円以上だ。実績の経常利益は 506 億円で、目標を先に超えた。
一点だけ気になるのは、利益が増える局面で還元を増やす姿勢が、谷でも保てるかだ。累進配当は、減配しにくい約束でもある。谷の年は、配当を守るために自社株買いを止める選択になるだろう。
持ち合い株、つまり取引先の株を持つ保有は、純資産の 15% 以下に減らす方針で、売った資金は成長投資に回す。格付けは A を保つと明言している。
資本の使い方では、大型の買収で価値を壊した記録はない。タイなど海外で現地企業を買う動きはあるが、規模は小さい。次の中期計画は 2027 年から始まる「成長実現の 4 年間」で、海外建設と環境事業の収益化が柱になる。筆者は、買収を急がず、還元と成長投資を並べて進める今の姿勢を、堅実だと見ている。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
高砂熱学の利益率は、一時の追い風だけで上がったわけではない。会社が受注の時点で採算を選び、工事の進め方を標準化したからだ。この改善は、需要が落ち着いても残る。
需要の質も変わった。半導体工場とデータセンターは、空調の難度が高く、価格を取りやすい。老朽化したビルの空調更新と、電気代を下げる省エネ改修は、新築の波とは別に続く。人手不足の時代に、技術者と協力会社を集められる大手は、受注で有利になる。
財務は実質的に無借金で、自己資本比率は 55% ある。利益率が数ポイント下がっても、会社は傷まない。配当は 40% を目途に毎年増え、自社株買いも加わる。持ち合い株を売った資金は、成長と還元に回る。
海外は東南アジアとインドで伸びている。国内の頭打ちを補う余地がある。会社は経常利益 400 億円の目標を前倒しで超え、次の計画でさらに上を狙う。利益率の高さは、一過性でなく、構造の変化として続く可能性が十分にある。
会社が掲げた経常利益の目標が、200 億円から 300 億円、400 億円へと引き上げられてきたことも、需要の強さを物語る。
慎重な見方
過去 20 年の営業利益率は 2〜6% が中心だった。今の 11% は、その倍に近い。景気や顧客の投資が一巡すれば、同業は受注を取り合い、ゼネコンも工事費を抑えにかかる。下請け構造では、価格を決める力に限りがある。
半導体とデータセンターの投資は、ここ数年の大きな追い風だった。ただし、データセンターは米国や中東への投資が目立ち、国内に十分な量が来るとは限らない。半導体も、世界の設備投資の波で止まる。受注残が厚いのは、足元の話にすぎない。
国内の工事量は、人手不足で増やしにくい。売上の伸びは、物価の転嫁に頼る部分が大きい。物価の上昇を超えて値上げができなくなれば、利益の伸びは止まる。
利益が 3 倍になったあとの会社は、市場にも期待が先に織り込まれている。2009 年の谷で営業利益率は 3.6%、PBR は 0.51 倍まで下がった。今の利益を前提に置くことの危うさは、この実例が示している。
目標が引き上げられるたびに実績が先行してきたのは、当初の計画が低すぎたということでもある。引き上げた分だけ、ここから先の達成は難しくなる。
どちらに重みを置いたか
会社の実力と財務は強気の見方が優勢だが、利益率が 10 年続く点は慎重な見方に分がある。筆者は、中立の筋書きを、利益率が 12% から 10% へ戻る姿に置いた。
確率は、やや悲観に厚く寄せた。強気の筋書きは 8%、やや強気は 20%、中立は 35% だ。残りの 37% を、やや悲観の 25% と悲観の 12% に分けた。利益率が倍になった直後の会社は、平常に戻る確率のほうが高いと見るからだ。
会社の質を高く評価することと、今の値段を高いと見ることは、矛盾しない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 5,392 円7,057 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,713 円2,243 億円)。 今の値に割り戻すと 3,809 円4,986 億円、今との差 −7.7%、 期待の年率 +5.6%(資本コスト 7.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 10,179 円1.33 兆円 | 2,276 円2,979 億円 | +201.8% | +11.7% | 996 円1,304 億円 |
| やや楽観 | 20% | 8,127 円1.06 兆円 | 2,031 円2,659 億円 | +146.2% | +9.4% | 2,032 円2,659 億円 |
| 中立 | 35% | 6,325 円8,278 億円 | 1,811 円2,370 億円 | +97.1% | +7.0% | 2,847 円3,727 億円 |
| やや悲観 | 25% | 2,584 円3,382 億円 | 1,473 円1,928 億円 | −1.7% | −0.2% | 1,014 円1,327 億円 |
| 悲観 | 12% | 768 円1,006 億円 | 1,025 円1,342 億円 | −56.5% | −8.0% | 215 円282 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,392 円7,057 億円 | 1,713 円2,243 億円 | +72.2% | +5.6% | 7,105 円9,300 億円 |
今の株価時価総額 4,127 円5,402 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 8% 半導体・DC・脱炭素が長く続く 利益 713 億円 · PER 18.7 倍 · 株価時価総額 10,179 円1.33 兆円
半導体工場とデータセンターの空調が国内で増え続け、ビルの空調更新も脱炭素の流れで途切れない。高砂熱学は大型案件の取り合いに勝ち続け、施工を標準化して人手の壁を超える。値上げは物価を超えて通り、利益率は今の高さをほぼ保つ。海外は東南アジアとインドで現地の会社を取り込み、売上が 4 倍近くに伸びる。水電解装置などの環境事業も少しずつ収益になる。強い堀と高い資本効率を保ったまま、自己資本を積み増して還元も厚くできる、理想に近い 10 年である。ライバルが人手不足で受注を絞る中、高砂熱学は採用と育成に先に投資した分だけ、案件を選び続けられる。
- 国内の空調設備工事:数量 8,200(施工量(人年。技能者と技術者の稼働を今の値段で測った実質の工事量))× 価格 0.72(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 5,888 億円・営業利益 707 億円。工事量 8,200(今の 1.17 倍)× 0.718 億円(今の 1.42 倍)、営業利益率 12%
- 海外の空調設備工事:数量 4,200(施工量(人年・実質))× 価格 0.59(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 2,459 億円・営業利益 221 億円。工事量 4,200(今の 2.6 倍)× 0.5854 億円(今の 1.34 倍)、営業利益率 9%
倍率:事業の純利益 713 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.6% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.7 倍。全体の PER 18.68 倍、時価総額 13,323 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の設備需要が 10 年とぎれず、利益率も高いまま続く条件が必要。人手不足で工事量を増やしにくいことも考えると、実現のハードルは高い。
やや楽観 20% 産業空調に支えられて着実に成長 利益 595 億円 · PER 17.9 倍 · 株価時価総額 8,127 円1.06 兆円
産業空調は一段落しても、ビルの空調更新と省エネ改修が、新築の落ち込みを埋める。高砂熱学は大型案件の採算を選ぶ姿勢を続け、利益率は今よりやや低い水準で落ち着く。海外は東南アジアで着実に伸び、全体の 2 割弱を占めるまでになる。協力会社の確保には苦労するが、工事の標準化で施工量を増やす。還元は配当性向 40% の累進配当に自社株買いを足す形で、資本効率は高めのまま続く。海外ではタイやインドの現地企業を取り込み、売上の 2 割弱を稼ぐ。国内では更新工事の比率が上がり、景気の波は少し和らぐ。ただし国内の工事量は、人口の減少と人手不足で大きくは伸びない。成長の多くは、単価の上昇と海外が担う。
- 国内の空調設備工事:数量 7,800(施工量(人年。技能者と技術者の稼働を今の値段で測った実質の工事量))× 価格 0.71(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 5,522 億円・営業利益 607 億円。工事量 7,800(今の 1.11 倍)× 0.708 億円(今の 1.40 倍)、営業利益率 11%
- 海外の空調設備工事:数量 3,600(施工量(人年・実質))× 価格 0.59(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 2,107 億円・営業利益 169 億円。工事量 3,600(今の 2.25 倍)× 0.5854 億円(今の 1.34 倍)、営業利益率 8%
倍率:事業の純利益 595 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.9% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.9 倍。全体の PER 17.87 倍、時価総額 10,638 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:データセンターと半導体の投資が一巡後も一定の高さを保ち、更新需要が支えとなる想定。多くの業界見通しの上位レンジに当たる。
中立 35% 利益率は平常へ戻り、普通に強い会社に 利益 489 億円 · PER 16.9 倍 · 株価時価総額 6,325 円8,278 億円
新築の空調は人口の減少で伸びず、データセンターと半導体の投資も一時の勢いを失う。それでも古いビルの空調更新と省エネ改修が、需要の下支えになる。高砂熱学は施工量を 6% ほど増やすが、利益率は今の 12% から 10% へ戻る。ゼネコンや同業との競争で、値上げの余地が縮むためだ。海外は東南アジアとインドで伸び、売上全体の 2 割台になる。10 年後には、特別な超過利益が消えた、地味だが堅実な設備工事の優良会社になる。配当は利益とともに増え、還元は 10 年を通じて純利益の半分あまりに達する。自己資本の積み上がりは緩やかで、ROE は 12% 前後に落ち着く。
- 国内の空調設備工事:数量 7,400(施工量(人年。技能者と技術者の稼働を今の値段で測った実質の工事量))× 価格 0.70(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 5,165 億円・営業利益 516 億円。工事量 7,400(今の 1.06 倍)× 0.698 億円(今の 1.38 倍)、営業利益率 10%
- 海外の空調設備工事:数量 3,000(施工量(人年・実質))× 価格 0.59(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 1,756 億円・営業利益 123 億円。工事量 3,000(今の 1.9 倍)× 0.5854 億円(今の 1.34 倍)、営業利益率 7%
倍率:事業の純利益 489 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.1% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.8%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.9 倍。全体の PER 16.92 倍、時価総額 8,267 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内空調の需要は人口で増えないが、更新・省エネ・産業用で底堅い。利益率は過去最高から平常に戻り、会社の強みは残るという中心の筋書き。
やや悲観 25% 競争が戻り、利益率が昔に近づく 利益 326 億円 · PER 9.9 倍 · 株価時価総額 2,584 円3,382 億円
好況の間に同業が人員と設備を増やし、需要が落ち着いた後に受注の奪い合いが始まる。ゼネコンも工事費を抑えにかかり、価格転嫁の力が弱まる。利益率は 7% 台まで下がり、10 年前よりは高いが、今よりかなり低い。国内の工事量は人手不足と需要の頭打ちで伸びない。海外は競争が厳しく、伸びても利益は薄い。堀が崩れたわけではないが、「今は特別に儲かる会社」という評価は外れる。ゼネコン側も、工事費の抑制を強める。高砂熱学は選別受注を続けるが、受注額の確保のために一部で採算を譲る。還元は利益とともに細り、自己資本の伸びも緩やかになる。ROE は 10% を割り込み、資本コストをわずかに上回る程度に下がる。
- 国内の空調設備工事:数量 7,000(施工量(人年。技能者と技術者の稼働を今の値段で測った実質の工事量))× 価格 0.67(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 4,690 億円・営業利益 352 億円。工事量 7,000(今と同じ)× 0.67 億円(今の 1.32 倍)、営業利益率 7.5%
- 海外の空調設備工事:数量 2,400(施工量(人年・実質))× 価格 0.59(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 1,404 億円・営業利益 70 億円。工事量 2,400(今の 1.5 倍)× 0.585 億円(今の 1.34 倍)、営業利益率 5%
倍率:ROE 8.87%(純利益 326 億円 ÷ 自己資本 3,676 億円)。今の利益はそのまま残り、先で薄れるのは新しく投じるお金の稼ぎだけとみて、RONIC = k 7.5% + 残る割合 1/2 ×(ROE 8.87% − k)= 8.43%、長期の成長率 g 4% から正当化 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g) = 13.1 倍。ROE が資本コストをわずかに上回るだけで、伸びも堀の持ちも低く見て、上限の 7 割 5 分 の 9.9 倍に置いた。
確率:過去 20 年の利益率は 2〜6% が中心。今の高さが 10 年続く保証はなく、下請け構造では利益率が昔に近づく可能性が高いと見る。
悲観 12% 国内の成長の柱を失い、優良さが消える 利益 113 億円 · PER 8.9 倍 · 株価時価総額 768 円1,006 億円
半導体とデータセンターの大型投資が米国や中東へ移り、国内の新規工事が細る。残るのは既存ビルの更新と、価格だけで競う仕事になる。同業との値引き競争で利益率は 3% 台に落ち、大型案件の採算悪化も重なる。海外は進出先の競争に負けて伸びない。会社は存続し、配当も払うが、かつて掲げた高い資本効率は戻らない。投資家は高砂熱学を、景気に翻弄される普通の下請けとして扱う。新しい工場や大型のデータセンターが国内で立たず、ライバルも同じ仕事を奪い合うので、値下がりは続く。人員の維持費だけが重く残る。ROE は 3% 台に落ちる。それでも実質無借金で、会社が傷むことはない。配当を保つために、自社株買いは止まる。
- 国内の空調設備工事:数量 6,200(施工量(人年。技能者と技術者の稼働を今の値段で測った実質の工事量))× 価格 0.62(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 3,844 億円・営業利益 135 億円。工事量 6,200(今の 0.89 倍)× 0.62 億円(今の 1.23 倍)、営業利益率 3.5%
- 海外の空調設備工事:数量 1,800(施工量(人年・実質))× 価格 0.55(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 990 億円・営業利益 10 億円。工事量 1,800 × 0.55 億円(今の 1.26 倍)、営業利益率 1%
倍率:半導体・データセンターの大型投資が海外へ移り、値引き競争で営業利益率が 3% 台に落ちた構造的な負け筋で、純利益は 113 億円まで細る。ROE が k 7.5% 以下なので上限は 1÷k = 12.5 倍。悲観は、やや悲観よりさらに構造的に負けた姿なので、倍率をやや悲観(9.9 倍)より高くせず、その 9 割の 8.9 倍に置いた。時価総額 1006 億円(全体の PER に直して 8.9 倍)。
確率:半導体・データセンターの投資が海外に移り、国内は価格競争だけが残る構造的な負け筋。加えて、不祥事や大型案件の採算悪化といった下請けの典型的な失敗も入る。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内の空調設備工事
オフィス・工場・データセンター・半導体工場の空調を設計し、施工する本業。売上の 8 割以上を占める。
| 数量施工量(人年。技能者と技術者の稼働を今の値段で測った実質の工事量) | 価格1 人年あたり完成工事高(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 7,000 | 0.51 | 3,540 | 435 |
| 10 年後 中立 | 7,400 | 0.70 | 5,165 | 516 |
取り方:国内の売上を 3,540 億円、営業利益を 435 億円(利益率 12.3%)と推定した。開示は国内・海外の内訳が細かくないため、海外の売上を 700 億円規模とみて残りを国内とした。工事は人手が制約になるので、数量は施工に携わる人の稼働(人年)で置き、1 人あたり約 5,000 万円の完成工事高とした。物価の上昇分は、価格(1 人年あたりの完成工事高)に入れる。
海外の空調設備工事
東南アジア・中国・インドなどで、日系を中心とした工場やビルの空調を施工する。
| 数量施工量(人年・実質) | 価格1 人年あたり完成工事高(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,600 | 0.44 | 699 | 42 |
| 10 年後 中立 | 3,000 | 0.59 | 1,756 | 123 |
取り方:海外売上は集計サイトの 715 億円(年度は未確認)を目安に、全体 4,239 億円から国内を引いた 699 億円とした。現地の人件費が低いため、1 人あたりの完成工事高は国内の約 85%、利益率は 6% と推定した。数量は実物(施工量の人年)で、東南アジア・インドの拠点・人員の拡大による増加。名目の市場の伸びは置いていない。価格は物価並みの 1.34 倍までとした(楽観側も同じ)。
リスクと懸念
利益率が平常に戻る
営業利益率は 11% 台と、過去 20 年の中心(2〜6%)を大きく超えている。同業の値引きやゼネコンの工事費抑制が戻れば、売上が伸びても利益は伸びない。いちばん大きな不確実性だ。 2009 年の谷では 3% 台まで落ちた実例があり、戻る方向の力は常にある。利益の半分が薄れれば、本質価値の見方も大きく変わる。
半導体とデータセンターの投資の波
ここ数年の受注を押し上げた産業向けは、顧客の判断と世界の設備投資で止まりやすい。データセンターが米国や中東に偏れば、国内の大型案件は思ったほど増えない。 受注残が厚くても、新しい大型案件の数が減れば、2 年ほど先の売上に響く。顧客が投資を先送りすれば、受注の見通しは 1 年で変わる。
人手不足で工事量が増えない
技能者の確保が工事量の上限を決める。賃金の上昇を価格に転嫁できなければ、利益を削る。採用と協力会社の維持に失敗すると、受注があっても施工できない。 人を増やすには時間がかかり、採用の競争は同業だけでなく他の建設職種とも続く。施工管理の標準化は進めているが、人の数を超える効率化には限りがある。
大型案件の採算悪化
工事は一つひとつが大きく、工期の遅れや資材高、設計変更で赤字になる案件が出る。一件で利益が傷む構造は、業界に共通する。 利益が一度に消える案件が出れば、年間の利益を数割押し下げることもある。会社は大型案件の採算を受注時に選ぶ方針だが、選別が完全に当たるとは限らない。
ゼネコン下請けの立場
多くの案件でゼネコンの下に入るため、価格を決める力に限りがある。ゼネコンが工事費を抑えにかかる局面では、採算の守り方が試される。 協力会社への発注単価の上昇も、元請けとして吸収する場面が出てくる。地方や中小の案件では、特に値引きの圧力を受けやすい。
海外事業の伸び悩み
海外は利益率が低く、現地の競争も激しい。進出先の景気や政治で工事が延期される例もある。国内の頭打ちを補う役目を果たせないと、成長の筋書きが細る。 為替や進出先の規制も影響するため、海外の利益は国内より読みにくい。日本の会社が海外で伸びる時は、現地の人材と顧客の確保が壁になる。
今後の分かれ目
- 受注高が 2 期連続で前年を下回ったら
- やや悲観の筋書きに確率を寄せる。受注残が薄くなり、利益率の戻りが早まる。
- 営業利益率が 12% を超えて保たれたら
- 強気側の確率を上げてよい。ただし、同業も同じ水準に追いつくかを確かめる。
- データセンターの国内案件で、大型の受注を続けて取ったら
- やや強気の筋書きの確率を上げる。産業向けの追い風が続く証拠になる。
- 大型案件で数十億円規模の損失が出たら
- 利益の質を見直す。受注時の採算を選ぶ方針が崩れた兆しかを確認する。
- 海外の売上が 1,500 億円を超え、利益率が国内に近づいたら
- 10 年の筋書きの利益を引き上げる。国内の頭打ちを補う道ができる。
- 景気が急に冷え、企業の設備投資が凍結されたら
- 10 年の悲観の筋書きが近い。ただし財務が強いので、床は自己資本で見る。
見ておくもの
- 四半期ごとの受注高と受注残、受注時の利益率
- 営業利益率の推移(11% 台を保てるか)
- データセンター・半導体向けの大型案件の受注の有無
- 海外の売上と利益率、現地企業の買収
- 次の中期経営計画(2027 年度から)の数値目標と還元方針
倍率と資本コストの決め方
売上は『施工量 × 1 人年あたり完成工事高』で積み、物価 3% は価格に入れた。国内の工事量は人手不足と人口で頭打ちとし、中立の 10 年で 1.06 倍とした。倍率は k 7.5%(基本 7.5% + quality 0.5%)・g 4% 以内の正当化 PER の上限の約 9 割に置き、ROE が k を上回るので 1÷k の床(12.5 倍)を割らせない。悲観は稼ぐ力(PER 上限 1÷k)を上限に、やや悲観より高くしない倍率で測り、谷の PBR は使っていない。中立は 12.5 倍で、今の 14.6 倍には寄せていない。純現金は 1 億円と小さく、余った現金は分けていない。工事会社で店舗や倉庫の賃借が小さいので、新リース会計基準(2028/03 期)の影響は小さい。数字は、家賃を営業費用に入れた今の形でそろえてある。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14.6→18.68 倍・やや楽観 PER 14→17.87 倍・中立 PER 13.3→16.92 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 0.5% = 8%。理由は quality_why。個別のリスク(不祥事・M&A の実行など)は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 7.50%。