結論
大末建設は、大阪と東京に本店を置く中堅のゼネコンだ。分譲マンションと物流倉庫を主力に、建築だけで年1,000億円ほどの工事を請け負う。筆者の結論は「ほぼ適正」。利益は過去最高の山にあり、その高さを織り込むと、今の値段に大きな余白は残らない。
強みは仕事の厚さだ。前期の受注は1,500億円を超え、手持ち工事は売上の1.7年分まで積み上がった。値上げが通り、3年前に2.6%まで落ちた営業利益率は6.2%へ戻った。10月には今期の営業利益を70億円に引き上げ、増配と自社株買いも打ち出している。
弱みは、山のあとに何が残るかだ。過去12年の営業利益率の最高は6.6%で、今はそのすぐ下にいる。赤字の年も20年で4回ある。売上の上限は施工できる人の数で決まり、事業は建築ほぼ一本なので、景気が悪い時の逃げ場もない。
中立の筋書きは、10年後の営業利益を80億円弱と置く。物価の上昇ほどは伸びない。ただ、利益の半分以上を株主へ戻す方針があり、ROEも10%台を保つ。上は大型案件の積み上げと買収の成功、下は受注の失速と赤字への逆戻りで、幅は広い。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、ゼネコンは「資本は軽いが、毎年仕事を取り直す事業」だ。工場を持たないので、利益の多くを株主へ戻せる。一方で、受注が細ると翌年の利益に直結し、山と谷が深い。
大末建設は、その山の頂上近くにいる。利益率は過去12年で最高に近く、ROEは15%を超えた。筆者は、この数字を10年続く実力とは見ない。株主が自由に使えるオーナー利益は、純利益の8割ほどあるが、その純利益が山の高さなのが問題だ。
経営の資本の使い方には、好感を持てる。採算の悪い工事を断り、利益を厚くし、還元を増やした。買収も小さく、価格も妥当だ。割高な自社株買いに走らず、手元のお金も保っている。
ただ、純現金80億円の中身は、先に受け取る工事代金だ。大型案件が完成して代金が入れ替わると、この現金は減る。安全域の根拠にはならない。値段が適正付近にある今は、取るべき余白が薄い。筆者は、受注が落ちて利益が一服する時の値段を見たい。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は建築工事だ。分譲マンションなどの集合住宅が受注の主力で、物流倉庫、商業施設、オフィスが続く。会社の説明では、マンション・集合住宅と物流倉庫・商業施設で受注の約9割を占める。
顧客は、マンションを売るデベロッパーや、倉庫を建てる事業会社だ。地域は関東、近畿、中部の三大都市圏に集まる。大阪が創業の地で、東京にも本店を置く。野村證券の分析資料によれば、マンションの引き渡しは年20棟から30棟台で安定している。
稼ぎ方は単純だ。工事を請け負い、材料費と外注費を払い、残りが粗利になる。前期は売上1,056億円に対して粗利が119億円、粗利率は11.3%だった。給料の引き上げとシステム投資で販売管理費がふくらみ、営業利益は66億円で着地した。
土木は、まだ小さな新しい柱だ。2023年に、割岩という特殊な工法を持つ神島組と、兵庫県で公共土木を手がける川西土木を傘下に入れた。神島組は売上9億円に対し営業利益5億円と、小さくても利益率が高い。開示のセグメントは建築の1つだけで、土木の数字は切り分けられていない。
次の売り物は冷凍冷蔵倉庫だ。大阪市大正区では、延べ約4.5万平方メートルの温度可変型の物流施設を設計から施工まで受け持ち、2026年10月に完成する予定だ。会社はこの実績をデータセンターなど、付加価値の高い建物へ広げたい考えである。
優良さと弱いところ
優良さを一言で言えば「上り調子の普通の中堅」だ。堀、つまり他社がまねできない強みは、まだ深くない。
強みは3つある。1つ目はマンションの施工実績。2つ目は、冷凍冷蔵のように手間のかかる倉庫までこなせる技術。3つ目は、採算を見て受注を選ぶ姿勢だ。3年前に資材高を価格へ転嫁できず、利益率が2.6%まで落ちた苦い経験が、今の値付けに効いている。
弱みは4つある。受注がマンションに偏っていること。規模が小さく、価格を決める力が弱いこと。売上の上限を人手が決めること。そして事業が建築ほぼ一本で、谷で逃げ場がないことだ。赤字の年は、2007年3月期、2010年3月期、2012年3月期、2013年3月期と4回ある。
資本の効率は直近で大きく上がった。ROEは15%台で、旧中期計画の目標だった10%を前倒しで超えた。ただ、過去10年の中央値は10%弱だ。筆者は、15%は山の数字で、実力は10%強とみる。
筆頭株主のミサワホームは約19%を持つ。支配はしていないが、この株主の動きは需給に響く。総じて、経営の変わり身は早いが、堀は浅い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の建設市場は、量が増えない成熟市場だ。それでも今は「作れば儲かる」局面にある。2024年4月に残業の上限規制が始まり、技能者が足りなくなった。受け手のゼネコンが仕事を選べるようになり、値上げが通る。上場ゼネコン50社の2025年度の受注は16兆円台、繰越工事も過去最高だ。
大末建設の主戦場は、民間の中型から大型の建築だ。分譲マンションでは長谷工コーポレーションや髙松建設、大手ゼネコンとぶつかる。物流倉庫や商業施設では、準大手から地場まで入り乱れる。規模は小さく、価格を決める力はスーパーゼネコンに劣る。
マンションの需要は、人口減で長くは増えない。ただ会社は、東京23区と福岡は当面人口流入が続くとみる。建築費が上がると分譲価格も上がり、供給戸数は絞られる。数が減っても単価で補えるかが、マンションを主力にする会社の分かれ目になる。
追い風は物流とデータセンターだ。冷凍冷蔵や電気設備の多い建物は、施工の手間が大きく、できる会社が限られる。逆風は人手だ。会社は2030年度までに約80人を増やすと言うが、全業界で奪い合いになる。
10年先は、投資の波が一巡して、国内の量は実質で横ばいか緩やかな縮小に向かうと筆者は見る。人手の足りない業界では、売上を伸ばす力より、採算を守る力が会社の差になる。小さな会社は、地場の事業承継型の買収や準大手との統合で、規模を取りにいく流れが強まるだろう。
資本政策と M&A
資本政策の柱は株主への還元だ。方針は、総還元性向50%以上、かつ純資産に対する配当率(DOE)4%以上。前期の配当は利益の約5割で、今期の上方修正に合わせて増配も決めた。2026年10月には、最大5.9億円の自社株買いも打ち出した。
買収は小粒で、人を取る目的だ。2023年に神島組を48億円で買った。売上9億円に対して営業利益が5億円あり、買収額は利益の9倍ほどに収まる。会社は今後も、施工人員の確保と規模の拡大のためにM&Aを最優先で探すと言う。
2023年に決めた投資計画は、既存事業に50億円、土木・不動産・環境など周辺分野に50億円だった。買収で規模を取る方針は筋が通るが、価格を間違えれば、少ない自己資本を一気に削る。
株主面では、ミサワホームが19%台で筆頭株主に座る。プライム市場の流通株式の基準を満たすため、政策保有株を市場に出し、自己株の公開買付けも使った経緯がある。10年以内に買収の提案を受ける確率は、kabufuの試算で約2割だ。買われれば上振れ要因だが、筆者は筋書きの確率には織り込まない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
建設業の構造が変わった。受け手が仕事を選べる時代になり、採算の悪い工事を取らなくてよい。大末建設は、その変化を最もうまく使った会社の1つだ。前期の受注は1,543億円と34%増え、手持ち工事は1,799億円と売上の1.7年分ある。利益率は3年で2.6%から6.2%へ戻り、今期はさらに上振れた。
会社の計画は保守的だ。2030年度の目標(売上1,400億円、営業利益84億円)は、旧目標を5年早く超えたあとに引き上げたもので、また前倒しになる可能性が高い。人を増やし、買収で施工力を足せば、売上は物価の伸びを大きく上回る。
資本の使い方も本物だ。還元は利益の5割以上、DOEは4%以上と約束し、実際に増配と自社株買いを重ねている。ROEは15%台で、資本コストを大きく上回る。上回る期間が長ければ、価値は時価総額の想定より大きくなる。
さらに、冷凍冷蔵倉庫やデータセンターのような建物では、できる会社が少なく、価格を決める力が付く。創業100周年の2037年に売上3,000億円という野心は、準大手へ上がる意思の表れだ。事業を売る側から見ても、小粒で利益率の高い買収先は、まだ多く残る。
慎重な見方
今の利益は景気の山だ。営業利益率は、過去12年の最高6.6%のすぐ下にあり、20年で4回も赤字になった会社が、その高さを保つとは考えにくい。3年前には、資材高を転嫁できず、利益率が2.6%まで落ちた。資材が落ち着き、受注の競争が戻れば、同じことが起きうる。
会社自身の今期計画も、受注を28%減らす前提だ。手持ち工事が積み上がっているのに、受注を絞るのは、施工できる人が足りないからだ。売上の上限が人手で決まる会社は、利益を伸ばせない。人を80人増やす計画も、業界全体の人の取り合いの中で、人件費を押し上げる。
事業の偏りも重い。マンションと物流倉庫に集中し、土木と不動産の収益はまだ小さい。人口減で長期のマンション需要は細り、建築費の高騰で分譲価格が上がれば、販売が鈍って着工が遅れる。
資本面でも注意がいる。純現金80億円は、先に受け取った工事代金を多く含む。1年前の純現金は13億円で、大型案件の完成で代金が入れ替われば、半分以下に戻る。買収に使えば、一件ごとの失敗が小さな自己資本に重く響く。株価は上方修正で急騰し、期待が先行している。
どちらに重みを置いたか
勝負は拮抗している。事業の質と経営の機動力では強気の見方に分があり、山の高さと偏りの指摘は、慎重な見方が正しい。確率は中立に4割弱を置き、慎重側をやや厚くした。悲観を1割強にしたのは、赤字が4回ある谷の深さと、事業が建築ほぼ一本という偏りを無視できないからだ。強気の見方が強調する手持ち工事は、近い数年の利益を守るが、10年先の利益は守らない。会社の目標は実績が先行しており尊重するが、中立は目標より低めの利益率に置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 7,134 円735 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,397 円247 億円)。 今の値に割り戻すと 4,936 円508 億円、今との差 +19.2%、 期待の年率 +8.7%(資本コスト 8.0%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 13,902 円1,432 億円 | 3,477 円358 億円 | +319.8% | +15.4% | 1,217 円125 億円 |
| やや楽観 | 17% | 11,021 円1,135 億円 | 3,049 円314 億円 | +239.9% | +13.0% | 2,392 円246 億円 |
| 中立 | 37% | 8,766 円903 億円 | 2,719 円280 億円 | +177.4% | +10.7% | 4,249 円438 億円 |
| やや悲観 | 27% | 3,288 円339 億円 | 1,942 円200 億円 | +26.3% | +2.4% | 1,412 円145 億円 |
| 悲観 | 12% | 1,301 円134 億円 | 874 円90 億円 | −47.5% | −6.2% | 261 円27 億円 |
| 加重平均 | 100% | 7,134 円735 億円 | 2,397 円247 億円 | +130.2% | +8.7% | 9,531 円981 億円 |
今の株価時価総額 4,140 円426 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 7% 採算選びが続き、買収も当たる 利益 82 億円 · PER 16.9 倍 · 株価時価総額 13,902 円1,432 億円
採算を選ぶ姿勢が10年続き、買収も当たる筋書きだ。マンションの需要は首都圏と福岡で踏みとどまり、冷凍冷蔵倉庫とデータセンターで実績を重ねて、付加価値の高い建物を取れる会社になる。人は増え、施工量は今より2割ほど多い。値上げは物価並み以上に通り、営業利益率は過去最高圏の6.5%を保つ。営業利益は120億円弱になる。
小さな買収が人と受注をまとめて連れてくる。土木も、公共工事の更新を取り込んで一本の柱になる。還元は利益の5割以上を守るが、稼ぐ力が増えて、自己資本の厚みは小さな会社としては十分になる。ROEは15%に届く。ただし国内の量が実質で増えない点は変わらず、業界の山と谷を完全に避けたわけではない。連続して全部がうまくいく必要があり、起きる確率は低い。
- 建築(マンション・物流倉庫・商業施設ほか):数量 185(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 9.85(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 1,823 億円・営業利益 118 億円。185万人日換算 × 1人日あたり 9.85万円、利益率 6.5%
倍率:事業の純利益 82 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 16.7% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.9 倍。全体の PER 16.91 倍、時価総額 1,387 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10年続けて採算を選び、冷凍倉庫・データセンターで実績を重ね、買収も当たる筋書き。連続して当たる必要があり、確率は低い。
やや楽観 17% 値上げが続き、買収が一部実る 利益 66 億円 · PER 16.3 倍 · 株価時価総額 11,021 円1,135 億円
値上げが続き、買収も一部が実る筋書きだ。施工量は今より1割ほど増え、物流倉庫と中型マンションで受注を取り続ける。営業利益率は6%を保ち、営業利益は95億円前後に乗る。人手は買収と採用で足し、売上は物価の伸びを少し上回る。
冷凍冷蔵倉庫の実績が評判を呼び、価格競争から少し離れて仕事を取れる。会社の2030年度の目標(営業利益84億円)は達成し、その後は緩やかに伸びる。還元は5割以上で、ROEは13%ほどと資本コストを上回る。ただ、10年の前半に積み上がった手持ち工事が減るため、後半の伸びは鈍る。
土木の2社は公共工事の更新を取り込んで少しずつ育ち、買収も1件か2件は実る。マンションの需要は首都圏で踏みとどまり、物流倉庫が穴を埋める。国内の量が増えない制約は最後まで残るが、値上げと採算の良さが、それを補う。
- 建築(マンション・物流倉庫・商業施設ほか):数量 165(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 9.71(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 1,602 億円・営業利益 96 億円。165万人日換算 × 1人日あたり 9.71万円、利益率 6.0%
倍率:事業の純利益 66 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.0% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.3 倍。全体の PER 16.31 倍、時価総額 1,076 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:値上げが物価並みに通り、買収と採用で施工力が増えれば、ROEは資本コストを上回る。ただ国内の量が増えないため、これ以上は置かない。
中立 37% 量は少し増え、価格は物価並みの成熟 利益 54 億円 · PER 15.6 倍 · 株価時価総額 8,766 円903 億円
量は少し増え、価格は物価並みに上がる成熟の姿だ。人を増やして施工量は今より5%ほど増える。営業利益率は5%台前半へ、山から降りて落ち着く。営業利益は78億円ほどで、今期の計画(70億円)を少し上回るにとどまる。
マンションは三大都市圏で底堅く、物流倉庫が補う。土木の2社は小さな黒字を保つ。還元は総還元性向50%以上の方針どおりで、自己資本は500億円近くまで積み上がる。ROEは11%ほどと、過去10年の中央値を少し上回る。
2030年度に会社が掲げる84億円の営業利益は、物価の上昇を含めれば届かない水準ではない。ただ、10年を通すと、手持ち工事の山が引いたあとの利益率は戻る。大きな成功も、大きな失敗もない、堅実な10年になる。
- 建築(マンション・物流倉庫・商業施設ほか):数量 154(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 9.57(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 1,473 億円・営業利益 78 億円。154万人日換算 × 1人日あたり 9.57万円、利益率 5.3%
倍率:事業の純利益 54 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.2% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.6 倍。全体の PER 15.55 倍、時価総額 840 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:量は実質で少し増え、価格は物価並み。会社の改善策が部分的に効き、山から降りて落ち着く、最も標準的な姿。
やや悲観 27% 受注が細り、採算が谷へ戻る 利益 32 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 3,288 円339 億円
受注が細り、採算が谷へ戻る筋書きだ。資材高の転嫁が止まり、人件費だけが上がる。マンションの着工が減り、受注の競争が戻ると、営業利益率は4%を割って3%台後半になる。施工量は今より1割ほど減り、営業利益は45億円前後に下がる。
赤字の年こそ少ないが、利益は薄くなる。買収した土木の収益は小さく、新しい分野の投資も回収が遅れる。会社は還元を保とうとするが、利益が減って5割の還元は、積み上げた自己資本を食い始める。ROEは7%ほどと資本コストの手前にとどまる。
大きな買収で失敗すれば、さらに悪い。ただ、これは10年の中で起きる普通の谷であり、会社の構造が壊れたわけではない。
- 建築(マンション・物流倉庫・商業施設ほか):数量 138(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 9.28(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 1,281 億円・営業利益 46 億円。138万人日換算 × 1人日あたり 9.28万円、利益率 3.6%
倍率:ROE 7.1%(純利益 32 億円 ÷ 自己資本 452 億円)。事業の ROE が資本コスト k 8% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER の上限は 1÷k = 11.4 倍。谷の利益が戻る途中で、ROE は k の手前(0.81 倍)にとどまるため、上限の 7 割 5 分の 8.5 倍に置いた。
確率:資材高の転嫁が止まり、人件費だけが上がる展開。赤字の年が20年で4回ある会社で、小規模・建築一本という偏りもあり、中立に近い厚みで置いた。
悲観 12% 構造的に負け、低採算工事に頼る 利益 10 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 1,301 円134 億円
構造的に負ける筋書きだ。人手が足りない中で、選んで受注する力を失い、低採算の工事を取るしかなくなる。マンションの需要が縮み、倉庫やデータセンターで大手に勝てず、営業利益率は1%台前半まで落ちる。施工量は今の7割ほどに縮み、営業利益は14億円ほどになる。
赤字の年も出て、自己資本は減損で削られる。買収した会社の評価損や、手持ち工事の赤字が重なる。配当は減り、還元は利益の半分に届かない年が続く。
稼ぐ力は小さく、自己資本の厚みを守る力もない。会社の価値は、利益ではなく、保有する資産を売った時の残りで測るしかない。再編や買収の対象になる可能性は高まるが、安い値段での話になる。
- 建築(マンション・物流倉庫・商業施設ほか):数量 108(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定))× 価格 8.57(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 925 億円・営業利益 14 億円。108万人日換算 × 1人日あたり 8.57万円、利益率 1.5%
倍率:構造的に優良でなくなり、減損も出た姿。谷の年の純利益は 10 億円で、稼ぐ力は 120 億円ほどにしかならず、床は売れる資産で測る。総資産 596 億円を強制売却で 8 割しか回収できず 477 億円、負債 344 億円は全額払うとして残る約 133 億円を、今の自己資本 252 億円に対する PBR 0.53 倍(時価総額 134 億円)に置いた。
確率:選んで受注する力を失い、構造的に優良ではなくなる筋書き。赤字が4回ある谷の経験と、建築一本の偏りから、1割強に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
建築(マンション・物流倉庫・商業施設ほか)
分譲マンションなどの集合住宅、物流倉庫、商業施設、オフィスを請け負って建てる。開示のセグメントは建築の1つで、神島組・川西土木の土木もここに含まれる。
| 数量施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質。推定) | 価格1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 148 | 7.14 | 1,056 | 66 |
| 10 年後 中立 | 154 | 9.57 | 1,473 | 78 |
取り方:連結売上1,056億円・営業利益66億円(決算説明資料。セグメントは建築のみ)を現場の労務量で割った。労務費を売上の約35%、日当を約2.5万円と置くと、施工量は約148万人日、1人日あたり売上は7.14万円になる。開示は無く、筆者の推定である。物価の分は価格に入れ、数量は実質(人の数)で置いた。
リスクと懸念
受注の失速と赤字への逆戻り
今期の営業利益率は過去12年の最高に近い。大型案件の完成で受注が細り、手持ち工事が減ると、利益は先に崩れる。会社は今期の受注を28%減らす計画で、すでに山の頂上を見ている。赤字の年は20年で4回あり、谷の深さを無視できない。
人手の上限が成長を止める
売上の上限は、施工できる技能者の数で決まる。2030年度までに約80人を増やす計画だが、業界全体が人を奪い合っており、人件費は上がり続ける。受注があっても施工できず、増収が増益に結びつかないことがある。
建築一本の偏りとマンション需要
受注の約9割がマンション・集合住宅と物流倉庫・商業施設で、事業は建築ほぼ一本だ。人口減で長期のマンション需要は細り、建築費の高騰で分譲価格が上がれば、販売の鈍りが着工を遅らせる。物流倉庫も、投資の一巡が早いと数が減る。
買収の失敗が小さな自己資本に響く
会社は人手の確保と規模拡大のため、買収を最優先で探す。自己資本は252億円と小さく、1件の失敗でも影響が大きい。神島組は利益の約9倍で買ったが、次も同じ水準で買えるとは限らない。高値づかみは、価値を壊す。
純現金の中身は先に受け取った工事代金
純現金は80億円あるが、1年前は13億円だった。大型案件の代金が先に入った結果で、完成して工事未払金を払うと減る。現金を余りと見て自社株買いや買収に使うと、運転資金が足りなくなる恐れがある。
大株主の売却と上場維持
ミサワホームが約19%を持ち、プライム市場の流通株式の基準は、長く未達だった。大株主が売ると株価は急落しうる。逆に、市場区分の見直しや買収の提案は上振れ要因になる。需給は事業と別の理由で、株価を大きく動かす。
今後の分かれ目
- 営業利益率が2期続けて5%を割ったら
- 価格転嫁の局面が終わったと見て、やや悲観・悲観の確率を上げ、中立の利益率を下げる。
- 受注が計画を上回り、手持ち工事が売上の1.5年分を保ったら
- 近い年の利益は守られ、中立の施工量を上方に直す。ただ、10年先の利益率は変えない。
- 施工人員を計画どおり増やし、離職が増えなかったら
- 売上の上限が上がると見て、楽観側の確率を少し増やす。
- 神島組・川西土木の次に、人員と受注を連れてくる買収が適正な価格でまとまったら
- 規模の拡大が利益に結びつくか確かめ、やや楽観の確率を上げる。高値なら下げる。
- ミサワホームなど大株主が持ち株を大きく減らしたら
- 需給で株価は下がりうるが、事業の価値は変わらない。買い手が現れるなら、上振れ要因になる。
- 冷凍冷蔵倉庫やデータセンターの大型案件を継続して受注できたら
- 価格を決める力が強まったと見て、利益率の上限を上げる。
見ておくもの
- 四半期ごとの受注高と手持ち工事の推移
- 完成工事の粗利率と営業利益率(6%台を保てるか)
- 施工人員の増減と離職の動き
- 買収の有無と価格(利益の何倍か)
- 大株主(ミサワホーム)の持ち株の変化と、上場維持基準の適合状況
- 純現金の増減(工事代金の入れ替わり)
倍率と資本コストの決め方
倍率は、ROE が資本コスト k 8%(基本 7.5% + quality 1.25%)を上回る前提で、正当化 PER(RONIC = k + 1/2 ×(ROE − k)、g 4%)の 9 割前後に置いた。ROE が k に届かない谷では、上限 1÷k の 7 割 5 分とした。今の株価(10 月の急騰後)や今の PER(約 11 倍)を見てから決めたわけではなく、逆算もしていない。
中立の利益率は 5.3% で、過去 12 年の最高 6.6% より低く、12 年の中央値 4%台より高い。直近の 6.2%(会社の今期予想は 7% 台)は山の数字として使わなかった。会社の 2030 年度目標(営業利益 84 億円)は、中立の 10 年後(78 億円)に物価込みで近い水準で、目標を採用したわけではない。
純現金 80 億円(時価総額比 19%)は、未成工事受入金と工事未払金の波を含み、余った現金として分けていない。持ち合い株は残高と受取配当が開示から確かめられず、価値を足していない。リースは本社などの賃借で小さい。2028 年 3 月期からの新リース会計基準で BS の形が変わるが、数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 1.25% = 8.75%。理由は quality_why。個別のリスク(ミサワホームの持ち株、M&Aの実行、上場維持)は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.75% → 8.00%。