結論
巴コーポレーションは、橋・鉄塔・鉄骨をつくって組み立てる鉄構メーカーで、東京・豊洲などに貸す土地も持つ。稼ぎの本体は鉄構だが、会社の値打ちの大半は有価証券と不動産という資産にある。
筆者の結論はこうだ。今の値段は、資産が株主に戻る姿をかなり先取りしている。割安とは言いにくい。本業は物価の分しか伸びず、10年の値打ちは資産が戻る速さで決まる会社だ。
本業は追い風が弱い。国内の鋼橋の新設は30年で7分の1に細り、建築鉄骨の需要も痩せた。会社は受注を選んで利益率を守る道を取る。2027年3月期の純利益は30億円の予想で、売却益で膨らんだ前期の半分だ。
資産は厚い。投資有価証券は純資産の6割ほどあり、賃貸不動産は鑑定の時価が帳簿の2.6倍ある。ただ、これらは年2%に届かない利回りしか生まない。物価が年3%で上がる世界では、眠らせた資産は目減りする。
動きはある。会社は2025年と2026年に自社株買いを重ね、時価総額の2割を戻した。その一方で、2026年4月には買収対応方針を取締役会の決議だけで入れた。資産を返す意思がどこまで本物かは、まだ見えない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、巴は「安く買える資産」になりうるが、「持ち続けたい事業」ではない。
事業の目で見る。鉄構は、需要が細る市場で受注を選び、利益率を守る事業だ。10年後に今より強いとは言いにくい。株主が自由に使える利益は、純利益30億円前後から大きく増えない。この事業だけなら、払ってよい値段は今の時価総額の半分に届かない。
資産の目で見る。有価証券の含み益は税を引いて約129億円、賃貸不動産には鑑定で約570億円の含み益がある。合わせれば時価総額に近い。だが、資産は戻って初めて株主のものになる。年2%に届かない資産を10年抱えれば、物価と資本コストの分だけ目減りする。
経営の目で見る。自社株買いに動いたことは評価する。しかし買収対応方針を決議だけで入れた姿勢は、資産を返す意思の強さに疑問を残す。
安全域の目で見る。悪い筋書きでも資産の下支えがあり、大きくは負けにくい。しかし今の値段は、資産が戻る筋書きをかなり織り込む。払う値段に余白は小さい。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は二つある。鉄構建設が売上の8割、不動産が2割だ。ただし2026年3月期の営業利益は、不動産が6割を占めた。土地の販売が重なった特殊な年である。
鉄構建設は、橋、鉄骨、鉄塔、大きな屋根などの鋼構造物を設計し、工場でつくり、現場で組み立てる。発注者は官公庁が4割、民間が6割。官公庁は橋や防衛施設、民間は物流倉庫や工場、データセンターの鉄骨が中心だ。電波を遮る電磁シールドや、木と鋼を組み合わせた構造など、小さな新事業も育てている。工場は栃木の小山、札幌、十和田にあり、3か所とも塗装工場を新設中だ。
不動産は、豊洲の土地を中心にした賃貸と、土地の販売からなる。賃貸は安定しているが、時価に対する利回りは低い。販売は年ごとの波が大きい。2024年に連結へ入れた泉興産など三つの子会社も、周辺の事業を担う。
会社の計画は、2028年3月期に売上400億円、営業利益42億円だ。だが足元の予想は、2027年3月期で売上325億円、営業利益34億円と、計画の線に届かない。会社自身も、鋼橋の発注が15万トンを割り、建築鉄骨の需要が400万トンを割ったと認めている。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、狭くて浅い。
強みは、設計から製作、現場の組み立てまでを自社で通せる点だ。難しい形の屋根や、長く使う鉄塔のように、図面どおりに仕上げる腕が値段に効く分野で生きる。鉄構の営業利益率は、前々期の8%台から前期は7%近くまで下がった。橋や鉄骨は入札と元請けの値決めで売る品物で、値段を決める力は小さい。競合の横河ブリッジ、IHIインフラシステム、宮地エンジニアリング、駒井ハルテックは、同じ橋の発注を取り合う。規模で劣る巴は、受注を選んで守る立場だ。
資本の使い方は評価が割れる。自己資本比率は6割と厚く、2回の自社株買いで時価総額の2割を戻したのは前向きだ。しかし、稼ぐ力に比べて資産が重すぎる。純資産の6割ほどが株式で、そこから入る配当は年10億円に届かない。自己資本利益率は10年の中央値で8%にとどまる。
経営は、投資家の圧力に押されて動いている面が強い。2025年の株主提案は賛成約1割で否決されたが、翌年に大型の自社株買いが出た。買収対応方針を総会の前に決議だけで入れたことは、株主との対話に後ろ向きに映る。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
鉄構の市場は、量が細っている。日本橋梁建設協会の会員31社の国内鋼道路橋の受注は、1995年度の約90万トンから2024年度に12.6万トンまで落ち、過去最低を更新した。会社も、鋼橋の発注が15万トンを割り、建築鉄骨が400万トンを下回ったと認める。
理由は三つある。新しい橋が造られなくなったこと、コンクリート橋など他の工法との競争、そして技能者の不足だ。2024年4月の残業規制で工期が延び、受注を選ぶ動きが業界に広がった。
救いは橋の老朽化だ。建設後50年を超える道路橋は、2025年の42%から2035年に65%へ増える。2026年度からの国土強靱化計画も約20兆円ある。ただ、補修の多くは現地の工事で、新しく鋼を加工する量は増えにくい。
再編も動く。横河ブリッジが2026年にPC橋大手を買収すると報じられた。大手が事業の幅を広げるなか、規模の小さな巴は、鉄塔、屋根、電磁シールドなど狭い分野で生きる道を探すことになる。
不動産は別の景色だ。豊洲では大型の再開発が続く。巴の敷地は賃貸のまま、東京都から高度な利用を求められており、再開発の資金を準備する必要がある。
資本政策と M&A
資本政策は、いま転換点にある。
還元は急に厚くなった。2025年2月に43億円、2026年2月に最大80億円の自社株買いを行い、後者は発行済み株式の10.8%にあたる。同じ時期に政策保有株の売却益30億円も計上した。2027年3月期の配当は、前期の特別配当をやめて普通配当のみとする。
お金の使い道も重い。塗装工場の新設に約50億円、豊洲の再開発の準備、子会社を買う第二弾に約30億円を見込む。借入金は自社株買いと設備投資で増え、純有利子負債は64億円になった。会社は自己資本比率60%を目標に、利回りの低い株と不動産を計画的に売る方針だ。
投資家との関係は緊張している。ひびきは2025年に純資産の10%の配当を求める提案を出し、議決権助言会社のISSが支持を推奨したと述べる。賛成は約1割で、2026年5月にも同じ提案を重ねた。2026年4月の買収対応方針には強く反対している。
買われる側の可能性もある。時価総額は約620億円と小さく、資産はそれを上回る。参考として、10年以内に買収される確率は19%ほどという見積もりがある。
還元の置き方:2025年2月(43億円)と2026年2月(最大80億円)の自社株買いは株数に反映済みで、10年の還元には入れていない。10年の中立は純利益の合計の7割で、売却益と配当の一部を自社株買いに回す筋書きだ。余った現金は還元した分だけ筋書きごとに減らしてある。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
資産の厚さが違う。投資有価証券は純資産の6割、賃貸不動産の鑑定時価は帳簿の2.6倍だ。時価総額が資産の半分ほどしかない会社は珍しい。提案者の試算では、実質の純資産倍率は0.5倍台にとどまる。
動きも出ている。2年続けて大型の自社株買いを行い、10.8%を一度に消却した。2025年の株主提案は賛成約1割、会社関係者を除くと約2割を集めた。会社自身も、東証プライム市場に上がれる立ち位置を目標に掲げる。資本効率の改善は避けて通れず、10年あれば持ち合いは解けるはずだ。
本業も悪くない。鉄構は受注を選んで利益率を守り、前期の営業利益率は7%近くだった。老朽化した橋の更新、電力網の鉄塔、データセンターの鉄骨が下支えする。
利益の質も悪くない。前期の営業利益は過去10年で最大だった。大半は不動産の販売だが、鉄構も黒字を保った。
買い手の目でも魅力的だ。時価総額は約620億円と小さく、資産で買収資金の多くをまかなえる。投資家は非公開化の検討まで求めており、今の値段は買収の下値として堅い。
慎重な見方
資産は解放されて初めて価値になるが、会社にその意思は薄い。2026年4月に買収対応方針を取締役会の決議だけで入れた。安定株主が厚く、2025年の株主提案は賛成約1割で否決された。大手銀行3行がそれぞれ5%超を持つとの報告も出ている。自社株買いは、世間の圧力への最小限の応答にとどまるかもしれない。
本業は縮む市場にある。鋼橋の受注は30年で7分の1になり、建築鉄骨も400万トンを割った。2027年3月期の純利益は30億円と、前期の半分だ。前期の利益は、有価証券の売却益と土地の販売で膨らんでいた。
資産の使い道にも不安がある。塗装工場に約50億円、豊洲の再開発の積み立て、子会社の買収に約30億円。稼ぐ力の低い会社が、さらに資産を積む恐れがある。借入金も増えた。
含み益には税がかかり、豊洲の再開発は義務づけられた投資だ。自由に売れるとは限らない。10年たっても資産が眠るなら、資本コスト8%の世界では価値は大きく目減りする。
どちらに重みを置いたか
資産の厚さは、慎重な見方も認める。争点は、資産が戻る速さだ。2回の自社株買いは実績として重いが、買収対応方針と安定株主が速度を落とす。そこで確率は中立に最も厚く置き、強気側を3割台半ば、慎重側を3割強とした。悲観は、本業の縮小と投資の失敗が重なる筋書きに絞り、資産の下支えがあるため1割にとどめた。資産が戻るかどうかは、会社の言葉でなく、売却と還元の実績で判断する。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,526 円848 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 985 円331 億円)。 今の値に割り戻すと 1,875 円629 億円、今との差 +1.1%、 期待の年率 +6.6%(資本コスト 7.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 3,519 円1,181 億円 | 1,588 円533 億円 | +175.3% | +10.7% | 613 円206 億円 |
| やや楽観 | 23% | 3,163 円1,062 億円 | 1,260 円423 億円 | +138.5% | +9.1% | 1,017 円341 億円 |
| 中立 | 33% | 3,017 円1,013 億円 | 1,016 円341 億円 | +117.4% | +8.1% | 1,331 円447 億円 |
| やや悲観 | 22% | 1,188 円399 億円 | 673 円226 億円 | +0.4% | +0.0% | 410 円137 億円 |
| 悲観 | 10% | 1,188 円399 億円 | 209 円70 億円 | −24.7% | −2.8% | 140 円47 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,526 円848 億円 | 985 円331 億円 | +89.2% | +6.6% | 3,510 円1,178 億円 |
今の株価時価総額 1,855 円623 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 12% 資産が株主に戻り、本業も持ち直す 利益 45 億円 · PER 15.3 倍 · 株価時価総額 3,519 円1,181 億円
投資家の圧力と東証の求めが重なり、10年のうちに政策保有株の大半が売られる。売却代金と賃貸不動産の一部の売却益は、配当と自社株買いで株主に戻る。総還元は10年で純利益の合計の1.7倍に達し、資産の売却で払う分が大きい。
本業も上向く。老朽化した橋の更新、送電網の鉄塔、データセンターの鉄骨が重なり、鋼材の処理量は今より8%増える。受注を選ぶ姿勢が続き、鉄構の営業利益率は8%に乗る。豊洲の再開発は賃料の水準を引き上げ、賃貸の利益率は4割を超える。
途中で買収の提案が出れば、株主は資産に近い値段で現金化できる。この筋書きは、その場合の姿も含む。
- 鉄構建設:数量 6.7(鋼材の処理量(万トン。製作・架設した鋼構造物の重さ、実質、推定))× 価格 60(1トンあたり請負単価(万円・名目。鋼材代と架設費を含む))→ 売上 405 億円・営業利益 32 億円。処理量1.08倍、単価1.34倍、営業利益率8%
- 不動産賃貸・管理:数量 785(保有する賃貸等不動産の時価(億円。2025年3月期の鑑定時価、実質))× 価格 0.06(時価1億円あたりの年間収入(億円・名目))→ 売上 47 億円・営業利益 20 億円。時価の規模0.85倍、収入単価1.34倍、利益率42%
- 不動産販売:数量 11.7(売却した不動産の簿価(億円。実質、推定))× 価格 2.68(売値÷簿価(倍・名目))→ 売上 32 億円・営業利益 10 億円。簿価0.75倍、売値倍率1.34倍、利益率33%
倍率:事業の純利益 44 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.0% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.3 倍 + 余った現金(戻り方込み)59 億円。全体の PER 15.3 倍、時価総額 735 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:資産の解放と本業の持ち直しがそろう筋書きで、買収の提案が出る場合も含む。自社株買い2回と売却益の計上という実績はあるが、買収対応方針と安定株主が壁になるので1割強にとどめる。
やや楽観 23% 持ち合いの解消が進み、本業は横ばいを守る 利益 39 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 3,163 円1,062 億円
持ち合いの解消が着実に進み、還元が純利益を上回る年が続く。配当は純利益の4割に乗り、売却益は自社株買いに回る。豊洲の再開発は計画どおり進み、賃料の増加が負担を上回る。
鉄構は、鋼材の処理量を今の水準に保つ。橋の補修と鉄塔の長寿命化、データセンターの鉄骨が、新設橋の細りを埋める。営業利益率は7%で、前々期の水準にやや届かない。高付加価値の受注を選ぶ姿勢で利益を守る。
資産の整理は進むが、安定株主との関係で速度は遅い。10年後も資産の一部は残り、株価はその残りが支える。会社は東証プライム市場に上がる条件を整え、純資産の6割に及ぶ株の比率を下げる。ただ、鉄構の利益は大きく伸びない。
- 鉄構建設:数量 6.2(鋼材の処理量(万トン。製作・架設した鋼構造物の重さ、実質、推定))× 価格 60(1トンあたり請負単価(万円・名目。鋼材代と架設費を含む))→ 売上 375 億円・営業利益 26 億円。処理量1.0倍、単価1.34倍、営業利益率7%
- 不動産賃貸・管理:数量 785(保有する賃貸等不動産の時価(億円。2025年3月期の鑑定時価、実質))× 価格 0.06(時価1億円あたりの年間収入(億円・名目))→ 売上 47 億円・営業利益 19 億円。時価の規模0.85倍、利益率41%
- 不動産販売:数量 9.4(売却した不動産の簿価(億円。実質、推定))× 価格 2.68(売値÷簿価(倍・名目))→ 売上 25 億円・営業利益 8 億円。簿価0.6倍、利益率31%
倍率:事業の純利益 38 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.7% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)71 億円。全体の PER 12.9 倍、時価総額 556 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:持ち合いの解消が着実に進み、還元が純利益を上回る年が続く筋書き。会社の方針と投資家の圧力の向きがそろうので2割強を置く。
中立 33% 資産は少しずつ戻り、本業は物価の分だけ伸びる 利益 35 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 3,017 円1,013 億円
資産は戻るが、遅い。政策保有株は10年かけて半分ほど売られ、売却益と配当の一部が自社株買いに回る。買収対応方針は残り、株主との対話は進むが、決定的な改革は起きない。
鉄構は、鋼材の処理量が今より5%ほど減り、売上は物価の分だけ増える。営業利益率は6%台前半で、民間の鉄骨の競争と人手不足が重しになる。賃貸は一部の土地を手放して規模を縮め、賃料は物価並みに上がる。販売は波が小さくなり、利益は前期の半分以下に落ち着く。
10年後の純利益は、今期の予想より少し多い程度だ。資産の厚さが株価を支えるが、自己資本利益率は5%台で資本コストに届かない。
- 鉄構建設:数量 5.9(鋼材の処理量(万トン。製作・架設した鋼構造物の重さ、実質、推定))× 価格 60(1トンあたり請負単価(万円・名目。鋼材代と架設費を含む))→ 売上 356 億円・営業利益 22 億円。処理量0.95倍、単価1.34倍、営業利益率6.3%
- 不動産賃貸・管理:数量 785(保有する賃貸等不動産の時価(億円。2025年3月期の鑑定時価、実質))× 価格 0.06(時価1億円あたりの年間収入(億円・名目))→ 売上 47 億円・営業利益 19 億円。時価の規模0.85倍、利益率40%
- 不動産販売:数量 7.8(売却した不動産の簿価(億円。実質、推定))× 価格 2.68(売値÷簿価(倍・名目))→ 売上 21 億円・営業利益 6 億円。簿価0.5倍、利益率30%
倍率:事業の純利益 33 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 6.1% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)76 億円。全体の PER 12.9 倍、時価総額 507 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:議論の落としどころ。資産は戻るが遅く、本業は物価の分しか伸びない。確率は最も厚い3割強に置く。
やや悲観 22% 資産は眠ったまま、鉄構が縮む 利益 25 億円 · PBR 0.6 倍 · 株価時価総額 1,188 円399 億円
資産は眠ったままになる。安定株主が厚く、買収対応方針が残るため、自社株買いは小さな規模で止まる。豊洲の再開発に資金が回り、有価証券の売却は進まない。配当は維持するが、還元は純利益を少し上回る程度にとどまる。
鉄構は縮む。鋼橋の発注はさらに細り、建築鉄骨は元請けの値下げ要求が強まる。鋼材の処理量は今の85%、利益率は4%台半ばに落ちる。賃貸は再開発の工事中で空室が増え、利益率が下がる。販売はほとんど行われない。
それでも資産があるので赤字にはならない。稼ぐ力は低く、資産が時価総額を支えるだけの存在になる。
- 鉄構建設:数量 5.3(鋼材の処理量(万トン。製作・架設した鋼構造物の重さ、実質、推定))× 価格 59(1トンあたり請負単価(万円・名目。鋼材代と架設費を含む))→ 売上 309 億円・営業利益 14 億円。処理量0.85倍、単価1.30倍、営業利益率4.5%
- 不動産賃貸・管理:数量 830(保有する賃貸等不動産の時価(億円。2025年3月期の鑑定時価、実質))× 価格 0.06(時価1億円あたりの年間収入(億円・名目))→ 売上 48 億円・営業利益 17 億円。時価の規模0.9倍、収入単価1.30倍、利益率36%
- 不動産販売:数量 4.7(売却した不動産の簿価(億円。実質、推定))× 価格 2.50(売値÷簿価(倍・名目))→ 売上 12 億円・営業利益 3 億円。簿価0.3倍、売値倍率1.25倍、利益率25%
倍率:稼ぐ力だけなら事業の純利益24億円×PER8.5倍に余った資産を足しても約300億円にとどまり、悲観の床(約390億円)を下回る。床は「稼ぐ力」と「売れる資産の税後」の大きい方なので、この筋書きでも売れる資産を拠り所に、今の自己資本725億円にPBR0.55倍を掛けた約399億円に置いた。賃貸の含み益は余り資産として足さず、床の内訳(簿価の5割)にだけ使う。
確率:資産が動かず、鉄構が縮む筋書き。安定株主と買収対応方針は現にあり、鋼橋の細りも続いているので2割強を置く。
悲観 10% 鉄構が崩れ、資産の使い方も誤る 利益 12 億円 · PBR 0.6 倍 · 株価時価総額 1,188 円399 億円
鉄構が崩れ、資産の使い方も誤る。鋼橋の発注が一段と細り、受注を選びすぎて工場の稼働が落ちる。固定費が重く、鉄構はほとんど利益が出ない。鋼材の処理量は今の7割まで減る。
会社は事業の穴埋めを買収に求め、子会社の統合に失敗する。豊洲の再開発は義務づけられた投資で、想定を超える資金を食う。借入金が増え、配当は小さくなる。有価証券の相場が下がり、売却益も消える。
少数株主には何も戻らないまま、10年が過ぎる。売れる資産の下支えはあるが、安定株主と防衛策のもとで解放されない。株主提案は毎年否決され、投資家は離れていく。会社は資産の山の上で、小さな鉄構を営む姿に近づく。
- 鉄構建設:数量 4.4(鋼材の処理量(万トン。製作・架設した鋼構造物の重さ、実質、推定))× 価格 56(1トンあたり請負単価(万円・名目。鋼材代と架設費を含む))→ 売上 245 億円・営業利益 4 億円。処理量0.70倍、単価1.25倍、営業利益率1.5%
- 不動産賃貸・管理:数量 830(保有する賃貸等不動産の時価(億円。2025年3月期の鑑定時価、実質))× 価格 0.06(時価1億円あたりの年間収入(億円・名目))→ 売上 46 億円・営業利益 14 億円。時価の規模0.9倍、収入単価1.25倍、利益率30%
- 不動産販売:数量 2.4(売却した不動産の簿価(億円。実質、推定))× 価格 2.40(売値÷簿価(倍・名目))→ 売上 6 億円・営業利益 1 億円。簿価0.15倍、利益率15%
倍率:稼ぐ力は低く(事業の純利益は約11億円)、床は売れる資産の税後で測る。今の自己資本725億円に PBR 0.55倍を掛けた。安定株主と防衛策で資産が解放されず、再開発と買収に食われる局面なので、売れる資産の税後の約1.0倍まで届かない。減損で自己資本は620億円に減る。
確率:鉄構の縮小、再開発と買収への投資の失敗、資産が解放されない状態が重なる構造的な負け。自己資本比率が6割あり資産の下支えもあるので、全部が重なる確率は1割にとどめる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
鉄構建設
橋・鉄骨・鉄塔・大きな屋根などの鋼構造物を設計し、工場でつくり、現場で組み立てる。売上の8割。
| 数量鋼材の処理量(万トン。製作・架設した鋼構造物の重さ、実質、推定) | 価格1トンあたり請負単価(万円・名目。鋼材代と架設費を含む) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 6.2 | 45 | 279 | 19 |
| 10 年後 中立 | 5.9 | 60 | 356 | 22 |
取り方:鉄構建設の売上279億円・利益19.1億円(営業利益率6.8%。2026年3月期のセグメント開示)。処理量は開示がなく、橋は1トン50万円台、鉄骨は30万円台とみて平均45万円と置き、約6.2万トンと推定した。物価の分は単価に入れ、数量は実質。
不動産賃貸・管理
豊洲などの賃貸と、子会社の管理・賃貸事業。時価に対する利回りが低い。
| 数量保有する賃貸等不動産の時価(億円。2025年3月期の鑑定時価、実質) | 価格時価1億円あたりの年間収入(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 923 | 0.04 | 41 | 17 |
| 10 年後 中立 | 785 | 0.06 | 47 | 19 |
取り方:不動産の売上72億円のうち、単体の賃貸24億円と子会社の管理・賃貸約17億円を合わせて約41億円、利益は約17億円と推定(中計が2028年3月期の不動産全体を売上40億円・利益17億円と置くことと整合)。時価は有価証券報告書の鑑定額で923億円。
不動産販売
土地や建物の販売。年ごとの波が大きく、2026年3月期は大きく積み上がった。
| 数量売却した不動産の簿価(億円。実質、推定) | 価格売値÷簿価(倍・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 15.7 | 2.00 | 31 | 12 |
| 10 年後 中立 | 7.8 | 2.68 | 21 | 6 |
取り方:単体の販売売上は31億円。簿価の2倍で売れたとみて、簿価約15.7億円と推定した。利益は不動産全体の営業利益28.6億円から賃貸分を引いた約11.5億円。前期の山で、毎年は続かない。
リスクと懸念
資産が株主に戻らない
投資有価証券は純資産の6割、賃貸不動産は帳簿の2.6倍の鑑定時価がある。だが安定株主が厚く、買収対応方針も入った。資産が10年眠れば、資本コストの分だけ目減りする。この会社で最大の不確かさがここにある。
鉄構の受注が細り続ける
国内の鋼道路橋の受注は30年で7分の1になり、建築鉄骨の需要も400万トンを割った。会社は受注を選んで利益率を守るが、工場の稼働が落ちれば固定費が重い。技能者の不足も、施工できる量の天井になる。
豊洲の再開発という義務の投資
賃貸の敷地は、東京都から高度な利用を求められている。再開発には多額の資金と時間がかかり、工事中は賃料が落ちる。資金は利益の積み立てで賄う方針だが、計画はまだ公表されていない。
資本の使い方がぶれる
塗装工場に約50億円、子会社を買う第二弾に約30億円を見込む。稼ぐ力の低い会社が資産を積み増せば、株主への還元は後回しになる。借入金も、自社株買いと設備投資で増えた。
有価証券の相場に自己資本が振れる
純資産の6割が株式なので、相場が下がれば自己資本も配当収入も減る。逆に売却益は、毎年の純利益を大きく動かす。2026年3月期の純利益は前期比で58%減り、27年3月期の予想もその半分ほどだ。
株主との対立が長引く
ひびきは2026年5月にも提案を重ね、買収対応方針に強く反対する。対立が総会や訴訟に進めば、経営の力が割かれる。一方で、会社側が妥協して資産の解放が進む道もある。
今後の分かれ目
- 政策保有株の売却が計画を超えて進み、還元が純利益を上回る年が続く
- 強気側へ確率を寄せてよい。資産が戻る速さが値打ちを決める会社なので、最も効く材料になる。
- 買収対応方針が撤回され、株主提案への賛成が2割を超える
- 安定株主の壁が崩れた合図になる。強気側の筋書きに重みを移す。
- 鋼橋と建築鉄骨の発注が、会社の見通しを下回る年が続く
- 鉄構の営業利益率が6%を割る恐れが強まる。やや悲観の筋書きに重みを置く。
- 豊洲の再開発計画が公表され、必要資金が想定を大きく超える
- 自社株買いと配当の余力が削られる。資産が戻る速さの前提を見直す。
- 子会社の買収の第二弾が、資産の売却より先に実行される
- 稼ぐ力の低い事業に資産を積む動きとみて、慎重側へ寄せる。
- 時価総額に近い値段で買収やMBOの提案が出る
- 資産を現金化する最短の道になる。強気側の値段に近い水準が現実になる。
見ておくもの
- 政策保有株の売却額と自社株買いの規模、総還元の対純利益
- 買収対応方針の扱いと、定時株主総会での株主提案の賛成率
- 鉄構の営業利益率、受注残、鋼橋の国内受注量
- 豊洲の再開発計画の公表と必要資金
- 純有利子負債と自己資本比率、子会社の買収
倍率と資本コストの決め方
鉄構は処理量(実質)と単価(名目)、賃貸は鑑定時価と収入の比、販売は簿価と売値の比で積み、物価3%を単価に入れた。資産は持ち合い株の評価差額金(税後)を事業と分け、戻り方1.0とし(賃貸不動産の含み益は賃料が純利益に残るので足さず)、筋書きごとに還元額と残額を変えて表した。倍率は k 7.75% と事業の ROE から式で出し、今の株価や同業の倍率は見ていない。今の株価が倍でも半分でも、この数字は動かない。悲観の床は今の自己資本と売れる資産の税後に掛けた。賃貸は貸す側なので新リース会計の影響は小さく、営業利益は今と同じ形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.6→15.3 倍・やや楽観 PER 11.5→12.9 倍・中立 PER 11→12.9 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。