結論
クラフティアは、九州電力が筆頭株主の設備工事会社だ。電気工事に空調・管工事を加え、九州で培った施工力を首都圏と関西へ広げている。2025 年に社名を九電工から変えた。
筆者の結論は「やや割高」。2026 年 3 月期は営業利益が 3 割増え、営業利益率は 11.5% と過去最高になった。この利益率が 10 年続くとは見ていない。過去 10 年の平均は 8〜9% だ。山から平均へ戻る分を引くと、今の値段は少し先取りしすぎている。
強みは、配電工事で九州電力と長く組んできた技術と、純現金のある厚い財務だ。受注も首都圏の再開発、関西の統合型リゾート、データセンターで過去最高を更新した。弱みは、利益の大半を占める民間工事が景気と入札に左右されることだ。九州の人口減も向かい風になる。
成長の次の柱は、再エネなどに出資するストックビジネスと M&A に置かれている。中期計画は 5 年で約 2,000 億円を投じる。成果が出るかどうかが、10 年後の優良さを分ける。
配当と自社株買いを合わせた還元は 5 年で 800 億円超と、前の計画より厚い。財務の余力はあるが、純現金は多くない。成長投資を進めながら還元を厚くする両立が、うまくいくかを見ていきたい。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、これは良い会社だが、今の値段で買う会社ではない。事業は 10 年後も残る。配電工事という止められない仕事があり、九州電力系の受注が土台になる。人手不足の時代に、施工力のある会社は強い。
ただ、株主に残る利益を考えると、慎重になる。利益の大半は民間工事で、景気と入札に振れる。今の ROE 11.5% は、ここ 10 年で最高だ。平均へ戻ると見るのが自然だ。
資本の使い方は、まだ評価が定まらない。純現金はあるが、薄い。宇久島で大型案件を抱え、さらに 5 年で約 2,000 億円を成長投資に回す。成果が出れば価値は増えるが、買う側が高く払う危険もある。
安全域は、今の値段にはない。株価の PBR は、過去に 0.3 倍前後まで下がったことがある。谷の床を考えると、払える値段は今より低い。
この会社は、利益の山が引いてから評価し直したい。確信度は、やや低めに置く。
経営の資本配分には期待もある。還元の方針が明確になり、ストック事業への投資も小刻みに進めている。ただし結果が出るまで時間がかかり、成否は 5 年後に見えてくる。山の利益で成長投資を拡大していく時が、いちばん注意の要る時期だ。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの源は、建物と電力設備の工事を請け負うことだ。売上の大半は設備工事業で、ビルや工場の電気設備、空調・管設備、通信設備を手がける。残りは再エネの発電、不動産、機器販売などの小さな事業だ。
電力会社向けの配電工事は、会社の原点にあたる。九州電力送配電からの完成工事高は約 450 億円で、設備工事業の約 1 割にとどまる。九州電力は 2 割強を持つ筆頭株主だが、売上の大半は民間工事だ。
成長の舞台は九州の外にある。売上の 3 割超が関東や関西など九州の外で、首都圏の再開発や、関西の統合型リゾート、データセンターの工事を取っている。2026 年 3 月期の受注は 4,790 億円で、前期を 6% 上回った。
社名を変えた理由も、ここにある。電気工事の九州の会社という呼び名が、実態に合わなくなった。
宇久島の大型メガソーラーは、京セラなどと事業会社に出資し、施工も担う。事業全体で約 2,000 億円規模の案件だが、進みは全体の 3 分の 1 ほどで、完成は当初の 2023 年度から 2026 年度へずれている。
配電工事は、停電を起こさずに行う無停電工法や活線工法など、電力会社の現場で磨いた施工技術が核になる。この技術が、データセンターや半導体工場のような止められない設備の電気工事にも生きる。民間工事で選ばれる理由の 1 つがここにある。
優良さと弱いところ
堀は、規模と技術と顧客の信頼だ。配電工事の施工技術は他社がまねしにくく、九州電力系の安定した受注が谷の深さを浅くする。九州で築いた施工力を首都圏へ持ち出せている点は、同じ電力系の中でも関電工・きんでんに近い動きだ。
財務は厚い。自己資本比率は 66.4% で、借金より現金が多い。ただし純現金は時価総額の 5% 弱で、余った現金として切り分けるほどではない。
資本効率は高めだ。ROE は 11.5% で、資本コストを上回る。ただし 2026 年 3 月期は価格転嫁と採算の改善が重なった山で、ここ 5 年の ROE は 9〜11% の間を動いてきた。
弱みは 3 つある。第一に、民間工事は入札や相見積りで決まり、完全な価格決定力ではない。第二に、宇久島の工事の遅れが示すように、大型案件では工程と採算の管理に課題がある。第三に、首都圏で取り合う相手が、きんでん・関電工など強い。
筆者が重く見るのは、利益率の山の高さだ。2012 年 3 月期には営業利益率が 1% 未満まで落ちた年がある。
九州電力が筆頭株主として残ることは、安定と同時に制約でもある。系列から受ける工事の単価は交渉で決まり、自由に値上げできるわけではない。それでも、民間の景気が悪い年に配電工事が残ることは、谷の深さを浅くする。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
電力系の電気工事は、再エネの系統接続、データセンター、半導体工場、EV 充電器の設置が新しい需要を足している。国内の電気工事の受注は 2023 年度で約 3.4 兆円、2025 年 9 月の単月は前年同月を 13.6% 上回った。
人手の制約が最大の論点だ。2024 年問題で残業に上限がつき、技能者の高齢化も進む。仕事はあっても手が足りず、各社は取る仕事を選び、単価を上げている。クラフティアの利益率が上がったのも、この流れに乗ったからだ。
同じ電力系の電気工事では、きんでん・関電工・中電工・トーエネック・ユアテック・四電工と競う。きんでんと関電工が、首都圏で最も強い相手だ。民間工事では、総合電気工事会社やサブコンとも取り合う。
循環の位置は、山の上にいる。データセンターと再開発の需要が高まっているが、これが 10 年続く保証はない。
10 年先まで残るのは、配電網の老朽化更新と再エネの系統接続という、止められない仕事だ。九州では人口が減り、新設の民間工事は実質で伸びにくい。そこを首都圏の取り込みで埋められるかが分かれ目になる。
九州に限れば、半導体工場の進出と福岡の再開発が、足元の追い風になっている。ただ、これは他の地域より先に需要が先行した結果で、近い年に新設が一巡する可能性もある。再エネの系統接続や配電網の更新は、この先も続く止められない仕事で、会社の収益の土台になる。
資本政策と M&A
還元は強まっている。中期計画は、配当性向 40% を目安に、減らさない累進配当を掲げる。5 年で配当と自社株買いを合わせ 800 億円超を出す計画だ。2026 年 3 月期は配当を前期から大きく引き上げた。
投資は積極的だ。5 年で約 2,000 億円を使う。内訳は、ストックビジネスに約 800 億円、成長投資と M&A に約 800 億円、設備更新と DX が残りだ。2025 年秋には最大 50 億円のベンチャー投資の枠を作り、2026 年 7 月には国内企業向けの投資ファンドへの出資も決めた。
M&A の実績は小さい。シンガポールの会社への出資、エルゴテック、中央理化工業などで、大型の買収はない。
筆者が気にするのは、買う値段だ。本業が山にある時の買収は、高くつきやすい。
政策保有株は縮減する方針だが、数値の目標は確認できなかった。九州電力が 22.55% を持つため、同社が売らない限り、買収の対象になる可能性は低いとみる。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
九州の電力工事会社という枠を、すでに超えている。売上の 3 割超が九州の外で、首都圏の再開発、関西の統合型リゾート、データセンターの電気・空調管工事で受注が過去最高になった。受注は 4,790 億円で、売上を上回る。この受注残が、数年先の売上を支える。
人手不足は、施工力の大きな会社に有利に働く。仕事を選び、単価を上げられる。2026 年 3 月期の営業利益率 11.5% は、一時的な山ではなく、新しい水準だ。
中期計画の 600 億円の経常利益は、現実的な目標だ。5 年で約 2,000 億円を使い、ストックビジネスと M&A で、工事の売上に頼らない収益を作る。非電力の売上は 3 割を超える。九州電力という安定株主もいる。
財務は厚い。自己資本比率は 66.4% で、借金より現金が多い。総還元の 800 億円超という方針で、資本効率も上がる。宇久島の遅れも、完成すれば運営収益に変わる。
これだけ揃った会社が、PER 13.5 倍で買えるなら、安い。
慎重な見方
今の利益は、山の頂上だ。営業利益は 1 年で 3 割増え、営業利益率は 11.5% と過去最高になったが、過去 10 年の平均は 8〜9% だ。価格転嫁と採算の改善が重なった結果で、続くかは分からない。会社の予想も、2027 年 3 月期は営業利益 555 億円と、ほぼ横ばいだ。
民間工事は、入札と相見積りだ。データセンターと再開発の波が引けば、数量が減り、値引きが戻る。九州の人口減も続く。
首都圏には、きんでん・関電工という強い相手がいる。後から来た会社が、採算の良い仕事を取れる保証はない。
宇久島は、2023 年度完成の予定が 2026 年度にずれ、進みは 3 分の 1 だ。大型案件の管理に課題がある。
成長投資は、約 2,000 億円と大きい。山にいる時の M&A は高くつく。出資したストック事業の評価損も出うる。
PER 13.5 倍・PBR 1.55 倍は、過去の PBR の中央値 0.67 倍と比べて高い。山の利益に、高い倍率が掛かっている。
どちらに重みを置いたか
強い方は、慎重な見方とした。今の利益率が山にあるという指摘は、過去 10 年の平均との差で裏づけられる。受注の厚さと財務の強さは本物だが、それは利益率の山を支えるもので、山を高くするものではない。
10 年は受注残の厚さで足元は支えられるが先の利益は守らないので、やや楽観を 24%、中立を 32% とし、悲観側を 3 割に置いた。10 年は国内の民間需要の成熟を重く見て、中立 32%、やや悲観 22%、悲観 10% とした。
その結果、確率で重みを付けた本質価値は、今の時価総額をやや下回る。「やや割高」に近い水準になる。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 11,251 円7,959 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 3,765 円2,664 億円)。 今の値に割り戻すと 8,241 円5,830 億円、今との差 +9.0%、 期待の年率 +7.1%(資本コスト 7.2%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 12% | 18,951 円1.34 兆円 | 4,719 円3,338 億円 | +213.2% | +12.1% | 2,840 円2,009 億円 |
| やや楽観 | 24% | 15,177 円1.07 兆円 | 4,235 円2,996 億円 | +156.8% | +9.9% | 4,659 円3,296 億円 |
| 中立 | 32% | 11,815 円8,358 億円 | 3,791 円2,682 億円 | +106.5% | +7.5% | 4,994 円3,533 億円 |
| やや悲観 | 22% | 5,520 円3,905 億円 | 3,249 円2,298 億円 | +16.0% | +1.5% | 1,929 円1,365 億円 |
| 悲観 | 10% | 3,392 円2,399 億円 | 2,547 円1,802 億円 | −21.4% | −2.4% | 594 円420 億円 |
| 加重平均 | 100% | 11,251 円7,959 億円 | 3,765 円2,664 億円 | +98.7% | +7.1% | 15,017 円1.06 兆円 |
今の株価時価総額 7,558 円5,346 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 12% 楽観:非電力のストック事業と首都圏で、規模も利益率も一段上がる 利益 751 億円 · PER 17.9 倍 · 株価時価総額 18,951 円1.34 兆円
中期計画の 5 年で投じる約 2,000 億円が実を結ぶ。ストックビジネスと M&A が育ち、非電力の売上は 3 割を超える。首都圏と関西で、データセンターや再開発の電気・空調管工事を複数回の波で取り込み、九州外が売上の半分に近づく。人手不足は施工の省人化で部分的にしのぎ、価格決定力が増す。宇久島の工事は完成し、再エネの運営収益が積み上がる。九州電力系の配電更新も安定し、利益率は過去最高に近い水準を保つ。この筋書きは、会社が自分で描いた中期計画を、10 年かけて上回る姿だ。実現すれば、九州の電力工事会社から全国の総合設備会社へと、会社の評価が切り替わる。ただし条件が多く、どれか 1 つでも欠ければ、やや楽観の姿に近づく。
- 配電・電力インフラ工事:数量 2,500(技術者・技能者数(人、推定))× 価格 48(1 人当たり完成工事高(百万円))→ 売上 1,193 億円・営業利益 131 億円。配電網の更新と再エネ接続が柱に育つ
- 民間設備工事(電気・空調管・その他):数量 7,100(技術者・技能者数(人、推定))× 価格 93(1 人当たり完成工事高(百万円))→ 売上 6,631 億円・営業利益 849 億円。ストック・M&A・首都圏が重なり規模と利益率が上がる
倍率:事業の純利益 751 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.7% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.0%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.9 倍。全体の PER 17.85 倍、時価総額 13,405 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:データセンター・再エネ・ストックへの出資が実を結ぶ組み合わせ。条件は多く、実現すれば優良さは大きく上がるので、1 割強に置いた。
やや楽観 24% やや楽観:首都圏の拡大と配電更新が九州の人口減を補う 利益 633 億円 · PER 17.0 倍 · 株価時価総額 15,177 円1.07 兆円
九州の人口減は続くが、半導体と再エネの投資が九州に残り、福岡の再開発も続く。首都圏の民間工事が全体を押し上げ、九州外の売上は 4 割に近づく。配電網の老朽化更新と再エネの系統接続が安定した需要の柱になり、九州電力系の工事は物価並みの単価で増える。ストックビジネスは小さな利益を積み、M&A も 1〜2 件の小ぶりな買収にとどまる。利益率は過去平均より高い水準を保つ。M&A と出資が小ぶりでも、首都圏の取り込みと配電更新だけで、利益は物価の伸びを上回って増える。九州の人口減は重荷だが、福岡の再開発という足元の需要が当面は埋める。優良さは今の水準が保たれる姿だ。
- 配電・電力インフラ工事:数量 2,400(技術者・技能者数(人、推定))× 価格 47(1 人当たり完成工事高(百万円))→ 売上 1,123 億円・営業利益 115 億円。配電更新が安定した柱に
- 民間設備工事(電気・空調管・その他):数量 6,750(技術者・技能者数(人、推定))× 価格 91(1 人当たり完成工事高(百万円))→ 売上 6,109 億円・営業利益 721 億円。首都圏の拡大が九州の人口減を補う
倍率:事業の純利益 633 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.2% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.0 倍。全体の PER 16.96 倍、時価総額 10,736 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:配電網の更新需要と首都圏の民間工事は実現性が高い。ストックの成果は半分程度と見て、やや楽観に置いた。
中立 32% 中立:民間需要の一巡と配電更新が相殺し、売上は物価並みに伸びる 利益 525 億円 · PER 15.9 倍 · 株価時価総額 11,815 円8,358 億円
国内の民間新設工事は、人口減と世帯数減でデータセンターの波が引いたあとは実質で伸びにくい。その分を、配電網の更新、再エネの系統接続、首都圏の取り込みが埋める。売上は年 3% ほどの伸びで、物価に少し届かない程度にとどまる。民間工事の単価は入札の競争で物価の伸びをわずかに下回る。利益率は 10% 台前半に戻り、過去平均より高い水準を保つ。九州電力が 2 割強の株主として残り、配電の受注は安定する。売上は物価をわずかに下回るペースで伸び、会社の計画する約 6,000 億円には届かないが、利益率の高さは残る。配電工事は止められない仕事として下支えになる。新しい稼ぎの柱は育ちきらず、本業の工事で稼ぐ姿が続く 10 年になる。
- 配電・電力インフラ工事:数量 2,300(技術者・技能者数(人、推定))× 価格 46(1 人当たり完成工事高(百万円))→ 売上 1,051 億円・営業利益 100 億円。配電更新と再エネ接続が緩やかに増える
- 民間設備工事(電気・空調管・その他):数量 6,400(技術者・技能者数(人、推定))× 価格 87(1 人当たり完成工事高(百万円))→ 売上 5,594 億円・営業利益 615 億円。民間は数量が横ばい、単価は物価をわずかに下回る
倍率:事業の純利益 525 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.7% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.5%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.9 倍。全体の PER 15.92 倍、時価総額 8,358 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:数量は人口減で伸びず、価格は物価並みに上がる、業種ノートの中立どおりの筋書き。最も重みを置く。
やや悲観 22% やや悲観:民間需要の縮小が配電更新を上回り、利益率が平均以下に戻る 利益 366 億円 · PER 9.7 倍 · 株価時価総額 5,520 円3,905 億円
国内の人口減と投資の海外シフトで、民間の電気・空調管工事の数量が細る。きんでん・関電工と首都圏で取り合い、単価が伸びない。人手不足で受注を絞らざるを得ず、成長投資の M&A も思うように進まない。宇久島や再エネ出資の採算も計画に届かない。九州電力系の配電工事は残るが、全体の利益を支えるほどには増えず、利益率は 8% 台に下がって優良さの評価がゆっくり下がる 10 年になる。この筋書きでは、人手の制約が受注の制約に変わる。採用と育成の費用が重くなり、利益率が下がる。ストックビジネスや M&A も成果が薄く、投資した約 2,000 億円の見返りが資本コストに届かない。会社は還元を厚くして株主へ返す方向に傾く。
- 配電・電力インフラ工事:数量 2,150(技術者・技能者数(人、推定))× 価格 44(1 人当たり完成工事高(百万円))→ 売上 946 億円・営業利益 83 億円。配電は物価並み、数量は横ばい
- 民間設備工事(電気・空調管・その他):数量 5,600(技術者・技能者数(人、推定))× 価格 82(1 人当たり完成工事高(百万円))→ 売上 4,592 億円・営業利益 427 億円。民間は数量が減り、単価も伸びない
倍率:ROE 7.31%(純利益 366 億円 ÷ 自己資本 5,009 億円)。事業の ROE が資本コスト k 7.25% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER は 1÷k = 12.1 倍。事業の ROE が k を下回り、伸びても価値が増えないので、上限の 8 割 の 9.7 倍に置いた。
確率:人口減が速く、国内立地の工場やデータセンターが海外へ流れる可能性を、2 割強で織り込んだ。
悲観 10% 悲観:国内の需要が構造的に細り、成長投資も裏目に出る 利益 115 億円 · PBR 0.7 倍 · 株価時価総額 3,392 円2,399 億円
国内の民間設備投資が長く縮み、民間の電気・空調管工事の数量が 3 割落ちる。値引き競争が続き、人手不足で受注を絞る一方、賃金は上がり続けて利益が消える。宇久島の大型工事と、ストック事業・M&A に投じた約 1,000 億円は回収できず、減損が出る。九州電力系の配電保守は残るが、系列の投資抑制で新規の更新工事は先送りされる。配当を維持するため、純現金と政策保有株の売却を取り崩す 10 年になる。この筋書きでは、成長投資の失敗が、本業の劣化と同時に表に出る。九州電力が株主として残っても、系列の発注は電力会社の投資抑制で細る。会社としては、もう優良とは言えない水準に落ちる。
- 配電・電力インフラ工事:数量 1,900(技術者・技能者数(人、推定))× 価格 40(1 人当たり完成工事高(百万円))→ 売上 760 億円・営業利益 46 億円。新規の更新工事は先送り
- 民間設備工事(電気・空調管・その他):数量 4,300(技術者・技能者数(人、推定))× 価格 70(1 人当たり完成工事高(百万円))→ 売上 3,010 億円・営業利益 135 億円。民間が構造的に縮み、減損と値引きで採算が崩れる
倍率:構造的に採算が崩れ、減損も出た姿。純利益は 115 億円で稼ぐ力は 1,400 億円ほどにしかならず、床は売れる資産で測る。総資産 5,230 億円を強制売却で 8 割しか回収できず、負債 1,760 億円は全額払うとして残る約 2,400 億円(純現金・政策保有株・九州電力系の保守の残りを含む)を、今の自己資本 3477 億円に対する PBR 0.69 倍(時価総額 2399 億円)に置いた。
確率:人口減・技能者不足・成長投資の失敗が重なり、もう優良ではなくなる構造的な負けを想定。確率は 1 割とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
配電・電力インフラ工事
九州電力送配電からの配電線工事、送電・変電の工事、再エネの系統接続など、電力会社向けの設備工事。
| 数量技術者・技能者数(人、推定) | 価格1 人当たり完成工事高(百万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2,200 | 34 | 750 | 67 |
| 10 年後 中立 | 2,300 | 46 | 1,051 | 100 |
取り方:九州電力送配電向けの完成工事高約 456 億円に、送電・再エネ接続・九州電力グループ向けの工事を加え、約 750 億円と推定した。技術者数は従業員数が確認できなかったため推定(2,200 人)で、1 人当たり完成工事高は売上を人数で割った逆算。数量(人数)は実質、価格は物価並みに上がるのが基本。
民間設備工事(電気・空調管・その他)
ビル・工場・データセンター・再開発の電気設備、空調・管設備、通信設備の工事と、再エネ発電などのその他事業。
| 数量技術者・技能者数(人、推定) | 価格1 人当たり完成工事高(百万円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 6,100 | 66 | 4,011 | 479 |
| 10 年後 中立 | 6,400 | 87 | 5,594 | 615 |
取り方:全社の売上 4,761 億円から配電・電力インフラ工事を除いた残りで、その他事業 186 億円を含む。技術者数は推定(6,100 人)で、1 人当たり完成工事高は逆算。営業利益は全社 546 億円から配電の分を引いた残り。数量(人数)は実質、価格は物価並みに上がるのが基本。
リスクと懸念
利益率の山からの反動
2026 年 3 月期の営業利益率 11.5% は、価格転嫁と採算の改善が重なった過去最高の水準だ。過去 10 年の平均は 8〜9% で、人件費と協力会社への支払いが先に上がれば、利益率は平均へ戻る。会社自身も 2027 年 3 月期の営業利益をほぼ横ばいと見込む。
民間設備投資の一巡と国内の人口減
利益の大半は民間の電気・空調管工事で、データセンターや再開発の発注が一巡すれば数量が落ちる。九州では人口減が続き、新設需要は実質で伸びにくい。首都圏の取り込みが遅れると、売上の下支えが弱くなる。新設の需要が細るなか、首都圏の取り込みで補う戦略は競争が激しい。補えなければ、売上の大半を占める民間工事の数量が落ち、全社の利益を直撃する。
宇久島の大型メガソーラー
京セラなどと出資し施工も担う、事業費約 2,000 億円規模の案件だ。完成は 2023 年度の予定から 2026 年度へずれ、進みは 3 分の 1 ほどにとどまる。追加の費用や出資の評価損が出れば、利益と信用に響く。
成長投資と M&A の失敗
5 年で約 2,000 億円を投じる計画で、ストックビジネスに約 800 億円、成長投資と M&A に約 800 億円を充てる。本業が山にある時の買収は高くつきやすい。買った会社の統合や、出資した事業の採算が計画に届かない危険がある。
首都圏での受注競争
首都圏では、きんでん・関電工など強い相手と取り合う。後発の会社は、採算を落として受注する案件が増えやすい。技能者の確保競争が強まれば、採用と育成の費用も重くなる。首都圏の民間工事では、きんでん・関電工をはじめ総合設備会社との競争が続く。後発の会社は、採算を落として受注する案件が増えやすい。
九州電力への依存と投資計画
九州電力は 22.55% を持つ筆頭株主で、送配電からの完成工事高は約 450 億円ある。同社が設備投資を抑えれば、安定した下支えが細る。持株の売却が出れば、株価にも影響する。同社が設備投資を抑えれば、安定した下支えが細り、持株の売却が出れば株価にも影響する。
入札・相見積りによる採算の振れ
電気・空調管工事の受注は、デベロッパーや官公庁の入札と相見積りで決まる。人手不足の下でも、単価の上昇が止まる局面がありうる。過去には営業利益率が 1% 未満まで落ちた年もある。電気・空調管工事の受注は入札と相見積りで決まり、人手不足の下でも単価の上昇が止まる局面がありうる。過去には営業利益率が 1% 未満まで落ちた年もある。
今後の分かれ目
- 2027 年 3 月期の営業利益率が 11% 台を保ち、受注残も増え続けたら
- 利益率の山が新しい水準になりつつある証拠。やや楽観・楽観側の確率を上げてよい。
- 受注高が前年を下回り、営業利益率が 10% を割ったら
- 山からの反動が始まった証拠。やや悲観側に重みを移す。
- ストックビジネスや M&A で、投資額に見合う利益が出始めたら
- 成長投資が成功している証拠。楽観側の確率を上げてよい。
- 宇久島の工事で追加の費用や出資の減損が出たら
- 大型案件の管理に課題がある証拠。やや悲観側に重みを移す。
- 首都圏で大型のデータセンター案件を複数取ったら
- 首都圏の取り込みが進んでいる証拠。民間工事の数量の見通しを上げてよい。
- 九州電力が持株を売る、または送配電の設備投資を抑えると発表したら
- 系列の下支えが弱まる。やや悲観側に重みを移す。
見ておくもの
- 受注高と繰越工事高、営業利益率(四半期)
- ストックビジネス・M&A への投資額と収益
- 宇久島の完成時期と追加費用
- 首都圏・関西での大型案件の受注
- 九州電力の持株比率と送配電の設備投資計画
倍率と資本コストの決め方
事業を配電・電力インフラと民間設備の 2 つに分け、技術者数(推定)と 1 人当たり完成工事高で積んだ。従業員数や区分別の売上は確認できなかったので、人数と区分は推定だ。倍率は利益の質(RONIC と g 4% 以内)から出した上限の 9 割台半ばに置き、今の PER 13.5 倍に寄せていない。中立の ROE が k を上回るため、中立 PER は 1÷k=12.1 倍を下回らせなかった。k は 7.25%(基本 7.5% + quality 0.75%)で、同じ領域のきんでん・関電工より高く、規模の小ささと民間工事の入札依存の差を循環・値決め力の quality で表した。悲観は谷の利益でなく総資産 8 割回収・負債全額払いで残る売れる資産(約 2,400 億円)で測り、谷の PBR は使っていない。純現金は 253 億円で時価総額の 4.7%(1 割未満)なので、余った現金として分けなかった。借金は小さく、利払いの変化(10 年 +5 億円)は純利益にわずかに入れた。2028/03 期から新リース会計基準で数字の形が変わるが、10 年後は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)で置いた。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 0.75% = 8.25%。理由は quality_why。個別のリスク(不祥事・M&A の実行など)は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 7.25%。