結論
テクノ菱和は、工場やビルの空調とクリーンルームを設計し、施工する設備工事会社だ。売上は約 1,000 億円。製薬・食品・電子部品の工場に強い。筆者の結論は、今の値段は割高というものだ。会社の力は本物だが、今の利益率は高すぎる。
2026 年 3 月期の営業利益率は 16.0% だった。5 年前は 3% で、過去 20 年の中心も 5% 前後にすぎない。2 年で純利益が 2.6 倍になった会社を、そのままの形で 10 年先まで伸ばすことはできない。
稼ぎの源は単純だ。顧客の工場が建つか、設備を入れ替えるたびに工事を受ける。国内の工事量は人手不足で頭打ちになる。それでも、物価の上昇分は工事の値段に乗る。数量は横ばいから微増、値段は物価並みという地味な成長を、筆者は中心に見る。
利益率は 10 年で 9% 台まで戻ると筆者は見る。それでも過去 20 年の中心の約 2 倍で、今より楽な見立てではない。今の高さは、選別受注と施工の効率化が効いた分と、好況で値段が取れた分の合計だ。後者は競争が戻れば削られる。
財務は極めて堅い。借金を引いても 180 億円ほどの現金があり、自己資本比率は 66% ある。傾く心配はない。気になるのは使い方だ。配当は純利益の 3 割前後で、稼いだ現金の多くは社内に残っている。
安全域で言えば、強気の見方に分があるのは、受注残と選別受注が当面の利益を守る点だ。慎重な見方に分があるのは、10 年先の利益率である。後者が強いと筆者は見る。事業は壊れないが、今の値段が払う価値は、10 年先の中心の姿を下回る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点で最初に問うのは、10 年後もこの利益が残るかだ。この会社の利益の大半は、この 2 年で積み上がった分に見える。営業利益率は 5% から 16% へ跳ねた。半分は選別受注と施工の効率化で残り、半分は好況で取れた値段で、競争が戻れば削られる。
次に、株主が自由に使える利益を見る。工事会社は大きな設備投資がいらない。利益のほとんどを株主へ戻せる事業だ。それなのに、実際の還元は 3 割前後にとどまる。残りは社内の現金と運転資金になった。使い道が見えない現金は、時間とともに ROE を下げる重しになる。
経営は堅実だが、資本の使い方は評価が割れる。大きな買収で失敗していない点はよい。一方で、配当と自社株買いの方針が曖昧で、現金の使い道を株主に示していない。
堀は、産業空調の実績という狭いものだ。幅の広い堀ではない。10 年先に今の高い利益率を保つには足りないと筆者は見る。
安全域の面では、今の値段は 10 年先の中心の姿を上回る。ただ、会社は危うくない。自己資本は厚く、現金は積み上がっている。悪い年でも、持ち続けて傷む会社ではない。
本質価値は、工事の量が横ばいから微増、値段が物価並み、利益率が 9〜10% へ戻るという中心の見立てで決まる。その見立てでは、本質価値は今の時価総額を下回る。ただし割高の幅の一部は、積み上がる現金が埋める。
何で稼ぐ会社か
収益の柱は空調設備工事だ。オフィス・病院・官公庁などの一般空調と、製薬・食品・半導体・電子部品の工場向けの産業空調に分かれる。後者は、温度・湿度・空気の清浄度を細かく管理するクリーンルームが中心で、設計の難しさが高い。値段も取りやすい。
顧客は 2 通りある。1 つは建物を建てるゼネコンで、下請けとして空調を請け負う。もう 1 つは工場を持つメーカーで、直接受注する案件もある。産業空調は、顧客の投資計画の 1 年ほど前から設計が始まる。投資の話を早くつかむ営業力が、そのまま受注の差になる。
工事の売上は、受注してから完成まで 1〜2 年かかる。だから受注高が先行指標になる。2025 年 3 月期は、産業設備の受注が 661 億円(前の年の 1.3 倍弱)に伸びた。半導体関連や食品、電子部品の大型工事が効いた。2026 年 3 月期の前半は、その反動で受注が減った。
設計から施工管理、保守まで自社で一貫して手がける。納めたあとの保守は、既存の顧客に続けて営業できる。景気の波を和らげる、数少ない安定した収入だ。
海外はインドネシアが中心で、売上に占める割合は小さい。日系企業の工場が主な顧客だ。開示が粗いので、売上は 50 億円規模と推定する。会社は足場固めの段階と位置づけている。
工場や店舗を持たず、稼ぎは人と技術から出る。大きな設備投資がいらないので、利益の多くは現金として残る。この構造は強みだが、使い道を決める経営の力が問われる。
優良さと弱いところ
この会社の堀、つまり他社がまねできない強みは、産業空調の実績と、設計から保守まで通しで引き受ける体制だ。製薬や食品の工場は、空気の清浄度が品質に直結する。発注者は安さだけでは選ばず、失敗しない相手を選ぶ。実績のある会社に案件が集まりやすい。
ただ、堀は広くない。売上は最大手の高砂熱学工業の 4 分の 1 ほどで、大型の半導体案件やデータセンターでは先頭を走る相手に及ばない。ゼネコンの下請けでは、値段は入札と相見積りで決まる。値決めを自分でできる会社ではない。
資本の効率は、いま高い。ROE は 2 年で 9% から 17.8% へ上がった。だが主因は利益率の跳ねで、事業の構造が変わった証拠とは言いきれない。過去 10 年の中央値は 8% にとどまる。
経営の姿勢は堅実だ。大型の買収で価値を壊した記録は見当たらない。政策保有株は減らす方針で、純資産に占める割合を 2026 年度に 20% 未満、2032 年度に 10% 未満にする目標を掲げる。
弱いのは資本の使い方だ。ROE の目標は 15% 以上に引き上げた。しかし配当は純利益の 3 割前後で、自己資本は 2 年で 3 割増えた。この水準の ROE を保つには、利益率を保つか、現金を戻すか、どちらかが要る。
会社の規模が小さい点も、筆者は割り引く。大型案件が 1 件赤字になると、年間の利益が数割動く。工事会社に共通の宿命だが、中堅ほど響く。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の空調工事は、人口で需要が伸びない成熟市場だ。市場の規模はおおむね 5,000 億円。伸びるとしても年に数 % で、そのうち物価の分が大きい。工事の量そのものは、技能者の数が上限を決める。
ただ、需要の中身は変わっている。1 つは産業用だ。半導体や電池、製薬の工場は、空調の量も難度も大きい。熊本や北海道の大型投資が、ここ数年の受注を支えた。データセンターは空調の量が桁違いに大きい。ただ、テクノ菱和は中期計画でこれを柱に据えていない。
もう 1 つは更新と省エネだ。1990 年代までに建ったビルの空調は入れ替えの時期に入った。電気代を下げる改修は、顧客が投資を回収しやすく、景気の波が小さい。
競争の形は、大手 8 社の準寡占だ。高砂熱学工業・大気社・新日本空調・ダイダン・三機工業・日比谷総合設備・日本電技が並ぶ。高度な工事ほど上位に集まるが、テクノ菱和の得意なクリーンルームは、専業に近い強みがある。
循環のどこにいるか。2009 年や 2012 年に、各社とも利益が薄くなる谷があった。今は民間の設備投資と工場の大型案件の山にいる。受注が先行して積み上がっており、売上と利益は当面守られる。
ただ、山が過ぎれば元請けのゼネコンも価格を締めにくる。人件費が物価以上に上がる中で、値段が物価に追いつくかが、10 年の利益率を決める。工場の投資が海外へ移る場合の影響は、国内に拠点を集中させている中堅ほど大きい。
資本政策と M&A
資本政策の中心は、中期計画と長期ビジョン「TECHNO RYOWA 2032」だ。最終年度の目標は、売上 1,000 億円・経常利益 165 億円・ROE 15% 以上。当初の 60 億円から、段階的に 3 倍近くまで引き上げた。2032 年度は経常利益 174 億円を掲げる。
還元は「最重要課題」と位置づけ、1 株あたり配当は前の年を下回らない方針だ。2026 年 3 月期の配当は前の年の 1.7 倍に引き上げた。それでも純利益に対する割合は 3 割前後で、過去 5 年も多くは 3 割台だった。自社株買いは、機動的に使うにとどまる。
政策保有株は減らす。2032 年度までに 50 億円の削減を計画する。売却した資金は成長や還元に回る。M&A は、景気後退に備えて探る姿勢で、大型の買収は見当たらない。
筆者は、利益が急に増えたこの 2 年で、自己資本が 663 億円まで厚くなった点を重く見る。利益率が戻る時、この資本は ROE を押し下げる。還元を 5 割まで上げて ROE 15% を守るのか、現金を抱えたまま ROE を落とすのか。会社の次の一手が、株主のものになる利益を決める。
kabufu の推計では、10 年以内の TOB・買収の確率は 17% ほどだ。時価総額が小さく、自己資本が厚い会社は、買い手から見て割安に映る場面がある。ただ、材料は見当たらないので、確率には織り込まない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
今の利益は、一時の追い風だけで上がったものではない。会社は受注の時点で採算の合う案件を選び、施工の効率を上げた。この改善は、市況が冷えても残る。
受注の中身が変わった。製薬・食品・電子部品の工場は、空調の難度が高く、実績のある会社に案件が集まる。老朽化したビルの空調の入れ替えと、電気代を下げる改修は、新築の波とは別に続く。人手不足の時代に、技術者と協力会社を集められる会社は、受注で有利になる。
財務は極めて堅い。実質的に無借金で、自己資本比率は 66% ある。利益率が下がっても、会社は傷まない。会社は経常利益の目標を、60 億円から 165 億円へ段階的に引き上げた。目標を上げるたびに実績が超えてきた。計画の作り方が保守的だった証拠だ。
還元も変わる。ROE 15% 以上を目標に掲げた以上、自己資本が厚いままでは達成できない。配当と自社株買いが増える方向は、会社自身が示している。
政策保有株を減らして得る資金も、還元に回る。利益率が 11〜12% で落ち着くなら、10 年先も ROE は 15% 前後を保てる。この見方では、今の利益は構造の変化として残る。
慎重な見方
営業利益率が 16% というのは、過去 20 年の中心である 5% 前後の 3 倍だ。どんなに実力のある工事会社でも、この水準が 10 年続いた例は見当たらない。同業の大手も、過去は 5〜7% 前後が普通だった。
好況の間、工事会社は元請けのゼネコンに値上げを通せる。しかし、景気が冷えれば立場は逆転する。2009 年の谷では、同業は軒並み利益が薄くなった。この会社も 2012 年 3 月期には赤字を出した。
産業空調の受注は、顧客の投資計画に左右される。半導体や電池の投資は、世界の設備投資の波で止まる。2026 年 3 月期の前半に、受注が前年を割った。大型案件が 1 件抜けただけで、売上は数十億円動く。会社の規模は小さい。
稼いだ現金を社内に抱える姿勢も気になる。還元が 3 割前後では、ROE は利益率が下がると一気に落ちる。中計の目標を上げ続けた事実は、前の計画が低すぎたことを示すだけだ。上げた目標も、達成の保証はない。
人手不足は賃金を物価以上に押し上げる。受注を増やすには人が要る。しかし採用と協力会社の確保には時間がかかる。受注残を消化しきれず、売上が伸びない年が来る。
どちらに重みを置いたか
会社の実力と財務の堅さは強気の見方が正しい。ただ、10 年先の利益率は慎重な見方が勝つ。筆者は、利益率が 16% から 9% 台へ戻る姿を中心に置く。
確率は、悲観側に寄せた。強気の筋書きを 7%、やや強気を 20%、中立を 35% とした。残る 38% を、やや弱気の 26% と弱気の 12% に分けた。利益率が 3 倍になった後の会社が、もとの水準へ戻る例を数多く見てきたからだ。
ただ、事業は壊れない。現金が積み上がるので、悲観でも自己資本が下値を支える。割高ではあるが、危うい会社ではない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,481 円1,527 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 849 円522 億円)。 今の値に割り戻すと 1,761 円1,083 億円、今との差 −15.7%、 期待の年率 +4.8%(資本コスト 7.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 4,263 円2,623 億円 | 1,149 円707 億円 | +159.2% | +10.0% | 379 円233 億円 |
| やや楽観 | 20% | 3,652 円2,247 億円 | 956 円588 億円 | +120.7% | +8.2% | 922 円567 億円 |
| 中立 | 35% | 2,925 円1,799 億円 | 870 円535 億円 | +81.7% | +6.2% | 1,328 円817 億円 |
| やや悲観 | 26% | 1,335 円821 億円 | 723 円445 億円 | −1.4% | −0.1% | 535 円329 億円 |
| 悲観 | 12% | 682 円420 億円 | 707 円435 億円 | −33.5% | −4.0% | 167 円103 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,481 円1,527 億円 | 849 円522 億円 | +59.5% | +4.8% | 3,330 円2,049 億円 |
今の株価時価総額 2,088 円1,285 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 7% 工場投資と更新が続き、高い利益率が根づく 利益 139 億円 · PER 17.1 倍 · 株価時価総額 4,263 円2,623 億円
工場の投資と、ビルの更新・省エネの需要が、10 年途切れない。製薬や半導体の工場で選ばれる実績が積み上がり、元請けとの値段の交渉でも主導権を握る。選別受注と施工の効率化が構造として残り、国内の営業利益率は 12% を保つ。
国内の施工量は今の 1.15 倍に増える。採用と協力会社の確保が進み、人の壁を越える。物価の上昇は工事の値段にそのまま乗る。
海外はインドネシアに加えて、タイ・ベトナムの日系工場を取り込み、売上が 3 倍強になる。営業利益率も 9% へ上がる。
自己資本は 1,200 億円台に厚くなる。還元は増え、事業の ROE は 15% 近くを保つ。会社が掲げる長期ビジョンを超える、上振れの 10 年だ。
- 国内の空調・クリーン設備工事:数量 2,155(施工量(人年。技能者と技術者の稼働を今の値段で測った実質の工事量))× 価格 0.67(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 1,444 億円・営業利益 173 億円。国内:施工量 2155(今の 1.15 倍)× 0.6700 億円(今の 1.34 倍)、営業利益率 12.0%
- 海外の空調設備工事:数量 300(施工量(人年・実質))× 価格 0.56(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 168 億円・営業利益 15 億円。海外:施工量 300(今の 2.50 倍)× 0.5584 億円(今の 1.34 倍)、営業利益率 9.0%
倍率:事業の純利益 135 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.6% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)320 億円。全体の PER 17.12 倍、時価総額 2,623 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:利益率が 12% で 10 年続き、海外も 3 倍超に育つ条件が要る。工場投資の波がまったく止まらず、人手不足でも施工量を増やせる前提が重なるので、7% にとどめた。
やや楽観 20% 更新と産業投資が支え、利益率は 11% 前後 利益 117 億円 · PER 16.5 倍 · 株価時価総額 3,652 円2,247 億円
産業空調は一段落しても、ビルの更新と省エネの工事が、新築の落ち込みを埋める。クリーンルームの実績で選ばれる姿勢は続き、国内の営業利益率は 11% に落ち着く。
国内の施工量は今の 1.08 倍まで増える。大型案件は 1 件ずつ採算を見て選び、赤字案件を避ける。値段は物価並みに上がる。
海外は、日系工場を足がかりに売上が 2.5 倍になるが、利益率は国内を下回ったままだ。
還元は配当を中心に増え、自己資本は 1,250 億円まで厚くなる。事業の ROE は 13% 前後を保つ。景気の波は小さくなるが、消えはしない。
- 国内の空調・クリーン設備工事:数量 2,024(施工量(人年。技能者と技術者の稼働を今の値段で測った実質の工事量))× 価格 0.67(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 1,356 億円・営業利益 149 億円。国内:施工量 2024(今の 1.08 倍)× 0.6700 億円(今の 1.34 倍)、営業利益率 11.0%
- 海外の空調設備工事:数量 220(施工量(人年・実質))× 価格 0.56(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 123 億円・営業利益 9 億円。海外:施工量 220(今の 1.83 倍)× 0.5584 億円(今の 1.34 倍)、営業利益率 7.5%
倍率:事業の純利益 111 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.2% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)410 億円。全体の PER 16.51 倍、時価総額 2,247 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:工場投資と更新が 10 年細らず、利益率が 11% 前後を保つ道。上位のレンジとして 2 割を置いた。
中立 35% 利益率は平常に戻り、普通に強い工事会社へ 利益 96 億円 · PER 15.5 倍 · 株価時価総額 2,925 円1,799 億円
国内の空調工事は人口で伸びない。それでも、製薬・食品・電子部品の工場と、ビルの更新が、施工量をわずかに押し上げる。今の高い利益率は、競争と人件費に削られ、10 年かけて 9〜10% へ戻る。
値段は物価並みに上がる。元請けとの値段の交渉は、好況の今ほど有利ではなくなる。人件費は物価以上に上がり、利益率を押し下げる。
海外はインドネシアを中心に売上が 2 倍の 100 億円規模になる。利益率は 6% で、国内には及ばない。
自己資本は 1,200 億円ほどに積み上がる。配当は利益に合わせて増えるが、還元は利益の 5 割にとどまり、現金が残る。会社は「特別に稼ぐ会社」から「普通に強い、中堅の設備工事会社」へ、評価が移る。
- 国内の空調・クリーン設備工事:数量 1,930(施工量(人年。技能者と技術者の稼働を今の値段で測った実質の工事量))× 価格 0.67(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 1,293 億円・営業利益 123 億円。国内:施工量 1930(今の 1.03 倍)× 0.6700 億円(今の 1.34 倍)、営業利益率 9.5%
- 海外の空調設備工事:数量 180(施工量(人年・実質))× 価格 0.56(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 101 億円・営業利益 6 億円。海外:施工量 180(今の 1.50 倍)× 0.5584 億円(今の 1.34 倍)、営業利益率 6.0%
倍率:事業の純利益 90 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.3% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)400 億円。全体の PER 15.48 倍、時価総額 1,799 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:施工量は横ばいから微増、価格は物価並み、利益率は今の山から 9〜10% へ戻る道。同業の大手と同じ水準に落ち着く姿で、最大の 35% を置いた。
やや悲観 26% ゼネコンの値締めが戻り、利益率は 6% 台 利益 60 億円 · PER 9.5 倍 · 株価時価総額 1,335 円821 億円
好況が過ぎ、元請けのゼネコンが工事の値段を締めてくる。入札では相見積りが戻り、国内の利益率は 6.5% まで下がる。選別受注の効果は薄れ、人件費の上昇を値段に転嫁しきれない。
国内の施工量は今の 0.97 倍へ減る。工場の投資が一部、海外へ移る。値段の上昇は物価に届かず、10 年で 1.3 倍にとどまる。
海外は伸びるが、現地の競争が厳しく、利益率は 4% 止まりだ。
稼ぎが薄くなっても、事業は止まらない。保守と更新の工事が下支えをして、赤字にはならない。自己資本は 1,100 億円に積み上がるが、事業に必要な分を超えた現金は、使い道が見えないまま残る。
- 国内の空調・クリーン設備工事:数量 1,818(施工量(人年。技能者と技術者の稼働を今の値段で測った実質の工事量))× 価格 0.65(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 1,182 億円・営業利益 77 億円。国内:施工量 1818(今の 0.97 倍)× 0.6500 億円(今の 1.30 倍)、営業利益率 6.5%
- 海外の空調設備工事:数量 140(施工量(人年・実質))× 価格 0.54(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 76 億円・営業利益 3 億円。海外:施工量 140(今の 1.17 倍)× 0.5417 億円(今の 1.30 倍)、営業利益率 4.0%
倍率:余った現金・余り資産 290 億円を分けると、事業の純利益 56 億円(税後利息を除く)・事業の自己資本 818 億円・事業の ROE 6.8%。事業の ROE が資本コスト k 7.75% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER は 1÷k = 12.1 倍。上限の 7.8 割の 9.5 倍に置いた。事業 56 億円 × 9.5 倍 + 余り 145 億円(帳簿 290 億円 × 戻り方 0.5)で時価総額 821 億円。
確率:元請けが値段を締める時代が戻り、利益率が過去 20 年の高い側(6% 台)に下がる道。山の高さを考えると十分ありうるので、26% と厚めに置いた。
悲観 12% 国内投資の海外移転と、価格競争の固定化 利益 27 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 682 円420 億円
製薬や半導体、電池の工場の投資が海外へ移り、国内には更新の仕事だけが残る。選ばれる強みだった産業空調の実績が、ほかの工事会社でも提供できる仕事に変わる。国内の施工量は 15% ほど減り、値段の上昇も物価に届かない。
営業利益率は 3.5% まで落ちる。大型案件の失敗や赤字で、さらに利益が削られる年もある。海外はほぼ利益が出ない。
事業が止まるわけではない。更新と保守の工事があり、赤字にはならない。ただし、稼ぐ力は大きく落ちる。
配当は下げない方針を守るので、利益が細っても配当は続き、還元は利益の合計を上回る。足りない分は手元の現金や保有株の売却で払う。
現金は積み上がっても、使い道が見えない。会社は「優良な工事会社」ではなくなる。自己資本は 950 億円ほどあるので傷みは浅いが、倍率は純資産を大きく下回る。
- 国内の空調・クリーン設備工事:数量 1,593(施工量(人年。技能者と技術者の稼働を今の値段で測った実質の工事量))× 価格 0.61(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 972 億円・営業利益 34 億円。国内:施工量 1593(今の 0.85 倍)× 0.6100 億円(今の 1.22 倍)、営業利益率 3.5%
- 海外の空調設備工事:数量 100(施工量(人年・実質))× 価格 0.51(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 51 億円・営業利益 0 億円。海外:施工量 100(今の 0.83 倍)× 0.5084 億円(今の 1.22 倍)、営業利益率 0.0%
倍率:余った現金・余り資産 190 億円を分けると、事業の純利益 24 億円(税後利息を除く)・事業の自己資本 763 億円・事業の ROE 3.2%。事業の ROE が資本コスト k 7.75% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER は 1÷k = 12.1 倍。上限の 7.0 割の 8.5 倍に置いた。事業 24 億円 × 8.5 倍 + 余り 95 億円(帳簿 190 億円 × 戻り方 0.5)で時価総額 420 億円。
確率:国内の工場投資が海外へ移り、価格競争だけが残る構造的な負け筋。加えて、大型案件の失敗など、中堅の工事会社に典型的な事故も含む。12% を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内の空調・クリーン設備工事
オフィス・病院・官公庁の空調と、製薬・食品・半導体・電子部品の工場のクリーンルームを設計し、施工する本業。売上の約 95%。
| 数量施工量(人年。技能者と技術者の稼働を今の値段で測った実質の工事量) | 価格1 人年あたり完成工事高(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,874 | 0.50 | 937 | 154 |
| 10 年後 中立 | 1,930 | 0.67 | 1,293 | 123 |
取り方:開示は国内と海外の内訳が細かくないため、海外の売上を 50 億円規模とみて、残りの 937 億円を国内とした。営業利益は全体の 158 億円のうち国内が 154 億円(利益率 16.4%)と推定した。工事は人手が制約になるので、数量は施工にあたる人の稼働(人年。協力会社を含む)で置き、1 人年あたり 5,000 万円の完成工事高とした。物価の上昇分は価格に入れる。
海外の空調設備工事
インドネシアを中心に、現地の日系工場などの空調設備を施工する。まだ足場固めの段階。
| 数量施工量(人年・実質) | 価格1 人年あたり完成工事高(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 120 | 0.42 | 50 | 4 |
| 10 年後 中立 | 180 | 0.56 | 101 | 6 |
取り方:海外の売上は開示が粗いため 50 億円規模と推定した。現地の人件費が低いので、1 人年あたりの完成工事高は国内の約 8 割、営業利益率は 8% 弱とみて、利益は 4 億円とした。数量は実物(施工量の人年)で、インドネシアの拠点・人員を増やす事業の事実による増加。名目の市場の伸びは置いていない(物価は価格の 1.34 倍だけ)。
リスクと懸念
利益率が過去の水準へ戻る
営業利益率は 16% と、過去 20 年の中心の 5% 前後を大きく超える。元請けの値締めや同業の値引きが戻れば、売上が伸びても利益は伸びない。最大の不確実性だ。
2012 年 3 月期には赤字になった。戻る力は、常に働いている。
工場投資の波と国内からの移転
受注の中心は製薬・半導体・食品・電子部品の工場だ。顧客の投資は、世界の設備投資の波で止まりやすい。2026 年 3 月期の前半は、大型案件の反動で受注が減った。工場が海外へ立地すれば、国内の仕事は戻らない。
大型案件の採算
工事は 1 件が大きく、工期の遅れや資材高、設計変更で赤字になる。会社の規模が小さいので、1 件の失敗が年間の利益を数割動かす。受注時に採算で選ぶ姿勢は、完全な防御にはならない。
人手不足で施工量が増えない
技能者と技術者の確保が、施工量の上限を決める。賃金が物価以上に上がり、価格に転嫁しきれないと、利益が削られる。協力会社を維持できないと、受注があっても施工できない。
現金を使いこなせない
配当が利益の 3 割前後だと、自己資本が積み上がり、ROE が下がる。ROE 15% の目標を守るには、還元か成長投資が要る。大型 M&A に走って価値を壊す、という逆の失敗もありうる。
海外の伸び悩み
海外はインドネシア中心で、現地の人件費と競争の厳しさから利益率が低い。日系工場の進出に頼る形で、現地の元請けや現地企業との競争が強まる。足場固めの段階を超えられない恐れがある。
今後の分かれ目
- 受注高が 2 期続けて前の年を下回り、受注残も減ったら
- やや弱気の筋書きに確率を寄せる。受注残が薄くなり、利益率の戻りが早まる。
- 営業利益率が 2 年続けて 14% 以上を保ったら
- 選別受注と効率化が構造として定着したとみて、強気側に確率を寄せる。
- 配当の方針を引き上げ、自社株買いを継続的に始めたら
- 余った現金の戻り方を 1.0 に近づける。ROE の低下を避ける姿勢が確認できる。
- 大型案件で数十億円規模の赤字が出たら
- 利益率の下振れ幅を見直す。受注時の採算選別の限界を示す。
- 製薬・電池・半導体の国内の新設工場の発表が相次いだら
- 中立とやや強気の確率を厚くする。10 年の施工量が横ばいを超える。
- 海外の売上が 150 億円を超え、利益率が 8% に近づいたら
- 10 年の強気の筋書きの利益を引き上げる。足場固めが終わったことになる。
見ておくもの
- 受注高と受注残、受注時の粗利率
- 営業利益率の推移(14% を保てるか)
- 配当と自社株買いの方針、政策保有株の削減の進み方
- 国内の工場投資(製薬・半導体・電池)の発表
- 海外(インドネシア)の売上と利益率、大型案件の赤字の有無
倍率と資本コストの決め方
売上は「施工量(人年)× 1 人年あたり完成工事高」で積み、物価 3% は価格に入れた。国内の施工量は人手不足と人口で頭打ちとし、中立の 10 年で 1.03 倍とした。倍率は k 7.75%(基本 7.5% + quality 0.75%)・g 4% 以内の正当化 PER の上限の約 9 割に置き、ROE が k を上回る中立は 1÷k(12.1 倍)の床を割らせない。悲観は稼ぐ力(PER 上限 1÷k)で測り、過去の PBR の谷は使っていない。今の株価や今の PER には寄せていない。純現金 184 億円は前受金や運転資金を含むため、事業に要らない分を 100 億円とみて分け、積み上がる利益のうち事業に要る自己資本(売上の約 57%)を超える分を、戻り方 0.5 で足した。工事会社で店舗や倉庫の賃借は小さく、新リース会計基準(2028/03 期)の影響は小さい。数字は家賃を営業費用に入れた今の形でそろえてある。国内と海外の売上の内訳は推定で、利益は合計が開示値に合うようにした。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 0.75% = 8.25%。理由は quality_why。個別のリスク(大型案件の失敗・不祥事など)は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 7.75%。