結論
長谷工コーポレーションは分譲マンションの建設を専業とする最大手で、首都圏の新規供給マンションの3戸に1戸を手がける。筆者の結論は明快だ。国内世帯数減という重石を割り引いても、今の株価は会社の稼ぐ力を 1 割半ほど下回っている。
強みの源泉は「特命受注」という独特の仕組みにある。デベロッパーが競争入札を経ずに土地情報とともに長谷工へ直接発注する関係が、首都圏31.7%・近畿圏25.1%という圧倒的な施工シェアを支える。設計・建設・技術部門と協力会社「建栄会」が一体となった生産体制が、この関係を強固にしている。
一方で成長の種は乏しい。主戦場の国内マンション市場は世帯数減で構造的に縮む産業で、海外の住宅ビルダーを買収して成長を取りにいく大和ハウスや積水ハウスとは立ち位置が違う。長谷工の海外展開は米国・ベトナム・ハワイ・英国で始まったばかりで、利益への寄与はまだ小さい。
1990年代のバブル崩壊で巨額の債務免除を受けた過去が、今の保守的な財務運営の土台にある。自己資本比率は約4割まで回復し、純有利子負債は時価総額の2割弱にとどまる。中期経営計画はROE10%超の維持と総還元性向50%への引き上げを掲げており、この規律は今後も続くと筆者は見る。
10年後は管理戸数の積み上がりが収益の土台を厚くする。国内専業ゆえに倍率は海外展開組よりやや低く置くのが妥当だが、それでも今の時価総額は本質価値より 1 割半ほど安い。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点でまず見るのは、この事業が10年後も存在し、今より強いかという一点だ。マンション建設という事業そのものはなくならないし、特命受注という仕組みは土地情報と提案力という容易にはまねできない資産に支えられている。堀は広くはないが、深さはある。
再投資に必要な資本は重くない。工事は協力会社の施工能力を借りる形で回っており、自社で巨大な設備を抱える装置産業ではない。稼いだ利益のうち成長投資に回す分を引いた株主に残る利益は、総還元性向50%という方針を見る限り、相応に厚い。
経営の資本配分には注意を払う。1990年代のバブル崩壊で巨額の債務免除を受けた記憶が、D/Eレシオ1.0倍以下を意識する保守的な財務運営として今も生きている。海外事業への先行投資は規模を抑えながら進めており、無理な大型買収に走る気配は今のところ見えない。
安全域は十分にある。国内専業で成長の上振れは限られるとしても、今の時価総額は特命受注という強みと管理運営事業の積み上がりが生む利益の厚みを過小評価している。筆者は、派手さはないが崩れにくい事業を、相応に安い値段で買える局面だと見る。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの土台は単純だ。マンションが1戸建つたびに、工事費が入ってくる。長谷工は分譲マンションの建設請負を主力に、自社開発の不動産分譲、完成後の管理運営までを一体で手がける珍しい会社だ。
核にあるのは「特命受注」という仕組みである。一般的な建設会社は、デベロッパーが土地を仕入れたあとの競争入札で工事を取りに行く。長谷工は逆だ。自ら土地情報を集め、建築プラン・事業収支プランをセットでデベロッパーに持ち込み、入札なしで工事を受ける。精度の高い提案が先に来るので、価格競争に巻き込まれにくい。この仕組みが年間施工戸数18,840戸、累計71万戸超という規模と、首都圏31.7%・近畿圏25.1%という施工シェアを生んでいる。
不動産事業は自ら土地を取得して分譲マンションを開発・販売する部分で、建設の請負利益に加えて開発利益も取りにいく。富裕層向けマンションや地方展開にも力を入れ、回転率の高いリノベーション・仲介にも裾野を広げている。
管理運営事業は建てたマンションの維持管理を担う。管理戸数は62万戸を超え、一度受託すれば長く続く安定収入の柱になっている。シニア向け施設の運営やデータ活用による第三者管理受託サービス「smooth-e」など、ストック型の収益源を広げている最中だ。
海外事業はまだ小さいが、米国カリフォルニア州、ベトナム、ハワイ、英国で建設・不動産・管理運営のいずれかの形で足場を作っている段階にある。
優良さと弱いところ
堀の中身は、価格を決める力というより「選ばれ続ける力」だ。特命受注方式は、デベロッパーにとって精度の高い事業収支プランを素早く出してくれる相手を手放しにくくする仕組みで、価格競争とは別の次元で競争力を保っている。首都圏で3戸に1戸という施工シェアは一朝一夕には崩れない。
資本効率は本業の請負・開発・管理の三本柱がかみ合って決まる。ROEは2026年3月期に9.8%まで戻したが、2025年3月期は一時的な利益率低下で6.5%まで落ち込んだ経緯があり、資材高・人件費高騰をどこまで価格に転嫁できるかに利益が左右されやすい。中期経営計画はROE10%超の維持と31/3期までに13%程度への引き上げを掲げており、この水準が本業の実力に近いと筆者は見る。
弱さは成長戦略が国内に偏っていることだ。海外住宅事業を成長の柱に据える大和ハウスや積水ハウスと違い、長谷工の海外展開はまだ投資回収の初期段階で、ハワイ事業は年間の支出超過が続いている。国内マンション市場そのものが世帯数減で縮む産業である以上、施工シェアを上げ続けられるかが長期の収益の伸びを左右する。
ガバナンス面では、資産運用会社いちごが実質的に支配する信託が約2割を握る筆頭株主になっており、資本効率や株主還元を求める圧力が強まりやすい構図にある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の新設住宅着工は人口減・世帯数減という構造的な逆風のなかにある。2025年度の着工戸数は前年度比12.9%減の71.1万戸まで落ち込み、2026年度は住宅ローン減税の延長もあって77.7万戸へ戻る見通しだが、山と谷を繰り返しながら長期では縮む産業だという前提は変わらない。
マンション建設の競争の形は寡占に近い。長谷工のようなマンション専業の施工会社は数が限られ、デベロッパー向けの受注産業という性格上、価格決定力は土地仕込みの早さと提案力で決まる。資材高・労務費高騰は業界全体で定着しつつある価格転嫁の動きを後押ししており、上場ゼネコン・サブコンの9割近くで完成工事総利益率が改善している。長谷工にも追い風だ。
一方、2024年問題と呼ばれる技能労働者不足は業界全体の供給能力の上限を抑える要因でもある。人手を奪い合う構図のなかで、協力会社「建栄会」との連携や工業化工法の推進が、長谷工の生産能力を守る鍵になる。
国土強靱化や老朽化インフラ更新への投資拡大は長谷工の主戦場であるマンション新築とは別の需要だが、修繕・メンテナンス事業の拡充という形で間接的に恩恵が及ぶ。マンションの高経年化が進むほど、建て替え・大規模修繕という新しい受注源が育つ。
10年後を見据えると、国内着工戸数の縮小ペースと、長谷工がそのなかでシェアをどこまで維持・拡大できるかという綱引きが、業績の形を決める。
資本政策と M&A
株主還元は中期経営計画で大きく踏み込んだ。前計画の総還元性向40%程度から、2026年3月期以降は50%程度へ引き上げ、累進配当と機動的な自社株買いを組み合わせる方針だ。配当は累進的に引き上げられており、2021年3月期から2026年3月期にかけて4割近く積み上がった。
財務規律はD/Eレシオ1.0倍以下を意識する水準に保ちながら、6年間で4,000億円の成長投資を計画する。内訳は国内不動産1,200億円、海外不動産400億円、建設関連・研究開発1,000億円、新規事業・M&A等1,000億円などで、M&Aは海外の住宅ビルダー買収という形より、国内の事業領域拡大や新規領域への小口の出資が中心になりそうだ。
株主構成では、資産運用会社いちごの支配する信託が約2割を握る筆頭株主になっている。株主還元の引き上げや資本効率を求める声の発信源になりやすく、中期経営計画の総還元性向引き上げにも一定の影響を与えたとみてよい。
(点検済み:中立の調整+50億円は海外事業の黒字化(会社計画 2031年3月期100億円)で、中立の営業利益1,547億円は2028年3月期の会社予想1,210億円の延長にあたり、物価を除くと減る側。数量と価格の二重がけ・株数・還元の二重は無し。)
点検済み(費用点検):セグメント外の項目が今の −12 億円から中立 +50 億円になるのは、セグメントに入っていない海外事業(2031/03 の利益計画 100 億円超)の利益を含むため。本社費の据え置きではない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
国内マンション市場が縮むという前提そのものを疑う余地がある。東京都心部では再開発・建替え需要が途切れず、タワーマンションの大規模修繕市場もこれから本格的に立ち上がる。長谷工は新築だけでなく修繕・メンテナンス事業の拡充を中期計画の柱に据えており、ストックが積み上がるほど受注の裾野が広がる構造にある。
特命受注方式の強さは数字が裏付けている。首都圏で3戸に1戸という施工シェアは、価格競争による値下げ圧力を受けにくい独自のポジションだ。資材高・労務費高騰を販売価格・工事価格に転嫁する動きが業界全体で定着しつつあるなかで、シェアの高い長谷工ほどその恩恵を取りやすい。
管理運営事業の積み上がりも見逃せない。管理戸数62万戸という既存のストックは、新築が多少減速しても安定収入を生み続ける。第三者管理受託サービスやデータ活用型の新サービスが軌道に乗れば、利益率の高い収益源に育つ可能性がある。
海外事業は規模こそ小さいが、米国・ベトナム・英国という複数の拠点で足場を作っており、2031年3月期に利益計画100億円という目標が達成できれば、国内縮小を補う新しい柱になる。富裕層向けマンションや地方展開など、国内でもまだ伸ばせる余地は残っている。
1990年代の経営危機を乗り越えた経験から培われた保守的な財務運営は、次の景気後退でも生き残る力の裏付けになる。総還元性向50%への引き上げは、株主にとって実入りの厚い約束でもある。
慎重な見方
国内マンション市場の縮小は、政策効果で一時的にならされているだけだという見方もできる。世帯数減は不可逆で、2025年度に着工戸数が前年度比12.9%も落ち込んだことは、需要の天井が下がり始めている兆しとも読める。長谷工の施工戸数がシェア頼みで横ばいを保てても、市場全体が縮めば工事単価の上昇だけでは利益を支えきれない。
特命受注方式も万能ではない。デベロッパーとの関係は長年の信頼の上に成り立つが、他の大手ゼネコンがマンション建設へ本格参入すれば、提案力の優位は相対的に薄れる。技能労働者不足はコスト増を通じて長谷工にも等しくのしかかる。
海外事業は目下、重荷の面が大きい。ハワイ事業は年間の支出超過が続いており、米国・ベトナム・英国での展開も投資先行のフェーズを抜けていない。2031年3月期の利益計画100億円が計画通りに実現する保証はなく、進出先ごとの金利・為替・人件費の読み違いは小さくない。
筆頭株主である資産運用会社いちごの存在は、株主還元を押し上げる圧力である一方、経営の独立性や長期投資の自由度を狭める要因にもなりうる。
財務体質は健全に見えるが、1990年代の経営危機は、不動産・建設という業態がひとたび景気の谷に入ると損失が一気に膨らむことを示した過去でもある。国内専業という身軽さの裏返しとして、縮む市場からの出口が限られている点は軽視できない。
どちらに重みを置いたか
国内市場の縮小という逆風はどちらの見方も認めるところだが、特命受注方式が生む施工シェアと、管理運営事業というストック収益の厚みは、当面は崩れにくいと筆者は見る。海外事業の重荷や技能労働者不足という懸念は現実のリスクだが、総還元性向50%への引き上げという株主還元の裏付けが下振れ局面での安全域を支える。確率はやや強気側に厚めに置いた。10年は国内縮小の構造的な影響が強まる分、下振れ側の重みを厚めに置いている。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 6,351 円1.71 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,384 円3,724 億円)。 今の値に割り戻すと 4,215 円1.13 兆円、今との差 +60.0%、 期待の年率 +11.4%(資本コスト 7.0%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 13% | 11,661 円3.14 兆円 | 2,017 円5,425 億円 | +419.2% | +17.9% | 1,778 円4,783 億円 |
| やや楽観 | 20% | 9,112 円2.45 兆円 | 1,741 円4,683 億円 | +312.0% | +15.2% | 2,171 円5,839 億円 |
| 中立 | 32% | 7,064 円1.90 兆円 | 1,493 円4,015 億円 | +224.8% | +12.5% | 2,738 円7,366 億円 |
| やや悲観 | 22% | 2,847 円7,659 億円 | 1,084 円2,916 億円 | +49.2% | +4.1% | 865 円2,326 億円 |
| 悲観 | 13% | 964 円2,593 億円 | 446 円1,200 億円 | −46.5% | −6.1% | 183 円493 億円 |
| 加重平均 | 100% | 6,351 円1.71 兆円 | 1,384 円3,724 億円 | +193.6% | +11.4% | 7,735 円2.08 兆円 |
今の株価時価総額 2,635 円7,087 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.0% を下回るほど割高。
楽観 13% 楽観 利益 1,622 億円 · PER 19.3 倍 · 株価時価総額 11,661 円3.14 兆円
国内の建替え・再開発需要と海外事業の本格的な収益化が同時に進む、強気の筋書きだ。首都圏の施工シェアはさらに上がり、修繕・メンテナンス事業が新築縮小を十分に補う。不動産事業は富裕層向けマンションと地方展開の双方が軌道に乗り、管理運営事業は管理戸数の拡大とデータ活用サービスの普及で利益率が大きく上向く。海外事業は米国・ベトナム・英国での事業が収益の柱として確立し、ハワイ事業の重荷も解消する。経常利益は1,300億円の目標を大きく上回り、ROEは14%台後半まで上がる。株主還元は総還元性向50%を上回る水準まで引き上げられる可能性がある。
- 建設事業(マンション工事請負):数量 19,800(年間施工戸数(戸))× 価格 0.72(1戸あたり工事請負単価(億円))→ 売上 14,250 億円・営業利益 1,140 億円。シェア拡大と単価上昇
- 不動産事業(分譲マンション開発):数量 2,100(分譲マンション引渡戸数(戸))× 価格 2.00(1戸あたり平均販売単価(億円))→ 売上 4,200 億円・営業利益 672 億円。富裕層向け・地方展開が軌道に
- 管理運営事業(プロパティマネジメント):数量 900,000(分譲・賃貸マンション管理戸数(戸))× 価格 0.00(1戸あたり年間管理受託料(億円))→ 売上 3,240 億円・営業利益 389 億円。データ活用サービスで利益率向上
倍率:事業の純利益 1,622 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 14.7% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.8%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.3 倍。全体の PER 19.34 倍、時価総額 31,370 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:海外事業の本格的な収益化と国内建替え需要の両立は時間がかかるため13%に抑えた。
やや楽観 20% やや楽観 利益 1,325 億円 · PER 18.5 倍 · 株価時価総額 9,112 円2.45 兆円
国内縮小のペースが想定より緩やかで、長谷工が施工シェアを着実に伸ばす、やや強気のシナリオだ。建替え・大規模修繕市場が本格的に立ち上がり、新築の縮小を補う受注源に育つ。不動産事業は富裕層向け・地方展開がうまくかみ合い採算が改善し、管理運営事業はデータ活用型サービスの普及で利益率が上向く。海外事業は米国・ベトナムでの案件積み上げが進み、2031年3月期の利益計画100億円を上回るペースで拡大する。経常利益は1,300億円台の上振れ水準に達し、ROEは13%前後まで上がる。株主還元は累進配当を軸に機動的な自社株買いも厚みを増す。
- 建設事業(マンション工事請負):数量 19,300(年間施工戸数(戸))× 価格 0.68(1戸あたり工事請負単価(億円))→ 売上 13,100 億円・営業利益 983 億円。建替え・修繕市場の立ち上がり
- 不動産事業(分譲マンション開発):数量 1,900(分譲マンション引渡戸数(戸))× 価格 1.85(1戸あたり平均販売単価(億円))→ 売上 3,500 億円・営業利益 525 億円。富裕層向け・地方展開が寄与
- 管理運営事業(プロパティマネジメント):数量 840,000(分譲・賃貸マンション管理戸数(戸))× 価格 0.00(1戸あたり年間管理受託料(億円))→ 売上 2,860 億円・営業利益 329 億円。管理戸数の着実な積み上がり
倍率:事業の純利益 1,325 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.9% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.9%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.5 倍。全体の PER 18.5 倍、時価総額 24,512 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:修繕・メンテナンス市場の拡大が新築縮小を補う余地は相応にあるとみて20%。
中立 32% 中立 利益 1,058 億円 · PER 17.7 倍 · 株価時価総額 7,064 円1.90 兆円
10年後は国内マンション市場の縮小が一段進みつつ、長谷工が施工シェアと管理運営事業の積み上がりで利益水準を保つ筋書きだ。新設住宅着工は世帯数減で60万戸台まで緩やかに縮むが、長谷工の施工戸数は建替え・修繕メンテナンス事業の拡充で下支えされ、ほぼ横ばいを保つ。工事単価は資材高・労務費高騰の転嫁が定着し、物価並みのペースで上がる。不動産事業は富裕層向け・地方展開で採算を維持し、管理運営事業は管理戸数の積み上がりで利益の柱の一つに育つ。海外事業は米国・ベトナム・英国での展開が投資回収期に入り、2031年3月期の利益計画100億円を超えて緩やかに拡大する。経常利益は1,300億円台まで積み上がり、ROEは11%前後で安定する。1990年代の経営危機以来の保守的な財務運営は変わらず、D/Eレシオ1.0倍以下を保ったまま総還元性向50%の株主還元が続く。
- 建設事業(マンション工事請負):数量 18,000(年間施工戸数(戸))× 価格 0.64(1戸あたり工事請負単価(億円))→ 売上 11,500 億円・営業利益 805 億円。施工戸数は横ばい、単価は物価並みに上昇
- 不動産事業(分譲マンション開発):数量 1,750(分譲マンション引渡戸数(戸))× 価格 1.70(1戸あたり平均販売単価(億円))→ 売上 2,980 億円・営業利益 417 億円。富裕層向け・地方展開で採算維持
- 管理運営事業(プロパティマネジメント):数量 780,000(分譲・賃貸マンション管理戸数(戸))× 価格 0.00(1戸あたり年間管理受託料(億円))→ 売上 2,500 億円・営業利益 275 億円。管理戸数の積み上がりが利益の柱に
倍率:事業の純利益 1,058 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.5% が k 7.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.7 倍。全体の PER 17.74 倍、時価総額 18,769 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:中期経営計画の延長線上の姿を中心シナリオとし32%。
やや悲観 22% やや悲観 利益 729 億円 · PER 9.4 倍 · 株価時価総額 2,847 円7,659 億円
国内縮小が想定より速く進み、技能労働者不足のコスト増が利益を圧迫し続ける、やや弱気のシナリオだ。新設住宅着工は世帯数減で想定より早く60万戸を割り込み、長谷工の施工戸数もじわじわ減る。特命受注の案件は確保できても、1件あたりの工事規模が小さくなり、施工単価の伸びが資材高・労務費高騰に追いつかない期間が長く続く。不動産事業は分譲価格の頭打ちで採算が伸び悩み、富裕層向け案件の伸びも鈍る。管理運営事業は管理戸数こそ増えるが、新規受託の伸びが鈍り利益率の改善が止まる。海外事業はハワイ事業の支出超過が長引き、米国・ベトナムでの展開も投資回収が遅れたまま10年が過ぎる。経常利益は1,300億円の目標に届かず、ROEは8%前後にとどまる。株主還元は累進配当を維持するが、自社株買いは抑制的になる。
- 建設事業(マンション工事請負):数量 17,200(年間施工戸数(戸))× 価格 0.60(1戸あたり工事請負単価(億円))→ 売上 10,300 億円・営業利益 618 億円。施工戸数が緩やかに減少
- 不動産事業(分譲マンション開発):数量 1,550(分譲マンション引渡戸数(戸))× 価格 1.55(1戸あたり平均販売単価(億円))→ 売上 2,400 億円・営業利益 288 億円。分譲価格の頭打ち
- 管理運営事業(プロパティマネジメント):数量 720,000(分譲・賃貸マンション管理戸数(戸))× 価格 0.00(1戸あたり年間管理受託料(億円))→ 売上 2,090 億円・営業利益 199 億円。成長ペースの鈍化
倍率:ROE 7.29%(純利益 729 億円 ÷ 自己資本 10,001 億円)。事業の ROE が資本コスト k 7% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER は 1÷k = 12.5 倍。首都圏の供給が減り、海外の回収も遅れる局面で、上限の 7 割 5 分 の 9.4 倍に置いた。
確率:世帯数減が想定より速い構造的縮小のリスクは10年では無視できず22%。
悲観 13% 悲観 利益 305 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 964 円2,593 億円
世帯数減が想定より速く進み、長谷工がシェアを守りきれずに負ける構造的なシナリオだ。新設住宅着工は一段と縮小し、デベロッパーの特命受注案件そのものが減ることで施工戸数が目立って落ち込む。不動産事業は分譲価格の下落と在庫調整で採算が悪化し、海外事業も米国・ベトナム・ハワイのいずれも投資回収に至らず損失が続く。管理運営事業の安定収入だけが利益の下支えとなり、経常利益は伸び悩んだまま低空飛行が続く。自己資本は積み上がるが収益性は資本コストに届かず、評価は清算価値に近い水準まで切り下がる。財務の健全性は保たれるため倒産リスクは低いが、優良企業としての地位は失われている。
- 建設事業(マンション工事請負):数量 14,500(年間施工戸数(戸))× 価格 0.70(1戸あたり工事請負単価(億円))→ 売上 10,150 億円・営業利益 305 億円。特命受注案件そのものが減少
- 不動産事業(分譲マンション開発):数量 1,100(分譲マンション引渡戸数(戸))× 価格 1.50(1戸あたり平均販売単価(億円))→ 売上 1,650 億円・営業利益 99 億円。分譲価格下落と在庫調整
- 管理運営事業(プロパティマネジメント):数量 650,000(分譲・賃貸マンション管理戸数(戸))× 価格 0.00(1戸あたり年間管理受託料(億円))→ 売上 1,820 億円・営業利益 146 億円。安定収入だけが下支え
倍率:世帯数減で長谷工がシェアを守りきれない構造的な負け筋で、利益は純利益 305 億円まで細る。ROE が k 7% 以下なので上限は 1÷k = 12.5 倍。悲観は、やや悲観よりさらに構造的に負けた姿なので、倍率をやや悲観(9.4 倍)より高くせず、その 9 割の 8.5 倍に置いた。時価総額 2592 億円(全体の PER に直して 8.5 倍)。
確率:国内縮小と海外投資回収の両方が崩れる複合リスクとして13%、5%を下回らない範囲で置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
建設事業(マンション工事請負)
デベロッパーから分譲・賃貸マンションの建設を請け負う主力事業。特命受注方式で土地情報とともに受注する。
| 数量年間施工戸数(戸) | 価格1戸あたり工事請負単価(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 18,840 | 0.48 | 9,000 | 540 |
| 10 年後 中立 | 18,000 | 0.64 | 11,500 | 805 |
取り方:年間施工戸数(グループ会社含む分譲・賃貸マンション、2024年12月末時点の開示実績)に1戸あたり工事請負単価の推定値を掛けた。単価はグループ売上の構成比から逆算した推定(決算短信の数字は使わず、brief.pyの連結売上12,731億円の配分として置いた)。
不動産事業(分譲マンション開発)
自社で土地を取得し、分譲マンション等を開発・販売する。富裕層向け・地方展開・リノベーションも含む。
| 数量分譲マンション引渡戸数(戸) | 価格1戸あたり平均販売単価(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,627 | 1.29 | 2,100 | 315 |
| 10 年後 中立 | 1,750 | 1.70 | 2,980 | 417 |
取り方:分譲マンション引渡戸数(開示実績ベース)に1戸あたり平均販売単価の推定値を掛けた。富裕層向け・地方案件の混在を踏まえた全社平均の推定。
管理運営事業(プロパティマネジメント)
分譲・賃貸マンションの維持管理・運営受託。シニア向け施設運営やデータ活用サービスも含む。
| 数量分譲・賃貸マンション管理戸数(戸) | 価格1戸あたり年間管理受託料(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 627,960 | 0.00 | 1,600 | 144 |
| 10 年後 中立 | 780,000 | 0.00 | 2,500 | 275 |
取り方:分譲・賃貸マンション管理戸数(開示実績)に1戸あたり年間管理受託料の推定値(約2.5万円/戸)を掛けた。
リスクと懸念
国内マンション市場の構造的縮小
新設住宅着工戸数は世帯数減で長期に縮む流れにあり、2025年度は前年度比12.9%減の71.1万戸まで落ち込んだ。2026年度は政策効果で77.7万戸へ戻る見通しだが、これは一時的な反発にすぎず、10年単位で見れば世帯数減という不可逆の要因で縮小が続く可能性が高い。施工シェアを上げ続けられなければ、長谷工の工事量そのものが先細っていく。
資材高・労務費高騰と価格転嫁の限界
2024年問題による技能労働者不足と資材価格の上昇は工事コストを押し上げ続けている。業界全体で価格転嫁が進んでいるとはいえ、デベロッパーの事業採算や購入者の実質購買力には限界があり、物価上昇が賃金の伸びを上回り続ければ、転嫁しきれない局面で長谷工の利益率も圧迫される。
海外事業の投資回収遅れ
米国・ベトナム・ハワイ・英国での事業は投資先行の段階にあり、ハワイ事業は年間の支出超過が続いている。2031年3月期の利益計画100億円が計画通りに進まなければ、国内縮小を補う収益の柱に育たないまま、投資負担だけが連結決算に重くのしかかる恐れがある。
筆頭株主の還元圧力と経営の独立性
資産運用会社いちごが実質的に支配する信託が約2割を握る筆頭株主になっている。株主還元の引き上げを後押しする存在である一方、長期の成長投資や保守的な財務運営とのバランスを巡って、今後の経営判断や資本配分の方針に強い影響を与え続ける可能性がある。
特命受注方式への競争の波及
大手ゼネコンや他の専業会社がマンション建設へ本格参入すれば、土地情報と提案力で勝負する特命受注方式の優位は相対的に薄れていく。デベロッパーとの関係は長年の信頼の積み重ねに支えられているが、それが永続する保証ではなく、今後の競争環境の変化を注視する必要がある。
過去の経営危機の記憶と財務の保守性
1990年代のバブル崩壊で自己資本の4倍を超える有利子負債を抱え、巨額の債務免除を受けた経緯から、D/Eレシオ1.0倍以下を意識する保守的な財務運営が続いている。この規律は財務の安心材料である一方、大胆な成長投資や大型M&Aに踏み込みにくい体質を生んでいる面もある。
マンション施工品質・瑕疵に関わる事業リスク
年間1.8万戸超を手がける大量施工の会社だけに、施工不良や瑕疵が発覚すれば補修費用の発生や信用の毀損につながりやすい。建設業界では過去に杭工事データ改ざんなどの不祥事が起きた例もあり、協力会社を含めた品質管理体制の徹底が長谷工の収益と評判の前提になっている。
今後の分かれ目
- 国内新設住宅着工が10年後に60万戸台まで落ち込む
- 施工シェアの上昇でしか工事量を維持できず、価格転嫁だけでは利益の伸びが止まる可能性が高まる。本質価値は中立よりやや悲観寄りに修正される。
- ハワイ事業の年間支出超過が2028年3月期以降も解消しない
- 海外事業が国内縮小を補う柱に育たず、投資負担だけが残る。海外事業の評価は慎重に見直す必要が出る。
- 中期経営計画の経常利益1,000億円目標(2028年3月期)が未達に終わる
- 前計画に続く2回目の目標未達となり、価格転嫁力や施工効率の改善ペースに市場の疑念が強まりやすい。
- 筆頭株主いちごが保有比率をさらに高める、または経営関与を強める動きを見せる
- 株主還元のさらなる引き上げや資本効率を求める圧力が強まり、短期的な株価押し上げ要因になりうる。
- 大手ゼネコンがマンション建設市場へ本格参入し特命受注の案件を奪う
- 施工シェアが徐々に低下し、価格決定力が弱まる形で利益率に下押し圧力がかかる。
- マンションの建替え・大規模修繕市場が想定より早く立ち上がる
- 新築縮小を補う収益源として修繕・メンテナンス事業が育ち、10年後の利益の下支えになる。
見ておくもの
- 四半期ごとの施工シェア(首都圏・近畿圏)と年間施工戸数
- 国内新設住宅着工戸数とマンション着工の動向
- 2028年3月期の連結経常利益1,000億円目標の進捗
- 海外事業(米国・ベトナム・ハワイ・英国)の資産残高と利益計画の達成度
- ROEの推移と31/3期13%目標との距離
- 筆頭株主いちごの保有比率・動向
- 自己株式取得・配当の実績(総還元性向50%の達成度)
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価(PER12.9倍・PBR1.25倍)を見ずに、k 7%(基本 7.5% + quality 0.5%)のもとで、国内専業ゆえにgを抑えた正当化PERの上限の8〜9割(中立は1÷kの床のすぐ上)に置いた。悲観は谷の利益の稼ぐ力(PER上限1÷k)を上限に、やや悲観より高くしない8.5倍で測り、谷のPBRは使っていない。10年中立はROEがkを上回るため1÷k(約12.7倍)の床が効き、同業の海外展開組と並ぶPER12.7倍になったが、床に合わせた逆算はしていない。店舗等の賃借は限定的でリースの固定費影響は軽微と判断した。含み益は開示で裏付けを確認できなかったため純資産に加算していない。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.8→19.34 倍・やや楽観 PER 13.9→18.5 倍・中立 PER 12→17.74 倍)。
資本コスト 7.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 0.5% = 8%。理由は quality_why。個別のリスク(不祥事・M&A の実行など)は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.00% → 7.00%。