結論
大東建託は賃貸アパートの企画・建築(建設事業)と、建てた物件を一括で借り上げ転貸する管理運営(不動産賃貸事業)を垂直統合した会社で、2026年9月末時点で20万棟・136万戸を管理し29年連続で業界首位にある。地主の相続税対策・土地活用需要を建築の入口に、一度契約すれば原則30年続く一括借上げでストック収入を積み上げる仕組みが、自己資本に対して売上高が4倍前後という極めて高い回転率を生み、ROEは過去10年17〜31%の範囲で一度も赤字にならずに推移してきた。2025年には分譲マンション・収益不動産を手がけるアスコットをTOBで子会社化し、不動産開発事業という第3の柱を育てている。
ここでは建設事業(完工戸数×単価)、不動産賃貸事業(管理戸数×1戸当たり年間収入)、不動産開発事業(販売件数×単価)の3つを数量×価格で積み上げ、その時点のROEと資本コストから倍率を決めて株価を出した。10年後は国内の世帯数減が一段進む一方、一括借上げという資産を使わない高ROEモデルの性格は保たれる前提にした。物価3%の世界では建築費・家賃ともに名目で上がり、純現金の会社なので金利上昇はむしろ受取利息をわずかに増やす。中立のROEは10年後15.0%前後を想定し、資本コスト7.25%(基本7.5%+quality0.25%)を超える分の半分が長く残るとして出す正当化PER(中立で約17倍)の7割、約12倍に置いた。今のPER10.5倍・PBR2.10倍はこれを下回り、確率で重みを付けた本質価値は今の時価総額を2割半〜3割ほど上回る「やや割安」の結果になった。市場の低い倍率は、人口減という構造縮小・サブリースの空室リスク・過去の施工不良報道などの不祥事リスクを強く織り込んでいるとみられるが、これらは資本コストに足さず筋書きと確率で表した。空室率が全国的に上昇する局面が来れば、下振れも相応に大きい。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、原則30年続く一括借上げという継続収入と、136万戸という規模がもたらす切り替えコストの高さが、長く続く堀になっていると評価できる。資産を自社で保有せずに大きな売上を回す資産を使わないモデルは、再投資に要る資本が小さく、稼いだ利益のうち株主のものになる部分(オーナー利益)が相対的に大きい会社だと見られる。経営の資本配分は、配当性向50%を基本に自社株買いを積極的に組み合わせる還元姿勢と、アスコットTOB・米国進出という的を絞った成長投資の両立で、これまでのところ無理のない範囲にとどまっている。
一方で、過去に施工不良・不適切会計・営業手法に関する報道が相次いだ経緯は、経営の規律そのものへの確信度を下げる材料であり、わからない部分(信頼回復の持続性、アスコット統合の成否)には安全域を厚めに取る必要がある。国内の世帯数減という構造要因は避けられず、堀の広さがオーナーの契約継続という一点に強く依存している分、空室率の上昇や競合の攻勢によって堀が静かに狭まるリスクも同時に抱えている会社だと見る。
何で稼ぐ会社か
事業は3つの柱からなる。1つ目は建設事業で、地主の土地に賃貸アパート・マンションを企画・請負建築する。相続税対策(土地の評価額引き下げ、賃貸経営による納税資金の確保)が地主の建築需要を生み出す入口になっており、営業から設計・施工までを自社で一貫して手がける。2つ目は不動産賃貸事業で、建てた物件を一括借上げ(サブリース)し、入居者への転貸と建物管理を引き受ける。地主(オーナー)には入居率にかかわらず一定の借上げ賃料を保証する一方、実際の入居率は98%前後と高水準を維持しており、2026年9月末時点で136万戸を管理する国内最大の賃貸管理会社になっている。契約は原則30年の長期契約で、一度組んだオーナーが他社に切り替えるコストは大きい。3つ目は2025年にTOBで子会社化したアスコットを中心とする不動産開発事業で、東京都心部の分譲マンション・収益不動産(投資家向けの一棟売り物件)の開発・販売を手がける中期経営計画の新しい成長の柱になっている。
建設事業は請負金額(完工戸数×単価)で測れる一方、不動産賃貸事業は管理戸数に1戸当たりの年間収入(保証賃料や管理手数料など)を乗じた規模のストック収入で、建物を自社で保有せずに大きな売上を上げる資産を使わない収益構造が特徴になっている。この構造が、自己資本に対して売上高がおよそ4倍という高い回転率を生み、他社よりも高いROEの土台になっている。中期経営計画(2024〜2026年度)では最終年度に売上高2兆円・営業利益1,400億円・ROE20%以上を目標に掲げ、設備投資600億円のうち300億円以上をIT・DXに充て、老朽化した既存物件の建て替え提案に1,000億円を投じる方針を示している。
優良さと弱いところ
強みは、相続税対策という需要が尽きない入口と、一度契約すれば長期間続く一括借上げという継続収入の組み合わせにある。136万戸という管理規模は新規参入者が短期間で追いつけない規模の経済(営業網・資材調達・ノウハウの蓄積)を生み、入居率98%前後という実績がオーナーからの信頼を支えている。資産を自社で保有せずに高い売上回転率を実現するビジネスモデルは、同業のゼネコン・ハウスメーカーよりも資本効率が高く、ROEは過去10年17〜31%の範囲で一度も赤字にならずに推移してきた実績がある。
弱いところは、国内の世帯数減という構造的な縮小から建設事業が逃れられないことと、一括借上げという仕組み自体が空室率の上昇という形で収益性を侵されるリスクを抱えていることにある。過去には施工不良・不適切会計・営業手法に関する報道が相次ぎ(国交省の調査では大東建託に問題は見当たらなかったとされるが)、信頼を揺るがす事態が繰り返されればオーナーの契約離れにつながりうる。2025年に子会社化したアスコットを中心とする不動産開発事業はまだ統合の実証途中で、分譲・収益不動産市況が悪化すれば在庫リスクとして表面化する可能性がある。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の新設住宅着工は人口減・世帯数減を背景に構造的な縮小産業で、2025年度は前年度比12.9%減の71.1万戸まで落ち込んだ一方、2026年度は住宅ローン減税延長等の政策効果で反発する見通しが示されている。賃貸住宅(アパート)需要は単身世帯の増加・相続対策需要に支えられ戸建より相対的に底堅いが、供給が需要を上回れば空室率の上昇という逆風がある。大東建託自身も2025年1月から、金利上昇・空き家リスクを見据えて郊外の受注を抑え、家賃上昇が見込める三大都市圏へリソースを集中するエリアシフト戦略を進め、年間完工数は戦略的に前年比2割弱減った。
管理戸数で見ると、大東建託グループが136万戸で29年連続の首位、2位積水ハウスグループ72.1万戸、3位大和リビング67.6万戸、4位レオパレス21 54.6万戸、5位東建コーポレーション28.2万戸と続き、大東建託が単独で2位以下を大きく引き離す構図になっている。積水ハウス・大和ハウス・住友林業は米国の戸建住宅買収で成長を取りに行っているのに対し、大東建託は国内の管理戸数の積み上げと2025年のアスコットTOBによる不動産開発事業への展開、2024年の米国ロサンゼルス駐在員事務所開設(2029年までに米国で賃貸管理5万戸を目指す)という別の方向で成長の軸を探っている。資材高・技能労働者不足は業界共通の課題で、価格転嫁の定着度が各社の利益率を左右する。
資本政策と M&A
株主還元は配当性向50%を基本方針としつつ自社株買いを組み合わせ、2026年3月期は好業績を受けて配当を上乗せし、発行済み株式総数の2.7%(900万株、最大250億円)を上限とする自社株買いも実施するなど、還元は厚い水準にある。純有利子負債は実質ゼロ(わずかな純現金)で、借金の重さを気にせず還元と成長投資を両立できる財務体質になっている。
M&Aは2025年のアスコット(分譲マンション・収益不動産を主力とするデベロッパー)のTOBによる完全子会社化が直近の大きな動きで、買付代金は351億円、TOB公表前日の終値に29%弱のプレミアムを乗せた価格で成立した。不動産開発事業の仕入力・販売ルートの強化を狙ったもので、今後も東京都心部を中心とした同種の買収機会があれば、資本配分の巧拙を測る試金石になる。海外では米国での賃貸管理事業への初参入(2029年までに5万戸目標)も始まっており、国内の縮小を補う成長投資の一つとして位置づけられている。
点検済み(見落とし点検 2026-10-19):起点の純利益 990 億円に特別益は見当たらない。完工戸数は世帯減で実質 3 割縮め、単価は物価並みに置いて二重がけなし。自社株買いは株数(2026/06 時点)に反映済み。還元約 65% と自己資本の流れが整合していることを確かめた。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
相続税対策・土地活用という需要は地主の世代交代が続く限り尽きることがなく、一括借上げの長期契約によって一度取り込んだ136万戸という管理戸数はそう簡単には失われない。入居率98%前後という実績は、同業のレオパレス21が過去に施工不良問題で経営危機に陥った後も揺るがず、むしろ業界の信頼が大東建託に集まる形で管理戸数シェアを広げてきた。中期経営計画が掲げる売上高2兆円・営業利益1,400億円・ROE20%以上という目標は、建て替え提案への1,000億円投資とDXによる施工コスト削減が効けば十分に射程に入る。2025年のアスコットTOBで得た不動産開発事業は、東京都心部の高単価な分譲・収益不動産市場への入口を開き、建設・賃貸管理という既存の二本柱に第3の成長エンジンを加えた。米国での賃貸管理事業への参入も、国内の世帯数減という構造的な制約から離れた新しい成長の種になる。資産を自社で保有せずに高い回転率で稼ぐモデルは、他社が短期間で模倣できるものではなく、ROEが過去10年一度も大きく崩れなかった実績がそのまま10年後も続く可能性は十分にある。都市部へのエリアシフトが家賃上昇という形で結実し、空室率も低い水準を保てば、今の市場の評価は本質的な価値を見誤っている割安な状態にある。
慎重な見方
国内の世帯数減という構造要因は政策で変えられるものではなく、エリアシフト戦略で完工数を2割近く絞ったことは、縮小市場の中で選別を強いられている証拠でもある。一括借上げは一度契約を取れば安定収入になる一方、供給が需要を上回れば空室率の上昇という形でサブリース事業そのものの採算を直撃する。保証賃料を払い続ける義務を負う構造上、空室が増えても入居者が見つからない限りコストだけが積み上がりやすい。過去には施工不良・不適切会計・営業手法に関する報道が繰り返され、国交省の調査で大きな問題は見当たらなかったとされてはいるものの、一度信頼を損なう事態が起きればオーナーの契約解除・新規契約の鈍化という形で跳ね返るリスクは消えていない。2025年に子会社化したアスコットの不動産開発事業は、東京都心部の不動産市況が悪化すれば在庫の評価損という形で損失が表面化しやすい、まだ実証途中の事業でもある。米国の賃貸管理事業も規模がごく小さく、本格的な成長の柱になるには時間がかかる。積水ハウス・大和リビングなど競合も管理戸数を積み上げており、競争が激しくなれば管理手数料・保証賃料の条件面でシェアを守るための譲歩を迫られる可能性もある。構造的な縮小を一括借上げの規模の経済だけで永続的に相殺できるとは限らない。
どちらに重みを置いたか
一括借上げの長期契約と136万戸という規模が短期的な崩れにくさを支えている点では強気の見方に分があるが、国内の世帯数減という構造要因と空室率上昇のリスクは10年という長さで見ればじわじわ効いてくるため、やや悲観・悲観側にも相応の確率を残した。それでも中立のROE17〜18%前後に対して今のPBR2.10倍・PER10.5倍は低く、資本効率の高さを市場が十分に評価していない面があり、計算の結論は「やや割安」になった。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 7,695 円2.51 兆円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,296 円7,489 億円)。 今の値に割り戻すと 5,440 円1.77 兆円、今との差 +68.8%、 期待の年率 +12.0%(資本コスト 7.2%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 13% | 15,049 円4.91 兆円 | 3,494 円1.14 兆円 | +475.5% | +19.1% | 2,411 円7,863 億円 |
| やや楽観 | 22% | 10,935 円3.57 兆円 | 2,843 円9,274 億円 | +327.6% | +15.6% | 3,031 円9,888 億円 |
| 中立 | 32% | 8,084 円2.64 兆円 | 2,348 円7,659 億円 | +223.8% | +12.5% | 3,338 円1.09 兆円 |
| やや悲観 | 21% | 3,080 円1.00 兆円 | 1,633 円5,327 億円 | +46.3% | +3.9% | 990 円3,228 億円 |
| 悲観 | 12% | 833 円2,716 億円 | 1,016 円3,315 億円 | −42.6% | −5.4% | 222 円724 億円 |
| 加重平均 | 100% | 7,695 円2.51 兆円 | 2,296 円7,489 億円 | +210.1% | +12.0% | 9,991 円3.26 兆円 |
今の株価時価総額 3,222 円1.05 兆円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 13% 楽観:一括借上げの規模と不動産開発・海外が育つ 利益 2,267 億円 · PER 21.5 倍 · 株価時価総額 15,049 円4.91 兆円
国内の世帯数減は進むが、都市部への集中と建て替え提案(1,000億円投資)のエコシステムが定着し、完工戸数の縮小は緩やかにとどまる。不動産賃貸事業は管理戸数が海外分も含めて150万戸超に達し、入居率98%前後・緩やかな家賃上昇を保つ。アスコットを起点とする不動産開発事業は東京都心部の再開発・収益不動産で複数の追加M&Aを重ね、会社の利益の柱に育つ。米国の賃貸管理事業も軌道に乗り始め、国内の世帯数減という制約から離れた成長の種になる。施工品質・営業手法の問題は再発せず、オーナー・入居者の信頼は10年前より高まっている。配当性向50%を基本に自社株買いも積極的に続け、還元と成長投資を両立させる10年になる。
- 建設事業(賃貸アパート等の請負建築):数量 32,000(年間完工戸数(戸))× 価格 0.24(1戸あたり平均請負単価(億円))→ 売上 7,808 億円・営業利益 820 億円。建て替えエコシステムが定着
- 不動産賃貸事業(一括借上げ・管理運営):数量 165(年間平均管理戸数(万戸))× 価格 131(1万戸あたりの年間収入(億円))→ 売上 21,681 億円・営業利益 1,951 億円。海外含め管理戸数が150万戸超
- 不動産開発事業(分譲マンション・収益不動産):数量 320(年間販売件数(分譲マンション・収益不動産、件、推定))× 価格 14(1件あたり平均販売額(億円、推定))→ 売上 4,480 億円・営業利益 672 億円。追加M&Aで不動産開発が成長の柱に
倍率:事業の純利益 2,267 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 23.0% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 15.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 21.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 21.5 倍。全体の PER 21.49 倍、時価総額 48,714 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:資産を使わない高ROEモデルが10年続き、不動産開発事業と海外事業が本格的な成長の柱に育つという大きな構造が実現する組み合わせ。条件は多いが起こりうる。
やや楽観 22% やや楽観:国内縮小を不動産開発・管理戸数の拡大で補う 利益 1,738 億円 · PER 20.3 倍 · 株価時価総額 10,935 円3.57 兆円
国内の世帯数減で完工戸数は緩やかに縮むが、建て替え提案・都市部シフトがそれを部分的に補う。不動産賃貸事業は管理戸数が緩やかに増え続け、空室率も大きくは崩れない。アスコットを中心とする不動産開発事業は都心の開発需要に支えられ着実に拡大し、会社全体の利益の一角を占めるようになる。積水ハウス・大和リビングとの競争は続くが、大東建託の規模の優位は大きく崩れない。米国の賃貸管理事業は小規模ながら着実に戸数を増やし、国内縮小を補う一助になる。配当性向50%を基本とする還元と自社株買いも続け、資産を使わないモデルの余剰現金創出力を生かす、起伏の少ない10年になる。
- 建設事業(賃貸アパート等の請負建築):数量 28,000(年間完工戸数(戸))× 価格 0.23(1戸あたり平均請負単価(億円))→ 売上 6,384 億円・営業利益 607 億円。縮小を建て替え提案が一部補う
- 不動産賃貸事業(一括借上げ・管理運営):数量 155(年間平均管理戸数(万戸))× 価格 128(1万戸あたりの年間収入(億円))→ 売上 19,794 億円・営業利益 1,623 億円。管理戸数が緩やかに増加
- 不動産開発事業(分譲マンション・収益不動産):数量 260(年間販売件数(分譲マンション・収益不動産、件、推定))× 価格 13(1件あたり平均販売額(億円、推定))→ 売上 3,328 億円・営業利益 433 億円。都心開発需要で着実に拡大
倍率:事業の純利益 1,738 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 18.6% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.9%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.3 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.3 倍。全体の PER 20.29 倍、時価総額 35,254 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の構造縮小は避けられないが、不動産開発事業と管理戸数の積み上げがそれを着実に補うという、実現性の比較的高い組み合わせ。
中立 32% 中立:国内縮小と不動産開発・ストック収入の拡大が相殺し合う 利益 1,367 億円 · PER 19.0 倍 · 株価時価総額 8,084 円2.64 兆円
国内の世帯数減が一段進み、建設事業の完工戸数は10年で3割前後縮むが、単価は物価並みに上がる。不動産賃貸事業は空室率がやや上昇するものの、他社管理の取り込みや建て替え提案で管理戸数は小幅に増え続け、会社の収益の土台を支える。アスコットを中心とする不動産開発事業は都心の開発需要に支えられ緩やかに拡大する。積水ハウス・大和リビング・レオパレス21との競争は続くが、大東建託の首位は維持される。配当性向50%を基本とする還元は続けつつ、建て替え提案で既存物件の老朽化にも対応し、国内縮小を資産を使わないストック収入の拡大で相殺し合う10年になる。
- 建設事業(賃貸アパート等の請負建築):数量 24,000(年間完工戸数(戸))× 価格 0.21(1戸あたり平均請負単価(億円))→ 売上 5,062 億円・営業利益 445 億円。世帯数減が一段進む
- 不動産賃貸事業(一括借上げ・管理運営):数量 148(年間平均管理戸数(万戸))× 価格 124(1万戸あたりの年間収入(億円))→ 売上 18,352 億円・営業利益 1,376 億円。管理戸数は小幅増、空室率はやや上昇
- 不動産開発事業(分譲マンション・収益不動産):数量 210(年間販売件数(分譲マンション・収益不動産、件、推定))× 価格 12(1件あたり平均販売額(億円、推定))→ 売上 2,594 億円・営業利益 285 億円。都心開発需要で緩やかに拡大
倍率:事業の純利益 1,366 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.0% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.1%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.0 倍。全体の PER 18.96 倍、時価総額 25,909 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の世帯数減という構造縮小と、不動産賃貸・不動産開発事業の拡大がちょうど相殺し合う、業種ノートの中立前提に沿う最も重みを置く筋書き。
やや悲観 21% やや悲観:国内縮小が不動産開発・管理戸数の拡大を上回る 利益 786 億円 · PER 9.9 倍 · 株価時価総額 3,080 円1.00 兆円
国内の世帯数減のペースが想定より速く、建設事業の完工戸数が大きく縮む。賃貸市場では供給過多が常態化し、空室率の上昇が不動産賃貸事業の利益率を圧迫し続ける。アスコットを中心とする不動産開発事業も都心の不動産市況が軟化し、拡大ペースが鈍る。施工品質・営業手法に関する問題が時折再燃し、オーナーの契約継続率がじわじわ下がる。積水ハウス・大和リビングとの競争も厳しさを増し、管理手数料の条件面で譲歩を迫られる場面が増える。会社全体として国内縮小を補いきれず、優良さの評価がじわじわ下がる10年になる。配当は維持しつつも自社株買いの規模は縮め、守りの資本政策に傾いていく。
- 建設事業(賃貸アパート等の請負建築):数量 19,000(年間完工戸数(戸))× 価格 0.19(1戸あたり平均請負単価(億円))→ 売上 3,648 億円・営業利益 219 億円。完工戸数が大きく縮む
- 不動産賃貸事業(一括借上げ・管理運営):数量 138(年間平均管理戸数(万戸))× 価格 115(1万戸あたりの年間収入(億円))→ 売上 15,842 億円・営業利益 951 億円。空室率上昇が常態化
- 不動産開発事業(分譲マンション・収益不動産):数量 150(年間販売件数(分譲マンション・収益不動産、件、推定))× 価格 9.80(1件あたり平均販売額(億円、推定))→ 売上 1,470 億円・営業利益 88 億円。都心市況軟化で拡大ペースが鈍る
倍率:ROE 9.23%(純利益 786 億円 ÷ 自己資本 8,515 億円)。今の利益はそのまま残り、先で薄れるのは新しく投じるお金の稼ぎだけとみて、RONIC = k 7.25% + 残る割合 1/2 ×(ROE 9.23% − k)= 8.49%、長期の成長率 g 4% から正当化 PER = (1 − g÷RONIC)÷(k − g) = 14.1 倍。国内縮小・空室率上昇・信頼回復の遅れを重く見て、上限の 7 割 の 9.9 倍に置いた。
確率:国内の人口減のペースが想定より速く、不動産開発・管理戸数の拡大がそれを補いきれない組み合わせ。
悲観 12% 悲観:国内は構造的に負け、不動産開発事業も裏目に出る 利益 216 億円 · PER 8.9 倍 · 株価時価総額 833 円2,716 億円
国内では世帯数減が加速し、建設事業の完工戸数が大きく縮小、賃貸市場では空室率が全国的に高止まりし、保証賃料の負担が不動産賃貸事業の利益を圧迫し続ける。アスコットを中心とする不動産開発事業は都心の不動産市況の長期低迷で在庫の大幅な評価損を迫られ、のれんの減損も発生する。施工品質・営業手法に関する問題が繰り返し表面化し、オーナー・入居者双方の信頼が大きく損なわれ、競合(積水ハウス・大和リビング・東建コーポレーション)に管理戸数シェアを奪われる。会社全体として国内縮小と不動産開発事業の失敗が同時に進み、構造的に優良さを失った会社になっている10年になる。純現金という財務体質のため配当は細くても続ける。
- 建設事業(賃貸アパート等の請負建築):数量 12,000(年間完工戸数(戸))× 価格 0.17(1戸あたり平均請負単価(億円))→ 売上 1,984 億円・営業利益 50 億円。構造的な需要蒸発
- 不動産賃貸事業(一括借上げ・管理運営):数量 118(年間平均管理戸数(万戸))× 価格 97(1万戸あたりの年間収入(億円))→ 売上 11,470 億円・営業利益 401 億円。空室率高止まりで採算悪化
- 不動産開発事業(分譲マンション・収益不動産):数量 80.0(年間販売件数(分譲マンション・収益不動産、件、推定))× 価格 7.00(1件あたり平均販売額(億円、推定))→ 売上 560 億円・営業利益 −28 億円。のれん減損・在庫評価損
倍率:世帯数減で管理戸数シェアを奪われ、不動産開発事業ののれんも減損した構造的な負け筋で、利益は純利益 216 億円まで細る。ROE が k 7.25% 以下なので上限は 1÷k = 12.9 倍。悲観は、やや悲観よりさらに構造的に負けた姿なので、倍率をやや悲観(9.9 倍)より高くせず、その 9 割の 8.9 倍に置いた。時価総額 1919 億円(全体の PER に直して 8.9 倍)。
確率:国内の世帯数減・空室率上昇が深刻化し、同時に不動産開発事業(アスコット)の統合が裏目に出る、リーマン級の構造的な劣化を想定。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
建設事業(賃貸アパート等の請負建築)
地主からの請負で賃貸アパート・マンション等を企画・建築する。相続税対策・土地活用需要が入口。
| 数量年間完工戸数(戸) | 価格1戸あたり平均請負単価(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 34,585 | 0.16 | 5,443 | 452 |
| 10 年後 中立 | 24,000 | 0.21 | 5,062 | 445 |
取り方:2026年3月期の建設事業の完成工事高(決算短信、約5,442.8億円)を年間完工戸数34,585戸(会社発表の完工数ランキング)で割って1戸当たり平均単価を逆算した。単価は名目(物価・都市部シフトで上昇)、戸数は実質で、2025年1月からのエリアシフト戦略により前年より減っている
不動産賃貸事業(一括借上げ・管理運営)
建築した物件を一括で借り上げ、入居者への転貸と建物管理を行うサブリース事業。原則30年の長期契約。
| 数量年間平均管理戸数(万戸) | 価格1万戸あたりの年間収入(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 130 | 93 | 12,031 | 856 |
| 10 年後 中立 | 148 | 124 | 18,352 | 1,376 |
取り方:2026年3月期の不動産賃貸事業の売上高(決算短信、約1兆2,030.9億円)を年間平均管理戸数130万戸(2026年9月末時点の136万戸から逆算した期中平均に近い値)で割って1万戸当たりの年間収入を逆算した。価格は家賃上昇・物価上昇を反映した名目、戸数は実質
不動産開発事業(分譲マンション・収益不動産)
2025年にTOBで子会社化したアスコットを中心に、分譲マンション・投資家向け一棟売り物件を開発・販売する。
| 数量年間販売件数(分譲マンション・収益不動産、件、推定) | 価格1件あたり平均販売額(億円、推定) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 150 | 9.81 | 1,471 | 185 |
| 10 年後 中立 | 210 | 12 | 2,594 | 285 |
取り方:2026年3月期の不動産開発事業の売上高(決算短信、約1,470.8億円。アスコットの連結子会社化が寄与)を、分譲マンション・収益不動産の年間販売件数150件(アスコットの事業規模からの推定)で割って1件当たりの平均販売額を逆算した。件数・単価ともに開示が無いための推定値
リスクと懸念
国内世帯数減という構造的な縮小
新設住宅着工は人口減・世帯数減という構造要因から逃れられず、建設事業の完工戸数は長期的に縮小が続く。地主の建築意欲が相続税対策という入口に頼る分だけ、世代交代のペースや税制の変化にも影響されやすく、10年という長さで見れば縮小の速度が会社の想定より速いリスクも相応にある。
サブリースの空室リスク・保証賃料の重荷
一括借上げは建築後も長期の家賃保証義務を負うため、賃貸市場で供給が需要を上回れば空室率の上昇という形で不動産賃貸事業の採算を直撃する。136万戸という規模は裏を返せば保証賃料の負担も大きく、空室率の悪化が利益の重荷になりやすい構造を抱えている。
施工品質・営業手法などレピュテーションリスク
過去に施工不良・不適切会計・営業手法に関する報道が繰り返され、国交省の調査では大きな問題は見当たらなかったとされるものの、一度信頼を損なう事態が起きればオーナーの契約解除・新規契約の鈍化という形で跳ね返るリスクが消えていない。同業レオパレス21の経営危機はこの種のリスクの大きさを示す実例になっている。
不動産開発事業(アスコット)の市況・統合リスク
2025年にTOBで子会社化したアスコットを中心とする不動産開発事業は、東京都心部の分譲マンション・収益不動産市況に業績が直結する。統合はまだ実証途中で、不動産市況が悪化すれば在庫の評価損・のれんの減損という形で損失が表面化しやすい、相対的にボラティリティの高い事業である。
金利上昇がオーナー・入居者の投資判断に与える影響
大東建託自身は純現金で借金の重さは問題にならないが、金利が上がれば地主のアパートローン負担や投資家の収益不動産への投資意欲に影響し、建設事業・不動産開発事業の需要そのものが鈍る可能性がある。入居者側の実質賃金が追いつかなければ、家賃上昇の受け入れにも限界が来る。
積水ハウス・大和リビング・レオパレス21等との競争
管理戸数では大東建託が単独で首位だが、積水ハウスグループ・大和リビング・レオパレス21・東建コーポレーションなど複数の競合が管理戸数を積み上げており、競争が激しくなれば管理手数料・保証賃料の条件面でシェアを守るための譲歩を迫られる可能性がある。
海外展開(米国)の実証不足
2024年に米国で賃貸管理事業に初参入し、2029年までに5万戸を目指す方針を示しているが、規模はまだごく小さく、国内で培った一括借上げのノウハウが米国の賃貸市場・法制度でそのまま通用するかは実証途中である。
今後の分かれ目
- 新設住宅着工・貸家着工の指標が会社計画を明確に下回り続けたら
- やや悲観・悲観側に重みを移す。特に建設事業の完工戸数と不動産賃貸事業の管理戸数の増加ペースを確認する。
- 管理戸数の空室率が全国平均で明確に上昇する統計が出たら
- やや悲観側に重みを移す。一括借上げ事業の採算悪化の先行指標になる。
- 施工品質・営業手法に関する新たな問題が報道されたら
- 信頼を測る指標として重く見る。新規契約・既存オーナーの契約継続率への影響を確認し、悲観側の確率を上げる。
- アスコットを中心とする不動産開発事業の販売件数・利益率が会社計画を上回るペースで拡大したら
- 楽観・やや楽観側の確率を上げてよい。統合の実証が積み上がった証拠になる。
- 米国の賃貸管理戸数が目標(2029年に5万戸)に向けて着実に積み上がったら
- 国内縮小から離れた新しい成長の柱が育ちつつあるとみて、楽観・やや楽観側の確率をやや上げる。
- 自社株買い・配当が計画を上回るペースで拡大したら
- 資産を使わないモデルの余剰現金創出力が確認されたとみて、中立〜やや楽観側の確率をやや上げる。
見ておくもの
- 年間完工戸数・受注工事高・受注工事残高の推移
- 管理戸数(万戸)と入居率(空室率)の推移
- 不動産開発事業(アスコット)の販売件数・在庫・利益率
- 米国の賃貸管理戸数と展開ペース
- 自社株買い・配当の実施状況と配当性向
- 施工品質・営業手法に関する報道・行政処分の有無
倍率と資本コストの決め方
数量(完工戸数・管理戸数・不動産開発の販売件数=実質)と単価(物価3%を入れた名目)を積み上げ、不動産賃貸事業は管理戸数×1戸当たり年間収入という資産を使わないストック収入の形に分けた。倍率は利益で決め、新しく投じるお金の稼ぎ(RONIC=k 7.25%+1/2×(ROE−k)。基本7.5%+quality0.25%)と長期g 4%から正当化PERを出し、その7〜7.5割に置いた(信頼回復の持続性の不確実さから上限ぎりぎりには置かない)。中立はROEが資本コストを上回るため床(純利益÷k)を割らないようにした。純現金の会社なのでEVでの確認は行っていない。悲観(10年)は不動産開発事業のれんの減損を見込んで自己資本を引き下げ、稼ぐ力(谷の純利益÷k)で測った。今の株価は最後に比べただけ。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 14.8→21.49 倍・やや楽観 PER 13.9→20.29 倍・中立 PER 12.1→18.96 倍)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 0.25% = 7.75%。理由は quality_why。個別のリスク(不祥事・M&A の実行など)は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.75% → 7.25%。
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