結論
イチケンは、スーパーや宿泊施設、分譲マンションを建てる、民間建築に強い中堅ゼネコンだ。パチンコ大手のマルハンが4割を持つ筆頭株主でもある。筆者の結論は「やや割高」。直近の利益は過去最高だが、10年で見れば価値は今の時価総額に届かない。
強みは、小売の店舗づくりで長年磨いた施工力だ。工事の採算を選んで受ける方針が実り、営業利益率は2期で3%台から8%台へ上がった。今期は10%の見込みで、会社は計画を上方修正した。
弱みは三つある。利益が好況の数年に偏ること。取引先が小売と不動産に偏ること。そして、利益をためても資本の稼ぎが上がらないことだ。自己資本比率は5割を超え、実質は無借金だが、ためた現金は利益をほとんど生まない。
中立の筋書きでは、営業利益は10年後に90億円ほど。利益率は今より下がるが、実績から見て妥当な水準だ。今の値段は、好調がそのまま続く姿まで織り込んでいる。安全域はない。
読むうえで大事なのは、利益の水準そのものより、その持続性だ。筆者は、持続しにくい部分を割り引いて見る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、ゼネコンは「利益が景気で振れ、毎年仕事を取り直す」事業だ。堀が浅く、利益を長く守る力は強くない。イチケンもその例外ではない。
株主が受け取れる利益は、純利益の6〜7割ほどだと筆者は見る。工場も店も要らず、再投資は多くない。ただ、人が増えない限り受注量は増やせず、利益を再投資する先も限られる。
経営の資本配分は、慎重な部類に入る。無借金で、買収も小粒だ。割高な買収で価値を壊す心配は小さい。一方、ためた現金の使い道は、まだ見えない。配当を厚くしたのは前向きな動きだが、それでも自己資本は年々厚くなる。
安全域は薄い。数字だけの話ではなく、10年後も同じ強さで稼いでいるかが分からないからだ。楽観の筋書きでも、今の値段を大きくは上回らず、悲観では売れる資産まで落ちる。稼ぐ力は申し分ないが、払う値段がそれを織り込みすぎているなら、筆者は手を出さない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は建築だ。売上のおよそ9割を占め、中身は商業施設が65%、マンションが25%、残りが工場や物流施設などになる。スーパー、スポーツジム、宿泊施設の新築と改装が主力で、小売業が自社の店を建て替える時の請負先として選ばれやすい。
土木は小さい。2024年に千葉の片岡工業を買って、道路や舗装の工事を持ち込んだ。官公庁向けが中心で、売上は数十億円にとどまる。会社は土木を全体の1割まで引き上げたい考えだ。
不動産事業は、建設事業を補う位置づけだ。販売用の不動産を仕入れて売り、開発の利益を積む。販売用不動産と仕掛かりの残高は合わせて約75億円で、中期経営計画は不動産開発に40億円を投じるとしている。
海外ではベトナムが次の芽として挙がる。ただ、まだ数字に表れるほどの規模ではない。連結の従業員は約690人。工事を現場で支えるのは、協力会社の職人たちだ。大きな会社ではない分、人の数が受注できる工事の量を決める。取引先は小売業、ホテル、不動産会社が中心で、一つひとつの案件は数十億円規模のものが多い。
優良さと弱いところ
優良さを一言で言えば「採算を選べるようになった小さな専門家」だ。堀、つまり他社がまねできない強みは、深くはない。
強みは三つある。一つ目は、ダイエーの時代から続く店舗づくりの経験だ。営業しながら店を改装する工事は手間がかかり、手慣れた会社が重宝される。二つ目は、マルハンという大株主が持つ案件の供給と信用だ。三つ目は、資材と労務費の上昇を価格に転嫁できるようになったことだ。
弱みも三つある。一つ目は、価格を決める力が弱いこと。発注者は相見積もりを取る。二つ目は、取引先が小売業に偏ること。出店が鈍れば受注が細る。三つ目は、規模の小ささだ。大型案件を一つ失えば、利益が大きく振れる。営業利益率がほぼゼロの年は、1997年・2002年・2011年の3度ある。
資本の使い方は、これから問われる。実質無借金で、自己資本比率は5割を超える。ただ、利益の4割ほどを配当に回し、残りをためる形では、ROEは自然に下がる。ためた資本を事業で生かせるかが勝負だ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の建築市場は、量が増えない成熟市場だ。人口が減り、店舗の数も長い目では減る。それでも今は「作れば儲かる」局面にある。2024年4月に残業の上限規制が始まり、技能者の確保が難しくなった。受け手のゼネコンは仕事を選べるようになり、値上げが通る。上場ゼネコン50社の2025年度の受注は16兆円台で、利益率は過去最高だった。
イチケンの競合は、準大手から地場までの中堅ゼネコンと、店舗や住宅を専門にするハウスメーカー系の施工会社だ。市場は分散していて、特定の分野で強みを持つ会社が生き残る。商業施設では、大手が手がけない小さな案件も多く、そこで小回りが利く。
追い風は、物流施設と宿泊施設の投資、そして老朽化した店舗の更新だ。向かい風は、資材高が一服した時の価格競争と、小売の出店ペースの鈍化になる。
10年先は、投資の波が一巡し、実質では横ばいから緩やかな縮小になると筆者は見る。人手が足りない業界では、売上を伸ばす力より、採算を守る力が会社の差になる。小さな会社の再編も進む。地場のゼネコンの事業承継型の買収が増えれば、イチケンのような専門型の会社は買い手にも売り手にもなりうる。
資本政策と M&A
資本政策の柱は、配当性向40%程度、または純資産配当率4%程度の還元だ。2026年から3年間の株主還元は合計55億円。今期の配当は、配当性向で3割台半ばまで増える見込みだ。
成長投資は3年で100億円。不動産開発に40億円、M&Aに35億円、人材に15億円、DXに10億円を回す。ビジョン2035は10年で400億円の投資を掲げ、売上1,500億円とROE10%を目標とする。
M&Aは小粒だ。2024年に片岡工業を買い、土木の入り口を作った。大きな買収で価値を壊すタイプではなく、今後も同じ規模の買収が続くだろう。
株主面では、マルハンが4割を持つ。2025年にはマルハンが公開買付けで持株を積み増し、上場は維持された。完全子会社化は否定されていないが、今のところ動きはない。保有比率が高く、少数株主にとっては買取りの価格が焦点になる。政策保有株は約16億円と小さく、持ち合いの整理は課題ではない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
採算を選んで受ける方針が、ようやく数字に出た。営業利益率は2期連続で上がり、今期の見込みは10%だ。8月には通期の営業利益を80億円から105億円へ引き上げた。大型案件の追加発注と、資材・労務費の転嫁が効いている。
次の柱も育つ。片岡工業の買収で土木の入り口ができ、不動産開発には40億円が回る。ビジョン2035は、売上1,500億円を掲げる。国内の小売やホテルの更新投資が続けば、この数字は物価の分だけでも半ばまでは届く。マルハンが持株を4割へ積み増したことで、案件の供給と信用も安定した。
資本の使い方も変わった。配当性向は40%程度に上がり、今期は大きな増配となる見込みだ。実質無借金で自己資本比率は5割を超え、谷が来ても耐える体力がある。
人手不足は、選別受注の追い風でもある。技能者の賃金が上がる中で、工事を選べる会社は強い。工事を選べる会社は、採算の悪い案件を断れる。小さな会社ほど、この恩恵を受けやすい。10年で見ても、利益率が6%台を保つなら、ROEは高い水準に戻る。
慎重な見方
今の利益は、数年に限った山だ。営業利益率は過去30年に0%から8.5%まで振れ、最高の年がいまの水準だ。2023年3月期にも利益は3%まで落ちた。資材高の転嫁が進んだのは需給が締まっているからで、民間投資が一巡すれば崩れうる。
取引先の偏りも気になる。受注の中心は小売と不動産で、出店が鈍れば真っ先に細る。人口が減る日本で、店舗数が増える理由は見つけにくい。マルハンの案件を持ち込めても、それが固定費を埋めるほど大きいかは分からない。
資本の効率も弱い。配当を増やしても、自己資本は10年で倍になる。ためた現金は利息を少ししか生まず、ROEは自然に下がる。会社は目標を10%とするが、資本が膨らむ中でそれを守るのは難しい。
買収は片岡工業だけだが、土木で採算を出す難しさは大手でも変わらない。小さな会社が複数の事業に手を広げて、本業の力を薄める恐れもある。さらに、10年先の受注を支える店舗の新設は、日本では減っていく。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方が少し強い。事業の質と経営の改善では強気の見方に分があるが、値段を決めるのは、利益が長く続くかと、ためた資本が稼ぐかどうかだ。そこで慎重な見方の指摘が勝つ。確率は、中立に4割弱を置き、残りを慎重側にやや厚くした。悲観を1割強に置いたのは、過去に営業利益がほぼゼロに沈んだ年があり、規模も小さいからだ。強気の見方が挙げる今期の増益は、近い年の話で、10年後の利益を保証しない。選別受注の効果は認めるが、利益率は物価の波と受注の質に左右される。両方の力が働くため、中立は営業利益率6%台の、今より控えめな水準で置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 5,162 円749 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,582 円230 億円)。 今の値に割り戻すと 3,468 円503 億円、今との差 +2.9%、 期待の年率 +7.2%(資本コスト 8.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 10,306 円1,496 億円 | 2,542 円369 億円 | +281.2% | +14.3% | 771 円112 億円 |
| やや楽観 | 16% | 7,780 円1,129 億円 | 2,142 円311 億円 | +194.4% | +11.4% | 1,588 円230 億円 |
| 中立 | 38% | 6,279 円912 億円 | 1,757 円255 億円 | +138.5% | +9.1% | 3,054 円443 億円 |
| やや悲観 | 27% | 2,553 円371 億円 | 1,254 円182 億円 | +13.0% | +1.2% | 1,028 円149 億円 |
| 悲観 | 13% | 1,722 円250 億円 | 620 円90 億円 | −30.5% | −3.6% | 304 円44 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,162 円749 億円 | 1,582 円230 億円 | +100.1% | +7.2% | 6,744 円979 億円 |
今の株価時価総額 3,370 円489 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 6% 商業施設とマンションで受注を伸ばし、利益率も保つ 利益 100 億円 · PER 14.9 倍 · 株価時価総額 10,306 円1,496 億円
出店と改装の波が10年続き、商業施設の施工量が実質で1割増える。マルハンの案件に加え、物流施設と宿泊施設でも取引先が広がる。建築の利益率は10%を保ち、土木は片岡工業の買収で倍の規模になる。不動産は開発と売却の回転が上がり、残高は3倍強に育つ。
ビジョン2035が掲げる売上1,500億円は、物価の分を含めて達成される。営業利益は140億円台、純利益は100億円に近づく。配当性向45%を守っても自己資本は積み上がるが、稼ぐ力が資本の増え方を上回り、ROEは10%台後半の手前で保たれる。小さなゼネコンが採算を選び続ける、最良の姿だ。
- 建築(商業施設・マンション・工場):数量 154(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.57(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 1,474 億円・営業利益 147 億円。154万人日換算 × 1人日あたり 9.57万円、利益率 10.0%
- 土木(片岡工業):数量 10.6(施工量(万人日、実質))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 107 億円・営業利益 7 億円。10.6万人日換算 × 1人日あたり 10.08万円、利益率 7.0%
- 不動産:数量 250(販売用・仕掛かり不動産の残高(億円、今の値段で測った実質))× 価格 0.39(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目。売却の回転))→ 売上 97 億円・営業利益 17 億円。残高 250億円 × 回転 0.389、利益率 18%
倍率:事業の純利益 100 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.8% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.9 倍。全体の PER 14.92 倍、時価総額 1,492 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10年を通じて採算を選び続け、買収と不動産も当たる筋書き。連続して当たる必要があり、確率は低く置く。
やや楽観 16% 転嫁が定着し、採算が高めで続く 利益 78 億円 · PER 14.0 倍 · 株価時価総額 7,780 円1,129 億円
資材と人件費の転嫁が定着し、建築の利益率は9%台前半で落ち着く。商業施設の改装需要は底堅く、マンションの受注も大きくは崩れない。工場や物流施設の更新も、一定の量で続く。土木は片岡工業の受注が伸び、構成比が数%に届く。小さな会社でも、得意分野を持てば利益率は高く保てる。不動産は残高が倍以上になり、売却益が毎年の利益に積み上がる。
営業利益は110億円前後。配当性向40%を続けるため、自己資本はゆっくり増え、ROEは9%台にとどまる。中期経営計画の数字には届かないが、過去10年の実績よりは明らかに強い会社として残る。
- 建築(商業施設・マンション・工場):数量 144(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.57(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 1,381 億円・営業利益 127 億円。144万人日換算 × 1人日あたり 9.57万円、利益率 9.2%
- 土木(片岡工業):数量 6.9(施工量(万人日、実質))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 70 億円・営業利益 5 億円。6.9万人日換算 × 1人日あたり 10.08万円、利益率 6.5%
- 不動産:数量 175(販売用・仕掛かり不動産の残高(億円、今の値段で測った実質))× 価格 0.39(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目。売却の回転))→ 売上 68 億円・営業利益 11 億円。残高 175億円 × 回転 0.389、利益率 16%
倍率:事業の純利益 78 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.2% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.0 倍。全体の PER 13.98 倍、時価総額 1,090 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:値上げが物価並みに通り、選別受注で粗利が保たれる姿。国内の量が伸びない制約があり、これ以上は厚く置かない。
中立 38% 量は横ばいで、採算は少し戻る 利益 63 億円 · PER 13.2 倍 · 株価時価総額 6,279 円912 億円
建築の施工量は実質で3%ほど減り、価格は物価並みに上がる。利益率は今の10%台から8%台後半へ戻る。いまの水準は、転嫁が一気に進んだ数年に限った特別な高さだと見るからだ。土木は片岡工業が小さく伸びる程度で、不動産は残高が1.5倍になる。
営業利益は90億円前後、純利益は63億円ほどになる。配当性向は40%に近く、自己資本は800億円台まで積み上がる。分母が膨らむぶん、ROEは8%にとどまり、資本コストの手前に収まる。商売は堅いが、積んだ現金を生かし切れない10年だ。大きな成功も失敗もなく、時間だけが過ぎる。
- 建築(商業施設・マンション・工場):数量 136(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.57(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 1,300 億円・営業利益 112 億円。136万人日換算 × 1人日あたり 9.57万円、利益率 8.6%
- 土木(片岡工業):数量 5.3(施工量(万人日、実質))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 53 億円・営業利益 3 億円。5.3万人日換算 × 1人日あたり 10.08万円、利益率 6.0%
- 不動産:数量 120(販売用・仕掛かり不動産の残高(億円、今の値段で測った実質))× 価格 0.39(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目。売却の回転))→ 売上 47 億円・営業利益 7 億円。残高 120億円 × 回転 0.389、利益率 15%
倍率:事業の純利益 63 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 9.0% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.2 倍。全体の PER 13.24 倍、時価総額 834 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:量は実質でわずかに減り、価格は物価並み。採算は今の高さから一部戻る。会社の計画が部分的に効く、いちばん標準的な姿。
やや悲観 27% 出店の鈍化と競争で採算が細る 利益 36 億円 · PER 8.3 倍 · 株価時価総額 2,553 円371 億円
小売の出店と改装が鈍り、建築の施工量が実質で1割強減る。転嫁は止まり、人件費の上昇だけが残る。建築の利益率は6%台まで戻り、営業利益は50億円前後になる。本社費は物価で増えるため、売上が落ちても重さは変わらない。受注の質より量を優先する場面も増え、粗利が削られる。
不動産は売却益が細り、土木の黒字もわずかだ。配当は守るが性向は下がり、自己資本は700億円弱にとどまる。ROEは5%台で、資本コストをはっきり下回る。市場からは、現金をためるだけの会社と見られる。小さな会社が採算を選べなくなると、建て直しにも時間がかかる。
- 建築(商業施設・マンション・工場):数量 123(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.57(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 1,180 億円・営業利益 77 億円。123万人日換算 × 1人日あたり 9.57万円、利益率 6.5%
- 土木(片岡工業):数量 4.5(施工量(万人日、実質))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 45 億円・営業利益 2 億円。4.5万人日換算 × 1人日あたり 10.08万円、利益率 4.0%
- 不動産:数量 76.0(販売用・仕掛かり不動産の残高(億円、今の値段で測った実質))× 価格 0.39(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目。売却の回転))→ 売上 30 億円・営業利益 2 億円。残高 76億円 × 回転 0.389、利益率 8%
倍率:ROE 5.1%(純利益 36 億円 ÷ 自己資本 698 億円)。事業の ROE が資本コスト k 8% 以下なので、正当化 PER の上限は 1÷k = 11.1 倍。出店が鈍り採算の戻った局面で、上限の 7 割 5 分の 8.3 倍に置いた。
確率:商業施設の出店が鈍り、民間工事の競争が戻る姿。今の利益率は需給が締まった数年の山と見るため、中立に近い厚みで置く。
悲観 13% 構造的に負け、小さな民間ゼネコンに戻る 利益 5 億円 · PBR 0.6 倍 · 株価時価総額 1,722 円250 億円
構造的に負ける。人口減で店舗数が減り、新規出店の工事が細る。マンションの分譲も、金利の上昇で動きが鈍る。大手が改装まで取りにきて、価格競争が戻る。建築の利益率は4%まで落ち、本社費を払うと営業利益はほぼ消える。
買収した片岡工業と不動産の開発でも評価損が出て、自己資本は減損で目減りする。マルハンの関連案件に頼る度合いは強まるが、それだけでは固定費を賄えない。配当は小さくなる。大株主のマルハンが支えても、ほかの株主にとっては厳しい。稼ぐ力は戻らず、残るのは現金と販売用不動産などの売れる資産で、会社の価値はそこまで下がる。
- 建築(商業施設・マンション・工場):数量 98.1(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.14(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 896 億円・営業利益 36 億円。98万人日換算 × 1人日あたり 9.14万円、利益率 4.0%
- 土木(片岡工業):数量 4.2(施工量(万人日、実質))× 価格 9.63(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 40 億円・営業利益 0 億円。4.2万人日換算 × 1人日あたり 9.63万円、利益率 0%
- 不動産:数量 76.0(販売用・仕掛かり不動産の残高(億円、今の値段で測った実質))× 価格 0.37(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目。売却の回転))→ 売上 28 億円・営業利益 0 億円。残高 76億円 × 回転 0.371、利益率 0%
倍率:稼ぐ力は純利益 5 億円で、k 8% で割っても 60 億円ほどにしかならず、床は売れる資産で測る。総資産約 745 億円を強制売却で 8 割しか回収できず、負債約 345 億円は全額払うとして残る約 250 億円を、今の自己資本 400 億円に対する PBR 0.625 倍に置いた。
確率:商業施設の需要が構造的に縮み、取引先も限られた会社が、採算を保てなくなる筋書き。営業利益率がほぼ0%の年が過去に3度ある小さな会社なので、1割強を置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
建築(商業施設・マンション・工場)
スーパー・ジム・宿泊施設・分譲マンション・物流施設などを請け負って建てる。売上の約9割。
| 数量施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質) | 価格1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 140 | 7.14 | 1,000 | 107 |
| 10 年後 中立 | 136 | 9.57 | 1,300 | 112 |
取り方:連結売上1,062億円のうち、建設事業の大半を建築と置いた。開示は建設と不動産の2つのため、建築約1,000億円・土木約40億円・不動産約22億円は筆者の推定。利益は建設事業の利益から本社費を除いた形で約107億円と置く。施工量は、技能者の労務費を売上の約35%、日当を約2.5万円と置いて約140万人日と推定した。物価の分は価格に入る。
土木(片岡工業)
2024年に買収した片岡工業が担う道路・舗装などの官公庁向け工事。会社は土木を全体の1割まで引き上げたい。
| 数量施工量(万人日、実質) | 価格1人日あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 5.3 | 7.52 | 40 | 2 |
| 10 年後 中立 | 5.3 | 10 | 53 | 3 |
取り方:土木は連結の売上数十億円と推定した(2025年3月期の連結の土木売上は約17億円で、片岡工業は2024年7月の買収後から入る)。建築と同じ要領で労務量に換算した。官公庁向けは機械・材料の割合がやや高く、1人日あたり売上は建築よりやや高い。
不動産
販売用不動産を仕入れて開発・売却する事業。中期経営計画は3年で40億円を投じる。
| 数量販売用・仕掛かり不動産の残高(億円、今の値段で測った実質) | 価格残高1億円あたりの年間売上(億円・名目。売却の回転) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 76.0 | 0.29 | 22 | 4 |
| 10 年後 中立 | 120 | 0.39 | 47 | 7 |
取り方:売上約22億円・利益約4億円と推定(開示は不動産事業の合計のみ)。2025年3月期の販売用不動産54億円と仕掛かり22億円を残高76億円と置いた。数量は実物の資産の残高で、増えるのは会社の投資計画(3年で40億円)による積み増し。名目の伸びを数量に置いたものではなく、物価は価格の1.34倍だけで見ている。
リスクと懸念
好況の山を越えて、受注と採算が崩れる
営業利益率は直近で8.5%と、過去30年で最も高い。景気や民間投資が一巡すれば、先に崩れるのは新規受注と採算だ。過去にも2023年3月期に3%まで落ち、15年で営業利益がほぼゼロの年が3回ある。小さな会社なので、振れ幅は大手より大きい。
取引先が小売と不動産に偏る
建築の受注は商業施設が6割強、マンションが2割台半ばを占める。小売の出店が鈍ったり、不動産市況が冷えたりすれば、受注が細る。人口減の日本で、店舗数が増える見通しは立てにくい。大型の取引先が1社抜けるだけでも、利益に響く。
人手不足で施工量が頭打ちになる
連結従業員は約690人と、規模が小さい。技能者や現場監督を増やせなければ、受注があっても売上に変えられない。労務費は物価以上に上がる局面もあり、採算を削る。協力会社への依存も大きい。
大株主マルハンとの関係
マルハンは4割を持つ筆頭株主で、2025年には公開買付けで持株を積み増した。案件の供給と信用の面では強みだが、少数株主の立場では、親会社の都合に事業が引っ張られる懸念がある。完全子会社化の可能性もあり、価格が合うかは別の話になる。
土木・不動産への展開で本業の力が薄れる
2024年に買収した片岡工業は、官公庁向けの土木で、民間建築とは営業も人材も異なる。不動産開発も金利が上がれば売却益が細る。中期経営計画は3年で100億円を投じるが、小さな会社が複数の事業に手を広げる難しさは残る。
ためた現金が稼ぎを生まない
実質無借金で、自己資本比率は5割を超える。配当性向40%程度でも、残りの利益がたまり、自己資本は10年で倍になる。資本が膨らむとROEは下がる。買収や不動産開発で外せば、現金の価値を落とす恐れもある。
今後の分かれ目
- 完工総利益率が2期続けて10%を割ったら
- 転嫁の局面が終わったと見て、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- マルハンが追加の公開買付けで持株を5割超へ積み増したら
- 少数株主への買取り価格が焦点になる。ただし事業の価値は変わらず、筋書きの数字は動かさない。
- 中期経営計画の売上1,100億円・営業利益率7%を、2期早く達成したら
- 計画の保守性が確かめられ、中立の利益率を少し上へ直す。
- ためた現金を、割高な買収に回したら
- 資本の使い方の評価を下げ、悲観の確率を上げる。
- 商業施設の新築・改装の受注が2期続けて減ったら
- 取引先の偏りが表に出たと見て、建築の施工量を実質で1割減らす。
- 片岡工業の黒字化と、土木10%の構成比が見えてきたら
- 事業の幅が広がったと見て、やや楽観の確率を少し増やす。
見ておくもの
- 四半期ごとの受注高と繰越工事の推移
- 建築の完工総利益率
- マルハンの持株比率と追加の公開買付け
- 販売用不動産の売却益と残高
- 片岡工業を含む土木の売上と利益
- 配当性向と自己資本の積み上がり方
倍率と資本コストの決め方
倍率は、ROE が資本コスト k 8%(基本 7.5% + quality 1.5%)に届かない前提で、正当化 PER の上限(1÷k = 約11.1 倍)の 8 割 5 分に置いた。悲観は谷の利益でなく、総資産の8割回収・負債全額払いで残る売れる資産(約250億円)で測り、谷のPBRは使っていない。今の株価や今の PER を見てから決めたわけではない。純現金 86 億円は時価総額の 17% あるが、未成工事受入金などの運転資金で説明できるため分けていない。政策保有株は約16億円と小さく、含み益は考慮していない。営業利益率は直近の8.5%(過去最高)より低い6.5%を中立に置いた。リースは軽く(リース資産約1.5億円)、新リース会計の影響は小さいが、10年後の数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。セグメント別の数字は推定で、数量と価格の分け方には誤差がある。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11→14.92 倍・やや楽観 PER 9.6→13.98 倍・中立 PER 9.4→13.24 倍)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 1.5% = 9.0%。理由は quality_why。個別のリスク(大株主との関係・買収の実行)は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.00% → 8.00%。