結論
日比谷総合設備は、ビルやデータセンターの空調・衛生・電気の設備を設計し、施工する中堅の工事会社だ。売上の約 4 割が NTT グループ向けで、2026 年 3 月期は営業利益が前の年の 4 割増しになり、過去最高をつけた。
筆者の結論は、今の値段はやや高いというものだ。会社の質は悪くない。ただ営業利益率は 11% 台まで上がり、過去 10 年の中心である 5〜7% の倍近い。この高さが 10 年続くとは置きにくい。
稼ぎの源は単純だ。顧客の建物が建つか、古い設備を替えるたびに工事が入る。受注残は 1,000 億円を超え、1 年分の仕事が手元にある。データセンターの液冷では NTT データなどと組み、施工の実績を積んでいる。
財務は厚い。借金はほぼなく、現預金と有価証券で 340 億円台ある。ただ、工事会社は代金の回収が遅く、支払いの波もある。この現金のすべてが余りではない。筆者は、事業に要らない分を 150 億円ほどと見て、取引先の株の含み益は配当が純利益に入っているので足していない。
中立の筋書きは、営業利益率が 11% 台から 9% 弱へ戻る姿だ。会社は「特別に儲かる中堅」から「安定して強い中堅」へ評価が移る。強気の見方が当たれば、今の値段でも高くない。ただ、その確率は高くないと筆者は考える。
バリュー投資の観点から
事業の本質は、他人の建物に入る専門工事だ。設備を持たず、人の腕で仕事を仕上げる。借金が要らず、稼ぎの多くを株主に返せる。この点は、バリュー投資の観点では好ましい。
ただし、10 年先は読みにくい。受注は景気と顧客の投資で動き、売上の 4 割弱は一つのグループに頼る。堀、つまり他社がまねできない強みは、技術よりも顧客との関係に近い。関係は長く続くが、技術で守られた堀ほど強くはない。
この 2 年で利益は 2 倍近くになった。筆者は、その半分は追い風で、半分は会社の努力と見ている。採算の管理を細かくしたのは本物の改善だ。しかし、需要が落ち着けば、同業の値引きは戻る。
資本の使い方は、堅実だ。無理な買収をせず、配当を引き上げ、持ち合い株の縮減を掲げた。ただ、現金と株の保有で自己資本の 8 割近くを占める。事業に使われていない資産が厚く、ROE が低くなる原因はここにある。
払う値段には、まだ安全域が足りない。中立の筋書きでも、今の時価総額を下回る。いい会社だが、今の値段では買う理由が弱い。
何で稼ぐ会社か
収益の柱は設備工事で、売上の 9 割強を占める。空調が半分、衛生と電気が各 2 割だ。ビル、病院、工場、データセンターに入り、空調機や配管、配線を設計し、施工する。ほかに、機器の販売(日比谷通商)と製造(ニッケイ)の子会社があるが、売上の 1 割に満たない。
顧客は偏りがある。2026 年 3 月期の売上は、NTT グループが 4 割弱、民間が 4 割強、官公庁が 1 割だ。NTT グループの局舎やデータセンターの設備を長く手がけてきた。民間は不動産会社や製造業の建物が中心になる。
受注から完成までは 1 年ほどかかる。だから受注高と受注残は先行指標になる。2026 年 3 月期の受注は 1,100 億円台で売上を大きく上回り、受注残は 1,000 億円を超えた。内訳は民間が 7 割を占め、この数年で民間のデータセンター関連が増えた。
設備を持たない商売だ。工場や店舗がなく、人と技術で稼ぐ。だから大きな投資が要らず、利益の多くを株主に返せる。千葉県野田市の技術研究所には、液冷を試す設備「Data Center Trial Field」を NTT データと開き、2026 年 6 月から IIJ とも冷却の共同検証を始めた。
会社は 2026 年 7 月に創業 60 周年を迎える。第 9 次の中期経営計画は、データセンターの取り込み、リニューアル(既存ビルの設備更新)、電気工事の強化、施工の生産性向上を柱にしている。
優良さと弱いところ
強みは顧客との長い付き合いだ。NTT グループの設備を何十年も手がけ、現社長の中北英孝氏も、前社長の黒田長裕氏も、NTT 系の出身だ。発注者の事情をよく知るため、受注の見通しが立てやすい。データセンターの液冷でも、顧客と一緒に技術を磨いている。
その裏返しが弱みでもある。売上の 4 割弱を一つのグループに頼る。そのグループが投資を絞れば、会社の受注も細る。経営者の出自も同じ方向で、他の顧客を開く動きは見えにくい。
規模は小さい。売上は 940 億円で、同業の大手(高砂熱学工業、大気社、ダイダン、三機工業)はいずれも 2,500 億円を超える。大型の工事を同時に何本も回す力や、技能者と協力会社を集める力では、大手に及ばない。人手不足の時代に、この差は効いてくる。
資本効率は上がった。ROE は過去 10 年の中央値が 7% だったが、2026 年 3 月期は 11% になった。施工の採算管理を細かくしたことが効いたと会社は説明する。ただ、第 8 次の計画は最終年度の営業利益を 65 億円としたが、実績は 107 億円だった。計画が低すぎたとも読める。
筆者が最も気にするのは、この利益率が続くかだ。工事の採算は案件ごとに違う。追い風の年の利益率を、そのまま会社の実力と読むのは危うい。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
空調設備工事の需要は、今は強い。データセンターと半導体工場の新設に、古いビルの空調更新と省エネ改修(ZEB 化)が重なる。生成 AI の計算を支える設備は熱を大量に出すため、冷却の仕事が増えている。
ただ、これは数量の話で、国内の工事量が 10 年伸び続けるとは限らない。人口は減り、オフィスの新築は細る。データセンターの大型投資は、米国や中東へ向かう分も大きい。国内の需要が一巡すれば、同業は受注を取り合う。
もう一つの制約は人手だ。技能者も施工管理の技術者も足りない。足りない人を取り合えば、人件費が上がり、受注があっても施工できない会社が出る。賃金の上昇を価格に転嫁できるかが、利益率を左右する。
競争の形は、数社の大手と中堅が並ぶ。半導体のクリーンルームやデータセンターのような難しい工事は、実績のある上位に集まりやすい。日比谷総合設備は大手ではなく、NTT 系の顧客と官公庁という自前の入口で戦う。
液冷は転機になりうる。施工と運用のノウハウは業界全体で足りず、検証を重ねた会社が先に実績を持つ。だが、技術が標準になれば大手も同じ仕事を取りに来る。先行の利益は長くは守れない。
循環の面では、過去の谷が参考になる。2006 年と 2010 年の前後には、営業利益率が 1% 台から 4% 台まで落ちた。今は谷から遠い位置にいる。
資本政策と M&A
還元の方針は、配当性向 50% を目安にした配当と、機動的な自社株買いだ。これまでの目安より引き上げた。創業 60 周年の記念配当も予定している。過去 5 年の配当と自社株買いの合計は、純利益の 6 割を超えた。自社株の消却も進めている。
第 9 次の計画は、3 年間の資金の使い道を示した。事業で稼ぐ約 300 億円と資産の売却 50 億円を、成長の施策 150 億円と株主還元 200 億円に振り分ける。成長の施策は人材、技術研究所の拡張、デジタル化だ。大型の買収は計画に入っていない。
気になるのは持ち合い株、つまり取引先の株だ。株式の保有は 250 億円ほどで、純資産の 3 割にあたる。会社は「早期に縮減する」というが、3 年で売る額は 50 億円ほどと控えめだ。縮減が遅れれば、ROE が上がりにくい。
株主は分散している。信託銀行の口座、取引先の持株会、光通信系の投資組合、NTT 都市開発、NTT グループの共済会などが並ぶ。支配株主はいない。NTT 系が合わせて 7% 台あり、再編が起きるとすれば、この関係が鍵になる。筆者は、買収を急がず、還元を足元から厚くする今の方向を、堅実だと見ている。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
日比谷総合設備の利益率は、一時の追い風だけで上がったわけではない。会社は施工段階の採算を細かく管理し、案件の選び方も変えた。この改善は、需要が落ち着いても残る。
需要の質も変わった。データセンターは空調だけでなく電気と衛生をまとめて任せられ、三つの工種を持つ会社に向く。液冷は新しい技術で、NTT データや IIJ と検証を重ねた会社に先行者の利益がある。NTT グループの投資が続けば、受注の土台は動かない。
受注残は 1,000 億円を超え、1 年分の仕事が見えている。第 9 次の計画は 3 年後の営業利益を 125 億円と置くが、第 8 次の計画は、最終年度の目標を 6 割も上回った。会社の計画は保守的で、実績が上回る余地がある。
財務は強く、配当性向を 50% に引き上げた。持ち合い株を売った資金は還元に回る。現金が厚いので、不況でも傷まず、配当を守れる。
規模が小さいことは、機動力の高さでもある。大手が手を出さない中規模の案件で、採算を選んで受注できる。人手不足でも、協力会社との関係を育ててきた会社は、施工力を保てる。
慎重な見方
過去 10 年の営業利益率は 3〜8% で、今の 11% は例外だ。データセンターと半導体の追い風が一巡すれば、同業は受注を取り合い、ゼネコンも工事費を抑えにかかる。小さい会社は、価格を決める力に乏しい。
顧客の偏りが大きい。NTT グループが売上の 4 割弱で、グループの投資計画が変われば、受注は一気に細る。経営トップが 2 代続けて NTT 系の出身で、他の顧客を広げる動きが弱いことも、気になる点だ。
データセンターの大型投資は、国内より米国と中東に多い。国内の案件が増えなければ、データセンターという柱は細い。液冷の先行も、大手が追いつけば優位は消える。
人手不足は利益を削る。賃金の上昇を価格に転嫁できなければ、利益は伸びない。大手に比べ、技能者を集める力が弱い。
そして、第 8 次の計画は最終年度の営業利益が 65 億円で、実績は 107 億円だった。目標が低すぎたとも読める。目標が上がるほど、達成は難しくなる。現金と株が厚いことは救いだが、事業に使われないまま積み上がっている点は、資本の使い方の弱さでもある。
どちらに重みを置いたか
会社の質と財務は強気の見方に分がある。しかし、利益率が今の高さで 10 年続くかは、慎重な見方に分がある。筆者は、中立の筋書きを、営業利益率が 11% 台から 9% 弱へ戻る姿に置いた。
確率は、強気 8%、やや強気 20%、中立 35% に置いた。残りの 37% を、やや悲観の 25% と悲観の 12% に分けた。利益率が 2 年で 1.5 倍になった直後の会社は、平常に戻る確率が高いと見る。
現金と株の厚みは、悲観の筋書きを浅くする。会社の質を認めることと、今の値段を高いと見ることは、矛盾しない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 3,884 円1,603 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,467 円606 億円)。 今の値に割り戻すと 2,896 円1,195 億円、今との差 −9.1%、 期待の年率 +5.3%(資本コスト 7.6%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 6,966 円2,875 億円 | 1,825 円753 億円 | +176.0% | +10.7% | 703 円290 億円 |
| やや楽観 | 20% | 5,500 円2,270 億円 | 1,645 円679 億円 | +124.4% | +8.4% | 1,429 円590 億円 |
| 中立 | 35% | 4,262 円1,759 億円 | 1,488 円614 億円 | +80.5% | +6.1% | 2,012 円830 億円 |
| やや悲観 | 25% | 2,513 円1,037 億円 | 1,362 円562 億円 | +21.7% | +2.0% | 969 円400 億円 |
| 悲観 | 12% | 891 円368 億円 | 1,093 円451 億円 | −37.7% | −4.6% | 238 円98 億円 |
| 加重平均 | 100% | 3,884 円1,603 億円 | 1,467 円606 億円 | +68.0% | +5.3% | 5,352 円2,208 億円 |
今の株価時価総額 3,185 円1,314 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.6% を下回るほど割高。
楽観 8% データセンターと更新需要が長く続く 利益 156 億円 · PER 17.7 倍 · 株価時価総額 6,966 円2,875 億円
データセンターの国内投資が 10 年とぎれず、NTT グループの設備も更新が続く。日比谷総合設備は、空調・衛生・電気をまとめて引き受ける強みで、液冷を含む大型の案件を取り続ける。協力会社との関係と施工のデジタル化で、人手の壁も超える。
値上げは物価を少し超えて通り、営業利益率は今の高さをほぼ保つ。リニューアルでは、建物を止めずに工事する技術が評価され、官公庁と民間の両方で受注が伸びる。
財務は強いままで、配当性向 50% に自社株買いが加わる。持ち合い株の売却も進み、資金は還元に回る。大型の買収はしないが、技術を持つ小さな会社を取り込む。10 年後は、規模は中堅のまま、稼ぐ力は大手に並ぶ会社になる。理想に近いが、人手が足りない中でこの伸びを実現する難しさは大きい。
- 設備工事(空調・衛生・電気):数量 2,240(施工量(人年。自社と協力会社の技術者・技能者の稼働を今の値段で測った実質の工事量))× 価格 0.70(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 1,568 億円・営業利益 177 億円。工事量 2,240(今の 1.28 倍)× 1 人年 0.700 億円(今の 1.42 倍)、営業利益率 11.3%
- 機器の販売・製造:数量 2,987(納入件数(推定))× 価格 0.04(1 件あたり売上(億円・名目))→ 売上 120 億円・営業利益 9 億円。件数 2,987(今の 1.15 倍)× 1 件 0.040 億円(今の 1.34 倍)、営業利益率 7.5%
倍率:事業の純利益 154 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.9% が k 7.55% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)150 億円。全体の PER 17.68 倍、時価総額 2,874 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の設備需要が 10 年とぎれず、利益率も高いまま続く条件が要る。人手不足と、売上の 4 割弱を NTT グループに頼る構造を考えると、実現のハードルは高い。
やや楽観 20% 受注の土台に支えられ着実に成長 利益 129 億円 · PER 16.7 倍 · 株価時価総額 5,500 円2,270 億円
データセンターの投資は一巡後も一定の高さを保ち、リニューアルと省エネ改修が新築の落ち込みを埋める。日比谷総合設備は、NTT グループ向けの安定した受注を土台に、民間の大型案件を選んで取る。
営業利益率は今よりやや下がり、10% 台前半で落ち着く。施工の標準化が効いて、同じ人数でこなせる工事量が増える。電気工事の強化も、利益率の底上げに寄与する。
還元は配当性向 50% の配当に、機動的な自社株買いを足す形で続く。持ち合い株は計画どおり減り、その分が還元と成長投資に回る。国内の工事量は人口の減少で大きくは伸びないが、単価の上昇と、液冷など新しい仕事が成長を担う。資本効率は高めのまま、ROE は 10% 台前半に保たれる。
- 設備工事(空調・衛生・電気):数量 2,065(施工量(人年。自社と協力会社の技術者・技能者の稼働を今の値段で測った実質の工事量))× 価格 0.68(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 1,405 億円・営業利益 145 億円。工事量 2,065(今の 1.18 倍)× 0.681 億円(今の 1.38 倍)、営業利益率 10.3%
- 機器の販売・製造:数量 2,805(納入件数(推定))× 価格 0.04(1 件あたり売上(億円・名目))→ 売上 113 億円・営業利益 8 億円。件数 2,805(今の 1.08 倍)× 0.040 億円(今の 1.34 倍)、営業利益率 7%
倍率:事業の純利益 126 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.2% が k 7.55% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.7 倍 + 余った現金(戻り方込み)150 億円。全体の PER 16.74 倍、時価総額 2,268 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:データセンターと更新需要が一巡後も一定の高さを保つ想定。業界の見通しの上位に当たり、受注残の厚みが支える。
中立 35% 利益率は平常へ戻り、堅実な中堅に 利益 102 億円 · PER 15.8 倍 · 株価時価総額 4,262 円1,759 億円
新築の空調は人口の減少で伸びず、データセンターの投資も一時の勢いを失う。それでも古いビルの空調更新と省エネ改修が、需要を下支えする。日比谷総合設備は工事量を 1 割ほど増やすが、営業利益率は今の 11% 台から 9% へ戻る。同業との競争で、値上げの余地が縮むためだ。
NTT グループ向けの安定した受注と、官公庁の更新工事が、景気の波を和らげる。ただ、人手不足で工事量は大きくは伸ばせず、成長の多くは単価の上昇が担う。
10 年後は、特別な超過利益が消えた、地味で堅実な設備工事の中堅になる。配当は利益とともに増え、還元は純利益の 6 割台に達する。持ち合い株は少しずつ減り、現金は還元に回る。自己資本は緩やかに積み上がり、ROE は 9% 台に落ち着く。
- 設備工事(空調・衛生・電気):数量 1,908(施工量(人年。自社と協力会社の技術者・技能者の稼働を今の値段で測った実質の工事量))× 価格 0.66(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 1,261 億円・営業利益 114 億円。工事量 1,908(今の 1.09 倍)× 0.661 億円(今の 1.34 倍)、営業利益率 9%
- 機器の販売・製造:数量 2,597(納入件数(推定))× 価格 0.04(1 件あたり売上(億円・名目))→ 売上 104 億円・営業利益 7 億円。件数 2,597(今と同じ)× 0.040 億円(今の 1.34 倍)、営業利益率 6.5%
倍率:事業の純利益 100 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.6% が k 7.55% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)150 億円。全体の PER 15.78 倍、時価総額 1,728 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内空調の需要は人口で増えないが、更新・省エネ・データセンターで底堅い。利益率は過去最高から平常へ戻り、会社の強みは残るという中心の筋書き。
やや悲観 25% 競争が戻り、利益率が昔に近づく 利益 69 億円 · PER 13.4 倍 · 株価時価総額 2,513 円1,037 億円
好況の間に同業が人員を増やし、需要が落ち着いた後に受注の奪い合いが始まる。ゼネコンも工事費を抑えにかかる。日比谷総合設備は大手ほどの規模がなく、価格転嫁の力が弱まる。営業利益率は 7% 近くまで下がり、10 年前よりは高いが、今よりかなり低い。
国内の工事量は人手不足と需要の頭打ちで、今と同じ水準にとどまる。機器の販売と製造は、競争が厳しくなって数量が減る。堀が崩れたわけではないが、「今は特別に儲かる会社」という評価は外れる。
還元は配当を守る形で続き、自社株買いは細る。持ち合い株の売却は遅れる。現金は事業の谷に備えて手元に残り、余った現金の一部は事業で消える。ROE は資本コストを下回り、「稼ぐ力は並み、現金だけが厚い会社」と扱われる。
- 設備工事(空調・衛生・電気):数量 1,750(施工量(人年。自社と協力会社の技術者・技能者の稼働を今の値段で測った実質の工事量))× 価格 0.64(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 1,122 億円・営業利益 76 億円。工事量 1,750(今と同じ)× 0.641 億円(今の 1.30 倍)、営業利益率 6.8%
- 機器の販売・製造:数量 2,337(納入件数(推定))× 価格 0.04(1 件あたり売上(億円・名目))→ 売上 91 億円・営業利益 5 億円。件数 2,337(今の 0.9 倍)× 0.039 億円(今の 1.30 倍)、営業利益率 5%
倍率:余った現金・余り資産 112 億円を分けると、事業の純利益 68 億円(税後利息を除く)・事業の自己資本 900 億円・事業の ROE 7.5%。事業の ROE が資本コスト k 7.55% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER は 1÷k = 12.0 倍。稼ぐ力は平凡で、ROE が k を割る分、1÷k までしか認めない形で、上限の 10.0 割の 13.37 倍に置いた。事業 68 億円 × 13.37 倍 + 余り 112 億円(帳簿 112 億円 × 戻り方 1)で時価総額 1,018 億円。
確率:過去 10 年の利益率は 3〜8%。今の高さが保てる保証はなく、小さな会社は価格を決める力が弱い。競争が戻る可能性を、中立よりやや軽く見る程度に置く。
悲観 12% 国内の成長の柱と顧客の発注を失う 利益 26 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 891 円368 億円
データセンターと大型の工場の投資が米国や中東へ移り、国内の新規工事が細る。NTT グループも、設備の投資計画を見直して自前化や集約を進め、外部の工事会社への発注が減る。残るのは既存ビルの更新と、価格だけで競う仕事になる。
同業の値引き競争で、営業利益率は 3% 台に落ち、大型案件の採算悪化も重なる。人手を保つ費用だけが重く残り、技能者の確保も難しくなる。会社は存続し、配当も払うが、かつて掲げた 12% 台の ROE は戻らない。
現金と持ち合い株は厚いので、会社が傷むことはない。ただ、事業に使われないまま積み上がった資産は、谷の年の赤字の穴埋めと、配当の維持に使われる。持ち合い株の売却も配当に回る。自社株買いは止まり、投資家は日比谷総合設備を、景気に翻弄される普通の下請けとして扱う。
- 設備工事(空調・衛生・電気):数量 1,488(施工量(人年。自社と協力会社の技術者・技能者の稼働を今の値段で測った実質の工事量))× 価格 0.59(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 880 億円・営業利益 31 億円。工事量 1,488(今の 0.85 倍)× 0.592 億円(今の 1.20 倍)、営業利益率 3.5%
- 機器の販売・製造:数量 1,948(納入件数(推定))× 価格 0.04(1 件あたり売上(億円・名目))→ 売上 70 億円・営業利益 1 億円。件数 1,948(今の 0.75 倍)× 0.036 億円(今の 1.20 倍)、営業利益率 2%
倍率:データセンターが海外へ移り、値引き競争で利益率が 3% 台に落ちる構造的な負け筋で、純利益は 26 億円まで細る。ROE が k 7.55% 以下なので上限は 1÷k = 12.0 倍。悲観は、やや悲観よりさらに構造的に負けた姿なので、倍率をやや悲観(12.05 倍)より高くせず、その 9 割の 11.78 倍に置いた。余った現金は悲観では今の5割に減るとみて、戻り方 1.0 を掛けた 94 億円を含む。時価総額 359 億円(全体の PER に直して 13.9 倍)。
確率:データセンターが海外へ移り、NTT グループの発注も細る構造的な負け筋。加えて、大型案件の採算悪化といった下請けの失敗が重なる。会社の質は高いので、確率は 1 割台にとどめた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
設備工事(空調・衛生・電気)
ビル・データセンター・病院・工場の空調、衛生、電気の設備を設計し、施工する本業。売上の 9 割強を占める。
| 数量施工量(人年。自社と協力会社の技術者・技能者の稼働を今の値段で測った実質の工事量) | 価格1 人年あたり完成工事高(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,750 | 0.49 | 863 | 101 |
| 10 年後 中立 | 1,908 | 0.66 | 1,261 | 114 |
取り方:設備工事の売上は 862.9 億円、利益は 101.1 億円(利益率 11.7%)と開示にある。工事量は開示がないため、1 人あたり約 5,000 万円の完成工事高(同業で使われる目安)として約 1,750 人年と推定した。物価の上昇分は、価格(1 人年あたりの完成工事高)に入れる。
機器の販売・製造
設備機器の販売(日比谷通商)と製造(ニッケイ)の子会社。工事の周辺にある小さな事業。
| 数量納入件数(推定) | 価格1 件あたり売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2,597 | 0.03 | 78 | 6 |
| 10 年後 中立 | 2,597 | 0.04 | 104 | 7 |
取り方:機器の販売と製造に、全社の営業利益 106.7 億円から設備工事の 101.1 億円を引いた残りを割り当てた(本社費などの調整を含む)。売上 77.9 億円は客先別の「その他」の額。件数は開示がなく、1 件あたり 300 万円として推定した。
リスクと懸念
利益率が平常に戻る
営業利益率は 11% 台で、過去 10 年の中心(5〜7%)の倍近い。同業の値引きやゼネコンの工事費抑制が戻れば、売上が伸びても利益は伸びない。いちばん大きな不確実性だ。2011 年 3 月期の谷では 4% 台まで落ちた。利益の半分が薄れれば、本質価値の見方も大きく変わる。
NTT グループへの偏り
売上の 4 割弱を NTT グループが占める。グループの設備投資や発注の方針が変われば、受注は一度に細る。経営トップが 2 代続けて NTT 系の出身で、顧客を広げる動きが見えにくい点も、偏りを強める。
データセンターの投資の波
ここ数年の受注を押し上げた大型投資は、顧客の判断と世界の設備投資で止まりやすい。国内より米国や中東へ向かう分が大きければ、国内の大型案件は思ったほど増えない。受注残が厚くても、新しい案件が減れば 2 年ほど先の売上に響く。
人手不足と規模の小ささ
技能者と施工管理の人数が工事量の上限を決める。賃金の上昇を価格に転嫁できなければ、利益を削る。同業の大手より規模が小さく、人を集める力と、大型の案件を同時に回す力で不利になりやすい。
持ち合い株と現金が事業に使われない
現預金と株の保有が、自己資本の 8 割近くを占める。縮減の計画は 3 年で 50 億円と控えめで、ROE が上がりにくい。株価が下がれば、自己資本と含み益も目減りする。
大型案件の採算悪化
工事は一つずつが大きく、工期の遅れや資材高、設計変更で赤字になる案件が出る。一件で利益が傷む構造は業界に共通する。会社は採算の管理を細かくしたが、選別が完全に当たるとは限らない。
今後の分かれ目
- 受注高が 2 期連続で前の年を下回ったら
- やや悲観の筋書きに確率を寄せる。受注残が薄くなり、利益率の戻りが早まる。
- 営業利益率が 11% を超えて 2 年以上保たれたら
- 強気側の確率を上げてよい。ただし、同業も同じ水準に追いつくかを確かめる。
- NTT グループ以外の大型案件を続けて取ったら
- 顧客の偏りが和らぎ、中立の筋書きの利益を引き上げる材料になる。
- NTT グループが設備の発注を自前化・集約する方針を示したら
- 悲観の筋書きが近い。売上の 4 割弱が細るので、確率を悲観側へ寄せる。
- 持ち合い株の売却が計画を超えて進み、還元に回ったら
- 余った現金の戻りが早まる。値打ちの見方が上向き、資本効率の改善も期待できる。
- NTT 系や光通信など主要株主から再編・買収の動きが出たら
- 買収価格は事業の価値と現金の厚みで決まる。現金と株の保有を含めて測り直す。
見ておくもの
- 四半期ごとの受注高と受注残、客先別(NTT グループ・民間・官公庁)の内訳
- 営業利益率の推移(11% 台を保てるか)
- データセンター・液冷の案件の受注の有無と、NTT データ・IIJ との共同検証の進み
- 持ち合い株の売却額と、配当・自社株買いの実績(配当性向 50% の運用)
- 第 9 次の計画の進み(2029 年 3 月期の営業利益 125 億円)
倍率と資本コストの決め方
売上は「施工量 × 1 人年あたり完成工事高」で積み、物価 3% は価格に入れた。国内の工事量は人手不足と人口で頭打ちとし、中立の 10 年で 1.09 倍とした(同業の最大手の高砂熱学工業は 1.06 倍)。倍率は k 7.55%(基本 7.5% + quality 0.8%)・g 4% の正当化 PER の上限の約 9 割に置き、ROE が k を上回る中立と楽観〜やや楽観では 1÷k の床(12.05 倍)を割らせない。悲観側は稼ぐ力(PER 上限 1÷k)を上限に、やや悲観より高くしない倍率で測り、谷の PBR は使っていない。今の株価や PER から倍率は置いていない。持ち合い株の評価差額金は配当が純利益に入っているので余り資産に足していない(二重を消した)。事業の売上・利益には店舗や倉庫の賃借が小さく、新リース会計基準(2028/03 期)の影響は小さいとみて、数字は家賃を営業費用に入れた今の形でそろえてある。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 7.6% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 0.8% = 8.3%。理由は quality_why。個別のリスク(NTT 依存・M&A の可能性など)は k に足さず、筋書きと確率で表した。同じ領域の高砂熱学工業(k 8.0%)より、規模が小さく顧客が偏る分だけ上に置いた。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.30% → 7.55%。