結論
東洋エンジニアリングは、肥料や石油化学、洋上の石油生産設備(FPSO)、発電所を丸ごと請け負う会社だ。海外が中心で、肥料プラントの技術には定評がある。結論から言えば、筆者は今の値段を大きく割高と見る。一番の理由は、利益がほとんど出ない請負業なのに、自己資本が薄いことだ。
2026 年 3 月期は営業損失が 190 億円、純損失が 149 億円だった。ブラジルのガス火力発電所の案件で、発注者からの代金の回収に疑いが出て、工事の遅れで費用もふくらんだ。この損失で、自己資本は 600 億円から 435 億円へ縮んだ。
会社は 2027 年 3 月期の黒字回復と復配を掲げる。だが、直近 10 年の営業利益率は最高でも 2.6% だ。12 年で赤字が 4 回ある。計画の 2030 年度の純利益 100 億円は、過去の最高水準のさらに上にある。
中立の筋書きでも、10 年後の時価総額は今の半分に届かない。最も強い筋書きで今と同じ程度だ。一方で、最も弱い筋書きでは 2 割に満たない。上は薄く、下は深い。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「持ち続けたい事業」には遠い。10 年後も事業は残るだろう。だが、稼ぎは案件の当たり外れに左右され、稼いだ利益を残す力が弱い。過去 10 年の純利益を全部足しても、ブラジルの 1 件の損失を埋められない。
安全域がない。自己資本は 435 億円と薄く、時価総額は 1,331 億円と、帳簿の 3 倍にあたる。利益を生む力は計画の 60 億円で測っても、時価総額の 4% しかない。市場は、会社の計画が全部うまくいくことを前提にしているように見える。
オーナー利益の目で見れば、再投資はほとんど要らない。事業の資本は軽いのだ。問題は、その利益が「残る」かだ。案件の損失は、利益だけでなく自己資本も削る。
筆者は、10 年の確率を慎重な側に寄せた。技術と運転の力は評価するが、払う値段に見合う余裕は、今の値段にはない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は EPC だ。設計・資材の調達・建設を一括で請け負う。顧客は海外の国営企業や資源会社、化学会社で、案件は 1 件が数百億円から千億円を超える。2026 年 3 月期の受注は 4,200 億円と大きいが、売上は 1,829 億円に縮んだ。受注から売上になるまで 2〜3 年かかるからだ。
得意は肥料だ。尿素など窒素肥料のプラントは、東洋の技術で世界各地に建っている。ほかに FPSO、石油化学、発電、インドや中央アジアのプラントを手がける。技術を持つ分、価格だけで競う純粋な下請けではない。
もう 1 つの柱が非 EPC だ。既設プラントの運転・保守を請け負う O&M、技術のライセンス、地熱、ファインケミカルなどである。2025 年 3 月期には粗利の 43% を稼いだ。会社は 2030 年度に、これを 60% に高めると掲げる。
会社は、この流れを「波のある EPC」と「積み上がる非 EPC」の二軸と呼ぶ。筆者は方向を正しいと見る。ただ、非 EPC は規模がまだ小さく、EPC の損失を打ち消せるほどではない。
優良さと弱いところ
優良さは、技術に偏った質だ。肥料プラントの技術、FPSO の遂行実績、インドでの長い仕事の歴史が強みである。だが堀、つまり他社がまねできない強みは、価格を決める力までは届いていない。大型案件は入札で、相手は日揮、千代田化工建設、韓国のサムスン E&A や現代建設、欧米のテクニップ・エナジーなどだ。
経営の最大の弱点は、案件の損失を繰り返すことだ。2015 年にブラジルの FPSO などで巨額の損失を出し、再建計画を立てた。2018 年にも赤字になり、2026 年にまたブラジルで損失が出た。受注が苦しい時期に無理な案件を取り、契約の条件も甘かった、という反省が会社自身の資料にある。
財務は弱い。自己資本比率は 17% で、日揮の 51% に遠く及ばない。純現金は 268 億円あるが、工事の前受金と支払いが大半で、自由に使える貯金ではない。2019 年に入れたインテグラル系の優先株(150 億円)は、転換が進めば株数が増える。株主の取り分より先に払うお金だからだ。
資本効率は低い。ROE の過去 10 年の中央値は 3% ほどで、資本コストを大きく下回る。前中計の ROE10% の目標は外れた。会社が新しく置いた審査の仕組みは、証明がこれからだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
プラント EPC は、世界の資源・化学・電力の投資に乗る産業だ。需要の波は、案件の最終投資決定(FID)が出るかどうかで決まり、大型案件が少数に集まる。ここ数年は、LNG と電力の投資が堅い。東洋が得意な肥料も、食料の安全保障を理由に新設が続く。
日本勢は日揮、千代田化工建設、東洋の 3 社が中心で、規模と信用では日揮が抜けている。千代田は財務の再建の途上だ。東洋は 3 社のうち最も規模が小さく、1 件の損失の影響が大きい。韓国勢は価格で、欧米勢は技術で攻めてくる。
契約の形が採算を決める。一括請負は、資材高と工期の遅れを請負側が背負う。発注者は強く、請負側が条件を選べる場面は少ない。2015 年のブラジル、2026 年のブラジルのような損失は、この構造からも来る。
成長の道は 2 つある。1 つは、インド・中央アジア・アフリカなど、日本勢が強い地域の案件を取ることだ。もう 1 つは、O&M や地熱、ファインケミカル、重要鉱物といった、景気に左右されにくい事業を足すことだ。世界の対象市場を実質で年 300 億ドルほどと推定し、東洋の取れるシェアを 3〜5% と置く。
資本政策と M&A
資本政策は、立て直しの途中にある。2026 年 3 月期は無配だった。新しい中計では、2027 年 3 月期に 復配(配当総額は 15 億円ほど)を掲げる。2030 年度に純利益 100 億円を狙うが、自社株買いの話は出ていない。
株主構成が特殊だ。筆頭は三井物産で、約 15% を持つ。インテグラル系のファンドは、2019 年に 150 億円の A 種優先株を引き受けた。2026 年 2〜3 月にその一部を普通株に転換した。この優先株は、配当が普通株と同順位・同額で、償還の条項はなく、1 株が普通株 1 株に転換できる。優先配当も現金での償還もないので、取り分が減る道は転換による株数の増加だけだ。2026 年 3 月末で転換は 14,030,100 株、残りは約 624 万株。今の株数 58,597,429 株は、残りが全部転換した後の数で、時価総額も価値の比較もこの株数で揃えた。残りが転換されれば、普通株は増える。
買収の動きは、今は見えない。純現金は前受金などで色が付いている。支配株主もいない。kabufu の推計では、10 年内の TOB・買収の確率は 16% だ。三井物産などが再編を仕掛ける可能性は残る。ただ、買い手が欲しがる質の稼ぎは、まだ見えにくい。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
最悪期は過ぎた。ブラジルの案件は 2026 年 8 月に完工する見込みで、損失の元が消える。2027 年 3 月期は純利益 60 億円の黒字、復配も決まった。受注は 4,200 億円と高く、これから 2〜3 年は売上が戻る。
新しい中計は、非 EPC を粗利の 6 割に高める。O&M、ライセンス、地熱、ファインケミカルは、景気や案件の波が小さく、利益率も高い。肥料の技術は世界でも指折りで、食料需要が続く限り仕事がある。インドでの長い関係も、他社にない資産だ。
プロジェクト管理本部を置き、受注の前に案件のリスクを審査する仕組みもできた。2015 年の反省を、2026 年の損失を経てさらに強めた。三井物産という安定した大株主もいる。
計画どおりに 2030 年度に純利益 100 億円を稼げば、物価の分だけでも会社はまるで別物になる。市場が今の値段をつけるのは、この変化への期待だ。
足元の数字も戻り始めた。2027 年 3 月期の第 1 四半期の決算でも、会社は通期の黒字予想を保った。非 EPC の積み上げと受注残の厚みがあれば、2〜3 年は売上が確実に戻る。
慎重な見方
東洋エンジニアリングの歴史は、損失の歴史でもある。2015 年、2018 年、2019 年、2026 年と、12 年で 4 回の赤字を出した。そのたびに「審査を強める」と言ってきたが、また同じ型の損失が出た。
前の中計は、ROE10%、純利益の平均 50 億円、復配のどれも達成できなかった。今回の目標である純利益 100 億円は、その前の目標より高い。過去 10 年の純利益の中央値は 16 億円だ。
自己資本は 435 億円、自己資本比率は 17% しかない。大型案件の損失を 1〜2 件受ければ、銀行や発注者が求める保証枠に響く。優先株は残る分も(約 46 億円)残余財産の優先権を持ち、清算に近い場面では普通株より先に取る。
非 EPC は大きくない。O&M は稼働中のプラントの運転で、すぐに数百億円規模になるものではない。技術で差を付けても、価格は入札で決まる。10 年かけて黒字が戻っても、帳簿を大きく上回る価値は説明しにくい。
さらに、ブラジルのような新興国の発注者は、完工しても払う力に疑いがある。東洋が戦う地域はまさに、そうした危うい地域だ。計画の純利益が出るのは、運が良かった年だけになりやすい。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうが強い。理由は 3 つある。12 年で 4 回の赤字、前の中計の目標の未達、17% という薄い自己資本は、数字に出ている事実だ。強気の見方の中心は、これから効くという見込みだ。ただ、非 EPC の成長と、審査の仕組みの効果は、どちらも方向としては本物だと思う。そのため、悲観側の確率は、やや悲観 26% と悲観 16% の合計 42% と、日揮よりさらに重くした。楽観側は 22% にとどめた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,282 円751 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 292 円171 億円)。 今の値に割り戻すと 761 円446 億円、今との差 −64.7%、 期待の年率 −3.1%(資本コスト 8.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 6% | 3,357 円1,967 億円 | 597 円350 億円 | +83.5% | +6.3% | 237 円139 億円 |
| やや楽観 | 16% | 2,245 円1,316 億円 | 461 円270 億円 | +25.6% | +2.3% | 433 円254 億円 |
| 中立 | 36% | 1,465 円859 億円 | 341 円200 億円 | −16.2% | −1.7% | 650 円381 億円 |
| やや悲観 | 26% | 506 円296 億円 | 188 円110 億円 | −67.8% | −10.7% | 180 円106 億円 |
| 悲観 | 16% | 393 円230 億円 | 68 円40 億円 | −78.6% | −14.3% | 74 円43 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,282 円751 億円 | 292 円171 億円 | −26.9% | −3.1% | 1,575 円923 億円 |
今の株価時価総額 2,155 円1,263 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 6% 計画を超えて走る:非 EPC が稼ぎの半分を担う 利益 141 億円 · PER 14.0 倍 · 株価時価総額 3,357 円1,967 億円
肥料・FPSO・発電の大型案件を、インドと中東・アフリカで続けて取る。ブラジルのような回収の難しい案件を避ける審査が定着し、損失が出ない年が 10 年続く。
O&M(プラントの運転・保守の請負)、ライセンス、地熱、ファインケミカルといった非 EPC が育つ。景気に左右されにくい稼ぎが増え、利益の質が変わる。
売上は 4,300 億円台、営業利益は 200 億円を超える。配当は毎年積み上がり、自己資本は 1,000 億円を超える。
この姿になれば、東洋エンジニアリングは「波の大きい請負業」から「技術と運転で稼ぐ会社」へ変わったと言える。ただ、そこまで行くには会社が 20 年変えられなかった体質を変える必要がある。
- EPC(肥料・FPSO・発電・石化):数量 17.7(東洋が消化する工事量(億ドル・今の値段で測った実質)=対象市場 × シェア)× 価格 201(1 ドル分の工事あたり売上(円)=為替 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 3,558 億円・営業利益 121 億円。対象市場 × シェア、利益率 3.4%
- 非 EPC(O&M・ライセンス・技術サービス):数量 28.0(受託業務量(千人月・推定))× 価格 2.75(1 人月あたりの売上(百万円・名目))→ 売上 770 億円・営業利益 85 億円。受託量 × 単価、利益率 11%
倍率:事業の純利益 141 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.0% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.7%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.0 倍。全体の PER 13.95 倍、時価総額 1,967 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:新中計の目標(2030 年度の純利益 100 億円)を物価の分まで含めて上回る姿。前中計は目標を全部外しており、実現は 1 割に満たないと見て 6% に置いた。
やや楽観 16% 黒字が定着し、純利益は 100 億円規模へ 利益 102 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 2,245 円1,316 億円
ブラジル案件が完工し、受注選別の仕組みが働く。大きな追加損失は 10 年に 1 度あるかないかに減る。
EPC は肥料と FPSO を軸に年 15 億ドル前後を消化し、利益率は 2% 台後半。非 EPC は O&M の積み上がりで営業利益 70 億円近くになる。
営業利益は 150 億円ほど。純利益は 100 億円規模に届き、計画の 2030 年度の姿が 10 年後まで保たれる。
配当は 復配を起点に少しずつ増える。三井物産が株主にとどまり、優先株の転換も終わって、資本の構成は落ち着く。
肥料の技術は新設の波に乗り、インドの仕事も続く。非 EPC は O&M の契約が積み上がり、売上の 2 割ほどを占める。市場の驚きにはならないが、請負業としては堅実な 10 年になる。
- EPC(肥料・FPSO・発電・石化):数量 14.7(東洋が消化する工事量(億ドル・今の値段で測った実質)=対象市場 × シェア)× 価格 201(1 ドル分の工事あたり売上(円)=為替 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 2,955 億円・営業利益 80 億円。対象市場 × シェア、利益率 2.7%
- 非 EPC(O&M・ライセンス・技術サービス):数量 25.0(受託業務量(千人月・推定))× 価格 2.68(1 人月あたりの売上(百万円・名目))→ 売上 670 億円・営業利益 67 億円。受託量 × 単価、利益率 10%
倍率:事業の純利益 102 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.6% が k 8.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.9 倍、時価総額 1,316 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:計画どおりに黒字が戻り、損失が数年に 1 度に減る姿。中計の復活の筋書きに近く、過去の失敗の多さを考えて 16% に置いた。
中立 36% 黒字は戻るが、利益率は 2% 台の請負業のまま 利益 73 億円 · PER 11.8 倍 · 株価時価総額 1,465 円859 億円
今の売上は 1,800 億円台と、2 年前の 3 分の 2 に縮んだ。10 年かけて受注が戻り、実質の工事量は今の 1.2 倍に回復する。物価の分だけ売上は膨らむ。
EPC の利益率は 2% ほどで、価格を決める力は弱いまま。非 EPC は O&M を中心に少しずつ伸び、利益の半分近くを稼ぐ。
営業利益は 100 億円ほど。1 件の案件で数十億円が動く規模なので、赤字の年が 10 年に 1〜2 回は混じる。
配当は復配の水準から微増。自己資本は 900 億円近くまで戻るが、薄い自己資本の事情は大きくは変わらない。
- EPC(肥料・FPSO・発電・石化):数量 12.6(東洋が消化する工事量(億ドル・今の値段で測った実質)=対象市場 × シェア)× 価格 201(1 ドル分の工事あたり売上(円)=為替 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 2,533 億円・営業利益 51 億円。対象市場 × シェア、利益率 2.0%
- 非 EPC(O&M・ライセンス・技術サービス):数量 22.5(受託業務量(千人月・推定))× 価格 2.68(1 人月あたりの売上(百万円・名目))→ 売上 603 億円・営業利益 54 億円。受託量 × 単価、利益率 9%
倍率:事業の純利益 73 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.2% が k 8.50% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 11.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 11.8 倍。全体の PER 11.76 倍、時価総額 858 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:直近 10 年の営業利益率は最高でも 2.6% で、構造を変えるには時間がかかる。数量は今より増えるが、利益率は過去の延長に近いと置き、最も重い 36% にした。
やや悲観 26% 価格競争と案件損失で、利益が出たり消えたりする 利益 39 億円 · PER 7.6 倍 · 株価時価総額 506 円296 億円
インドや中東の発注者は強く、韓国勢・中国勢が価格で迫る。東洋エンジニアリングは採算の薄い案件を取らざるを得ない。
数量は今の 1 割増にとどまり、EPC の利益率は 1% ほど。追加費用の請求が通らず、数年おきに 50 億円規模の損失が出る。
非 EPC は堅調でも、会社全体の営業利益は 55 億円ほどにとどまる。配当は最低限で、自己資本は伸びない。
発注者の質が悪い新興国の案件に頼らざるをえず、代金の回収の遅れも続く。会社は生き残るが、投資家は損失がまた出ることを前提に、低い評価をつけ続ける。
借入と薄い自己資本で、新しい案件の保証枠を取りにくくなる。受注を絞るため、さらに数量が伸びない悪循環に入る。
- EPC(肥料・FPSO・発電・石化):数量 10.1(東洋が消化する工事量(億ドル・今の値段で測った実質)=対象市場 × シェア)× 価格 198(1 ドル分の工事あたり売上(円)=為替 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 2,000 億円・営業利益 20 億円。対象市場 × シェア、利益率 1.0%
- 非 EPC(O&M・ライセンス・技術サービス):数量 19.0(受託業務量(千人月・推定))× 価格 2.62(1 人月あたりの売上(百万円・名目))→ 売上 498 億円・営業利益 35 億円。受託量 × 単価、利益率 7%
倍率:事業の純利益 39 億円・自己資本 775 億円・ROE 5.03%。ROE が k 8.5% 以下なので、正当化 PER は 1÷k = 10.8 倍。事業の ROE が資本コストを大きく下回り、PER の上限は 1÷k。損失が続く局面で利益の質が低いため上限の 7 割に置いた。 純利益 39 億円 × 7.6 倍で時価総額 296 億円。
確率:過去 12 年で赤字が 4 回あり、案件の損失は構造から来る。大型損失が数年おきに続く姿を、重い 26% で置いた。
悲観 16% 構造的に負ける:大型案件の損失で信用を失う 利益 −20 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 393 円230 億円
巨額の追加損失が重なり、自己資本が急に薄くなる。発注者や銀行が保証の枠を絞り、新しい案件を受けられなくなる。
EPC の数量は今の 3 分の 2 に縮み、残る案件も赤字だ。非 EPC の O&M は残るが、全体を支える規模にはならない。
配当は止まり、株主は追加損失をまともに被る。資産の売却と人員の縮小が続く。
10 年後には、請負の大手ではなく、特定の技術と運転の事業だけが残った小さな会社になっている。
三井物産やファンドが持ち株を整理し、買い手のつかない株になる。肥料の技術や O&M の人材を売却して、返済に充てる場面も出る。
- EPC(肥料・FPSO・発電・石化):数量 7.0(東洋が消化する工事量(億ドル・今の値段で測った実質)=対象市場 × シェア)× 価格 190(1 ドル分の工事あたり売上(円)=為替 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍))→ 売上 1,330 億円・営業利益 −27 億円。対象市場 × シェア、利益率 -2.0%
- 非 EPC(O&M・ライセンス・技術サービス):数量 14.0(受託業務量(千人月・推定))× 価格 2.50(1 人月あたりの売上(百万円・名目))→ 売上 350 億円・営業利益 10 億円。受託量 × 単価、利益率 3%
倍率:構造的な負けで稼ぐ力が無く、床は売れる資産で測る。純現金 268 億円をもとに、案件の追加損失で目減りした後の残りを 230 億円とし、今の自己資本 435 億円に対する PBR 0.53 倍に置いた。
確率:大型の一括請負で損失が重なり、保証枠と受注を失う姿。12 年で赤字 4 回の実績と、自己資本比率 17% の薄さから、1 割強の 16% を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
EPC(肥料・FPSO・発電・石化)
肥料・石油化学・FPSO・発電プラントの設計・調達・建設を請け負う主力。大型案件の一括請負が中心。
| 数量東洋が消化する工事量(億ドル・今の値段で測った実質)=対象市場 × シェア | 価格1 ドル分の工事あたり売上(円)=為替 150 円 × 物価の倍率(10 年 1.34 倍) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 10.0 | 150 | 1,500 | −215 |
| 10 年後 中立 | 12.6 | 201 | 2,533 | 51 |
取り方:EPC と非 EPC の売上区分は開示を確認できていない。26/3 期の売上 1,829 億円のうち非 EPC を 329 億円と推定し(25/3 期に粗利の 43% を非 EPC が稼いだ事実から)、残りを EPC とした。1,500 億円を 150 円で割ると約 10 億ドル。肥料・FPSO・化学など東洋が戦う対象市場を実質で年 300 億ドルほどと置くと、直近のシェアは約 3% で、過去の 2,000 億円台後半の売上期(約 5%)より低い。営業利益 −215 億円は、全社の −190 億円に本社費を配った推定で、ブラジルの損失を含む。
非 EPC(O&M・ライセンス・技術サービス)
既設プラントの運転・保守、技術のライセンス、技術サービス、地熱・ファインケミカルなど。中計で成長の柱に置く。
| 数量受託業務量(千人月・推定) | 価格1 人月あたりの売上(百万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 16.5 | 2.00 | 329 | 25 |
| 10 年後 中立 | 22.5 | 2.68 | 603 | 54 |
取り方:開示は無く、売上 329 億円を 1 人月 200 万円(技術者の人件費に利益を乗せた水準)で割った推定。業務量は約 1.6 万人月(人員 1,400 人相当)。営業利益 25 億円は本社費を配った後の推定(利益率 7.6%)。
リスクと懸念
大型案件の追加損失
固定金額の契約では、資材高や工期の遅れを請負側が背負う。ブラジルの案件はその典型で、自己資本の 4 分の 1 が消えた。自己資本が薄いので、同じ規模の損失をもう 1 件出せば、保証枠や借入にも響く。審査の仕組みが効いたかの確認には、数年かかる。
発注者の支払い
ブラジル案件では、発注者からの代金の回収に疑いが出た。新興国の案件は、為替・政情・発注者の財務で、完成後も代金が入らない危険がある。インドや中東・アフリカ中心の今の営業の方向は、この危険と表裏一体だ。回収の遅れは、現金の薄い会社にとって重い。
薄い自己資本と優先株の転換
自己資本比率は 17% で、有利子負債は 602 億円。2019 年に入れた A 種優先株は、配当が普通株と同額、償還もない。違いは清算時の優先権(残りで約 46 億円)だけだ。転換で普通株が増える分は、今の株数にすでに入れてある。残高や条件は、筆者は確認できていない。
受注の波と縮小
売上は 2025 年 3 月期の 2,781 億円から 1,829 億円へ縮んだ。受注は 4,200 億円と大きいが、売上になるまで時間がかかる。大型案件の最終投資決定が遅れると、売上が急に細る。固定費が重いので、売上が減ると赤字になりやすい。
価格競争
韓国・中国・欧米の競合と毎回競る。価格を決める力は弱く、利益率は 2〜3% が上限になりやすい。肥料やインドなど得意な分野でも、新しい競合の参入が続く。値下げ競争で採算が崩れる危険は常にある。
中計の目標が高い
2030 年度の純利益 100 億円は、過去 10 年で最も多かった年(98 億円)に並ぶ水準だ。それを毎年続ける計画になる。非 EPC を粗利の 6 割にする目標も、まだ規模は小さい。計画が外れたとき、市場の期待が先に剥がれる。前の中計は全部の目標を外している。
今後の分かれ目
- ブラジル案件が完工し、追加の損失なしに決算が終わったら
- 最大の不確実性が消える。やや悲観・悲観の確率を少し下げ、中立側に寄せる。
- 新しい案件の契約が、一括請負からコストプラスや分割請負に移ったら
- 利益率の前提を上に直す。EPC の利益率 3% 超が定着するなら、楽観側の確率を上げる。
- 非 EPC の営業利益が 60 億円を超えて定着したら
- 利益の振れが小さくなる。倍率を上限の側に近づけてよい。
- 自己資本が 600 億円台まで戻り、優先株の転換が全部終わったら
- 財務の薄さの懸念が薄れる。借金の項を下げて k を見直す余地が出る。
- 新しい大型案件で、また追加の予算や請求が出たら
- 悲観側の確率を上げる。2015 年や 2026 年に似た動きかを確かめる。
- 三井物産や他社が、保有や出資の形を変えたら
- TOB や再編の可能性を見直す。買値は資産や稼ぐ力の範囲に収まる点に注意する。
見ておくもの
- ブラジル案件の完工と、追加費用・債権回収の結果(四半期決算)
- 受注高・受注残と、案件の契約形態(一括請負かコストプラスか)
- 非 EPC(O&M・ライセンス・地熱)の売上と営業利益
- 自己資本比率と、A 種優先株の残り(約 624 万株、2026 年 3 月末)の転換の状況
- 復配の実施と配当の水準
倍率と資本コストの決め方
数量は対象市場(実質年 300 億ドルの推定)× シェア、価格は為替 150 円と物価の倍率で置いた。市場とシェア、EPC と非 EPC の売上の区分は推定。倍率は利益ベースで、事業の ROE と資本コスト 8.5%(基本 7.5% + quality 1.75%)から出し、今の PER(計画で 22 倍)や過去の倍率には寄せていない。今の時価総額は黒字回復の計画を織り込んだ値付けに見えるが、それは価値の置き方に使っていない。純現金 268 億円は前受金などで分けず、余った現金は立てなかった。悲観は売れる資産ではなく純現金を起点に 230 億円とし、谷の PBR は使っていない。A 種優先株は配当が普通株と同額・償還なし・1 対 1 で転換できるため、残りも全部転換した株数(58,597,429 株)で時価総額を見ている。中立の自己資本には優先株の分も含めた。新リース会計は今と同じ形でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 11→13.95 倍・やや楽観 PER 10.9→12.9 倍・中立 PER 8.77→11.76 倍)。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 1.75% = 9.25%。日揮(1.25%)より薄い自己資本と規模の小ささの分だけ借金の項を上げた。個別のリスクは k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 9.25% → 8.50%。