結論
奥村組は、土木に強い準大手ゼネコンだ。トンネルやダム、治水を得意とし、売上の約4割を土木で稼ぐ。筆者の結論は「やや割高」。直近の利益は景気の山にあり、稼ぐ力は株主が求める水準にまだ届かない。
強みは、土木の技術と手持ち工事の厚さだ。繰越工事は6,000億円を超え、2年分の売上がほぼ見える。土木は設計変更の取り込みと原価低減で採算が上向き、2026年3月期は売上も利益も過去最高になった。
弱みは、利益が景気と大型工事の出来で大きく振れることだ。2025年3月期は大型の土木工事の損失などで純利益が27億円まで落ちた。国内の工事量は人口減で実質では伸びない。石狩バイオエナジーのような新事業も、まだ重荷になりうる。
中立の筋書きでは、営業利益は10年後に200億円前後で、ROEは資本コストの手前にとどまる。今の時価総額は、この山の利益が続くことを前提にしているように見える。そこまで織り込む価格に、筆者は安全域を感じない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、ゼネコンは「資本は少なくて済むが、毎年取り直さなければならない」事業だ。工場も店も要らないので、利益の多くを株主に戻せる。一方で、受注は毎年新しく取り、利益は景気と大型工事の出来で大きく振れる。過去にも赤字の年が3回ある。
株主が受け取れる利益、つまり事業に再投資せず自由に使える利益は、純利益の7割ほどだと筆者は見る。会社が配当性向70%を掲げているのは、その見方と一致する。ただし石狩バイオエナジーや不動産のような投資が膨らむと、その余裕は消える。
経営への注文は、新事業の損を二度と出さないことだ。バイオマス発電で想定外の損をしたのは、本業から離れた分野に出た結果だった。得意な土木の技術を伸ばし、本業の採算を守るほうが、株主の財産は確実に増える。
安全域は薄い。楽観の筋書きでも今の値段を大きくは上回らず、悲観では大きく割れる。わかりやすい事業でも、払う値段が本質価値を超えているなら、筆者は手を出さない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は建築と土木の二つだ。建築は売上の約6割で、オフィス、工場、物流施設、マンションなどを民間から請け負う。土木は売上の約4割で、官公庁が発注するトンネル、ダム、治水、道路を手がける。利益率は土木のほうが高い。
土木の技術は、会社の看板だ。トンネルや地下の大規模工事で実績があり、価格だけで争う案件より採算を取りやすい。建築は大手との競争が厳しいが、今は民間投資が旺盛で、受注の競争がやわらいでいる。
三つ目が投資開発だ。自社で不動産を取得・開発して売却し、その資金でまた次の物件へ回す。大阪の駅前の複合開発は2027年冬に竣工する予定だ。売上は小さく、全体の利益を動かす規模ではまだない。
四つ目が新事業だ。子会社の石狩バイオエナジーは、北海道でバイオマス発電を営む。配管の腐食で止まり、2026年4月にようやく商業運転を再開した。ほかに下水道の包括管理など官民連携にも力を入れる。ただ、いずれも今は小さい。
顧客は民間のデベロッパーや製造業と、国や自治体だ。繰越工事は6,000億円を超え、受注は土木と建築で年に3,500億円規模になる。工事は数年かけて売上になるため、足元の受注より繰越の厚みが利益を決める。
優良さと弱いところ
優良さを一言で言えば「土木に強みのある、普通の準大手」だ。堀、つまり他社がまねできない強みは、土木の技術にしかない。
強みは三つある。一つ目は、技術で受注できる土木の工事。二つ目は、手持ち工事の厚さで、2年先まで売上がほぼ見えること。三つ目は、借金の軽さだ。自己資本比率は4割台半ばで、利払いは重くない。
弱みも三つある。一つ目は、価格を決める力が弱いこと。民間も公共も入札と相見積りで、値段は市場が決める。二つ目は、大型工事の出来に利益が左右されること。2025年3月期の損失は、それを示した。三つ目は、石狩バイオエナジーの停止だ。新事業で想定外の損をした事実は、筆者には気がかりな材料だ。
資本の使い方は、方針は明快だが実績が伴わない。中期経営計画は、ROE8%以上と配当性向70%以上を掲げる。ただ、2026年3月期の9%台のROEは一過性の評価益を含み、実力の数字とは言いにくい。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の建設市場は、量が増えない成熟市場だ。人口が減り、地方の工事は先細る。それでも今は「作れば儲かる」局面にある。2024年4月に残業の上限規制が始まり、技能者が足りなくなった。受け手のゼネコンが仕事を選べるようになり、値上げが通る。上場ゼネコンの2025年度の受注は16兆円台で、利益率も集計以来の高さにある。
土木は、国土強靱化が支える。2026年度から5年で20兆円強の計画があり、橋や上下水道の更新が続く。ただ会社の説明では、発注の件数は実質で減っており、採算の高い案件の入札は厳しい。建築は民間投資が旺盛で、受注競争はやわらいでいる。
準大手は、スーパーゼネコンより価格を決める力が弱い。競合は戸田建設、安藤・間、熊谷組、西松建設、東急建設で、地場のゼネコンも多い。奥村組は、この中では売上の小さい部類に入る。
10年先は、民間の投資が一巡する。実質では横ばいから緩やかな縮小に向かうと筆者は見る。人手が足りない業界では、売上を伸ばす力より、採算を守る力が会社の差になる。再編も進みやすく、準大手どうしの統合や、地場の事業承継型の買収が次の焦点になる。
資本政策と M&A
資本政策の方針は明快だ。中期経営計画(2025〜2027年度)は、連結配当性向70%以上を基本とし、業績が悪い年でも自己資本配当率2%を下限とする。自社株買いも機動的に行う。ROE8%以上を継続的に達成するのが目標だ。
実績は伴い始めた。2026年3月期は年間配当を当初予想から増やし、2027年3月期も同水準を見込む。ただ配当性向の計算では、石狩バイオエナジーの為替予約の損益を除く。一過性の振れをならす狙いだが、除外の線引きには注意がいる。
政策保有株、つまり取引先と持ち合う株は、毎年取締役会で検証し、2025年度は2銘柄を縮減した。ただ、株価の上昇で純資産に対する比率は上がっており、縮減を続ける姿勢だ。
買収は目立たない。大株主は信託銀行と従業員持株会が中心で、特定の大株主が支配する形ではない。会社が自ら変わる意思は見えるが、外から買われる可能性は高くないと筆者は考える。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
建設業の構造が変わった。受け手が仕事を選べる時代になり、採算の悪い工事を取らなくてよい。奥村組は、土木と建築の繰越工事が6,000億円を超え、2年先まで売上が見える。2027年3月期の営業利益予想は205億円で、中期経営計画の目標200億円を最初の年から超える。
土木の技術は、価格だけで争わない強みだ。トンネルなどは参入しにくく、設計変更の取り込みも進む。国土強靱化の20兆円と、橋・上下水道の更新は、これから10年の需要を支える。
資本政策も明快だ。配当性向70%以上と、業績が悪い年でも自己資本配当率2%という下限を約束している。ROE8%以上の達成が続けば、資本コストを超える。大阪の複合開発や下水道の官民連携が育てば、本業以外の稼ぎ口も広がる。
石狩バイオエナジーも、2026年4月に商業運転を再開した。ここが安定稼働すれば、新事業は損の源から稼ぎの源へ変わる。大型工事の損失も、設計変更の取り込みと選別受注で減らせる。
慎重な見方
今の好調は景気の山の利益だ。営業利益率は、2018年3月期の7%台を最高に、5%前後が普通で、赤字の年も過去に3回ある。2025年3月期は大型の土木工事の損失などで営業利益が97億円、純利益が27億円まで落ちた。資材高を転嫁できるのは今の需給が締まっているからで、民間投資の一巡や値上げ疲れで崩れうる。
2026年3月期の純利益184億円には、石狩バイオエナジーの為替予約の評価益という一過性の分が含まれる。営業利益は159億円で、純利益が営業利益を上回るのは普通ではない。今のROE9%台は、実力より高く見えている。
国内の工事量は、人口減で実質では増えない。会社自身も、土木の発注件数が実質で減り、採算の高い案件の入札は厳しいと説明する。2027年3月期の売上予想は前期を下回る。
石狩バイオエナジーは、配管の腐食で長く止まり、再開は2026年4月だった。再び不具合が出れば、また損失になる。
資本の面でも、ROE8%という目標は高くない。会社自身が株主資本コストを6〜7%と置いているが、価格を決める力の弱い入札の業種で、利益が景気で大きく振れる会社の資本コストとしては低すぎる。目標を達成しても、価値は増えない可能性がある。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方が少し強い。事業の質や繰越の厚さでは強気の見方に分がある。だが値段を決めるのは、資本コストを超えて稼げるかどうかで、そこでは慎重な見方の指摘が勝つ。確率は、中立に4割弱を置き、残りを慎重側にやや厚くした。悲観を1割強に置いたのは、2025年3月期に利益が急落した経験が、谷の深さを示しているからだ。繰越の厚さは近い年の利益を守るが、10年先の採算までは守らない。人手不足は採算を支える一方、売上の伸びを縛る。中立は会社の目標並みの利益で、倍率は資本コストの手前の会社として置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 7,729 円2,775 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,944 円1,057 億円)。 今の値に割り戻すと 5,584 円2,005 億円、今との差 +5.7%、 期待の年率 +7.3%(資本コスト 8.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 12,236 円4,394 億円 | 4,094 円1,470 億円 | +209.3% | +12.0% | 1,143 円410 億円 |
| やや楽観 | 17% | 10,043 円3,606 億円 | 3,704 円1,330 億円 | +160.4% | +10.0% | 2,337 円839 億円 |
| 中立 | 38% | 8,563 円3,075 億円 | 3,231 円1,160 億円 | +123.4% | +8.4% | 4,482 円1,609 億円 |
| やや悲観 | 26% | 6,009 円2,158 億円 | 2,562 円920 億円 | +62.3% | +5.0% | 2,229 円800 億円 |
| 悲観 | 12% | 2,907 円1,044 億円 | 1,114 円400 億円 | −23.9% | −2.7% | 482 円173 億円 |
| 加重平均 | 100% | 7,729 円2,775 億円 | 2,944 円1,057 億円 | +102.1% | +7.3% | 10,673 円3,832 億円 |
今の株価時価総額 5,280 円1,896 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 7% 選別受注と土木の技術で稼ぐ力が定着 利益 261 億円 · PER 13.6 倍 · 株価時価総額 12,236 円4,394 億円
建築は選別受注を貫き、利益率は6%に届く。土木はシールドやトンネルなど技術で差のつく工事を取り込み、7%台を保つ。国土強靱化の予算が続き、更新工事が途切れない。
石狩バイオエナジーは安定稼働に入り、下水道の包括管理などの官民連携も育つ。大阪の複合開発は黒字で回り、不動産は資金を循環させる事業になる。営業利益は300億円に迫り、利益率は過去の最高水準に並ぶ。
配当性向70%は守られ、自己資本は厚くなり過ぎない。ROEは10%を超える。国内の量が実質で増えない点は変わらないが、価格と採算で補う最も良い姿だ。人手不足の中で、受注を絞って採算を守る力が、そのまま会社の差になる。
- 建築:数量 252(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.85(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 2,485 億円・営業利益 149 億円。建築:施工量 252.2万人日換算 × 1人日あたり 9.85万円、利益率 6.0%
- 土木:数量 161(施工量(万人日、実質))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 1,670 億円・営業利益 125 億円。土木:施工量 160.9万人日換算 × 1人日あたり 10.38万円、利益率 7.5%
- 投資開発・その他:数量 31.7(事業量(万人日換算、実質。推定))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 328 億円・営業利益 20 億円。投資開発・その他:施工量 31.7万人日換算 × 1人日あたり 10.35万円、利益率 6.0%
倍率:事業の純利益 261 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.0% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.0%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.6 倍。全体の PER 13.6 倍、時価総額 3,550 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10年を通じて建築の採算を保ち、土木の技術力も評価され、石狩や不動産も黒字化する筋書き。何重にも当たる必要があり、確率は低い。
やや楽観 17% 価格転嫁が続き、資本効率が上向く 利益 214 億円 · PER 12.8 倍 · 株価時価総額 10,043 円3,606 億円
建築は利益率5%台前半を保ち、土木は6%台後半で安定する。民間工事は実質で横ばいでも、値上げは物価並みに通る。
投資開発は小さいが、黒字の事業に育つ。石狩バイオエナジーも大きな追加損失なく動く。営業利益は240億円前後で、中期経営計画の200億円を上回る。
配当性向70%は続き、ROEは9%近くまで上がる。会社は資本コストを意識した経営を続けていると市場に認められる。それでも国内の量が増えない制約は、最後まで残る。2030年代に入ると、土木の更新工事が建築の波の一巡を和らげる。
大型工事の損失は小さく抑えられ、営業利益率は5%台を保つ。堅実だが、驚きのない良い10年になる。
- 建築:数量 245(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.71(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 2,376 億円・営業利益 128 億円。建築:施工量 244.7万人日換算 × 1人日あたり 9.71万円、利益率 5.4%
- 土木:数量 153(施工量(万人日、実質))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 1,567 億円・営業利益 105 億円。土木:施工量 153.2万人日換算 × 1人日あたり 10.23万円、利益率 6.7%
- 投資開発・その他:数量 23.8(事業量(万人日換算、実質。推定))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 243 億円・営業利益 9 億円。投資開発・その他:施工量 23.8万人日換算 × 1人日あたり 10.20万円、利益率 3.5%
倍率:事業の純利益 214 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.4% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.8 倍。全体の PER 12.75 倍、時価総額 2,728 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:値上げが物価並みに通り、土木の採算が保たれれば、ROEは資本コストにわずかに届く。ただ国内の量が伸びないため、これ以上は置かない。
中立 38% 量は横ばい、価格だけ上がる成熟 利益 175 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 8,563 円3,075 億円
建築の施工量は実質で5%ほど減り、価格だけが物価並みに上がる。利益率は4%台後半に落ち着く。土木は強靱化で量を保ち、6%前後を稼ぐ。
営業利益は200億円前後と、会社が掲げる目標の水準だ。今期の予想より低いのは、今の高い利益率が景気の山のものだからだ。
投資開発と石狩バイオエナジーは大きな利益を生まない。ROEは7%台と資本コストの手前にとどまる。配当性向70%を守っても、事業の稼ぎが増えないため、株主にとっては物足りない10年になる。大きな失敗も大きな成功もない、平らな道だ。
繰越工事の厚みが近い年の利益を支えるが、10年先の採算までは守らない。人手不足の中で、採算の悪い工事を断れるかどうかが、利益率を5%前後に保てるかを決める。
- 建築:数量 240(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.57(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 2,292 億円・営業利益 110 億円。建築:施工量 239.6万人日換算 × 1人日あたり 9.57万円、利益率 4.8%
- 土木:数量 146(施工量(万人日、実質))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 1,466 億円・営業利益 88 億円。土木:施工量 145.5万人日換算 × 1人日あたり 10.08万円、利益率 6.0%
- 投資開発・その他:数量 19.0(事業量(万人日換算、実質。推定))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 191 億円・営業利益 2 億円。投資開発・その他:施工量 19.0万人日換算 × 1人日あたり 10.05万円、利益率 1.0%
倍率:事業の純利益 175 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.1% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 2,188 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:量は実質で少し減り、価格は物価並み。人手不足で採算は保たれるが、今の山の利益率からは戻る。最も標準的な姿。
やや悲観 26% 地方の縮小と人手不足で採算が細る 利益 131 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 6,009 円2,158 億円
地方の人口減と公共工事の競争で、施工量が実質で1割強減る。価格転嫁は止まり、人件費の上昇だけが重くなる。建築の利益率は4%まで下がる。
土木は低採算の入札が増える。大型の不採算工事が一件出ると、一年の利益が消える。過去にそれは実際に起きた。石狩バイオエナジーは追加の修繕費がかさみ、投資開発は金利上昇で売却益が細る。
営業利益は150億円前後にとどまり、ROEは5%ほどになる。会社は配当を守るが、事業の稼ぎは増えない。資本コストを稼げない会社と見られ、市場の評価は低いままだ。
政策保有株の縮減は進むが、売却代金は稼ぎを生む投資に回らず、資本の効率は上がらない。地方の公共工事は予算が限られ、競り合いも厳しい。会社は選別受注を貫けず、人手不足の中で採算の悪い工事を抱え込む。
- 建築:数量 222(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.35(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 2,076 億円・営業利益 83 億円。建築:施工量 222.0万人日換算 × 1人日あたり 9.35万円、利益率 4.0%
- 土木:数量 138(施工量(万人日、実質))× 価格 9.85(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 1,358 億円・営業利益 71 億円。土木:施工量 137.9万人日換算 × 1人日あたり 9.85万円、利益率 5.2%
- 投資開発・その他:数量 15.9(事業量(万人日換算、実質。推定))× 価格 9.83(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 156 億円・営業利益 −2 億円。投資開発・その他:施工量 15.9万人日換算 × 1人日あたり 9.82万円、利益率 -1.0%
倍率:ROE 約 5.5%(純利益 131 億円 ÷ 自己資本 2,369 億円)。事業の ROE が k 8% 以下で、正当化 PER は 1÷k = 11.8 倍が上限。地方の縮小と不採算工事で稼ぎが資本コストに届かない局面のため、上限の 7 割強の 8.5 倍に置いた。
確率:地方の人口減と人手不足は準大手に重い。大型工事の損失を一度出した履歴もあり、利益率が戻る展開を中立に近い厚みで置いた。
悲観 12% 構造的に負け、低採算工事に頼る 利益 40 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 2,907 円1,044 億円
構造的に負ける。地方の建設市場が縮み、人手不足の中でも受注を選べなくなる。低採算の工事を受けざるを得ず、建築の利益率は2%まで落ちる。
大型工事で再び多額の損失を出し、石狩バイオエナジーも修繕と稼働停止で重荷になる。不動産には評価損が出る。営業利益は60億円台で、純利益も減損で40億円ほどだ。
配当は自己資本配当率2%の下限で維持するが、優良な会社とは見られなくなる。財務の体力は残るものの、稼ぐ力の回復は見えず、再編の対象にもなりやすい。地方の縮みは10年かけてじわじわ効き、ある年に急に表に出る。
- 建築:数量 189(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 8.71(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 1,648 億円・営業利益 33 億円。建築:施工量 189.2万人日換算 × 1人日あたり 8.71万円、利益率 2.0%
- 土木:数量 120(施工量(万人日、実質))× 価格 9.17(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 1,096 億円・営業利益 33 億円。土木:施工量 119.5万人日換算 × 1人日あたり 9.17万円、利益率 3.0%
- 投資開発・その他:数量 12.7(事業量(万人日換算、実質。推定))× 価格 9.15(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 116 億円・営業利益 −3 億円。投資開発・その他:施工量 12.7万人日換算 × 1人日あたり 9.15万円、利益率 -3.0%
倍率:構造的に優良でなくなり、大型工事の損失と不動産の評価損が出た姿。稼ぐ力は純利益 40 億円を k 8% で割っても 470 億円ほどで、床は売れる資産で測る。総資産約 4,400 億円(自己資本 1,969 億円 ÷ 自己資本比率 44.7%)を強制売却で 8 割しか回収できず、負債約 2,440 億円は全額払うとして残る約 1,090 億円を、今の自己資本 1,969 億円に対する PBR 0.53 倍に置いた。EV でも見たが、営業利益は 60 億円台と小さく、EV ÷ 営業利益は谷の年の数字として参考にならない。
確率:大型工事の損失、石狩の再失敗、地方市場の縮小が重なり、優良ではなくなる筋書き。2025年3月期に純利益が27億円まで落ちた経験から、1割強に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
建築
オフィス・工場・物流施設・マンションなどを請け負って建てる。売上の約6割を占める主力。
| 数量施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質) | 価格1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 252 | 7.14 | 1,801 | 80 |
| 10 年後 中立 | 240 | 9.57 | 2,292 | 110 |
取り方:建築事業の売上 1,801 億円(決算説明資料)。営業利益はセグメント別の開示を確認できなかったため推定で 80 億円(利益率 4.4%)と置いた。施工量は戸田建設と同じ 1 人日あたり売上 7.14 万円で割って約 252 万人日と推定した。物価の分は価格に入る。
土木
トンネル・シールド・ダム・治水・道路など官公庁発注が中心の工事。国土強靱化の恩恵を受ける。
| 数量施工量(万人日、実質) | 価格1人日あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 153 | 7.52 | 1,152 | 85 |
| 10 年後 中立 | 146 | 10 | 1,466 | 88 |
取り方:土木事業の売上 1,152 億円。営業利益は推定で 85 億円(利益率 7.4%)。繰越工事の追加・設計変更と原価低減で採算が改善した(決算説明会)。建築と同じ要領で約 153 万人日と推定した。土木は機械・材料の割合がやや高いので 1 人日あたり売上は建築よりやや高い。
投資開発・その他
不動産の取得・開発・売却と、石狩バイオエナジー(バイオマス発電)、下水道の官民連携などの新事業、全社の調整。
| 数量事業量(万人日換算、実質。推定) | 価格1人日あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 15.9 | 7.50 | 119 | −6 |
| 10 年後 中立 | 19.0 | 10 | 191 | 2 |
取り方:連結売上 3,072 億円から建築・土木を引いた 119 億円(投資開発 72 億円を含む)と、営業利益の残り -6 億円(全社の調整を含む。推定)。同じ要領で約 16 万人日換算の事業量とした。
リスクと懸念
景気の谷と大型工事の損失で利益が急落する
ゼネコンの利益は景気と大型工事の出来で大きく振れる。奥村組は2025年3月期に、大型の土木工事の損失などで純利益が27億円まで落ちた。今の高い利益率は需給が締まった局面のもので、民間投資が一巡すれば、先に崩れるのは新規受注と採算だ。一件の大型工事で、年の利益が消える規模でもある。
人手不足で施工量が頭打ちになる
2024年問題以降、技能者の確保が最大の制約になった。人が足りなければ受注があっても売上に変えられず、労務費の上昇は利益率を削る。会社の2027年3月期の売上予想も前期を下回り、増収が前提になっていない。人手の確保が採算を守る一方、成長を縛る。
石狩バイオエナジーの再トラブル
北海道のバイオマス発電を営む子会社は、ボイラー配管の腐食で長く止まり、再稼働が2026年4月にずれた。配管の取替えに費用がかかった。再び不具合が出れば、修繕費と停止で本業の利益を食う。為替予約の評価損益も大きく振れ、利益の読みを難しくする。
土木の入札競争が再燃する
国土強靱化の予算は大きいが、発注は入札だ。会社の説明でも、発注の件数は実質で減り、採算の高い案件の入札は厳しい。予算の執行が遅れたり、人手不足が一服したりすれば、土木の高い利益率を保てなくなる恐れがある。
金利上昇で不動産の採算が悪化する
投資開発は、物件を取得・開発・売却して資金を回す事業だ。金利が上がると、利回りを物件価格で割る評価が下がり、売却益が細る。大阪の駅前の複合開発は2027年冬に竣工する予定で、市況の変化は避けられない。純有利子負債は528億円あり、借り換えで利払いも増える。
資本コストを超える稼ぎが定着しない
ROE8%以上を目標にするが、過去10年のROEの中央値は7%で、8%を安定して超えた年は少ない。配当性向70%を守っても、事業の稼ぎが増えなければ株主の価値は増えない。一過性の評価益で数字が良く見える年もあり、実力の見極めには注意がいる。
今後の分かれ目
- 建築・土木の完成工事の粗利率が2期続けて悪化したら
- 価格転嫁の局面が終わったと見て、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 大型の不採算工事が再び出たら
- 利益の振れの大きさが確認されたとして、悲観の確率を上げ、中立の利益率を下げる。
- 石狩バイオエナジーが1年以上安定して稼働し、為替の影響を除いても黒字になったら
- 新事業が損の源でなくなったとみて、楽観側の確率を少し増やす。
- 土木の受注が国土強靱化で2期続けて増えたら
- 土木の利益を上方に直し、中立の営業利益を数十億円増やす。
- 政策保有株の売却代金が、自社株買いや配当に回ったら
- 資本の使い方の評価を上げる。ただ事業の稼ぎが増えないなら価値は動かさない。
- 準大手どうしの統合や、外部資本による再編が出たら
- 統合後の資本効率次第。割高な買収なら価値を下げ、規模の経済が働くなら上げる。
見ておくもの
- 四半期ごとの建設受注高と繰越工事の推移
- 建築・土木の完成工事の粗利率
- 大型工事の損失の有無と、設計変更の取り込み
- 石狩バイオエナジーの稼働状況と為替の影響
- 政策保有株の売却と、その代金の使い道
- 国土強靱化予算の執行と土木の受注
倍率と資本コストの決め方
倍率は、事業の ROE が資本コスト k 8%(基本 7.5% + quality 1.0%)に届かない前提で、正当化 PER の上限(1÷k = 約 11.8 倍)に ROE÷k(0.93)と 9 割を掛けた 9.7 倍に置いた。悲観は谷の利益でなく、総資産の 8 割回収・負債全額払いで残る売れる資産(約 1,090 億円)を今の自己資本に掛けて測り、谷の PBR は使っていない。今の株価や PER を見てから決めたわけではない。2026 年 3 月期の純利益 184 億円は為替予約の評価益を含むので使わず、営業利益から積んだ。純有利子負債は 528 億円で純現金ではないため、余った現金は分けていない。なお、2028 年 3 月期から新リース会計基準で BS の形が変わるが、数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。セグメント別の営業利益と施工量は開示が無いので、筆者の推定である。持ち合い株の評価差額金は配当が純利益に入っているので余り資産に足していない(二重を消した)。今の株価から逆算した値ではない。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 1.0% = 8.5%。理由は quality_why。個別のリスク(大型工事の損失・石狩バイオエナジーなど)は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.00%。