結論
淺沼組は、工場・倉庫・データセンター・学校などを建てる、建築に偏った準大手ゼネコンだ。筆者の結論は「やや割高」。選別受注で稼ぐ力は上向いたが、10年の価値は今の時価総額に少し届かない。
最大の強みは、仕事を選べる環境を採算に変えたことだ。受注は大きく伸び、直近の繰越工事は連結で約2,760億円と、売上の1年半分を超える。リニューアルは営業利益のほぼ半分を稼ぎ、新築より粗利が5〜6ポイント高い。
弱みは、小さな建築専業で景気の波を直接かぶる点だ。営業利益率は4%台で、過去の最良でも5%台半ばにとどまる。赤字の年は過去20年に4回ある。土木や不動産で波をならす余地は、大手や準大手の他社より小さい。
中立の筋書きでは、営業利益は10年後に100億円弱へ伸びる。ROEは10%前後を保ち、資本コストを上回る。それでも確率で重みづけた価値は、今の時価総額をやや下回る。今の値段は、選別受注の成果が長く続くことをかなり織り込んでいる。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、建設は「資本が軽く、毎年売り直す事業」だ。工場も店も要らず、利益の大半は株主に配れる。そこは魅力だ。一方、受注は毎年取り直しで、景気の山と谷で利益が大きく振れる。
株主のものになる利益、つまり事業に再投資せず自由に使える利益は、純利益のほぼ全額だと筆者は見る。成長に要るのは運転資金だけだからだ。実際、会社は純利益の7割を超えて返している。資本の使い方は、この規模の会社として筋が通る。
気になるのは、現金の中身だ。純現金は約94億円あるが、1年前は逆に純負債だった。施主から先に受け取る前受金と、協力会社への未払いの波で、現金は大きく動く。これを自由に使える余剰とは見ない。
安全域は薄い。強気の筋書きでも今の値段を大きくは上回らず、慎重な筋書きでは大きく下回る。わかりやすい事業でも、払う値段が価値を超えているなら手は出さない。事業の質が高まっているのは確かだが、値段が先に走った。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は建築だ。連結売上のおよそ8割を占める。工場・倉庫が最大の用途で、次に住宅、オフィス、学校や研究施設が続く。直近はデータセンターの大型案件も取った。新築が8割超で、リニューアルは売上の2割弱にとどまる。
ただし利益の姿は違う。リニューアルが連結営業利益の49%を稼いでいる(2025年度)。既存の建物を直す工事は、壁を開けてから見つかる追加作業が多く、粗利が新築より5〜6ポイント高い。1件の規模が小さく、大手が手を出しにくい点も効く。会社は「リニューアルのブランド」を掲げ、名古屋支店の改装は多くの賞を取った。
土木は売上の約17%だ。上下水道、ダム、電線路といった公共性の高い工事が中心で、2025年度は大型案件で受注が4割近く伸びた。残りは不動産などで、規模は小さい。
海外はシンガポールが軸だ。現地の建設会社と塗装会社を傘下に持ち、5月には塗装会社をもう1社買った。同国では建物に7年ごとの塗装義務があり、需要が読みやすい。中期経営計画の投資70億円のうち47億円を、ASEANのリニューアルに振る。
創業は1892年で、奈良に始まる。大阪に技術研究所があり、土を材料にした壁やブロックの特許も持つ。派手さはないが、地道に建てる会社だ。
優良さと弱いところ
優良さを一言で言えば「採算を磨いている中堅」だ。堀、つまり他社がまねできない強みは、まだ浅い。
強みは三つある。一つ目は、受注の選び方だ。営業担当に最低限の採算の線を課し、その線を2年続けて引き上げた。二つ目は、リニューアルだ。大手が敬遠する小さな工事を、新築で培った施工力で取る。三つ目は人だ。社員の平均勤続は約22年で、会社は大手23社で最長と説明する。人手が足りない業界で、これは効く。
弱みも三つある。一つ目は、価格を決める力の弱さだ。発注者は入札や相見積りで競わせる。二つ目は、建築への偏りだ。景気で民間の設備投資が冷えれば、受注が一度に細る。三つ目は安全だ。2025年度に作業所で死亡災害が1件起き、社長が説明会で謝罪した。再発すれば信用も採用も傷む。
資本の使い方は素直だ。配当性向70%以上を掲げ、累進配当を続ける。ROEは10%台で、会社が置く資本コストを上回る。ただ会社は株主資本コストを5.5%と置く。筆者の見方はそれより厳しく、その差が評価の分かれ目になる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の建設市場は、量が増えない成熟市場だ。それでも今は「作れば儲かる」局面にある。2024年4月に残業の上限規制が始まり、技能者が足りなくなった。受け手のゼネコンが仕事を選べるようになり、値上げが通る。上場ゼネコン50社の2025年度の受注は16.5兆円で、集計以来の最高だった。淺沼組の受注はその約1.3%にあたる。
同社の戦場は、民間の設備投資と、公共の更新工事だ。データセンター、半導体関連、物流施設の投資は当面強い。国土強靱化は2026年度から5年で20兆円強の計画があり、上下水道や電線路の更新が続く。リニューアルは、国内の建物の約半分が1990年より前に建ち、直す時期に入ったことが追い風だ。
競合は多い。安藤・間、熊谷組、西松建設、奥村組、東急建設、戸田建設といった準大手に加え、大手の下請けや地場のゼネコンとも競る。市場は分散しており、規模の差で価格は決まらない。決めるのは、誰が人手を押さえているかだ。
10年先は、いまの投資の波が一巡する。その後は、実質で横ばいか緩やかな縮小に向かうと筆者は見る。利益を分けるのは、売上の大きさでなく、採算を守る力だ。再編も進みやすい。人手不足で後継者のいない地場ゼネコンが、買い手を探している。中東情勢の不透明さも、資材と民間投資の両面で気がかりだ。
資本政策と M&A
資本政策は、還元に軸足がある。配当性向は70%以上で、2025年度の配当は9期連続の増配になった。2026年度は据え置きだが、不透明感が晴れれば見直す余地があると会社は説明する。2026年は6月末から8月にかけて計約13億円の自社株買いを終え、9月に90万株を消却した。
政策保有株、つまり取引先の株式の持ち合いは、純資産の約14%まで下がった。会社は10%を切る水準を目ざす。取引先に頼らず自分で稼ぐ姿へ、少しずつ寄っている。
投資は小粒だ。中期経営計画の3年間で70億円と、利益の1年半分にも満たない。大半はリニューアルとASEANに向ける。大きな買収で価値を壊す会社ではない。その代わり、成長を買う力も小さい。
株主は分散している。信託銀行の名義が12%、社員持株会が5%で、支配株主はいない。時価総額は約700億円と小さく、準大手どうしの統合や、地場との再編の話が出ても不思議はない。ただ、筆者は10年での再編を本命とは見ていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
建設業は、受け手が仕事を選べる時代に入った。人手が足りないかぎり、採算の悪い工事は取らなくてよい。淺沼組はそれを実行している。営業に課す採算の線を2年続けて引き上げ、直近の4〜6月期は粗利率が前年から2.4ポイント上がった。繰越工事は連結で約2,760億円と、売上の1年半分を超える。
利益の質も変わった。リニューアルが営業利益の約半分を占め、新築より粗利が高い。1件が小さく大手が来ないため、値段で叩かれにくい。シンガポールの塗装会社を2社持ち、ASEANの建物更新へ広げる道もある。
資本の使い方も良い。配当性向は70%以上で、自社株買いも続く。ROEは10%台で、資本コストを上回る。持ち合い株も純資産の14%まで減り、さらに減らす。中期計画の2026年度の利益は、直近の実績とほぼ同じ水準で、保守的に見える。
データセンターや物流施設の投資は、まだ数年は続く。ここで取った大型案件が、次の数年の稼ぎを支える。小さな会社だからこそ、選別の効果が利益率に出やすい。
慎重な見方
今の利益は、景気の山の利益だ。営業利益率は4%台で、過去の最良でも5%台半ばにとどまる。しかも過去20年に、赤字の年が4回ある。2013年3月期には営業赤字に沈んだ。資材高を転嫁できるのは需給が締まっているからで、投資が一巡すれば先に崩れるのは新規受注と採算だ。
会社自身が、来期の受注は5.5%減と見ている。増収も続かない。計画の営業利益率は4.4%にとどまり、粗利率の改善はすでに計画に入っている。
事業の幅も狭い。建築が売上の約8割で、民間の設備投資に左右される。土木は2割弱にとどまり、波をならせない。小さな会社は、1件の大型案件の有無で受注が大きく動く。作業所の死亡災害も1件あり、再発すれば信用を失う。
配当性向70%の裏返しは、自己資本が積み上がりにくいことだ。成長に回す利益が少なく、投資も年20億円ほどしかない。買収で規模を取りに行く力も乏しい。ROEは今が頂上に近く、10年かけて資本コストに近づくとみるほうが自然だ。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方がやや強い。事業の質の改善は本物で、強気の指摘は当たっている。ただ、値段を決めるのは、その改善が10年続くかどうかだ。ここで慎重な見方の指摘が勝つ。
確率は、中立に4割弱を置き、残りを慎重側にやや厚くした。悲観を1割強にしたのは、赤字の年が4回あることと、建築への偏りを無視できないからだ。強気の筋書きに2割弱を置けるのは、ROEが10%を超え、資本コストを上回る姿に根拠があるためだ。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,090 円867 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 498 円396 億円)。 今の値に割り戻すと 844 円672 億円、今との差 −3.4%、 期待の年率 +6.2%(資本コスト 8.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 1,986 円1,581 億円 | 653 円519 億円 | +202.3% | +11.7% | 185 円147 億円 |
| やや楽観 | 18% | 1,631 円1,299 億円 | 591 円470 億円 | +154.6% | +9.8% | 400 円318 億円 |
| 中立 | 38% | 1,260 円1,003 億円 | 524 円417 億円 | +104.4% | +7.4% | 678 円540 億円 |
| やや悲観 | 25% | 556 円443 億円 | 462 円367 億円 | +16.6% | +1.5% | 254 円203 億円 |
| 悲観 | 12% | 325 円259 億円 | 261 円207 億円 | −32.9% | −3.9% | 70 円56 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,090 円867 億円 | 498 円396 億円 | +81.9% | +6.2% | 1,588 円1,264 億円 |
今の株価時価総額 873 円695 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 7% 採算の良い工事とリニューアルが定着し、稼ぐ力が一段上がる 利益 100 億円 · PER 15.8 倍 · 株価時価総額 1,986 円1,581 億円
10年間、選別受注の線を保ち続ける。人手不足が続き、値上げは物価を少し上回って通る。データセンターや物流の波が引いたあとも、工場と物流の更新、学校や研究施設の需要が残る。
リニューアルは、国内の古い建物の更新とシンガポールの塗装で、売上の3割近くまで育つ。粗利の高い工事が増え、建築の営業利益率は5%台に乗る。土木は電線路や上下水道の更新を取り続け、4%台を保つ。
営業利益は130億円台になり、過去の最良を超える。配当性向70%を守り、自己資本は膨らまない。ROEは14%近くに上がる。国内の量が実質で増えない点は変わらない。それでも施工量をわずかに増やし、価格と採算で稼ぐ、最も良い姿だ。
- 建築(国内新築・リニューアル・海外):数量 215(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.66(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 2,077 億円・営業利益 108 億円。215万人日換算 × 1人日あたり 9.66万円、利益率 5.2%
- 土木:数量 39.0(施工量(万人日、実質))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 404 億円・営業利益 18 億円。39万人日換算 × 1人日あたり 10.35万円、利益率 4.5%
- その他(不動産・附帯事業):数量 7.0(事業量(万人日換算、実質。推定))× 価格 10(1人日換算あたり売上(万円・名目))→ 売上 73 億円・営業利益 9 億円。7万人日換算 × 1人日あたり 10.42万円、利益率 13.0%
倍率:事業の純利益 100 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.8% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.9%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.8 倍。全体の PER 15.81 倍、時価総額 1,581 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10年のあいだ採算を選び続け、リニューアルとASEANも伸びる筋書き。連続して当たる必要があり、確率は低く置いた。
やや楽観 18% 価格転嫁が続き、資本効率が上向く 利益 86 億円 · PER 15.1 倍 · 株価時価総額 1,631 円1,299 億円
建築は、民間の更新工事とデータセンターで量を保ち、利益率は5%近くまで上がる。価格は物価並みに通る。土木は強靱化の予算で量を保ち、4%を守る。
リニューアルが売上の2割台半ばまで育ち、粗利を押し上げる。シンガポールの塗装も回り、ASEANの工事が少しずつ積み上がる。営業利益は110億円台で、ROEは12%ほどになる。
政策保有株の整理は計画どおり進み、売却代金は配当と自社株買いに回る。会社の信用が上がり、倍率も評価される。ただ、国内の量が増えない制約は最後まで残る。大型のデータセンター案件は、当たれば効くが、毎年は取れない。
- 建築(国内新築・リニューアル・海外):数量 205(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.50(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 1,947 億円・営業利益 93 億円。205万人日換算 × 1人日あたり 9.50万円、利益率 4.8%
- 土木:数量 38.0(施工量(万人日、実質))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 387 億円・営業利益 15 億円。38万人日換算 × 1人日あたり 10.18万円、利益率 4.0%
- その他(不動産・附帯事業):数量 6.0(事業量(万人日換算、実質。推定))× 価格 10(1人日換算あたり売上(万円・名目))→ 売上 61 億円・営業利益 8 億円。6万人日換算 × 1人日あたり 10.25万円、利益率 12.5%
倍率:事業の純利益 86 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 12.2% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.1%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.1 倍。全体の PER 15.1 倍、時価総額 1,299 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:値上げが物価並みに通り、リニューアルが育てば、ROEは10%台で続く。ただし国内の量が伸びないため、これ以上は置かない。
中立 38% 量はやや減り、価格だけ上がる成熟 利益 71 億円 · PER 14.1 倍 · 株価時価総額 1,260 円1,003 億円
建築の施工量は実質で5%ほど減り、価格だけが物価並みに上がる。データセンターと物流の波が引き、民間の新築は選別しても細る。リニューアルが穴を埋め、営業利益率は4%台前半にとどまる。
土木は強靱化で量を保つが、その後は先細りで、利益率は3%台半ばだ。不動産などその他は小さく、全体への効きは薄い。営業利益は100億円弱になる。
ROEは10%ほどで、資本コストをわずかに上回る。配当性向は70%を守り、自己資本は積み上がりすぎない。政策保有株は10%を切る。派手な成功も、大きな失敗もない、堅実な10年だ。人手不足のなかで採算を守る力が、会社の差になる。
- 建築(国内新築・リニューアル・海外):数量 193(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.38(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 1,810 億円・営業利益 78 億円。193万人日換算 × 1人日あたり 9.38万円、利益率 4.3%
- 土木:数量 37.0(施工量(万人日、実質))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 372 億円・営業利益 13 億円。37万人日換算 × 1人日あたり 10.05万円、利益率 3.5%
- その他(不動産・附帯事業):数量 5.0(事業量(万人日換算、実質。推定))× 価格 10(1人日換算あたり売上(万円・名目))→ 売上 51 億円・営業利益 6 億円。5万人日換算 × 1人日あたり 10.12万円、利益率 12.0%
倍率:事業の純利益 71 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.4% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 14.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 14.1 倍。全体の PER 14.13 倍、時価総額 1,003 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:量は実質で5%ほど減り、価格は物価並みに上がる。会社の選別受注と、波が一巡したあとの成熟が重なる標準の姿。
やや悲観 25% 民間の投資が一巡し、採算が細る 利益 48 億円 · PER 8.8 倍 · 株価時価総額 556 円443 億円
民間の設備投資が一巡し、建築の施工量は実質で1割台半ば減る。人手不足が一服し、値上げは物価に追いつかない。入札で競り負けないよう、採算の線を下げざるを得ない。
建築の営業利益率は3%台前半に戻り、営業利益は65億円前後まで下がる。土木も低採算の工事が増える。リニューアルは堅いが、新築の落ち込みを埋めきれない。
会社は今の配当額を守ろうとし、還元の割合は上がる。ROEは8%ほどにとどまる。シンガポールの塗装も、現地の受注競争で伸び悩む。市場からは、資本コストをかろうじて稼ぐだけの会社と見られ、倍率は低いままだ。
- 建築(国内新築・リニューアル・海外):数量 175(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.00(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 1,575 億円・営業利益 52 億円。175万人日換算 × 1人日あたり 9.00万円、利益率 3.3%
- 土木:数量 33.0(施工量(万人日、実質))× 価格 9.65(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 318 億円・営業利益 9 億円。33万人日換算 × 1人日あたり 9.64万円、利益率 2.8%
- その他(不動産・附帯事業):数量 4.0(事業量(万人日換算、実質。推定))× 価格 9.71(1人日換算あたり売上(万円・名目))→ 売上 39 億円・営業利益 4 億円。4万人日換算 × 1人日あたり 9.71万円、利益率 10.0%
倍率:ROE 7.8%(純利益 48 億円 ÷ 自己資本 約 618 億円)。事業の ROE が資本コスト k 8% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER は 1÷k = 11.8 倍。投資の波が一巡し、建築に偏る小さな会社の利益が落ちた局面で、上限の 7 割 5 分の 8.8 倍に置いた。
確率:データセンターと物流の波が引き、人手不足も一服して値上げが止まる。小さな建築専業に重く効く筋書きを、中立に近い厚みで置いた。
悲観 12% 構造的に負け、低採算の工事に頼る 利益 19 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 325 円259 億円
構造的に負ける。民間の設備投資が長く冷え、人手不足も和らぐ。受注の線を守れず、低採算の工事を受けざるを得なくなる。建築の営業利益率は2%を割り、営業利益は30億円に満たない。
不具合や労災が重なって信用を落とし、採用も細る。ASEANのリニューアルも伸びず、投資が空振りに終わる。自己資本は減損で目減りする。
配当は減らさざるを得ず、優良な会社とは見られなくなる。財務の体力は残るものの、稼ぐ力の回復は見えない。小さな時価総額と分散した株主構成から、再編の対象にもなりやすい。需要の縮みは10年かけて効き、どこかの年に一気に表へ出る。
- 建築(国内新築・リニューアル・海外):数量 150(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 8.40(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 1,260 億円・営業利益 23 億円。150万人日換算 × 1人日あたり 8.40万円、利益率 1.8%
- 土木:数量 28.0(施工量(万人日、実質))× 価格 9.00(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 252 億円・営業利益 4 億円。28万人日換算 × 1人日あたり 9.00万円、利益率 1.5%
- その他(不動産・附帯事業):数量 3.0(事業量(万人日換算、実質。推定))× 価格 9.06(1人日換算あたり売上(万円・名目))→ 売上 27 億円・営業利益 1 億円。3万人日換算 × 1人日あたり 9.06万円、利益率 5.0%
倍率:構造的に優良でなくなり、減損も出た姿。谷の年は純利益 19 億円で稼ぐ力は 220 億円ほどにしかならず、床は売れる資産で測る。総資産 約1,167億円(買い戻し後の自己資本 485 億円 ÷ 自己資本比率 42.1% を基に、買い戻しで減った現金分を引く)を強制売却で 8 割しか回収できず約 934 億円、負債 約 685 億円は全額払うとして残る約 249 億円(政策保有株と不動産を含む)。今の自己資本 485 億円に対する PBR 0.52 倍(時価総額 259 億円)に置いた。
確率:選別受注が崩れ、建築の専業が価格競争に巻き込まれる筋書き。赤字の年が過去20年に4回ある履歴と建築への偏りから、1割強に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
建築(国内新築・リニューアル・海外)
工場・倉庫・データセンター・住宅・学校などを請け負って建てる主力。リニューアルとシンガポールの建設・塗装もここに含む。
| 数量施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質) | 価格1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 203 | 7.00 | 1,423 | 57 |
| 10 年後 中立 | 193 | 9.38 | 1,810 | 78 |
取り方:建築の売上1,423億円(決算の建築セグメント)。利益は開示が売上総利益ベースなので、総粗利196億円から土木とその他を引いて建築の粗利を約157億円とし、販管費約124億円を売上比で配って営業利益を約57億円と推定した。施工量は戸田建設の建築と同じ要領で、売上を1人日あたり売上7万円(同社より外注比率がやや高いと見て低めに置いた)で割り、約203万人日と推定した。開示値ではなく筆者の推定である。
土木
上下水道・ダム・電線路など公共性の高い工事が中心。2025年度は大型案件で受注が大きく伸びた。
| 数量施工量(万人日、実質) | 価格1人日あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 39.0 | 7.50 | 293 | 10 |
| 10 年後 中立 | 37.0 | 10 | 372 | 13 |
取り方:土木の売上293億円。粗利は約30億円(売上比約10%)で、販管費を売上比で配って営業利益を約10億円と推定した。施工量は1人日あたり売上7.5万円(機械・材料の割合が高い)で割り、約39万人日と推定した。開示値ではなく筆者の推定である。
その他(不動産・附帯事業)
不動産の賃貸・売買などの附帯事業。規模は小さいが利益率は高い。
| 数量事業量(万人日換算、実質。推定) | 価格1人日換算あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 5.0 | 7.55 | 38 | 5 |
| 10 年後 中立 | 5.0 | 10 | 51 | 6 |
取り方:その他の売上38億円。粗利は約8億円で、販管費の一部を配って営業利益を約5億円と推定した。不動産の事業量は直接の数量にならないため、他と同じ人日の単位に換算して置いた。開示値ではなく筆者の推定である。
リスクと懸念
景気の谷で受注が急に細る
建築は景気と民間の設備投資に左右される。過去20年に赤字の年が4回あり、2013年3月期には営業赤字に沈んだ。いまの高い繰越工事は、2年先までの売上を支えるが、その先は守らない。投資が一巡すれば、先に崩れるのは新規受注と採算だ。
人手不足が一服し、値上げが止まる
いまの値上げは、人手が足りないから通る。省人化や外国人の活用が進み、受け手側の余裕が戻れば、発注者は入札で値段を叩き直す。選別受注で積み上げた採算は、その時に試される。建築専業の同社は、この影響を土木で薄められない。
建築への偏りと規模の小ささ
売上の約8割が建築で、民間の設備投資が主な顧客だ。データセンターのような大型案件が1件抜けると、受注は大きく動く。時価総額も約700億円と小さく、人材採用や大型投資で大手に押される場面がある。
労働災害と安全の信用
2025年度に作業所で死亡災害が1件起きた。会社は原因を究明し、安全教育を多言語化するなどの対策を進める。再発すれば、行政処分や発注者からの信用低下を通じ、受注と採用の両方に響く。外国人技能者が増えるほど、教育の手間も増える。
ASEAN投資の空振り
中期計画の投資70億円のうち47億円がASEANのリニューアルだ。シンガポールの塗装会社は、現地の受注苦戦で減収減益の期もあった。買収した会社の売上は約8億円規模にとどまる。利益に結びつかなければ、投資の大半が資本コストを稼げない。
現金の見かけの厚さと配当の重さ
純現金は約94億円あるが、前期は純負債で、運転資本の波に左右される。配当性向70%以上を掲げるため、利益が落ちる年は、配当の維持が内部留保を削る。2028年3月期からの新リース会計基準でも、貸借対照表の形が変わり、自己資本比率の見かけが下がる。
今後の分かれ目
- 建築の受注が2期続けて前年を下回り、粗利率が11%を割ったら
- 選別受注の効果が一巡したと見て、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- リニューアルの営業利益が連結の半分を安定して超え、売上比率も3割に近づいたら
- 利益の質が上がったと見て、強気側の確率を少し増やす。
- 2027年3月期の営業利益が計画の78億円を、2期続けて上回ったら
- 計画の保守性が確かめられ、中立の利益を数十億円引き上げる。
- 死亡災害や重大な法令違反が再び起きたら
- 信用と採用への傷を見て、慎重側の確率を上げる。
- シンガポールの塗装2社が合わせて黒字を続け、ASEANの売上が2桁増になったら
- ASEAN投資の評価を上げ、リニューアルの伸びを強気側へ寄せる。
- 準大手どうしの統合や、地場ゼネコンの事業承継型の買収が出たら
- 統合後の資本効率次第。規模が採算を上げるなら価値を押し上げ、割高な買収なら下げる。
見ておくもの
- 四半期ごとの建築・土木の受注高と繰越工事高
- 完成工事の売上総利益率(直近は11%台)
- リニューアルの営業利益比率と受注額
- 政策保有株の売却額と純資産比(14%から10%未満へ)
- シンガポールの建設・塗装子会社の損益
- 労働災害の件数と、人手の確保(採用数・協力会社の稼働)
倍率と資本コストの決め方
倍率は、ROE が資本コスト k 8%(基本 7.5% + quality 1.0%)を超える前提で、正当化 PER の上限(中立で12.8倍)の約9割に置いた。ROE が k に届く中立では 1÷k(11.8倍)が下限になるため、そこが床になった。やや悲観・悲観は構造的な負けから置き、悲観は総資産の8割回収・負債の全額払いで残る売れる資産(約261億円)を今の自己資本に対する PBR で表した。今の株価や今の PER(約13倍)を見てから倍率を決めてはいない。純現金94億円は運転資本の波を含むため分けていない。政策保有株は純資産の14%で、売却益は10年の利益に入れず、還元の通り道として扱った。数量は人日で推定した値のため、数量と価格の分け方には誤差がある。2028年3月期から新リース会計基準で BS の形が変わるが、数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。株数は台帳の値を使ったが、直近の消却の前後で数字が揺れており、約0.003%の誤差がある。持ち合い株の評価差額金は配当が純利益に入っているので余り資産に足していない(二重を消した)。今の株価から逆算した値ではない。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 1.0% = 8.5%。個別のリスク(労災・M&A の実行など)は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.00%。