結論
大気社は、ビルや工場の空調設備と、自動車工場の塗装ラインを手がける設備工事会社だ。2026 年 3 月期は受注が過去最高の 3,517 億円で、営業利益も 233 億円と最高だった。
筆者の結論は、今の値段はやや高いというものだ。会社の質は良い。ただ営業利益率は 8% 台まで上がり、過去 20 年の 2〜6% を大きく超えた。この高さが 10 年続くとは置きにくい。
強みは 2 つある。1 つは半導体工場やデータセンターの空調で、実績のある数社に案件が集まること。もう 1 つは自動車の塗装ラインで、世界 2 番手とされる位置だ。空調が景気の波を、塗装が自動車の投資の波を受ける。波の山と谷が重なりにくい点は、この会社の持ち味である。
財務は強い。現金は 863 億円あり、自己資本比率は 56% だ。ただ大型案件の前受金が多く、現金の全部が株主のものではない。
還元は厚くなる方向だ。配当は純資産に対する割合で 4.5% を目安にし、自社株買いも年 50 億円ずつ続ける。中立の筋書きでは、利益率が平常に戻り、会社は「特別に儲かる会社」から「普通に強い設備工事会社」へ評価が移る。
バリュー投資の観点から
事業の本質は、止められない工場に入る専門工事だ。土地も大きな設備も持たないので、設備投資が少なく、稼いだ利益を株主に返せる。この点は、バリュー投資の観点では好ましい。
一方で、10 年先の姿は読みにくい。空調は半導体とデータセンターの投資に、塗装は自動車の投資に左右される。「10 年後も変わらず儲かる」と言い切れる事業ではない。
ここ 3 年で利益は 5 割ほど増えた。半分は追い風で、半分は会社の努力だと筆者は見る。受注の選別は本物の改善だ。ただ需要が落ち着けば、同業の値引きは戻る。
現金の厚さは安心材料だが、そのまま株主の価値とは見ない。大型案件の前受金が多く、近く還元で薄くなる計画もあるからだ。
経営の資本配分は堅実だ。還元を増やし、持ち合い株を減らし、買収は小さく積む。ただ、資本効率の低さは、長く放置された課題である。
払う値段については、中立の筋書きでも今の時価総額を下回る。安全域は薄い。持ち続けたい会社だが、今の値段では、買う理由が弱いと見る。
何で稼ぐ会社か
稼ぎは 2 本の事業から出る。1 つは環境システム事業で、2026 年 3 月期の完成工事高は 1,830 億円だ。もう 1 つは塗装システム事業で、1,030 億円である。
環境システムは、空調を設計して施工する仕事だ。中心は産業空調で、半導体・電子部品・製薬の工場を相手にする。温度と湿度を細かく管理する工事で、難度が高い。ほかに、オフィスや再開発ビルの空調と、データセンターの空調がある。顧客はゼネコンと、工場を持つメーカーだ。
塗装システムは、自動車の車体に塗料を吹く工場の設備を丸ごと作る仕事だ。ロボット、乾燥炉、空気の清浄設備を組み合わせる。顧客は自動車メーカーで、国内、インド、欧州、北米に拠点がある。1 件が数百億円になる大型案件もあり、売上は案件の山で大きく動く。
工事は受注から完成まで 1〜2 年かかる。受注残は 3,044 億円と過去最高で、足元の売上を支える。
同社は 2025 年に「10 年プラン 2035」を掲げた。2035 年 3 月期に完成工事高 5,000 億円、ROE 12% が目標だ。重点の市場は半導体、自動車、電池、医薬、データセンターの 5 つである。成長投資は 3 年で 380 億円で、うち 220 億円は買収や提携に向ける。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、止められない工場を安全に立ち上げる実績だ。半導体や電池の工場は、空気のわずかな汚れが歩留まりを落とす。自動車の塗装ラインは、止まれば車の生産が止まる。発注者は値段より、失敗しない相手を選ぶ。
塗装は国内首位で、世界でも 2 番手とされる。ただ、この順位は会社の説明で、市場の大きさとシェアを示す統計は見つからなかった。ドイツのデュールなど、大手との競争は続く。
空調の同業は、高砂熱学が売上約 4,200 億円で最大手だ。大気社は約 2,900 億円で、ダイダンや三機工業と近い。規模では 2 番手の集団にいる。
資本効率は低めだ。過去 10 年の ROE の中央値は 7% 台で、同業の高砂熱学やダイダンより低い。現金を厚く持ち、自己資本比率が 56% あるためだ。直近は 9.7% まで上がったが、これも利益率が高い年の数字である。
弱い点は 3 つある。ゼネコン下請けで値段を決める力が限られること。塗装は大型案件の採算が読みにくいこと。そして利益率が過去最高の水準にあることだ。筆者がいちばん気にしているのは、3 つ目である。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の空調工事は、人口では増えない成熟市場だ。新築は東京など一部に偏る。それでも需要の質が変わってきた。
1 つは半導体とデータセンターだ。国内の半導体投資に加え、米国や中東のデータセンターで日本の工事会社が受注する例も出ている。大気社も 2026 年 3 月期に、海外で大型のデータセンター案件を取った。もう 1 つは更新だ。古いビルの空調を、省エネ型に入れ替える需要が続く。
ただ、産業向けの投資は顧客の判断で止まりやすい。半導体は世界の設備投資の波を受け、データセンターは国内に十分な量が来るとは限らない。人手不足も最大の制約で、技能者の数が工事量の上限を決める。
自動車の塗装は別の景色だ。世界の車の生産台数は大きくは増えない。伸びるのは、電気自動車の新工場、欧州の設備更新、インドの増産、そして塗料を減らす新しい塗装技術の導入だ。顧客の投資は自動車メーカーの判断と関税、為替で動く。
同業の空調会社は、各社とも利益率が改善している。需要が落ち着けば、受注の取り合いが戻る。会社は 2027 年 3 月期の完成工事高を 3,070 億円と見込む。経常利益は 250 億円とほぼ横ばいで、成長投資の費用が増収の効果を打ち消す。第 1 四半期は営業利益が前年より 1 割減った。
資本政策と M&A
還元は厚くなる方向だ。配当は純資産に対する割合(DOE)で 4.5% を目安に引き上げた。自社株買いは中計の 3 年間、年 50 億円ずつ続ける。2026 年 3 月期は予定どおり実施した。
持ち合い株、つまり取引先の株は、純資産の 21% ある。中計の最終年度までに 15% 以下に下げる計画で、売却目標を累計 95 億円に引き上げた。
成長投資は 3 年で 380 億円で、うち 220 億円を買収と提携に使う。すでに北米で、自動車向けの自動化設備の会社を買った。ただ大型の買収で価値を壊した記録はなく、小さな買収を積む姿勢だ。
自己資本比率は、還元と借入で 50% を下回る水準まで下げる計画だ。いまの現金の厚みは、今後は薄くなる可能性がある。
大株主は信託銀行が中心で、建材社(創業時の商号を引き継ぐ法人)が 5%、住友不動産が 3.6% だ。筆頭の支配株主はいない。TOB の確率は、外部の試算で 10 年以内に 17% ほどだ。筆者はこの数字を、そのまま信じていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
利益率の改善は、追い風だけではない。会社は受注の時点で採算を選び、協力会社の組織化と施工のユニット化で、人手の壁を超えようとしている。この改善は、需要が落ち着いても残る。
需要の質も変わった。半導体とデータセンターの空調は、難度が高く、価格を取りやすい。ビルの更新と省エネ改修は、新築と別に続く。人手不足の時代に、技術者と協力会社を集められる規模は、受注で有利になる。
塗装は、欧州で数億ユーロの過去最大案件が動いている。北米では自動車向けの会社を買い、インドでも採算が改善した。空調と塗装の山は重なりにくく、利益の波は和らぐ。
財務も強い。現金は 863 億円、自己資本比率は 56% だ。配当は DOE 4.5%、自社株買いは年 50 億円で、還元は厚くなる。持ち合い株を売った資金は、成長投資に回る。
10 年プランの完成工事高 5,000 億円、ROE 12% が実現すれば、いまの値段は安く見える日が来る。
慎重な見方
過去 20 年の営業利益率は 2〜6% が中心だった。今の 8% は、その上に突き出ている。需要が一巡すれば、同業は受注を取り合い、ゼネコンは工事費を抑えにかかる。下請けでは、価格を決める力に限りがある。
半導体とデータセンターの投資は、ここ数年の追い風だった。ただ、国内に十分な量が来る保証はない。受注残が厚いのは、足元の話にすぎない。
塗装は、もっと読みにくい。大型案件は 1 件の採算で通期の利益が動く。今期の受注は 970 億円と、前期より 381 億円減る見込みだ。電気自動車の減速や関税、中東情勢が、顧客の投資を止める恐れもある。
資本効率も低い。過去 10 年の ROE は 7% 台で、資本コストにも届かない年が多かった。還元を厚くしても、稼ぐ力そのものは変わらない。
今期は成長投資の費用が増え、会社予想の経常利益は前期と同じだ。第 1 四半期は営業利益が 1 割減った。これから伸びるという話は、まだ数字になっていない。
どちらに重みを置いたか
会社の実力と財務は強気の見方が優勢だ。ただ利益率が 10 年続く点と、塗装の読みにくさは慎重な見方に分がある。中立の筋書きは、空調の利益率が 10.5% から 8.5% へ戻る姿にした。
確率は、やや悲観に厚く寄せた。強気は 7%、やや強気は 20%、中立は 35% だ。残りの 38% を、やや悲観 26% と悲観 12% に分けた。利益率が過去最高の直後の会社は、平常に戻る確率のほうが高いと見る。
会社の質を高く評価することと、今の値段を高いと見ることは、矛盾しない。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 4,574 円2,890 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 1,973 円1,247 億円)。 今の値に割り戻すと 3,527 円2,229 億円、今との差 −3.9%、 期待の年率 +6.0%(資本コスト 7.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 8,712 円5,505 億円 | 2,532 円1,600 億円 | +206.4% | +11.8% | 787 円497 億円 |
| やや楽観 | 20% | 7,012 円4,431 億円 | 2,295 円1,450 億円 | +153.6% | +9.8% | 1,861 円1,176 億円 |
| 中立 | 35% | 5,266 円3,328 億円 | 2,089 円1,320 億円 | +100.4% | +7.2% | 2,574 円1,627 億円 |
| やや悲観 | 26% | 2,360 円1,491 億円 | 1,820 円1,150 億円 | +13.9% | +1.3% | 1,087 円687 億円 |
| 悲観 | 12% | 874 円552 億円 | 1,108 円700 億円 | −46.0% | −6.0% | 238 円150 億円 |
| 加重平均 | 100% | 4,574 円2,890 億円 | 1,973 円1,247 億円 | +78.4% | +6.0% | 6,547 円4,137 億円 |
今の株価時価総額 3,670 円2,319 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 7% 空調も塗装も伸び、10 年プランに近づく 利益 300 億円 · PER 17.5 倍 · 株価時価総額 8,712 円5,505 億円
半導体とデータセンターの空調が、国内と海外で増え続ける。大気社は非日系のメガクラウドの案件を取り、実績のある数社に入り続ける。協力会社の組織化とユニット化で、人手の壁も超える。値上げは物価を少し超えて通り、環境システムの利益率は 10% 台を保つ。
塗装では、欧州の過去最大案件を成功させ、北米の買収と合わせて顧客を広げる。塗料を減らす新技術も受注に結びつく。利益率は 5% まで上がる。
こうして 10 年プランの完成工事高 5,000 億円に近づく。現金は買収と還元に使われ、ROE は 13% 台に乗る。ライバルが人手に苦しむ間に、案件を選ぶ側に回れる、理想に近い 10 年である。
- 環境システム(空調):数量 4,500(施工量(人年。技能者と技術者の稼働を今の値段で測った実質の工事量))× 価格 0.68(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 3,060 億円・営業利益 321 億円。工事量 4,500(今の 1.23 倍)× 0.68 億円(今の 1.36 倍)、営業利益率 10.5%
- 塗装システム:数量 2,500(施工量(人年。塗装ラインの設計・組立・据付に携わる人の稼働を今の値段で測った実質の工事量))× 価格 0.70(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 1,750 億円・営業利益 88 億円。工事量 2,500(今の 1.25 倍)× 0.70 億円(今の 1.36 倍)、営業利益率 5%
倍率:事業の純利益 295 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.5% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.5 倍 + 余った現金(戻り方込み)350 億円。全体の PER 17.47 倍、時価総額 5,505 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:空調の投資が 10 年とぎれず、塗装も欧州・北米・インドで大型案件を取り続ける必要がある。人手不足と自動車投資の波を考えると、条件は多い。
やや楽観 20% 空調が支え、塗装も着実に伸びる 利益 250 億円 · PER 16.7 倍 · 株価時価総額 7,012 円4,431 億円
産業空調は一段落しても、ビルの更新と省エネ改修が新築の落ち込みを埋める。データセンターは海外案件が積み上がり、環境システムの利益率は 9% 台で落ち着く。
塗装は、欧州の大型案件が終わった後も、インドと北米の工場投資で売上を保つ。利益率は 4% 台まで上がる。
成長投資の買収は小さな成功を積み、第三の柱の芽が出る。還元は DOE 4.5% 以上の配当に自社株買いが加わり、ROE は 11% 台になる。ただ国内の工事量は、人口と人手不足で大きくは伸びない。成長の多くは、単価と海外が担う。空調と塗装の山が重ならず、利益の波も小さく収まる。
- 環境システム(空調):数量 4,250(施工量(人年。技能者と技術者の稼働を今の値段で測った実質の工事量))× 価格 0.68(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 2,869 億円・営業利益 273 億円。工事量 4,250(今の 1.16 倍)× 0.675 億円(今の 1.35 倍)、営業利益率 9.5%
- 塗装システム:数量 2,300(施工量(人年。塗装ラインの設計・組立・据付に携わる人の稼働を今の値段で測った実質の工事量))× 価格 0.70(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 1,598 億円・営業利益 67 億円。工事量 2,300(今の 1.15 倍)× 0.695 億円(今の 1.35 倍)、営業利益率 4.2%
倍率:事業の純利益 245 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.5% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.6 倍 + 余った現金(戻り方込み)350 億円。全体の PER 16.65 倍、時価総額 4,431 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:半導体とデータセンターの投資が一巡後も一定の高さを保ち、更新需要と塗装の海外が補う想定。業界の見通しの上位レンジに当たる。
中立 35% 利益率は平常へ戻り、普通に強い会社に 利益 198 億円 · PER 15.4 倍 · 株価時価総額 5,266 円3,328 億円
新築の空調は人口の減少で伸びず、半導体とデータセンターの投資も勢いを失う。それでも古いビルの更新が需要を下支えする。大気社は施工量を 1 割ほど増やすが、環境システムの利益率は 10.5% から 8.5% へ戻る。同業との競争で、値上げの余地が縮むためだ。
塗装は、自動車の工場投資の波の中で、施工量を 5% ほど増やす。利益率は 3.5% で、今と大きくは変わらない。
10 年後には、特別な超過利益が消えた、地味だが堅実な設備工事会社になる。完成工事高は 4,100 億円ほどで、10 年プランの 5,000 億円には届かない。配当は DOE 4.5% に自社株買いを足し、還元は純利益の 7 割台に達する。ROE は 10% 弱に落ち着く。
- 環境システム(空調):数量 4,000(施工量(人年。技能者と技術者の稼働を今の値段で測った実質の工事量))× 価格 0.67(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 2,680 億円・営業利益 228 億円。工事量 4,000(今の 1.09 倍)× 0.67 億円(今の 1.34 倍)、営業利益率 8.5%
- 塗装システム:数量 2,100(施工量(人年。塗装ラインの設計・組立・据付に携わる人の稼働を今の値段で測った実質の工事量))× 価格 0.69(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 1,449 億円・営業利益 51 億円。工事量 2,100(今の 1.05 倍)× 0.69 億円(今の 1.34 倍)、営業利益率 3.5%
倍率:事業の純利益 193 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.2% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.5%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.4 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.4 倍 + 余った現金(戻り方込み)350 億円。全体の PER 15.42 倍、時価総額 3,328 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の空調は人口で増えないが、更新・省エネ・産業用で底堅い。利益率は過去最高から平常に戻り、会社の強みは残るという中心の筋書き。
やや悲観 26% 競争が戻り、利益率が昔に近づく 利益 135 億円 · PER 9.4 倍 · 株価時価総額 2,360 円1,491 億円
好況の間に同業が人と設備を増やし、需要が落ち着いた後に受注の奪い合いが始まる。ゼネコンも工事費を抑えにかかり、価格転嫁の力が弱まる。環境システムの利益率は 6% まで下がる。
塗装は、自動車メーカーの投資の先送りと、中国勢などとの競争で、利益率が 2.5% 程度に薄くなる。欧州の大型案件のあとに続く案件が細り、施工量は今より減る。
堀が崩れたわけではないが、「今は特別に儲かる会社」という評価は外れる。成長投資の買収も、期待ほどの利益にならない。ROE は 7% 弱に下がり、資本コストを下回る。還元は DOE 4.5% を守るために自社株買いを減らす形になる。
- 環境システム(空調):数量 3,700(施工量(人年。技能者と技術者の稼働を今の値段で測った実質の工事量))× 価格 0.66(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 2,442 億円・営業利益 147 億円。工事量 3,700(今の 1.01 倍)× 0.66 億円(今の 1.32 倍)、営業利益率 6%
- 塗装システム:数量 1,900(施工量(人年。塗装ラインの設計・組立・据付に携わる人の稼働を今の値段で測った実質の工事量))× 価格 0.67(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 1,273 億円・営業利益 32 億円。工事量 1,900(今の 0.95 倍)× 0.67 億円(今の 1.30 倍)、営業利益率 2.5%
倍率:余った現金・余り資産 307 億円を分けると、事業の純利益 131 億円(税後利息を除く)・事業の自己資本 1,653 億円・事業の ROE 7.7%。事業の ROE が資本コスト k 7.75% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER は 1÷k = 11.8 倍。利益率が昔に戻り、塗装の採算も薄い筋書きなので、上限の 8.0 割の 9.4 倍に置いた。事業 131 億円 × 9.4 倍 + 余り 262 億円(帳簿 262 億円 × 戻り方 1)で時価総額 1,491 億円。
確率:過去 20 年の利益率は 2〜6% が中心。今の高さが 10 年続く保証はなく、下請け構造では昔に近づく可能性が高いと見る。
悲観 12% 成長の柱を失い、優良さが消える 利益 50 億円 · PER 8.0 倍 · 株価時価総額 874 円552 億円
半導体とデータセンターの大型投資が国外へ移り、国内の新規工事が細る。残るのは既存ビルの更新と、価格だけで競う仕事になる。環境システムの利益率は 3.5% に落ちる。
塗装は、電気自動車の失速と関税で、自動車メーカーの設備投資が止まる。欧州の大型案件で採算が悪化し、その後の案件も減って、赤字に沈む。
会社は存続し、配当も払うが、かつて掲げた ROE 12% は遠ざかる。投資家は大気社を、景気に翻弄される普通の下請けとして扱う。人員の維持費だけが重く残る。それでも実質無借金で、会社が傷むことはない。自社株買いは止まる。
- 環境システム(空調):数量 3,300(施工量(人年。技能者と技術者の稼働を今の値段で測った実質の工事量))× 価格 0.64(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 2,112 億円・営業利益 74 億円。工事量 3,300(今の 0.90 倍)× 0.64 億円(今の 1.28 倍)、営業利益率 3.5%
- 塗装システム:数量 1,500(施工量(人年。塗装ラインの設計・組立・据付に携わる人の稼働を今の値段で測った実質の工事量))× 価格 0.62(1 人年あたり完成工事高(億円・名目))→ 売上 930 億円・営業利益 −9 億円。工事量 1,500(今の 0.75 倍)× 0.62 億円(今の 1.20 倍)、営業利益率 −1%
倍率:半導体・データセンターの投資が国外へ移り、環境システムの利益率が 3.5% に落ち、塗装も赤字に沈む筋書き。ROE が k 7.75% 以下なので上限は 1÷k = 11.8 倍。悲観は、やや悲観よりさらに構造的に負けた姿なので、倍率をやや悲観(9.4 倍)より高くせず、全体の PER(現金込み)がやや悲観を超えない 8.0 倍に置いた。余った現金は悲観では今の5割に減るとみて、戻り方 1.0 を掛けた 204 億円を含む。時価総額 582 億円(全体の PER に直して 11.6 倍)。
確率:半導体・データセンターの投資が海外へ移り、自動車の投資も止まる構造的な負け筋。加えて、大型案件の採算悪化という工事会社の典型的な失敗も入る。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
環境システム(空調)
半導体・電子部品・製薬・データセンターの工場やビルの空調を設計して施工する事業。国内と海外を含む。
| 数量施工量(人年。技能者と技術者の稼働を今の値段で測った実質の工事量) | 価格1 人年あたり完成工事高(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 3,660 | 0.50 | 1,830 | 193 |
| 10 年後 中立 | 4,000 | 0.67 | 2,680 | 228 |
取り方:完成工事高 1,830 億円は決算説明の値。事業の経常利益 208 億円から営業外収益(受取利息・配当)約 15 億円を除き、営業利益を 193 億円(10.5%)と推定した。工事は人手が制約なので、数量は施工に携わる人の稼働(人年)で置き、1 人あたり約 5,000 万円の完成工事高とした(高砂熱学・ダイダンと同じ置き方)。物価の上昇分は価格に入れる。
塗装システム
自動車の塗装工場の設備を、ロボット・乾燥炉・空調まで一式で設計し施工する事業。国内・インド・欧州・北米。
| 数量施工量(人年。塗装ラインの設計・組立・据付に携わる人の稼働を今の値段で測った実質の工事量) | 価格1 人年あたり完成工事高(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 2,000 | 0.52 | 1,030 | 40 |
| 10 年後 中立 | 2,100 | 0.69 | 1,449 | 51 |
取り方:完成工事高 1,030 億円は決算説明の値。事業の経常利益 43 億円から営業外収益を除き、営業利益を 40 億円(3.9%)と推定した。塗装は機械や材料の調達が大きく、1 人あたりの完成工事高は空調と近い約 5,150 万円と置いた。国内の塗装設備の出荷が約 530 億円(2023 年)という統計はあるが、世界の規模と各社のシェアの統計は見つからなかったため、数量は人の稼働で置いた。
リスクと懸念
利益率が平常に戻る
営業利益率は 8% 台と、過去 20 年の中心(2〜6%)を超えた。同業の値引きやゼネコンの工事費抑制が戻れば、売上が伸びても利益は伸びない。いちばん大きな不確実性だ。2007 年 3 月期の谷では 1% 台まで落ちた実例がある。
塗装の大型案件の採算
塗装は 1 件が数百億円になる。欧州では数億ユーロの過去最大案件が進行中で、工期の遅れや資材高で採算が崩れれば、通期の利益を数割押し下げうる。受注の山のあとに谷が来る事業でもあり、今期の受注は 970 億円と 381 億円減る見込みだ。
自動車の投資の波
塗装の顧客は自動車メーカーだ。電気自動車の減速、関税、為替、中国勢の台頭で、工場投資は先送りされやすい。国内の塗装設備の出荷は約 530 億円(2023 年)と小さく、海外の案件に頼る構造だ。中東情勢の影響も、会社は注視している。
半導体とデータセンターの投資の波
空調の受注を押し上げた産業向けは、顧客の判断と世界の設備投資で止まりやすい。データセンターが米国や中東に偏れば、国内の大型案件は思ったほど増えない。受注残が厚くても、新しい案件が減れば、2 年ほど先の売上に響く。
人手不足で工事量が増えない
技能者の確保が工事量の上限を決める。賃金の上昇を価格に転嫁できなければ、利益を削る。採用と協力会社の維持に失敗すると、受注があっても施工できない。従業員を 7,200 人に増やす計画は、人を集められるかにかかっている。
成長投資と買収の実行
3 年で 380 億円の成長投資のうち、220 億円は買収と提携に使う。買収は高く買えば価値を壊し、販管費の増加は利益を先に削る。今期の経常利益が前期並みなのは、その費用が効いている。第三の柱が育つかは、まだ見えていない。
今後の分かれ目
- 空調の受注が 2 期連続で前年を下回ったら
- やや悲観の筋書きに確率を寄せる。受注残が薄くなり、利益率の戻りが早まる。
- 営業利益率が 8% 台を 3 期以上保ったら
- 強気側の確率を上げてよい。ただし、同業も同じ水準に追いつくかを確かめる。
- 塗装の欧州大型案件で、損失の引き当てが出たら
- 塗装の利益の質を見直す。受注時の採算を選ぶ姿勢が崩れた兆しかを確認する。
- データセンターの国内外の大型案件を続けて取ったら
- やや強気の筋書きの確率を上げる。産業向けの追い風が続く証拠になる。
- 大型の買収(100 億円超)が発表されたら
- 買収先の利益率と価格を確かめる。高値づかみなら資本配分の評価を下げる。
- 自動車メーカーが設備投資を凍結したら
- 塗装の受注が止まる。悲観の筋書きが近いが、空調と現金が下支えになる。
見ておくもの
- 四半期ごとの受注高と受注残(環境システム・塗装別)
- 営業利益率と販管費の増え方
- 欧州の塗装大型案件の進み具合と採算
- 政策保有株の売却と DOE・自社株買いの実績
- 買収の発表と中計 3 年目の目標の見直し
倍率と資本コストの決め方
売上は『施工量 × 1 人年あたり完成工事高』で積み、物価 3% は価格に入れた。空調の工事量は人手不足と人口で頭打ちとし、中立の 10 年で 1.09 倍とした。倍率は k 7.75%(基本 7.5% + quality 1.0%)・g 4% の正当化 PER を基準に、ROE が k をわずかに上回る中立は 1÷k の床(11.8 倍)に置いた。悲観は稼ぐ力(PER 上限 1÷k)を上限に、やや悲観より高くしない倍率で測り、谷の PBR や今の株価は使っていない。余り資産は、前受金と運転資金を除いた現金 350 億円で、戻り方は還元の実績から 1.0 とした。取引先株の評価差額金は配当が純利益に入っているので足していない。店舗や倉庫の賃借は小さく、新リース会計基準(2028/03 期)の影響は小さい。数字は家賃を営業費用に入れた今の形でそろえてある。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 12.9→17.47 倍・やや楽観 PER 12.5→16.65 倍・中立 PER 11.8→15.42 倍)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 1.0% = 8.5%。理由は quality_why。個別のリスク(大型案件の採算・M&A の実行など)は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 7.75%。