結論
五洋建設は、港や空港の海上工事を得意とする海洋土木(マリコン)の最大手だ。国内土木、国内建築、海外の三本柱で、2026年3月期は売上高7,943億円、営業利益553億円と過去最高を更新した。
筆者の見立てはこうだ。いまの利益は山の近くにある。土木の営業利益率は12%に乗り、防衛関連の大型工事と設計変更での採算改善が押し上げた。10年でならすと、この水準は続かない。国土強靱化や老朽化対策の需要は底堅いが、技能者が減る中で施工量は伸ばしにくい。
洋上風力は夢でもあり、重荷でもある。作業船に3年で約700億円を投じるが、三菱商事連合の撤退で国内案件の立ち上がりは読めなくなった。海外では2期続けて約160億円の工事損失を出した。この癖が直ったとは、まだ言い切れない。
株主への還元は厚い。中期経営計画は総還元性向60%以上を掲げる。それでも、10年後の利益を資本コストで割り引くと、本質価値は今の時価総額の1割ほど下に出る。割高とまでは言えないが、安全域はない。買って報われるには、利益率が高止まりする筋書きが要る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、五洋は良い会社に近いが、安く買える会社ではない。
まず、利益の質を見る。建設は工事が増えるほど立て替えるお金も増える。稼いだ利益のうち、株主が自由に使えるのは一部にとどまる。そのうえ船への投資が続き、有利子負債の返済も要る。会社が総還元性向60%を言い切れるのは、2028年度までの投資が山を越えると読むからだ。
次に、堀と経営の質。海洋土木の堀は本物だが、利益の大半を稼ぐ土木は発注者が値段を決める。経営陣は損失を2期出したあとに過去最高益を出した。立て直しの腕は確かだが、海外の癖が消えたかは、もう少し見ないと信じ切れない。
最後に、安全域。今の利益は山の近くにあり、営業利益率は過去の中央値を大きく上回る。ここで払う値段に余白はない。10年の数量は人手で頭打ちになるので、利益の伸びは価格と利益率の維持にかかる。持ち主として長く持ちたい会社ではある。ただ、払ってよい値段は、今の利益より低い利益を前提に置く。
何で稼ぐ会社か
収益の柱は三つある。国内土木が連結売上の4割強、国内建築が3割強、海外が2割強で、残りは不動産開発などの小さな事業だ。
土木の中心は、港・空港・護岸・埋立・浚渫といった海の工事である。巨大な作業船団を自前で持ち、水深のある場所で重い構造物を据える工事に強い。発注者は国土交通省の地方整備局と防衛省が中心だ。防衛関連は馬毛島の基地整備などで膨らみ、土木の完成工事高の約4割を占めてきた。
建築は、物流倉庫、データセンター、再開発、防衛施設を手がける。かつては利益の薄い事業だったが、資材高を価格に転嫁できるようになり、営業利益率は6%台に上がった。
海外はシンガポールが中心で、1964年の進出以来の拠点だ。空港や地下トンネル、埋立などの土木を請け負う。ここは利益のぶれが大きく、直近の2期は大型工事の追加損失で赤字になった。
洋上風力は、土木の延長にある新しい事業だ。風車を据え付ける自己昇降式作業台船(SEP船)を3隻持ち、基礎を打つ大型船とケーブルを敷く船を2028年度に完成させる。船団と施工の腕で、風車を海に立てる工程を一気通貫で請け負う構えである。
優良さと弱いところ
堀(他社がまねできない強み)は、船と実績にある。
大型の作業船は1隻で数百億円かかり、動かす船員や施工管理の経験も要る。海洋土木は大手数社が分け合う準寡占で、新規参入は難しい。五洋は売上でマリコン首位で、東亜建設工業の2倍を超える。馬毛島の係留施設では東亜建設工業と組み、受注額は当初の2倍を超える約2,100億円に増えた。難しい工事を任される信頼の表れだ。
ただし、堀は固くない。公共工事は入札と予算で値段が決まり、五洋が価格を決める力は限られる。建築はほとんど堀がなく、同業との競争がそのまま利益率に響く。海外は工事ごとの当たり外れが大きく、2期連続で約160億円の損失を出した。原因は見積もりの甘さで、受注前にリスクを洗い出す取り組みで直すと会社は言う。成果はこれから見るしかない。
資本の使い方は、いまのところ合格点だ。政策保有株は純資産の1割以下に絞り、配当と自社株買いも厚い。ただ、3年で約700億円の洋上風力投資は、需要が読めない市場に船を先に造る賭けである。この賭けの採算が、持ち主としての最大の宿題になる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の土木需要は底堅い。政府は2026年度から5年間で約20兆円強の国土強靱化を進め、うち約10兆円が老朽化した上下水道・道路・橋などに向かう。港湾の更新、海面上昇や高潮への備えも続く。防衛では、馬毛島の基地整備と自衛隊施設の強靱化が当面の山になる。ただ、防衛の山はいずれ引く。会社自身も、土木に占める防衛の割合を4割から3.5割に下げる前提を置いている。
制約は需要より人手だ。2024年の残業規制以降、技能者が足りず、受注を選ぶ動きが業界に広がった。施工できる量には上限があり、需要の伸びがそのまま売上にならない。代わりに価格転嫁は進み、利益率は過去より高い水準を保ちやすい。
洋上風力は最も読みにくい。政府は2040年までに着床式で30〜45ギガワットを掲げ、本格化は2029年度以降とみられる。だが三菱商事連合は建設費が応札時の2倍超に膨らんで撤退し、2026年7月には英BPが山形沖の案件から離れる動きも報じられた。制度の手直しは進むが、船を持つ側にとっては稼働の時期がずれるリスクが残る。
競合では、大成建設が2025年に東洋建設を約1,600億円で買収し、海洋土木の再編が動いた。大手が洋上風力の船団と施工力を取りにくる構図だ。五洋は独立を保つ最大のマリコンとして、価格と人の取り合いで大手と競うことになる。
資本政策と M&A
還元は厚く、転換点にある。2026年3月期は配当性向38%に自社株買いを足し、総還元性向は約67%だった。中期経営計画は、配当性向40%以上、総還元性向60%以上を掲げる。自社株買いは年100億円が目安だ。
一方で、お金の使い道も重い。洋上風力の作業船に3年で約700億円、DXなどに250億円を使う。有利子負債は1,961億円から2028年度に1,660億円へ減らす計画だが、そのうち約600億円は作業船向けの借入金である。自己資本比率は25%と薄く、利払いは今後の金利上昇で増える。
政策保有株は残高210億円、純資産比9.6%で、2028年度末に10%以下という目標はすでに満たした。取締役会は社内5名から2名に減らし、社外を5名に増やす。役員報酬の株式比率も10%から30%に上げる。
買収の実績は目立たない。むしろ買われる側の可能性を考える必要がある。準大手で最大の受注高と洋上風力の船団を持ち、時価総額は大成が東洋建設に払った額の2倍ほどだ。大手がほしがるサイズで、10年のうちに買収の話が出る確率は無視できない(参考として14%程度の見積もりがある)。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
海の工事は、日本でしか手に入らない仕事の宝庫だ。馬毛島のような大型の基地整備、港湾の更新、海面上昇への備えは、10年単位で続く。五洋は施工できる船と人を持つ数少ない会社で、難工事ほど価格を守れる。馬毛島の係留施設で受注額が当初の2倍を超えたのが、その証拠だ。
洋上風力は2029年度以降に本格化する。三菱商事連合の撤退は、制度が手直しされるきっかけになった。再公募で採算の合う条件が整えば、SEP船3隻と基礎船、ケーブル船を一気通貫で動かせる五洋は、他社が追いつけない位置にいる。船は先に造り終えており、需要が立ち上がれば稼働率で利益が跳ねる。
建築も変わった。資材高の価格転嫁が定着し、利益率は6%を超えた。データセンターと物流、防衛施設の仕事は当面途切れない。海外はシンガポールの工事が出そろい、損失の出た2件も完了して、これから黒字になる局面だ。
総還元性向60%以上という約束も効く。利益が400億円台で定着すれば、配当と自社株買いだけで、時価総額の6%台が毎年戻ってくる。
慎重な見方
いまの利益は、いくつもの追い風が重なった山だ。土木の営業利益率12%は、防衛の大型工事と設計変更での増額が押し上げた。会社自身が、中期計画で土木の利益率を10%台前半に下げて見ている。防衛の工事は、基地整備が一巡すれば減る。随意契約が多いことへの批判も強まっている。
人手の制約は重い。技能者が減る中で、施工量は伸びない。受注を選ぶ姿勢が全社に広がり、業界全体の価格は強気に見えるが、公共工事の発注者は予算の上限で値段を決める。価格転嫁がいつまでも続く保証はない。
洋上風力は、船を先に造った会社が負ける典型になりかねない。三菱商事連合が建設費の2倍化で撤退し、BPも離れる動きがある。案件が遅れれば、700億円の船が遊ぶ。借入金を抱えたまま、償却と金利だけが先に来る。
海外は2期続けて約160億円の損失を出した。見積もりの癖は一度で直るものではない。シンガポールのトンネルなど新しい大型工事がまた当たりを外せば、国内の利益が吹き飛ぶ。自己資本比率は25%と薄く、損失に耐える余力は大手より小さい。
どちらに重みを置いたか
どちらの言い分も事実に根ざしているが、利益率の話では慎重な見方が強い。強気の見方は、需要と船団という土台の強さで正しい。ただ、10年の利益は数量と価格と利益率の積で決まり、数量は人手で頭打ち、利益率は山にある。そこで確率は、中立に最も厚く置いたうえで、やや悲観と悲観を合わせて3割強とし、強気側は合わせて3割強にとどめた。洋上風力と海外の外れ方が大きいので、悲観の深さは構造的な負けまで掘り下げた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 2,158 円5,834 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 744 円2,011 億円)。 今の値に割り戻すと 1,565 円4,231 億円、今との差 +16.6%、 期待の年率 +8.0%(資本コスト 7.5%)→ やや割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 3,927 円1.06 兆円 | 1,036 円2,800 億円 | +269.8% | +14.0% | 496 円1,341 億円 |
| やや楽観 | 22% | 3,107 円8,398 億円 | 921 円2,490 億円 | +200.1% | +11.6% | 886 円2,395 億円 |
| 中立 | 36% | 2,383 円6,443 億円 | 803 円2,170 億円 | +137.4% | +9.0% | 1,147 円3,101 億円 |
| やや悲観 | 20% | 975 円2,636 億円 | 610 円1,650 億円 | +18.1% | +1.7% | 317 円857 億円 |
| 悲観 | 12% | 242 円654 億円 | 222 円600 億円 | −65.4% | −10.1% | 56 円151 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,158 円5,834 億円 | 744 円2,011 億円 | +116.2% | +8.0% | 2,902 円7,845 億円 |
今の株価時価総額 1,342 円3,628 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.5% を下回るほど割高。
楽観 10% 洋上風力が立ち上がり、船団がフル稼働する 利益 575 億円 · PER 18.5 倍 · 株価時価総額 3,927 円1.06 兆円
洋上風力の再公募が採算の合う条件で成立し、2029年度以降に基礎工事と風車の据え付けが続けて立ち上がる。SEP船と基礎船、ケーブル船が高い稼働率で回り、海洋土木の利益率は2桁に乗る。国土強靱化と港湾の更新、防衛施設の強靱化も重なり、土木の施工量は今より1割以上増える。建築はデータセンターと物流で受注が途切れず、利益率は6%台を保つ。海外はシンガポールの空港・地下鉄の工事が採算に乗り、損失の癖が消える。価格転嫁が業界全体で定着し、10年を通じて、五洋は価格を決める力のある数少ない準大手として評価される。配当と自社株買いも60%の水準を守り、自己資本の増え方は穏やかなまま、ROEは15%前後に保たれる。強気のシナリオでも、人手の制約があるので売上は1兆2千億円ほどで、それ以上は人手がもたない。
- 国内土木:数量 416(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 12(1人日あたり売上(万円・名目。材料・機械・外注を含む請負単価))→ 売上 5,022 億円・営業利益 552 億円。施工量1.15倍、価格1.34倍、営業利益率11%
- 国内建築:数量 430(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.38(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 4,031 億円・営業利益 262 億円。施工量1.10倍、利益率6.5%
- 海外建設:数量 322(施工量(万人日換算、実質。推定))× 価格 8.71(1人日あたり売上(万円・名目。為替は150円固定))→ 売上 2,802 億円・営業利益 84 億円。施工量1.15倍、利益率3%
- 開発・その他:数量 780(事業の規模(億円。今の値段で測った実質、推定))× 価格 0.30(規模1億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 230 億円・営業利益 23 億円。事業規模1.3倍、利益率10%
倍率:事業の純利益 575 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.1% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.3%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 18.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 18.5 倍。全体の PER 18.46 倍、時価総額 10,614 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:洋上風力の立ち上がりと価格転嫁の定着、海外の黒字化が三つとも当たる必要があり、確率は低い。三菱商事連合の撤退と海外の損失の履歴を考えると1割にとどめる。
やや楽観 22% 利益率を高めに保ち、安定した主力企業になる 利益 478 億円 · PER 17.5 倍 · 株価時価総額 3,107 円8,398 億円
国土強靱化と防衛、データセンター、港湾の更新が続き、土木と建築の施工量は今より少し増える。洋上風力は予定より遅れながらも、国内で2〜3件が動き、船の稼働は確保される。土木の利益率は10%に近い水準で定着し、建築は5%台後半を守る。海外はシンガポールの工事が安定して小さな黒字になるが、損失が出る年も混じる。会社の中期経営計画に近い姿で、売上は1兆円に届かないまでも1兆1千億円台に乗る。還元は総還元性向60%を維持し、ROEは13%前後で推移する。優良企業として評価されるが、業界の循環は残り、利益率が一段と上がることはない。
- 国内土木:数量 387(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 12(1人日あたり売上(万円・名目。材料・機械・外注を含む請負単価))→ 売上 4,672 億円・営業利益 467 億円。施工量1.07倍、価格1.34倍、営業利益率10%
- 国内建築:数量 410(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.38(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 3,847 億円・営業利益 219 億円。施工量1.05倍、利益率5.7%
- 海外建設:数量 302(施工量(万人日換算、実質。推定))× 価格 8.71(1人日あたり売上(万円・名目。為替は150円固定))→ 売上 2,631 億円・営業利益 61 億円。施工量1.08倍、利益率2.3%
- 開発・その他:数量 690(事業の規模(億円。今の値段で測った実質、推定))× 価格 0.30(規模1億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 204 億円・営業利益 18 億円。事業規模1.15倍、利益率9%
倍率:事業の純利益 478 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 13.2% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 10.4%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 17.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 17.5 倍。全体の PER 17.54 倍、時価総額 8,384 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:防衛・強靱化・データセンターの需要が続き、価格転嫁も定着する筋書きで、会社の中期計画に近い。需要の足場は固いので2割強を置く。
中立 36% 施工量は人手で頭打ち、利益率は戻る 利益 375 億円 · PER 16.7 倍 · 株価時価総額 2,383 円6,443 億円
需要は底堅いが、技能者の高齢化と残業規制で施工量は今よりやや減り、売上の伸びはほぼ物価の分にとどまる。防衛の山は引くが、国土強靱化と老朽化対策、港湾の更新が穴を埋める。土木の利益率は、直近の12%台から9%に戻る。建築は5%、海外は1%台の小さな黒字で、海外では損失の出る年もならして見る。洋上風力は遅れつつ一部が動き、船の稼働率は十分とは言えないが、減損は避けられる。売上は1兆円を少し超える。還元は総還元性向60%を維持し、自己資本は少しずつ積み上がる。ROEは11%弱と、過去の高い値には戻らない。
- 国内土木:数量 344(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 12(1人日あたり売上(万円・名目。材料・機械・外注を含む請負単価))→ 売上 4,149 億円・営業利益 373 億円。施工量0.95倍、価格1.34倍、営業利益率9%
- 国内建築:数量 391(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.38(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 3,664 億円・営業利益 183 億円。施工量1.0倍、利益率5%
- 海外建設:数量 280(施工量(万人日換算、実質。推定))× 価格 8.71(1人日あたり売上(万円・名目。為替は150円固定))→ 売上 2,436 億円・営業利益 37 億円。施工量1.0倍、利益率1.5%
- 開発・その他:数量 660(事業の規模(億円。今の値段で測った実質、推定))× 価格 0.30(規模1億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 195 億円・営業利益 20 億円。事業規模1.1倍、利益率10%
倍率:事業の純利益 375 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 11.7% が k 7.50% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.6%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 16.7 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 16.7 倍。全体の PER 16.66 倍、時価総額 6,248 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:需要は底堅いが人手で数量は頭打ち、利益率は直近の山から戻る。2人の議論の落としどころなので最も厚く、3割台半ばに置く。
やや悲観 20% 防衛の山が引き、利益率が過去並みに戻る 利益 255 億円 · PER 8.5 倍 · 株価時価総額 975 円2,636 億円
防衛の基地整備が一巡し、国土強靱化の予算も平年並みに戻って、土木の施工量は今より1割あまり減る。入札の競争が強まり、価格転嫁が効きにくくなり、物価の上昇分も完全には取れない。土木の利益率は7%台、建築は4%弱、海外はほぼ収支均衡で、損失が出る年が混じる。洋上風力は遅れが続き、作業船の稼働率が上がらず、減価償却の負担が残る。売上は1兆円に届かない。還元は少し絞り、総還元性向は55%程度にとどまる。ROEは7%台で資本コストに届かず、会社の価値は積み上げた自己資本に見合わない。構造が壊れたわけではない。海洋土木の準寡占は残り、会社は黒字を保つ。ただ、2020年代前半に見えた高い利益率は一時の追い風だったと、市場が受け入れる10年になる。
- 国内土木:数量 319(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 12(1人日あたり売上(万円・名目。材料・機械・外注を含む請負単価))→ 売上 3,728 億円・営業利益 280 億円。施工量0.88倍、価格1.30倍、営業利益率7.5%
- 国内建築:数量 359(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.10(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 3,271 億円・営業利益 124 億円。施工量0.92倍、利益率3.8%
- 海外建設:数量 252(施工量(万人日換算、実質。推定))× 価格 8.45(1人日あたり売上(万円・名目。為替は150円固定))→ 売上 2,127 億円・営業利益 11 億円。施工量0.9倍、利益率0.5%
- 開発・その他:数量 600(事業の規模(億円。今の値段で測った実質、推定))× 価格 0.29(規模1億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 172 億円・営業利益 14 億円。事業規模1.0倍、利益率8%
倍率:ROE 7.7%(純利益 255 億円 ÷ 自己資本 3,333 億円)。ROE が k 7.5% に届かないので、伸びても価値は増えず、PER の上限は 1÷k = 12.1 倍。防衛が一巡して入札が厳しくなり、洋上風力の船の稼働も上がらない局面で、上限の 7 割の 8.5 倍に置いた。
確率:防衛工事が一巡し、国土強靱化の予算も平年並みに戻って、入札の競争が強まる局面。歴史的にもよく起きる姿なので2割を置く。
悲観 12% 海外の損失と船の遊休が重なり、優良さを失う 利益 85 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 242 円654 億円
海外でまた大型工事の損失を出し、設備子会社の損失も重なる。洋上風力は国内案件が遅れたまま、700億円規模の作業船が遊んで減損を迫られる。防衛の工事は剥落し、国土強靱化も他の政策に押されて先送りが増える。入札の競争が激しくなり、価格は物価に追いつかず、土木の利益率は5%、建築は2%、海外は赤字になる。自己資本比率は薄いので、借入金の金利負担が重く、還元を絞らざるを得ない。ここまで来ると、もはや優良な準大手とは見なされず、稼ぐ力は純利益で100億円に届かない。減損で自己資本は膨らまず、10年の還元の合計も限られる。
- 国内土木:数量 290(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 11(1人日あたり売上(万円・名目。材料・機械・外注を含む請負単価))→ 売上 3,259 億円・営業利益 163 億円。施工量0.80倍、価格1.25倍、営業利益率5%
- 国内建築:数量 332(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 8.75(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 2,905 億円・営業利益 58 億円。施工量0.85倍、利益率2%
- 海外建設:数量 224(施工量(万人日換算、実質。推定))× 価格 8.13(1人日あたり売上(万円・名目。為替は150円固定))→ 売上 1,818 億円・営業利益 −36 億円。施工量0.8倍、赤字(利益率−2%)
- 開発・その他:数量 540(事業の規模(億円。今の値段で測った実質、推定))× 価格 0.28(規模1億円あたりの年間売上(億円・名目))→ 売上 148 億円・営業利益 4 億円。事業規模0.9倍、利益率3%
倍率:海外の損失と船の遊休が重なって稼ぐ力は落ち、純利益は 85 億円。これを k 7.5% で割った稼ぐ力は約 1,030 億円にとどまる。床は稼ぐ力と売れる資産で測り、作業船の強制売却は取得額の半分ほどしか戻らず、政策保有株の税後は約 150 億円で、純有利子負債 1,247 億円を払うと余りは小さい。ただし悲観は、やや悲観(PER 8.5 倍)より倍率を高くしない。その 9 割の約 7.7 倍 × 純利益 85 億円 = 約 654 億円を、今の自己資本 1,983 億円に対する PBR 0.33 倍で表した。営業利益は 189 億円と小さいので EV ÷ 営業利益の見方は意味がない。
確率:海外の再発と洋上風力の遅れ、価格競争の復活が重なる構造的な負け。自己資本比率の薄さを考えると無視できないが、全部が重なる確率は低く、1割強にとどめる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
国内土木
港湾・空港・護岸・埋立・浚渫などの海の工事と、防衛施設・道路・トンネルなどの陸の土木。作業船団が強みで、売上の4割が土木。
| 数量施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質) | 価格1人日あたり売上(万円・名目。材料・機械・外注を含む請負単価) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 362 | 9.00 | 3,259 | 402 |
| 10 年後 中立 | 344 | 12 | 4,149 | 373 |
取り方:連結の国内土木の売上3,259億円・営業利益402億円(中期経営計画の部門別実績)。労務量は開示がなく推定で、土木は作業船や機械の割合が高いので1人日あたり売上を9万円とみて約362万人日と置いた。物価の分は価格に入り、数量は人手の制約を受ける実質の量。
国内建築
物流倉庫・データセンター・再開発・防衛施設・ホテルなどの建築請負。利益率は低かったが、資材高の価格転嫁で改善した。
| 数量施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質) | 価格1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 391 | 7.00 | 2,734 | 168 |
| 10 年後 中立 | 391 | 9.38 | 3,664 | 183 |
取り方:連結の国内建築の売上2,734億円・営業利益168億円。労務量は推定で、1人日あたり売上を7万円とみて約391万人日と置いた(同じ建築請負の他社の置き方に合わせた)。
海外建設
シンガポールを中心に、空港・地下トンネル・埋立などの土木を請け負う。香港は現地法人化して案件を絞る。
| 数量施工量(万人日換算、実質。推定) | 価格1人日あたり売上(万円・名目。為替は150円固定) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 280 | 6.50 | 1,818 | −32 |
| 10 年後 中立 | 280 | 8.71 | 2,436 | 37 |
取り方:連結の海外の売上1,818億円・営業利益は32億円の赤字。現地は人件費が国内より低いので1人日あたり売上を6.5万円とみて約280万人日に換算した。開示された数量ではなく推定。
開発・その他
不動産開発・賃貸と、グループ会社の小さな事業。全体に占める割合は小さい。
| 数量事業の規模(億円。今の値段で測った実質、推定) | 価格規模1億円あたりの年間売上(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 600 | 0.22 | 132 | 15 |
| 10 年後 中立 | 660 | 0.30 | 195 | 20 |
取り方:その他の売上132億円・営業利益15億円。事業に投じている資産の規模は開示がなく、約600億円と推定して売上をその比率で割った。
リスクと懸念
海外の工事損失がまた出る
シンガポールと香港で、2期続けて約160億円の損失を出した。原因は地盤条件や資材高、見積もりの甘さだ。受注前にリスクを洗い出す仕組みを入れたが、効果は実績が出るまで分からない。大型のトンネル工事が新たに動くので、損失が一度出れば純利益の3割以上が消える。
洋上風力の立ち上がりが遅れる
三菱商事連合が撤退し、BPも山形沖から離れる動きがある。建設費は応札時の2倍超に膨らんだ。制度の手直し次第で、船は先に完成したのに稼働が数年ずれる。船団の償却と借入金の利息が先に来て、収益を圧迫する。
防衛関連の山が引く
土木の完成工事高の約4割が防衛関連で、馬毛島の基地整備が大きい。基地整備が一巡すれば、利益率の高い大型工事が減る。随意契約が多いことへの批判もあり、競争入札へ寄ると利益率は下がる。
人手不足が施工量の天井になる
2024年の残業規制以降、技能者の確保が難しい。受注を選べば利益率は上がるが、売上の伸びは物価の分にとどまる。協力会社の人件費上昇を価格に載せきれないと、利益率が落ちる。
自己資本の薄さと金利の上昇
自己資本比率は25%で、有利子負債は約1,960億円ある。借り換えのたびに金利が上がり、10年で利払いはさらに増える。損失が重なると、還元を絞るか借り入れを増やす選択を迫られる。
価格転嫁の後退と入札競争
資材高の価格転嫁は進んだが、公共工事の発注者は予算の上限で値段を決める。景気が悪くなれば、民間建築で値下げ競争が戻る。建築の利益率が6%台から3%台に戻れば、全社の利益は1割以上減る。
今後の分かれ目
- 洋上風力の再公募で、建設費の上昇を反映した価格条件が整い、国内案件が複数動き出す
- 強気側の筋書きに確率を移してよい。船団の稼働率が上がり、減価償却を吸収できるので、土木の利益率が10%台を保つ根拠になる。
- 海外で、新しい大型工事の追加損失が1件でも出る
- 慎重側へ確率を寄せる。見積もりの癖が直っていないと分かるので、海外は赤字の年が混じる筋書きを中心にする。
- 防衛関連の工事が一巡し、土木の利益率が10%を割る
- 中立の利益率9%がすでに楽観に近いかを見直す。9%を割る年が2期続けば、やや悲観の筋書きに重みを置く。
- 大手ゼネコンが五洋に買収を持ちかける
- 買収価格は事業価値より高く出る可能性がある。10年の筋書きに加えて、一時的な上振れとして確率を足す。
- 総還元性向が60%を下回り、自社株買いが止まる
- 洋上風力の投資か海外の損失で、キャッシュが足りなくなっているサインとして、やや悲観以下の筋書きを重くする。
- 技能者の確保が改善し、施工量が計画を上回って増える
- 数量の頭打ちの前提が外れる。中立の施工量を1割引き上げて、利益を見直す。
見ておくもの
- 土木・建築・海外の部門別営業利益率(とくに海外の黒字の持続)
- 洋上風力の再公募の条件と、SEP船・基礎船・ケーブル船の稼働率
- 防衛関連の受注残と、随意契約から競争入札への移行
- 有利子負債と作業船向けの借入金の残高、総還元性向
- 他の準大手マリコンの再編の動き
倍率と資本コストの決め方
セグメントは労務量(実質)と1人日あたり売上(名目)で積み、物価3%を価格に入れて、数量は人手の制約から0.95〜1.0倍とした。倍率は k 7.5%(基本 7.5% に循環 +0.5%、借金 +0.25%)と g 4% から式で出し、今・過去・同業の市場の倍率は見ていない。中立の PER は ROE が k を上回るので下限の 1÷k のすぐ上に落ち、今の株価が倍でも半分でも動かない。悲観の PBR は今の自己資本に掛け、稼ぐ力(純利益÷k)でも確かめた。営業利益は家賃を費用に入れた今と同じ形(新リース会計基準の適用前の形)でそろえた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 13.2→18.46 倍・やや楽観 PER 12.5→17.54 倍・中立 PER 12.4→16.66 倍)。
資本コスト 7.5% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。