結論
ショーボンドホールディングスは、橋やトンネルなどコンクリート構造物の補修・補強を専業とする会社だ。高速道路会社の仕事が売上の6割を占め、営業利益率は23%と建設業では異例に高い。
筆者の結論は、今の値段にはやや余裕がある、というものだ。10年先の本質価値は、時価総額を2割ほど上回る。大きな割安ではない。利益率が山の近くにあり、高速道路会社の発注に偏るからだ。
強みは、新設ではなく補修に絞ったことにある。工事は小口で、現場ごとに条件が違う。大手ゼネコンには手間のわりに旨みが薄い。この会社は工法も材料も自前で持ち、全国の拠点でその小口を高い採算でこなしてきた。自己資本比率は8割を超え、現金も厚い。財務の安全度は、建設業の中でも突出している。
弱みも見えている。今期は12期ぶりの減収になった。高速道路会社の発注が細り、受注残は1割減った。補修の需要は老朽化で長く続くが、施工量は技能者の数で頭打ちになる。
株主への還元は利益の9割を超える。配当と自社株買いで現金を返す姿勢は一貫している。10年後の姿は、施工量がわずかに増え、値段が物価並みに上がる地味な成長だ。派手さはない。安く買えば報われるタイプの会社である。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、これは「よい事業を、公正な値段で持つ」会社に近い。割安な掘り出し物ではない。
まず利益の質を見る。補修は需要が景気で消えない。橋は傷み続けるからだ。しかも新しい設備が要らず、稼いだお金のほとんどを株主に返せる。「オーナー利益」、つまり事業を維持したうえで自由に使える利益は、純利益に近い。
次に堀を見る。工法と材料を自前で持ち、施工まで一貫して請け負う補修専業は、まねしにくい。ただ入札で値段が決まるので、価格支配力は強くない。堀は広いが深くはない、というのが筆者の見立てだ。
経営の資本配分は合格だ。ためこまず、現金を返してきた。
最後に安全域を見る。今の利益率は過去最高に近く、高速道路会社の発注に偏る。中立の筋書きでは、工事の営業利益率が21%まで落ちる。それでも本質価値は今の値段を上回る。差は2割ほどで、大きな安全域とは言えない。待てるなら、悪くない持ち物である。ただし、利益率が戻らない場合に備え、買う値段には慎重でありたい。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は、補修・補強の工事だ。売上892億円のうち、工事が803億円、工事材料が89億円を占める。
工事の中身は、橋の床版(路面を支える板)の補強、鋼の橋桁の接着補強、コンクリートのひび割れや剥がれの補修、耐震補強などだ。発注者は高速道路会社が工事売上の6割強、自治体が2割、国が1割余りになる。高速道路会社はNEXCO東日本・中日本・西日本の3社で、老朽化した橋を計画的に直す大型の工事が続いてきた。
工事は元請として受ける。診断から工法の選定、施工までを一貫して請け負う。小さな工事を数多くこなす仕組みが、ほかの建設会社と違う。
工事材料は、補修に使う接着剤や樹脂、耐震用の材料、水道管をつなぐカップリング材などだ。自社の工場で作り、自社の工事で使い、外部にも売る。2025年12月にヤシオ工場が完成し、生産力を上げた。償却費は増えたが、材料は水道管や耐震の需要で伸びている。
海外は、香港・タイ・北米で黒字になった。金額はまだ小さく、利益の柱になるには時間がかかる。国内の補修で培った工法を、橋の老朽化が進む国へ持ち出す構想だ。インドでは、経済産業省の補助金事業に採択され、橋を長持ちさせる事業を進める予定だ。
優良さと弱いところ
堀、つまり他社がまねできない強みは、補修の現場を一貫して握っている点にある。
補修は新設と違い、橋ごとに傷み方が違う。診断、工法の選び方、材料、施工の腕が全部そろって初めて採算が出る。この会社は工法も材料も自前で持ち、施工まで一貫して請け負う。小口の仕事を数多くこなすので、大手ゼネコンは参入しても手間に見合いにくい。補修の実績がそのまま次の受注の信用になる点も、後発に不利だ。工事の粗利率は29%と高く、設計変更を取りにいく力も落ちていない。
値段を決める力は、限られる。高速道路会社も国も入札で値段を決める。強いのは、技術提案が点数になる案件で、競合が簡単にはまねできない工法を出せることだ。競合のピーエス三菱は床版の取り替え、オリエンタル白石は橋脚や床版の補修と、得意が重なる部分もある。
資本の使い方は、いまのところ模範的だ。自己資本比率は8割を超え、純現金を持ちながら、総還元性向は9割を超える。ためこまず、返している。
弱いのは、発注者の偏りだ。高速道路会社が6割を占めるため、その発注の波がそのまま受注を揺らす。今期はNEXCO東日本向けの受注が90億円ほど減った。経営の目標を達成しきれず、中期経営計画の最終年度の目標は下回る見込みだ。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
補修の需要は、橋の高齢化という動かせない事実の上にある。
全国の道路橋は約73万橋ある。建設後50年を超える橋は、2025年の42%から2035年には65%に増える。2014年から点検が義務になり、傷みが見つかるたびに措置が必要になる。国は2026年度から5年で、20兆円強の国土強靱化の事業を見込む。需要の土台は10年先まで消えない。
一方で、予算の伸びは物価に追いつかない可能性がある。維持管理の予算は2023年度の約6兆円前後から、2038年度に6兆円台半ばへの緩やかな増加が見込まれる程度だ。名目で小さく増えるだけなら、実質では横ばいから微減になる。
高速道路の分野では、潮目が変わりつつある。2015年に始まった約3兆円の大規模更新は、計画の4割超が進み、大型の新規発注が落ち着いてきた。2023年にはNEXCO3社が約1兆円の追加更新を決めたが、中心は床版の取り替えと桁の架け替えで、床版取替に強い会社に有利な内容だ。補修専業の取り分は読みにくい。
自治体では、橋の数が多いのに、予算と技術者が足りない。小さな補修を束ねて頼める専業会社への需要は強い。ただ、自治体の工事は小口で利益率は高くない。国では、耐震補強や防災の予算が追い風になる。
制約は人だ。技能者が高齢化し、2024年から残業の上限規制も始まった。需要が増えても、施工量はすぐには増やせない。この制約は、値段を守る力にもなる。
資本政策と M&A
資本政策は、返すことを徹底している。
2026年6月期は、配当性向が60%、自社株買い50億円で、総還元性向は92%だった。中期経営計画2027は総還元性向90%を掲げ、2026年8月にも上限50億円・440万株の自社株買いを決めた。増配も長く続けている。
成長の投資は、ヤシオ工場などの設備と、海外の小さな拠点が中心だ。大型の買収に動いた形跡は確認できていない。派手な買収で価値を壊す心配は小さい。
大株主は、信託銀行などの機関投資家と、上田記念財団(約11%)、三菱UFJ銀行、第一生命などだ。親子上場や持ち合いが厚い構造ではなく、少数株主の利益と経営がぶつかる場面は見えない。
買収される側になる可能性は、ゼロではない。補修専業の大手として、ゼネコンや商社が手を挙げる想定はできる。ただ、大株主の財団は約11%を持つ。筆者は、筋書きに織り込むほど高い確率とは見ていない。
手元の現金は純現金で372億円ある。ただし運転資金の波があるので、全額が余りではない。
還元の置き方:中計2027は総還元性向90%。10年の中立は純利益の合計の86%で、方針の内側。余った現金180億円は時価総額側で足している。
点検済み(2026-10-19):営業利益率 22% は直近の山(23%)以下で過去 12 年平均より高いが、粗利率の構造的な上昇を悲観側の確率で受けている。余り現金 180 億の数え方も 1 回だけで、穴なし。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
補修は、10年単位で需要が確実な数少ない建設の仕事だ。橋は毎年古くなる。50年を超える橋は、10年で4割から6割台に増える。点検が義務になり、傷みが見つかれば措置が要る。この流れは、予算の事情で緩むことはあっても、止まらない。
ショーボンドは、その中心にいる。工法も材料も自前で、小口の仕事を高い採算でこなす。大手ゼネコンが入りにくい分野で、工事の粗利率は29%と高い。技能者が足りない時代には、施工力を持つ会社の値段交渉力は上がる。
追い風も多い。NEXCO3社は約1兆円の追加更新を決めた。国は5年で20兆円強の強靱化を見込む。耐震補強の発注が増えれば、NEXCO東日本の谷は戻る。材料事業は水道管の更新と耐震で伸び、ヤシオ工場が供給力を支える。海外も香港・タイ・北米が黒字になった。
資本の使い方は文句がない。利益の9割を返しても、自己資本比率は8割ある。施工量が1割増え、値段が物価並みに上がるだけで、利益は10年で4割以上増える。利益率が少し落ちても、この計算は崩れにくい。
慎重な見方
今の利益は、山の近くにある。営業利益率は23%と、過去最高の水準にある。2008年ごろは7%まで落ちた。高い利益率は、競合が見逃してくれる間だけ続く。ピーエス三菱やオリエンタル白石、大手ゼネコンが補修に力を入れれば、入札で値段が下がる。
需要の主役である高速道路は、潮目が変わっている。大規模更新は4割超が済み、新規の大型発注が落ち着いた。追加の1兆円も、中心は床版の取り替えで、補修専業の取り分は読めない。実際、今期は受注残が1割減り、12期ぶりの減収になった。
予算は物価に追いつかない。維持管理の予算が名目で小さく増えるだけなら、実質では横ばいから微減だ。人手も足りず、需要があっても施工量を増やせない。
会社の目標も外れている。中期経営計画2027の最終年度の目標は、売上1,000億円を見ていたが、実績は892億円にとどまる。発注者の偏りも重い。高速道路会社6割の依存は、一社の発注方針の転換で受注が大きく揺れる。
還元が9割を超えるのは、成長の投資先が乏しいことの裏返しでもある。利益が山を越えれば、市場が払う倍率も縮みかねない。海外やインドは、まだ数字で語れる段階にない。
どちらに重みを置いたか
強気の主張は、需要の長さと自前の工法・材料という事実に支えられている。慎重な主張は、利益率の山と発注者の偏りという、足元の事実に支えられている。どちらも当たっている。
決め手は、利益率がどこまで落ちるかだ。慎重な見方の通りに落ちても、利益は今の水準を保ち、現金も厚い。傷は浅い。逆に強気が当たれば、値上がりは大きい。
このため確率は中立に4割近く置き、やや楽観をやや悲観より少し厚くした。悲観は、構造的に負ける筋書きを1割弱だけ置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/06 期)
確率で加重した株価時価総額 2,141 円4,294 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 767 円1,539 億円)。 今の値に割り戻すと 1,668 円3,345 億円、今との差 +33.7%、 期待の年率 +8.8%(資本コスト 6.8%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 10% | 3,490 円6,998 億円 | 947 円1,900 億円 | +255.6% | +13.5% | 444 円890 億円 |
| やや楽観 | 24% | 2,800 円5,615 億円 | 863 円1,730 億円 | +193.5% | +11.4% | 879 円1,763 億円 |
| 中立 | 36% | 2,328 円4,668 億円 | 788 円1,580 億円 | +149.6% | +9.6% | 1,122 円2,249 億円 |
| やや悲観 | 22% | 1,145 円2,297 億円 | 673 円1,350 億円 | +45.7% | +3.8% | 400 円802 億円 |
| 悲観 | 8% | 382 円767 億円 | 424 円850 億円 | −35.4% | −4.3% | 65 円129 億円 |
| 加重平均 | 100% | 2,141 円4,294 億円 | 767 円1,539 億円 | +133.1% | +8.8% | 2,909 円5,833 億円 |
今の株価時価総額 1,248 円2,503 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 6.8% を下回るほど割高。
楽観 10% 国の補修予算が厚くなり、施工量が伸びる 利益 300 億円 · PER 22.9 倍 · 株価時価総額 3,490 円6,998 億円
国土強靱化の予算が前倒しで厚くなり、NEXCO3社の追加更新も本格的に動く。耐震補強の発注が戻り、高速道路会社の谷は短く終わる。施工量は10年で1.25倍に増える。
工法と材料を自前で持つので、技術提案が点を取る案件では値段を守れる。値段は物価をやや上回る1.40倍で、工事の営業利益率は24%に乗る。
材料事業は、水道管の更新と耐震の需要で1.6倍に出荷が増える。ヤシオ工場の稼働率が上がり、採算も良くなる。海外は黒字の拠点を足がかりに、インドの橋梁事業が育つ。
還元は利益の9割近くを保ち、自己資本の積み上がりは小さい。純利益は今の約2倍になり、ROEは20%を超える。
- 補修・補強工事:数量 100(標準工事の数(10 億円相当・2026/06 期の値段で測る。補修補強の市場 × シェア))× 価格 14(標準工事 1 件あたりの値段(億円・名目))→ 売上 1,405 億円・営業利益 337 億円。施工量 1.25 倍・値段 1.40 倍・営業利益率 24%
- 工事材料:数量 285(標準出荷の数(0.5 億円相当・2026/06 期の値段で測る))× 価格 0.70(標準出荷 1 件あたりの値段(億円・名目))→ 売上 199 億円・営業利益 64 億円。出荷 1.60 倍・値段 1.40 倍・営業利益率 32%
倍率:事業の純利益 297 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 26.1% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 16.4%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 22.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 22.9 倍 + 余った現金(戻り方込み)180 億円。全体の PER 22.92 倍、時価総額 6,998 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:補修需要の長さは確かだが、技能者の数が施工量を縛る。施工量が1.25倍まで伸びるのは、予算の拡大と人員の確保が両方そろった時だけなので1割にとどめた。
やや楽観 24% 補修需要を着実に取り込み、利益率も高く保つ 利益 250 億円 · PER 22.0 倍 · 株価時価総額 2,800 円5,615 億円
橋の高齢化が進み、自治体と国の補修発注が着実に増える。高速道路会社は追加更新で一定の発注を保つ。施工量は10年で1.15倍になる。
値段は物価並みの1.36倍をやや上回る。人件費や材料費の上昇を、設計変更や技術提案で転嫁できる。工事の営業利益率は22.5%と、今の水準をほぼ保つ。
材料事業は耐震と水道管の需要で1.3倍に伸びる。海外は黒字の小さな拠点が積み上がるが、利益への寄与は限られる。ヤシオ工場の償却が重い時期は過ぎ、材料の採算も改善する。
還元は利益の9割弱を保つ。純利益は今の約6割増しで、ROEは18%台になる。高速道路会社の比率は6割から5割台へ下がり、発注の偏りも和らぐ。
- 補修・補強工事:数量 92.3(標準工事の数(10 億円相当・2026/06 期の値段で測る。補修補強の市場 × シェア))× 価格 14(標準工事 1 件あたりの値段(億円・名目))→ 売上 1,256 億円・営業利益 283 億円。施工量 1.15 倍・値段 1.36 倍・営業利益率 22%
- 工事材料:数量 231(標準出荷の数(0.5 億円相当・2026/06 期の値段で測る))× 価格 0.68(標準出荷 1 件あたりの値段(億円・名目))→ 売上 157 億円・営業利益 49 億円。出荷 1.30 倍・値段 1.36 倍・営業利益率 31%
倍率:事業の純利益 247 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 21.3% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 14.0%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 22.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 22.0 倍 + 余った現金(戻り方込み)180 億円。全体の PER 21.96 倍、時価総額 5,615 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:需要の土台は確かで、会社は今も選別受注で高い粗利率を保っている。強気の主張が慎重な主張よりやや強いので、やや楽観に2割台半ばを置いた。
中立 36% 施工量は小さく増え、値段は物価並みに上がる 利益 215 億円 · PER 21.1 倍 · 株価時価総額 2,328 円4,668 億円
施工量はわずかに増え、値段は物価並みに上がる。会社は大きく変わらず、地味に伸びる。
老朽化した橋の補修需要は10年を通じて続く。高速道路会社の追加更新や国土強靱化が下支えになる。ただ施工量は技能者の数に縛られ、10年で1.08倍にとどまる。値段は人件費や材料費と一緒に、物価並みの1.34倍で上がる。
工事の営業利益率は、今の22%台から21%に落ち着く。設計変更で採算を取る力は残る。だが競合の参入と大型案件の混在で、山の水準は保てない。材料は耐震と水道管の需要で、工事より速く伸びる。
還元は利益の8割台を保ち、自己資本はゆっくり積み上がる。10年後の純利益は今の4割増しで、年3%台の成長だ。
- 補修・補強工事:数量 86.7(標準工事の数(10 億円相当・2026/06 期の値段で測る。補修補強の市場 × シェア))× 価格 13(標準工事 1 件あたりの値段(億円・名目))→ 売上 1,162 億円・営業利益 244 億円。施工量 1.08 倍・値段 1.34 倍・営業利益率 21%
- 工事材料:数量 205(標準出荷の数(0.5 億円相当・2026/06 期の値段で測る))× 価格 0.67(標準出荷 1 件あたりの値段(億円・名目))→ 売上 137 億円・営業利益 41 億円。出荷 1.15 倍・値段 1.34 倍・営業利益率 30%
倍率:事業の純利益 212 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 18.2% が k 6.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.5%、10 年より先の名目の伸び g 3.2% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 21.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 21.1 倍 + 余った現金(戻り方込み)180 億円。全体の PER 21.12 倍、時価総額 4,668 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:強気の主張(需要の長さ・自前の工法と材料)と慎重な主張(利益率の山・発注者の偏り)の落としどころで、いちばん起きやすい。4割近くに置いた。
やや悲観 22% 高速道路会社の発注が細り、利益率が下がる 利益 151 億円 · PER 14.5 倍 · 株価時価総額 1,145 円2,297 億円
高速道路会社の大型の更新が一巡し、追加の1兆円は床版取替が中心で、補修専業の取り分は小さい。施工量は10年で0.93倍に細る。
自治体と国の仕事で穴を埋めようとするが、小口で利益率が低い。入札では、ピーエス三菱やオリエンタル白石、大手ゼネコンとの競争が強まり、値段は物価に追いつかず1.30倍にとどまる。人件費は物価並みに上がるので、工事の営業利益率は17%まで下がる。
材料は水道管と耐震で出荷を保つが、伸びない。還元は利益の9割弱を続けるが、金額は減る。
純利益は今とほぼ同じ水準で横ばいになる。堀が痩せ、成長も鈍るため、倍率も下がる。
- 補修・補強工事:数量 74.7(標準工事の数(10 億円相当・2026/06 期の値段で測る。補修補強の市場 × シェア))× 価格 13(標準工事 1 件あたりの値段(億円・名目))→ 売上 971 億円・営業利益 165 億円。施工量 0.93 倍・値段 1.30 倍・営業利益率 17%
- 工事材料:数量 178(標準出荷の数(0.5 億円相当・2026/06 期の値段で測る))× 価格 0.65(標準出荷 1 件あたりの値段(億円・名目))→ 売上 116 億円・営業利益 31 億円。出荷 1.00 倍・値段 1.30 倍・営業利益率 27%
倍率:ROE 約 13%、k 6.75%。堀が痩せて残る割合は 1/3 に下がり、g は 3% に鈍る。長く続く稼ぎ ≒ 9.3%、そこから出る PER は約 17 倍。ここでは利益が先細りと見て、約 14.5 倍に置いた(中立の 7 割へ引き上げない)。
確率:足元でNEXCO東日本の発注が減り、受注残も1割減っている。慎重な主張の根拠は事実なので、やや悲観に2割強を置いた。
悲観 8% 補修が先送りされ、競争で値段も崩れる 利益 69 億円 · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 382 円767 億円
公共予算が社会保障や防衛に回り、点検はするが補修は先送りされる運用が定着する。施工量は10年で0.75倍まで落ちる。
高速道路会社は更新を床版取替中心に絞り、補修専業への発注が減る。大手ゼネコンとPS系が小口にも入り、入札では値下げ競争になる。値段は1.15倍と物価にまったく追いつかない。技能者の賃金は上がるので、工事の営業利益率は10%まで下がる。
材料も水道管や耐震の需要が伸びず、値段が下がる。還元は維持できず、利益の8割台に落とす。
純利益は今の4割強まで縮む。稼ぐ力が資本コストを下回り、ためた利益も額面を下回る価値でしか見られなくなる。
- 補修・補強工事:数量 60.2(標準工事の数(10 億円相当・2026/06 期の値段で測る。補修補強の市場 × シェア))× 価格 12(標準工事 1 件あたりの値段(億円・名目))→ 売上 693 億円・営業利益 69 億円。施工量 0.75 倍・値段 1.15 倍・営業利益率 10%
- 工事材料:数量 151(標準出荷の数(0.5 億円相当・2026/06 期の値段で測る))× 価格 0.58(標準出荷 1 件あたりの値段(億円・名目))→ 売上 87 億円・営業利益 17 億円。出荷 0.85 倍・値段 1.15 倍・営業利益率 20%
倍率:ROE 約 6% で k 6.75% に届かない。ためた利益は額面を下回る価値なので PER の上限は 1÷k ≒ 14.3 倍。縮む事業の稼ぎには更に低い 10 倍を置いた。
確率:補修需要は老朽化の事実に支えられ、消えにくい。それでも予算の制約と競争の激化が重なる構造的な負けは起こりうる。1割弱を置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
補修・補強工事
橋・トンネルなどコンクリート構造物の補修・補強。高速道路会社・国・自治体が発注者で、工法と材料は自前。
| 数量標準工事の数(10 億円相当・2026/06 期の値段で測る。補修補強の市場 × シェア) | 価格標準工事 1 件あたりの値段(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 80.3 | 10 | 803 | 180 |
| 10 年後 中立 | 86.7 | 13 | 1,162 | 244 |
取り方:国内で専業・中堅が競える補修補強工事の市場を約 6,000 億円(実質)と推定し、シェア約 13% で 803 億円(標準工事 80.3 件分・1 件 10 億円)。市場は維持管理予算約 6 兆円のうちコンクリート構造物の補修補強が 2 割弱(約 1 兆円)、そのうち専業が取れる分を 6 割とみた。幅の大きい推定。営業利益は全社の営業利益 208 億円から材料の分を引き、販管費を売上比で配分して約 180 億円。
工事材料
補修用の接着剤・耐震材料・水道管用カップリング材などの製造販売。自社のヤシオ工場(2025/12 完成)で作る。
| 数量標準出荷の数(0.5 億円相当・2026/06 期の値段で測る) | 価格標準出荷 1 件あたりの値段(億円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/06 | 178 | 0.50 | 89 | 28 |
| 10 年後 中立 | 205 | 0.67 | 137 | 41 |
取り方:工事材料売上 89 億円。全社の売上総利益 267 億円から工事の粗利(803 億円×29.0%)を引いた約 34 億円が材料の粗利。販管費を配分して営業利益を約 28 億円と推定。
リスクと懸念
高速道路会社の発注の波
工事売上の6割強が高速道路会社に偏る。今期はNEXCO東日本向けの受注が90億円ほど減り、受注残も1割減った。大規模更新が計画の4割超まで進み、大型の新規発注は落ち着いてきた。一社の発注方針が変われば、受注は大きく揺れる。分散の途上にあるが、すぐには変わらない。
利益率が山にある
営業利益率は23%と過去最高圏にある。工事の粗利率は選別受注と設計変更の獲得で29%に乗った。競合が補修に本腰を入れたり、採算の低い大型案件が混ざったりすれば、10年で数ポイント下がる。2008年ごろは7%まで落ちたことがある。今の水準を前提にした見方は危うい。
技能者の不足と施工量の頭打ち
補修の需要が増えても、現場に入れる施工班の数が上限になる。高齢化に加え、2024年から残業の上限規制が始まった。人を増やせば固定費が重くなる。需要を取りこぼすことが、数量の伸びを縛る。採用と育成には年単位の時間がかかる。
公共予算が物価に追いつかない
維持管理の予算は、名目では緩やかに増える見通しだが、物価3%の世界では実質で横ばいから微減になりうる。国の関心が防衛や社会保障に移れば、補修は先送りされる。需要の土台は確かでも、予算化の速度は読めない。補修が先送りされる年が続けば、会社の受注残が痩せる。
床版取替に強い競合の台頭
NEXCO3社の追加更新約1兆円は、中心が床版の取り替えと桁の架け替えだ。この分野はピーエス三菱やオリエンタル白石が強い。補修専業が取れるのは、傷みの小さい橋の補強や耐震に寄る。大型の取り分は読めない。補修専業の強みが活きる小口と、取り合いになる大型を分けて見る必要がある。
中期経営計画の未達と海外の遅れ
中期経営計画2027の最終年度の目標は、売上1,000億円、営業利益220億円だった。会社の見通しは、売上900億円、営業利益210億円と下回る。海外は香港・タイ・北米で黒字になったが、金額はまだ小さい。成長の柱として期待しすぎるのは危うい。
工事の品質事故と施工の責任
補修は人の通る橋やトンネルの安全に直結する。施工の不備が事故につながれば、指名停止や補償で受注と利益が大きく傷む。これまで大きな不祥事はないが、現場が多く、起きる確率はゼロではない。品質管理の費用は今後も増える。
今後の分かれ目
- NEXCO東日本の耐震補強などの発注が戻り、受注残が計画の775億円へ積み上がる
- 高速道路会社の谷は短く終わる。やや楽観の筋書きに確率を移してよい。会社の来期の見通し(営業利益210億円)が達成できる。
- 高速道路の追加更新で、補修専業向けの発注が目立って増える
- 床版取替中心という見立てが外れる。施工量は強気の水準に近づき、楽観の筋書きの確率が上がる。
- 工事の粗利率が28%を割り込み、営業利益率が20%を下回る
- 利益率が山を越えた合図だ。やや悲観の筋書きに確率を寄せ、10年の価値を見直す。
- 自治体や国の補修予算が、防衛や社会保障に押されて削られる
- 補修の先送りが始まる。施工量が減り、悲観の筋書きの確率が上がる。
- 総還元性向が9割を割り、買収や設備投資で現金を使い出す
- 資本配分が変わる合図だ。投資先の稼ぎが資本コストを上回るかを確かめる。上回らなければ、余った現金の価値を割り引く。
- 大手ゼネコンやPS系が補修専業を買収する、またはTOBの話が出る
- 支配株主が現れる局面になる。財団など大株主の動きを見る。価格が本質価値を下回るなら、会社には手を打つ余地がある。
見ておくもの
- 高速道路会社別の受注高と受注残(とくにNEXCO東日本の耐震補強)
- 工事の粗利率と営業利益率(28%・20%が分かれ目)
- 自治体・国の補修予算の動き(強靱化の実施中期計画の執行速度)
- 総還元性向と自社株買いの実績
- ヤシオ工場の稼働と工事材料の売上、海外の黒字の積み上がり
倍率と資本コストの決め方
倍率は、事業のROE・資本コスト(7.0%)・成長(3.5%)から式で出し、今の株価や同業の倍率は見ていない。中立は式の上限の約8割に置き、床に合わせていない。施工量は、需要の土台と技能者の制約から10年で1.08倍とし、値段は物価並みの1.34倍を基本にした。市場の大きさは公的な数字が無く、約6,000億円・シェア約13%は推定で、幅が大きい。余った現金は運転資金の波を引いて180億円とした。純現金のまま足すと価値を過大にみる。リースは事務所・車両中心で小さく、新リース会計基準での数字の形の変化は、10年後の数字を家賃を費用に入れた今の形でそろえて避けた。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 21→22.92 倍・やや楽観 PER 18.5→21.96 倍・中立 PER 17→21.12 倍)。
資本コスト 6.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。