結論
戸田建設は、ビルや工場を建てる建築と、道路・トンネルを造る土木を二本柱とする準大手ゼネコンだ。筆者の結論は「やや割高」。好況で利益は戻ったが、稼ぐ力は株主が求める水準にまだ届かない。
強みは手持ち工事の厚さだ。建築と土木の繰越工事は合わせて1兆円を超え、3年先までの売上はほぼ見える。粗利も資材高の転嫁で改善し、営業利益率は直近で5.9%と、過去10年でも上位の高さまで来た。
弱みは、その利益が景気と人手不足に左右される点だ。国内の建設工事は人口減で実質の量が伸びにくい。しかも自己資本の5割近くを、利回りの低い持ち合い株が占める。稼ぎが資本に見合わず、ROEは資本コストの手前にとどまる。
中立の筋書きでは、営業利益は10年後に500億円強へ伸びる。ただ価値は今の時価総額に届かない。今の株価が映すのは、好調の持続と持ち合い株の現金化が、ともに順調に進む姿だ。そこまで織り込むには、安全域が足りない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、ゼネコンは「よく見えて、実は難しい」事業だ。資本は少なくて済むが、毎年新しい工事を取り直さなければならず、利益は景気の山と谷で大きく振れる。過去20年にも、赤字になった年が2回ある。
株主が受け取れる利益、つまり事業に再投資せず自由に使える利益は、純利益の7割ほどだと筆者は見る。工場も店も要らない事業なので、そう多くの再投資は要らない。ただ、土地開発や洋上風力の投資が膨らむと、その余裕は消える。
資本の置き場所にも注文がある。自己資本の5割近くが持ち合い株で、事業の稼ぎに直接つながらない。会社自身が売ると言い始めたのは前進だが、売って得た現金をどこに使うかが勝負だ。割高な自社株買いで資本を無駄にせず、稼ぎの確かな工事に回してほしい。
安全域は薄い。楽観の筋書きでも今の値段は大きく上回らず、悲観では大きく割れる。わかりやすい事業でも、払う値段がこの会社の本質価値を超えているなら、筆者は手を出さない。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの中心は建築だ。オフィス、工場、データセンター、物流施設、マンションなどを、デベロッパーや製造業から請け負って建てる。直近の営業利益のおよそ7割をここで出している。土木は道路・トンネル・ダム・治水など公共工事が主体で、利益率は建築より低い。
三つ目の柱が、国内の投資開発だ。自社で不動産を開発して売却し、私募REIT(不動産に投資する非上場のファンド)へ組み入れる。運用資産は今の235億円から、将来は1,000億円規模を目ざす。建てて終わりにせず、持ち主として儲ける狙いだ。
四つ目に、海外と子会社群がある。シンガポール、米国、ニュージーランドで建設やホテルを営み、人材派遣や設備工事の子会社も持つ。直近の売上の約2割を占めるが、利益率は低めだ。
将来の芽は洋上風力だ。長崎県五島市沖の浮体式風車は2026年1月に商用運転に入った。風車を据える専用の作業船は、函館港を基地に2027年度に動き出す予定で、会社は2035年以降に洋上風力で数百億円から1,000億円規模の売上を見込む。ただ、これは開示された目標であり、筆者は大きくは織り込まない。
優良さと弱いところ
優良さを一言で言えば「普通の優良ゼネコン」だ。堀、つまり他社がまねできない強みは、スーパーゼネコンほど深くない。
強みは三つある。一つ目は、建築で利益率7%台を出せる受注の選び方。二つ目は、土木・建築を併せ持つ工種の幅。三つ目は、五島沖で培った洋上風力の施工経験で、国内でここまで実績のある同業は数少ない。
弱みも三つある。一つ目は、価格を決める力の弱さだ。発注者は入札で競わせる。二つ目は、施工量を決めるのが人手だという点で、人が足りなければ売上は伸ばせない。三つ目は、浮体式風車での失敗だ。製作中の風車2基に不具合が出て、2023年3月期に約95億円の損失を出し、運転開始も約2年遅れた。新しい事業で大きく外す癖は、気がかりな材料だ。
資本の使い方は改善途上だ。中期経営計画は、ROE10%と総還元性向70%を掲げた。持ち合い株の現金化を進めるのは、資本効率を意識し始めた証拠だと筆者は見る。ただ、実績ROEはまだ10%に届いていない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
国内の建設市場は、量が増えない成熟市場だ。人口が減り、地方の工事は先細る。それでも今は「作れば儲かる」局面にある。2024年4月に残業の上限規制が始まり、技能者が足りなくなった。受け手のゼネコンが仕事を選べるようになり、値上げが通る。上場ゼネコン50社の2025年度の受注は16兆円台で、繰越も過去最高だ。
準大手は、スーパーゼネコンより価格を決める力が弱い。顧客は中堅デベロッパーや地方の製造業、官公庁に広がり、入札で競う場面が多い。戸田建設の競合は、安藤・間、熊谷組、西松建設、奥村組、東急建設だ。市場は分散していて、地場のゼネコンも多い。
追い風は国土強靱化だ。2026年度から5年で20兆円強の計画があり、橋・上下水道・道路の更新が続く。データセンターや半導体工場の民間投資も当面は強い。
10年先は、そうした投資が一巡する。その後は、実質で横ばいか緩やかな縮小に向かうと筆者は見る。人手が足りない業界では、売上を伸ばす力より、採算を守る力が会社の差になる。再編も進みやすく、地場の事業承継型の買収や準大手同士の統合が、この領域の次の焦点になる。
資本政策と M&A
資本政策の主役は、持ち合い株の売却と還元の強化だ。中期経営計画は、3年で500億円以上の売却を掲げ、2030年度までに純資産の2割未満へ下げる。配当は純資産の3.5%以上、還元の総額は利益の約7割を目安とする。直近の総還元性向は66%だった。
売却で得た現金は還元と成長投資に回る。3年で2,000億円の投資を見込み、6割は不動産開発に向く。ただ売却の資金で買い戻す分は、利益を増やさない。本当に価値を増やすのは、投資の稼ぎが資本コストを超える時だけだ。
買収は小粒だ。2023年に人材派遣会社を完全子会社にし、ニュージーランドのホテル会社も傘下に入れた。米国では造園会社の事業を譲り受けた。大きな買収で価値を壊すタイプではない。
株主面では、大一殖産が14%台で筆頭株主に座り、安定株主として長く持つ姿勢を示す。2026年4月には買収防衛策を一部変えて継続した。会社が自分で変わる意思は見えるが、外から買われる可能性は低いと筆者は考える。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
建設業の構造が変わった。受け手が仕事を選べる時代になり、採算の悪い工事を取らなくてよい。戸田建設は、建築と土木の繰越が過去最高の1兆円超で、3年先まで売上が見える。直近の営業利益率は5.9%と過去10年でも上位で、中期経営計画の2027年度目標は営業利益435億円だ。この計画は足元の実績を下回って設計されており、上振れの余地がある。
資本の使い方も、はっきり変わり始めた。持ち合い株を3年で500億円以上売り、総還元性向70%を約束した。売却益が出る間に、配当と自社株買いで株主へ戻す。ROEは10%が目標で、達成すれば資本コストを上回る。
成長の芽もある。国土強靱化の20兆円は土木を押し上げる。私募REITが育てば、不動産開発は「建てて売る」から「持って稼ぐ」へ進む。五島沖の風車が動いたことで、洋上風力の施工経験は国内でも数少ない。2035年以降の売上1,000億円という目標は、まだ誰も取れていない市場への先行者利益だ。
資産面にも安全域がある。持ち合い株の時価は、時価総額の約4割に相当する。事業の価値だけを見れば、今の株価は割安とも言える。
慎重な見方
好調は景気の山の利益だ。ゼネコンの利益率は、過去20年で最悪は赤字、最良でも7%止まりで、今がその最高圏にある。資材高を転嫁できるのは今の需給が締まっているからで、値上げ疲れや民間投資の一巡で崩れうる。2013年3月期には、営業利益率がマイナス9%台、純損失650億円という深い谷を経験した。
国内の工事量は、人口減で実質では増えない。しかも施工を決めるのは人手だ。人が足りなければ売上は伸びず、人件費の上昇は利益を削る。会社の2027年3月期の計画も、売上は伸びるのに営業利益は横ばいだ。増収でも増益にならない構図は、すでに始まっている。
資本の質にも問題がある。自己資本の5割近くが持ち合い株で、稼ぎは配当程度しか生まない。売却は進むが、売れば自社株買いに回るだけで、事業の稼ぎは増えない。ROEは資本コストの手前にとどまり、10%を超える姿は見えにくい。
洋上風力は不確実さが大きい。五島沖では、不具合で約95億円の損失と約2年の遅れを出した。次の大きな投資で再び外せば、利益を食い潰す。不動産開発も、金利が上がる局面では売却益が細る。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方が少し強い。事業の質や経営の改善では強気の見方に分があるが、値段を決めるのは資本コストを超えられるかどうかで、そこで慎重な見方の指摘が勝つ。確率は、中立に4割を置き、残りを慎重側にやや厚くした。悲観を1割強に置いたのは、過去2回の赤字が示す谷の深さを無視できないからだ。強気の見方が強調する繰越の厚さは、近い年の筋書きには織り込んだが、10年先の利益を守るものではない。人手不足は採算を守る一方で、売上の伸びを縛る。両方の力が働くため、中立は計画並みの利益で、倍率は資本コストの手前の会社として置いた。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 1,603 円4,747 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 807 円2,388 億円)。 今の値に割り戻すと 1,292 円3,824 億円、今との差 −8.7%、 期待の年率 +5.5%(資本コスト 8.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 2,764 円8,182 億円 | 1,103 円3,265 億円 | +173.3% | +10.6% | 271 円801 億円 |
| やや楽観 | 17% | 2,213 円6,552 億円 | 962 円2,849 億円 | +124.4% | +8.4% | 540 円1,598 億円 |
| 中立 | 38% | 1,794 円5,311 億円 | 859 円2,544 億円 | +87.5% | +6.5% | 1,008 円2,985 億円 |
| やや悲観 | 26% | 1,055 円3,124 億円 | 703 円2,081 億円 | +24.2% | +2.2% | 457 円1,353 億円 |
| 悲観 | 12% | 647 円1,915 億円 | 470 円1,392 億円 | −21.1% | −2.3% | 134 円397 億円 |
| 加重平均 | 100% | 1,603 円4,747 億円 | 807 円2,388 億円 | +70.3% | +5.5% | 2,410 円7,134 億円 |
今の株価時価総額 1,415 円4,189 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.0% を下回るほど割高。
楽観 7% 採算の良い工事と開発で稼ぐ力が定着 利益 537 億円 · PER 13.8 倍 · 株価時価総額 2,764 円8,182 億円
10年間、建築は採算を選び続け、利益率は7%を保つ。データセンター・半導体・再開発の波のあとにも、工場更新と物流の需要が残る。土木は強靱化の予算が続き、利益率は6%に届く。私募REITは1,000億円規模に育ち、開発は「建てて売る」から「持って稼ぐ」へ変わる。洋上風力も、作業船と基地港が回り始め、2035年以降に数百億円の売上が立つ。営業利益は750億円台になり、総還元性向70%で配当も増える。自己資本は厚くなり過ぎず、ROEは10%を超える。持ち合い株の整理も予定どおり終わり、資本の使い道は事業の側へ移る。国内の量が実質で増えない点は変わらないが、価格と採算でそれを補う、最も良い姿だ。
- 建築:数量 533(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.85(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 5,253 億円・営業利益 368 億円。533万人日換算 × 1人日あたり 9.85万円、利益率 7.0%
- 土木:数量 187(施工量(万人日、実質))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 1,941 億円・営業利益 116 億円。187万人日換算 × 1人日あたり 10.38万円、利益率 6.0%
- 国内投資開発:数量 4,800(開発・運用に投じた資産の残高(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.37(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目。売却と賃貸の回転))→ 売上 1,790 億円・営業利益 161 億円。残高 4800億円 × 回転 0.373、利益率 9.0%
- 海外・子会社その他:数量 220(工事・サービス量(万人日換算、実質。推定))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 2,273 億円・営業利益 114 億円。220万人日換算 × 1人日あたり 10.35万円、利益率 5.0%
倍率:事業の純利益 537 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.4% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.8 倍。全体の PER 13.75 倍、時価総額 7,384 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:10年を通じて採算を選び続け、開発と洋上風力も成功する筋書き。連続して当たる必要があり、確率は低い。
やや楽観 17% 価格転嫁が続き、資本効率が上向く 利益 444 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 2,213 円6,552 億円
建築は利益率6%台後半を保ち、土木も5%台を維持する。民間工事は実質では横ばいでも、値上げが物価並みに通る。私募REITは500億円規模に育ち、開発の利益が積み上がる。洋上風力は2035年にかけて少しずつ売上が立つが、期待ほどは大きくならない。営業利益は600億円台で、ROEは9%近くまで上がる。持ち合い株の整理は計画どおり進み、売却代金は還元と開発に回る。事業の質が上がったと市場に認められ、倍率も今よりやや高く評価される。ただ、国内の量が増えない制約は、最後まで残る。2030年代半ばに向け、土木の更新工事が支えになり、建築の波の一巡を和らげる。
- 建築:数量 508(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.71(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 4,930 億円・営業利益 325 億円。508万人日換算 × 1人日あたり 9.71万円、利益率 6.6%
- 土木:数量 179(施工量(万人日、実質))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 1,826 億円・営業利益 99 億円。178万人日換算 × 1人日あたり 10.23万円、利益率 5.4%
- 国内投資開発:数量 3,840(開発・運用に投じた資産の残高(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.37(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目。売却と賃貸の回転))→ 売上 1,411 億円・営業利益 113 億円。残高 3840億円 × 回転 0.367、利益率 8.0%
- 海外・子会社その他:数量 203(工事・サービス量(万人日換算、実質。推定))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 2,075 億円・営業利益 93 億円。203万人日換算 × 1人日あたり 10.2万円、利益率 4.5%
倍率:事業の純利益 444 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.7% が k 8.00% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.3%、10 年より先の名目の伸び g 3.5% g_long の理由で から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.88 倍、時価総額 5,719 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:値上げが物価並みに通り、開発が育てば、ROEは資本コストに近づく。ただし国内の量が伸びないため、これ以上は置かない。
中立 38% 量は横ばい、価格だけ上がる成熟 利益 357 億円 · PER 12.5 倍 · 株価時価総額 1,794 円5,311 億円
建築の工事量は実質で5%ほど減り、価格だけが物価並みに上がる。営業利益率は5%台半ばへ戻り、営業利益は510億円前後になる。土木は強靱化で量を保つが、その後は先細りで、利益率は5%近い。不動産開発は残高が倍以上に育つ。洋上風力は小さな黒字にとどまる。ROEは7%前後と資本コストの手前で、持ち合い株の現金化が進んでも、会社の姿は大きく変わらない。還元は総還元性向70%を守るが、自己資本は薄くならず、ROEの改善は小幅にとどまる。堅実だが、株主にとっては物足りない10年になる。大きな失敗もなく、大きな成功もない、平らな道だ。人手不足の中で採算を守る力が、会社の差になる。
- 建築:数量 482(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.57(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 4,614 億円・営業利益 277 億円。482万人日換算 × 1人日あたり 9.57万円、利益率 6.0%
- 土木:数量 170(施工量(万人日、実質))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 1,713 億円・営業利益 82 億円。170万人日換算 × 1人日あたり 10.08万円、利益率 4.8%
- 国内投資開発:数量 3,000(開発・運用に投じた資産の残高(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.36(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目。売却と賃貸の回転))→ 売上 1,085 億円・営業利益 76 億円。残高 3000億円 × 回転 0.362、利益率 7.0%
- 海外・子会社その他:数量 187(工事・サービス量(万人日換算、実質。推定))× 価格 10(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 1,880 億円・営業利益 75 億円。187万人日換算 × 1人日あたり 10.05万円、利益率 4.0%
倍率:事業の純利益 357 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.1% が k 8.00% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.5 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.5 倍。全体の PER 12.5 倍、時価総額 4,462 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:量は実質で横ばいか少し減り、価格は物価並み。会社の改善策が部分的に効く、最も標準的な姿。
やや悲観 26% 地方の縮小と人手不足で採算が細る 利益 242 億円 · PER 8.8 倍 · 株価時価総額 1,055 円3,124 億円
地方の人口減で、工事量が実質で1割強減る。価格転嫁は止まり、人件費の上昇だけが重い。建築の利益率は5%を割り、営業利益は350億円前後まで下がる。土木も低採算の工事が増える。洋上風力は赤字が続き、不動産は金利上昇で売却益が細る。それでも会社は配当を守り、ROEは5%ほどにとどまる。持ち合い株の売却は続くが、代金が稼ぎを生む投資に回らず、資本の効率は上がらない。市場からは「資本コストを稼げない会社」と見られ、倍率は低いままだ。地方の公共工事は予算が限られ、競り合いも厳しい。会社は選別受注を貫けず、人手不足の中で採算の悪い工事を抱え込む。
- 建築:数量 447(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 9.28(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 4,147 億円・営業利益 199 億円。447万人日換算 × 1人日あたり 9.28万円、利益率 4.8%
- 土木:数量 156(施工量(万人日、実質))× 価格 9.78(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 1,529 億円・営業利益 58 億円。156万人日換算 × 1人日あたり 9.78万円、利益率 3.8%
- 国内投資開発:数量 2,160(開発・運用に投じた資産の残高(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.35(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目。売却と賃貸の回転))→ 売上 751 億円・営業利益 38 億円。残高 2160億円 × 回転 0.348、利益率 5.1%
- 海外・子会社その他:数量 171(工事・サービス量(万人日換算、実質。推定))× 価格 9.75(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 1,665 億円・営業利益 57 億円。171万人日換算 × 1人日あたり 9.75万円、利益率 3.4%
倍率:ROE 4.95%(純利益 242 億円 ÷ 自己資本 4,887 億円)。事業の ROE が資本コスト k 8% 以下なので、伸びても価値は増えず、正当化 PER は 1÷k = 11.8 倍。地方の建設市場が縮み、持ち合い株の現金化が進んでも ROE が 5% にとどまる局面で、上限の 7 割 5 分 の 8.8 倍に置いた。
確率:地方の人口減と人手不足は、準大手に特に重い。値上げ疲れで利益率が戻る展開を、中立に近い厚みで置いた。
悲観 12% 構造的に負け、低採算工事に頼る 利益 94 億円 · PBR 0.5 倍 · 株価時価総額 647 円1,915 億円
構造的に負ける。地方の建設市場が縮み、人手不足の中でも受注を選べなくなる。低採算の工事を受けざるを得ず、建築の利益率は3%まで落ちる。洋上風力で再び大きな損失を出し、不動産開発も評価損が出る。営業利益は150億円台で、自己資本も減損で目減りする。配当は維持しても、優良な会社とは見られなくなる。持ち合い株の売却代金は、赤字の穴埋めと還元に消える。財務の体力は残るものの、稼ぐ力の回復は見えず、再編の対象にもなりやすい。地方の需要の縮みは、10年という時間をかけてじわじわ効き、どこかの年に急に表に出る。
- 建築:数量 381(施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質))× 価格 8.57(1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価))→ 売上 3,263 億円・営業利益 98 億円。381万人日換算 × 1人日あたり 8.57万円、利益率 3.0%
- 土木:数量 136(施工量(万人日、実質))× 価格 9.17(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 1,248 億円・営業利益 31 億円。136万人日換算 × 1人日あたり 9.17万円、利益率 2.5%
- 国内投資開発:数量 1,200(開発・運用に投じた資産の残高(億円、今の値段で測った実質。推定))× 価格 0.31(残高1億円あたりの年間売上(億円・名目。売却と賃貸の回転))→ 売上 367 億円・営業利益 0 億円。残高 1200億円 × 回転 0.306、利益率 0.0%
- 海外・子会社その他:数量 146(工事・サービス量(万人日換算、実質。推定))× 価格 9.00(1人日あたり売上(万円・名目))→ 売上 1,318 億円・営業利益 26 億円。146万人日換算 × 1人日あたり 9.0万円、利益率 2.0%
倍率:構造的に優良でなくなり、洋上風力と開発の減損も出た姿。谷の年は純利益 94 億円で稼ぐ力は 1,100 億円ほどにしかならず、床は売れる資産で測る。総資産 9,980 億円を強制売却で 8 割しか回収できず、負債 6,080 億円は全額払うとして残る約 1,900 億円(持ち合い株と土地を含む)を、今の自己資本 3908 億円に対する PBR 0.49 倍(時価総額 1915 億円)に置いた。営業利益は 155 億円と小さく、EV ÷ 営業利益は谷の年の数字として参考にならない。
確率:洋上風力の失敗や地方市場の縮小で、構造的に優良ではなくなる筋書き。過去の赤字の経験と洋上風力での失敗の履歴を踏まえ、1割強に置いた。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
建築
オフィス・工場・データセンター・物流施設・マンションなどを請け負って建てる。利益の約7割を稼ぐ主力。
| 数量施工量(万人日。技能者の延べ作業日数、実質) | 価格1人日あたり売上(万円・名目。材料・外注を含む請負単価) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 508 | 7.14 | 3,625 | 269 |
| 10 年後 中立 | 482 | 9.57 | 4,614 | 277 |
取り方:直近の建築事業の売上3,625億円・営業利益269億円(決算説明資料)を、現場の労務量で割った。開示は無いため、技能者の労務費を売上の約35%、日当を約2.5万円と置いて、施工量を約508万人日と推定した。売上を労務量で割った1人日あたり売上が価格に当たり、物価の分は価格に入る。
土木
道路・トンネル・橋・ダム・治水など、官公庁発注が中心の工事。国土強靱化の恩恵を受ける。
| 数量施工量(万人日、実質) | 価格1人日あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 170 | 7.52 | 1,278 | 46 |
| 10 年後 中立 | 170 | 10 | 1,713 | 82 |
取り方:土木事業の売上1,278億円・営業利益46億円。建築と同じ要領で、労務量を約170万人日と推定した。土木は機械・材料の割合がやや高いので、1人日あたり売上は建築よりやや高い。
国内投資開発
自社で不動産を開発・保有して売却し、私募REITに組み入れる事業。
| 数量開発・運用に投じた資産の残高(億円、今の値段で測った実質。推定) | 価格残高1億円あたりの年間売上(億円・名目。売却と賃貸の回転) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,200 | 0.28 | 334 | 20 |
| 10 年後 中立 | 3,000 | 0.36 | 1,085 | 76 |
取り方:売上334億円・営業利益20億円。中期経営計画の投資額(3年で不動産開発に1,230億円、うち純額270億円)と私募REITの残高235億円から、残高を約1,200億円と推定した。残高は開示されておらず、筆者の推定である。数量は実物(開発・運用資産の残高を今の値段で測った実質)で、増えるのは会社の投資計画(3 年で不動産開発に 1,230 億円)による積み増し。名目の市場の伸びを数量に置いたものではなく、物価は価格の 1.30 倍だけで見ている。
海外・子会社その他
シンガポール・米国・ニュージーランドの建設・ホテルのほか、人材派遣・設備工事などの子会社と、全社の調整。
| 数量工事・サービス量(万人日換算、実質。推定) | 価格1人日あたり売上(万円・名目) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 163 | 7.50 | 1,220 | 47 |
| 10 年後 中立 | 187 | 10 | 1,880 | 75 |
取り方:連結売上6,457億円から上の三つの事業を引いた1,220億円と、営業利益の残り47億円(全社の調整を含む)。海外と子会社は労務の割合が高いので、同じ要領で約163万人日の工事・サービス量に換算した。
リスクと懸念
景気の谷で受注が急減する
ゼネコンの利益は景気の山と谷で大きく振れる。戸田建設は過去20年に赤字を2回経験し、2013年3月期は営業利益率がマイナス9%台、純損失は650億円に達した。今の高い利益率は需給が締まった局面のもので、民間の再開発や工場投資が一巡すれば、先に崩れるのは新規受注と採算だ。
人手不足で施工量が頭打ちになる
2024年問題以降、技能者の確保が最大の制約になった。人が足りなければ受注があっても売上に変えられず、労務費の上昇は利益率を削る。会社の2027年3月期計画も、売上は増えるのに営業利益はほぼ横ばいで、増収が増益に結びつきにくい構図がすでに見える。
洋上風力の新たな失敗
五島沖の浮体式風車は、製作中の2基に不具合が出て、2023年3月期に約95億円の損失を計上し、運転開始も約2年遅れた。会社は2035年以降に数百億円から1,000億円規模の売上を狙い、専用の作業船を2027年度に動かす。再び大きく外せば、本業の利益を食う。
持ち合い株の現金化が事業の稼ぎを増やさない
自己資本の5割近くが持ち合い株で、稼ぎは配当程度しか生まない。売却は進むが、売って得た現金を自社株買いに回すだけでは、事業の利益は増えない。資本コストを超える稼ぎに回せるかが問われる。株価が下がる局面では、持ち合い株の時価も同時に下がり、自己資本が目減りする。
金利上昇で不動産開発の採算が悪化する
不動産開発は、3年で1,230億円(うち純額270億円)を投じる計画だ。金利が上がると、利回りを物件価格で割る評価が下がり、売却益が細る。私募REITへの組み入れも、買い手の資金調達コストの影響を受ける。純有利子負債は1,450億円あり、借り換えで利払いも増える。
公共工事の入札で価格競争が再燃する
国土強靱化の予算は大きいが、発注は入札だ。準大手は、スーパーゼネコンの下請けに回る面もあり、地場ゼネコンとも競る。予算の執行が遅れたり、人手不足が一服したりすれば、低採算の工事を取らざるを得なくなる恐れがある。
今後の分かれ目
- 建築の完成工事利益率が2期続けて10%を割ったら
- 価格転嫁の局面が終わったと見て、やや悲観・悲観の確率を上げる。
- 持ち合い株の売却代金を、配当と事業投資に使い、割高な自社株買いに偏らなかったら
- 資本の使い方の評価を上げ、ROE の改善を織り込んで楽観側の確率を少し増やす。
- 洋上風力の作業船と基地港が予定どおり2027年度に動いたら
- 2035年以降の売上目標の実現性が上がり、10年のやや楽観より上の確率を上げる。
- 国土強靱化の予算執行が遅れ、土木の受注が2期続けて減ったら
- 土木の利益率を5%から下げ、中立の利益を数十億円削る。
- 準大手どうしの統合や、筆頭株主・外部資本による大型の再編が出たら
- 統合後の資本効率次第。事業承継型の買収で規模が増えるなら価値を押し上げ、割高な買収なら下げる。
- 2028年3月期の営業利益が目標の435億円を50億円以上上回ったら
- 会社計画の保守性が確かめられ、中立の利益を上方に直す。
見ておくもの
- 四半期ごとの建設受注高と繰越工事の推移
- 建築・土木の完成工事利益率(粗利率)
- 政策保有株の売却額と、その代金の使い道
- 洋上風力の作業船・基地港の稼働時期と、追加の損失の有無
- 私募REITの運用資産の残高と、不動産の売却益
- 国土強靱化予算の執行状況と土木の受注
倍率と資本コストの決め方
倍率は、ROE が資本コスト k 8%(基本 7.5% + quality 1.0%)に届かない前提で、正当化 PER の上限(1÷k = 約12倍)に ROE÷k(0.96)と 9 割を掛けた約 9.9 倍に置いた。悲観は谷の利益でなく、総資産の8割回収・負債全額払いで残る売れる資産(約1,900億円)で測り、谷のPBRは使っていない。今の株価や今の PER(11倍)を見てから決めたわけではない。純利益には持ち合い株の売却益や配当が含まれるので、直近の370億円は使わず、売却益を除いた事業の利益から積んだ。純有利子負債は1,450億円あり純現金ではないため、余った現金は分けていない。持ち合い株(自己資本の5割近く)は、売却益・配当と、10年の還元(payout)を通じて価値に入れた。今の自己資本の中の含み益は、悲観の PBR の床を支える材料として使った。数量は人日で推定した値のため、数量と価格の分け方には誤差がある。なお、2028年3月期から新リース会計基準で BS の形が変わるが、数字は今と同じ形(家賃を営業費用に入れた形)でそろえた。持ち合い株の評価差額金は配当が純利益に入っているので余り資産に足していない(二重を消した)。今の株価から逆算した値ではない。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 8.0% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 1% = 8.5%。理由は quality_why。個別のリスク(不祥事・M&A の実行など)は k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.50% → 8.00%。