結論
中外炉工業は、金属を高温で焼き固める工業炉の専業メーカーだ。自動車のギアや鋼板の熱処理に使う炉で、国内の最大手に数えられる。結論から言えば、筆者は今の値段をやや割高と見る。炉の仕事は数量が伸びにくく、直近の利益に株の売却益が大きく混じっているからだ。
2026 年 3 月期の純利益は 47 億円だが、政策保有株の売却益が 2 回で約 26 億円(税引き前)入っている。会社が翌期の純利益を 25 億円と予想するのは、この一回きりの益が消えるためだ。本当の出発点は営業利益の 29 億円になる。
追い風はある。脱炭素で電気炉や水素を使う加熱設備への入れ替えが進み、EV のモータ部品、半導体、電池向けの新しい炉も出てきた。受注残は 400 億円を超え、プラント事業の利益率は 12% まで上がった。
一方で、国内の工業炉市場は大きくない。協会会員の売上は 2019 年から 2023 年の 4 年で 3% しか増えず、実質では縮んでいる。ガソリン車の部品向けの炉が減る影響も避けられない。
中立の筋書きでは、10 年後の純利益は 30 億円、時価総額は 280 億円ほどになる。今の 265 億円と大差ない。上は 600 億円、下は 75 億円まで振れうる。純現金 63 億円は安心材料だが、前受金の裏づけがあるとみて、余った現金とは数えていない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「悪くないが、買い増したくなるほどではない」事業だ。10 年後も炉は必要とされ、会社は残る。ただ、需要は国内の成熟市場に偏り、値段を自分で決める力も弱い。長く複利で増える種類の利益ではない。
安全域の目で見ると、財務は申し分ない。純現金があり、借金の利払いは営業利益に比べ小さい。しかし、その現金には受注の前受金が混じっている可能性が高く、余った現金として数えるのは危うい。筆者は事業の稼ぎだけで値段を測っている。
オーナー利益、つまり株主が自由に使える利益は、営業利益の 7 割ほどから設備投資と運転資金を引いた額になる。炉の製造は大きな設備を必要とせず、再投資は少ない。利益の大半が株主に回せる点は強みだ。
経営の資本の使い方は改善中だ。売却益を還元に回し、総還元性向 50% の旗を掲げている。実行の記録はまだ短い。直近の利益が一時益で膨らんでいる以上、今の値段が示す稼ぐ力を鵜呑みにはできない。中立の筋書きが今の時価総額と同じ水準にとどまるなら、安全域は無い。
何で稼ぐ会社か
稼ぎの柱は熱処理事業とプラント事業の 2 つだ。2026 年 3 月期の売上は熱処理が 183 億円、プラントが 138 億円。営業利益はプラントが 17 億円、熱処理が 14 億円と、利益はプラントのほうが大きい。
熱処理事業は、金属部品を高温で処理する炉を作る。主力は自動車のギアやシャフトを硬くする真空浸炭炉で、量産向け、少量多品種向け、小ロット向けと用途別に機種を並べる。トヨタ自動車北海道から技術開発賞を受けた。EV のモータコア用の炉、半導体向けの高温炉、全固体電池向けの熱処理設備にも手を広げている。顧客は自動車部品メーカーが中心で、客先ごとに設計する受注生産だ。
プラント事業は、鉄鋼向けの大型設備を担う。連続焼鈍ライン、加熱炉、省エネバーナ、塗布設備などだ。東京製鐵からは電気炉ダストのリサイクル設備を受注した。大型案件の売上が立つ年は利益が跳ねる。2026 年 3 月期は、売上が計画の 120% に達した。
開発事業は、国のグリーンイノベーション基金などを使い、水素やアンモニアで燃やす炉や電気加熱を研究する。売上は 20 億円、営業損益は 2.5 億円の赤字だ。将来の種まきの費用でもある。
このほか、保守・部品を扱う子会社と、中国・メキシコの現地子会社がある。子会社の売上の多くは連結内の取引で、利益はほぼゼロだ。
優良さと弱いところ
優良さの核は、客先ごとに作り込む炉の設計力と、止められない工場へ納めた実績だ。炉は一度入れると 20 年以上使われ、保守や部品の入れ替えが続く。品質が崩れれば自動車部品も鋼板も生産ごと止まる。顧客は初めての会社より、実績のある会社を選びやすい。国内最大手という位置はここから来る。
ただし堀、つまり他社がまねできない強みは広くない。入札になれば値段で競る。真空浸炭炉では大同特殊鋼や高砂製作所などと競り合い、世界では欧州の大手がいる。客先が大手メーカーなので値引きの要求も強い。値段を自分で決める力は弱いと筆者は見ている。
資本効率は低かった。ROE は過去 10 年の中央値が 5.3% で、資本コストに届かない年が大半だ。2026 年 3 月期の 15% は売却益のおかげで、会社は売却益を除くと 8% 前後と説明する。
財務は堅い。自己資本比率は 61%、純現金は 63 億円で、営業利益は支払利息の 40 倍ある。経営は資本の使い方を改め、政策保有株を純資産の 20% 未満に減らし、総還元性向 50% 以上、配当は税引き後営業利益の 60% 以上を掲げた。この方向は評価できる。
弱みは 2 つある。期初の予想を下回る年が続いたことと、海外子会社の採算が悪いことだ。2013 年と 2014 年の 3 月期には赤字も出した。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
工業炉は、金属を溶かし、焼き、乾かすための加熱設備の総称だ。日本工業炉協会の会員企業の売上は、2019 年の 2,031 億円から 2023 年の 2,099 億円へ、4 年で 3% しか増えていない。名目でこれだから、実質では縮んでいる。輸出は 467 億円、輸入は 134 億円だ。市場は成熟している。
需要の波は、自動車と鉄鋼の設備投資に左右される。炉は景気が悪くなると発注が先送りされる。中外炉の営業利益が 2020 年 3 月期の 17 億円から 2021 年 3 月期の 4 億円へ落ちたのが、その例だ。
構造の変化は二つある。まず脱炭素だ。ガスを燃やす炉は二酸化炭素を出すため、電気加熱や水素・アンモニアで燃やす炉への入れ替えが 2050 年に向けて進む。鉄鋼は高炉から電気炉へ移り、省エネバーナや電気炉の周辺設備に需要が出る。次に EV だ。エンジンやトランスミッションの部品は減り、ギアを硬くする炉は先細りする。代わりに、モータコアや電池材料の熱処理炉が増える。
競合は分野ごとに違う。真空浸炭炉は大同特殊鋼、高砂製作所、パーカー熱処理工業などが、世界では欧州のアンドリッツやテノバなどの大手が競う。世界の工業炉市場は 100 億ドル規模で、年 4〜5% の名目成長と推計される。国内の最大手とはいえ、中外炉の売上は協会全体の 2 割弱にすぎない。
10 年で見ると、国内の実質数量は横ばいから微減だ。伸びるのは、脱炭素と電池・半導体という新しい領域と、シェアの上積みだけだ。
資本政策と M&A
資本政策は大きく変わった。経営ビジョン 2026 で、総還元性向 50% 以上、配当は税引き後営業利益の 60% 以上、自己資本比率 50% 以上、政策保有株は純資産の 20% 未満という数字を並べた。2023 年度には自社株買いを 5 億円行い、総還元性向は 50% 台だった。
政策保有株は着実に売っている。2023 年 7 月に約 10 億円、2025 年 6 月に約 13 億円、同年 11 月に約 13 億円の売却益を出した。会社は 2026 年 3 月末の目標を達成する見込みと説明する。残る保有株は純資産の 2 割弱、金額で 50 億円前後と推定する。今後は売却益が細り、純利益は営業利益に近づく。
大型買収は確認できない。成長は自前の開発と、マイクロ波化学との提携のような協業で進める形だ。支配株主や親会社はなく、大株主は信託銀行、りそな銀行、錢高組などが並ぶ。
2026 年 4 月に社長が交代し、経営ビジョン 2026 は 2027 年 3 月期で終わる。次の計画で、還元の水準と資本効率の目標がどう変わるかが焦点になる。時価総額は 265 億円と小さく、2023 年度末にやっと上場維持の基準を満たしたほどだ。買収提案の可能性はゼロではないが、確認できる話はない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
脱炭素は炉の入れ替えという巨大な需要を生む。国内に 3 万 7 千台ある工業炉の多くはガスで燃やしており、2050 年に向けて電気加熱や水素燃焼への転換が避けられない。中外炉は国内最大手で、水素やアンモニアの燃焼技術をグリーンイノベーション基金で磨いてきた。鉄鋼が高炉から電気炉へ移れば、バーナやダストのリサイクル設備に仕事が出る。東京製鐵からの受注はその先駆けだ。
EV は逆風に見えて追い風でもある。ギアの炉は減っても、モータコア、電池材料、半導体向けの高温炉は新しい需要だ。全固体電池の熱処理設備はまだ小さいが、量産が始まれば桁が変わる。
経営も変わった。プラント事業の利益率は 12% に達し、既存商品の磨き上げは売上 110 億円の上積みと、計画をほぼ達成した。利益が出る仕事に絞れば、会社全体の利益率は 9% に届く。総還元性向 50% と配当の下限を決めたことで、株主に回る分も増える。
自己資本は厚く、純現金もある。時価総額 265 億円は、そこまで安くはないが、10 年後に利益が 1.7 倍になれば十分に報われる水準だ。
慎重な見方
炉は成熟した設備で、数量が増える理由が乏しい。協会会員の売上は 4 年で 3% しか増えておらず、物価を引けば縮んでいる。自動車の電動化が進めば、ギアやシャフトの熱処理炉は減る。モータコア炉などの新しい需要は、減る分を埋められる規模にまだなっていない。
直近の利益は信用できない。2026 年 3 月期の純利益 47 億円のうち約 18 億円は株の売却益で、会社の翌期予想は 25 億円まで落ちる。プラント事業の利益率 12% は大型案件が重なった年の数字で、毎年続く保証はない。過去には赤字の年もあり、2021 年 3 月期は営業利益が 4 億円まで落ちた。
中期計画の目標も、受注が 420 億円から 360 億円へ下方修正された。2027 年 3 月期の第 1 四半期は営業赤字で、通期の 36 億円の利益予想は後半に偏る。海外子会社の採算は悪く、開発事業は赤字が続く。
値段を決める力も弱い。客先は大手の自動車・鉄鋼メーカーで、入札のたびに値下げを迫られる。10 年後も営業利益率が 8% を保つかは疑わしく、ROE は資本コストを下回り続ける。そうなれば、倍率は 1 倍を割る水準で止まる。
どちらに重みを置いたか
慎重な見方のほうが強い。強気の根拠は脱炭素と新しい炉の需要という見込みだが、数字に出ている事実は、成熟市場、一時益で膨らんだ利益、資本コストに届かない ROE だ。ただしプラントの利益率の上昇と還元方針の明確化は本物で、下ぶれの深さも純現金と有価証券が支える。そこで中立を 4 割に置き、やや悲観と悲観の合計を 3 割強、楽観とやや楽観の合計を 3 割弱にした。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 5,211 円364 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 2,167 円151 億円)。 今の値に割り戻すと 3,962 円277 億円、今との差 +5.8%、 期待の年率 +7.0%(資本コスト 7.8%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 10,548 円736 億円 | 3,180 円222 億円 | +266.6% | +13.9% | 1,098 円77 億円 |
| やや楽観 | 20% | 7,355 円514 億円 | 2,693 円188 億円 | +168.3% | +10.4% | 2,010 円140 億円 |
| 中立 | 40% | 5,560 円388 億円 | 2,349 円164 億円 | +111.2% | +7.8% | 3,164 円221 億円 |
| やや悲観 | 22% | 2,568 円179 億円 | 1,504 円105 億円 | +8.7% | +0.8% | 896 円63 億円 |
| 悲観 | 10% | 1,074 円75 億円 | 1,031 円72 億円 | −43.8% | −5.6% | 211 円15 億円 |
| 加重平均 | 100% | 5,211 円364 億円 | 2,167 円151 億円 | +97.0% | +7.0% | 7,378 円515 億円 |
今の株価時価総額 3,745 円261 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.8% を下回るほど割高。
楽観 8% 脱炭素と新しい炉が育ち、利益率が 10% に乗る 利益 49 億円 · PER 15.1 倍 · 株価時価総額 10,548 円736 億円
電気炉・水素燃焼への入れ替えが予想より早く進み、国内最大手の中外炉に仕事が集まる。熱処理事業は、EV のモータコア、全固体電池、半導体向けの炉が育ち、基数が今の 1.2 倍に増える。値段は付加価値が高い炉の比率が上がり、物価以上に上がる。
プラント事業は、電気炉への転換に伴うバーナ、ダストのリサイクル、連続焼鈍ラインが積み上がり、営業利益率 12.5% が定着する。開発事業は事業化に成功し、赤字から黒字へ変わる。
会社全体の売上は 650 億円、営業利益率は 10% を超え、過去の最高水準に並ぶ。株主還元は総還元性向 60% で続き、自己資本は緩やかに積み上がる。国内最大手の座が、そのまま収益力に変わった姿だ。
- 熱処理事業:数量 150(納入する炉の基数(基・推定))× 価格 2.13(1 基あたりの売上(億円・名目。物価 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 320 億円・営業利益 32 億円。対象市場の伸びとシェア上昇で出荷 1.23 倍、値段 1.42 倍、営業利益率 10%
- プラント事業:数量 36.0(大型設備・バーナ事業の納入件数(件・推定))× 価格 6.44(1 件あたりの売上(億円・名目。物価 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 232 億円・営業利益 29 億円。大型ライン 36 件、値段 1.40 倍、営業利益率 12.5%
- 開発事業:数量 34.0(開発・受託案件の数(件・推定))× 価格 1.33(1 件あたりの売上(億円・名目。物価 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 45 億円・営業利益 3 億円。開発の成果が事業化、営業利益率 7%
- その他・調整(保守・部品・海外子会社):数量 200(保守・部品・現地製造の件数(件・推定))× 価格 0.27(1 件あたりの売上(億円・名目。物価 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 54 億円・営業利益 2 億円。保守・部品・子会社、営業利益率 4%
倍率:事業の純利益 49 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 10.6% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 9.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 15.1 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 15.1 倍。全体の PER 15.06 倍、時価総額 736 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:電動化後の新しい炉が当たり、プラントの高採算が定着する筋書きは重なりにくい。成熟市場で値段を決める力が弱いことも考え、1 割弱とした。
やや楽観 20% プラントの採算が定着し、利益率は 9% へ 利益 38 億円 · PER 13.6 倍 · 株価時価総額 7,355 円514 億円
国内の炉市場は横ばいでも、脱炭素の入れ替えが着実に積み上がる。熱処理事業は、自動車向けが減る分を電池・半導体・モータ向けが埋め、基数は今の 1.1 倍に伸びる。
プラント事業は、大型案件が途切れず、バーナ事業の拡販も効いて営業利益率が 11.5% で続く。開発事業は小さな黒字になる。
会社全体の営業利益は 51 億円と、今の 1.8 倍になる。数量はおおむね横ばいで、値段の定着と利益率の上昇が主な要因だ。株主還元は総還元性向 60% で、政策保有株の売却益は細り、本業の利益で配当を賄う姿に変わる。
中期計画の達成と同じ道筋で、会社が計画どおりに動く優等生になる筋書きだが、市場の驚きにはなりにくい。
- 熱処理事業:数量 136(納入する炉の基数(基・推定))× 価格 2.06(1 基あたりの売上(億円・名目。物価 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 280 億円・営業利益 25 億円。出荷 1.11 倍、値段 1.37 倍、営業利益率 9%
- プラント事業:数量 32.5(大型設備・バーナ事業の納入件数(件・推定))× 価格 6.26(1 件あたりの売上(億円・名目。物価 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 203 億円・営業利益 23 億円。大型ライン 32.5 件、値段 1.36 倍、営業利益率 11.5%
- 開発事業:数量 26.0(開発・受託案件の数(件・推定))× 価格 1.33(1 件あたりの売上(億円・名目。物価 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 35 億円・営業利益 1 億円。開発は収支が小幅の黒字
- その他・調整(保守・部品・海外子会社):数量 180(保守・部品・現地製造の件数(件・推定))× 価格 0.27(1 件あたりの売上(億円・名目。物価 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 48 億円・営業利益 1 億円。子会社の採算が少し戻る
倍率:事業の純利益 38 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 8.6% が k 7.75% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 8.2%、10 年より先の名目の伸び g 4.0% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 13.6 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 13.6 倍。全体の PER 13.62 倍、時価総額 514 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:経営ビジョン 2026 が掲げた営業利益率 8.7% 超が長く続く姿。実績(プラント 12%、積み上げ 110 億円)があるので 2 割を置いた。
中立 40% 数量は横ばい、物価の分だけ売上が増え、利益率は 8% で落ち着く 利益 30 億円 · PER 12.9 倍 · 株価時価総額 5,560 円388 億円
国内の工業炉市場は、実質ではほぼ横ばいが続く。脱炭素で新しい炉が売れる一方、ガソリン車向けの炉は減り、熱処理事業の基数は今の 1.02 倍にとどまる。値段は物価並みに上がり、売上は 250 億円になる。
プラント事業は、2026 年 3 月期が山の年だったため、件数は 5% 減の 28.5 件に落ち着く。営業利益率は 12% から 10% に戻る。開発事業は収支が合う程度、海外子会社の採算は低いままだ。
会社全体では、売上が 500 億円、営業利益率が 8% になる。過去の最高 7.7% をわずかに上回るのは、プラントの実績と既存商品の磨き上げが定着した分だ。純利益は 30 億円で、政策保有株の売却益はほぼ無い。
総還元性向 50% 以上の方針は守られ、自己資本は緩やかに増える。大きな成功も失敗もない 10 年だ。
- 熱処理事業:数量 125(納入する炉の基数(基・推定))× 価格 2.01(1 基あたりの売上(億円・名目。物価 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 251 億円・営業利益 21 億円。出荷 1.02 倍、値段は物価並みの 1.34 倍、営業利益率 8.2%
- プラント事業:数量 28.5(大型設備・バーナ事業の納入件数(件・推定))× 価格 6.16(1 件あたりの売上(億円・名目。物価 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 176 億円・営業利益 18 億円。大型ライン 28.5 件(今は山の年なので 0.95 倍)、営業利益率 10.2%
- 開発事業:数量 20.0(開発・受託案件の数(件・推定))× 価格 1.33(1 件あたりの売上(億円・名目。物価 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 27 億円・営業利益 1 億円。開発は収支トントンに近い黒字
- その他・調整(保守・部品・海外子会社):数量 165(保守・部品・現地製造の件数(件・推定))× 価格 0.27(1 件あたりの売上(億円・名目。物価 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 44 億円・営業利益 1 億円。子会社の採算は低いまま
倍率:事業の純利益 30 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 7.1% が k 7.75% 以下。ためた利益は投じた額より値が低いので伸びは数えず、稼ぐ力の値 PER = 1÷(k−g)(g=0) = 12.9 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 12.9 倍。全体の PER 12.9 倍、時価総額 383 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:国内の炉市場は成熟し、実質では横ばい。脱炭素の追い風と EV の逆風が相殺する。物価の分だけ名目で伸びる姿に収まりやすく、4 割を置いた。
やや悲観 22% 電動化と値下げ競争で、利益率は 6% 前後に 利益 17 億円 · PER 7.0 倍 · 株価時価総額 2,568 円179 億円
EV 化が想定より早く進み、ギアやシャフトの熱処理炉の更新が止まる。熱処理事業の基数は今の 0.9 倍に縮み、同業との値引き競争で値段は物価ほど上がらない。
プラント事業は、国内の鉄鋼設備投資が減り、海外の大型案件では欧州勢との競争が激しくなる。件数は 24 件に減り、営業利益率は 7.5% に下がる。開発事業は縮小し、小さな赤字が残る。
会社全体の営業利益は 22 億円で、今の 8 割にとどまる。物価の分を除けば半分近く減った計算だ。純現金と政策保有株があるため赤字にはならないが、成長の物語は消え、還元は配当が中心になる。
投資家は、会社を景気に左右される成熟した製造業として、低い倍率で評価し続ける。
- 熱処理事業:数量 108(納入する炉の基数(基・推定))× 価格 1.88(1 基あたりの売上(億円・名目。物価 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 203 億円・営業利益 12 億円。出荷 0.89 倍、値下げ圧力で値段は 1.25 倍止まり、営業利益率 6%
- プラント事業:数量 24.0(大型設備・バーナ事業の納入件数(件・推定))× 価格 5.75(1 件あたりの売上(億円・名目。物価 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 138 億円・営業利益 10 億円。大型ライン 24 件、営業利益率 7.5%
- 開発事業:数量 10.0(開発・受託案件の数(件・推定))× 価格 1.29(1 件あたりの売上(億円・名目。物価 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 13 億円・営業利益 −1 億円。開発は縮小し小幅の赤字
- その他・調整(保守・部品・海外子会社):数量 150(保守・部品・現地製造の件数(件・推定))× 価格 0.26(1 件あたりの売上(億円・名目。物価 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 39 億円・営業利益 0 億円。子会社は採算ほぼゼロ
倍率:事業の純利益 17.0 億円・自己資本 417 億円・ROE 4.1%。ROE が k を大きく下回り、ためた利益は額面より低く評価される。正当化 PER の上限 12.1 倍に対し、構造的に先細りする利益なので上限の 6 割弱の 7.0 倍に置いた(7 割へは引き上げない)。余った現金は分けず、時価総額 = 純利益 × 7.0 倍。
確率:自動車向けの炉の縮小が早く進み、プラントも価格競争に巻き込まれる姿。過去の振れ(2021 年 3 月期の営業利益 4 億円)を考え、2 割強を置いた。
悲観 10% 構造的な負け。自動車と鉄鋼の需要を失い、稼ぐ力が消える 利益 4 億円 · PBR 0.2 倍 · 株価時価総額 1,074 円75 億円
EV 化が急速に進み、ガソリン車向けの熱処理炉が大きく減る。電池や半導体向けの新しい炉は、海外の大手や専業に取られ、中外炉の受注は伸びない。熱処理事業の基数は 0.66 倍、値段は物価に届かず、利益率は 2% に落ちる。
国内の鉄鋼は縮み、プラント事業の大型案件も減る。海外子会社は赤字が続き、開発事業は基金が終わって赤字のまま縮小する。
会社全体の営業利益は 5 億円、純利益は 4 億円で、稼ぐ力は資本コストに全く届かない。自己資本の一部を減損で失い、政策保有株は売却して現金に換える。配当は大きく減り、時価総額は、純現金と有価証券の価値を少し超える程度に落ちる。
優良な炉メーカーという評価は消え、清算価値に近い扱いになる。
- 熱処理事業:数量 80.0(納入する炉の基数(基・推定))× 価格 1.65(1 基あたりの売上(億円・名目。物価 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 132 億円・営業利益 3 億円。自動車向けの出荷が 0.66 倍に縮み、値段は 1.10 倍止まり、営業利益率 2%
- プラント事業:数量 18.0(大型設備・バーナ事業の納入件数(件・推定))× 価格 5.06(1 件あたりの売上(億円・名目。物価 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 91 億円・営業利益 3 億円。大型ライン 18 件、営業利益率 3%
- 開発事業:数量 5.0(開発・受託案件の数(件・推定))× 価格 1.09(1 件あたりの売上(億円・名目。物価 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 5 億円・営業利益 −1 億円。開発は赤字で縮小
- その他・調整(保守・部品・海外子会社):数量 120(保守・部品・現地製造の件数(件・推定))× 価格 0.22(1 件あたりの売上(億円・名目。物価 10 年 1.34 倍が中立))→ 売上 26 億円・営業利益 0 億円。子会社は赤字
倍率:稼ぐ力は純利益 3.8 億円(k で割って 47 億円)に過ぎず、売れる資産(純現金の 6 割と有価証券の税後で 75 億円)のほうが大きい。床の 75 億円を今の自己資本 312 億円で割った PBR 0.24 倍に置く。減損後の自己資本 324 億円(ROE 1.2%)でなく今の自己資本に掛けた。
確率:電動化で自動車向けの炉が 3 割以上減り、国内鉄鋼の投資が止まり、価格競争に負ける複数が重なる姿。多角化と純現金があるので 1 割とした。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
熱処理事業
自動車部品向けの真空浸炭炉など、金属部品を熱処理する炉。EV モータコア・半導体・電池向けにも展開。
| 数量納入する炉の基数(基・推定) | 価格1 基あたりの売上(億円・名目。物価 10 年 1.34 倍が中立) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 122 | 1.50 | 183 | 14 |
| 10 年後 中立 | 125 | 2.01 | 251 | 21 |
取り方:基数は開示されない。炉 1 基の平均売上を 1.5 億円と仮定し、売上 183 億円から約 122 基と推定した(機種で大きく違うので目安)。国内の工業炉市場 2,100 億円に対する中外炉の熱処理分の比率は 9% ほど。売上・利益は決算のセグメント数字(外部と内部の売上を含む)。
プラント事業
鉄鋼向けの連続焼鈍ライン・加熱炉・省エネバーナ・塗布設備など大型設備。
| 数量大型設備・バーナ事業の納入件数(件・推定) | 価格1 件あたりの売上(億円・名目。物価 10 年 1.34 倍が中立) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 30.0 | 4.60 | 138 | 17 |
| 10 年後 中立 | 28.5 | 6.16 | 176 | 18 |
取り方:件数は開示されない。バーナや小型の設備から数十億円規模のラインまで混在するため、1 件の平均売上を 4.6 億円と仮定し、売上 138 億円から 30 件と推定した。2026 年 3 月期は大型案件が重なって計画の 120% で、山の年にあたる。売上・利益は決算のセグメント数字。
開発事業
国のグリーンイノベーション基金などによる、水素・アンモニア燃焼や電気加熱の炉の開発。電気炉ダストのリサイクル設備の拡販。
| 数量開発・受託案件の数(件・推定) | 価格1 件あたりの売上(億円・名目。物価 10 年 1.34 倍が中立) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 20.0 | 0.99 | 20 | −3 |
| 10 年後 中立 | 20.0 | 1.33 | 27 | 1 |
取り方:件数は開示されない。1 件の平均売上を 1 億円弱と仮定し、売上 19.8 億円から 20 件と推定した。基金以外の新規案件の獲得に苦戦しており、営業損益は 2.5 億円の赤字。売上・損益は決算のセグメント数字。
その他・調整(保守・部品・海外子会社)
保守・部品の子会社と中国・メキシコの現地子会社。連結内の取引を消した後の数字。
| 数量保守・部品・現地製造の件数(件・推定) | 価格1 件あたりの売上(億円・名目。物価 10 年 1.34 倍が中立) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 160 | 0.20 | 32 | 0 |
| 10 年後 中立 | 165 | 0.27 | 44 | 1 |
取り方:その他の売上 80 億円から、連結内の取引の消去 48 億円を引いた 32 億円を置いた。1 件の平均売上を 0.2 億円と仮定し、約 160 件と推定。営業利益は子会社 0.3 億円と調整額の合計。
リスクと懸念
自動車の電動化
ギアやシャフトを硬くする真空浸炭炉は、エンジンやトランスミッションの部品が主な用途だ。EV 化が速く進めば、この炉の更新と増設が止まる。モータコアや電池向けの炉は増えるが、規模はまだ小さく、減る分を埋めきれない可能性がある。熱処理事業の大きな部分に関わる、最大の構造リスクだ。
一時益に頼った利益
2026 年 3 月期の純利益 47 億円には、政策保有株の売却益が約 26 億円(税引き前)入っている。売る株が減れば益も細り、純利益は営業利益に近づく。市場が一時益を稼ぐ力と誤解している間は評価が高く出やすいが、先の利益は 25〜30 億円台が現実的な線だ。
大型案件の波
プラント事業は大型案件の完成時期で利益が大きく振れる。2026 年 3 月期の営業利益率 12% は、案件が重なった年の数字だ。受注が計画の 420 億円から 360 億円に下方修正されたように、客先の投資判断の遅れは受注と売上に直結する。部品の納期長期化も、売上計上を遅らせてきた。
価格競争と値決め力
客先は大手の自動車・鉄鋼メーカーで、案件ごとに入札や値引きの要求がある。大同特殊鋼や欧州の大手との競争もある。物価を価格に転嫁できないと、人件費と資材高で利益率が削られる。10 年で物価は 1.34 倍になるため、値上げの定着が成否を分ける。
海外子会社と開発事業の赤字
中国・メキシコの子会社は採算が悪く、その他の事業の利益はほぼゼロだ。開発事業は 2.5 億円の赤字で、国の基金が終われば自前の負担が増える。赤字部門が居座れば、本業の改善を打ち消す。切り離すか、黒字化するかの判断を先送りしないことが要る。
小型株の流動性と再編
時価総額は 265 億円と小さく、株が売買されにくい。買収提案があれば株価は動くが、見込める話は確認できない。逆に、成長策としての M&A を急げば、資本を食う可能性もある。経営ビジョン 2026 の後継計画で、買収に踏み出す場合は価格の規律を確かめたい。
今後の分かれ目
- 自動車向けの熱処理炉の受注が 2 期続けて減ったら
- EV 化の影響が数字に出た合図。やや悲観・悲観の確率を上げる。
- プラント事業の営業利益率が 10% 超で 3 期続いたら
- 大型案件の山ではなく構造の改善とみて、中立の利益率を上げ、楽観側の確率を厚くする。
- 電池・半導体向けの炉の売上が熱処理事業の 2 割を超えたら
- 自動車の減少を埋められると判断してよい。熱処理の数量の前提を上方に直す。
- 自社株買いを毎年実施し、総還元性向 50% を守ったら
- 還元方針が実行された証拠。中立の還元額と倍率の質を上げる。
- 新しい中期経営計画で、ROE の目標が資本コストを明確に上回る水準になったら
- 資本効率の改善が経営の優先課題になった合図。中立の ROE を上げ、倍率を上限寄りに置く。
- グリーンイノベーション基金が終わり、開発事業が赤字のまま残ったら
- 赤字部門の費用が自前になり、利益率の前提を下げる。
見ておくもの
- 四半期ごとの受注高と受注残、熱処理・プラントの内訳
- プラント事業の営業利益率と、大型案件の完成時期
- 電池・半導体・モータコア向けの炉の受注
- 新しい中期経営計画の ROE 目標と還元の数字
- 政策保有株の残高(純資産比)と売却益
倍率と資本コストの決め方
数量は炉の基数・案件数の推定、価格は 1 件あたりの売上の名目値(物価 10 年 1.34 倍が基本)で、今の株価から逆算していない。倍率は利益ベース。事業の ROE が資本コスト 7.75%(基本 7.5% + quality 0.75%)を下回るため、正当化 PER の上限は 1÷k の 12.1 倍で、中立はその 7.8 割の 9.5 倍に置いた。今の PER(直近は売却益込みで 6 倍台)に寄せたわけではない。純現金 63 億円は余った現金に分けなかった。受注残 417 億円の請負で前受金(契約負債)がかなり含まれるとみたが、貸借対照表の内訳は確認しておらず、ここは保守的な置き方で、価値がやや低めに出る側に偏る。政策保有株は配当を純利益に残すので、価値を足していない(二重を避けた)。悲観の床は純現金の 6 割と有価証券の税後で測り、過去の PBR の底は使っていない。新リース会計の影響は小さい。2028 年 3 月期以降の数字の形が変わる点は、今と同じ形でそろえた。減価償却は製造設備が小さく、営業費用の数 % と推定する。物価で一律に増やさず、新設備の分だけ加わる前提で、利益率に織り込んだ。 2026-10-22 の見直し(R1〜R4)で倍率・時価総額を機械で置き直した(前後は notes/audit/fix_stage2_20261022.csv)。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。k = 基本 7.5% + quality 0.75% = 8.25%。理由は quality_why。個別のリスクは k に足さず、筋書きと確率で表した。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 8.25% → 7.75%。