結論
ナカボーテックは、港や橋、パイプラインなどの鉄とコンクリートを腐食から守る防食工事の専業会社である。海の構造物に微弱な電気を流してさびを止める「電気防食」を祖業に持ち、売上の約6割を港湾が占める。筆者の結論は、今の時価総額は中立の見通しより低く、やや割安というものだ。
稼ぎの源は、老朽化する港湾施設の補修と、民間の発電所・タンク・地中配管の防食である。国の港湾の係留施設は2040年に7割が建設後50年を超える。需要は途切れにくい。一方で物価が年3%上がる世界では、売上を200億円に載せる2035年の目標も、数量はほぼ横ばいの計画でしかない。伸びを見込みすぎない。
2026年8月に株主が入れ替わった。筆頭株主の三井金属が持株を手放し、ヒューリックが約2割を取得した。会社も同時に約17億円で自社株を買い、自己資本は約94億円から約69億円へ縮んだ。配当性向70%の方針と合わせると、資本が小さくなる分、ROEは13%前後へ上がる。
中立では10年後に売上約200億円、営業利益約17億円、純利益約12億円。倍率は13倍台と置き、余った現金と10年の還元を足して、今の時価総額122億円を上回る。ただし公共工事への依存と、数量の伸びの乏しさは割り引いて見る必要がある。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、これは「小さいが、仕事の質が確かな会社」である。防食は、止められない仕事だ。港湾の鋼管杭は放っておけばさびて、数十年で使えなくなる。その手当てを75年のデータで正確に行えることが、顧客に選ばれる理由になる。
オーナー利益、つまり株主に自由に残る利益は、純利益に近い。設備投資は年1.7億円と軽く、工事は協力会社に任せるので資産も重くならない。無借金で、現金は事業に要る以上にある。利益の大半を配当と自社株買いに回しており、資本の配り方に迷いは見えない。
気になるのは、成長の質だ。会社は売上を2035年に200億円、2051年に300億円に伸ばすと掲げるが、物価が年3%上がる世界では、200億円は数量が増えない計画に近い。筆者は、「成長」より「今の稼ぎを守りながら余った現金を返す会社」と見る。そう見れば、今の値段は安全域が薄くない。
主要株主の入れ替わりも見ておきたい。三井金属が手を引き、ヒューリックが入った。目的が受注の連携にとどまるのか、将来の子会社化まで視野にあるのかで、少数株主の取り分は変わる。
何で稼ぐ会社か
ナカボーテックの仕事は、鋼構造物とコンクリート構造物の「さび止め」である。設計から施工、維持管理までを一貫して請け負い、防食の材料や装置も自社で作って売る。事業は対象の施設別に、港湾、地中、陸上、その他の4つに分かれる。
港湾は2026年3月期の売上の約59%、88億円を稼ぐ主力だ。岸壁や桟橋、護岸の鋼管杭にアルミ合金の陽極を取り付け、海水中で電流を流してさびを抑える。発注者は国や港湾管理者が中心で、元請けのゼネコンから受ける仕事もある。完成工事高のうち官公庁向けは54.7%、民間向けは45.3%で、10%を超える単独の取引先はない。
地中は、ガス管や水道管などの埋設管の防食で、売上は約31億円。新設は減っており、調査・点検と更新が中心になった。陸上は発電所やタンクなどで約10億円と小さい。その他は約20億円で、橋梁などコンクリート構造物の電気防食(RC電気防食)、防食材料の販売、洋上風力向けが入る。
従業員は282人と少ない。施工の多くは協力会社に任せ、自社は設計・診断・施工管理・材料に集中する。受注残は34億円で、売上のおよそ2か月半分。仕事は年度末の3月に完成が集中し、4〜6月期は赤字になりやすい(2025年・2026年とも赤字)。第1四半期の赤字は季節要因で、通期の判断には使えない。
優良さと弱いところ
この会社の強みは、75年分の防食の実測データと、港湾の電気防食で積み上げた実績である。防食は「やって当たり前、失敗すれば大事故」の仕事で、発注者は新規の業者に任せにくい。コンクリート構造物の電気防食では1986年に土木研究所と実証を始め、国内の先駆けで、シェアも首位という。ここが堀、つまり他社がまねしにくい強みだ。
数字にも出ている。営業利益率は直近12年で8〜10%に収まり、無借金で自己資本比率も7割台と高い。受注の山谷が小さく、赤字の期は過去に見当たらない。ROEは10年の中央値で10%、直近は12.7%だった。
弱みも書いておく。第一に市場が小さい。電気防食の市場の規模は開示がなく、同業の日本防蝕工業などとシェアを分け合う小さな専業だ。第二に、官公庁の予算に左右される。第三に、技能者が足りない。平均年間給与が前年比9%上がったことは、人件費の重さを示す。第四に、鋼構造物が他の素材に置き換わる長期のリスクもある。
経営は、工事の売り切りから、データを使った点検・予測・長期保証に軸足を移す方針だ。筆者は方向として正しいと見る。ただ収益構造が変わるのは時間がかかる。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
防食工事の需要は、老朽化した社会資本の補修から出る。国土交通省によれば、港湾の係留施設は2040年に7割が建設後50年を超える。橋の4割以上もすでに50年を超えた。壊れてから直す事後保全から、傷む前に手当てする予防保全へ政策が動いており、防食の出番は増える。
ただし数量の伸びは小さい。港湾の維持管理は予算と人手に縛られ、2026年4月には国が点検頻度を緩める指針を改めた。施工できる技能者が足りず、「受けたくても受けられない」状態もある。筆者は、港湾の数量は10年で数%の増にとどまると見る。
新しい需要の芽は2つある。1つは洋上風力で、水中部分の防食と保守に電気防食が使える。中期経営計画は、洋上風力関連で3年後に7.5億円の増収を見込む。もう1つは国策・防衛の港湾整備で2億円の増収。いずれも国の政策次第で、遅れやすい。
地中は、埋設管の新設工事が減っているので、調査・点検の省人化で収益を守る分野だ。競合は日本防蝕工業をはじめとする防食専業と、ゼネコン系の防食部門、海外からの防食材料である。値決めの力は強くなく、人件費と材料費の上昇を転嫁できるかが勝負になる。業種ノートに電気防食の節はなく、市場の数量は会社の開示と国の統計で置いた。
資本政策と M&A
還元は配当が中心で、配当性向70%の方針が続く。2026年3月期の配当総額は約8.2億円。2027年3月期は純利益9.2億円の予想に対して配当性向69%を見込み、新しい中期経営計画では「安定配当と機動的な自社株買い」とされた。
2026年8月3日に大きな動きがあった。筆頭株主だった三井金属が持株の約30%を全部手放し、資本技術提携を解消した。20.06%をヒューリックが取得し、会社自身も290,500株を約17.2億円で自社株買いした。ヒューリックは保有する建設会社とのつながりで受注を広げたい意向とされる。取得価格は開示されていない。
自社株買いで自己資本は約17億円減った。2026年3月末の約94億円から、6月に払った配当の約8億円と合わせて、約69億円が今の流れの起点になる。取得した自己株式を消却するかどうかは、開示から確認できなかった。
三井金属が抜けた後の防食材料(陽極)の調達や、技術面の影響は、開示からは読み取れなかった。TOBの可能性は、ヒューリックが22.8%を持つことから、一定程度あるとみる(kabufuの参考値は10年以内17.9%)。ただし価格や意図が不明なので、価値の計算には入れていない。株主優待は実施していない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
防食は止められない仕事で、国の政策も追い風だ。港湾の係留施設は2040年に7割が建設後50年を超え、国は国土強靱化の実施中期計画で補修に20兆円超を投じる。電気防食の技術と75年分のデータを持つ会社は、新規の参入が難しい。
新しい中期経営計画は、洋上風力で3年後に7.5億円、国策・防衛の港湾整備で2億円の増収を見込む。洋上風力は水中の防食と保守が長期の収益になりうる。工事の売り切りから、診断・予測・30年の長期保証へ変われば、売上は積み上がり、営業利益率は10%を超える。会社の目標どおり、2028年に売上165億円、営業利益16.5億円になる。
資本の面でも追い風だ。ヒューリックという事業会社が株主に入り、建設会社の網を通じて受注を取れる。自社株買いで資本は軽くなり、ROEは13%を超える。配当性向70%に自社株買いが乗れば、10年の還元の合計は今の時価総額の7割に迫る。会社が目標に掲げるPER20倍台に近づけば、値は大きく動く。
慎重な見方
売上の伸びが物価に追いつかない。2015年3月期の売上は111億円、2026年3月期は149億円で、11年で34%の増にとどまる。この間に物価が上がった分を考えると、実質の数量は伸びていない。新しい中計の200億円も、物価を載せれば横ばいの計画だ。
港湾は官公庁の予算で動き、国は点検の頻度を緩める方向にある。技能者は足りず、平均給与は前年比9%も上がった。官公庁の入札は価格で決まりやすく、材料と人件費の上昇を全部は転嫁できない。人件費の上昇を転嫁できなければ、営業利益率は8%台から落ちる。洋上風力は遅れやすく、中計の7.5億円の増収は政策次第で消える。
株主の入れ替わりにも不確かさが残る。三井金属は技術提携を解消した。陽極材の調達や技術の支えがどうなるかは開示がない。さらに、2026年8月の自社株買いで自己資本は約17億円減り、財務の余裕は薄くなった。第1四半期は営業赤字で、季節要因とはいえ、公共工事に収益を頼る構造は変わらない。小さな会社が、国の方針転換ひとつで受注を失う怖さも消えていない。
どちらに重みを置いたか
港湾の防食という仕事の質については強い見方に分がある。数量の伸びの乏しさ、公共予算への依存、人件費の上昇については慎重な見方が当たっている。そこで確率は、中立に4割を置き、やや楽観とやや悲観をほぼ同じ重さにした。楽観は洋上風力と長期保証が実を結ぶ道筋に8%、悲観は価格競争と予算の削減に10%を置いた。倍率は式の上限より引き、事業の小ささと公共依存を反映している。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/03 期)
確率で加重した株価時価総額 10,235 円222 億円(+ 配当配当と自社株買いの合計 3,812 円83 億円)。 今の値に割り戻すと 7,769 円168 億円、今との差 +41.3%、 期待の年率 +9.8%(資本コスト 7.2%)→ 割安
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 22,004 円476 億円 | 5,727 円124 億円 | +404.2% | +17.6% | 2,219 円48 億円 |
| やや楽観 | 22% | 14,706 円318 億円 | 4,582 円99 億円 | +250.7% | +13.4% | 4,243 円92 億円 |
| 中立 | 40% | 11,034 円239 億円 | 3,991 円86 億円 | +173.2% | +10.6% | 6,010 円130 億円 |
| やや悲観 | 20% | 3,644 円79 億円 | 2,822 円61 億円 | +17.6% | +1.6% | 1,293 円28 億円 |
| 悲観 | 10% | 970 円21 億円 | 1,848 円40 億円 | −48.8% | −6.5% | 282 円6 億円 |
| 加重平均 | 100% | 10,235 円222 億円 | 3,812 円83 億円 | +155.4% | +9.8% | 14,047 円304 億円 |
今の株価時価総額 5,500 円119 億円(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 7.2% を下回るほど割高。
楽観 8% 知識集約型への転換が実る 利益 22 億円 · PER 21.8 倍 · 株価時価総額 22,004 円476 億円
洋上風力の水中防食と保守が長期契約になり、中計の「工事の売り切り」から「診断・予測・長期保証」への転換が実を結ぶ。港湾でも国策・防衛の拠点整備を受注し、港湾の施工量は今より2割増える。その他の分野は洋上風力、RC電気防食、海外(東南アジアのODA案件)が重なって施工量が2倍強になる。人件費の上昇は協力会社網とROV(遠隔操作の水中ロボット)の活用で吸収し、営業利益率は11%台まで上がる。ヒューリックの建設会社網も受注に効く。ただし単価は物価を少し上回る程度にとどまり、官公庁の入札の価格条件は変わらない。還元は配当性向70%に機動的な自社株買いが乗り、純利益の約8割を株主に返す。
- 港湾(電気防食・被覆防食・港湾RC):数量 420(防食した構造物の面積に相当する施工量(千㎡))× 価格 0.36(1千㎡当たり売上(億円))→ 売上 152 億円・営業利益 24 億円。営業利益率16%
- 地中・陸上(埋設管・発電所・タンクの防食):数量 1,000(工事・点検の件数(件))× 価格 0.06(1件当たり売上(億円))→ 売上 56 億円・営業利益 6 億円。営業利益率10%
- その他(RC電気防食・洋上風力・防食材料の販売):数量 700(施工・販売の案件数(件))× 価格 0.08(1件当たり売上(億円))→ 売上 59 億円・営業利益 8 億円。営業利益率14%
倍率:事業の純利益 21 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 24.2% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 15.7%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 21.8 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 21.8 倍 + 余った現金(戻り方込み)12 億円。全体の PER 21.77 倍、時価総額 476 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:洋上風力の長期契約化と工事の売り切りからの転換が同時に実を結ぶ筋書きで、公共依存の事業では実現の確度が高くない。
やや楽観 22% 中計の目標に近い成長 利益 15 億円 · PER 20.3 倍 · 株価時価総額 14,706 円318 億円
中計の目標(2028年に売上165億円、営業利益率10%)に近い形で進む。洋上風力は遅れながらも立ち上がり、国策・防衛の港湾案件が積み上がる。港湾の施工量は4%増にとどまるが、予防保全のデータを使った提案で単価は物価をやや上回り、営業利益率は15%に届く。港湾は老朽化した岸壁の補修が増え、工事の規模も大きくなる。その他は施工量が6割増え、洋上風力・RC防食・新製品が貢献する。地中・陸上は点検の省人化で採算を守る。全社の営業利益率は9.5%前後で、本社費の物価上昇を吸収しても会社の目標の10%には届かない。株主還元は純利益の約8割で、配当と自社株買いが続く。
- 港湾(電気防食・被覆防食・港湾RC):数量 375(防食した構造物の面積に相当する施工量(千㎡))× 価格 0.35(1千㎡当たり売上(億円))→ 売上 129 億円・営業利益 19 億円。営業利益率15%
- 地中・陸上(埋設管・発電所・タンクの防食):数量 960(工事・点検の件数(件))× 価格 0.05(1件当たり売上(億円))→ 売上 51 億円・営業利益 4 億円。営業利益率8.5%
- その他(RC電気防食・洋上風力・防食材料の販売):数量 520(施工・販売の案件数(件))× 価格 0.08(1件当たり売上(億円))→ 売上 42 億円・営業利益 5 億円。営業利益率12.5%
倍率:事業の純利益 15 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 18.5% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 12.9%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 20.2 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 20.2 倍 + 余った現金(戻り方込み)12 億円。全体の PER 20.25 倍、時価総額 318 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:26中計の目標に近い道筋。老朽化需要は確かで、実現の確度は中程度。
中立 40% 中立:数量は横ばい、物価は価格に載る 利益 12 億円 · PER 19.0 倍 · 株価時価総額 11,034 円239 億円
売上は2036年3月期に約200億円と、会社の2035年目標とほぼ同じになる。物価の上昇を価格に載せられても、数量はほぼ横ばいで、港湾は予算と人手の制約で2〜3%の増、地中・陸上は埋設管の新設減で1割ほど減り、その他だけが3割増える。営業利益率は直近12年の山(10%)に届かず、8%台前半に収まる。本社費や研究開発費も物価で増えるためだ。純利益は約12億円。還元は配当性向70%に自社株買いが少し乗り、純利益の約8割。ヒューリックは受注の連携にとどまり、少数株主の取り分を損なう動きはない。第1四半期の赤字が続く季節性は変わらず、工事の完成は3月に集中する。10年の間に新しい中期経営計画が2回改まり、売上200億円の目標は達成されるが、利益率は目標の10%に届かない。
- 港湾(電気防食・被覆防食・港湾RC):数量 360(防食した構造物の面積に相当する施工量(千㎡))× 価格 0.34(1千㎡当たり売上(億円))→ 売上 121 億円・営業利益 17 億円。営業利益率14%
- 地中・陸上(埋設管・発電所・タンクの防食):数量 930(工事・点検の件数(件))× 価格 0.05(1件当たり売上(億円))→ 売上 48 億円・営業利益 4 億円。営業利益率8%
- その他(RC電気防食・洋上風力・防食材料の販売):数量 430(施工・販売の案件数(件))× 価格 0.08(1件当たり売上(億円))→ 売上 34 億円・営業利益 4 億円。営業利益率11%
倍率:事業の純利益 12 億円(余った現金の利息を除く)・事業の ROE 15.2% が k 7.25% を上回る。残る割合 0.50(moat=normal)で RONIC 11.2%、10 年より先の名目の伸び g 3.7% から正当化 PER = (1−g÷RONIC)÷(k−g) = 19.0 倍の上限そのものに置き、事業の純利益 × 19.0 倍 + 余った現金(戻り方込み)12 億円。全体の PER 19.02 倍、時価総額 239 億円(2026-10-22 機械で置き直した。手で上限から割り引かない:利益の質は moat と k で数え済み)。
確率:数量は横ばいで物価を価格に載せる、最も自然な道筋。会社自身の2035年目標とも近い。
やや悲観 20% 官公庁予算の先送りと人件費高 利益 7 億円 · PER 9.4 倍 · 株価時価総額 3,644 円79 億円
官公庁の補修予算が先送りされ、港湾の施工量は今を下回る。人件費の上昇を価格に載せきれず、単価は物価を下回る上がり方になる。洋上風力は2030年代まで遅れ、中計の増収は実現しない。異業種の参入や海外製の防食材料との競争も強まり、営業利益率は5%台まで下がる。それでも無借金で現金が厚く、赤字にはならない。配当は利益に連動して細り、純利益の75%ほどを返す。自己資本は配当と利益のバランスでほぼ積み上がらず、資本の効率はこれ以上高まらない。港湾の工事は大型化せず、地中・陸上の件数も減るため、固定費の本社費が重くなる。
- 港湾(電気防食・被覆防食・港湾RC):数量 335(防食した構造物の面積に相当する施工量(千㎡))× 価格 0.31(1千㎡当たり売上(億円))→ 売上 104 億円・営業利益 13 億円。営業利益率12%
- 地中・陸上(埋設管・発電所・タンクの防食):数量 840(工事・点検の件数(件))× 価格 0.05(1件当たり売上(億円))→ 売上 40 億円・営業利益 2 億円。営業利益率6%
- その他(RC電気防食・洋上風力・防食材料の販売):数量 360(施工・販売の案件数(件))× 価格 0.07(1件当たり売上(億円))→ 売上 25 億円・営業利益 2 億円。営業利益率8%
倍率:ROE 7.6% は k 7.25% とほぼ同じで、正当化 PER は 13.4 倍。新しく投じる資本の稼ぎが k を超えない筋書きで、官公庁予算の先送りと値崩れが重なるので、上限の 7 割の 9.4 倍に置いた。余った現金は戻り方 1.0 の 0.75 倍(谷で食う分を引く)。
確率:官公庁予算の先送りと人件費の転嫁の失敗は、過去の数量の停滞を見ると十分ありうる。
悲観 10% 構造的に優良さを失う 利益 0 億円 · PBR 0.3 倍 · 株価時価総額 970 円21 億円
構造的に負ける筋書きである。洋上風力が国の方針転換で大きく縮み、港湾でも点検頻度の緩和と予算の削減で補修が先送りされる。海外製の安い防食材料と異業種の参入で値崩れが起き、単価は物価に追いつかず今と同水準にとどまる。技能者を確保できず施工量が3割落ち、固定費の本社費は残って営業利益はほぼゼロになる。三井金属の提携解消で技術・材料の支えも細る。それでも無借金で純現金があり、倒産には至らない。事業の稼ぐ力はほぼなく、価値は純現金のかなりの部分に近い床で測る。自己資本は損失と減損で積み上がらず、配当も数年で止まる。10年の還元の合計は、中立の半分以下にとどまる。それでも会社が消えるわけではなく、港湾の老朽化は進むので、需要は一定程度残る。
- 港湾(電気防食・被覆防食・港湾RC):数量 290(防食した構造物の面積に相当する施工量(千㎡))× 価格 0.26(1千㎡当たり売上(億円))→ 売上 75 億円・営業利益 5 億円。営業利益率7%
- 地中・陸上(埋設管・発電所・タンクの防食):数量 650(工事・点検の件数(件))× 価格 0.04(1件当たり売上(億円))→ 売上 26 億円・営業利益 1 億円。営業利益率3%
- その他(RC電気防食・洋上風力・防食材料の販売):数量 200(施工・販売の案件数(件))× 価格 0.06(1件当たり売上(億円))→ 売上 12 億円・営業利益 0 億円。営業利益率3%
倍率:稼ぐ力はほぼゼロ(純利益 0.3 億円)で、価値は純現金の床で測る。今の自己資本 69 億円ではなく、純現金約 22 億円から預り金・未成工事受入金などの約 2 億円を引いた約 20 億円を床とし、自己資本 70 億円に PBR 0.30 を掛けて約 21 億円に置いた。
確率:洋上風力の縮小と値崩れが重なる構造的な負けは起こりにくいが、小さな専業にとって無視できない確率として置く。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億円。
港湾(電気防食・被覆防食・港湾RC)
岸壁・桟橋・護岸の鋼管杭などに電気防食や被覆防食を施工する主力。国や港湾管理者、ゼネコンから受注する。
| 数量防食した構造物の面積に相当する施工量(千㎡) | 価格1千㎡当たり売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 351 | 0.25 | 88 | 13 |
| 10 年後 中立 | 360 | 0.34 | 121 | 17 |
取り方:2026年3月期の港湾の売上87.7億円を、電気防食の平均的な施工単価の推定(1㎡あたり約2.5万円)で割って施工量を逆算した推定値。面積の開示はない。価格は人件費・材料費の上昇を転嫁できる範囲で、中立は物価並みの1.34倍。営業利益は港湾の採算を14.5%と推定(開示は4区分の売上のみ)。
地中・陸上(埋設管・発電所・タンクの防食)
ガス管・水道管など埋設管と、発電所・タンク等の防食の調査・点検・更新。新設は減り、点検と更新が中心。
| 数量工事・点検の件数(件) | 価格1件当たり売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 1,040 | 0.04 | 42 | 4 |
| 10 年後 中立 | 930 | 0.05 | 48 | 4 |
取り方:地中31.2億円と陸上10.4億円を合算し、1件約400万円と推定して件数を逆算した。件数の開示はない。埋設管の新設減に対し調査・点検が増えるが、件数は10年で1割ほど減るとみる。価格は競争と予算の制約で物価をやや下回る1.30倍。営業利益率は9%と推定。
その他(RC電気防食・洋上風力・防食材料の販売)
橋梁などコンクリート構造物の電気防食(国内首位)、洋上風力向けの防食、防食材料・装置の販売、海外。
| 数量施工・販売の案件数(件) | 価格1件当たり売上(億円) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/03 | 330 | 0.06 | 20 | 2 |
| 10 年後 中立 | 430 | 0.08 | 34 | 4 |
取り方:その他19.8億円を1件約600万円と推定して案件数を逆算した推定値。26中計は洋上風力関連で+7.5億円、装置更新の掘り起こしで+2.5億円、新商品で+1.0億円の増収を見込むので、中立は10年で1.3倍の案件増、価格は1.30倍。営業利益率は12%と推定。
リスクと懸念
公共予算への依存
売上の約55%は官公庁向けで、港湾の維持管理費は国や自治体の予算に縛られる。国土強靱化の計画があっても、他の政策に予算が回れば補修は先送りになる。点検の頻度を緩める国の指針の改定は、防食の需要を薄くする方向にも働く。
技能者不足と人件費
従業員は282人と少なく、施工は協力会社に頼る。平均年間給与は前年比9%上がった。働き手が足りなければ、仕事があっても受けられず、人件費の上昇を価格に転嫁できなければ営業利益率が下がる。
洋上風力の遅れ
中期経営計画は洋上風力関連で3年後に7.5億円の増収を置く。国の洋上風力の入札や建設が遅れれば、この伸びは先送りになる。成長の中心を政策に頼る点が弱みだ。
株主の入れ替わりと提携の解消
三井金属との資本技術提携が解消された。防食材料の調達や技術面への影響は開示から読めない。ヒューリックの取得価格と将来の意図も不明で、少数株主にとって追加の取得や子会社化のどちらもありうる。
競争と材料の高騰
防食専業の同業、ゼネコン系の防食部門、海外から入る防食材料との競争がある。アルミ地金など原材料の高騰を価格に転嫁できないと利益が減る。鋼構造物が他の素材に置き換わると、長期の需要が細る。
自己資本の縮小
2026年8月の自社株買いで自己資本は約17億円減った。事業は無借金で現金も厚いが、公共工事の入金は年度末に偏る。工事の失敗や貸倒れ、不祥事があれば、薄くなった資本でのダメージは大きい。
今後の分かれ目
- 洋上風力関連の受注が中計どおり立ち上がったら
- やや楽観・楽観の確率を上げる。工事の売り切りから長期保証へ転換できているかが目印になる。
- 官公庁の防食予算が削られ、港湾の受注残が減り続けたら
- やや悲観に重みを移す。数量の伸びがなく、価格転嫁も止まる筋書きに近づく。
- ヒューリックが持株を増やす、または公開買付けを示したら
- 価格と条件を見て判断する。価格次第では少数株主の取り分が本質価値を下回る可能性がある。
- 営業利益率が10%を超える年が続いたら
- 知識集約型への転換が実を結んだと見て、中立の営業利益率を上げ、倍率の位置も見直す。
- 自社株買いや増配など、追加の還元が出たら
- 余った現金の戻り方の前提が確かめられる。還元が続くなら、現金の扱いをより厚く見てよい。
- 三井金属の提携解消で材料の調達コストが上がったら
- 営業利益率の前提を下げる。港湾の価格転嫁の力が試される局面になる。
見ておくもの
- 26中計の進捗(売上165億円・営業利益率10%超)
- 受注残高と官公庁向けの比率
- 洋上風力・国策防衛案件の受注開示
- ヒューリックの持株比率と提携の中身
- 平均給与と施工の協力会社の体制
- 自社株買いと配当の追加
倍率と資本コストの決め方
港湾・地中陸上・その他の3つに分け、実質の施工量(面積や件数の推定)×名目の単価で10年を積み上げた。単価は中立で物価並み(港湾1.34倍、地中陸上・その他1.30倍)に置き、数量は中計の売上200億円の目標とほぼ同じになるよう、実質の伸びをほぼ横ばいに抑えた。自己資本は、自社株買い後の69億円から純利益の合計を足し、還元を引いて流した。倍率は正当化PERの7〜8.5割で、今の株価や同業の値付けは見ていない。悲観は純現金に近い床で置いた。店や事務所は賃借と見られるが、リースの約束額は開示から確認できなかった。 2026-10-22 の見直し(溜まる現金を事業の ROE から外す・k の目安を対称に・楽観〜中立は上限そのものに置く・ROE が k 以下は配り方から出す式)で、倍率を機械で置き直した(第 1 段より前 → 今:楽観 PER 17.6→21.77 倍・やや楽観 PER 15.2→20.25 倍・中立 PER 13.4→19.02 倍)。
資本コスト 7.2% = 無リスク金利 3% + β — × 5%。基本 7.5% に quality 0 を足した 7.5%。傾いた事業ではなく上乗せは置かない。 2026-10-22 に循環と借金を過去の数字で付け直し、k は 7.50% → 7.25%。