結論
CNHインダストリアルは、ケースIH、ニューホランドなどのブランドで農業機械と建設機械を世界に販売し、顧客向け金融も手掛ける企業である。筆者の結論は、現在の時価総額約144億ドルは10年先の価値におおむね見合い、適正圏にあるというものだ。農業機械の需要回復には相当の余地があるが、精密農業への投資が高い利益率に結び付くかは、まだ十分に証明されていない。
2025年の売上は181億ドル、純利益は5.1億ドルだった。2023年の純利益22.8億ドルから大きく落ち込んでいる。北米の大型トラクターとコンバインの需要が減り、農家の資金繰り悪化と販売店の在庫削減が重なった。2026年上期も純利益は前年同期比57%減となり、会社は2026年を農機需要の谷と位置付けている。したがって、足元の利益をそのまま10年続く収益力とは考えない。
長期の強みは、機械を売って終わらないことにある。世界の農家は収穫期に機械を止められず、身近な販売店の整備能力、部品供給、機械の耐久性を重視する。ケースIHとニューホランドの販売網には顧客との長い関係があり、精密農業技術を機械と一体で提供できれば、顧客の生産性を高めながら収益を増やせる。ただし、競争相手のディアも自動化と農業データへの投資を続けており、CNHだけが利益を独占できる市場ではない。
中立では2035年の純利益を20.8億ドル、時価総額を243.36億ドル、10年間の正味株主還元を75億ドルと見込む。農機市場の実質成長と物価上昇に加え、販売店在庫の正常化と製造原価の改善が進む姿だ。楽観では精密農業が成功し、農機の営業利益率が17%に達する。悲観ではシェア喪失と信用費用の増加が重なり、2035年の価値は売却可能な資産の価値に近づく。
資本コスト9.0%で5つの筋書きを割り引いた確率加重価値は約144.1億ドルで、基準時価総額との差は約プラス0.3%である。農機の谷からの回復余地は魅力だが、2030年の高い利益率目標を確実な利益として先取りする理由はない。長期保有に値する事業基盤はあるものの、明確な安全域が確認できる状態ではない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、CNHの価値を決めるのは農業機械の必要性ではなく、農家が更新投資を再開した時にどれだけの利益が株主の手元に残るかである。食料生産はなくならず、優れたトラクターとコンバインへの需要も続く。しかし農家は収入が減れば更新を先延ばしできる。景気の谷で利益が急減する事業には、好況期の数字だけを基準に高い値段を払えない。
長く保有する価値があるのは、販売店網と整備・部品の基盤だ。新品の販売が落ちても既存機械は稼働し続けるため、部品と修理の需要は残る。農家が機械の購入先を変える際には、地域の整備体制や下取り価格も考える。この見えにくい乗り換え費用は、機械メーカーにとって本物の競争力である。ただしディアにも同種の強みがあり、CNHの堀だけが広がるとは限らない。
オーナー利益を考える際には、精密農業の研究開発費と設備投資を軽視できない。自動操舵、作物認識、衛星測位は将来の競争に必要だが、必要な投資がそのまま超過利益を生むわけではない。経営陣が約束する2030年の高い利益率は、原価改善と製品競争力の両方が成功して初めて実現する。筆者はその成功の可能性を認める一方、失敗した時の再投資負担も見ておきたい。
もう一つの判断材料は金融子会社である。連結純負債238億ドルの大部分には融資債権という裏付けがあり、すべてを製造業の借金と考えるのは誤りだ。しかし信用損失が増えれば、融資債権の価値は下がり、株主の取り分が減る。売れる機械と回収できる債権を区別したうえで、谷でも残る利益と資産を評価する必要がある。
10年先には利益が回復する可能性が高い。それでも現在の価格に大きな安全域はない。優れたブランドを適正な価格で保有することと、明確に割安な事業を買うことは異なる。CNHは前者に近い。
何で稼ぐ会社か
CNHの事業は農業機械、建設機械、金融サービスの3本柱である。2025年の農業機械売上は123.9億ドルで、全社売上の約68%を占める。ケースIHは大型トラクターやコンバインを中心に大規模農業を支え、ニューホランドは小型から大型まで幅広い農機を扱う。欧州ではシュタイヤーも展開し、耕起、播種、散布、収穫まで農業の一連の工程を対象にしている。
農業機械の販売は約2,300の販売店事業者と5,000を超える販売・サービス拠点が支える。新品のトラクターやコンバインに加え、補修部品、整備、農業機器、精密農業技術が収益源となる。2025年の農業機械売上の地域構成は北米約35%、欧州・中東・アフリカ約37%、南米約16%、アジア太平洋約12%である。北米への依存が高いディアと比べれば地域の分散があるが、複数地域の農業景気が同時に悪化すれば、その強みも薄れる。
建設機械は2025年に29.56億ドルを売り上げた。CASEとニューホランド建設機械、ユーロコマックなどのブランドで、小型ショベル、バックホーローダー、ホイールローダー、クローラードーザーなどを提供する。約400の販売店・販売代理店と約1,700の販売拠点を持つが、世界市場での規模はキャタピラーやコマツより小さい。競争が激しく、2025年の調整後営業利益率は2.3%にとどまった。
金融サービスは2025年に27.2億ドルの収益を計上した。農家や建設会社へのローン、リース、販売店の在庫金融が中心で、2025年末の管理対象金融資産は約286億ドルだった。金融は機械販売を助ける反面、農産物価格の低迷が長引くと延滞や貸倒れが増える。借入金は販売する機械そのものの借金ではなく、融資債権を支える資金調達が大半を占める。
技術投資は農業機械事業の内部で進めている。レイブンの自動操舵、ヘミスフィアの衛星測位、オーグメンタの作物認識技術を自社機械に組み込み、FieldOpsで機械の状態や作業データを管理する。会社は精密農業関連の売上比率を農業機械売上の約5%から2030年に約10%へ高める方針だ。ただし、その多くはセンサーや制御機器を含み、独立した高収益ソフトウェア事業ではない。
優良さと弱いところ
CNHの堀、つまり競争相手が容易に再現できない強みは、世界的なブランド、販売店網、部品供給と整備能力にある。農家にとって収穫期の機械停止は高くつく。販売店が近くにあり、修理に必要な部品と技術者が確保できることは、購入価格の数%の差より大切になる場合がある。この関係は一度築かれると簡単には切れず、既存顧客への更新販売や部品需要につながる。
価格決定力には実績がある。2025年末から2026年にかけて、農機の販売数量が弱い中でも一部地域で値上げ効果を確保した。ただし、販売数量の減少を十分に埋めるほどの力はない。2025年の農業機械の調整後営業利益率は6.2%で、2023年の高収益期から大きく下がった。ディアに比べて規模と精密農業技術の浸透度で劣る部分があり、堀は強固な独占ではなく、競争に耐える販売・サービス基盤と評価する。
資本効率は景気によって大きく変わる。過去10年のROE中央値は18.7%だが、2025年は6.6%だった。成長投資の採算を見る際には、好況期のROEではなく、新しい製品、販売店、技術開発に投じた資金が資本コスト9%を上回る利益を生むかが重要である。中立の2035年にはROE約14.5%を見込むが、これは技術投資と製造効率の改善が一定程度成功する場合の結果である。
懸念は精密農業への投資収益率だ。レイブン買収は技術基盤を獲得した一方、2025年には取得した開発技術の減損が発生した。開発費は目先の利益を圧迫するが、だからといって将来の収益力を過大評価してはならない。センサーや自動運転技術が競争上の必需品にとどまるなら、追加投資の利回りは資本コストに近づく。
主業は物理的な機械とその制御技術であり、人月販売、席課金SaaS、画面操作だけに価値を持つ業務ソフトではない。このためAIエージェント代替の指定業態には該当しない。ただし、農業データや操作画面の部分はAIによって差別化が難しくなる可能性があり、その影響は技術投資の収益率と競争上の地位で評価する。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
農業機械は食料生産に欠かせず、10年後も必要とされる産業である。ただし、必要な産業であることと、機械メーカーの利益が安定することは別だ。農家の機械購入は農産物価格、収入、借入金利、中古機価格、既存機械の年齢に左右される。大型トラクターやコンバインは更新を数年遅らせることができるため、販売数量は景気の山と谷で大幅に変動する。
2025年の北米では140馬力超のトラクター需要が前年比33%減、コンバインが26%減だった。2026年も軟調で、9月の米国トラクター小売販売は前年同月比16.4%減となった。販売店の在庫削減が進む一方、農家の保有機械は古くなっている。2027年以降の回復余地はあるが、農産物価格や農家の借入条件が改善しなければ回復は長引く。
世界の農業機械市場は2025年に約1,870億ドルという外部調査を基準にする。同一の市場定義でCNHの農業機械売上を割ると、売上シェアは約6.6%となる。ディアは約15%、クボタは約9%、アグコは約5%が比較の目安だ。別の2024年市場集計ではCNHのシェアは約8%とされており、市場定義と景気局面による差に注意が必要である。2035年の中立では市場数量の実質成長を年約1.9%、CNHのシェアをほぼ横ばいと見る。
建設機械では2025年の世界上位50メーカーの売上合計が約2,466億ドルに達した。キャタピラーのシェアは約15%、コマツは約11%、徐工は約6%で、CNHは約1.2%にとどまる。CNHには北米と南米の販売店網という強みがあるが、中国メーカーの低価格攻勢や大手の製品開発力には注意が必要だ。中立では対象市場の実質成長を年約1.7%とし、CNHのシェア維持を見込む。
今後の構造変化は、農作業の自動化、精密散布、機械の遠隔監視、環境規制、修理する権利をめぐる制度変更である。自動運転は農家の労働力不足を補い、機械の価値を高めるが、標準化された技術が普及すれば価格競争も起きる。ディア、アグコのPTx、クボタ、クラースとの競争は今後も続く。農業生産がなくなる危険より、必要な技術の開発費が増え、メーカーが追加利益を十分に得られない危険の方が大きい。
資本政策と M&A
資本配分の評価は慎重である。2021年には精密農業企業レイブンを約21億ドルで買収し、2023年には衛星測位企業ヘミスフィアを約1.75億ドルで取得した。オーグメンタの買収も含め、農業機械と制御技術を一体化する方向は合理的だ。ただし、2025年には買収した研究開発資産などの減損が発生しており、過去の買収すべてが高い投資利回りを実現したとは言えない。
還元は景気に合わせて大きく変わる。2023年は配当と自社株買いの合計が約12億ドル、2024年は約13億ドルだったが、2025年は約4.3億ドルへ減少した。2026年第2四半期には約2億ドルを還元している。会社の基本方針は、投資適格の信用力を維持し、事業への投資と負債返済を優先したうえで、産業部門のフリーキャッシュフローの大部分を配当と自社株買いに回すことだ。配当の目安は報告純利益の25〜35%である。
2025年の戦略計画では、2030年に農業機械の景気中立的な調整後営業利益率16〜17%、建設機械7〜8%を目指す。さらに年間5.5億ドル超の原価・品質改善効果と、景気を通じた産業部門の現金創出力25%増を掲げる。2026年8月時点の通期見通しは、農業機械の調整後営業利益率5.0〜5.5%、建設機械1.8〜2.3%、産業部門FCFが2〜4億ドルであり、長期目標との隔たりは大きい。
ガバナンスには特徴がある。エクソールは普通株の約29.6%を保有するが、追加議決権制度によって議決権の約45.5%を握る。特別議決権株は普通株と同等の経済的持分を持つ株式ではないため、時価総額には二重計上しない。経営の長期志向には利点があるものの、少数株主が買収や資本政策に与えられる影響は限定される。現時点でCNH自体について合意済みの非公開化や上場廃止は確認されていない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
農業機械の現在の不振は、構造的な需要消滅ではなく、農産物価格の低迷と販売店在庫の調整による循環の谷である。大型機械の更新を永久に先延ばしすることはできない。2025年の北米大型トラクター需要は大きく落ちたが、農家の保有機械はその間も老朽化している。販売店在庫が正常化し、農産物価格が安定すれば、工場出荷は小売需要の回復以上に増える可能性がある。
CNHは世界に広がるケースIHとニューホランドの販売網を持つ。地域に密着した販売店は部品と整備を提供し、機械が停止する費用を抑える。この関係は単なる機械価格の比較では崩れない。精密農業技術が既存顧客に広がれば、機械の販売価格を高めるだけでなく、更新需要と補修・制御機器の需要を増やせる。
2030年の農業機械の利益率目標は、単なる売上成長の期待ではない。製品構成の改善、品質費用の削減、部品調達の見直し、販売店の再編による具体的な施策がある。精密農業の売上構成比も約5%から約10%へ増やす計画で、成功すれば粗利益率を押し上げる。新しい製品への研究開発費が先行している2026年の低収益を、将来の標準として見るのは悲観的すぎる。
建設機械も規模は小さいが、北米と南米での販売店網を使って成長できる。現在の低い利益率には改善余地が大きく、販売数量の増加と調達効率の向上が重なれば利益は売上以上に増える。金融子会社は機械販売の回復に合わせて融資残高を伸ばし、貸倒れが正常化すれば収益を回復できる。投資規律を守りながら産業部門のFCFを還元すれば、長期株主の取り分も増える。
慎重な見方
最大の弱点は、農業機械が不可欠でも、更新需要の時期は予測しにくいことだ。農家は機械を修理して長く使うことができる。高金利、農産物価格の低迷、関税、農業資材の値上がりが続けば、機械購入に回せる資金は減る。2026年上期の農業機械の調整後営業利益率は3.4%まで落ち込んでおり、2027年から力強く回復する保証はない。
競争相手のディアは大型農機と精密農業の両方で強く、農作業データと自動化の統合も進んでいる。アグコはPTxを通じてメーカーを問わず既存機械に精密農業技術を後付けする戦略を持つ。技術が標準化されれば、CNHが多額の開発費を負担しても、顧客が追加料金を十分に払わない可能性がある。精密農業は利益率改善の源ではなく、競争に残るための費用になりうる。
レイブンなどの買収には既に減損の実績がある。衛星測位、センサー、AIによる画像認識は急速に進歩するため、買収した技術が長期にわたり独占的な価値を持つとは限らない。販売店網も無条件に強いわけではなく、ディアの販売網や中国・インド勢の安価な機械との比較で、地域ごとに競争力が異なる。
連結負債の大半は金融事業に対応しているが、農業景気の悪化は機械販売と金融債権の両方に影響する。2025年末に3.1%だった30日超延滞債権比率は、2026年6月末には4.4%となった。中古機械価格が下落すれば担保価値も減る。さらにエクソールの強い議決権は少数株主の影響力を制限する。利益率が改善しないまま投資と買収を続ければ、帳簿上の自己資本は残っても株主価値の増加は乏しくなる。
どちらに重みを置いたか
需要回復と販売店網の強さには説得力があるが、2030年の利益率目標を確実なものとは扱えない。2026年の低収益と金融債権の延滞増加に加え、精密農業投資の採算が未確定であるため、確率は楽観8%、やや楽観19%、中立34%、やや悲観24%、悲観15%とし、下方側をやや厚くした。これは同じ領域のディアより慎重な配分である。もっとも、金融子会社の借入をすべて製造業の負担と考えて過度に悲観することも避けた。結果として長期の確率加重価値は現在の時価総額とほぼ一致し、適正という結論になる。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 19.13 ドル239 億ドル(+ 還元の換算額還元の合計 5.40 ドル68 億ドル)。 今の値に割り戻すと 11.59 ドル145 億ドル、今との差 −1.4%、 期待の年率 +8.8%(資本コスト 9.0%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 8% | 47.73 ドル597 億ドル | 11.99 ドル150 億ドル | +407.8% | +20.9% | 4.78 ドル60 億ドル |
| やや楽観 | 19% | 32.68 ドル409 億ドル | 8.79 ドル110 億ドル | +252.7% | +15.8% | 7.88 ドル99 億ドル |
| 中立 | 34% | 19.45 ドル243 億ドル | 6.00 ドル75 億ドル | +116.4% | +9.4% | 8.65 ドル108 億ドル |
| やや悲観 | 24% | 7.66 ドル96 億ドル | 2.40 ドル30 億ドル | −14.4% | −1.7% | 2.41 ドル30 億ドル |
| 悲観 | 15% | 4.33 ドル54 億ドル | 1.04 ドル13 億ドル | −54.3% | −8.2% | 0.81 ドル10 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 19.13 ドル239 億ドル | 5.40 ドル68 億ドル | +108.6% | +8.8% | 24.53 ドル307 億ドル |
今の株価時価総額 11.76 ドル147 億ドル(2026-10-30)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 8% 楽観:精密農業が収益を高め、販売店網と原価改革で強い利益率を獲得 利益 43 億ドル · PER 14.1 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 47.73 ドル597 億ドル
2035年には世界の農業機械市場が2025年価格で2,570億ドルに拡大する。食料需要と農業の機械化が進み、実質市場成長は年約3.2%となる。ケースIHとニューホランドは新世代のコンバイン、自動操舵、精密散布で販売シェアを7.45%に引き上げる。平均価格も技術装備の増加によって物価を上回る。農業機械の営業利益率は17%に達し、会社の2030年目標を長期的にも維持する。
建設機械は北米と南米の販売店再編が成功し、市場シェアを1.44%に高める。小型機械と補修部品が伸び、営業利益率は12%となる。金融サービスでは融資資産の実質残高が増え、延滞率は正常化する。ディアやアグコとの競争は続くが、CNHは製品更新と価格競争力を両立する。
連結純利益は2035年に42.5億ドルとなる。2026年の4.5億ドルから2028年15億ドル、2030年25億ドル、2033年37億ドルを経て到達する道筋で、10年間の累計純利益は約257億ドルとなる。配当と自社株買いは株式報酬等を控除した正味で150億ドルに達する。自己資本は184.3億ドルへ増え、機械と技術への再投資を進めながら資本効率を維持する。
- 農業機械:数量 2,570(世界農業機械市場(2025年価格換算、億ドル))× 価格 11.2%(CNHの売上シェア×2025年を1とする平均価格指数)→ 売上 287 億ドル・営業利益 49 億ドル。実質市場2,570億ドル×CNHシェア7.45%×価格指数1.50。精密農業と高馬力機の構成上昇が物価超の価格を支える。
- 建設機械:数量 3,400(世界建設機械メーカー売上市場(2025年価格換算、億ドル))× 価格 2.1%(CNHの売上シェア×2025年を1とする平均価格指数)→ 売上 72 億ドル・営業利益 9 億ドル。市場3,400億ドル×シェア1.44%×価格指数1.47。北米・南米の販売網拡充でシェアを獲得。
- 金融サービス:数量 305(管理対象金融資産残高(2025年購買力換算、億ドル))× 価格 0.13(金融収益率×融資対象資産の名目価格指数)→ 売上 38 億ドル・営業利益 28 億ドル。実質金融資産305億ドル、名目残高約430億ドル、収益率約8.9%。営業寄与は調達利息控除前であり、純利益ではない。
倍率:2035年ROE=42.5÷184.3=23.06%。成長の元手となる自己資本を含む帳簿ROEを採用し、40%超の見かけのROE補正は不要。moat=normal、超過利益の残存割合1/2、k=9.0%からRONIC=16.03%。2035年以降のg=4.0%は世界農機需要の実質成長約0.8%、シェアの小幅上昇、名目価格約3.2%を合成して上限に収めた。来年利益に対する正当化PERを求め、1.04を掛けた2035年利益基準の上限は約15.61倍。高い利益率の持続には競争上の不確実性があるため、上限の約90%となる14.05倍。現在や過去の市場PERは使っていない。
確率:精密農業の製品構成上昇、世界シェアの獲得、2030年の原価改善目標達成、その後の高い利益率維持が重なる筋書き。技術投資と農業景気の両方が味方する必要があるため8%。
やや楽観 19% やや楽観:農機需要が回復し、精密農業と原価削減で利益率が大きく改善 利益 32 億ドル · PER 13.0 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 32.68 ドル409 億ドル
2035年には農業機械の世界市場が2025年価格で2,390億ドルとなる。大型機械の買い替えが進み、CNHのシェアは7.05%へ緩やかに上昇する。精密農業関連の売上構成比が高まり、平均価格は物価をやや上回る。農業機械の営業利益率は15.1%で、2030年目標には届かないものの、2025〜2026年の谷から大きく改善する。
建設機械は販売店再編と部品収益の拡大によってシェアを1.34%へ高める。キャタピラーやコマツとの差は残るが、製品構成の改善によって営業利益率は10.4%となる。金融サービスでは管理債権が拡大し、貸倒れが平常化する。ディアは精密農業の競争相手であり続けるが、CNHの後付け技術と複数ブランドは幅広い農家を取り込む。
純利益は2035年に31.5億ドルへ増える。2026年の4.5億ドルから2028年12億ドル、2030年18億ドル、2033年26億ドルを経て成長し、10年間の累計は約189億ドルとなる。正味株主還元110億ドルを実施しても自己資本は156.3億ドルへ増える。機械の更新需要と価格改善が長く続き、還元と再投資を両立できる姿である。
- 農業機械:数量 2,390(世界農業機械市場(2025年価格換算、億ドル))× 価格 10.2%(CNHの売上シェア×2025年を1とする平均価格指数)→ 売上 244 億ドル・営業利益 37 億ドル。市場2,390億ドル×シェア7.05%×価格指数1.45。精密農業による製品構成改善が価格を支える。
- 建設機械:数量 3,180(世界建設機械メーカー売上市場(2025年価格換算、億ドル))× 価格 1.9%(CNHの売上シェア×2025年を1とする平均価格指数)→ 売上 61 億ドル・営業利益 6 億ドル。市場3,180億ドル×シェア1.34%×価格指数1.43。販売店再編と調達改善が寄与。
- 金融サービス:数量 277(管理対象金融資産残高(2025年購買力換算、億ドル))× 価格 0.13(金融収益率×融資対象資産の名目価格指数)→ 売上 35 億ドル・営業利益 25 億ドル。実質金融資産277億ドル、名目残高約390億ドル、収益率約9.0%。調達費用は純利益への変換段階で控除。
倍率:2035年ROE=31.5÷156.3=20.15%。moat=normal、残存割合1/2、k=9.0%、RONIC=14.58%。長期g=4.0%は成熟後の市場数量約0.8%、シェア維持、価格約3.2%の名目成長から設定。2035年利益基準の正当化PER上限は約15.09倍。精密農業の競争と循環の山谷を考慮し、上限の約86%となる12.98倍を採用。
確率:2027年以降に販売店在庫が正常化し、原価改革と新製品の成果が表れる展開。会社の長期計画にかなり近いが、シェア拡大と利益率改善の両立が必要なため19%。
中立 34% 中立:更新需要と物価で売上は伸びるが、利益率は会社目標を下回る 利益 21 億ドル · PER 11.7 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 19.45 ドル243 億ドル
2035年には農業機械市場が2025年価格で2,260億ドルとなる。実質需要は年約1.9%成長し、CNHのシェアは6.65%とほぼ横ばいである。10年間の物価上昇によって平均価格は約1.41倍になり、農業機械売上は約212億ドルとなる。販売店在庫の調整は終わるが、技術投資や品質改善の費用も続くため、営業利益率は13.3%にとどまる。
建設機械は世界市場の実質成長に沿って売上を伸ばすが、シェアは1.2%のままだ。中国メーカーの価格攻勢が続き、営業利益率は7.7%となる。金融サービスでは融資資産が名目約362億ドルとなり、貸倒れは通常の景気循環に伴う水準に戻る。自動化と精密農業は製品の競争力を守るが、ディアとの競争で超過利益は一部しか残らない。
純利益は2026年の4.5億ドルから2030年14億ドル、2033年19億ドル、2035年20.8億ドルへ増える。期間累計は約141.3億ドルで、正味還元75億ドルを差し引くと自己資本は143.6億ドルとなる。成長に必要な投資を続けながら、利益の約半分を株主へ還元できる姿だ。2025年の低い純利益からは大きく回復するが、会社が掲げる最良の収益力が常態化するわけではない。
- 農業機械:数量 2,260(世界農業機械市場(2025年価格換算、億ドル))× 価格 9.4%(CNHの売上シェア×2025年を1とする平均価格指数)→ 売上 212 億ドル・営業利益 28 億ドル。実質市場2,260億ドル×シェア6.65%×価格指数1.41。数量の成長と物価を分け、シェア獲得はほぼ見込まない。
- 建設機械:数量 2,930(世界建設機械メーカー売上市場(2025年価格換算、億ドル))× 価格 1.7%(CNHの売上シェア×2025年を1とする平均価格指数)→ 売上 50 億ドル・営業利益 4 億ドル。実質市場2,930億ドル×シェア1.20%×価格指数1.41。利益率は会社の2030年目標7〜8%の範囲。
- 金融サービス:数量 257(管理対象金融資産残高(2025年購買力換算、億ドル))× 価格 0.13(金融収益率×融資対象資産の名目価格指数)→ 売上 34 億ドル・営業利益 24 億ドル。2025年購買力での金融資産257億ドル、名目約362億ドル、収益率約9.3%。融資債権の質と調達費用を別途考慮。
倍率:2035年ROE=20.8÷143.6=14.48%。過去の中央値18.7%を下回り、買い戻しによる見かけの高ROEを仮定していない。moat=normal、残存割合1/2、k=9.0%、RONIC=11.74%。長期g=3.75%は農機の成熟後の実質市場成長約0.5%、CNHのシェアほぼ横ばい、価格上昇約3.25%から決め、業界全体の高成長を永久化しない。来年利益の正当化PERを2035年利益基準に直した上限は約13.45倍。循環の谷、技術開発費、価格競争を考慮し上限の約87%となる11.70倍を採用した。金融子会社の債務を全額製造業の負債として二重に扱わない。
確率:農業機械の長期需要は実質年2%弱で成長し、シェアはほぼ一定とする。会社の原価改善策は一部成功するが、ディアやアグコとの競争で2030年の高い利益率目標は完全には実現しない。最も起こりやすい筋書きとして34%。
やや悲観 24% やや悲観:農機の回復が弱く、精密農業の投資負担と価格競争が残る 利益 10 億ドル · PER 9.2 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 7.66 ドル96 億ドル
2035年になっても世界の農業機械市場は緩やかな回復にとどまり、2025年価格で2,070億ドルとなる。CNHは大型機械と精密農業でディアに後れを取り、シェアは5.75%まで下がる。価格は10年間で約1.31倍にとどまり、物価上昇を十分に転嫁できない。販売数量が伸びにくい一方で研究開発費と販売店支援費が残り、農業機械の営業利益率は8.5%となる。
建設機械では中国メーカーとの競争が厳しく、シェアは約0.97%まで低下する。利益率は2.7%にとどまり、2025年の不振から十分に抜け出せない。金融サービスは融資資産の実質残高が減り、南米を中心とした延滞と信用費用の高止まりで収益性が低下する。部品と整備が下支えになるため事業は続くが、高い超過利益を生む企業とは言いにくくなる。
2035年の純利益は9.5億ドルとなる。2026年の4.5億ドルから2030年8億ドル、2035年9.5億ドルへ緩やかに増えるだけで、10年間の累計純利益は約72.5億ドルとなる。配当と自社株買いは正味30億ドルに抑えられ、自己資本は119.8億ドルとなる。残る自己資本に見合う利益が十分ではなく、経営は還元より採算の低い技術投資の整理と信用力の維持を優先する。
- 農業機械:数量 2,070(世界農業機械市場(2025年価格換算、億ドル))× 価格 7.5%(CNHの売上シェア×2025年を1とする平均価格指数)→ 売上 156 億ドル・営業利益 13 億ドル。市場2,070億ドル×シェア5.75%×価格指数1.31。ディアとアグコに対する競争力の低下を数量側に反映。
- 建設機械:数量 2,660(世界建設機械メーカー売上市場(2025年価格換算、億ドル))× 価格 1.3%(CNHの売上シェア×2025年を1とする平均価格指数)→ 売上 35 億ドル・営業利益 1 億ドル。市場2,660億ドル×シェア0.97%×価格指数1.34。値上げが原価上昇に追いつかず利益率が低い。
- 金融サービス:数量 226(管理対象金融資産残高(2025年購買力換算、億ドル))× 価格 0.13(金融収益率×融資対象資産の名目価格指数)→ 売上 29 億ドル・営業利益 19 億ドル。実質金融資産226億ドル、名目約319億ドル、収益率約9.0%。信用費用と調達利息が純利益を圧迫。
倍率:2035年ROEは9.5÷119.8=7.93%で、資本コスト9.0%を下回る。したがって正当化PERの上限は1÷k=11.11倍。成熟後の市場数量の成長が弱く、シェアと実質価格が低下するためg=2.5%とした。再投資による価値の増加を見込めず、構造的な競争劣位を考慮して9.20倍を採用した。中立の11.70倍より低い。
確率:農業景気の谷が長引き、ディアとアグコが技術面で優位に立つ展開。販売店網は残るが、シェアと利益率が弱くなる。2026年上期の低収益と信用費用増加を踏まえ24%。
悲観 15% 悲観:大型農機と精密農業で競争に敗れ、資産を守る経営へ縮小 利益 2 億ドル · PBR 0.7 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 4.33 ドル54 億ドル
2035年には農業機械市場が2025年価格で1,830億ドルに縮小し、CNHのシェアは5.0%まで低下する。ディアの自動化技術とアグコの後付け精密農業技術が普及し、CNHは価格を引き上げても顧客を維持しにくくなる。精密農業への投資は利益率を高められず、取得技術の追加減損も発生する。農業機械の営業利益率は4.7%となり、高い研究開発負担と固定費が残る。
建設機械では競争力がさらに低下し、シェアは0.85%まで落ちる。中国メーカーとの競争や販売店網の縮小で部門利益はほぼゼロとなる。金融サービスでは融資残高が縮小し、中古機械価格の下落が貸倒れと担保回収損失を増やす。事業を継続できる規模は残るが、追加投資に高い利回りを期待できない。
2026年の純利益4.5億ドルの後、2027年は約5億ドルの赤字、2028年は約9億ドルの赤字となる。2029年にも約2億ドルの赤字が残り、2030〜2034年は年3〜4億ドル程度へ回復するが、2035年の純利益は2.4億ドルにとどまる。この間の減損と整理費用を含む累計純利益は約9.9億ドルである。正味還元13億ドルを実施し、自己資本は約74.2億ドルとなる。
この状態での株主価値は、利益の永久成長ではなく、金融債権と製造事業の売却可能価値に近い。金融債権の信用損失、販売店や設備の売却費用、技術資産の減損を考慮する。非効率な事業を整理して資本を守ることが最優先となり、かつての高ROE企業としての評価は失われる。
- 農業機械:数量 1,830(世界農業機械市場(2025年価格換算、億ドル))× 価格 6.1%(CNHの売上シェア×2025年を1とする平均価格指数)→ 売上 112 億ドル・営業利益 5 億ドル。市場1,830億ドル×シェア5.0%×価格指数1.22。市場縮小とシェア喪失が重なり、実質価格も大幅に弱い。
- 建設機械:数量 2,350(世界建設機械メーカー売上市場(2025年価格換算、億ドル))× 価格 1.1%(CNHの売上シェア×2025年を1とする平均価格指数)→ 売上 25 億ドル・営業利益 0 億ドル。市場2,350億ドル×シェア0.85%×価格指数1.25。低価格競争と固定費負担で採算はほぼゼロ。
- 金融サービス:数量 195(管理対象金融資産残高(2025年購買力換算、億ドル))× 価格 0.11(金融収益率×融資対象資産の名目価格指数)→ 売上 22 億ドル・営業利益 13 億ドル。実質金融資産195億ドル、名目約275億ドル、収益率約8.1%。延滞と信用損失が増え、金融純利益は大幅に縮小。
倍率:2035年ROEは2.4÷74.2=3.23%で、資本コスト9.0%を大きく下回る。永久成長の利益倍率を使うと資産の処分価値を十分に表せないため、悲観の床となる回収可能資産を基準にPBR0.73倍とした。2035年自己資本74.2億ドルに対する0.73倍は54.17億ドルである。これは今の自己資本77.3億ドルに対する約0.70倍にも相当する。過去の市場PBRの安値は根拠にしていない。
確率:長期の農業不況に技術投資の失敗、シェア低下、金融債権の悪化が重なる構造的な負け筋。景気の谷だけでなく競争力の低下が10年続く必要があるため15%。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
農業機械
ケースIH、ニューホランド、シュタイヤーのトラクター、コンバイン、農業機器、補修部品と精密農業技術。世界の農業機械市場とCNHの売上シェアから数量を測る。
| 数量世界農業機械市場(2025年価格換算、億ドル) | 価格CNHの売上シェア×2025年を1とする平均価格指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1,870 | 6.6% | 124 | 8 |
| 10 年後 中立 | 2,260 | 9.4% | 212 | 28 |
取り方:2025年の農業機械売上123.90億ドルはCNHの2025年10-Kにある会社開示値。世界市場はGlobal Market Insightsの2025年推計1,869億ドルを丸めた1,870億ドルを使用した。売上シェアは123.90÷1,870=6.63%で、価格指数は1.0。別集計の2024年世界市場1,700億ドルとCNH売上140.07億ドルではシェア約8.2%となるため、基準年と対象範囲の差を認識している。2025年製品別構成はトラクター約60%、コンバイン約21%、その他約19%。会社は総出荷台数と平均販売単価を網羅的に開示していないため、製品別構成と世界市場規模から実質数量を再構成した。2025年の部門調整後EBITは7.72億ドルで、op_okuには約7.7億ドルを使用。競合の売上シェアはディア約15%、クボタ約9%、アグコ約5%が目安。市場調査出典:https://www.gminsights.com/industry-analysis/farm-equipment-market
建設機械
CASE、ニューホランド建設機械、ユーロコマックの小型・中型建機、道路・土工用機械と補修部品。世界の建設機械売上市場とCNHのシェアで数量を測る。
| 数量世界建設機械メーカー売上市場(2025年価格換算、億ドル) | 価格CNHの売上シェア×2025年を1とする平均価格指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 2,466 | 1.2% | 30 | 1 |
| 10 年後 中立 | 2,930 | 1.7% | 50 | 4 |
取り方:2025年の建設機械売上29.56億ドルはCNHの10-Kにある会社開示値。世界市場の比較には2026年に公表されたKHLのYellow Tableを用い、上位50メーカーの2025年売上合計2,466億ドルを基準数量とした。この集計は全世界の厳密な最終需要ではなく主要メーカー売上の代理指標である。CNHの比較上のシェアは約1.20%。キャタピラー15.2%、コマツ約11%、徐工約5.8%、ディア約5.4%と比べる。製品別には軽建機が約6割、重建機が約4割であり、機種別台数と平均単価は網羅的に開示されない。部門調整後EBITは2025年0.68億ドル。出典:https://www.equipmentworld.com/market-pulse/article/15827092/worlds-largest-construction-equipment-manufacturers-in-2025
金融サービス
農家、建設会社、販売店向けのローン、リース、在庫金融。管理対象金融資産の実質残高と利息・手数料等の収益率で売上を組み立てる。
| 数量管理対象金融資産残高(2025年購買力換算、億ドル) | 価格金融収益率×融資対象資産の名目価格指数 | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 286 | 0.10 | 27 | 20 |
| 10 年後 中立 | 257 | 0.13 | 34 | 24 |
取り方:2025年末の管理対象金融資産286億ドルと2025年金融サービス収益27.2億ドルはCNH開示値。286億ドルには非連結共同事業の管理資産も含まれるため、収益率9.51%は連結純利回りではなく収益規模を組み立てるための代理値である。金融サービスの純利益は2025年3.33億ドル。op_okuの19.5億ドルは、添付factsの連結営業利益27.9億ドルと産業部門の開示をつなぐための、調達利息・全社費控除前の推計寄与額であり、会社が開示した金融部門営業利益ではない。金融の資金調達費用は連結利益の別段階に含まれるため、将来も金融部門の高い見かけ上の営業利益率をそのまま株主利益とは扱わない。将来のvolumeは2025年購買力換算とし、貸出対象機械のインフレをpriceへ移す。金融は貸出資産・利回り・延滞率・貸倒れの順に検算する。
リスクと懸念
農業景気の谷が想定以上に長引く
大型農機の更新需要は農産物価格と農家の資金繰りに左右される。2025年には北米の大型トラクターとコンバインの市場数量が大幅に減り、2026年上期も低収益が続いた。農産物価格の低迷、高い借入金利、肥料や燃料の価格上昇が重なれば、機械の更新はさらに先延ばしされる。生産削減と販売店在庫の調整が続けば、固定費負担で利益率の回復が遅れる。
ディアとアグコへの技術競争上の敗北
ディアは大型農機と自動化で強く、アグコはPTxを通じて既存機械への技術導入を進めている。CNHが精密農業に投資しても、センサーや自動操舵が標準装備になれば、その費用を価格に十分転嫁できない。特に農業データと制御ソフトの価値が競合の共通規格へ移ると、機械とソフトを一体で売る戦略の優位性が薄れ、研究開発投資の増分利回りが資本コストを下回る恐れがある。
金融子会社の信用費用と担保価値の下落
2026年6月末の30日超延滞債権比率は4.4%となり、2025年末の3.1%から悪化した。農家の収入減少と中古農機価格の低下が同時に起きると、貸倒れの増加だけでなく担保の処分損も発生する。金融子会社の借金には貸出債権が対応するが、回収不能になれば株主の取り分が減る。連結純負債の大きさだけを見るのではなく、債権の質と金融子会社の自己資本を継続的に確認する必要がある。
2030年の利益率目標と現実の隔たり
会社は2030年に農業機械の景気中立的な調整後営業利益率16〜17%、建設機械7〜8%を目指す。しかし2026年の農業機械の通期利益率見通しは5.0〜5.5%にすぎない。原価削減だけでなく、販売数量の回復、精密農業の製品構成上昇、販売店網の効率化が必要である。目標を達成できなければ2035年の利益は中立想定を下回り、株主への還元余力も小さくなる。
買収した精密農業技術の投資回収
レイブンの買収には約21億ドルを投じ、その後も衛星測位やセンサー技術の買収を続けた。2025年には取得した開発技術や少数持分投資の減損が発生した。技術の内製化は競争力を強める可能性があるが、開発期間の長期化や製品価格の低下によって投資回収が遅れる危険もある。追加買収を成長の前提にせず、既存の技術資産がどれだけ利益を生むかで評価する必要がある。
エクソールの議決権と少数株主
エクソールは普通株約29.6%の経済的持分に対し、特別議決権株によって約45.5%の議決権を持つ。長期的な戦略を進めやすい反面、少数株主が大型買収、経営陣の選任、配当政策に与えられる影響は限られる。特別議決権株を通常の経済的持分として時価総額に加えるべきではないが、資本配分の決定権が集中することは、株主価値を評価するうえで独立した注意点となる。
関税、修理規制、販売店網の変化
農業機械には多くの国の部品と生産拠点が関係し、関税や物流費の変化が製造原価に影響する。製品価格への転嫁が遅れれば利益率は下がる。また、農家が独立した整備業者や自分で修理する権利を広げる制度変更は、メーカーと系列販売店の補修部品収益を圧迫する可能性がある。販売店の統合も、地域サービスを改善できなければ顧客離れにつながる。
今後の分かれ目
- 2027〜2028年に北米の大型農機販売が回復し、販売店在庫が平常水準へ戻る
- 農業機械の販売数量と工場稼働率が改善し、やや楽観の確率を引き上げる。売上増加が利益率の改善に結び付くかを確認する。
- 農業機械の調整後営業利益率が2030年に15%を超え、精密農業売上比率も10%に近づく
- 原価改善と技術投資の成果が確認されるため、楽観とやや楽観の確率を高める。ただし研究開発費と買収償却を除外した利益だけでは判断しない。
- 農業機械の世界シェアが6%を割り、ディアやアグコへの販売流出が数年間続く
- 景気循環ではなく構造的な競争力低下の可能性が強まる。中立の数量を引き下げ、やや悲観・悲観の確率を高める。
- 金融子会社の30日超延滞債権比率が5%を超えた状態で高止まりする
- 金融債権の回収リスクと中古機械価格の下落を再評価する。金融純利益と悲観の資産床を下げ、資本還元の持続性を厳しく見る。
- 建設機械の調整後営業利益率が7〜8%まで回復し、売上シェアも上がる
- 建設機械が利益と現金創出の独立した柱になる。やや楽観側の営業利益を増やすが、売上規模が小さいため全社への寄与を過大に評価しない。
- 精密農業関連の追加買収で大きな減損が発生し、取得技術の商用化が遅れる
- 増分投資利益率が資本コストを下回る可能性を高め、農業機械の利益率と長期のRONICを下方修正する。買収による売上増を有機的な成長とは扱わない。
- 産業部門のFCFが回復しても、自社株買いが増えず純負債の削減が優先される
- 短期の還元額は小さくなるが、負債削減によって将来の利払い負担が下がるかを確認する。回収できる現金価値の増加と、株主への正味還元の減少を区別する。
見ておくもの
- 北米140馬力超トラクターとコンバインの小売販売台数、前年比の回復率
- CNHと販売店の完成品在庫、工場出荷と最終小売販売の差
- 農業機械の地域別売上、価格実現、調整後営業利益率
- 精密農業関連の売上比率、技術開発費、追加減損
- 建設機械の市場シェアと営業利益率、補修部品収益
- 金融子会社の管理対象資産残高、30日超延滞率、貸倒引当金
- 産業部門の純負債とFCF、配当・自社株買いから株式報酬を控除した正味還元
- ディア、アグコ、クボタとの製品競争、精密農業の後付け技術の普及
- 2030年に向けた年間5.5億ドル超の原価・品質改善計画の実現状況
倍率と資本コストの決め方
最初に2025年の農業機械123.9億ドル、建設機械29.56億ドル、金融サービス27.2億ドルを確認し、各事業について市場規模・シェア・実質数量・名目価格を分けた。農業機械は世界市場1,870億ドルから実質数量を、建設機械は主要メーカーの世界売上市場2,466億ドルから数量を推計した。金融サービスは管理対象資産残高と収益率で組み立て、調達利息を株主利益から控除した。
2035年の利益は設備稼働率、精密農業の採用、販売店網、原価改革によって決め、現在の株価や過去の市場PERを起点にしていない。中立のROE約14.5%、k=9.0%、g=3.75%、moat=normalからRONICを求めた正当化PER上限は約13.45倍で、利益の質を考慮した11.70倍を採用した。楽観とやや楽観も同じ方法で上限の7〜10割の範囲に収めた。悲観は稼ぐ力が著しく低いため売却可能資産の床を重視する。
金融子会社の負債と、設備を作る事業の借金を混同しないことが最大の点検事項である。2026年6月末の会社開示では産業部門純負債約25億ドル、金融部門純負債約208億ドルである。全社の連結純負債だけで企業価値を押し下げたり、金融事業の見かけの営業利益率を普通の製造業利益率として高く評価したりしない。2026年上期の弱さも反映した結果、確率加重価値が現時点の時価総額とほぼ一致したが、現在の市場評価に合わせるために数量、利益率、確率、倍率を逆算していない。
資本コスト 9.0% = 無リスク金利 5% + β — × 5%。基本8.0%+quality1.0%=9.0%。同じ領域のディアとキャタピラーの8.5%、パッカーの8.8%より高い。農機への集中、景気の谷での利益変動、精密農業での競争上の地位を反映する。ただし個別の技術投資失敗、ガバナンス、貸倒れ増加は追加の資本コストで二重に罰せず、数量、利益率、確率で扱った。現時点で継続企業としての存続を疑う状態ではなくextraは0。