結論
ADP は世界 140 か国で給与計算・人事・福利厚生・人事代行(PEO)を提供し、米国の民間労働者のおよそ 6 人に 1 人の給与を処理する。2026 年 6 月期の売上は 219 億ドル、純利益は 44 億ドル。筆者の結論は割高で、堀の厚さは認めるが、1 人あたり課金という売り方が AI エージェントに揺さぶられる分を数量と倍率に反映した。
売上の 7 割は給与・人事ソフト(ES)。ここは給与税の申告や各州の法対応、米国の給与データの 6 分の 1 という独自の蓄積を持ち、記録の正本の側面が強い。一方で課金は従業員 1 人あたりで、AI で事務職の雇用が減れば数量が落ちる席型の面もある。そこで ES は記録の正本と席の混合として数量を今の0.90倍、価格を1.28倍(物価 1.41 倍に届かない)に置いた。PEO は保険と給与の立て替えが中心で数量0.92倍、預かり資金の運用収入は賃金の名目の伸びで残高が増える前提で置いた。
中立の売上は今の1.17倍の257億ドル、純利益は50.7億ドル。g は ES のうち独自データと法対応の 2 つの証拠がある部分の利益比で0.7%、k は基本 8.0% に寿命の上乗せ+0.50%で8.50%、倍率は12.4倍となった。やや悲観と悲観の確率は合わせて35%。本質価値は 539億ドル、今の時価総額 1,165億ドル に対して-54%で、評価は割高。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、給与処理は法令と税務に結びつき、10 年後も存在する可能性は高い。堀は、給与税の申告と州ごとの法対応、米国の給与データの 6 分の 1 の蓄積という 2 点に絞って認める。定着率 92% は、解約率 5% 未満の水準ではないので、それ以上の堀の根拠には使わない。
オーナー利益は純利益 44 億ドルのうち再投資が 1 割前後。ただし預かり資金の運用収入は金利に連動する借り物の利益で、課金の形そのものも AI で変わりうる。成長に払える倍率には上限があり、式の12.4倍にとどめた。
本質価値は 539億ドル で、今の時価総額 1,165億ドル に対して-54%。事業の質は高いが、1 人あたり課金が 10 年後も続く確信は持てない。確かな堀の部分にだけ長く続く値上げを認め、残りには高い値を払わない。
何で稼ぐ会社か
ADP の収益は大きく 3 つに分けられる。第 1 は「給与・人事ソフトと代行(Employer Services)」で、売上のおよそ 7 割。クライアントの従業員数に応じて 1 人あたりの月額料金を受け取る。給与計算、税務申告、勤怠、福利厚生の管理、採用・育成などを束ね、中小企業向けは「ラン」、中堅向けは「ワークフォース・ナウ」、大企業向けは「ヴァンテージ」と「ライリック(Lyric)」で売る。2025 年に買収したワークフォース・ソフトウェア(Workforce Software)で、勤怠・人員配置の大企業向けを強めた。
第 2 は PEO(職務代行・共同雇用)。ADP が顧客企業の従業員を法的に雇用し、給与・保険・福利厚生・労務リスクをまとめて引き受ける。売上には立て替える給与・保険の費用が含まれるため売上は大きいが利益率は低く(ほぼ 1 桁)、本分析では売上=従業員数(約 77.5 万人)×1 人あたり売上で置いた。PEO の保険(労災・医療)は不況でも請求が出るため、利益のぶれの元になる。
第 3 は預かり資金の運用収入。給与として払う前、税金として納める前のクライアントの資金を ADP が預かり、短期から中期の債券で運用する。平均残高は約 410 億ドル、運用収入は 2027 年 6 月期に 15.4〜15.6 億ドルの見通し。コストがほぼゼロなので、この収入は営業利益に直接入る。
ADP は子会社で借入をして預かり資金の一部を運用するため、財務の姿(自己資本 60 億ドル・ROE 73%)は、自社株買いの累積と合わせて、一般の企業とは違って見える。純有利子負債は 13 億ドルとわずか。
優良さと弱いところ
堀は 3 つある。第 1 は切り替えの費用。給与は 1 回でも間違えられず、税務・保険・福利厚生のデータと結びつくので、顧客は競合の料金が安くても移りにくい(定着率 92%)。第 2 は規模。米国の給与データの 6 分の 1 を持ち、不正・税務・賃金の統計を使った分析で、小さな競合には作れない付加価値を付ける。第 3 は値上げの力。毎年 3〜4% の料金改定が通り、物価 3.5% の世界では売上がほぼ自動で伸びる。
資本効率は高い。営業利益率は 26%、設備投資(開発費の資産計上を含む)は売上の 3% 台で、利益の大半が現金で残る。ROE の 73% は自己資本が小さいことの反映で、実際の資本効率は「投下資本利益率」で見ても 30% 前後の高さ。経営はマリア・ブラック氏(2023 年 10 月から最高経営責任者)の下で、買収は小口(ワークフォース・ソフトウェアなど)に絞り、大型買収は避けてきた。資本配分の評価は高い。
弱いのは 4 点。(1) 数量が従業員数の雇用に連動し、景気後退で目減りする。(2) 料金体系が 1 人あたり課金のため、AI で人手が減る世界では、課金の仕組みそのものが問われる。(3) 預かり資金の運用収入は金利と賃金に連動し、10 年国債が動かなくても、短期金利の変動で振れる。(4) PEO は利益率が低く、保険の請求で利益率が 1 ポイント単位で動く。事業の質は高いが、10 年後も今の形で課金できるかは 5 年前より不確かになった。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
給与・人事の市場は、雇用の伸び(年 0.5〜1.5%)と 1 人あたり料金の値上げ(年 3〜4%)で、年 4〜6% の名目成長が続いてきた。米国の給与処理は ADP とペイチェックス(Paychex)が最大手で、ペイチェックスは 2025 年にペイコー(Paycor)を買って中堅向けを厚くした。大企業向けはワークデイ(Workday)・オラクル・UKG、中小向けはギュスト(Gusto)・ラミープロ(Rippling)・ペイコム(Paycom)・ペイロール(Paylocity)などが争う。
循環の位置は、雇用の伸びが鈍る局面。米国の中小企業が先に人を減らしており、2027 年 6 月期の見通しでは賃金の伸びが鈍り、預かり資金の残高の伸びも小さくなる。定着率も 10〜30bp 下がる見込みで、会社の売上見通し(+5〜6%)は前年より低い。
構造の変化は AI。AI が給与・人事の問い合わせや設定を代わりにこなすなら、ソフトの利用者数(1 人あたり課金)に頼る料金モデルの価値が揺らぐ、というのが 2026 年の売りの理由。一方で、給与は法規制・税務・保険・不正対応と結びつくため、AI が置き換えるのは画面操作で、責任を持つ処理の仕組みではない、という見方もあり、ADP は「ADP アシスト」などで自社に取り込んでいる。
ギュスト・ラミープロのような新しい競合は、中小の新規を取る力は強いが、中堅以上の移行や PEO の保険まで束ねる力は ADP・ペイチェックスに及ばない。価格競争は零細で進み、中堅・大企業では緩い。
【AIエージェント代替】AI エージェントは給与・人事の画面操作を置き換え、従業員 1 人あたり課金の根拠を弱める。給与税の申告と法対応は残るため、市場全体が名目 4〜6% で伸びるという前提は ADP の個別評価では採らず、ES の数量を今の0.90倍に置いた。
資本政策と M&A
還元は配当と自社株買い。2026 年 6 月期は配当 26 億ドル、自社株買い 21 億ドルで、合計 47 億ドルは純利益 44 億ドルを少し上回る。株数は年 1% 前後減り、配当は半世紀を超えて増え続けている。株式報酬で増える株の分を引いた正味の還元は、純利益の 9 割台後半とみる。
M&A は小口。2025 年のワークフォース・ソフトウェア(約 12 億ドル)が最大級で、大型買収はしていない。ADP が買われる側になる可能性は、時価総額 1,165 億ドルでは現実的でない。逆に、ペイチェックスの株価が下がった局面で ADP が買う側に回る可能性も、独占禁止法と ADP 自身の姿勢から低い。
資本配分の注意点は、自社株買いの値段。今の PER 26 倍前後の買い戻しは、この会社の質に見合う範囲で、割高な買い戻しとは言えない。財務は、預かり資金の借入を除けば純有利子負債 13 億ドルと軽く、金利が上がっても借り換えの影響は小さい。
【還元の置き方】10 年の還元は純利益の累計の約 95% と置いた(配当性向が高く自社株買いも続ける会社。残り5%は小型買収)。残らない分は、伸びが止まる中立の筋書きでは成長に回す元手が要らないため返す。株式報酬は GAAP の純利益ですでに費用として引いている。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
ADP の事業は AI に置き換えられるのではなく、AI で強くなる。給与は間違いが許されず、税務・保険・労務・不正対応と結びつくため、AI が画面操作を代行しても、責任を負う処理の主体として ADP を使い続ける。米国の給与データの 6 分の 1 を持つ ADP は、AI を訓練し、賃金の統計や不正検知に使う点で、新しい競合より有利。ADP アシストと「ライリック」の導入は、1 人あたりの料金を上げる材料になる。
数量も底堅い。米国の雇用は景気後退を除き伸び、PEO の従業員は +2%、新規成約は +6% と伸びる。利益率は費用の整理と AI での効率化で毎年 0.7〜0.9 ポイント上がる、と会社が見ている。預かり資金は賃金の上昇で残高が増え、運用収入は金利が横ばいでも伸びる。利益の 9 割台が株主に戻るため、年 8〜10% の利益の伸びと還元を合わせて資本コストを大きく超える。
ペイチェックスの株価が下がった今は、ADP の質の高さが相対的に見えやすい。10 年後の純利益が 97 億ドルまで伸び、PER 32 倍(上限の内側)なら 3 兆ドル強の時価総額になりうる。
慎重な見方
今の PER は 26 倍だが、成長は名目で 5〜6% しかない。k − g が 3.3% しかなく、倍率が高めに付く計算の前提は、成長が下がらないこと。AI で人事の問い合わせや設定が自動化されると、1 人あたり課金の根拠が崩れ、ギュスト・ラミープロのような新しい競合は料金を下げて中小の新規を取る。定着率はすでに 10〜30bp の低下を見込んでいる。
数量は雇用に連動し、景気後退では従業員数が 5〜6% 減る(2008〜2010 年の経験)。さらに、AI で人員が減る世界では、顧客の従業員数自体が伸びなくなる。PEO は利益率が低く、保険の請求で利益が動く。預かり資金の運用収入は、短期金利の低下と賃金の伸びの鈍化で減る。これは費用のかからない「借り物の利益」で、利益の質は見た目ほど高くない。
10 年後に AI 向けの課金(使用量課金)に切り替わると、1 人あたり料金が下がり、営業利益率は 20% 台へ戻りうる。その時の PER は 16〜21 倍で、時価総額は今を大きく下回る。 AI エージェントが設定と問い合わせを肩代わりし、1 人あたり課金が使用量課金に移ると、数量と単価が同時に下がる。雇用の減りが重なれば預かり資金も細る。
どちらに重みを置いたか
強気は法対応と独自データの堀、定着率 92% を言い、慎重は 1 人あたり課金の崩れを言う。どちらも一理あり、堀のある ES の一部にだけ g を認め、席の面は数量の減りと価格の鈍りで引いた。やや悲観と悲観を合わせて35%とし、堀の強さは k の寿命(+0.75%)を記録の正本寄りの下限にとどめて反映した。結論は割高。
10 年後の 5 つの筋書き(2036/12 期)
確率で加重した株価時価総額 145.04 ドル585 億ドル(+ 配当配当と自社株買いの合計 104.50 ドル421 億ドル)。 今の値に割り戻すと 133.65 ドル539 億ドル、今との差 −56.6%、 期待の年率 −2.1%(資本コスト 8.5%)→ 割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 7% | 187.75 ドル757 億ドル | 123.73 ドル499 億ドル | +1.1% | +0.1% | 21.80 ドル88 億ドル |
| やや楽観 | 20% | 172.33 ドル695 億ドル | 117.78 ドル475 億ドル | −5.8% | −0.6% | 58.02 ドル234 億ドル |
| 中立 | 38% | 156.21 ドル630 億ドル | 111.58 ドル450 億ドル | −13.0% | −1.4% | 101.76 ドル410 億ドル |
| やや悲観 | 23% | 127.80 ドル515 億ドル | 100.42 ドル405 億ドル | −25.9% | −3.0% | 52.49 ドル212 億ドル |
| 悲観 | 12% | 72.33 ドル292 億ドル | 56.53 ドル228 億ドル | −58.2% | −8.3% | 15.46 ドル62 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 145.04 ドル585 億ドル | 104.50 ドル421 億ドル | −19.0% | −2.1% | 249.54 ドル1,006 億ドル |
今の株価時価総額 307.94 ドル1,242 億ドル(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 7% AI を取り込み、課金を成果型へ移して売上を保つ 利益 61 億ドル · PER 12.4 倍 · 株価時価総額 187.75 ドル757 億ドル
ADP アシストなど AI を自社の機能に取り込み、課金を成果や使用量に移しながら売上を維持する筋書き。AI を単体の売り物にした売上の開示はまだ無いので、ES の数量は今の1.00倍が上限。価格は1.34倍。預かり資金は賃金の伸びで残高が増える。売上は296億ドル、純利益は60.9億ドル。 内訳は給与・人事ソフトと代行=数量1.00倍・価格1.34倍・利益率26.4%、PEO=数量1.00倍・価格1.34倍・利益率4.6%、預かり資金の運用収入=数量1.45倍・価格0.98倍・利益率100.0%。 この筋書きの確率は7%。結果は、売上が今の1.35倍の296億ドル、営業利益80.2億ドル、純利益60.9億ドル、自己資本86.0億ドル、10年の正味の還元499億ドル、時価総額757億ドル(PER12.4倍)。
- 給与・人事ソフトと代行(Employer Services):数量 40.0(処理する従業員数(百万人))× 価格 5.29(1 人あたり年間売上(億ドル ÷ 百万人。3.95 は 395 ドル))→ 売上 212 億ドル・営業利益 56 億ドル。数量1.00倍・価格1.34倍・営業利益率26.4%(人月と記録の正本の混合)
- PEO(共同雇用・人事代行):数量 0.8(PEO の従業員数(百万人))× 価格 81(1 人あたり年間売上(億ドル ÷ 百万人。60.6 は 6,060 ドル))→ 売上 63 億ドル・営業利益 3 億ドル。数量1.00倍・価格1.34倍・営業利益率4.6%(現場・運用益など(AI の影響が小さい))
- 預かり資金の運用収入:数量 595(預かり資金の平均残高(億ドル))× 価格 0.04(運用の利回り(比率))→ 売上 21 億ドル・営業利益 21 億ドル。数量1.45倍・価格0.98倍・営業利益率100.0%(現場・運用益など(AI の影響が小さい))
倍率:10年より先の名目の伸びg=0.70%(記録の正本の部分だけ物価並みの値上げが続く。利益の加重)の正当化PER:事業のROE30.0%、RONIC=k+0.67×(ROE−k)=22.8%、(1−g÷RONIC)÷(k−g)=12.4倍。純利益はGAAP(株式報酬は費用)。AIエージェント代替はgと別に数量・k・確率へ入れ済みで、PERの上に割引は重ねない。
確率:AI を自社の売り物にして売上が立つ開示がまだ無く、楽観でも数量は今を超えない。7%。
やや楽観 20% 法対応の堀が効き、数量の減りが緩やか 利益 56 億ドル · PER 12.4 倍 · 株価時価総額 172.33 ドル695 億ドル
給与税の申告や州ごとの法対応が AI でも外に出せず、ES の数量は今の0.95倍まで。値上げは続くが物価には届かず1.32倍。売上は278億ドル、純利益は55.9億ドル。 内訳は給与・人事ソフトと代行=数量0.95倍・価格1.32倍・利益率25.7%、PEO=数量0.96倍・価格1.34倍・利益率4.4%、預かり資金の運用収入=数量1.38倍・価格0.97倍・利益率100.0%。 この筋書きの確率は20%。結果は、売上が今の1.27倍の278億ドル、営業利益73.6億ドル、純利益55.9億ドル、自己資本85.0億ドル、10年の正味の還元475億ドル、時価総額695億ドル(PER12.4倍)。
- 給与・人事ソフトと代行(Employer Services):数量 38.0(処理する従業員数(百万人))× 価格 5.21(1 人あたり年間売上(億ドル ÷ 百万人。3.95 は 395 ドル))→ 売上 198 億ドル・営業利益 51 億ドル。数量0.95倍・価格1.32倍・営業利益率25.7%(人月と記録の正本の混合)
- PEO(共同雇用・人事代行):数量 0.7(PEO の従業員数(百万人))× 価格 81(1 人あたり年間売上(億ドル ÷ 百万人。60.6 は 6,060 ドル))→ 売上 60 億ドル・営業利益 3 億ドル。数量0.96倍・価格1.34倍・営業利益率4.4%(現場・運用益など(AI の影響が小さい))
- 預かり資金の運用収入:数量 566(預かり資金の平均残高(億ドル))× 価格 0.04(運用の利回り(比率))→ 売上 20 億ドル・営業利益 20 億ドル。数量1.38倍・価格0.97倍・営業利益率100.0%(現場・運用益など(AI の影響が小さい))
倍率:10年より先の名目の伸びg=0.70%(記録の正本の部分だけ物価並みの値上げが続く。利益の加重)の正当化PER:事業のROE30.0%、RONIC=k+0.67×(ROE−k)=22.8%、(1−g÷RONIC)÷(k−g)=12.4倍。純利益はGAAP(株式報酬は費用)。AIエージェント代替はgと別に数量・k・確率へ入れ済みで、PERの上に割引は重ねない。
確率:法対応と独自データの堀が効く筋書き。ADP は同業より厚く 20%。
中立 38% 給与の堀は残るが、席の数量と値上げ余地が縮む 利益 51 億ドル · PER 12.4 倍 · 株価時価総額 156.21 ドル630 億ドル
雇用の伸びが止まり、AI で事務職が減る中で、ES の席の数量は今の0.90倍。毎年の値上げは物価に届かず1.28倍にとどまる。PEO は数量0.92倍、利益率4.3%。預かり資金は残高1.28倍だが利回りは緩やかに低下。売上は257億ドル、営業利益は66.7億ドル、純利益は50.7億ドル。 内訳は給与・人事ソフトと代行=数量0.90倍・価格1.28倍・利益率25.2%、PEO=数量0.92倍・価格1.30倍・利益率4.3%、預かり資金の運用収入=数量1.28倍・価格0.96倍・利益率100.0%。 この筋書きの確率は38%。結果は、売上が今の1.17倍の257億ドル、営業利益66.7億ドル、純利益50.7億ドル、自己資本84.0億ドル、10年の正味の還元450億ドル、時価総額630億ドル(PER12.4倍)。
- 給与・人事ソフトと代行(Employer Services):数量 36.0(処理する従業員数(百万人))× 価格 5.06(1 人あたり年間売上(億ドル ÷ 百万人。3.95 は 395 ドル))→ 売上 182 億ドル・営業利益 46 億ドル。数量0.90倍・価格1.28倍・営業利益率25.2%(人月と記録の正本の混合)
- PEO(共同雇用・人事代行):数量 0.7(PEO の従業員数(百万人))× 価格 79(1 人あたり年間売上(億ドル ÷ 百万人。60.6 は 6,060 ドル))→ 売上 56 億ドル・営業利益 2 億ドル。数量0.92倍・価格1.30倍・営業利益率4.3%(現場・運用益など(AI の影響が小さい))
- 預かり資金の運用収入:数量 525(預かり資金の平均残高(億ドル))× 価格 0.04(運用の利回り(比率))→ 売上 18 億ドル・営業利益 18 億ドル。数量1.28倍・価格0.96倍・営業利益率100.0%(現場・運用益など(AI の影響が小さい))
倍率:10年より先の名目の伸びg=0.70%(記録の正本の部分だけ物価並みの値上げが続く。利益の加重)の正当化PER:事業のROE30.0%、RONIC=k+0.67×(ROE−k)=22.8%、(1−g÷RONIC)÷(k−g)=12.4倍。純利益はGAAP(株式報酬は費用)。AIエージェント代替はgと別に数量・k・確率へ入れ済みで、PERの上に割引は重ねない。
確率:席の数量が縮み、値上げが物価に届かない中心の筋書き。38%。
やや悲観 23% AI エージェントが設定と問い合わせを代行し、課金が崩れる 利益 42 億ドル · PER 12.4 倍 · 株価時価総額 127.80 ドル515 億ドル
AI エージェントが給与の設定・問い合わせ・勤怠の処理を代行し、顧客が 1 人あたり課金の根拠を疑う。ES の数量は0.83倍、価格は1.24倍へ。中小企業の定着率も下がる。売上は228億ドル、純利益は41.5億ドル。 内訳は給与・人事ソフトと代行=数量0.83倍・価格1.24倍・利益率22.7%、PEO=数量0.85倍・価格1.26倍・利益率3.9%、預かり資金の運用収入=数量1.12倍・価格0.94倍・利益率100.0%。 この筋書きの確率は23%。結果は、売上が今の1.04倍の228億ドル、営業利益54.6億ドル、純利益41.5億ドル、自己資本82.0億ドル、10年の正味の還元405億ドル、時価総額515億ドル(PER12.4倍)。 10年の純利益の累計は426億ドル(起点の純利益から最終年へ、毎年ほぼ一定の率または幅で動く道筋で積んだ)で、自己資本は今に累計を足して還元を引いた。
- 給与・人事ソフトと代行(Employer Services):数量 33.1(処理する従業員数(百万人))× 価格 4.90(1 人あたり年間売上(億ドル ÷ 百万人。3.95 は 395 ドル))→ 売上 162 億ドル・営業利益 37 億ドル。数量0.83倍・価格1.24倍・営業利益率22.7%(人月と記録の正本の混合)
- PEO(共同雇用・人事代行):数量 0.7(PEO の従業員数(百万人))× 価格 76(1 人あたり年間売上(億ドル ÷ 百万人。60.6 は 6,060 ドル))→ 売上 50 億ドル・営業利益 2 億ドル。数量0.85倍・価格1.26倍・営業利益率3.9%(現場・運用益など(AI の影響が小さい))
- 預かり資金の運用収入:数量 459(預かり資金の平均残高(億ドル))× 価格 0.03(運用の利回り(比率))→ 売上 16 億ドル・営業利益 16 億ドル。数量1.12倍・価格0.94倍・営業利益率100.0%(現場・運用益など(AI の影響が小さい))
倍率:10年より先の名目の伸びg=0.70%(記録の正本の部分だけ物価並みの値上げが続く。利益の加重)の正当化PER:事業のROE30.0%、RONIC=k+0.67×(ROE−k)=22.8%、(1−g÷RONIC)÷(k−g)=12.4倍。純利益はGAAP(株式報酬は費用)。AIエージェント代替はgと別に数量・k・確率へ入れ済みで、PERの上に割引は重ねない。
確率:AI が画面操作を肩代わりして課金が崩れる筋書き。23%。
悲観 12% 使用量課金への移行で単価が下がり、雇用減も重なる 利益 24 億ドル · PER 12.2 倍 · 株価時価総額 72.33 ドル292 億ドル
使用量課金への移行で単価が下がり、景気後退で雇用も減る。ES の数量は0.65倍、価格は1.15倍、利益率は15.1%まで落ちる。預かり資金の残高も減る。売上は167億ドル、純利益は24.0億ドル。それでも給与税の申告という責任を持つ処理は残るので、赤字にはならない。 内訳は給与・人事ソフトと代行=数量0.65倍・価格1.15倍・利益率15.1%、PEO=数量0.66倍・価格1.17倍・利益率2.6%、預かり資金の運用収入=数量0.95倍・価格0.90倍・利益率100.0%。 この筋書きの確率は12%。結果は、売上が今の0.76倍の167億ドル、営業利益31.6億ドル、純利益24.0億ドル、自己資本153億ドル、10年の正味の還元228億ドル、時価総額292億ドル(PER12.2倍)。 10年の純利益の累計は320億ドル(起点の純利益から最終年へ、毎年ほぼ一定の率または幅で動く道筋で積んだ)で、自己資本は今に累計を足して還元を引いた。
- 給与・人事ソフトと代行(Employer Services):数量 25.9(処理する従業員数(百万人))× 価格 4.55(1 人あたり年間売上(億ドル ÷ 百万人。3.95 は 395 ドル))→ 売上 118 億ドル・営業利益 18 億ドル。数量0.65倍・価格1.15倍・営業利益率15.1%(人月と記録の正本の混合)
- PEO(共同雇用・人事代行):数量 0.5(PEO の従業員数(百万人))× 価格 71(1 人あたり年間売上(億ドル ÷ 百万人。60.6 は 6,060 ドル))→ 売上 36 億ドル・営業利益 1 億ドル。数量0.66倍・価格1.17倍・営業利益率2.6%(現場・運用益など(AI の影響が小さい))
- 預かり資金の運用収入:数量 390(預かり資金の平均残高(億ドル))× 価格 0.03(運用の利回り(比率))→ 売上 13 億ドル・営業利益 13 億ドル。数量0.95倍・価格0.90倍・営業利益率100.0%(現場・運用益など(AI の影響が小さい))
倍率:10年より先の名目の伸びg=0.70%(記録の正本の部分だけ物価並みの値上げが続く。利益の加重)の正当化PER:事業のROE15.7%、RONIC=k+0.67×(ROE−k)=13.3%、(1−g÷RONIC)÷(k−g)=12.1倍。純利益はGAAP(株式報酬は費用)。AIエージェント代替はgと別に数量・k・確率へ入れ済みで、PERの上に割引は重ねない。
確率:使用量課金と景気後退が重なる筋書き。堀が厚いので 12% にとどめ、やや悲観と合わせて35%。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
給与・人事ソフトと代行(Employer Services)
従業員数に応じた 1 人あたり料金の給与計算・人事・勤怠・福利厚生のサービス。
| 数量処理する従業員数(百万人) | 価格1 人あたり年間売上(億ドル ÷ 百万人。3.95 は 395 ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/12 | 40.0 | 3.95 | 158 | 41 |
| 10 年後 中立 | 36.0 | 5.06 | 182 | 46 |
取り方:ADP は米国で民間労働者のおよそ 6 人に 1 人(約 2,600 万人)、世界で約 4,000 万人の給与を処理すると推定した。売上 158 億ドルは、全社の売上 220 億ドルから PEO(47)と預かり資金の運用収入(15)を引いた残り。営業利益 40.6 億ドルは、全社の営業利益 58 億ドルから運用収入(15)と PEO(2.4)を引いた残りで、利益率 25.7%(本社費・開発費を含めた値)。10 年の価格は、物価(1.41 倍)に、上位製品への移行と AI の付加サービスで 10 年 +6% を上乗せし、1.49 倍と置いた。 【AIエージェント代替の見直し】ES は記録の正本と席課金の混合。給与税の申告・州ごとの法対応・米国の給与データの 6 分の 1 という蓄積(独自データ・法対応の 2 つの開示)がある部分は堀として g を +1.0% にしたが、従業員 1 人あたりの課金は AI で事務職の雇用が減れば数量が落ちる。数量は中立で0.90倍、価格は物価 1.41 倍に届かない1.28倍(記録の正本の 1.15〜1.34 倍の中位)。
PEO(共同雇用・人事代行)
顧客企業の従業員を雇用し、給与・保険・労務を束ねて引き受ける。立替の費用を含む売上が大きく利益率は低い。
| 数量PEO の従業員数(百万人) | 価格1 人あたり年間売上(億ドル ÷ 百万人。60.6 は 6,060 ドル) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/12 | 0.8 | 61 | 47 | 2 |
| 10 年後 中立 | 0.7 | 79 | 56 | 2 |
取り方:PEO の従業員数は 77.5 万人(+2%、業界ノート)。売上 47 億ドルは立て替える給与・保険を含む総額で、営業利益率は 5% 前後(2026 年 4〜6 月期に −1 ポイント)と置いた。価格は物価並みの 1.41 倍(10 年 85.4)。 【AIエージェント代替の見直し】PEO は従業員を共同雇用して保険・給与を立て替える業務で、利益率が低く AI の影響は限られる。数量は中立で0.92倍、価格(保険の立て替えを含む)は1.30倍。
預かり資金の運用収入
給与・税金として払うまでのクライアントの資金を預かり、債券で運用する収入。費用がほぼゼロで営業利益に直結する。
| 数量預かり資金の平均残高(億ドル) | 価格運用の利回り(比率) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2026/12 | 410 | 0.04 | 15 | 15 |
| 10 年後 中立 | 525 | 0.04 | 18 | 18 |
取り方:平均残高 約 410 億ドル(業界ノート)に利回り 3.66% を掛けて 15 億ドル(2027 年 6 月期の見通し 15.4〜15.6 億ドルと整合)。短期金利は 3.5〜4% で動かさないため、利回りは 3.5% 前後で置く。残高は賃金の伸びで増える(10 年で 1.55 倍)。 【AIエージェント代替の見直し】預かり資金の運用収入。AI の影響は直接受けないが、残高は賃金の名目の伸びで増え、雇用の減りで鈍る。中立で残高1.28倍、利回りは緩やかに低下する0.96倍。
リスクと懸念
AI エージェント代替(1 人あたり課金の崩れ)
ADP の ES は従業員 1 人あたりで課金する席型の面を持つ。AI エージェントが給与の設定や問い合わせ、勤怠の処理を代行すれば、画面操作を前提にした席の根拠が弱まり、使用量課金へ移る過程で数量と単価が同時に下がりうる。給与税の申告と法対応は残るので、中立の売上は今の1.17倍、悲観では0.76倍と置いた。
AI による課金モデルの置き換え
AI が給与・人事の設定や問い合わせを代行し、1 人あたり課金の根拠が弱まる。使用量課金へ移ると、数量が減る一方で単価が下がり、利益率が 20% 台へ戻りうる。ADP は AI を自社に取り込んでいるが、課金の形が変わる速さは読めない。
雇用の減少と景気後退
数量は顧客の従業員数に連動する。景気後退で米国の雇用が 6% 減れば、ES の売上は 1 割弱落ち、PEO と預かり資金も同時に減る。中小企業の廃業で定着率も下がる。ADP の株価はリーマンで −29% と浅かったが、今の倍率なら下げ幅は大きくなる。
預かり資金の運用収入の変動
運用収入は営業利益の 25% 前後を占める。短期金利の低下と賃金の伸びの鈍化が重なると、残高も利回りも減り、利益が減る。本分析は金利を動かさないが、投資家の見方では、この収入は質の低い利益として割り引かれる。
新興・大手との競争
ギュスト・ラミープロは中小の新規を取り、ワークデイは大企業を取る。ペイチェックスはペイコーの買収で中堅を厚くした。料金の値下げ競争が中堅へ広がれば、年 3〜4% の値上げが通らなくなる。価格が物価に届かなくなると、売上の伸びがそのまま利益率の悪化につながり、倍率の縮みと重なる。
PEO の利益率と保険の請求
PEO は売上が大きく利益率が 1 桁で、労災・医療の請求で利益が 1 ポイント単位で動く。2026 年 4〜6 月期は利益率が 1 ポイント下がった。不況では請求が増え、利益が消える。PEO は売上の 2 割強を占めるため、売上の伸びを高く見せるが、利益への寄与は小さく、全社の利益率を見かけ上押し下げる。
定着率の低下と顧客の質
2027 年 6 月期は定着率が 10〜30bp 下がる見込み。中小の廃業と新興への乗り換えが重なると、定着率が 90% を下回り、新規成約で補えなくなる。顧客を失うと数量だけでなく、同じ顧客に重ね売りする付加価値サービスの売上も同時に失う。
今後の分かれ目
- ADP が給与処理の課金を使用量課金へ切り替え、1 人あたり売上が 2 年続けて下がったら
- 価格の筋書きが下振れ、やや悲観・悲観の確率を上げる。倍率も 3〜4 倍下げて見る。
- 米国の雇用が 2 四半期続けて減り、中小企業の定着率が 90% を下回ったら
- 悲観が近づく。ただし赤字にはならず、谷の PER 18 倍前後が床。
- ADP アシストやライリックの導入で、1 人あたり売上が物価を超えて伸び、定着率が 92% 台を保ったら
- 価格が楽観側へ寄る。楽観・やや楽観の確率を上げてよい。
- 短期金利が大きく下がり、預かり資金の利回りが 3% を割ったら
- 運用収入が年 3〜4 億ドル減り、純利益が 5〜6% 下がる。本分析は金利を動かさないが、悲観寄りに見る。
- ペイチェックス・ワークデイが大型の買収で ADP の中堅・大企業の顧客を取り始めたら
- シェアの筋書きが下振れる。やや悲観の確率を上げる。
- 株価が下がって PER が 20 倍前後まで下がったら
- 中立の本質価値を大きく下回る局面で、安全域が付く。自社株買いの価値も上がる。
- AI 機能が単体の売上として開示され、1 人あたり売上が物価を超えて 2 年伸びたら
- 課金の移行が成功している合図。楽観の数量を今の 1.0 倍より上で見直し、記録の正本の割合を増やす。
- 給与処理の課金を使用量課金へ切り替え、1 人あたり売上が 2 年続けて下がったら
- AI による席の崩れが始まった合図。ES の数量を中立の{es_base_vm:.2f}倍より下げ、g の +1.0% の根拠も見直す。
見ておくもの
- 米国の雇用統計と、ADP の PEO 従業員数・定着率・新規成約
- 1 人あたり売上(価格)と課金の形(使用量課金への移行)
- 営業利益率(毎年 0.7〜0.9 ポイントの拡大が続くか)
- 預かり資金の平均残高と利回り(短期金利との関係)
- ペイチェックス・ワークデイ・ギュスト・ラミープロの伸びと料金
- 自社株買いの額とその時の PER
- AI 機能の売上の金額開示と、1 人あたり売上・使用量課金への移行
倍率と資本コストの決め方
今の時価総額 1,165億ドル や過去の PER 26 倍は見ずに、ES・PEO・預かり資金の 3 つで数量(ES 0.9 倍)と価格(物価に届かない 1.28 倍)を置いた。倍率は正当化 PER = (1 − g ÷ RONIC) ÷ (k − g)、k は基本 8.0% + 値決め −0.25% + 寿命 0.75% =8.50%、g は ES の独自データと法対応の 2 つの証拠がある部分の利益比で0.7%、RONIC は k + 2/3 ×(ROE − k)。AI 代替は数量・価格に主に入れ、k・確率(悲観側35%)・g に重ねていない。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 5% + β 0.86 × 5%。k = 基本 8.0% + quality 0.50% = 8.50%(β は使わない)。景気の感応・借金は 0。値決めは元の評価(−0.5)の半分の −0.25%(1 人あたり課金の揺らぎは価格 1.28 倍にすでに入れたので、k では重ねない)。寿命は、記録の正本の +0.5〜1.0 と席型の +1.0〜1.5 の間の +0.75%。個別のリスクは k に足さず筋書きと確率で表した。