結論
ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)は、米国内の宅配(2025 年の売上 595 億ドル)、国際の宅配(186 億ドル)、サプライチェーン・ソリューションズ(貨物フォワーディング・物流・医薬品物流、106 億ドル)を持つ世界最大の宅配会社で、2025 年は売上 887 億ドル、営業利益 79 億ドル(調整後 87 億ドル、9.8%)、純利益 56 億ドルだった。
2025 年は大きな転換の年だった。最大顧客のアマゾンの荷物を 18 か月で半分に減らし(日量で約 200 万個、採算の低い荷物)、約 3 万人の人員と 45 か所の建物を整理して約 45 億ドルの費用を落とした。2026 年 4〜6 月期に削減を完了し、米国内の 1 個あたり収入は +9.3%、通年の売上見通しは 912 億ドル、調整後営業利益は約 86.5 億ドルへ引き上げられた。ただし米国内の日量は 2025 年に 8.6% 減り、2026 年も減っており、数量は縮んでいる。
最大の論点は 2 つある。第 1 に、アマゾンが 2026 年 5 月に自前の貨物・宅配網を他社へ開放し(アマゾン・サプライチェーン・サービス)、宅配が 2 社の寡占でなくなったこと。第 2 に、組合(チームスターズ)の契約が 2028 年に満了し、人件費とストライキが不確実なこと。
バリュー投資の観点では、事業は 10 年後も存在し、価格を物価以上に上げる力もあるが、堀は線路のような独占ではなく、規模と密度の優位が競合に削られ続ける。10 年の数量 × 価格で積み、利益ベースの正当化 PER の上限の 7.5 割(10 年の中立は 13.8 倍)で倍率を置くと中立の価値は今の時価総額を上回るが、アマゾンなどに数量を取られる筋書きに 5 割前後の確率を置いても、総合はやや割安と出る。ただし配当(年 54 億ドル)が FCF で賄えない年があり、減配の可能性は残る。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、UPS は「10 年後も存在するが、今より強いとは限らない」事業である。荷物は消えず、網の密度と企業向けの信頼は残る。だが堀は規模の優位であり、土地を持つ鉄道のような独占ではない。アマゾンは自前の網を持ち、顧客でも競合でもあり、他社へ開放を始めた。堀は広がるより、削られないよう守るものだと見る。
オーナー利益(再投資を引いた後の利益)は純利益に近い。設備投資が減価償却を下回り、成長に要る元手が小さいからで、2025 年の FCF 55 億ドルは純利益 56 億ドルとほぼ同じである。ただ配当をほぼ全部出しており、余裕はない。
経営は、アマゾンの荷物を削る決断を実行し、費用を 45 億ドル落とした点は資本配分として評価できる。一方、組合の契約と減配の観測は不確実性を足す。
安全域は、中立で利益が 2025 年の約 1.9 倍の 107 億ドルまで戻れば一定ある(10 年の中立の倍率は 13.8 倍で、今の純利益の 15 倍より低い)。ただしその幅は、アマゾンに数量を奪われる筋書きの確率を 5 割前後置いても残る。確信度は事業については中程度で、価格の力と費用削減の持続を確かめられるまでは、悲観の確率を厚めに置いた。
何で稼ぐ会社か
売上は 3 つに分かれる。米国内の宅配(米国内 小包。2025 年 595 億ドル・調整後営業利益率 7.7%)は日量 1,751 万個を、約 50 万人の従業員(うち約 33 万人がチームスターズ組合員)で配る。企業から消費者へ送る荷物と、企業間の荷物があり、中小企業の荷物や医薬品・高付加価値品は 1 個あたりの収入が高い。国際(186 億ドル・利益率 15.8%)は欧州・アジア・米国発着の速達で、航空網を持つことが強みである。サプライチェーン・ソリューションズ(106 億ドル・10.6%)は貨物フォワーディング(海・空)、物流の受託、医薬品の低温物流(2025 年にアンドラウアー(Andlauer)を買収して強化)、郵便物の混載(メール・イノベーションズ。撤退中で縮小)からなる。
稼ぎ方は、巨大な集荷・仕分け・配達の網を持ち、荷物の数が増えるほど 1 個あたりの固定費が薄まる規模の経済である。重量・距離・速さで価格が決まり、燃料サーチャージで燃料費を転嫁できる。
課題は 3 つある。第 1 にアマゾンで、2025 年に日量 100 万個、2026 年にさらに 100 万個を削減した。売上の約 1 割を占めた最大顧客だが、低採算で網を埋めていただけなので、費用を減らす方が価値が上がると判断した。第 2 に網の再編で、2028 年までに約 200 か所の仕分け拠点を閉鎖し、自動化を進める(年 30 億ドルの費用削減が目標)。第 3 に人件費で、運転手の希望退職プログラムを巡って組合と係争中である。
優良さと弱いところ
堀は 3 つあるが、いずれも鉄道のような独占ではない。第 1 に網の密度で、米国のほぼ全戸に毎日届く網を新たに作るには巨額の投資がかかり、フェデックスと米国郵便公社(USPS)が同格で、アマゾンだけが追いつきつつある。第 2 に企業向けの信頼と運用で、返品・追跡・通関・医薬品の温度管理など、荷主が切り替えにくい業務が多い。第 3 に価格を決める力で、2025 年から 2026 年にかけて 1 個あたり収入は +8〜9% と、物価を大きく超えて上がっている。
資本効率は帳簿の ROE が 34% と高いが、これは自社株買いと配当で自己資本を 162 億ドルまで縮めた影響が大きい。税引き後営業利益を自己資本と純負債の合計 約 390 億ドルで割った ROIC は 16% 前後で、実態はこちらに近い。
弱い所は、営業利益率が 2021 年の 13.5% から 2025 年の 9.6% へ下がったまま戻っていないこと、最大の競合であるアマゾンが顧客でもあるという構造、組合の強さ(人件費は競合のフェデックスより高い)、そして減配の観測が出るほど FCF と配当の余裕が小さいことである。経営陣のキャロル・トメは費用削減と収益の質を重視する方針を明確にしたが、数量が戻るかは未確認である。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
米国の宅配は、UPS・フェデックス・USPS・アマゾンの 4 社で大半を占める。2025 年の配達個数はアマゾン 約 67 億個、USPS 約 66 億個、UPS 約 44 億個、フェデックス 約 36 億個(二次資料による推定)で、UPS・フェデックス・USPS の合計のシェアはコロナ前の約 85% から約 61% へ下がった。売上ベースでは UPS が約 3 割、フェデックスが約 26% で首位級を保つ。市場全体の数量は 2025 年に +0.4% と伸びが止まり、今後 3 年は年 +3.9%(ShipMatrix)の見通しである。
景気の位置は、貨物の不況の後の回復の途中である。2026 年は関税と燃料高で国際の 1 個あたり収入が +19% と跳ねたが、米国内の数量は伸びていない。ウォルマート・ターゲットなどの小売系や地域の配達会社が数量を伸ばしている。
構造の変化は 3 つある。第 1 にアマゾンで、2026 年 5 月に自前の貨物・倉庫・宅配網を P&G・3M などの他社へ開放した。宅配の寡占が崩れ、荷主が値段を比べやすくなる。第 2 に自動化とロボットで、仕分けの人手を減らせるが、先に動いた会社が費用で有利になる。第 3 に関税で、中国発の小口荷物の免税が終わり、国際の越境ネット通販の数量が振れる。
今後 10 年の中立は、数量 年 +1%・価格 年 +3.5%(業界ノートと同じ)で、そのうち UPS は市場の伸びを下回る(シェアの低下)と置いた。
資本政策と M&A
還元は配当が中心で、年約 54 億ドルを払い、2025 年に増配は止まった。2025 年の FCF は 55 億ドルで配当 54 億ドルをほぼ賄ったが、2026 年の上期は FCF 16 億ドルに対し配当 27 億ドルと賄えていない。自社株買いは 2025 年に約 10 億ドル(配当と合わせて 64 億ドル)、2026 年は見通しに入っていない。純負債は 227 億ドル(時価総額の 27%)で、設備投資は 2026 年に約 30 億ドルと減価償却を下回り、再編の費用は移行費用として別に出ていく。
買収は、2025 年のアンドラウアー(カナダの医薬品低温物流)や、アマゾンの荷物削減と並行した物流の再編が中心で、大型買収で価値を壊した事例は少ない。2021 年に売却した UPS フレイトは、その後フェデックス・フレイトが分離した動きと照らして妥当な判断だった。
注意点は、配当を FCF が賄えない年が続くと借金が増えること、2028 年のチームスターズの契約更新が配当の原資を食うこと、自社株買いを再開する場合に今の倍率で買うのが割高にならないかである。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
アマゾンの荷物の削減は終わり、残った荷物は 1 個あたり収入が +9% 上がる質の高いものだけになった。中小企業・医薬品・国際の速達という高い収入の荷物が 8 割に近づき、毎日 2,000 万個前後をさばく網は自動化と拠点の閉鎖で年 30 億ドルの費用を落とす。営業利益率は 2025 年の 9.8% から 3 年で 11〜12%、2021 年の 13.5% に近づく。
アマゾンの外販は多くの荷主に価格比較を許すが、返品・通関・医薬品・保証付きの速達まで一貫して提供できるのは UPS とフェデックスだけで、荷主は実績のある網から離れにくい。ロボットの仕分けは、先に動いた UPS の費用優位を広げる。
米国内の数量は 2026 年で底を打ち、市場の年 +3% に追いつく。国際は関税後の再編で顧客が増え、サプライチェーンは医薬品物流(アンドラウアー)で伸びる。資本を使わず利益が増えるため、配当は維持され、自社株買いも再開できる。10 年で純利益は 2.5 倍になるというのが強気の見方で、楽観の筋書きの下敷きである。
慎重な見方
アマゾンはすでに米国で宅配の個数が最大で(USPS を上回る)、2026 年 5 月に自前網を他社へ開放した。P&G や 3M が顧客に入り、UPS の大口の荷主が少しずつ移れば、UPS は網の密度という最大の強みを失う。荷物が減ると固定費の重い網は 1 個あたりのコストが上がり、値上げで収入を保っても、数量の減少は止まらなくなる悪循環が起きる。
組合の問題も重い。契約は 2028 年に満了し、会長は強い態度を示している。2023 年の契約で運転手の賃金は 5 年で大きく上がり、希望退職を巡る係争もある。仮にストライキになれば、荷主は一時的でも他社へ移り、戻らない分が出る。
配当は FCF で賄えず(2026 年上期は 6 割)、借金が増えるか減配になる。売上は 2014〜2025 年に 580 億ドルから 887 億ドルへ増えたが、これは物価と値上げが中心で、数量は減っている。営業利益率は 2021 年の 13.5% から 9.6% へ下がり、「効率化で戻る」という説明を 3 年続けて未達である。ROIC 16% の事業に、帳簿の ROE 34〜39% から出した PER 18〜19 倍の上限を当てはめること自体が、見かけの ROE に依存している。
どちらに重みを置いたか
強気の見方は、削減後の事業の質と費用削減の確かさに説得力がある。慎重な見方は、アマゾンの外販・組合・減配という具体的な脅威で強い。利益ベースの上限は、帳簿の ROE(借金と自社株買いで膨らんだ値)が 40% 以下の筋書きは帳簿のまま、40% を超える楽観側は ROIC から直した値に、k との差の 1/2 を残す RONIC で測り、アマゾン・組合・数量の縮みという質の弱さを上限の 7.5 割に反映した。確率は、数量が戻る筋書き(楽観・やや楽観・中立)に 48% を置き、数量が減り続ける筋書き(やや悲観・悲観)に 52% と、悲観側へ少し寄せた。それでも総合はやや割安と出る。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 141.68 ドル1,204 億ドル(+ 配当配当と自社株買いの合計 68.26 ドル580 億ドル)。 今の値に割り戻すと 108.06 ドル918 億ドル、今との差 +6.4%、 期待の年率 +7.5%(資本コスト 8.5%)→ 適正
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 5% | 278.76 ドル2,370 億ドル | 96.47 ドル820 億ドル | +269.6% | +14.0% | 18.76 ドル159 億ドル |
| やや楽観 | 15% | 222.12 ドル1,888 億ドル | 87.06 ドル740 億ドル | +204.5% | +11.8% | 46.38 ドル394 億ドル |
| 中立 | 28% | 173.96 ドル1,479 億ドル | 78.82 ドル670 億ドル | +149.0% | +9.6% | 70.78 ドル602 億ドル |
| やや悲観 | 30% | 120.39 ドル1,023 億ドル | 65.88 ドル560 億ドル | +83.5% | +6.3% | 55.88 ドル475 億ドル |
| 悲観 | 22% | 43.61 ドル371 億ドル | 38.82 ドル330 億ドル | −18.8% | −2.1% | 18.14 ドル154 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 141.68 ドル1,204 億ドル | 68.26 ドル580 億ドル | +106.8% | +7.5% | 209.94 ドル1,784 億ドル |
今の株価時価総額 101.52 ドル863 億ドル(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 8.5% を下回るほど割高。
楽観 5% 楽観:高付加価値の荷物でシェアを守り、利益率 12% 利益 148 億ドル · PER 16.0 倍 · 株価時価総額 278.76 ドル2,370 億ドル
2035 年、市場は実質で年 +2.8%、UPS は米国内でシェア 29% を守る(中小企業・医薬品・返品などの高付加価値の荷物に集中。アマゾンは自社の荷物に集中し、外販は小さい)。価格は物価並み(1.43 倍)。自動化と網の再編で営業利益率は米国内 10.5%・国際 16.5%・サプライチェーン 12% で、全体は 12.0%(営業利益 203 億ドル)、純利益は 148 億ドル。ROIC が上がり、配当は増え、自社株買いも再開して 10 年の還元は 820 億ドル。数量が市場並みに伸び、アマゾンの外販に対しても、返品・通関・医薬品の温度管理を含む一貫した品質と中小企業向けの営業網で差別化できていると見る。国際は関税の影響が落ち着いた後に高付加価値の速達で利益率を保ち、サプライチェーンは医薬品物流の買収の効果で増える。
- 米国内の宅配:数量 2,636(米国の宅配市場の売上(億ドル、2025 年価格))× 価格 41.5%(UPS のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 1,093 億ドル・営業利益 115 億ドル。市場 2636 億ドル × シェア 29.0% × 価格 1.43 倍
- 国際の宅配:数量 2,116(国際の宅配市場のうち UPS の対象の売上(億ドル、2025 年価格))× 価格 18.0%(UPS のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 381 億ドル・営業利益 63 億ドル。市場 2116 億ドル × シェア 12.6% × 価格 1.43 倍
- サプライチェーン・ソリューションズ:数量 2,821(対象市場(フォワーディング・物流・医薬品物流、億ドル、2025 年価格))× 価格 7.4%(UPS のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 209 億ドル・営業利益 25 億ドル。市場 2821 億ドル × シェア 5.3% × 価格 1.40 倍
倍率:帳簿の ROE 51% は 40% 超(自己資本が借金・自社株買いで縮んだ見かけ)なので ROIC から直した(ROIC = 税引き後営業利益 ÷(自己資本+純負債 227 億ドル)= 30.5%、ROE = ROIC +(ROIC − 借入金利 5.75%×(1−22%))× 純負債÷自己資本(1 倍まで)= 50.7%)。正当化 PER 19.2 倍(g 4.0%・RONIC 29.6%=k 8.50%+残る割合×(事業の ROE 50.7%−k)・moat=normal)に対して 16.0 倍(上限の 8.3 割)に置いた。費用削減が満額出て利益率が 11〜12% へ戻る最良の筋書きだが、規模の優位は鉄道のような独占ではない。
確率:5%:10 年でシェアを守り、利益率も 2021 年の山を超える必要があり、低くした。
やや楽観 15% やや楽観:シェアの低下は小さく、利益率 11% 利益 128 億ドル · PER 14.8 倍 · 株価時価総額 222.12 ドル1,888 億ドル
2035 年、市場は実質で年 +2.5%、UPS の米国内のシェアは 28% へ小さく下がる。国際は高付加価値の速達で 12.3%、サプライチェーンは医薬品物流で伸びる。価格は 1.42 倍。営業利益率は米国内 9.5%・国際 16%・サプライチェーン 11.5% で、全体は 11.2%(営業利益 176 億ドル)、純利益は 128 億ドル。アマゾンの外販は一部の荷主に効くが、UPS の網は残る。10 年の還元は 740 億ドル。2030 年前後に費用削減の第 2 弾(自動化と拠点の統合)が出て、営業利益率は 10% を超える水準で定着する。国際は関税の影響が落ち着いた後も 16% 前後を保ち、サプライチェーンは医薬品物流(アンドラウアーなど)の伸びで利益が増える。
- 米国内の宅配:数量 2,560(米国の宅配市場の売上(億ドル、2025 年価格))× 価格 39.8%(UPS のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 1,018 億ドル・営業利益 97 億ドル。市場 2560 億ドル × シェア 28.0% × 価格 1.42 倍
- 国際の宅配:数量 2,055(国際の宅配市場のうち UPS の対象の売上(億ドル、2025 年価格))× 価格 17.5%(UPS のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 359 億ドル・営業利益 57 億ドル。市場 2055 億ドル × シェア 12.3% × 価格 1.42 倍
- サプライチェーン・ソリューションズ:数量 2,740(対象市場(フォワーディング・物流・医薬品物流、億ドル、2025 年価格))× 価格 7.0%(UPS のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 191 億ドル・営業利益 22 億ドル。市場 2740 億ドル × シェア 5.1% × 価格 1.37 倍
倍率:帳簿の ROE 44% は 40% 超(自己資本が借金・自社株買いで縮んだ見かけ)なので ROIC から直した(ROIC = 税引き後営業利益 ÷(自己資本+純負債 227 億ドル)= 26.6%、ROE = ROIC +(ROIC − 借入金利 5.75%×(1−22%))× 純負債÷自己資本(1 倍まで)= 43.8%)。正当化 PER 18.8 倍(g 4.0%・RONIC 26.2%=k 8.50%+残る割合×(事業の ROE 43.8%−k)・moat=normal)に対して 14.8 倍(上限の 7.8 割)に置いた。費用削減が計画どおり進み数量が小さく回復する筋書き。
確率:15%:削減後の質の改善が続く筋書き。
中立 28% 中立:シェアはゆっくり下がり、利益率は 10% 台前半 利益 107 億ドル · PER 13.8 倍 · 株価時価総額 173.96 ドル1,479 億ドル
2035 年、市場は実質で年 +2.2%、UPS の米国内のシェアは 29.8% から 26.5% へ下がる(アマゾン・小売系・USPS に取られる)。結果として数量は年 +1%、価格は物価並み(1.41 倍)で、米国内の売上は 929 億ドル。国際は市場並みに伸び(341 億ドル)、サプライチェーンは 178 億ドル。営業利益率は米国内 8.5%・国際 15%・サプライチェーン 10.5% で、全体は 10.3%(営業利益 149 億ドル)。組合の賃上げと自動化の費用削減が打ち消し合う。純利益は 107 億ドル(2025 年の 56 億ドルは移行費用で押し下げられている)。10 年の還元は 670 億ドル(配当 54 億ドルを年 +3% 程度で増やし、自社株買いは小さい)。
- 米国内の宅配:数量 2,486(米国の宅配市場の売上(億ドル、2025 年価格))× 価格 37.4%(UPS のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 929 億ドル・営業利益 79 億ドル。市場 2486 億ドル × シェア 26.5% × 価格 1.41 倍
- 国際の宅配:数量 2,016(国際の宅配市場のうち UPS の対象の売上(億ドル、2025 年価格))× 価格 16.9%(UPS のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 341 億ドル・営業利益 51 億ドル。市場 2016 億ドル × シェア 12.0% × 価格 1.41 倍
- サプライチェーン・ソリューションズ:数量 2,688(対象市場(フォワーディング・物流・医薬品物流、億ドル、2025 年価格))× 価格 6.6%(UPS のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 178 億ドル・営業利益 19 億ドル。市場 2688 億ドル × シェア 4.9% × 価格 1.35 倍
倍率:正当化 PER 18.5 倍(g 4.0%・RONIC 23.7%=k 8.50%+残る割合×(事業の ROE 38.9%−k)・moat=normal)に対して 13.8 倍(上限の 7.5 割)に置いた。荷物は消えず網の密度と企業向けの信頼は残るが、アマゾンの自前網と外販・チームスターズの契約(2028 年)・数量の縮みで堀が削られ続けるため、その分を倍率に織り込んだ。
確率:28%:2 つの見方の落としどころ。数量は市場より遅く、利益は物価で伸びる。
やや悲観 30% やや悲観:アマゾンの外販が効き、シェア 23% へ 利益 77 億ドル · PER 13.3 倍 · 株価時価総額 120.39 ドル1,023 億ドル
2035 年、アマゾンの外販が大口の荷主を奪い、米国内のシェアは 23.5% へ下がる(市場の実質 +2% は伸びる)。競争で 1 個あたり収入の伸びは物価を下回り(1.38 倍)、国際は競合の速達と関税で利益率が 13.5% に下がる。営業利益率は米国内 7%・国際 13.5%・サプライチェーン 9% で、全体は 8.9%(営業利益 112 億ドル。2025 年の調整後 87 億ドルから 10 年で +29% と、物価にも届かない)、純利益は 77 億ドル。組合の人件費が重く、配当は据え置きで 10 年の還元は 560 億ドル。
- 米国内の宅配:数量 2,438(米国の宅配市場の売上(億ドル、2025 年価格))× 価格 32.4%(UPS のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 791 億ドル・営業利益 55 億ドル。市場 2438 億ドル × シェア 23.5% × 価格 1.38 倍
- 国際の宅配:数量 1,977(国際の宅配市場のうち UPS の対象の売上(億ドル、2025 年価格))× 価格 15.9%(UPS のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 314 億ドル・営業利益 42 億ドル。市場 1977 億ドル × シェア 11.5% × 価格 1.38 倍
- サプライチェーン・ソリューションズ:数量 2,636(対象市場(フォワーディング・物流・医薬品物流、億ドル、2025 年価格))× 価格 5.9%(UPS のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 157 億ドル・営業利益 14 億ドル。市場 2636 億ドル × シェア 4.5% × 価格 1.32 倍
倍率:正当化 PER 17.6 倍(g 4.0%・RONIC 19.3%=k 8.50%+残る割合×(事業の ROE 30.1%−k)・moat=normal)に対して 13.3 倍(上限の 7.5 割)に置いた。アマゾンと小売系に数量を取られ利益率が戻らない筋書きなので、その分を倍率に織り込んだ。
確率:30%:アマゾンの外販開始とシェアの 10 年間の低下(2014 年の約 3 割から)という実績からの延長として、最も起きやすい下振れとして置いた。
悲観 22% 悲観:アマゾンの自前網に奪われ、もう優良ではない 利益 37 億ドル · PER 10.0 倍 · 株価時価総額 43.61 ドル371 億ドル
2035 年、アマゾンと小売系が宅配の大半を握り、UPS は荷主が離れた後の残りの荷物を運ぶ会社になる。米国内のシェアは 17%(市場の実質 +1.8% は伸びるが、売上は 528 億ドルと今の 595 億ドルを下回る)、国際は 10.5%、サプライチェーンは 4%。価格は競争で物価を下回る(1.30 倍)。固定費の重い網は稼働率が下がり、営業利益率は 6.7%(米国内 4.5%)、営業利益は 62 億ドル、純利益は 37 億ドルと 2025 年より少ない。組合の人件費は下がらず、配当は減配になる(10 年の還元は 330 億ドル)。
- 米国内の宅配:数量 2,391(米国の宅配市場の売上(億ドル、2025 年価格))× 価格 22.1%(UPS のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 528 億ドル・営業利益 24 億ドル。市場 2391 億ドル × シェア 17.0% × 価格 1.30 倍
- 国際の宅配:数量 1,920(国際の宅配市場のうち UPS の対象の売上(億ドル、2025 年価格))× 価格 13.7%(UPS のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 262 億ドル・営業利益 29 億ドル。市場 1920 億ドル × シェア 10.5% × 価格 1.30 倍
- サプライチェーン・ソリューションズ:数量 2,560(対象市場(フォワーディング・物流・医薬品物流、億ドル、2025 年価格))× 価格 5.0%(UPS のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 128 億ドル・営業利益 9 億ドル。市場 2560 億ドル × シェア 4.0% × 価格 1.25 倍
倍率:正当化 PER 13.9 倍(g 4.0%・RONIC 10.7%=k 8.50%+残る割合×(事業の ROE 12.8%−k)・moat=normal)に対して 10.0 倍(上限の 7.2 割)に置いた。アマゾンの自前網に奪われてもう優良でなくなる筋書き。成長の弱さ・優良さの崩れは g と ROE に入れ、式の外では引かない(上限の 7.2 割)。
確率:22%:アマゾンが自前網を他社に開放した今、大口荷主が移る構造的な負けを 5 分の 1 余り置いた(悲観が 5% 未満ではない)。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
米国内の宅配
米国内の小包の集荷・仕分け・配達(企業間・企業から消費者)。
| 数量米国の宅配市場の売上(億ドル、2025 年価格) | 価格UPS のシェア × 価格指数(2025 年 = 1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 2,000 | 29.8% | 596 | 46 |
| 10 年後 中立 | 2,486 | 37.4% | 929 | 79 |
取り方:米国の宅配市場(アマゾン自社分を除く、他社網で運ばれる荷物の売上)を約 2,000 億ドル、UPS のシェアを 29.8% と置いた(売上ベースの二次資料の約 3 割に合わせた推定)。2025 年の売上 595 億ドル・調整後営業利益 46.0 億ドル(7.7%)は開示。売上 = 市場 × シェア × 価格指数。競合はフェデックス(26% 前後)・USPS・アマゾン・小売系の地域配達で、アマゾンの荷物の削減と数量の減少(日量 −8.6%)でシェアは下がっているが、1 個あたり収入が +8〜9% 上がっている。数量の市場の伸びは年 +2〜3%(ShipMatrix の +3.9% は全体)、価格は物価並みが基本。
国際の宅配
欧州・アジア・米国発着の速達小包と、越境の輸出入。
| 数量国際の宅配市場のうち UPS の対象の売上(億ドル、2025 年価格) | 価格UPS のシェア × 価格指数(2025 年 = 1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1,500 | 12.4% | 186 | 29 |
| 10 年後 中立 | 2,016 | 16.9% | 341 | 51 |
取り方:国際の速達・小包の対象市場を約 1,500 億ドル、UPS のシェアを 12.4%(推定)と置いた。2025 年の売上 186 億ドル・調整後営業利益 29.4 億ドル(15.8%)は開示。競合はディー・エイチ・エル(DHL)・フェデックス・各国の郵便。2026 年 4〜6 月期は 1 個あたり収入 +18.9%(燃料と関税)と跳ねたが、これは持続しないので 10 年 1.41 倍を基本に置いた。市場の実質の伸びは年 +3%。
サプライチェーン・ソリューションズ
貨物フォワーディング・物流の受託・医薬品の低温物流・郵便の混載。
| 数量対象市場(フォワーディング・物流・医薬品物流、億ドル、2025 年価格) | 価格UPS のシェア × 価格指数(2025 年 = 1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 2,000 | 5.3% | 106 | 11 |
| 10 年後 中立 | 2,688 | 6.6% | 178 | 19 |
取り方:対象市場を約 2,000 億ドル、UPS のシェアを 5.3%(推定)と置いた。2025 年の売上 106 億ドル・調整後営業利益 11.2 億ドル(10.6%)は開示。メール・イノベーション(郵便の混載)は USPS との契約が縮み、2025 年第 4 四半期は売上 −12.7%。医薬品物流(アンドラウアー)は伸びる。競合は DSV・キューネ・ナーゲル・DHL・フェデックスと分散。粗利の波が大きいため価格の伸びは物価並み〜やや下を基本にした。
リスクと懸念
アマゾンの外販が大口の荷主を奪う
アマゾンは 2026 年 5 月に自前の貨物・倉庫・宅配網を他社へ開放し(P&G・3M などが初期の顧客)、すでに配達の個数で USPS を上回る。荷主が価格を比べやすくなると UPS の数量が減り、固定費の重い網の 1 個あたりコストが上がる悪循環になる。
チームスターズの契約(2028 年満了)とストライキ
約 33 万人の組合員の契約が 2028 年に満了し、会長は強い態度を示している。賃上げが費用削減を打ち消す、ストライキで荷主が他社へ移って戻らない、のどちらでも利益率は下がる。希望退職を巡る係争もある。
配当が FCF で賄えず減配・借金の増加
2026 年上期の FCF は 16 億ドルで配当 27 億ドルの約 6 割。2025 年は FCF 55 億ドルで配当 54 億ドルをほぼ賄った。数量が戻らなければ借金が増えるか減配になり、配当を重視する株主が離れる。
費用削減が計画どおり出ない
年 30 億ドルの費用削減(拠点約 200 か所の閉鎖・自動化・約 3 万人の削減)は 3 年計画で、2025 年の営業利益率は 9.6%、2021 年の 13.5% を戻せていない。移行費用(2026 年 4〜6 月期に税引後 8.9 億ドル)が続く。
数量の減少が止まらない
米国内の日量は 2025 年に −8.6%、2026 年第 1 四半期に −8%、第 2 四半期に −3.3% と減り続けている。意図した削減が終わった後も数量が戻らなければ、値上げ(1 個あたり +9%)だけで利益を伸ばす余地は小さい。
関税・国際貿易の振れ
国際の 1 個あたり収入は 2026 年 4〜6 月期に +18.9% と跳ねたが、燃料と関税の影響が大きい。中国発の小口荷物の免税の終了、関税の変更で国際の数量が振れ、国際の利益率(15.8%)が下がりうる。
見かけの ROE と資本の薄さ
ROE 34% は自社株買いと配当で自己資本を縮めた見かけで、ROIC は 16% 前後。純負債 227 億ドル(時価総額の 27%)で、借り換えの金利が上がると純利益が減る。利益ベースの倍率は ROE が大きいほど高く出るので、上限の 7.5 割で置いた。
今後の分かれ目
- アマゾンが外販で UPS の大口の荷主(小売・消費財)を複数獲得する
- 10 年の悲観(構造的な負け)とやや悲観の確率を上げ、中立・楽観を下げる。米国内のシェアは 23〜17% の筋書きへ近づく。
- 2028 年のチームスターズの契約が賃上げの小さな条件で更新される
- 費用削減が吸収されず、利益率 10% 台の筋書き(中立・やや楽観)の確率を上げる。ストライキなら悲観の確率を上げる。
- 米国内の日量が 2027 年に増加へ転じ、1 個あたり収入が物価並みを保つ
- 数量の底打ちが確認され、楽観・やや楽観の確率を上げる。
- 2027 年に FCF が配当を賄えず、配当が減配になる
- 配当の原資が減るので還元の合計が下がる。事業の質の問題でなければ、中立のままで見る(還元は減るが利益は変わらない)。
- 営業利益率が 2027 年に 10% を超え、2028 年に 11% を超える
- 費用削減が満額出ているので、楽観の確率を上げ、10 年の営業利益率 11〜12% の筋書きの確率を上げる。
- アマゾンの外販が米国内の 1 個あたり収入を引き下げる値下げ競争を始める
- 価格の伸びが物価を下回り、10 年の価格(1.41 倍)を 1.30〜1.38 倍へ下げる。やや悲観・悲観の確率を上げる。
見ておくもの
- 米国内の日量(四半期ごと、2026 年 4〜6 月期は 1,600 万個・−3.3%)と 1 個あたり収入(+9.3%)
- 米国内の調整後営業利益率(2026 年 4〜6 月期 8.0%)と通期の調整後営業利益 約 86.5 億ドルの達成
- アマゾン・サプライチェーン・サービスの荷主の獲得(大口の小売・消費財)
- チームスターズとの交渉(2028 年 7 月の契約満了、希望退職の係争)
- FCF(2026 年上期 16 億ドル)と配当 54 億ドルの関係、減配の発表の有無
- 純負債(227 億ドル)と格付け、借り換えの金利、設備投資(約 30 億ドル)
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の PER 15 倍や PBR 5 倍を見る前に、3 つのセグメントで市場 × シェア × 価格を積んで先に営業利益と純利益を出し、その後に利益ベースの正当化 PER = (1 − g ÷ RONIC) ÷ (k − g)(k 8.5%・g は上限の 4%・RONIC = k + 残る割合 1/2(moat=normal)×(事業の ROE − k))の上限に対し、中立の 10 年は上限 18.5 倍の 7.5 割の 13.8 倍に置いた(アマゾンの自前網・組合の契約・数量の縮みで堀が削られ続ける質を 7.5 割に反映。今の倍率や過去の倍率には寄せていない)。k は景気の振れ(cycle +0.25%)、借金の重さ(debt 0)、アマゾンの減量(life +0.25%)で quality を +0.5% とした。ROE は帳簿の自己資本 ROE(中立 39%。40% 超の楽観側は ROIC から直した)で、ROIC は 16% 前後。見かけの ROE の高さが上限を押し上げるので、置く割合は 7.5 割にとどめた。総合が割安側に出る分は、確率を悲観側(やや悲観・悲観の合計 52%)へ厚く置いて表した。数字の帳尻合わせはしていない。
資本コスト 8.5% = 無リスク金利 5% + β — × 5%。k = 基本 8.0% + quality +0.5%。アマゾンの減量と労使の人件費は k に足さず、筋書き(数量・利益率)と確率で表す。