結論
グレコは、塗料や接着剤などの液体を正確に送り、混ぜ、吹き付ける装置で世界の工場と建設現場を支える会社である。筆者の結論は、10年後も高い収益力を保てる優良企業だが、今の時価総額には十分な安全域がなく、やや割高というものだ。
この会社の強みは、機械を売って終わりにならないことである。売上の約40%は交換部品と付属品で、設置された装置が使われる限り需要が続く。施工業者は塗装機の購入価格だけでなく、故障時の対応や塗料の無駄、作業時間を重視する。工場では塗布精度のわずかな違いが製品不良につながるため、実績のある供給者を簡単には替えない。
2025年の売上は22.4億ドル、営業利益は6.1億ドル、純利益は5.2億ドルだった。営業利益率は27%台で、自己資本比率も81%と高い。2026年7〜9月期は売上が前年同期比8%増えたが、営業利益は10%減った。前年の買収関連の一時益が消えた影響が大きいものの、買収先の利益率や製品構成にも注意が必要である。
経営陣は売上の年平均10%以上の成長を目標に掲げる。しかし、これは買収の成功も必要とする意欲的な目標だ。2026年に成立したバルコ・メルトンの買収とABBとのモーター技術提携には伸びしろがあるが、後者の本格的な設置は2029年末以降の計画である。
10年後の中立では売上39.5億ドル、純利益8.8億ドルを見込む。値上げを続けながら、既存の施工機器と産業機器が緩やかに数量を伸ばす姿だ。資本コスト7.75%で5つの筋書きと正味の還元を割り引くと、現在の価値は約95億ドルとなる。添付の時価総額108億ドルに対して約12%低く、事業の質ほど価格面の魅力は強くない。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、グレコは長く所有する価値のある事業である。社会は10年後も建物を塗り、工場で材料を混ぜ、製品を接着し続ける。その仕事が続く限り、高い精度と故障の少なさに対価を払う顧客は存在する。グレコの装置は顧客の製造原価全体では小さな部分でも、不良や停止に及ぼす影響は大きい。こうした商品は価格競争だけで選ばれにくい。
魅力的なのは、新しい工場を大量に建てなくても利益を伸ばせることだ。研究開発と販売網を維持し、優れた製品を更新すれば、設備投資の負担を抑えながら販売数量と単価を伸ばせる。2025年は営業キャッシュフローが約6.8億ドル、フリーキャッシュフローが約6.4億ドルあり、純利益の多くが現金になった。ただし運転資金の改善や設備投資の時期にも左右されるため、この1年の現金創出を永久に続く利益と同一視しない。
再投資の利回りが最大の検討点である。既存の精密機器では高い資本収益率を保ててきたが、大型買収では代金のかなりの部分がのれんや顧客関係の価値になる。買収がなければ達成できない成長を追い始めると、優良な事業の利益が高値の買収に吸収される。会社が大きくなることと株主が豊かになることは別である。
筆者は、この会社が競争力を失う可能性より、優良企業に高い値段を払いすぎる可能性を重く見る。2026年の株価下落で以前より評価の負担は軽くなったが、10年の利益と正味の還元を割り引くと、なお十分な安全域は生まれていない。経営が利益率と増分の資本収益率を守りながら買収を進められるかが、長期の価値を決める。
何で稼ぐ会社か
グレコの仕事は、扱いにくい材料を正確に動かすことである。粘り気の強い塗料、摩耗性のある液体、二液を決まった割合で混ぜる樹脂などは、普通のポンプや吹付機では安定して扱えない。同社はポンプ、計量器、混合装置、塗布機、制御機器を組み合わせ、顧客の作業時間と材料の無駄を減らしている。
2025年の売上の約48%を占めるコントラクター部門は、建築塗装、屋根の防水、断熱材の吹き付け、道路の区画線などに使う装置を売る。顧客は専門施工業者や塗装職人であり、塗料販売店や機器販売代理店を通じて購入する。住宅新築だけでなく、塗り替え、修繕、商業施設の維持管理も需要を生む。2025年にはラディアを取得し、塗料の調合や混合装置を商品群に加えた。
売上の約45%を占めるインダストリアル部門は、工場の塗装、粉体塗装、接着剤やシーリング材の精密吐出を扱う。自動車、航空機、電気機器、木材加工、包装機械などが顧客である。粉体塗装では傘下のゲマが知られ、塗布機のほか制御や粉体回収に関わる製品を提供する。2026年8月に買収したバルコ・メルトンは、包装工程の接着剤塗布と品質検査を補強する。
残り約7%のエクスパンション・マーケッツ部門は、半導体製造向けポンプ、石油・ガス向け高圧弁、地下水の監視や浄化装置、高トルク電動モーターの技術を扱う。2026年10月にはABBとデータセンター冷却用モーターのライセンス契約を結んだ。収益規模はまだ小さいが、建設と一般製造業以外に事業を広げる役割を担う。
利益を支えるのは、装置の信頼性と交換部品である。会社の投資家説明資料によれば、部品と付属品は売上の約40%を占める。販売網は100か国以上、販売拠点・代理店は3万以上に及ぶ。ただし、この40%すべてが契約で保証された継続収入ではない。設備の稼働率が下がれば交換頻度も落ちるし、新品販売に比べて安定しているという程度の理解が適切である。
優良さと弱いところ
グレコの堀、つまり競争相手が容易に奪えない強みは、現場での信頼性と販売・修理網である。塗装機が止まれば施工業者の仕事が止まり、工場の塗布機が不調なら製品不良が発生する。装置の価格差より、故障による損失の方が大きい顧客に対しては、品質と実績が価格決定力を生む。
長年使われた装置には、純正部品の供給と操作に慣れた作業者が付いている。材料供給業者や設備設計会社との関係も、新規参入者が同じ仕様で採用されるまでの時間を長くする。特に精密な二液混合や粉体塗装では、装置を替えると試験、工程調整、作業者の教育が必要になる。乗り換えに費用がかかることは、値上げを受け入れてもらいやすい理由である。
実績も強さを裏付ける。営業利益率は2014年の25%台から2023年には29%台に達し、2025年も27%台を保った。2026年7〜9月期は製品原価が上がったが、会社は価格実現によって一部を相殺できたと説明している。過去20年の有機的な売上成長率は年平均6%台半ばで、単なる買収依存ではなかった。
資本効率は高いが、過大評価してはいけない。2025年のROEは約20%であり、過去10年の中央値25%から低下している。会社が2026年の説明会で示した投下資本利益率は23%だが、これは過去の事業全体の成果であり、新たな買収案件の増分利益率を保証しない。2026年の大型買収が既存事業より低い利回りなら、規模が大きくなっても株主価値は増えにくい。
最大の弱さは建設市場への依存である。2025年の最終需要では建設関連が約52%を占め、住宅ローン金利や施工業者の設備更新に左右される。また、優れた販売網が存在しても、安価な機器で十分な用途では値上げの力が弱くなる。堀は強いが、すべての商品が同じ強さで守られているわけではない。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
流体制御と塗布装置の市場は、世界の製造業と建設業が続く限り必要になる。建物の塗り替え、工場の塗装、樹脂の混合、接着剤の塗布は、作業方法が自動化されても材料を現実に動かす装置を必要とする。10年先に仕事そのものが消える可能性は低く、問題は誰がその装置を供給し、利益を得るかである。
市場は用途によって分かれている。グローバル・マーケット・インサイツは2025年の塗装用スプレーガン市場を約13.5億ドルと推計し、グレコのシェアを約27%、ノードソンを約14%、エグゼル・インダストリーズを約9%としている。一方、塗装設備全般の市場は調査範囲によって約210〜250億ドルとなる。こちらには大型の塗装ラインや乾燥炉も含まれ、グレコの対象市場と同一ではない。
工業用の流体吐出装置ではノードソンが有力な競合である。同社の産業用精密装置部門は2025年度に約13.3億ドルを売り上げ、EBITDA利益率は37%だった。グレコの産業部門は売上約10億ドル、営業利益率約34%で、異なる利益指標ではあるが、高い付加価値を持つ装置市場で競っていることが分かる。施工用ではワグナーやその傘下のタイタン、工業用塗装ではアネスト岩田、エグゼル、サメスなども競合する。
2026年の市場は強弱が混在する。製造業の設備投資や半導体向けは改善しているが、金利が高い住宅関連の更新需要は鈍い。グレコの2026年7〜9月期は受注が有機的に7%増えたものの、産業部門の利益率は前年から低下した。受注の増加だけでは、買収費用や製品構成の悪化を吸収できない。
中立の10年では、産業機械と流体部品の市場数量が年1〜2%程度伸び、価格が物価に沿って上がると見る。施工分野は住宅需要をならすため、それより緩やかな数量成長になる。粉体塗装の環境面での利点、工場の自動化、接着剤による軽量化は追い風だが、中国やアジアの低価格メーカーとの競争は続く。
AIエージェント代替の直接対象には当たらない。売り物の中心が物理的な装置と交換部品であり、人月や席数に応じたソフトウェアではないからだ。ただし、AIによる工程最適化で塗布量や装置台数が減る可能性はあり、設備の自動化から利益を得る側であり続ける必要がある。
資本政策と M&A
経営の資本配分は、研究開発、小規模買収、配当、自社株買いを組み合わせる形だった。2025年は純利益5.2億ドルに対し、配当約1.9億ドルと自社株買い約4.2億ドルを実施した。株式報酬の約0.3億ドルを差し引くと、正味の還元は見かけより小さくなるが、利益を株主へ戻す姿勢は明確である。
2025年12月には四半期配当を7.3%引き上げ、追加で最大1500万株を買い戻す枠を承認した。従来の買戻し枠の未使用分も残っている。会社は25年連続の増配実績を示している。ただし買戻し枠は実施の約束ではなく、価格や買収資金の必要性によって実行額は変わる。
買収は近年大きくなっている。2024年にコロブを取得し、2025年にはカラー・サービスとラディアを買収した。2026年8月にはバルコ・メルトンを取得し、実際の現金対価は約4.62億ドルだった。同社の2025年調整後EBITDAに対する実質取得倍率は約14倍であり、2026年の相乗効果込みの見込みでは約10倍となる。相乗効果が実現しなければ、増分の資本収益率は既存事業より低くなる恐れがある。
2026年1〜9月には自社株買い4.63億ドル、配当1.45億ドル、買収への現金支出4.36億ドルが重なった。現金残高は2025年末の6.2億ドルから2026年9月末には1.4億ドルに減り、借入も増えた。倒産を心配する財務ではないが、以前のように豊富な余剰現金を別に数えることはできない。
2026年の投資家説明会では、平均売上成長10%以上、利益成長12%以上を目標とし、売上成長の約3分の2を既存事業、約3分の1を買収から得る方針を掲げた。買収額や将来の還元額について、毎年達成を保証する数字の約束はない。少数株主を排除する種類株や支配株主は確認されず、現時点で全社買収や上場廃止の合意も確認されない。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
グレコには、普通の産業機械メーカーとは異なる収益の安定性がある。売上の約40%は交換部品と付属品であり、機械の保有台数が増えるほど将来の需要が積み上がる。顧客が重視するのは購入時の安さよりも、作業が止まらないことと材料の無駄が少ないことである。専門分野で信頼を得たメーカーは、値上げを通しながら高い利益率を保ちやすい。
過去20年の有機的な売上成長率は年平均6%台半ばだった。世界の建設と製造業が長期にわたって伸びるなかで、同社は新しい地域や用途へ進出できている。2026年の投資家説明会では売上成長10%以上、利益成長12%以上を目指す方針が示された。既存事業の成長に加え、買収先の商品を3万以上の販売拠点・代理店に広げられれば、単独では実現できない売上増加が可能になる。
2026年のバルコ・メルトン買収は、精密な接着剤塗布と品質検査を加えた。包装機械で使われる装置は、ラインの停止や接着不良の損失が大きく、グレコが得意とする高信頼性の商品に近い。既存の工業用塗装装置の顧客に追加販売できれば、買収時に想定した相乗効果を上回る余地もある。
さらにABBとのライセンス契約は、電動モーターの技術をデータセンター冷却へ広げる機会だ。2029年末までの初期設置を経て採用が増えれば、エクスパンション・マーケッツ部門は従来より大きな事業になる。会社全体の利益に対する割合が小さいうちは、成功時の上振れも大きい。
この姿では、工場の自動化と世界的な施工機械の普及によって数量が伸び、値上げと製品構成の改善で営業利益率も高まる。利益を配当と自社株買いに戻しながら、買収にも十分な資金を回せる。競合は存在しても、専門分野の販売網と品質で競争に勝ち続ける会社となる。
慎重な見方
最大の問題は、過去に成功した事業の収益性が、新たな買収先でも同じように実現するとは限らないことである。バルコ・メルトンには約4.62億ドルを投じたが、買収後の2026年7〜9月期に計上した売上は約0.12億ドル、営業損益は約0.05億ドルの赤字だった。短い期間の数字で買収の成否は決められないが、取得直後から高い利益を生むものではない。
2026年7〜9月期の産業部門は、売上が前年同期より増えたにもかかわらず、営業利益率が約6ポイント低下した。買収先の低い収益率と製品構成の悪化が主因だった。競争力の強い商品だけを持つ時と、買収で事業を広げる時では、利益の質が変わる可能性がある。
コントラクター部門も過信できない。会社の売上の約半分を建設関連の需要が占めるため、金利が高止まりし住宅の新築や改修が弱ければ、販売数量の伸びは鈍る。低価格の塗装機で十分な顧客は、ワグナーやアジアのメーカーへ移る。交換部品の需要も、装置の稼働時間が減る局面では下がる。
工業用ではノードソン、アネスト岩田、エグゼルなどが技術を改良し続けている。自動化が進むほど、塗布装置を独立した製品として売るより、生産ライン全体に組み込む販売方法が増える。グレコが顧客の設備設計を主導できなくなると、システム統合会社の価格交渉力が強まり、装置メーカーの利益率が削られる。
ABBとの提携にも不確実性がある。最初のデータセンター向け設置は2029年末までを目指す段階であり、量産受注や継続的なライセンス収入はまだ確認されていない。技術が採用されない場合、期待した成長は生まれない。
財務面では買収と自社株買いが重なり、現金の余裕が縮んだ。高い価格で買収し、高い価格で自社株を買えば、報告上の利益が伸びても増分の株主価値は小さい。過去の高ROEをそのまま将来に延長することは危険である。
どちらに重みを置いたか
事業の存続と既存顧客の維持については強気の根拠が優勢である。交換部品、専門販売網、現場での信頼性は10年で容易に失われない。しかし、現在の価格を正当化するには、既存事業の成長だけでなく買収後の利益率維持も必要になる。
確率は楽観側を30%、悲観側を36%とし、慎重な側に6ポイント寄せた。建設需要の循環に加え、2026年の大型買収が既存事業の資本効率を下げる可能性を重視したためである。一方、極端な悲観は11%に抑えた。現時点の財務と交換部品事業の安定性から、急速に稼ぐ力が失われる確率は低い。
5つの筋書きの加重価値は約95億ドルで、足元の時価総額を約12%下回る。企業としては長期保有に適した性質を持つが、投資価格としての安全域はまだ薄い。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した現株数換算の終価現在株主分の終価 84.31 ドル136 億ドル(+ 還元の換算額還元の合計 28.32 ドル46 億ドル)。 今の値に割り戻すと 59.47 ドル96 億ドル、今との差 −11.8%、 期待の年率 +6.1%(資本コスト 7.8%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の現株数換算の終価現在株主分の終価 | 還元の換算額還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・還元込み | 年率 | 確率 × (終価+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 169.00 ドル272 億ドル | 43.46 ドル70 億ドル | +215.0% | +14.1% | 19.12 ドル31 億ドル |
| やや楽観 | 21% | 125.48 ドル202 億ドル | 37.25 ドル60 億ドル | +141.3% | +10.8% | 34.17 ドル55 億ドル |
| 中立 | 34% | 90.32 ドル145 億ドル | 32.28 ドル52 億ドル | +81.8% | +7.3% | 41.68 ドル67 億ドル |
| やや悲観 | 25% | 43.93 ドル71 億ドル | 18.62 ドル30 億ドル | −7.2% | −0.9% | 15.64 ドル25 億ドル |
| 悲観 | 11% | 9.63 ドル16 億ドル | 8.69 ドル14 億ドル | −72.8% | −14.8% | 2.02 ドル3 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 84.31 ドル136 億ドル | 28.32 ドル46 億ドル | +67.0% | +6.1% | 112.63 ドル181 億ドル |
今の株価時価総額 67.44 ドル109 億ドル(2026-10-30)から見たトータルリターン。各行の年率は還元・追加負担を期間の中間時点に置く仮定のIRRです。最下段は期待CFから計算したIRRで、各行のIRRの加重平均ではありません。実際の配当時期を観測した値ではありません。
楽観 9% 楽観:高付加価値機器と買収が相乗効果を生み、精密流体制御の領域を大きく広げる 利益 13 億ドル · PER 20.8 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 169.00 ドル272 億ドル
2035年には、施工機器の対象市場が実質58億ドルに拡大し、グレコのシェアも29%に高まる。新興国の専門施工業者が手作業から機械へ移行し、既存の販売網から塗料調合装置や付属品も広く売れる。ワグナーなどとの競争は続くが、修理対応と製品寿命で優位を保ち、部門の営業利益率は29%に達する。
工業用の対象市場は実質225億ドルとなり、シェアも7.5%に上昇する。バルコ・メルトンの接着剤塗布技術を既存の産業顧客に販売でき、さらに採算の良い小規模買収を重ねる。ノードソンとの精密塗布競争でも、低価格ではなく生産歩留まりと材料節減を軸に受注を増やす。部門の営業利益率は35%台を維持する。
ABBの冷却用モーターも2029年以降に採用が進み、エクスパンション・マーケッツの市場浸透が加速する。半導体向けポンプと環境装置も伸び、同部門の売上は5.6億ドルを超える。全社の営業利益率は約31%となり、純利益は13.1億ドルへ増える。
2035年までの累計純利益は約92億ドルとなる。配当と自社株買いから株式報酬を引いた正味の還元は70億ドルで、残る利益を設備、研究開発、運転資金、買収に活用する。自己資本は約48.5億ドルとなる。強い堀と再投資の成果が長く続く姿である。
- コントラクター:数量 16.8(施工・塗装用機器の実質対象市場(2025年価格の億ドル)×推定シェア)× 価格 1.44(装置・交換部品の平均販売単価指数(2025年=1))→ 売上 24 億ドル・営業利益 7 億ドル。対象市場58億ドル×シェア29.0%。実質数量は2025年比1.57倍、単価は1.44倍。
- インダストリアル:数量 16.9(工業用塗装・精密吐出機器の実質対象市場(2025年価格の億ドル)×推定シェア)× 価格 1.44(工業用装置・交換部品の平均販売単価指数(2025年=1))→ 売上 24 億ドル・営業利益 9 億ドル。対象市場225億ドル×シェア7.5%。買収済み事業の浸透と今後の採算の良い買収を含む。
- エクスパンション・マーケッツ:数量 3.9(半導体・高圧流体・環境装置・特殊モーターの実質対象市場(2025年価格の億ドル)×推定シェア)× 価格 1.44(特殊機器・技術供給の平均単価指数(2025年=1))→ 売上 6 億ドル・営業利益 2 億ドル。対象市場78億ドル×シェア5.0%。ABB向けライセンスと半導体需要が成功する。
倍率:資本コストk=7.75%。2035年のROEは13.10÷48.50=27.01%。強い堀の残存割合2/3を用いるとRONIC=7.75%+(27.01%-7.75%)×2/3=20.59%。長期gは4.0%で、価格上昇約3.5%、市場の実質数量成長約1.0%、成熟後のシェア調整約-0.5%の合計とする。正当化PER=(1-0.04÷0.2059)÷(0.0775-0.04)×1.04=約22.35倍。高付加価値製品と買収が成功する筋書きのため、その約93%の20.78倍を採用する。GAAP純利益を使い、株式報酬と買収無形資産償却は戻していない。
確率:経営陣の年平均売上成長10%以上という目標に近い姿となるには、既存事業のシェア拡大、買収の高い成果、ABBの技術採用が同時に必要になる。すべてが成功する可能性は限定的なため9%とした。
やや楽観 21% やや楽観:買収の統合が進み、交換部品と精密塗布装置の利益が着実に積み上がる 利益 11 億ドル · PER 19.2 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 125.48 ドル202 億ドル
施工機器は世界の改修需要に支えられ、実質対象市場が50億ドルに広がる。低価格機との競争は続くが、グレコは専門施工業者向けで強い位置を保ち、シェアを28%まで高める。修理や交換部品が利益を支える一方、住宅市場の循環によって数量は毎年滑らかに増えるわけではない。
産業部門はバルコ・メルトンの統合が進み、工場の包装、接着、塗装工程で販売先が広がる。粉体塗装や半導体周辺の精密装置でも販売が伸び、実質対象市場210億ドルのうち7.1%を獲得する。ノードソンとの競争は厳しいものの、工程の信頼性と材料節減効果が価格を守り、営業利益率は33%台となる。
ABBのモーター技術は限定された用途で採用され、半導体と環境装置も成長する。エクスパンション・マーケッツの規模は4億ドル台になるが、全社を変えるほどの成功には至らない。全社売上は約45億ドル、純利益は10.5億ドルへ増える。
2026〜2035年の累計純利益は約78.6億ドルで、正味60億ドルを配当と自社株買いに戻す。自己資本は約45.1億ドルとなる。成長を追うだけでなく、買収先の資本効率を改善し、既存株主にも成果を還元する姿である。
- コントラクター:数量 14.0(施工・塗装用機器の実質対象市場(2025年価格の億ドル)×推定シェア)× 価格 1.42(装置・交換部品の平均販売単価指数(2025年=1))→ 売上 20 億ドル・営業利益 5 億ドル。対象市場50億ドル×シェア28.0%。単価は物価とほぼ同じ1.42倍。
- インダストリアル:数量 14.9(工業用塗装・精密吐出機器の実質対象市場(2025年価格の億ドル)×推定シェア)× 価格 1.42(工業用装置・交換部品の平均販売単価指数(2025年=1))→ 売上 21 億ドル・営業利益 7 億ドル。対象市場210億ドル×シェア7.1%。バルコ・メルトンの統合効果が定着する。
- エクスパンション・マーケッツ:数量 3.0(半導体・高圧流体・環境装置・特殊モーターの実質対象市場(2025年価格の億ドル)×推定シェア)× 価格 1.42(特殊機器・技術供給の平均単価指数(2025年=1))→ 売上 4 億ドル・営業利益 1 億ドル。対象市場66億ドル×シェア4.6%。モーター技術は限定用途で商業化する。
倍率:2035年ROEは10.51÷45.10=23.30%。k=7.75%、moat=strongの残存割合2/3からRONIC=18.12%。長期gは4.0%で、成熟後の価格約3.5%、実質市場成長約0.8%、シェアの成熟調整約-0.3%を見込む。正当化PERは約21.61倍。買収は成功するが競争と景気循環も残るため、その89%の19.23倍を使う。10年目のGAAP純利益に掛けるため式には1+gを含めている。
確率:既存の販売網、部品需要、価格決定力は長期間にわたり実証されている。買収の成果が会社の目標には届かなくても、事業が順調に成長する可能性は十分あるため21%とした。
中立 34% 中立:数量は緩やかに伸び、価格決定力は残るが、利益率の大幅な改善はない 利益 9 億ドル · PER 16.6 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 90.32 ドル145 億ドル
施工機器の市場は、成熟した北米の住宅需要と新興国の機械化が釣り合い、実質45億ドルへ広がる。グレコは競争相手とのシェア争いに勝ち続けるわけではないが、現在に近い26.8%を保つ。単価は10年で物価並みの1.41倍に上がり、部門売上は17億ドルとなる。営業利益率は26.5%で、過去の高収益をおおむね維持する。
工業用の対象市場は実質205億ドルとなる。バルコ・メルトンの買収済み事業を取り込み、シェアは6.6%へ緩やかに上がる。接着剤、粉体塗装、塗料供給設備の更新需要が支えるが、ノードソンなどとの競争で高い利益率がさらに上がることは期待しない。部門の営業利益率は32%となる。
半導体向けポンプと環境装置は伸びるが、ABBとのモーター技術提携は大きな収益源になるまで時間がかかる。エクスパンション・マーケッツは3億ドル台の事業になる。全社売上は39.5億ドル、営業利益は約11.1億ドル、純利益は8.8億ドルとなる。
2026〜2035年の累計純利益は約69.7億ドルで、正味52億ドルを還元する。残りを成長投資や買収資産の維持に回し、自己資本は約44.2億ドルへ増える。ROEは20%前後となり、2025年の実績に近い資本効率が続く。目標ほどの高成長は達成できないが、堀と収益性は守られる姿である。
- コントラクター:数量 12.1(施工・塗装用機器の実質対象市場(2025年価格の億ドル)×推定シェア)× 価格 1.41(装置・交換部品の平均販売単価指数(2025年=1))→ 売上 17 億ドル・営業利益 5 億ドル。対象市場45億ドル×シェア26.8%。実質数量は2025年比1.125倍、価格は1.41倍。
- インダストリアル:数量 13.5(工業用塗装・精密吐出機器の実質対象市場(2025年価格の億ドル)×推定シェア)× 価格 1.41(工業用装置・交換部品の平均販売単価指数(2025年=1))→ 売上 19 億ドル・営業利益 6 億ドル。対象市場205億ドル×シェア6.6%。買収済みのバルコ・メルトンの貢献を含む。
- エクスパンション・マーケッツ:数量 2.4(半導体・高圧流体・環境装置・特殊モーターの実質対象市場(2025年価格の億ドル)×推定シェア)× 価格 1.41(特殊機器・技術供給の平均単価指数(2025年=1))→ 売上 3 億ドル・営業利益 1 億ドル。対象市場60億ドル×シェア4.0%。半導体・環境の成長を中心とし、モーターの急拡大は想定しない。
倍率:2035年ROEは8.78÷44.20=19.86%。k=7.75%、強い堀の残存割合2/3からRONIC=15.83%。長期gは3.8%で、価格上昇3.5%、世界の実質需要成長約1.0%、成熟後のシェア・製品構成調整約-0.7%とする。正当化PER=(1-0.038÷0.1583)÷(0.0775-0.038)×1.038=約19.97倍。その約83%の16.57倍を採用した。既存事業の競争力は強いが、建設の循環と買収による利益の質の変化を考慮した。過去や現在の市場PERから決めた倍率ではない。GAAP利益を用い、償却や株式報酬を足し戻さない。
確率:既存装置の更新需要、専門分野での値上げ、買収済み事業の一定の貢献を最も自然な道筋と考える。ただし大型買収の採算と建設市場の循環には幅があるため、中立を過度に厚くせず34%とした。
やや悲観 25% やや悲観:施工機器のシェア低下と買収先の利益率不足が長期化する 利益 5 億ドル · PER 12.5 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 43.93 ドル71 億ドル
北米の住宅と改修市場が長く停滞し、施工機器の対象市場は実質42億ドルにとどまる。ワグナーや低価格メーカーの機器が普及し、グレコのシェアは24.5%へ下がる。物価上昇の全額を転嫁できず、単価は10年で1.30倍にしか上がらない。施工部門の営業利益率は22%へ下がる。
工場では設備更新が遅れ、粉体塗装や接着剤塗布の市場は実質190億ドルとなる。ノードソンやアネスト岩田との競争に加え、安価な統合塗布設備が普及する。グレコのシェアは5.8%へ縮む。バルコ・メルトンは売上に貢献するが、買収時に期待した利益率の改善が進まない。工業部門の営業利益率は27%に下がる。
ABBとのモーター技術は一部で採用されても収益規模は小さく、エクスパンション・マーケッツも市場全体の成長を十分には取り込めない。全社売上は約30億ドル、純利益は5.2億ドルと、10年前からほぼ増えない。競争力は残るものの、高成長企業としての性質は弱まる。
2027〜2029年の需要不振を含めた10年間の累計純利益は約48億ドルとなる。自社株買いを抑え、正味の還元は30億ドルに縮小する。自己資本は約44.5億ドルとなり、ROEは12%弱まで低下する。事業は十分に存続するが、追加投資の魅力は以前より小さくなる。
- コントラクター:数量 10.3(施工・塗装用機器の実質対象市場(2025年価格の億ドル)×推定シェア)× 価格 1.30(装置・交換部品の平均販売単価指数(2025年=1))→ 売上 13 億ドル・営業利益 3 億ドル。対象市場42億ドル×シェア24.5%。価格は物価の累積上昇1.41倍を下回る。
- インダストリアル:数量 11.0(工業用塗装・精密吐出機器の実質対象市場(2025年価格の億ドル)×推定シェア)× 価格 1.30(工業用装置・交換部品の平均販売単価指数(2025年=1))→ 売上 14 億ドル・営業利益 4 億ドル。対象市場190億ドル×シェア5.8%。買収先の採算が改善せず、競争で価格転嫁が弱まる。
- エクスパンション・マーケッツ:数量 1.8(半導体・高圧流体・環境装置・特殊モーターの実質対象市場(2025年価格の億ドル)×推定シェア)× 価格 1.30(特殊機器・技術供給の平均単価指数(2025年=1))→ 売上 2 億ドル・営業利益 0 億ドル。対象市場53億ドル×シェア3.4%。モーター技術の商業化は限定的にとどまる。
倍率:2035年ROEは5.22÷44.50=11.73%。k=7.75%、moat=strongの残存割合2/3からRONIC=10.40%。長期gは2.7%とし、価格3.5%から実質市場の停滞とシェア減少を合計-0.8%控除する。正当化PERの上限は約15.06倍。利益率と値上げ力が弱まった姿なので12.50倍を採用する。中立の16.57倍より低く、過去の谷の市場倍率を根拠にしていない。2026年9月末の換金可能資産の保守的な床約6.1億ドルも十分に上回る。
確率:建設市場の低成長、安価な競合機器の浸透、2026年買収先の低採算が重なる可能性は現実的である。事業全体が衰退するほどではないが、十分に起こり得るため25%とした。
悲観 11% 悲観:高価格の精密機器市場で構造的に敗れ、交換部品の強みまで縮小する 利益 2 億ドル · PER 9.3 倍 · 現株数換算の終価現在株主分の終価 9.63 ドル16 億ドル
2035年には施工機器の市場が実質35億ドルへ縮み、グレコのシェアは17%まで低下する。中国や欧州のメーカーが低価格機器の性能を改善し、専門施工業者も一部を乗り換える。新しい装置の保有台数が減るため、これまで利益を支えていた純正部品の販売も弱まる。単価は10年で1.16倍にしか上がらず、部門の営業利益率は14%となる。
工業用では顧客が生産ライン全体の自動化を進め、装置選定をシステム統合会社に委ねるようになる。ノードソンや他の精密塗布メーカーに採用案件を奪われ、グレコの対象市場シェアは4%へ低下する。買収先の技術を十分に統合できず、取得したのれんや無形資産に減損の可能性が生じる。工業部門の営業利益率は19%まで落ちる。
ABBとのモーター技術は広く商業化されず、半導体向けの高付加価値ポンプも競合の追い上げを受ける。全社売上は約16億ドルとなり、営業利益は約2.3億ドル、純利益は1.7億ドルまで低下する。これは単年の景気後退ではなく、高い価格を受け入れてもらえる事業領域そのものが狭まった姿である。
2026〜2035年の累計純利益は約28億ドルとなる。2026年頃の利益水準から次第に収益力が低下し、後半は年2億ドル前後にとどまる道筋である。正味の還元は14億ドルに縮小し、自己資本は約40.5億ドルとなる。株主資本の稼ぎは資本コストを下回り、優良企業としての評価は失われる。ただし会社が直ちに倒産する状態ではなく、残る稼ぐ力と換金可能資産によって正の価値がある。
- コントラクター:数量 6.0(施工・塗装用機器の実質対象市場(2025年価格の億ドル)×推定シェア)× 価格 1.16(装置・交換部品の平均販売単価指数(2025年=1))→ 売上 7 億ドル・営業利益 1 億ドル。対象市場35億ドル×シェア17%。市場縮小とシェア喪失が重なり、実質数量は大幅に減る。
- インダストリアル:数量 6.6(工業用塗装・精密吐出機器の実質対象市場(2025年価格の億ドル)×推定シェア)× 価格 1.18(工業用装置・交換部品の平均販売単価指数(2025年=1))→ 売上 8 億ドル・営業利益 1 億ドル。対象市場165億ドル×シェア4%。装置統合と競合の追い上げにより、値上げと数量の両方で負ける。
- エクスパンション・マーケッツ:数量 1.2(半導体・高圧流体・環境装置・特殊モーターの実質対象市場(2025年価格の億ドル)×推定シェア)× 価格 1.18(特殊機器・技術供給の平均単価指数(2025年=1))→ 売上 1 億ドル・営業利益 0 億ドル。対象市場50億ドル×シェア2.3%。モーターの技術収益化と半導体市場への浸透が進まない。
倍率:2035年ROEは1.67÷40.50=4.12%でk=7.75%に届かない。収益力が資本コスト以下の会社では、正当化PERの上限を1÷k=約12.90倍とする。長期gは名目1.0%とし、物価3.5%の上昇に対し、競合へのシェア流出と実質数量の縮小が約2.5%続くと考える。強い堀は失われたため、上限の約72%である9.29倍を採用した。純利益1.67億ドル×9.29倍=約15.51億ドルであり、換金可能資産の床約6.1億ドルを上回る。過去のPBRや将来の積み上がった自己資本を床の分母にはしていない。
確率:安価な競合機器の普及、工場の装置統合、買収の失敗が長期間重なれば、既存の堀が失われる。しかし製品の用途そのものは残り、財務危機も差し迫っていないため、確率は11%にとどめる。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
コントラクター
建築・改修工事向けの塗装機、断熱材吹付機、道路区画線機器、塗料調合装置と交換部品を販売する。施工業者の保有機械の更新と消耗品需要が利益の土台になる。
| 数量施工・塗装用機器の実質対象市場(2025年価格の億ドル)×推定シェア | 価格装置・交換部品の平均販売単価指数(2025年=1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 10.7 | 1.00 | 11 | 3 |
| 10 年後 中立 | 12.1 | 1.41 | 17 | 5 |
取り方:2025年の会社開示売上10.719億ドル、営業利益2.703億ドルを基準とする。会社は出荷台数と平均単価を開示していないため、対象市場×シェアを数量の代理尺度とする。グローバル・マーケット・インサイツの2026年調査では、2025年の塗装用スプレーガン市場は13.5億ドル、グレコの推定シェアは約27%。ただしこれは狭い品目の数字であり、施工用の断熱材吹付機、道路区画線機器、塗料調合装置、交換部品は含まれない。これらを含む対象市場を約40億ドルとする独自推定を行い、部門売上から逆算したシェア26.8%を使用した。ワグナー、タイタン、アネスト岩田などが競合するが、拡張した市場全体の競合別シェアは公表されていない。将来のvolumeはこの市場の実質成長とシェア増減、priceは名目単価の上昇だけを表す。
インダストリアル
工場用の液体・粉体塗装、接着剤・シーリング材の精密吐出、材料供給、計量・混合・制御装置を販売する。2026年成立のバルコ・メルトン買収で包装向け接着剤塗布と検査を加えた。
| 数量工業用塗装・精密吐出機器の実質対象市場(2025年価格の億ドル)×推定シェア | 価格工業用装置・交換部品の平均販売単価指数(2025年=1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 10.0 | 1.00 | 10 | 3 |
| 10 年後 中立 | 13.5 | 1.41 | 19 | 6 |
取り方:2025年の会社開示売上9.968億ドル、営業利益3.346億ドルを基準とする。工業用塗装・精密吐出機器は用途が重なり、単一の市場統計が存在しない。フォーチュン・ビジネス・インサイツの2025年塗装設備市場約212.6億ドルと、グランド・ビュー・リサーチの流体吐出設備市場約89億ドルを参照し、塗装炉やロボットなど同社が扱わない部分と両調査の重複を除く考え方で、実質対象市場を約160億ドルと推定する。これは公式の市場規模ではない。部門売上から計算した約6.23%は、この広い市場定義での推定シェアである。競合のノードソンは2025年度に産業用精密装置売上13.32億ドルを計上した。エグゼル、アネスト岩田、ワグナー、サメスも競う。2026年買収のバルコ・メルトンは2025年の基準売上に含めず、2035年の市場浸透と数量側に反映する。
エクスパンション・マーケッツ
半導体向けポンプ、高圧弁、地下水の監視・浄化装置、高トルクモーターとその技術ライセンスを扱う。ABBとのデータセンター冷却向け提携は将来の選択肢であり、現時点の確定収益ではない。
| 数量半導体・高圧流体・環境装置・特殊モーターの実質対象市場(2025年価格の億ドル)×推定シェア | 価格特殊機器・技術供給の平均単価指数(2025年=1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 1.7 | 1.00 | 2 | 0 |
| 10 年後 中立 | 2.4 | 1.41 | 3 | 1 |
取り方:2025年の会社開示売上1.679億ドル、営業利益0.415億ドルを基準とする。半導体用ポンプ、高圧弁、環境装置、特殊電動機はそれぞれ異なる市場に属し、部門全体の市場規模や出荷数量は開示されていない。対象となる装置・技術の市場を約45億ドルと仮定した探索的推定であり、逆算されるシェアは約3.73%となる。この数字を実測シェアと解釈してはならない。競合は半導体用流体機器のアイデックスや特殊ポンプメーカー、環境装置メーカー、モーターのABBなど用途別に分かれる。2026年10月のABBとのライセンス契約は、最初のデータセンター向け設置を2029年末までに目指す段階であり、2025年の数量には含めない。
リスクと懸念
建設・改修需要の長期停滞
2025年の売上の約52%は建設関連の最終需要に結び付いている。金利の高止まりで住宅新築と改修が弱くなれば、専門施工業者は機器の買い替えを延ばす。交換部品は新品より安定しているが、装置の稼働時間が減れば消耗の速度も落ちる。施工部門の数量と利益率が同時に下がることが最大の循環リスクである。
買収による増分資本収益率の低下
2026年のバルコ・メルトン買収は、現金対価が約4.62億ドルに達した。取得時に示された2026年の利益見通しは相乗効果を含むため、統合が遅れると投資利回りは下がる。2025年取得のコロブやカラー・サービスも含め、買収による成長を重ねるほど、のれんと無形資産の割合が増える。売上成長が資本コストを上回る価値の創出につながるかを継続して確かめる必要がある。
産業部門の利益率の低下
2026年7〜9月期は産業部門の売上が伸びた一方、営業利益率が前年同期より約6ポイント下がった。買収先の収益性と製品構成が原因とされるが、工業用塗装や精密吐出装置はノードソンなどとの技術競争が続く。価格転嫁で原価上昇を吸収できなくなると、従来の高い利益率を維持できない。数量が増えても利益が増えない状態が続くかが重要である。
安価な装置と工程統合によるシェア喪失
施工用ではワグナーやアジアの低価格メーカーが競い、工業用ではノードソン、エグゼル、アネスト岩田などが技術を改良する。塗布装置が工場の自動化システムに組み込まれると、設備全体を設計する企業の交渉力が強まる可能性がある。グレコの高い信頼性が価格差を正当化できなくなれば、装置のシェアだけでなく将来の交換部品市場も失う。
関税・原材料・供給網
製品には鉄鋼、アルミ、特殊樹脂、モーター、電子部品が使われる。米国内の製造拠点が多い一方、原材料と一部部品は海外から調達している。関税の変更や供給網の混乱によって仕入れ価格が上がると、販売価格へ転嫁するまで利益率が縮む。2026年の決算では価格実現による原価上昇の相殺が確認されたが、需要が弱い局面でも同じ対応が可能とは限らない。
新技術の商業化と期待の先行
2026年10月のABBとの契約は、データセンター冷却向けの高トルクモーター技術を広げる機会である。しかし最初の設置は2029年末までを目指す計画であり、量産採用や継続的なライセンス収入は未確定だ。競合技術の改善、顧客認証の遅れ、冷却方式の変更があれば収益化は進まない。将来の利益を確定したものとして先取りすることは避けるべきである。
還元と流動性のバランス
2026年1〜9月には買収と自社株買いが重なり、現金残高が大きく減った。会社には未使用の信用枠があり、直ちに資金繰りを心配する状況ではない。しかし今後も高額買収を続けながら多額の自社株買いを実施すれば、現金の余裕が縮み借入金利の影響を受けやすくなる。買戻しは実施額だけでなく、買った価格と株式報酬を引いた正味の効果を見る必要がある。
今後の分かれ目
- 2027〜2028年にコントラクター部門の有機的な販売数量が継続して減少し、営業利益率が22%を下回る
- 施工機器のシェアと価格決定力に変化が生じた可能性がある。やや悲観・悲観の確率を引き上げ、中立の数量と利益率も下げて再評価する。
- バルコ・メルトンの統合が進み、買収効果を除いた産業部門の営業利益率が33%台へ回復する
- 買収の資本効率に対する疑念が後退する。やや楽観の確率を上げ、工業用装置のシェア維持と追加販売の見通しを強める。
- 2028年までに産業部門の売上が伸びても、営業利益率が27%前後で停滞する
- 事業規模の拡大が利益の質の低下を伴う可能性が高くなる。中立の利益率を引き下げ、買収の増分ROICが資本コストを上回るか検証する。
- ABBとのモーター技術が2029年末までに商業設置され、その後に継続的なライセンス売上が確認される
- エクスパンション・マーケッツの数量成長に実績が生まれる。売上規模と利益率に応じて楽観・やや楽観の確率を引き上げる。ただし実現するまで既存事業の利益には含めない。
- 部品・付属品売上の割合が40%を超え、景気後退期にも全社営業利益率が25%以上を維持する
- 交換部品による堀の強さが確認される。悲観側の数量減と利益率低下を緩和し、正当化PERに適用する利益の質の評価を引き上げる余地が生じる。
- 買収を続けても投下資本利益率が継続して15%を下回り、のれんの減損が発生する
- 増分の再投資が株主価値を生んでいない可能性が高まる。中立・楽観の利益と還元を下方修正し、構造的な負けを含む悲観の確率を上げる。
見ておくもの
- コントラクター部門の有機的な数量・価格変化と営業利益率
- インダストリアル部門の買収寄与を除いた売上成長率と営業利益率
- バルコ・メルトンの売上・営業利益・統合費用と投下資本利益率
- 全社売上に占める部品・付属品の割合と製品更新需要
- ABBとのデータセンター冷却向けモーターの商業設置、採用件数、ライセンス収益
- 研究開発費と新製品売上、粉体塗装・半導体向けの新規受注
- フリーキャッシュフロー、買収支出、株式報酬控除後の正味還元額、純有利子負債
倍率と資本コストの決め方
価値の計算は2025年の各事業の売上と利益を出発点とし、施工機器、工業用装置、特殊機器の実質対象市場とシェア、名目単価を分けて2035年の利益を組み立てた。市場規模とシェアの非開示部分は推定であり、公式数値と区別した。資本コストは基本8.0%と4つの質の調整から7.75%とした。倍率は各筋書きのROE、強い堀に対するRONIC、事業から導いた長期gによる正当化PERから決め、現在や過去の市場PERは根拠にしていない。現金は2026年の買収後に大きく減ったため別建てで重複計上しない。純利益はGAAP基準で株式報酬と買収償却を戻さず、正味の還元から希薄化と増資の影響を差し引く。悲観の床には2026年9月末の売却可能資産を使い、2035年に積み上げた自己資本は使わない。確率加重後の現在価値は約95.1億ドルで、添付の時価総額107.9億ドルとの差は約-11.8%。この結論に合わせて利益や倍率を調整していない。米国のリースはASC842で既に貸借対照表に計上されており、将来も同じ会計上の扱いで比較する。
資本コスト 7.8% = 無リスク金利 5% + β — × 5%。米国株の基本資本コスト8.0%にqualityの-0.25%を加え、k=7.75%とする。比較対象のノードソンの7.8%、アイデックスの8.0%、ITWの8.0%とおおむね整合する。グレコは交換部品の割合と高い利益率で優れるが、建設関連の需要と買収への依存があるため、極端に低い資本コストにはしない。買収の実行リスクはkに加算せず、筋書きと確率で表す。存続危機による追加上乗せは不要である。