結論
スタンレー・ブラック&デッカー(Stanley Black & Decker)は、デウォルト(DEWALT)・クラフツマン(CRAFTSMAN)・スタンレー・ブラック&デッカーのブランドで電動工具・手工具・屋外機器を売る世界最大級の工具メーカーである。売上の 87% を占める工具・屋外は 2025 年に 131.6 億ドル、残りは自動車向けなどの締結部品を扱う工業で、航空宇宙の締結部品(CAM)は 18 億ドルで売却して 2026 年 4 月に成立した。2025 年の売上は 151.3 億ドル、再編・減損を除いた純利益は約 7 億ドルで、2022〜2023 年の在庫の積み過ぎと関税で一度崩れた利益が、2021 年(純利益 17 億ドル)の半分以下のまま戻りの途中にある。
伸びを決めるのは、住宅改修・建設の需要(市場)、ミルウォーキー(Milwaukee)やマキタに対するシェア、価格の 3 つである。工具は物価(3.5%)並みの値上げが基本で、数量は市場が実質 1〜2%、シェアはデウォルトが商工業の現場で押し返せるかにかかる。2026 年 4〜6 月期は、費用削減計画(2025 年末に年換算 約 21 億ドルを達成)の効果で粗利益率が上がったが、うち約 250bp は IEEPA 関税の払い戻しという一時の追い風で、続かない。
バリュー投資の観点では、堀は広いが TTI の追い上げと小売 2 社(売上の約 27%)への依存で価格を決める力は強くない。時価総額 140 億ドルは再編を除いた純利益の約 20 倍で、中立の筋書き(粗利益率 34%・利益率は 2035 年まで 9〜10% 台)で割り引くと、10 年今の値段とほぼ釣り合う。
倍率は利益ベースの正当化 PER = (1 − g/RONIC)/(k − g)(k 9.25%・g は上限の 4%・事業の ROE 13%・moat=普通)で、10 年の中立の上限は 12.2 倍。これの 8 割(9.8 倍)に置いた(粗利益率の回復が費用削減と関税の転嫁しだいで、借金も重い)。総合は今の時価総額に対し -15% で「やや割高」。
バリュー投資の観点から
バリュー投資の観点では、この会社は「10 年後に存在し、今より強いか」と問われれば、存在する。デウォルトとクラフツマンは世代を超えて使われるブランドで、工具は電池・付属品の買い足しが続く消耗に近い需要がある。ただし、堀が広がるとは言い切れない。ミルウォーキーが売上・利益率・成長のすべてで先を行き、売上の約 27% を握る小売 2 社が価格交渉の主導権を持つ以上、価格を決める力は弱く、利益率は競争の強さに左右される。
オーナー利益(成長の再投資を引いた株主のもの)は、再編・減損を除いた純利益 約 7 億ドルに対し、運転資本の増加などを引くと約 5〜6 億ドル(推定)、時価総額 140 億ドルの 4% に届かない。資本効率が資本コストを下回る状態を、費用削減の成果で引き上げられるかが勝負で、粗利益率 35〜37%(2028 年末へ後ろ倒し)の目標が実現した時の利益は今の 2 倍に届く。実現しない時は、今の株価に織り込まれた回復が剥がれる。
経営は借金返済と売却で規律を示したが、2022〜2023 年の在庫の積み過ぎ(営業キャッシュフロー −15 億ドル)と減損の繰り返しの記録は重い。確信度は中程度に下げる。結論は、事業は存続するが投資家に十分な安全域を与える値段ではなく、計算上もやや割高で、「費用削減と関税の実現度」が見えるまで過大評価も過小評価もできない、である。
何で稼ぐ会社か
売上は 2 つの部門から成る。工具・屋外(2025 年 131.6 億ドル)は、電動工具(約 65 億ドル)、手工具・付属品・収納(約 37 億ドル)、屋外機器(約 30 億ドル。いずれも年次報告書の図表からの推定)の 3 本で、ホームデポ(売上の約 15%)とロウズ(同約 12%)の小売、および商工業の流通・直販で売る。地域は米国 62%・欧州 16%・新興国 13%・カナダ 4%。電動工具のデウォルト(プロ・建設向け)が稼ぎ頭で、クラフツマンはロウズで手工具と屋外を、スタンレーとブラック&デッカーは家庭用を担う。
工業(締結部品。2025 年 19.7 億ドル、うち CAM は 4.1 億ドルで売却済み)は、自動車向けの固定・接合部品などを自動車メーカーと一次部品メーカーに売る。CAM の売却益と純受取 18.1 億ドルは借金の返済(2026 年 4〜6 月期に約 17 億ドルの減少)と自社株買い(2.5 億ドル)に回った。ほかに 2022 年から、商業向け電子セキュリティ(CSS)、自動ドアなどの機械式アクセス(MAS)、石油・ガス、インフラ(2024 年)を売却しており、残るのは工具が中心の会社である。
収益の構造は、工具の本体と電池を売り、電池・付属品の買い足しで使い続けてもらう形で、商工業向けは現場への直販(プロジェクト・ソリューション・マネージャーをデータセンターなどの大規模現場に置く)に力を入れている。課題は 3 つある。第 1 に関税(IEEPA は 2026 年 2 月に最高裁が無効としたが、鉄・アルミの Section 232 と新しい Section 301 は残る)。第 2 に、一部の電動工具をメキシコへ移す途中の費用。第 3 に、屋外機器が天候と自社生産の縮小(ガソリン式の歩行型機械を 2026 年にライセンス供与へ切り替え)で 2026 年 4〜6 月期に 7% 減ったことである。
優良さと弱いところ
堀は 3 つある。第 1 にブランドで、デウォルトは米国の電動工具の販売額シェアで約 28% と 1 位(調査会社 OpenBrand の 2025 年 10〜12 月、数量ではデウォルトとライオビが各 19%、ミルウォーキーは 13%)。第 2 にホームデポ・ロウズ・商工業の流通に張りめぐらせた販路と、電池を共通にした製品群による囲い込み。第 3 に規模で、年 約 3.2 億ドルの研究開発と 2025 年末に 約 21 億ドルの年率効果を出した費用削減計画の経験がある。
弱い所は 4 つある。第 1 に利益率で、2025 年の調整後粗利益率 30.7% は、TTI の粗利益率 42.9%(2026 年上期)に 10 ポイント以上及ばず、同じプロ向けでもミルウォーキーは有機で年 10% 超(2026 年上期 +10.5%)伸びる一方、デウォルトを含む電動工具は +8% と差が開いている。第 2 に価格を決める力の弱さで、小売 2 社が売上の約 27% を占め、ホームデポは TTI のミルウォーキーとライオビを主力に置く。第 3 に資本効率で、2025 年の自己資本利益率は 4.4%(再編・減損を除いても約 8%)と資本コスト 9% に届かず、のれんと無形資産が 103 億ドルで自己資本 90 億ドルを上回る(有形自己資本はマイナス)。第 4 に利益の質で、再編・減損が 2022 年以降ほぼ毎年出る。経営は費用削減の達成と借金の返済を実行しており、規律は上向いているが、10 年を通した資本の使い方の実績はまだ短い。
業界はいまどこにいて、どこへ向かうか
工具の市場は、住宅の改修・修繕と建設、商工業の保守に支えられる。住宅着工は年 約 135 万戸で横ばい、中古住宅の取引は金利 5% の下で低く、家の持ち主が改装を先送りしやすい。一方、データセンター・工場・電力の工事は強く、商工業向け(SWK の北米の商工業は 2026 年 4〜6 月期に低い 2 桁増)が小売より伸びる二極化である。電動工具の世界市場は調査会社によって 360〜740 億ドルと幅があり、成長率は年 3〜6%(本分析は工具・屋外機器の対象市場を約 900 億ドルと推定)。
競争の中心はミルウォーキー(TTI)で、TTI は 2026 年上期に売上 83 億ドル(+5.9%)、純利益 7.4 億ドルと記録を更新し、プロ向けを軸にシェアを取っている。ほかにマキタ・ボッシュ・ヒルティ・ライオビ(TTI)・ホームデポの自社ブランド(ハスキー)・ロウズの自社ブランド(コバルト)が競う。電池の共通規格、現場への直販、納期と修理が差別化の要点である。
構造の変化は 3 つある。第 1 に関税で、中国・東南アジア調達の工具は 2025 年に値上げを重ね、2026 年は IEEPA の払い戻し(SWK は 1.2 億ドルを認識)が出たが、将来は Section 301 が IEEPA 並みに置き換わる見通し。第 2 に電池金属・タングステン・石油由来の原材料が上がり、2027 年に値上げが要る可能性を会社自身が示した。第 3 にデータセンター・インフラ向けの商工業需要である。今後 10 年は、市場が実質 1〜2%、価格が物価並みという成熟産業の姿を中立に置いた。
資本政策と M&A
資本配分は、第 1 に有機成長への投資、第 2 に増え続ける配当(年 約 5 億ドル。2026 年 4〜6 月期の支払いは 1.24 億ドル)、第 3 に機会があれば自社株買い、という順である。2026 年 4〜6 月期に CAM の売却で得た 18.1 億ドルを借金の返済に使い、自社株買いは 2.5 億ドルに抑えた。純負債は年初の約 56 億ドルから 2026 年 7 月に約 42 億ドルまで下がり、年末の純負債÷調整後 EBITDA は約 2.5 倍が目標である。借金の借り換えで利払いが増える(長期債 47 億ドル)。
買収の歴史は、2010 年のブラック&デッカーとの合併で工具の最大手となり、その後 2016 年にニューウェルの工具事業(アーウィン・レノックス)、2017 年にクラフツマン(シアーズから)、2021 年に屋外機器の MTD と買い進めて、のれんが 72.7 億ドルに積み上がった。2022 年以降は反対に売却へ転じ、CSS(31 億ドル)、MAS(9.2 億ドル)、石油・ガス、インフラ(7.3 億ドル)、CAM(18 億ドル)と合計 65 億ドル超(石油・ガスを除く)を売った。売却は成立した分だけを反映し、まだ成立していない売却は想定しない(残りの工業の売却の計画は確認できない)。株式報酬は年約 1 億ドルで、自社株買いの一部は希薄化の打ち消しに回る。ガバナンスは、環境債務(引当 2.6 億ドル)の長期の支払いが残る。
強気の見方と慎重な見方
強気の見方
費用削減計画は 2025 年末に年換算 約 21 億ドルを出して目標の 20 億ドルを超え、次の段階の生産性(メキシコへの生産移管・調達先の組み替え・工場の整理)が粗利益率を 2028 年までに 36% 前後へ押し上げる。2026 年 4〜6 月期の調整後粗利益率 33.7% は、払い戻しの一時分 約 250bp を除いても 31% 台前半から前年より 370bp 改善しており、その傾きが 2028 年まで続けば会社の長期目標(35〜37%)に届く。
需要は商工業から来る。デウォルトはデータセンター・工場・電力の大規模現場にプロジェクト・ソリューション・マネージャーを置き、2026 年 4〜6 月期に北米の商工業が低い 2 桁増、電動工具が +8% と勢いがある。住宅改修は金利の高止まりで鈍いが、買い替え需要と 2027 年の値上げ(電池金属・タングステンの転嫁)は、関税の純負担を価格で吸収して余りある。屋外機器はガソリン式の歩行型機械をライセンス供与に切り替えて負担が軽くなり、利益率が上がる。
資本効率も改善し、純負債はさらに減って 2028 年には自社株買いを増やせる。借金が軽くなれば、PER を押し上げる ROE が上がる。これが強気の見方で、楽観の筋書きの下敷きである。
慎重な見方
2026 年 4〜6 月期の粗利益率の改善のうち約 250bp は払い戻しの一時分で、2027 年には消える。残りの生産性の改善も、競争で価格に吐き出されやすい。ミルウォーキーはプロ向けで有機 +10.5%、粗利益率は TTI 全体で 42.9% と余裕があり、値下げで追うデウォルトに価格競争を仕掛けられる。ホームデポは TTI のミルウォーキーとライオビを主力に置き、ロウズは自社ブランドを育て、SWK は売上の約 27% を握られた 2 社に押される。
関税は払い戻しで見かけが良くなっているが、鉄・アルミの Section 232 は払い戻し対象外で残り、IEEPA が Section 301 に置き換わる。電池金属・タングステン・石油由来の原材料が上がる中、2027 年の値上げが小売で通るかは不透明で、通らなければ純負担が利益率を 2〜3 ポイント削る。屋外機器は 2026 年 4〜6 月期に −7%、欧州も −2% と弱く、住宅の改修は金利 5% で鈍い。
資本効率は資本コストを下回り、のれんと無形資産が 103 億ドルで自己資本を超え、再編・減損が毎年のように出る。2022 年は株価が 59% 下げ、利益は赤字に落ちた。バリュー投資の観点では、費用削減の成果が価格に吐き出されれば、利益は今の水準に戻るだけで、PER 20 倍の値段は高すぎる。これが慎重な見方で、やや悲観・悲観の下敷きである。
どちらに重みを置いたか
強気の見方は費用削減の実績(目標超え)と商工業の勢いで説得力があるが、粗利益率の改善の一部が払い戻しの一時分で、ミルウォーキーに比べて価格を決める力が弱い点が重い。慎重な見方は関税と競争の面で強い。確率は楽観 9%・やや楽観 21%・中立 38%・やや悲観 20%・悲観 12% と、住宅と関税の不確実性が大きいので悲観を厚めに置いた。悲観は構造的な負け(TTI にシェアを奪われ、費用削減が価格に消える)をとした。倍率は利益ベースの正当化 PER の内側(中立は 8 割)に置き、総合は今の時価総額に対し -15% で「やや割高」。
10 年後の 5 つの筋書き(2035/12 期)
確率で加重した株価時価総額 106.01 ドル161 億ドル(+ 配当配当と自社株買いの合計 53.77 ドル82 億ドル)。 今の値に割り戻すと 78.31 ドル119 億ドル、今との差 −20.9%、 期待の年率 +4.9%(資本コスト 9.3%)→ やや割高
| 筋書き | 確率 | 10 年後の株価時価総額 | 配当の合計還元の合計配当+自社株買い | トータルリターン10 年・配当込み | 年率 | 確率 × (株価+配当時価総額+還元) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 楽観 | 9% | 213.59 ドル324 億ドル | 74.40 ドル113 億ドル | +191.0% | +11.3% | 25.92 ドル39 億ドル |
| やや楽観 | 21% | 156.05 ドル237 億ドル | 65.18 ドル99 億ドル | +123.5% | +8.4% | 46.46 ドル71 億ドル |
| 中立 | 38% | 106.27 ドル161 億ドル | 55.97 ドル85 億ドル | +63.9% | +5.1% | 61.65 ドル94 億ドル |
| やや悲観 | 20% | 52.34 ドル80 億ドル | 42.80 ドル65 億ドル | −3.9% | −0.4% | 19.03 ドル29 億ドル |
| 悲観 | 12% | 26.40 ドル40 億ドル | 29.63 ドル45 億ドル | −43.4% | −5.5% | 6.72 ドル10 億ドル |
| 加重平均 | 100% | 106.01 ドル161 億ドル | 53.77 ドル82 億ドル | +61.4% | +4.9% | 159.78 ドル243 億ドル |
今の株価時価総額 98.97 ドル150 億ドル(2026-10-22)から見たトータルリターン。加重平均の年率がこの 10 年に期待できる年率で、資本コスト 9.3% を下回るほど割高。
楽観 9% 楽観:費用削減が目標以上に実り(粗利益率 37% 近く)、デウォルトが商工業で首位を固め、利益率は 13% 利益 27 億ドル · PER 12.2 倍 · 株価時価総額 213.59 ドル324 億ドル
2035 年、工具・屋外の市場は 2025 年比で年 +2.0%(住宅の改修と商工業の保守・データセンターなど)、シェアは 15.0% へ 0.4 ポイント上がる。デウォルトは電池の共通規格と現場への直販で商工業の首位を固め、ミルウォーキーの追い上げは受けるが、価格を物価並みに上げられる(10 年で 1.43 倍)。費用削減の効果が目標の上側(粗利益率 37% 近く)に達し、関税は完全に転嫁、メキシコへの移管が定着する。工具・屋外の利益率は 15.5%、工業は 15%、全社の営業利益率は 13%。借金は早期に返し、自社株買いを増やして 10 年の還元は 1,000 億ドル超。倍率は利益ベースの正当化 PER の上限 13.6 倍(g 4.0%・RONIC 14.0%・k 9.25%)の 9.0 割で PER 12.2 倍、時価総額は 324 億ドル。
- 工具・屋外:数量 1,097(住宅改修・建設向けの工具・屋外機器の対象市場(億ドル、2025 年価格))× 価格 21.5%(SWK のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 235 億ドル・営業利益 37 億ドル。市場 1097 億ドル × シェア 15.0% × 価格 1.43 倍
- 工業(締結部品):数量 538(自動車・産業用の締結部品の対象市場(億ドル、2025 年価格))× 価格 5.7%(SWK のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 31 億ドル・営業利益 5 億ドル。市場 538 億ドル × シェア 4.0% × 価格 1.43 倍
倍率:正当化 PER 13.6 倍(g 4.0%・RONIC 14.0%=k 9.25%+残る割合×(事業の ROE 18.7%−k)・moat=normal)に対して 12.2 倍(上限の 9.0 割)に置いた。費用削減が目標以上に実り、デウォルトが商工業で首位を固める最良の筋書き。ただし ROE は 19% 止まりで借金(EBITDA の 3.5 倍)も重いので、上限の 9.0 割にとどめた。
確率:費用削減・関税転嫁・シェア維持・商工業の伸びが 10 年続く大型の追い風で、確率は 9% とした。
やや楽観 21% やや楽観:粗利益率は 35〜36% を維持し、シェアは守るが価格はわずかに物価を下回る 利益 21 億ドル · PER 11.2 倍 · 株価時価総額 156.05 ドル237 億ドル
2035 年、工具・屋外の市場は年 +1.7%、シェアは 14.7%、価格は物価を少し下回る 1.42 倍。費用削減の効果が目標の下側から中ほどで定着し、関税の転嫁も 9 割まで進む。工具・屋外の利益率は 14.0%、工業は 13.5%、全社の営業利益率は 11.3%。借金は 2030 年前に目標の 2.5 倍を下回り、自社株買いを再開する。手工具は価格競争で伸びず、電動工具と商工業が全体を引っ張る。純利益は約 21 億ドルで 2025 年の 3 倍。ミルウォーキーは伸び続けるが、デウォルトは電池規格の互換と直販の強さで商工業の首位を守り、小売でもクラフツマンがロウズの棚を維持する。関税は 2027 年以降の値上げで大半を吸収する。倍率は利益ベースの正当化 PER の上限 13.0 倍(g 4.0%・RONIC 12.6%・k 9.25%)の 8.6 割で PER 11.2 倍、時価総額は 237 億ドル。
- 工具・屋外:数量 1,065(住宅改修・建設向けの工具・屋外機器の対象市場(億ドル、2025 年価格))× 価格 20.9%(SWK のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 222 億ドル・営業利益 31 億ドル。市場 1065 億ドル × シェア 14.7% × 価格 1.42 倍
- 工業(締結部品):数量 512(自動車・産業用の締結部品の対象市場(億ドル、2025 年価格))× 価格 5.5%(SWK のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 28 億ドル・営業利益 4 億ドル。市場 512 億ドル × シェア 3.9% × 価格 1.42 倍
倍率:正当化 PER 13.0 倍(g 4.0%・RONIC 12.6%=k 9.25%+残る割合×(事業の ROE 15.9%−k)・moat=normal)に対して 11.2 倍(上限の 8.6 割)に置いた。粗利益率 35〜36% を維持しシェアは守るが、価格はわずかに物価を下回る筋書き。楽観より控えめで上限の 8.6 割。
確率:強気の見方に近い展開。費用削減の実現と関税転嫁は進むが、ミルウォーキーの追い上げでシェアは守る程度。
中立 38% 中立:粗利益率 34% で定着し、シェアはわずかに下がり、利益率は 10% 前後(目標の 7 割) 利益 17 億ドル · PER 9.8 倍 · 株価時価総額 106.27 ドル161 億ドル
2035 年、工具・屋外の市場は年 +1.3% の実質成長で、物価は 10 年で 1.41 倍。シェアは 14.3%(ミルウォーキーが商工業の一部を奪い、屋外の自社生産縮小でわずかに下がる)、価格は 1.41 倍。費用削減は会社の目標(粗利益率 35〜37%)の手前の 34% 台で定着し、関税の純負担は 0.5 ポイント残る。工具・屋外の利益率は 12.6%、工業は 12.5%、全社の営業利益率は 9.8%(会社の長期目標の 7 割強)。売上は 約 233 億ドル(年 +4.5%)、純利益は 16〜17 億ドル。借金は 2030 年代前半に返し終え、自社株買いを再開する。倍率は利益ベースの正当化 PER の上限 12.2 倍(g 4.0%・RONIC 11.2%・k 9.25%)の 8.0 割で PER 9.8 倍、時価総額は 161 億ドル。
- 工具・屋外:数量 1,024(住宅改修・建設向けの工具・屋外機器の対象市場(億ドル、2025 年価格))× 価格 20.2%(SWK のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 207 億ドル・営業利益 26 億ドル。市場 1024 億ドル × シェア 14.3% × 価格 1.41 倍
- 工業(締結部品):数量 488(自動車・産業用の締結部品の対象市場(億ドル、2025 年価格))× 価格 5.4%(SWK のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 26 億ドル・営業利益 3 億ドル。市場 488 億ドル × シェア 3.8% × 価格 1.41 倍
倍率:正当化 PER 12.2 倍(g 4.0%・RONIC 11.2%=k 9.25%+残る割合×(事業の ROE 13.1%−k)・moat=normal)に対して 9.8 倍(上限の 8.0 割)に置いた。粗利益率 34% で定着しシェアはわずかに下がり、利益率は 10% 前後(目標の 7 割)。工具の回復は費用削減の実現と関税の転嫁しだいで、借金もあり景気の振れが大きいので上限の 8.0 割。
確率:業界ノートの中立に、費用削減 7 割・関税転嫁 85% を当てた、最も起こりやすい姿。
やや悲観 20% やや悲観:TTI にシェアを奪われ、費用削減が価格に消えて、利益率は 7% 台 利益 10 億ドル · PER 8.1 倍 · 株価時価総額 52.34 ドル80 億ドル
2035 年、市場は年 +0.7%、シェアは 13.8%(14.6% から 0.8 ポイント低下)、価格は 1.37 倍(物価より 4 ポイント低い)。ミルウォーキーとマキタの電池規格に押され、デウォルトは値引きで守る。費用削減の成果は価格競争に出て、粗利益率は 31〜32% にとどまる。工具・屋外の利益率は 10.5%、工業は 10.5%。全社の営業利益率は 7.3%。純利益は約 10 億ドルで 2025 年の 1.4 倍にとどまり、借金の返済は進むが、自社株買いは小さい。再編・減損が数年おきに出る。倍率は利益ベースの正当化 PER の上限 10.8 倍(事業の ROE が k 以下なので上限は 1÷k)の 7.5 割で PER 8.1 倍、時価総額は 80 億ドル。
- 工具・屋外:数量 965(住宅改修・建設向けの工具・屋外機器の対象市場(億ドル、2025 年価格))× 価格 18.9%(SWK のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 182 億ドル・営業利益 19 億ドル。市場 965 億ドル × シェア 13.8% × 価格 1.37 倍
- 工業(締結部品):数量 451(自動車・産業用の締結部品の対象市場(億ドル、2025 年価格))× 価格 5.1%(SWK のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 23 億ドル・営業利益 2 億ドル。市場 451 億ドル × シェア 3.7% × 価格 1.38 倍
倍率:事業の ROE 8.8% は k 9.25% 以下なので上限は 1÷k の 10.8 倍。8.1 倍(上限の 7.5 割)に置いた。TTI にシェアを奪われ費用削減が価格に消えて、利益率は 7% 台に落ちる筋書き。事業の ROE が k 以下なので上限は 1÷k で、稼ぐ力(純利益 ÷ k)の 7.5 割に置いた。
確率:TTI と小売の自社ブランドの圧力が続く、2022〜2023 年ほど崩れない展開として 2 割。
悲観 12% 悲観:構造的に負ける(ミルウォーキーにシェアを奪われ、関税の転嫁が通らない)うえ、景気の谷が重なる 利益 6 億ドル · PER 7.0 倍 · 株価時価総額 26.40 ドル40 億ドル
2035 年、市場は 2025 年比で実質ほぼ横ばい、シェアは 12.8%(1.8 ポイントの低下。ミルウォーキーとライオビ・自社ブランドに奪われる)、価格は 1.31 倍(物価より 10 ポイント低い)。関税の転嫁が小売に阻まれて粗利益率は 29% 前後で、費用削減の成果は消える。工具・屋外の利益率は 9.5%、工業は 10%。全社の営業利益率は 6.1%、純利益は 5.7 億ドル(2025 年の 8 割)で、優良な工具メーカーとは言えなくなる。配当は守るが自社株買いは止まり、のれんと無形資産の減損(数十億ドル)が自己資本に響く。バリュー投資家の目では、ここは堀を失った姿である。倍率は利益ベースの正当化 PER の上限 10.8 倍(事業の ROE が k 以下なので上限は 1÷k)の 6.5 割で PER 7.0 倍、時価総額は 40 億ドル。
- 工具・屋外:数量 900(住宅改修・建設向けの工具・屋外機器の対象市場(億ドル、2025 年価格))× 価格 16.8%(SWK のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 151 億ドル・営業利益 14 億ドル。市場 900 億ドル × シェア 12.8% × 価格 1.31 倍
- 工業(締結部品):数量 400(自動車・産業用の締結部品の対象市場(億ドル、2025 年価格))× 価格 4.3%(SWK のシェア × 価格指数(2025 年 = 1))→ 売上 17 億ドル・営業利益 2 億ドル。市場 400 億ドル × シェア 3.3% × 価格 1.30 倍
倍率:事業の ROE 5.5% は k 9.25% 以下なので上限は 1÷k の 10.8 倍。7.0 倍(上限の 6.5 割)に置いた。ミルウォーキーにシェアを奪われ関税の転嫁が通らず、景気の谷も重なる構造的な負けの筋書き。事業の ROE が k 以下なので上限は 1÷k で、稼ぐ力(純利益 ÷ k)の 6.5 割に置いた。成長の弱さ・優良さの崩れは g と ROE に入れた。
確率:構造的な負けと景気の谷が重なる、リーマン級の不況を含む姿で 1 割強。
セグメント:数量 × 価格
いまの数量と価格、中立の筋書きの 10 年後。売上と営業利益は億ドル。
工具・屋外
デウォルト・クラフツマン・スタンレー・ブラック&デッカーの電動工具・手工具・収納・屋外機器。ホームデポ・ロウズなどの小売と商工業の流通で売る。
| 数量住宅改修・建設向けの工具・屋外機器の対象市場(億ドル、2025 年価格) | 価格SWK のシェア × 価格指数(2025 年 = 1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 900 | 14.6% | 132 | 14 |
| 10 年後 中立 | 1,024 | 20.2% | 207 | 26 |
取り方:工具・屋外の対象市場(電動工具 約 400 億・手工具 約 200 億・屋外動力機器 約 300 億ドルの合計。調査会社の市場規模は 360〜740 億ドルと幅があるので推定)を約 900 億ドル、SWK のシェアを約 14.6% と置いた。売上は 2025 年の 131.6 億ドル、調整後セグメント利益は 14.1 億ドル(10.7%)。売上 = 市場 × シェア × 価格(価格指数は 2025 年 = 1、中立で 10 年 1.41 倍)。競合と照らすと、電動工具の販売額シェア(OpenBrand の 2025 年 10〜12 月)はデウォルト 約 28%・ミルウォーキー 約 22% で、SWK 全体の電動工具(約 65 億ドル)は世界市場 約 400 億ドルの約 16%。屋外機器は MTD 由来の事業などで約 30 億ドル。
工業(締結部品)
自動車向けなどの固定・接合部品。航空宇宙の CAM は 2026 年 4 月に売却成立し、売却後の姿で置く。
| 数量自動車・産業用の締結部品の対象市場(億ドル、2025 年価格) | 価格SWK のシェア × 価格指数(2025 年 = 1) | 売上 | 営業利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 今 2025/12 | 400 | 3.9% | 16 | 2 |
| 10 年後 中立 | 488 | 5.4% | 26 | 3 |
取り方:2025 年の工業の売上 19.7 億ドルから CAM の 4.1 億ドルを除いた 15.6 億ドル(売却成立分のみ反映)。対象市場を約 400 億ドル(推定)、シェア約 3.9% と置いた。セグメント利益は調整後 2.26 億ドルから CAM の分(推定 約 0.63 億ドル。開示は GAAP で 0.31 億ドル)を除いて約 1.63 億ドル(10.5%)。2026 年 4〜6 月期は CAM 除きの有機 +3%、利益率 13.0%。自動車向けは数量が自動車の生産に連動し、価格は部品メーカー間の値下げ要求で物価並みには上がりにくい。
リスクと懸念
関税の置き換わりと払い戻しの一時性
IEEPA 関税は 2026 年 2 月に最高裁が無効としたが、新しい Section 301 が同等の水準で入り、鉄・アルミの Section 232 は払い戻しの対象外で残る。2026 年 4〜6 月期の粗利益率の改善のうち約 250bp は払い戻しという一時分で、2027 年には消える。転嫁が小売に阻まれれば利益率を 2〜3 ポイント削る。
ミルウォーキー(TTI)にシェアを奪われる
TTI は 2026 年上期に売上 83 億ドル(+5.9%)、純利益 7.4 億ドルと記録を更新し、ミルウォーキーは有機で +10.5%、デウォルトを含む SWK の電動工具は +8%。粗利益率は TTI 全体で 42.9% と余裕があり、値下げの体力も開発投資も上回る。プロ向けのシェアを失えば、堀が狭まる。
小売 2 社への依存と交渉力
ホームデポが売上の約 15%、ロウズが約 12% で、合計 約 27%。ホームデポは TTI のミルウォーキーとライオビを主力に置き、ロウズは自社ブランドを持つ。棚の割り当てや値引きの要求で、価格を決める力が弱まる。2025 年にロウズ向けの比率が 14% から 12% へ下がった点も動きを示す。
住宅改修・建設の弱さ
住宅着工は年 約 135 万戸で横ばい、中古住宅の取引は金利 5% の下で低い。家の持ち主が改装を先送りすれば手工具・屋外・家庭用電動工具が鈍る。屋外機器は 2026 年 4〜6 月期に −7%、欧州は −2%。商工業が補っているが、データセンター・工場の工事が止まれば同時に崩れる。
原材料と 2027 年の値上げ
電池金属・タングステン・石油由来の原材料が上がり、会社自身が 2027 年に値上げが要る可能性を示した。小売で値上げが通らなければ、関税の転嫁と同時に利益率を押し下げる。値上げの通りにくさは、ミルウォーキーの価格との差を広げる面もある。
費用削減の実現度と一時費用の繰り返し
費用削減計画は 2025 年末に 約 21 億ドルで目標を超えたが、その効果は粗利益率の改善の一部が価格競争に吐き出される形で消えやすい。粗利益率 35〜37% の長期目標は 2027 年末から 2028 年末へ後ろ倒しされた。再編・減損は 2025 年に 2.8 億ドルと、ほぼ毎年出ている。
借金・利払いとのれんの減損
長期債 47 億ドル(純負債 約 42 億ドル)は借り換えで利払いが増え、2026 年の純利払いは約 2.55 億ドル。のれん 72.7 億ドルと無形資産 30.2 億ドルは自己資本 90 億ドルを上回り、競争で利益率が戻らなければ減損で自己資本が減る。環境債務(引当 2.6 億ドル)の支払いも長く続く。
今後の分かれ目
- 2027 年に電池・タングステンの値上げと関税の転嫁が小売で通り、粗利益率が 34% を超える
- 費用削減の実現度が高い筋書き(やや楽観・楽観)の確率を上げる。粗利益率 35% 以上が定着すれば、利益は中立の 1.2 倍以上になる。
- ミルウォーキーの有機成長率が SWK の電動工具の 2 倍以上の差を保ち、デウォルトの北米小売の棚が減る
- 10 年のやや悲観・悲観の確率を上げる。シェア 0.5〜1 ポイントの低下は利益を 1〜2 割削る。
- 住宅着工と中古住宅の取引が 2027〜28 年に 1 割以上落ちる
- 悲観(急な不況)の確率を上げる。2022〜2023 年のように営業利益率が 5% 台まで落ちる可能性が出る。
- Section 301 の追加関税や Section 232 の対象拡大が決まり、価格転嫁が間に合わない
- 関税の転嫁率が下がり、中立の利益率が 1〜2 ポイント下がる。やや悲観の確率を上げる。
- 年末の純負債÷調整後 EBITDA が目標の 2.5 倍を下回り、自社株買いが再開される
- 資本配分が株主向けに動く信号。ただし PER 20 倍の水準での買いは価値を壊す面もあり、割高なら評価を上げない。
- 残りの工業(自動車向け締結部品)の売却が決まる
- 成立した分だけ反映し、借金返済に回れば利払いが減る。売却倍率が低ければ減損の可能性がある。
見ておくもの
- 調整後粗利益率(四半期。払い戻しを除く。目標 35〜37%)
- 電動工具の有機成長率とミルウォーキー(TTI)の成長率の差
- 北米の商工業と小売の有機成長率
- 関税の純負担(Section 232・301)と 2027 年の値上げの通り方
- 住宅着工・中古住宅の取引件数
- 純負債÷調整後 EBITDA(目標 2.5 倍)と自社株買い
- 再編・減損の費用と環境債務
倍率と資本コストの決め方
倍率は今の株価を見る前に、数量 × 価格で積んだ利益から利益ベースの正当化 PER((1−g/RONIC)/(k−g)、RONIC=k+残る割合×(事業の ROE−k))で出した。10 年の中立は正当化 PER 12.2 倍(k 9.25%・g は上限の 4%・ROE 13%・moat=普通)の 8 割 = 9.8 倍。粗利益率の回復が費用削減と関税の転嫁しだいで、借金も重く景気の振れが大きいので 8 割。k は景気の振れ(cycle +0.75%)と純負債(EBITDA の 3.5 倍)の重さ(debt +0.5%)で quality +1.25%。悲観側は谷の倍率や市場の評価倍率を根拠にせず、稼ぐ力(純利益 ÷ k)の内側で置いた。今の株価に寄せて選んだ値ではなく、全筋書きが検査の上限(正当化 PER × 事業の純利益の 1.1 倍)の内側に収まっている。
資本コスト 9.3% = 無リスク金利 5% + β — × 5%。k = 基本 8.0% + quality +1.25%。DIY・住宅の循環と借金の重さ(debt +0.5%)を quality で見た。個別のリスク(関税・在庫の積み過ぎの反動・再編の遅れ)は k に足さず、筋書きの利益率の戻りと確率で表した。存続を疑う要素は薄く上乗せは 0。